とうどうさん~021
「意外だな?お前がそこで折れるなんて?」
河内がマジ珍しいと発するが、『とうどうさん』は俺にはもう興味はない。朋美の味方に留まると言うのなら話は別だが。しかし『まだ』だからな?間違うなよそこは。
「だけど、お前がトーゴーとやる分には止めないが」
「トーゴーはお前とやるっつってたんじゃなかったか?」
木村の疑問である。普段の俺なら敵は絶対に譲らないのに、簡単に河内に渡したのが気になったんだろう。
まあ、流石にどうでもいいとか言ったらいい気分じゃないだろうから、そこは濁すか。
「あの女が謝罪したらお終いだって言っただろ。しなかったら全員ぶち砕くけどな」
此処で遥香が乗っかった。俺の肩におっぱいを乗せて、身体を預けるように密着しながら。まさに身も心も乗っかったって訳だ。
「だ、そうだけど、どうする?私としては素直に謝って欲しいけど、嫌なら此処でアンタだけは倒すけど」
上杉に向かってニコニコと。
「……アンタ、何の力も無いのによく言えるわね?具体的にはどうしようっての?」
あはは~と笑い終えて、重い顔つきを作る遥香。
「手を教える程間抜けじゃないよ?」
上杉の顔が引き攣った。あの遥香の顔を見たら、不安しか感じないからだろう。どんな手を使って何をするのか見当もつかないだろうから。
「……いいよ、上杉、俺も一緒に謝ってやるからそうしよう」
なんか知らんが白井って奴がしゃしゃり出てそう言った。これには全員ポカンだった。
「おい白井、なんでそうなる?」
兵藤がマジ意味解からんと詰め寄って疑問を呈する。
「そうだ。謝るんなら俺だろ、俺がみんなを巻き込んだんだから」
発端の東山がしゃしゃり出る。こいつは自分の責任だと思ってるからまあいいと思ったんだよなぁ……
つうか藤咲さんを除くとうどうさん全員がガヤガヤし出した。かく言う俺も意味解からん。こいつも何か絡んでんのか?
「あの女、マジでヤバい感じがする。腕っぷしで戦うんだったら、東山君、トーゴー、兵藤で善戦するかもだけど、あの女相手じゃ多分こっちに甚大な被害が出る」
藤咲さん以外、とうどうさん全員遥香を見た。驚愕の表情で。その中に俺も居る。
いや、何が驚いたかって、遥香の厄介さを見切った眼力に驚いたのだ。それは多分俺だけじゃない、俺の友達全員だろう。
「あはは~、そんなに警戒されてもね~。私は何処にでもいるメガネっ子巨乳で、この緒方隆君の愛するハニーなだけですよ」
そう言って必要以上にべたべたするが、お前が超やべえ奴だってのは俺達全員知っているんだけど。
「……解った。そうするよ。場所設けてくれない?そこで後日ってのはどう?」
「いいよ。じゃあ、藤咲さん、連絡先交換しようか?」
「そうですね。それが良いかと思います。後々を考えると」
そう言って遥香と藤咲さんが連絡先の交換をするが、ちょっと待て。
「あの上杉と交換するんじゃないの?場所教えなきゃいけないんだろ?」
「え?だって私、まだあの子を信用していないし。信用していない子に個人情報の一つを教えたくないし。もっと言うのなら『とうどうさん』の中じゃ藤咲さん以外、まだ信用していないし。だったら藤咲さんに間に入って貰うでしょ?」
「お、おい幸、後々ってなんだよ?」
「は?聞いていたでしょ颯介。私達を助けてってお願いしたでしょ。緒方君はお願いを聞いてくれたんだから、協力して借りを返さなきゃでしょう?」
ねえ?と顔を合わせる遥香と藤咲さん。二人は前日に連絡を取り合って、この様に誘導しようとお互い確認し合ったんじゃないかと思える程の連携だった。
上杉が眉間にしわを寄せて首を振った。
「そこまで意思疎通しているのは超意外だけど、解ったよ……仲間全員呼んで」
いきなり何を言い出すのかと木村達と顔を合わせる。
「つまりこう言う事?全面降伏するので私達の友達全員に話しを聞いて貰おうと?」
横井さんの発言に躊躇しながらも頷く。
「幸はそちらに全面的に頼るつもりのようだし。多分私達の為なんだろうけど」
「それはどう言う事なの?」
「私達はあの幽霊に完全に飲まれているから戦い様がない。だからあの幽霊の命令に全部従う事になる。今までは脅せとか、そんな程度の命令だけど、あいつはいずれ殺せと命令を出す」
頷く横井さん。
「全くの同感だわ。今日初めて実物を見て、今まで聞いた話と合わせての感想だけど、あの子は自己中過ぎる。人の事なんかまったく考えちゃいない」
全くその通りなので頷く。
「幸はそんなの関係ないからやっつけようと提案したんだけど、私達は無理だって。幽霊となんか戦えないって思っている。だったら殺せの命令も多分聞く」
「成程……藤咲さんはリーダーの責務を果たそうとしている訳ね……」
そして少し考えて木村と河内に目を向ける横井さん。
「申し訳ないけれど、彼等とは喧嘩しないで貰えるかしら?」
木村も河内もこの流れをなんとなく読んだようで、嫌そうに息を吐きながらも頷いた。
「解った。だが、向こうがどうしてもやるっつうならその限りじゃねえ」
「千明さんの言う事なら大抵は聞くが、木村の言う通り、向こうが引かねえってんなら仕方がねえ。そこは了承してくれ」
頷く横井さん。そして藤咲さんに目を向けた。
「こっちはそう言う事になったわ。『とうどうさん』的にはどうかしら?」
「さっきも言いましたが、緒方君に全面的に賛同し、共に戦う事を選びます。ですのでこちらから仕掛ける事はありませんし、緒方君の要望通り、冬華が迷惑をかけた友達さんに謝罪します」
「そう、良かったわ。だけど、いきなり友達全員召集は無理よ。みんな予定があるんだから」
此処で遥香が横から口を出す。
「だけど謝罪なら早い方がいいよね。ダーリンせっかちさんな上に確認しないと信用なんかしないんだし。だから赤坂君と宇佐美君だけ今呼び出そう」
呼ぶのはいいけど、あいつ等も用事があるだろ。いきなり来いと言われてくるものか?
「そうね。じゃあ河内君、宇佐美君を呼び出して。緒方君は赤坂を。場所はあの喫茶店でいいかしら?」
俺、お金使ったんだけど、また喫茶店に行くの?またお金使わなきゃいけないの?
「安心してください。謝罪の場を設けてくれたと言う事で、その場の料金は私が支払いますので」
この人も心を読むタイプなのか……迂闊に考えられんぞ。
「緒方はツラに出やすいからな……金使いたくねえっての、バレバレだ」
木村の発言に全員頷いた。『とうどうさん』までも。俺ってあんま絡んでいない奴等にも心を見透かされるのか……凄く可哀想な奴だな、俺って……
ともあれ、赤坂君に電話して喫茶店に来て貰う事になった。宇佐美も同様だが、黒潮故に時間がかかる。
「つー訳で1時間後にあの喫茶店に集合。それまで暇だから河内、なんか面白い事してくれ」
「偉い無茶振りだな!!」
だって暇だから。今から喫茶店に行って時間潰すなんてお金、俺には無いし。
「仕方ないな……じゃあ木村、河内の代わりになんか面白い事しろ」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。そんなに暇なら家帰って単車持って来い。そこら辺走るくらいは付き合ってやる」
何でガソリン代使わなきゃいけねーんだ。お金勿体ないだろーが。
「仲良いんですね」
なんか藤咲さんがボソッと言うが……
「藤咲さんの所も仲良いんじゃねーの?世界一どうでもいいけど」
今のところは。赤坂君と宇佐美に謝罪するまでは敵のカテゴリーだし。
だけど、この物言いにカチンと来た奴はいる様で。
「そりゃあ、俺達はくたばって集まった仲間だ。お前ん所みたいに馴れ合っている訳じゃねえ。絆、ってのがあるんだよ。お前等程度の似非仲間とは違う」
兵藤がそう発したが、白井が何かやめろとか言っていた。
「なんだ?なんで止める?別に喧嘩しようって訳じゃねえ、本当の事を言っただけだろ」
「違う。他の奴は兎も角、緒方って奴、全然敵意を隠してない。上杉が謝るまで俺達はまだ敵って事だよ。藤咲が揉めるなって言っただろ。緒方は……」
その通り。糞がふざけた事を抜かしたらぶち砕くのが俺だ。敵にそんな上等こかれて黙っているほどお人好しじゃない。
なのでゆっくり近づいた。拳を握り固めて。
「ちょっと待って緒方、少し落ち着いて」
白井が前に立って庇う。俺を前にして脅えも見せないとは天晴れだ。友達を守ろうと盾になるその姿も嫌いじゃない。逆に好感が持てる。
「安心しろ。藤咲さんはいい。東山はまあいい。お前もまあいいのカテゴリーにしといたから」
「だったら俺の頼みも聞いてくれてもいいだろ?」
そう来たかと感心する。じゃあ此処は収めようとした瞬間――
「はあ?この状況で喧嘩しようってのかアンタ?噂に違わずの狂犬だな?そういや暇だったんだっけ?じゃあ俺と勝負して暇潰すかよ?」
結構馬鹿にしたような声でそう言われた。
なのでノーモーションでの右!!白井の顔面を掠めて兵藤に顔を打った!!
「がっ!?」
仰け反る兵藤。白井は何があったと振り返った。それ程までに唐突だったであろう、俺のパンチ!!
「緒方!そいつは俺の預かりだっただろうが!」
木村がやや焦って俺の肩を掴んだ。これ以上は駄目だと言わんばかりに。
「あいつが幸いな事に暇つぶしの手伝いをしてくれるそうなんでな。好意に与っただけだ。俺相手に糞ふざけた事を言うんだから覚悟はあるんだろ、多分」
掴まれた肩を振り切って、這いつくばっている兵藤の前に立った。
「おい、立てよ糞……朋美に脅させても何も出来なかった雑魚が、俺を挑発するような事を言ったんだ。死ぬ覚悟は当然出来ているんだよな?」
言いながら顔面に蹴り!流石に遥香も真っ青になって止めに入った。
「ちょ!これ以上は駄目だよ!『とうどうさん』にはやって貰う事があるんだから!!」
「それは『敵』に頼まなきゃ駄目な事なのか?」
言い切ったら静まった。『とうどうさんは敵』なのだ。思い出したかお前等。
「あの糞女が謝罪するまでは保留の形だった筈。それを挑発するように言ってオシャカにしたのがあいつだ。白井はそこを知っていたから兵藤を庇ったし、俺に頼みもした」
「そうだけど……『とうどうさん』は必要な戦力だから……」
俯き加減で言い難そうに言う。対して俺は豪快に溜息をついた。全員に聞こえるように。
「だったら遥香。お前と『とうどうさん』でやれ。俺は俺で勝手にやる」
横井さんが俺の胸倉を掴んだ。結構な怒りの形相で。
「……見損なったわよ緒方君。槙原が今までどんなに頑張っていたのか知っているでしょう?」
「勿論知っている。横井さんよりも深く知っている。遥香に助けられた事は数知れずだ。だけど、俺は『敵』を利用しようとは思わねーよ。それは今に始まった事じゃない、昔から。言ってしまえば繰り返しても、ずっと変わっていない。それは遥香が一番よく知っている筈だ。ここに居る誰よりも深くな」
掴まれた胸倉の力が緩んだ。横井さんもそこは承知の筈。俺は『敵』を頼りにしない。友達なら全力で頼り捲るが。
その友達を全くの他人を使って痛めつけたんだ。謝罪するまで敵認定は当たり前だろ。ぶっちゃけると、謝罪しても、赤坂君が許しても、俺が許さない可能性もあるが。
「解ってくれたんなら退いてくれ。あの金髪を血の色で染めるのに忙しいから」
「上等だテメェ!!!」
当たり前だがお怒りの形相で立ち上がった兵藤。しかし笑わせる。お前程度の雑魚が俺にどうやって勝つって言うんだ?朋美にビビってヘタレた雑魚が。
「待て兵藤、こいつは俺がやるって言っただろ」
兵藤の肩を叩いて止めたトーゴー。結構な怒り顔で。しかし、堪えて話を切り出す。
「正直舐めていた。俺達はお前を利用したいし、お前の女は俺達の力を何かに使おうとしているこのウィンウィンな状況でも我を通すとは思わなかった」
「ウィンウィンだ?そりゃ遥香がそう思っていた事で、藤咲さんの望む展開でもある。しかし、そこに俺の意思は何処にある?」
俺にとっちゃウィンウィンですらない。ただの保留なだけだ。
「じゃあ聞くが、お前の意思ってのはなんだ?」
改めて聞くなよ、今更だろうが?
「敵はぶち砕く。朋美でも、『とうどうさん』でもな……」
構える俺。敵を前に無防備で居られるか。
「ご自慢のムエタイの構え、出せ。いきなり始まるぞ……」
「やめろって言ってんだろ!!お前の主張は今更だが、空気を読め!!」
後ろから河内が羽交締めをした。そこにトーゴーがボディを放った。
当たり前だがモロに食らう。馬鹿野郎か河内!!喧嘩最中に何してくれてんだ!!
「え!?おい緒方、大丈夫か!!コラあタイ人テメェ!!」
「河内、熱くなるな!!緒方もこれで終いにしとけ!!お前もぶっ叩いたんだからお相子だろ!!」
「はあ?俺は二発貰ったんだけど?偏差値が低い高校生は数も数えらんねえのか?」
「あ?こっちは筋を外した挑発野郎の為にこの狂犬を宥めようとしてるんだぞ?礼を言われる場面なのに、喧嘩売られるとは予想外だぜ」
俺そっちのけで殺伐すんなよ。今から二人纏めてぶち砕こうって所なんだから。
一触即発の空気の中、割って入ったのは東山。
「やめろ。兵藤、お前も悪い。上杉はちゃんと謝るんだから、そこで終いになる筈だった。こっちの狂犬さんも短気過ぎるのは頂けないな?」
「だったらお前からぶち砕いてやるよ!!」
「あれ!?今のって双方何となく納得して引き下がる流れじゃないの!?」
マジ仰天ばかりに仰け反った。そんな茶番で引き下がるか。
「東山、こいつには何を言っても無駄だ。決めた事はなかなか覆さねえ。噂は正にそんな感じだろ?」
トーゴーがそう言うが、ちょっと違う。退く時はあっさり退くんだよ俺は。
「おう東山、やる気がねえならすっこんでろ。今からお前の所のタイ人を蹴り殺すんだからよぉ……」
河内が俺を押し退けて前に出てそう言った。
「いや、俺としちゃやらせてもいいんだけど、白井がなぁ……」
困ったように髪を掻きながら。つうかお前はやらせてもいいと思ってんのか……こいつも何を考えているのか解らんが、その白井が前に出た。
「兵藤もトーゴーもやめろ。向こうと戦ったらこっちの被害が大きいと言っただろ?」
「俺は二発貰ってんだよ!!」
「緒方に一発返しただろ。一発は詫びだと思って素直に受け止めろよ。言っておくけど、あの女本気でヤバいからな」
横目で遥香を見ながら。なんでそんなに警戒するんだ?
「おい、お前遥香とは初見なんだよな?なんでそんなに警戒する?」
「……俺はトーゴーや兵藤の様に『狩る側』じゃない、『狩られる側』だったから。危機管理能力はその時充分に養ったよ」
ああ、その気持ち、何となく解る様な気がする。俺も虐められていたからなぁ……
だが、成程解った。イマイチ白井を憎めない気持ちになるのは。
何の事は無い、俺と同じだからだ。俺はボクシングを得て報復し、白井は不思議な力を得て報復した。その違いだけだ。
だったらしょうがない。俺と同じ奴の頼みはなるべく聞かなきゃな。
「おい金髪、一発返せよ」
「はあ?」
兵藤だけじゃない、全員はあ?だった。
「一発多いのは事実だからな。借りも貸しも作りたくない。尤も、赤坂君と宇佐美が謝罪を受け取らない、許さないとなったらその時改めて全員ぶち砕く」
「一発貰う必要はねえぞ緒方。挑発のように発したのは本当なんだからな」
木村の言う通りだが、言っただろ?借りも貸しも作らないと。
「許さないとなったら喧嘩に突入だ。その時一発多く貰ったからお前が此処で折れろと言われそうだろ。そうなったら赤坂君と宇佐美の怒りは何処に行く?我慢しろと言うのか?一方的に理不尽にやられたのに?」
「そこはお前だよな。納得だ」
木村が愉快そうにくっくと笑った。
納得した所でぐいっと兵藤に歩を向けて、顔を近付けた。
「ほら、やれ。やらないと後悔する事になるかもだぞ。赤坂君と宇佐美次第でお前等は病院に行く事になるんだ」
「く……テメェ……」
ぶっ飛ばしたいが手を出せない雰囲気になった。出したら向こうが悪くなっちゃうような感じだ。
やっぱり『貸し』を作りたいようだな。万が一があるから。
やはり白井が兵藤の肩を叩いた。
「さっき言っただろ?一発は詫びにしとけって」
「詫びっつったってよぉ……別に馬鹿にした訳じゃ……そ、それに、一発はトーゴーがやったもんだしよぉ……」
じゃあ、と、トーゴーが前に出る。
「緒方、俺に一発よこせ。お前と俺の貸し借りはこれで無しだ。代わりに兵藤から二発貰ってくれ」
あ、そう。と、何の躊躇いもなくストレートを顔面にぶち込んだ。
「があっ!?」
宙に弧を描く鼻血。そして仰向けにぶっ倒れるトーゴー。
「これでお前とはチャラだな。じゃあ金髪、二発よこせ」
「チャラじゃねえよなこれ。お前の方が儲けてんじゃねえか」
木村が呆れてそう言う。ダメージ比率から行ってもトーゴーの方がより深いからだ。
しかし、一発は一発。お前のボディの蹴りより俺のパンチの方が強いんだからしょうがないだろ。
「……緒方、これちょっと洒落になんないんじゃないか?」
白井がぶっ倒れたトーゴーを見下ろしながら言う。
「一発は一発だろ。他ならぬこいつがやれっつったんだ。文句言われる筋は無いが」
「それにしても、トーゴー白目剥いてんじゃねえか。完璧に気を失っているぞ、これ」
東山が屈んでトーゴーの様子を見ながら慄いた。仕方ねーだろ、あいつの蹴りより俺のパンチが強かっただけなんだから。
つーかグダグダはもういいんだよ。
「いい加減にしろよ金髪、早く二発寄越せよ。喧嘩売ってんのか?おい?」
「殴らないのが喧嘩売っている事になるのか、お前は……」
やはり慄く東山だった。まあ、確かに意味不明だけど。
「わ、私ってあんなのに狙われているの……?」
涙目でガクガクへたり込む上杉。赤坂君と宇佐美次第だっつーの。謝罪の態度によっては俺が許さない可能性があるだけだ。
はあ、と顔を顰めて頭を振る横井さん。
「兵藤君、だったかしら?緒方君をこれ以上苛立てない方がいいわよ。君は連山らしいからよく知らないのでしょうけど、彼は敵に譲歩はしないのだから。これは白浜の生徒だったらみんな知っている事よ。だから彼の要望通りに二回殴って頂戴」
「イラつかせているつもりはねえが、これを見ても尚そう言うのか?」
もうあからさまにビクついてトーゴーを指差した。なんだこいつ?
「仕方ねえだろ。俺だって結構引いてんだから、敵認定されている連中なら尚更だろ」
河内も呆れるようにそう言うが、トーゴーとのやり取りで見ていたよなお前。
「ダーリン、気持ちは解るし、融通が利かない所はなんだかな、と思うけど、これでいいでしょ?追い込むのも変な話だし」
「はあ?追い込むも何も、そう言う話だっただろ?何で俺が悪い流れになんの?」
「「「「やり過ぎだって言ってんだよ」」」」
野郎共全員、敵味方関係なくそう言った。いや、何回も言うが、俺のパンチの方が強かっただけで、気絶はそいつが勝手にした事だからな?俺は気絶しろとは一言も言ってないんだし。
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