黄金週間~002
どうにか無くなった肉。ヒロが最後に涙ながら手伝いを願い出たから成し得た結果だった。
あのまま一人で食べていたら、多分お残し確定だっただろう。
「これに懲りて、程々って事を覚えた方がいいぞ」
「おう…………」
俺に追記すように、大雅も発した。
「それに、言い方だ。アレは俺じゃなくてもカチンとくる」
「……お前も結構こええよな……」
「まあまあ、二人ともそれくらいにして。御馳走してくれたんだからお礼は言おうよ。ごちそうさま大沢君」
「あ、うん」
うんとか。どんだけダメージ負ってんだよ。
しかし、奢ってくれた事は事実な訳で。ならばと俺達もちゃんと礼を言わねばならん。
「あ、うん」
うんしか言わねーのかよ。腹押さえながらよー。
ともあれ外に出てバイク置場に向かう。
と、俺達のバイクを囲んでいる集団を発見。見た目あっち系だ。
「おい隆。俺は腹のダメージが濃い。だから、やるならお前だけでやれ」
「おう。と言いたいところだけど、あれ矢代だ。俺のバイク知っている筈だから、悪戯目的で囲んでいる訳じゃないと思うけども」
矢代は他人のバイクを悪戯する奴じゃないから、大雅のバイクを見ているのだろう。大雅のバイクは外車でかっこいいからな。
「おう矢代。久し振りだな。対馬とは何回か会っているけど」
後ろから話掛けられてビクンと硬直する東工生。
「やっぱり緒方のバイクか。国枝のはこっちだよな。じゃあ間にある二台は誰のだ?って気になって」
にこやかに答える矢代。他の奴等は顔色が悪いけど。
ともあれ質問に答えよう。
「こっちの外車は大雅のだよ。南海の奴。こっちのヤハマはヒロのだ」
ついでのように紹介する俺。大雅は静かに辞儀をする。
「大雅……南海?南海大雅派って所の大将?西高と黒潮と五分の協定結んだとか言う?」
ざわめいた。矢代ですら目を剥いた。
「お前も有名人になったよなぁ……」
「白浜で有名になっても逆に困るんだけど……緒方君は南海に限らず、大洋で超有名人になったけども」
俺は真面目に有名人ポジはいらないんだが。
「と言うか、年末の騒動の時、お前も後から合流したんだろ?アホ共をぶっ叩きに」
「あ、おう。俺達がいた所は、大沢と生駒がいた所と同じだったから、別のインパクトの方が勝って潮汐云々は頭から飛んじゃったけども。なあ?」
他の連中に同意を促すと、頷いた。あの騒動の出てきた東工生なのか。
「ん?じゃあヒロと生駒のバトルを見たって事か?」
「おう、別のインパクトが勝ったと言っただろ?」
こいつ等の喧嘩をライブで見た奴等かよ。そりゃ……潮汐はどうでもよくなるだろうな……
「その話はいい。あんま思い出したくねえ」
苦虫を噛み潰した表情のヒロ。本気で思い出したくない様子。
「なんでだよ?負けた訳じゃねーんだし、いいだろ別に?」
この話はヒロは勿論、生駒も話したがらないから、引き分けた程度しか知らない。矢代に聞かせて欲しいもんだけど。
「俺のスマッシュまともにヒットしても倒れなかったんだぞあいつは。屈辱もんだろうが」
物調ズラで。だが成程そうか。フィニッシュブローを耐えられたとあっちゃ、穏やかにはいられない。
「だけどお前も生駒の右パンチ?耐えたじゃねえかよ?」
マジか!?右正拳を耐えただって!?俺は意識飛びそうになったあのパンチを!?
「耐えたんじゃねえよ。顔を捻ってズラしただけだ。完璧に躱せなかったのも屈辱もんだってのに……」
躱せなかった事にイラついてんのかよ。俺も完璧に躱せなかったからいいだろが。それが生駒のパンチだよ。
しかし納得だ、生駒も話したがらないのは。決まると自信があったタイミングだったんだろう。それを紙一重とは言え躱して致命傷を避けたんだ。
生駒の方も心中穏やかじゃないんだろう。
「へえ?大沢のテクニックでも追い付かなかったパンチか。生駒もやっぱり強いんだな」
大雅が感心したように頷く。それに矢代が加わった。
「アンタも緒方とやったのか?南海と揉めたって話はちょっと聞いたけど」
「いや、俺はやってない。止められたし。だけど、戦いたくないよな、緒方君とは。殺し合いする覚悟が必要だ」
「ああ、佐伯の時、ホントに殺しそうになったしな。あれ見て心底こいつ馬鹿だと思ったよ」
「なんで俺がディスられる展開になる!?」
なんかみんな朗らかに笑った。俺がディスられば平和になるのだろうか?
「つか、お前等はなんでここに来た?昼とっくに過ぎてんだろ」
強引に話題を変える俺。これ以上笑われてやるもんか。
「ああ、コンパだよコンパ」
「焼肉屋で!?」
「違う。あそこに本屋があるだろ?その裏手にカラオケ屋があるんだよ。そこで」
そうか。しかし、ちょっと待て。
「矢代、お前って彼女いなかったっけ?」
だから文化祭の時、便乗して来なかった筈だが。
しかし、訊ねた瞬間、俯いてどんよりとなった。
仲間の一人が俺に耳打ちをする。
「矢代、振られたんだよ。二年に上がってすぐ」
そ、そうだったのか……それは悪い事聞いちゃったな……謝るから、その泣きそうな顔やめて貰えるかな?俺が虐めたみたいに誤解されかねんから……
しかし東工生は4人。女子も4人来るとして、8人か。結構盛り上がりそうだな。
「まあ、頑張れ。俺達は帰るから」
此の儘話し続けていれば、何故かコンパに混ざりそうだったので早々に帰る事にした。
「おう……あ、ちょっと待て」
バイクに手を掛ける前に止められた。
「なんだ?」
「……佐伯、東白浜に顔出しているぜ。今朝3年が見つけて追い掛けたが逃げられたってよ」
佐伯………!!!!
「……おう隆、そのツラはマズイ。気持ちは解るが、ちょっと堪えろ」
「そうだな。そいつの事はちょっと聞いた程度だが、緒方君のその顔で、どんな奴か予想できた」
ヒロと大雅に言われて我に返る。顔をこねくり回して表情を和らげる。
「……マジこええな緒方……あの時の事、思い出しちまったぜ……」
矢代の顔色がとても悪い。つか、東工生全員の顔色が悪くなっていた。
「矢代君、佐伯さんは何の用事で東白浜に来たのか解るかい?白浜に限らず、東も西も、佐伯さんは顔すら出せない状況じゃないか?それでも来たんだ、相当な用事があるのかも……」
国枝君の質問である。それはその通り。白浜は俺に、東白浜は東工生に、西白浜は西高生にやられるんだ。迂闊に顔なんか出せない。
「解らねえけど、お前の言う通りだから、よっぽどの用事があるんだろうな」
矢代も解らんと。発覚したのが今朝なんだから当然ではある。
「つか、佐伯の糞野郎は今までどこに潜伏していたんだ?あの糞野郎、地元で顔見た事も無いけど」
俺の疑問に答える矢代。
「一時期は連山に行っていたようだけどな」
別の東工生も応える。
「最近まで
渓谷と聞いて顔を見合せる俺達。
「いや……渓谷もちょっと危ないだろ?黒潮の隣だぞ?河内にも敵認定されているんだから……」
「そんな事言われてもな。見たって奴がいただけだしな」
逆に困ったような顔をされた。まあ、確かに。河内に敵認定されていたとしても、渓谷まで気は回らんかもしれないし。狭川の事で忙しかった筈だしな。
「まあ、ツラ見たらぶっ飛ばすだけだ。出来る事なら俺の前に来てくれればいいんだが」
「お前、肉食い過ぎてボディヤバい筈だろ」
「……明日に来てくれれば……」
そんな都合よく行くか。あの糞野郎もこそこそしなきゃいけないんだから、捜すのも骨だろ。
「ん?矢代じゃん?時間早いからフラフラしてんの?」
女子の声に反応して振り返る俺達。
「「……あれ?」」
俺と女子の声がシンクロした。
「緒方じゃんか。大沢も。何してんのこんな所で?」
「お前こそ何してんだ?ひょっとして、矢代達のコンパの相手か?」
ヒロの問いに頷く女子。
「そうは言っても私は人数合わせで来たんだけどね」
その女子と話しているヒロに疑問をぶつける矢代。
「知り合いか?まあ、同じ白浜だし、オナ中?」
「おお、つい最近偶然会って話したばっかだ。なあ、児島」
その人は児島いつきさん。霊感がある、ちょっとギャルが入っている海浜の女子だ。
「そうそう。つか、矢代達と友達なの?」
「おう。知り合ったのはこいつが先だけどな」
そう、俺に指を差す。それ失礼だからやめろと、何度言えば解るんだ。
「んん?東工生じゃない人がいる」
国枝君と大雅を交互に見る。興味深げに。
「ああ、こいつは同じ白浜の国枝。こっちのぼさぼさ頭は南海の大雅」
やはり指を差して紹介しやがった。失礼だっつってんだろ。
しかし国枝君も大雅も、基本的に穏やかな人達なので、文句は言わずに、静かに辞儀をする。
「隣町からわざわざコンパに来たの?」
「違うよ。朝から大沢に呼ばれてきたんだよ。此処に来たのは、やっぱり大沢が焼き肉食いたいからと強引に……」
何となく納得した感じだった。ヒロならあり得ると。
「ま、まあ、俺達は帰るから、児島さん達は楽しんで」
「帰っちゃうの?コンパに混ざればいいじゃん?」
いやいやいやいや!!そんなのに混ざったと知られたら命が無い!!
「無茶言うな。俺達は全員彼女持ちなんだよ」
ヒロの言葉に全員頷く。果てしなく何度も。勿論東工生は除く。
「緒方の彼女は俺も知ってっけど、アレに匹敵する女、そうそういないから、緒方って浮気もしなさそうだよな」
矢代!!人の彼女をアレとか言うなよ!!褒められたのは何となく解るけど!!
此処で時間も時間だと言う事で矢代達を解れた。
その前に児島さんにとっ捕まる俺達。
「なんか嫌な事起こりそうだから、気を付けて」
「……佐伯関係か?」
「そこまでは解んないけど、須藤の嫌な気配感じたから」
無言で頷く俺達。別れた矢代達を見送った後、バイクに跨った。
そして俺を先頭に走った。着いた先は第三倉庫前。
「ここは何処だ緒方君?」
ヘルメットを脱いで質問してきた大雅に答える。
「ここで佐伯を殺しそうになったんだ」
「槙原に乱暴しようとした所か。なんでここに来た?」
ヒロの質問である。なんでって事は無いけど……
「なんとなく。佐伯も朋美関係で俺にぶち砕かれたからか?さっき児島さんが言っただろ。嫌な気配って」
「佐伯さん、本当になんで戻ってきたんだろうね?」
国枝君の疑問はみんなの疑問。その疑問を解消するにはだ……
スマホを出してコールする。
数コール後に出た、おどおどしたような声。
『お、緒方君か……な、何だい?』
「おう武蔵野先輩、久し振りだな。佐伯の野郎、この頃白浜に来ているらしいじゃねーか?なんか情報ねーかな?」
訊ねたら全員息を殺して耳を傾けた。武蔵野に連絡するとは思っちゃいなかったようだった。
『う、うん、そうみたいだね。俺には連絡は無いけど』
「なんで連絡がないのに、こっちに来ているって知ってんだ?嘘言ったら解ってんだろうな?」
俺相手に下手な事は言えない。嘘だと知った瞬間ぶち砕き確定なのだ。
『き、聞いたからだよ』
「誰に?」
『と、東工に行った奴にだよ。ゴールデンウィークに入る前に、何度か東白浜で見たって……』
此処でヒロが肩を叩いて振り向かせた。
「誰から聞いたか聞け」
頷いて訊ねた。
『う、宇梶だよ。同じ学区だから、緒方君も顔くらい知っていると思うけど……』
「おいヒロ、宇梶って奴知ってっか?」
「おう。家も知っている。他に誰か知ってっか聞け」
頷いて更に問うた。
「その話、宇梶以外は誰が知っている?」
『そこまでは解らないな……何なら宇梶に聞いてみるかい?折り返しするけど……』
どうする?とヒロを見ると頷いた。
「じゃあ頼む。直ぐ返事くれ。捕まらなかったら捕まらないでいいから」
『わ、解った』
ここで一旦通話終了。後は武蔵野からの連絡待ちだ。
「ヒロ、宇梶って奴、俺はぶち砕いたか?」
「おう。友坂とおんなじくらいはな」
じゃあ宇梶以外の奴もそうなんじゃないのか?
「そりゃそうだろ。白浜のいっこ上、殆どやっちまったんだぞ」
「こっちの俺はそこまでだったのかよ。俺ですら見境なくぶち砕かなかったぞ……」
げんなりして言うと、違うと。
「いっこ上の殆どが憂さ晴らしで殴っていた、もしくは嫌がらせをしていたんだ。漏れなく仕返ししたらそうなる」
「なんでそこまで虐められてんの俺!?」
ビックリだった。朋美がお金を出したとしても、そこまでの金額を払ったのか!?結構な金額になるだろうに!?
「だってお前の事知らねえ奴なんかいなかったんだから。佐伯達に虐められているお前の事を。だったら便乗で殴ったり嫌がらせしたりするだろ。暇つぶし程度の事で」
ああ……俺の時も似たような事、沢山あったからな。こっちはいっこ上殆ど加担していたってだけか……
「しかし、普通の生徒はどうなんだ?」
大雅の質問である。此処で言う普通とは、虐めをしない輩の事だろう。
「手を出してなかったら何もしねえよ。だけど勉強のストレスで嫌がらせしていたいっこ上はいたな。入試の時入院させたから地元の学校には行かないで他県に移った筈だけどな」
「誰が入院させたんだ?大沢か?」
「馬鹿言うな。隆に決まってんだろ。アレだって俺や日向が止めなきゃ殺していたよ。喧嘩も出来無さそうなひ弱な奴だったし、だから隆で憂さ晴らし押していたんだし。自分より弱そうだって理由で」
糞中の糞じゃねーかよ。だったら殺してもいだろうに。なんて無粋な真似するんだこいつと麻美は?
と、俺の携帯に着信。勿論武蔵野からだ。
「もしも」
もしもし言う前にヒロにかっさわれた。
「おう武蔵野。俺だ。声聞きゃ解るだろ?」
『お、大沢か?緒方君とつるむって言ったらお前しかいないから……』
「あ?お前とか言ったか今?」
『あ、ご、ごめん……』
そんな事で凄むこいつも大概だが、謝るなよな。自分より弱い奴にならイケイケなくせに。ホント糞デブはムカつくな。
「まあいい。で、宇梶の他は?」
『し、知らないけど、あの件以来、渓谷に行ったって聞いた事があるって……』
「お前、以前佐伯から誘われたらしいよな?連山で営業するとか何とか」
『も、勿論断ったし、緒方君にもそう話したけど』
「だったら佐伯は連山に居るんじゃねえのかって言いたいんだよ。察しろよデブ」
口悪いなぁ……武蔵野相手なら別にいいかと思うけどもさ。
『れ、連山にいたのは知っていたけど、いつ戻って来たかまでは……』
チッと舌打ちするヒロ。使えねえなデブとか呟いても居た。
「お前の言葉を信じると、佐伯は連山に隠れていたが、渓谷に移った。いつ移ったのかは知らねえ。宇梶もただ目撃しただけだ。そうだな?」
『う、うん……宇梶が嘘をついている可能性も勿論あるけど、そうだな……』
「お前は付いてねえのか?嘘を」
『ば、ばれた時、俺は確実に死んじゃうだろ。今は緒方君や大沢だけじゃないんだ。西高、黒潮、南海……命がいくつあっても足りないよ……』
その通りだな。俺やヒロのアタックをどうにか逃れたとして、西高、黒潮、南海からは逃れられん。数も数だし。
「よし、解った。またなんかあったら連絡するからな、隆が」
俺がかよ。まあ、お前は連絡先知らねーからそうなるんだろうけど。
ともあれ、ヒロが電話を突っ返してきた。受け取ると既に通話が切れていた。
こいつ、挨拶も無しに電話切ったのか?失礼過ぎんだろ。武蔵野相手だからいいやとか思っちゃう俺も俺だけど。
「……さて、どうする?河内に調べて貰うか?渓谷にも連合はいるんだろう?」
大雅の問いに、躊躇しながらも首を横に振った。
「河内は黒潮のトップだけど、連合には属していないからな。それに、的場が引退した今、内部がどうなっているか全く解らんから……」
「信用できそうにない、って事かい?」
国枝君の言う通り。連合は的場ありき。その的場が引退したんだから、跡目争いとか起こっている可能性も充分ある。
「……東白浜に居るのは解ってんだ。あいつが電車で来たのか、バイクで来たのかは解んねえけど、移動手段はあるだろ。駅を張るか?」
「駅なら東工生がとっくに張っていると思うぞ。あの糞は東工生にかなり怨まれてんだから、居なくなった後でも捜していた奴、結構いたし」
「その前に、佐伯を見付けてどうするんだ?」
大雅の素朴な疑問。そんなの決まっている。
「ぶち砕くに決まってんだろ」
「わざわざ捜してまで?」
いや、佐伯は殺す対象だし。そう考えるのは自然じゃねーの?
「こいつの与太話は兎も角、須藤と繋がっている可能性があるんだ。その須藤から何か指示を受けているかもしんねえ」
ヒロが呆れながら訂正するが……いやいや、そもそも与太話じゃねーから。ホントにそうする予定だし。
「繋がっていようが何だろうがどうでもいい。わざわざ戻って来たって事は、何か企んでいるって事だろ。ぶち砕く理由はそれで充分だ」
結局はこうなるんだからいいんだよ、何でも。
「だから、それを聞く為に捜そうって事だろうが。少しは頭使え馬鹿」
馬鹿に馬鹿と言われるこの屈辱。本気で心が折れそうだ。
「だけど、見たのは今朝だよ?どこかに隠れているにしても、動くのは人目に付きにくい夜になるんじゃないかな?」
流石国枝君だ、頭いい。その通りだ。
「じゃあ夜まで待とう」
「俺は付き合ってもいいけど、国枝は……」
「僕もいいけど。だけど荒事になっても役に立てないよ」
「俺も隆も大雅も居るんだ。荒事になる前に降参すんだろ」
全員東白浜に残ると。じゃあ、とスマホを取り出した。
『はいはーい。お休みなのに誘ってくれないから少しふてくされていたんだけど、連絡くれたから許すよー』
電話向こうで能天気な声。愛する彼女さん、遥香だった。
「今東白浜に来ているんだけどさ、今日帰るかどうか解んないから」
『はあ!?唐突にそんな事言われても、何が何だかなんだけど!?』
確かにそうだ、なので、あれこれそうよと事情を説明する。
『……東白浜で佐伯さんの目撃情報か……確かに、白浜中に狙われていると言っても過言じゃない佐伯さんが、わざわざ戻って来た理由は気になるよね……』
「俺としちゃ、普通にぶち砕いてもいいと思うけどな」
『ダーリンの普通は普通じゃないから……でも、そうなると、大沢君達が一緒なのは有り難いよね。例え大沢君が強引に誘ったから仕入れられた情報だとしても』
微妙にディスっているな、ヒロを。ヒロが誘わなかったら俺と遊べたのにって恨み節だコレ。
「まあ、そんな訳だから、収穫なければ、今日は生駒の家にでも泊めて貰うよ」
『うん、解った。じゃあ大雅君に代わって』
何故大雅?首を捻りながらも大雅にスマホを渡した。大雅も首を捻りながらも受け取った。
「もしもし?ああ、うん、そう言う事になったから……え?ああ、うん。それは勿論……」
なんか話ているが、内容が聞こえん。大雅も今更って顔しているし。
「緒方君、スマホ」
おっと、スマホを返されたぜ。まだ通話途中だし。
「もしもし」
『じゃあダーリン、気を付けてね。単独行動は駄目だからね』
「え?佐伯の糞程度、一人でかち会ったとしても、余裕で……」
『じゃなくて。一人の時、佐伯さんを捕まえたら、殺しちゃうかもでしょ?』
ああ、そっちか。そっちの方は確かに自信がないなぁ……
『一応大雅君にも頼んて置いたけど、見付けたとしても程々にね』
ああ、大雅に話していたのはそれ……
「俺は自信が全く無いが、大雅に頼んだのなら問題無いだろ」
『素直すぎるのもどうかと思うよ……』
呆れられたが、実際そうなんだから仕方がない。
『まあ、不安だけど、仕方が無いか……一応木村君と河内君にも言っておくね』
「なんであいつ等に?」
俺を止めると言うのなら、わざわざ東白浜に来なきゃいけないだろ?
『じゃなくて。白浜にも来ているかもでしょ。渓谷は黒潮の隣だし』
ああ、網を広げるって事か。納得だ。
『じゃあ明日、話聞かせてね。朝一番でお邪魔するから』
これは、始発の時間には帰って来いって意味だな。二日もほったらかしにするなと。
「解った。遅くても10時には帰る」
『もっと早く帰って来てもいいんじゃないかな……』
だって朝飯も食いたいし。ヒロの馬鹿は遅いしで。
「まあまあ、じゃあ明日な」
『うん。待っているからね。無茶は駄目だよ。ちゅっ』
そう言って電話が切られた。だから最後の可愛過ぎるっつってんだろ。
じゃ、今度は生駒にメール。手が空いたら電話くれって内容で。
そしたら直ぐに電話来た!
「も、もしもし?バイト途中じゃ無かったのか?」
逆に心配して訊ねた。
『丁度休憩だったから。で、何?時間がないから手短で頼む』
休憩中とはいえバイト中。あんま時間は取らせられないか。
「今日お前の家に泊めてくれない?」
『いきなりだな。槙原さんと喧嘩でもしたのか?』
違うよ!!つうか喧嘩したらなんで白浜から逃げなきゃいけねーんだ!!
「違う!!実は佐伯がだな……」
矢代の情報をあれこれそうよと。生駒、ふーん、と、実に興味ない返事。
『いいけど、四人?』
「うん」
『だったら来る時にバイクは他の駐車場探して停めてくれ。ウチのアパート、駐車場が少ないから。四台も停められないから』
そう言われても、土地勘がないから駐車場なんか探せない。
そう泣き言を漏らした。お前どうにかしてくれと。
『う~ん……俺のアパートの近くに大型スーパーがあるのは知ってる?』
「多分……向かえば見えるんだろ?」
『うん。そこの地下駐車場に停めて……』
その旨を伝えると、大雅も国枝君も不安顔を拵えた。
「盗難に遭いそうだよな」
「僕や大沢君のバイクは兎も角、緒方君と大雅君のバイクは目立つからね」
「盗難に遭いそうだから嫌だって」
『お前達のバイクは誰も盗まないと思うけど……あ、いや、大雅と大沢のは知らないから可能性があるか……』
俺のは有名だからな。元的場のセカンドカーで、現在の持ち主がアレだから。
『じゃあアパートの裏にちょっとしたスペースがあるから、そこに。だけど、雨降ったら野ざらしになるからな?』
雨の天気じゃないから、それでいい。佐伯が見つかったら血の雨が降るだろうけど。
「それでいいよ。スーパーの地下駐車場に比べたら、安心感が違う」
俺のバイクだって言って悪戯されかねんしな。悪名は恨みも買いやすいから。
『解った。じゃあ夜の9時過ぎならいつ来てもいいから』
「おう、じゃあ頼むな」
そう言って電話を終えた。宿と駐車場、確保だぜ!!
「終わったか。じゃあ行動だ。佐伯が行きそうなところ、捜せ」
なんでこいつが仕切ってんの?お前は心当たりがないの?
「大沢君は心当たりはないのかい?」
国枝君が疑問を呈する。お前は知らねえのかよって感じで。
「知る訳ねえだろ」
「じゃあ僕達はもっと知らないんじゃないかな……」
その通りだ。大雅に至っては顔も知らないんだぞ。それでも捜せと言うかお前は?
「先ずは駅だろ。そこで張ろう」
大雅の提案に頷く俺。
「張るのは暇じゃねえか。行動した方がやっている感があっていいだろ」
また糞くだらねー我儘かよ……げんなりする俺と大雅と国枝君。
「じゃあ……俺佐伯の顔知らないんだから、緒方君と一緒に駅を張る。大沢と国枝は行動する、でいいか?」
「だから、俺も知らねえっつってんだろ。何処を捜せばいいんだよ」
「えーっと、パチンコ屋とか?」
糞が行きそうな所か。それならアホみたいに心当たりがある。
「それなら心当たりはありまくりだ。中学の頃、そんな所ばっか捜しまくっていたからな」
なんかドヤ顔でそう言うが、それって俺に付き合ったって事だよな?だったらドヤ顔されても困るんだけど。
「じゃあそれでいいよな。待ち合わせ時間決めるか」
大雅、面倒がって早々に決めたいらしい。何となく適当な感じがしたからそう思った。
「じゃあ……えっと、6時?」
何で6時?2時間ちょいしか時間ねーぞ?」
「いや、晩飯食わなきゃいけないから」
「「「大沢(君)一人で捜せよ!!」」」
流石に全員突っ込んだ。待ち合わせ時間が晩飯の心配とか!!こいつ本当にやる気があるのか!?
「だって晩飯は必要だろうが?ちゃんと一服もしたいし」
「だったら各々適当に済ませて、9時過ぎに生駒のアパートで待ち合わせればいいだろが!!俺とお前はアパートの場所知ってんだから!!」
そうすりゃ張る時間も捜す時間も多く取れるだろ!!食休みにちゃんと1時間使おうとすんなよ!!
「そうすっか。それでいいか国枝?」
「僕は異論はないと言うか、そっちの方が効率がいいと言うか……」
国枝君も突っ込んだ側だからな。そう思っていたんだろうし、昼飯も遅かったからお腹もあんま空いていないんだろう。
んじゃまあ、と、ばらけた。俺と大雅は駅を張る為に向かう。
駅について缶コーヒーを買ってベンチに座った。
「緒方君は本当にコーヒーばっかりなんだな。焼肉屋でもそうだったし」
「お前だってお茶ばっかじゃねーかよ。焼肉屋でもそうだっただろ」
人の事は言えまい。つか、みんな大体同じもの飲んでいるだろ。ヒロは殆どコーラだし。国枝君くらいじゃねーかな?変えるのは。
「で、佐伯は駅に来ると思うか?」
「……多分来ない。来るとしたら人がいなくなった終電辺り」
白浜の殆どが敵なんだから、そもその東白浜に来る事がおかしいんだ。
渓谷でひっそり日陰者で過ごせばいい話し。何なら遠い他県に行った方がいい。
「俺もそう思う。じゃあ、本題だ。何故東白浜に来た?」
「それは……解んねーな……もちろん事情があるんだろうけど……」
その事情が解らん。取るに足りん理由かもしれないが。
「じゃあ次だ。女子と少し話しただろ?その時須藤の嫌な気配を感じたと言ったよな。嫌な予感がするから気を付けてと」
頷いた。俺もそう聞いたから。
「佐伯と須藤は直接ではないが繋がっていた。そうだよな?」
「うん。サイトの情報と須藤真澄を介して……」
「それはどうでもいいんだ。須藤が佐伯を利用していた。利用している事実が重要だから」
それもその通りなので頷く。いいように踊らされてあの様だ。まったく同情はしないし、寧ろ引導を渡したいくらいだ。
「じゃあ須藤に利用されて、もしくは操られて東白浜に来た、と言うのはどうだろう?」
う~ん……朋美が東白浜に何の用事があるのかが問題だな。
楠木さんを薬漬けにする計画の一端が佐伯だった。それを潰した訳だから、東白浜に拘る理由は無いだろう。
「お前はなんか心当たりがあるのか?」
「心当たりと言うか、理由はさっき気が付いた」
「その理由は?」
「生駒だよ。生駒は須藤を倒したんだろう?やられっぱなしで大人しくしているような奴か、須藤は?」
「……佐伯を使って生駒を殺そうって言うのか?」
大雅は頷いた。すんごい真面目な顔を拵えて。
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