とうどうさん~022
つうかもう一時間経とうとしてんじゃねーかよ。
「おい遥香、待ち合わせ時間になるぞ」
「そうだね……ダーリンの要望通り、いい暇つぶしになったよね……」
「お前なんでディスり気味になんの!?」
嫌味を言われたような気分になっただろうが。いや、まんま嫌味だろうけど。
「じゃあ行こうか……つか、このタイ人どうする?ここに置いて行く訳に行かねえだろ」
そんなに心配ならお前がおんぶして連れていけばいいと河内に言った。
「お前がぶっ飛ばした後始末を俺がすんのかよ?」
こいつもディスり気味だった。マジでやり過ぎたか俺?
つっても反省なんかしないけど。取決め通りに行っただけだし。
「じゃあ……おい緒方、さっきの二発の借り、トーゴーを背負って喫茶店まで運んでくれ。それでチャラだ」
「嫌だよ。ここから喫茶店まで結構な距離があるんだぞ」
「ここはうんと言う所だろ!?」
兵藤が突っ込んだ。だって野郎をおんぶなんか苦行だろうが。だったら二発普通に返せよこの野郎。
「それにしとこうよダーリン、これ以上グダグダはごめんなんだけど」
「俺はただ主張をしているだけだが、グダグダしているように見えるのか……」
なんか遥香が冷たいような気がする。ここはひとつ、ご機嫌を取るが如く、兵藤の提案を受け入れるが吉か。
なのでおぶった。道中重いとか救急車の運んでもらおうとか提案も愚痴も言ったが、誰も聞いてくれず。
いや、藤咲さんは構ってくれたな。
「あの、私が代わりましょうか?発端は私ですし、助けてもらったのに、二人の取決め通りにしたのにも拘らず、こんな事になってしまって……」
「ああ、いや、藤咲さんがおぶったとしたらどうなるの?」
「……三歩くらいで潰れちゃいますかね……」
「じゃあ駄目だろ」
約束の時間に間に合わないどころじゃねーよそれ。明日になっても着かねーよ。
「ですが、噂通りですね。やはり颯介とは違うなぁ……」
「渓谷にどんな噂が流れてんだ……」
「話なんか通じない狂犬で、目を付けられたらとことん追い込まれるとか。逃げ切る為には他県に引っ越さなければならないとか」
「ああ、噂って嘘ばっかじゃないんだな……」
遥香や木村とかのフォローで今はそうでもないんじゃねーの?とか思っていたが違った。この世界じゃ違うが、安田は北海道に逃げたし、阿部は二県隣。神尾も地元から逃げたんだよなぁ。
あれは朋美の暗躍があってからこそだが、傍から見れば、俺が引っ越させたように見えるもんなぁ……
「あ、着きましたね。ご苦労様でした」
漸く着いたか。こいつ何食ってんだ?糞重てーのなんの。ともあれ苦行から解放されたので下ろす。
しかしトーゴーは覚醒していない。ぐにゃらんと地面に伏す事になった。
しかしのしかし、その微かな衝撃のおかげで目を覚ました。
「うう~ん……はっ!?」
「ようやく目を覚ましたかこの野郎。お前がやれっつったおかげで散々な目に遭ったぞ。謝れ」
「……お前のパンチで気を失っていたか……つか、痛え!?」
鼻を押さえて大声で。今更か?鈍すぎるだろ。
「意外とタフだな。鼻折れてないとは」
「……お前、あの状況でマジでぶっ叩くとか本当に正気じゃねえな」
「お前がやれっつったからだろ」
「言い合うのは後にしろよ。お客がもう来ているかもしれないんだから」
白井に言われて双方口を噤んだ。逆に意外だと東山が言う。
「白井の頼みは聞くんだな?」
「お前等の頼みも聞いてやっただろが」
俺から言わせて貰えれば、助けた挙句に喧嘩売られたようなモンなんだぞ。赤坂君と宇佐美が許さんと言ってくれねーかな、と思っている最中だ。
まあ、その中でも白井はやっぱりちょっと違うが。
「お、宇佐美がもう来ているぜ」
「赤坂も来ているようよ。早く入りましょう」
河内と横井さんに促されて入店する。いらっしゃいませとマスターの声が店内に響いた。
俺と遥香の顔を見て驚いた表情を作るマスター。そりゃそうだ、さっき結構長く居たのにまた来たのかと絶対に思われているだろうし。
「おう、河内、何の用事だ……!!」
宇佐美が気付いて声を掛けたが、上杉を見て言葉に詰まった。
「宇佐美君、あの女子って……」
「だよな……あの時の女だよな……」
二人でひそひそと。まあ、気持ちは解る。なんで連れて来たんだって。
藤咲さんが目配せすると、上杉と白井が前に出た。
「お前も律儀な……そう言う約束っつったって、赤坂君と宇佐美にはなんのこっちゃだろうに」
「お前相手に約束を破ると後が怖いからな」
言ったらそう返された。しかし、よく考えると、俺とそんな約束をしていないような。自分も一緒に謝ってやると上杉に言っただけだったような。
ともあれ、赤坂君と宇佐美に向かって頭を下げた上杉。倣って白井も頭を下げた。
「あの時は仲間を唆して襲わせてごめんなさい」
しん、となった。宇佐美も赤坂君もいきなりの事で理解が追いつかないのだろう。
なので遥香に肘を突いてどうにかせいと促す。
「あの時宇佐美君と赤坂君を襲ったのはこの子の指示って事だよ」
「え?そ、そうなのか?そっちの野郎は?つうかこいつ等は何?」
やはり理解が追い付いていない。『とうどうさん』の事を知らないのだから尚更だろう。
「この人はこの子の友達。一人で謝りに行くのが心細いからって一緒に来たんだって」
流石遥香。当たり前の様に有り得そうな嘘をつらつら並べるとは。
「そ、その人は解ったけど、こっちの達は?何か一人は鼻血の跡があるけど……」
赤坂君がトーゴーを見ながら訊ねた。そいつは俺がぶん殴ったと言う前に――
「お前の友達の狂犬さんにやられたんだよ、友達を襲った奴の仲間だって言ってな」
微妙に嘘じゃないが、トーゴーが誤魔化す為だろう、そう言う。
「そ、そうなのかい?緒方君、僕達の仇を取る為に捜していたのかい?」
「いや、そう言う訳じゃ「そうだ。こっちはこんな危ない野郎と本格的に喧嘩したくないからな。全面降伏って事で、仲間全員詫びに来たって事だよ」おい?」
なんか金髪も嘘を被せやがった。なんでそんな事を?
「まあ、そんな訳だ。だからこれで終わりにしてくれよ、宇佐美」
河内まで乗っかりやがった。え?何で俺が赤坂君達の為にぶん殴ったになってんの?
「緒方がそうしてくれたんだから、まあ……赤坂はどうする?」
「え?僕はあまり気にしていなかったし……あの時も緒方君達に助けて貰ったんだから……」
「二人が許したって事はこれでおしまいだ。そうだよな緒方?」
なんか木村が念を押したぞ?許さなきゃいいのにってのがばれたのか?許さんとなったらその場で全員ぶち砕き決定だしなぁ……
「ダーリンが考えていた事、全員解っているよ。藤咲さん、東山君、白井君を除いた人達全員殴りたいと思っていたでしょ?」
ボソッと遥香が耳元で。
「『とうどうさん』は兵藤君がさっきも言ったように、ダーリンを利用したいが先にあるから、ダーリンにやられたって形を作った。赤坂君達の敵討ちを喰らったって事にして」
「俺に対する貸しにするつもりなのか?そんなモン知ったこっちゃねえんだけど」
「その考えが解っている河内君と木村君も『とうどうさん』の擁護に回ったでしょ」
そうなの?と、ジト目で木村達を見ると、微妙にニヤついていた。遥香の言う通りなのかよ。
「向こうも改めてダーリンが危ないって事も知っただろうし、事実ダーリンは須藤を殴れるから味方の方がいい。この謝罪でダーリンも『とうどうさん』は友達……とまでは言わないけど、共闘出来る相手くらいにはしてくれるでしょ?」
共闘ね……それなら、まあ……
「おい緒方、これでおしまいだろ?」
再び木村が問うてきた。俺は頭を掻いて仕方がないアピールをモロに見せ付ける。
「赤坂君と宇佐美が許したんならそうだろ」
「じゃあこれでお友達、ですよね、お二人共」
なんか藤咲さんが赤坂君達に笑顔を向けてそう言った。
「え?友達……でいいのかな……」
「少なくとも敵じゃなくなった、んじゃねえかな……」
やはり戸惑う二人だった。当たり前だろう、さっきまでこんな展開になるとは夢にも思わなかっただろうし。
「では、お詫びと言ってはなんですが。お二人に此処は御馳走いたしますので」
やはり天使の如くの微笑を見せながら。赤坂君、顔赤くなってんぞ、いいのか?おさげちゃんに言っちゃうぞ?
つうか藤咲さんの言葉が終わったと同時に『とうどうさん』が席に着いたがな。
それをぼけーっと見ていると……
「どうした緒方?座れよ。幸のオゴリだから遠慮すんなよ」
東山に促されて場を見ると、全員座っていやがった。
「俺は御馳走になる訳には……」
共闘相手にランクアップしたとは言え心を許す気はない。なのでやんわり断る事にしたのだが……
「いいから座れよ緒方。俺は急な呼び出し喰らって飯もまだ食ってねえんだから」
「いや木村、お前は食えばいいだろうけど、俺は……」
「なんだよ緒方、俺達にまでお預けを食らわすつもりかよ?」
河内が乗っかって横井さんも何度も頷く。
「もう諦めて御馳走になろうよダーリン。空気読めない頑固者のダーリンも素敵だけど、ここは大きな心を見せるがヨロシ」
「それってディスってんじゃねえのかお前?」
ブツブツ言いながら遥香の横に座る。袖を引っ張られたのでそうなったのだが。
「おう宇佐美、折角の好意だ、ゴチになろうぜ。好きなモン頼んでいいそうだぞ。何がいい?」
河内に言われて慌ててメニューを見た。そこに赤坂君が情報を発する。
「ここはタマゴサンドが美味しいよ」
「そうなのか?赤坂は何回か食ってんの?」
「そうだね、何回か」
それを聞いた『とうどうさん』。俺も私もとタマゴサンドを注文しようとする。
「ミックスサンドでいいでしょ。タマゴサンドも入っているんだし。それを大量に貰えばいいよ」
「幸はタマゴよりもツナだしねー」
「そう言う冬華もベーコンとかハムの方が好きでしょ」
「まあね。あ、赤坂君と宇佐美君、だっけ?こっちのベーコンレタスサンドも頼むから。それも食べてねー。幸のお金だから遠慮しないで」
なんかフレンドリーに言われて思わず頷く二人だった。
「俺達もサンドイッチにするか。仲間全員で適当に摘まめるからいいだろ」
「そうだな。千明さんもそれでいいか?」
「構わないわよ。槙原は?」
「いいよそれで。あ、ハムチーズ絶対頼んでね」
なんか俺そっちのけでサンドイッチ各種頼んでいた。
「飲み物は……緒方はアイスコーヒーだよな」
河内に振られて咄嗟に頷いた。それを皮切りにそれぞれ思い思いの飲み物を頼んだ。
演技だろうが何だろうが、兎に角和気藹々とサンドイッチをみんなで摘まんで話していた。
俺はと言うと、頼んで貰ったアイスコーヒーにも手を付けないで、じっとしていた。話題を振られても頷いて相槌を打つのみ。
そして1時間を過ぎたあたり、赤坂君が焦ったように立った。
「ごめん、僕これから用事があるんだ。緒方君、誘ってくれたのに悪いけど……」
「あ、うん。いいよ。急に呼び出したの俺だから気にしないで。あ、前借りたヤマトのDVD、続きある?」
「うん。明日学校に持って行くよ」
そう言って別れた。『とうどうさん』は全員立ち上がって手を振った。俺も立ったが、普通に赤坂君を見送ると言って外に出た。
「緒方君、あの人たちの事、あまり信用していないだろ?」
「やっぱ解っちゃうか?だよなぁ、あの態度じゃなぁ……」
誤魔化すように髪を掻く。実際信用していないし。
「気持ちは何となく解るけど、あの人たちも頑張って場を楽しんで貰おうとしているのは伝わるよね?」
「ああ、うん。そうだな」
そこは確かに伝わった。伊達にじっとしていた訳じゃない、ちゃんと観察もしていたのだから。
所謂媚を売る目的だろうとも、ちゃんと赤坂君と宇佐美の接待をしていた。
「解っているんだったらいいよ。そこが緒方君のいいところだから」
「赤坂君に褒められると照れちゃうぜ」
「はは。槙原さんに嫉妬される前に帰るよ。時間もヤバいしね」
慌てながら小走りに去る赤坂君に手を振った。赤坂君も暗に許してやれって言っていたよな。被害者がそう言うんならそうしなきゃいけないのかな……
見送って店内に戻ると、さっきとは別のテンションで盛り上がっていた。つか、騒いでいた。
「おい、あんま煩くすんな。他のお客さんに迷惑だろ」
近くに居た東山に注意すると、鼻息を荒くして逆に詰め寄られた。
「これが静かにしていられるか!!宇佐美の奴、上杉と付き合う事になったんだぞ!!」
さっきもそんな感じのやり取りがあったが、俺は全くこいつ等を信用していないので、演技だろ、どうせ。と冷たい目で見ていた。
しかし、付き合う事になったというのならだ。
「なんでそうなった?宇佐美をからかう、利用する目的ならこの場でぶち砕くぞ糞女」
当の上杉に凄んでそう言う。若干身を引かせたが、奮い立つように逆に顔を近づけて来た。
「告られたからOK出したのよ。言っておくけど、ちゃんと丘陵だって言ったし、アンタに敵認定受けているとも言ったよ」
そうなの?と宇佐美を見る。
「あ、うん。さっきからずっと謝って来ていたからな。もういいって言ってんだが、それでもな」
健気な演技に心を打たれたか?とは思っても口に出さない。
「じゃあそんなに詫びたいんだったら彼女になれっつったら、家が丘陵で遠いし、お前に敵って思われているけど、それでいいならって」
ノリじゃねえかよ。そんなんで盛り上がんなよ。
「ま、まあ良く見ると可愛いし、俺としちゃ棚ぼたっつうか……」
「私も彼氏いないし、幸とあの馬鹿のイチャラブを見ていると彼氏欲しくなってくるしで。まあ、宇佐美君、意外とかっこいいしでいっかな?って……」
なんか二人共照れて髪を掻いていた。それが本心だったらいいけど、『力』を使っていると後に発覚したらマジでぶち砕く。
「そんな心配いらないよ緒方。ちゃんと好意を持っているのは解るから」
白井がサンドイッチを摘まみながらそう言う。
「お前がそう言うんならそうなんだろうな」
「俺の言葉、簡単に信じていいのか?」
「言っただろ。お前はまあ、いいって」
まあいいんだからまあいいんだよ、お前の言葉も。
取り敢えず席に戻る。この空しい騒ぎはいつ終わるんだ?と思いながら。
「ダーリン全然食べてないよね。アイスコーヒーも飲んでないし」
「敵の食いモンなんか食えるか……と言いたい所だが、共闘までは良しとしたんだ。食わないし飲まないのは単なる俺の我儘だよ」
要するに、心は許さん、ちょっとでもおかしな動きを見せたらぶち砕くとの意思を示している訳だ。
まあ、さっき赤坂君と話した事で食ってもいいかな?と思うが、今更か?とも思うし。
だから単なる我儘だ。お前は気にしないで飲み食いしてろ。
席を立つ。みんな「?」な顔で俺を見た。
「帰る。なんかあったら……東山が連絡くれるんだろ?」
「あ、うん。そうするって、え?マジで?なんで?」
なんでって、話は終わっただろ。居ても居なくても同じだろ。
「おい緒方、宇佐美がまだ居るんだぞ」
「だから河内、お前は最後まで残れ。横井さんも河内に付き合ってやってくれ」
「待てよ緒方、だったら俺も」
「お前も残れ木村。お前と遥香が居ればどうとでもなるだろうし」
「え?私も?って、ちょっとダーリン?」
これ以上は引き止めがウザくなるだろう。なので俺は手を上げて振り向かずに店を出た。
こう言う所が自分の嫌な所なのは知っている。繰り返し中後悔もした。
だけど、これが俺なんだよ。反省も後悔もするし、こんなんじゃ駄目だと思いながらもやっちゃうんだよ。
だから、こんな俺の友達をやってくれている赤坂君をぶん殴った女とその仲間には、どうしても気を許せないんだよ。
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