黄金週間~003

「俺も幽霊だけど須藤を見た。アレはなんて言うか……狂気しか感じない。幽霊だから尚更そう思うのかもしれないけど……」

「生身でも充分狂人だぞあいつ」

 それが生霊になったから尚更だってのはそうだと思うけど。しかし、生駒へのリベンジか……

「つっても、佐伯如きが生駒を倒せる筈ないだろ」

 心底そう思う。あんな糞雑魚が生駒をどうにかできるとは、とても思えない。

「佐伯も生駒のアパートは知っているだろう。寝こみを襲うとか考えられないか?」

 成程、不意打ちには充分な対処が出来ない。有り得るか?

「緒方君の話じゃ、佐伯って奴は人が死んでもなんとも思わない奴なんだろう?前回?過去?そうだったどか」

 おいおい……ひょっとして、生駒を殺すつもりだとか言わないだろうな?佐伯の糞は人を殺す程の度胸は無いぞ。麻美の時は、罪の意識が全く無かったって話なんだから。

 しかし、ちょっと待て。

「佐伯が東白浜に来たのは今朝のようだけど、それ以前は来なかったのか?」

 来ていたら寝こみを襲う隙なんか沢山あった筈だろ。なんで今まで何もしてこない?

「今日始発で初めて来たかもしれないだろう」

 その線も充分にあり得るが、俺達が来る日にかち合ったとか、タイミングが良すぎねーか?

 その旨を伝えると、そうでもないと。

「日向さんがそう仕組んだかもしれないだろ。大沢に我儘を言わせるように仕組む事だって可能だろ、彼女なら」

「悪霊のスキルの話か?あれはそんなに便利なモンじゃない。牽制程度が関の山だって麻美も言っていたし」

「それが本当の話ならな」

 ……成程、麻美が偽っている可能性もあるって事か。

 詳しくは修旅が終わった後で聞かせる。男子間だけなら話してもいいとの事だったけど、今思えば制約ありまくりなんだよな。

 なにより遥香に頼れないのがきついんだよな。俺の質問も答えられない方が多いから、木村も仮説しか出せねえじゃねえかと零していたし。

 だけど、それを納得したんだから文句は言えない。言いたいけど。

「大雅の仮説が正解だとして、俺達が東白浜に来たのが麻美の仕業だとして、だったら尚更いい事だろ。生駒も守れるし、佐伯も殺せるから」

「そう言われればそうだけど、佐伯は殺せないからな。俺達がいるんだし」

 それも麻美が仕組んだ事になるんだろう。俺だけなら100パーセント殺しちゃうから。どっちにしても仮説止まりなんだけど。

 

 黙々を駅を張る。すんごい暇だったが、頑張って頑張って張った。

 そして時間は9時過ぎた。

「待ち合わせ時間になったな。生駒の家に行こうか」

「そうだな。大沢の方はどうだったのかな」

 多分収穫無しだろう。いずれにしてもだ。

「大雅の仮説が正しかったら、夜に生駒の家に来る、もしくは周辺に現れるんだろ」

「俺は確実にそうなると思うけどな」

 なんか凄い自信だが、根拠があるのか?

「……以前須藤を見た。だから何となく解る」

「それが根拠?」

「根拠と言うか、勘?佐伯が須藤に相変わらず踊らされているのならそうなると思う」

 勘でそこまで読んじゃうの!?

「お前って霊感あるのか?」

「ないよ。だから、須藤を見たって言っただろう。波長が合ったと言うか……」

 ああ、稀にあるんだよ、そう言う事が。縁もゆかりも無い人何に、波長が合うとかな。

「だけど、お前と朋美は真逆だぞ?性格とか」

「俺も一時期荒れた時期があったからな。今の俺と前の俺は違うよ」

 荒れた時期がどれ程イケイケなのかは知らねーけど、流石にあそこまで狂人じゃないだろ。猪原の甘々が移るくらいなんだから。

 ともあれ生駒のアパートに着いた。一応周辺も気にしたが、今のところ何もなし。

「灯りが点いてないな。まだ帰って来ていないのか?」

「9時過ぎって言っていたし、まだ帰っていなくても不思議じゃないだろ。まずはアパートの裏手に行こう。バイク置かなきゃ」

 それもそうだと裏手に回る。ちょっとしたスペースって言うか、人ひとり通れる程度の道があった。

「生駒の部屋はこの辺だな。一応生駒の部屋付近に置かせて貰おう」

「他の住人が使っている可能性もあるからな」

 多分ないとは思うけど、一応そうしよう。

 バイクを置いて面に回る。ヒロも国枝君もまだ来ていない。

「あいつ遅いな。まさか晩飯食っているとかねーだろうな」

「国枝も居るからそれは無いんじゃないか?」

 解らんぞ?あいつのごり押しに耐えられずって線もあり得る。

 フォン。と、控えめな排気音。生駒が帰って来た。

「待ったか?」

 ヘルメットを脱いで。

「いや、今来た所。バイク、裏手に置いたから。一応お前の部屋の辺りに」

「そうか、助かる。何もないと思うけど、トラブルになりそうな事は避けたいからな」

 配慮は必要だって事だ。無用なトラブルは避けたいしな。

「大沢と国枝は?」

「まだ来てない。待ち合わせ場所、このアパートにしたんだ」

 俺達は駅で、ヒロ達は糞が行きそうなところとバラけた旨を伝える。

「そうか。だけど大沢の行動も無駄になるよな」

「なんで?捜す事は無駄じゃないだろ?」

「そうだけど、そう言う所って東工生も行くだろ」

 あ、と思った。結局『そう言う所』は東工の糞も行く。佐伯は東工、つうか白浜中から敵認定されているから、見つかったら捕まる。

 だったら行かないよな。むざむざ捕まるような真似はしないか。

「そうなると困ったな。みんな集まるって言うから食材を買って来たんだけど」

 エコバックを持って見せた。中身は肉とか白菜とか白滝とか。

「すき焼き?」

「うん。高い肉じゃないけど、そこは許してくれ」

「大沢くらいだろ、そこに文句言うのは」

 ははは、と笑い合う。ヒロは実に言いそうだから、違和感も全く無かったし。

「まあ、入れよ。すき焼き作っている間に来るだろ」

 促されてアパートに入った。なんとな~く楠木さんの香りがしたが、ひょっとそて昨日来たんじゃねーか?いや、彼女だから当たり前だけど。

「できるまでこれ飲んでて」

 出されたのはいろはす。みかんと桃だ。

「大雅、どっちがいい?」

「う~ん……桃」

 じゃあ、と桃を渡してみかんのキャップを捻った。

「一応メールでもしておくか?生駒のアパートにいるって」

「そうだな。大沢だけじゃ無く、国枝にもそう伝えよう」

 頷いてピコピコと。二人に同じ内容にメールを送る。

 あとはマッタリしてあいつ等が来るのを待つだけだ。

 と、メールの着信音。国枝君が返してきた。

「なになに……大沢君の単行本が無くなったから探している最中……あいつ本当に足しかひっぱらねーよな!!」

 つか、なんで東白浜で買うんだよ!!地元の本屋でも売ってんだろ!!

「……先に晩飯食べるからって伝えた方が良くないか?いつ帰って来るか解らないんだし……」

 流石の大雅もげんなりしてそう進言した。

 頷いてそう返信する。ヒロなんかほっといてこっちに来れば?と付け加えて。

「えっと……生駒君のアパートの場所解らないし、流石にほっといて帰るのも、だってよ」

「まあ、国枝らしいよ。俺なら次からは大沢と行動しないようにするけど、国枝はその辺どうなんだろうな」

 国枝君は優しいから、一度や二度のヘマは許すだろうけど、流石に後悔はしているだろうな。ヒロと行動を共にした事を。

「おまちどお」

 ホッカホカのすき焼きと共に、生駒が登場。実に美味そうだ。早く食いたい。

「大沢と国枝はまだ来ていないのか?」

 頷いて、あれこれそうよと。生駒、実におかしな表情を拵えた。何やってんの?ってな感じの。

「じ、じゃあ、まあ、あいつ等の分は残しておくか……」

 そう言って食材を仕分けた。国枝君は兎も角、ヒロの分なんか無視して構わないのに。

 生卵とご飯を貰い、戴きますと肉を摘まむ。

「旨い。割り下はもしかして自作か?」

「ああ、うん。市販品のでも別にいいかと思ったけど、折角だからな」

 いやいや、こっちの方が断然うまい。生駒って料理上手だな。結構羨ましいかも。

「そう言えば生駒はラーメン屋でアルバイトをしているんだったよな。ひょっとして厨房に入っているのか?」

 大雅の質問に答える生駒。

「それは調理しているかって意味か?だったらそうだとも言えるし、違うとも言えるな。スープは流石に任せて貰えないし、ご飯も研がせて貰えないけど、ギョーザは焼かせて貰っているから」

「ギョーサの餡は任せて貰っているって事か?」

「レシピ通りに作ればそんなに難しくは無いからな。だけど、焼く前にチェックは入るよ、当たり前だけど」

 所詮バイトにそこまで責任を負わせないか。だけど餡作りまで任されているって事は当てにされているって事だ。生駒が真面目に仕事に取り組んでいたからの結果だ。

 そう言や生駒って店長にずいぶん良くして貰っているんだったよな。それも真面目に頑張っているからだろう。

 すき焼きが半分くらいになった頃、ピンポンと呼び鈴が鳴った。

 生駒が玄関ドアを開けると、疲れ切った国枝君の姿が。

「ど、どうした国枝?そんなに疲れたような顔をして?大沢はどうした?」

 ヒロは来ていない様子。つかあいつ、国枝君一人で向かわせたのかよ?アパート知らねえっつってんだろ!!

「……大沢君はまだ単行本を探しているよ……待たせるのもなんだからって僕だけ向かわされたんだ……」

 酷くげんなりしてそう言った。

「え?だって国枝、俺のアパート知らないだろ?」

「大体の場所とアパートの特徴だけ知られてくれて……あとは表札を確認しろ、だって……」

「そ、そうか……大変だったな……まあ入れよ」

「うん……」

 すんごいトボトボ入って来た。俺は早速横に座らせた。

「あの馬鹿野郎は俺が責任もってとっちめてやるから」

「いや、そんな物騒な事は……」

 物騒云々じゃない、単に常識の問題だ。

「腹減っているだろ?タマゴとご飯だ。締めにうどんも買ってあるからそっちがいいか?」

 生駒も妙に気を遣っている。

「いや、大丈夫……」

 逆に国枝君が恐縮した。遠慮しないでうどん食ったらいいのに。

 国枝君はお腹減ったよりも疲労が先に来たようで、なかなか箸が進まない。

「国枝、いろはす何がいい?梨とみかんと桃」

「え?なんでもいいよ?あ、だけど冷えている方がいいかな」

 頷いて全部国枝君の前に並べた。

「全部冷えているから」

「あ、ありがとう……」

 気の遣い方がイマイチ的外れだが、これも生駒の優しさだ。

「しかし、大沢ってこんなだったっけ?もっと友情に熱い奴だと思っていたけど……」

「大雅の言う通りだ。少なくとも国枝一人でアパート探して行けと言う奴じゃないかったよな」

 そう言われればそうか……?こんな無茶苦茶な事をするヤツ……だったな。

「単行本買ったばかりのだから仕方ないよ、数も数だし」

「これで本当に無くしたら哀れだよな。多分誰も同情しないと思うけど」

 大雅の言葉に全員頷いた。自業自得だと。

「でも、ちょっと変なんだよね。ほら、僕達は色々な場所を佐伯さん捜しに行ったじゃないか?そのうち一つが地元のスーパーなんだけど、そこには本を探しに行かなかったんだよね」

「今から行こうって事なんじゃないのか?」

「うん……その時はそう思ったんだけど……」

 何か引っかかっている様子の国枝君。考え込んでしまった。

 まあいいだろ。なんかあったら連絡が来るだろ、多分。

「国枝君、肉丁度いいよ」

「あ、うん、ありがとう」

 もそもそと肉を食う。本当に食欲があまりないようで、無理して食べているって印象だ。

「国枝、ご飯のお代わりは?沢山炊いたから」

「う、うん、大丈夫」

 生駒も気を遣っているのが丸解りだった。国枝君、それを知ってか、やっぱり恐縮する。

「生駒、そろそろうどんやらないか?うどんなら食べられるだろ?」

「え?いや、大丈夫……」

 やはり大雅も気を遣った。疲れきっているのが丸解かりだったからだ。

「そうだな、新しく食材を入れるのもなんだ、うどんでシメようか」

 それに賛成する俺。うどんなら食欲が無くても食べられるってもんだ。

 大丈夫を連呼する国枝君だが、決まっちゃったもんは仕方がない。俺達は早速うどんを投入。

「まだ大沢君が来ていないのに……」

「大沢の分も残してあるから大丈夫だよ」

「そもそも大沢は食べ放題のダメージが抜けていないんじゃないか?逆にうどんの方が有り難いかも」

 食べ放題で無理して食ったヒロだから、そうかもな。そもそも晩飯もいらんかもしれない。

「まあ、ヒロの事は気にすんな。文句言ってきたらぶち砕いてやるから」

「それは問題ありまくりじゃないかな……」

 いいんだよ、冗談だから。冗談じゃなくても所詮じゃれ合いの域から出ないんだから。

 ともあれ、うどんを堪能する。国枝君も頑張ってうどんに食らいついた。

「ふぃー……食ったな……腹一杯だ……」

 マジ食べ過ぎて起き上がるのも億劫な程だった。最後のうどんいらなかったな……

「はは、綺麗に食べてくれて、作った甲斐があったってもんだよ」

 生駒もご満悦だった。美味かったのは事実だから、食い過ぎた。

「ホント美味かったよ、生駒って料理上手なんだな」

 大雅も感心して唸っている。

「上手って言うか、毎日何かしら調理しているからな。だけど美咲の方がやっぱり美味いよ。大橋さんはその辺どうなんだ?中華料理屋だろ?」

「中華料理屋の娘、だよ。さゆもまあ、そこそこには。槙原さんも料理上手だって聞いたけど?」

 俺に振られちゃったぜ。まあ、答えるけど。

「超特訓とやらの成果はバッチシ出ている」

「超特訓!?猛特訓じゃなく!?」

 超特訓だよ、自分でそう言っていたんだから。

 この話題にも弱弱しく笑ってばかりで全く乗って来ない国枝君。相当のダメージを負ったようだな。

「生駒、布団って何組あるんだ?」

「あ、そうだよな。予備の一組しかないや。毛布なら結構あるけど」

 充分だ。国枝君を寝かせる布団があれば。

「国枝君、先に風呂借りて入れよ?」

「そうだな。片付けは俺達がやっとくから。いいだろ生駒」

「ああ、そうして。じゃ、緒方と大雅、頼む。国枝、風呂はこっちだ」

「ち、ちょっと待ってくれないか?僕だけそんな……」

「いいんだってば、緒方も大雅もそう言ってただろ。今タオル出すから」

 生駒も国枝君の疲労具合が解ったのだろう、素直に風呂に案内する。

 つうか顔色も若干悪いんだ。誰だって気が付くだろ。

 国枝君、かなり頑張って拒否していたが、俺達が片付けたり食器洗っていたりしたのを見て、諦めて風呂に入った。

「大沢も国枝の半分でいいから、謙虚になって欲しいよな」

「あのアホに何を言っても無駄だ」

 波崎さんにチクたらあるいは、だろうが、流石にそれは可哀想だからやらん。もしそれが原因で振られたら流石に後味が悪すぎるし。

 俺達が片付けている間に布団を敷く生駒。

「緒方達は悪いけど、毛布でいいよな?」

 いいも何も。国枝君が疲れてんだから布団敷こうって事だったんだし。

「それでいい。なあ大雅」

「ああ、国枝、なんか顔色も悪かったからな。疲労だけじゃなく体調も悪いんじゃないか?」

「飯もあんまり食べなかったしな。昼もそうだったか?」

 いや、食べ放題は普通に食っていたけどな。やっぱヒロが無理やり引っ掻き回したからじゃねえの?

「寝たら直るだろ、多分。疲れてんだよ、アホのせいで」

「う~ん……それ以外にも理由がありそうな気がするんだけどなぁ……」

 腕を組んで考え込む生駒。だったら普通に具合が悪いとかじゃないか?

「国枝だって体調不良で薬が欲しいなら言うだろ。それまでは何も出来ないよ」

 大雅の言う通り、俺達が勝手に頭痛薬とかやっても仕方がない事だ。ひょっとしたら腹痛かもしれないのに意味ねえだろってヤツ。

「まあ、そうだけど……う~ん……」

 なんだ?なんか引っかかるのか?生駒も結構鋭そうだから、ちょっとした変化に敏感なのかもしれない。

 ともあれ、風呂から上がった国枝君を殆ど無理やり布団に追いやった。

 そしたらすぐに寝息を立てた。やっぱ疲れていたんだな。

「次は緒方、入れよ」

「あ、うん。じゃあそうさせて貰おうかな」

 お言葉に甘えて風呂に行く。上がったら大雅にチェンジして、最後に生駒が入った。

 全員風呂から出ると、結構な時間。しかしヒロは来ない。

「流石におかしいな。メールしても返事も無いし……」

「大沢にライン送ったんだけど、既読もないんだよな……」

 大雅もおかしいと感じ始めたようだ。ライン送ったみたいだし。

「……ちょっと捜してくるか」

 生駒の提案に頷く。

 と、ほぼ同時に国枝君が飛び起きた。布団から上半身を、ビョーンと。

 流石に吃驚した俺達。それ以上に驚いたのが、真っ青な顔色と大量の汗だった。

「だ、大丈夫か国枝君?凄い顔色悪いけど……」

「頭痛か?薬やろうか?」

 俺達の言葉に首を横に振る。

「………来た……そうか……そう言う事か………」

 何か譫言のように言い始めた。いよいよ本気で心配した。

 国枝君、着替えはじめた。借りたジャージから自分の服に。

「ど、どうした国枝?帰るのか?じゃあ俺も付き合うから……」

 心配してそう言った大雅に首を振っての否定。

「大雅君。緒方君も生駒君も着替えて。外に出よう」

「え?いいいけど、ヒロを捜すのか?だったら俺達だけでいいから……」

「そうだな。その顔色は本気でマズイ。大人しく休んでろ」

「違う、来たんだ。大沢君がこれを狙っていたのかは解らないけど……」

「誰が来たんだ?」

 大雅の疑問はみんなの疑問。誰が来たのかさっぱり解んない。なんか妙に焦っている様にしか見えない。

「……須藤さんと佐伯さんだよ」

 ぎちっと俺の拳が握り固められた。しかし、疑問が先に立つ。

「……ヒロが来ない事とそいつ等が来たの、何か関係があるのか?」

「……うん…多分だけど、大沢君は佐伯さんが来る所を知っていたか、もしくは読んでいたんだと思う。だから待ち伏せしたんだ……単行本も無くした振りをして、僕を遠ざけたんだ。被害に遭わないように……」

「……どこに来た?」

「生駒君のアパートに向かう通路に、ちょっとした公園があっただろう?大沢君はそこにいる、佐伯さんが生駒君を狙うだろうことを読んで、張っていたんだ……」

 顔を見せ合った俺と大雅。それって、大雅の仮説と同じ……

 全員速攻で着替えて件の公園に向かった。

「うわ?」

 大雅が何かに躓いて転びそうになった。

「段差?公園に?って!?」

 それは血まみれで転がっている佐伯。これに躓いたのかよ……

「大沢君は!?」

「……いた、あそこだ!!」

 大雅の指差した先は滑り台付近。そこにヒロがオーソドックスに構えて何かと対峙している姿。

 何か?いや、違う。アレは……

「朋美いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

 ヒロの前に立って(?)いたのは朋美だった。しかし、容姿が違う。あの時よりもやつれて、より幽霊らしくなったと言うか……

 しかし、そんな事を考えるのは後回しだ。ダッシュしてあのムカつくツラに一発ぶち込もうとした。

「あれ?もうバレたのかよ。いいいからお前は引っ込んでろ。須藤にゃ俺もいろいろ踊らされたからな」

 そう言って腕を翳して俺を制する。

「そんな事言っても、お前には生霊は……あれ?」

 俺、もっと言えばぶっ倒した生駒も居るのに、朋美はヒロを睨んでいた。悪鬼の如くの形相で。

 そんな朋美の口元が動いた。


――大沢ぁ……まさかアンタまでとはねぇ……


「あ?逆だ逆。お前程度なら誰だってぶっ飛ばせるって事だ。解ったら早く死ね」

 大きくスタンスを開いての、スリークォーターでの……

「「スマッシュ!?」」

 俺と生駒が同時に発した。生駒はヒロとバトった事がある。スマッシュを喰らったのだろうか?

 ともあれ、スマッシュは朋美の顔面を見事捉えた。しかしヒロに生霊は……

――ギャアアアアアアアアア!!また……!!!

 朋美の右顔面半分ぶっ飛んだ!!しかも絶叫しているし!?

 そのぶっ飛んだ右顔面を押さえながら、ヒロを睨む朋美。しかし、踏ん張りが利かないのか、ガクンと膝が折れてダウンした。

 ダウン!?俺だってダウンさせてねーんだぞ!?

「マジか!?俺の時は逃げただけなのに!?そうだ、そうだよ!なんで逃げないんだ!?」

 生駒の時もそうか!そうだ、俺の時もただ逃げただけなんだよな。

 何で逃げない!?何で消えない!?なんでダウンしているんだ!?

 色々理解が追い付かない!!

 俺達の疑問を余所に、倒れた朋美に所に行き、膝を付いて顔を近づけるヒロ。

 そしてやたら凄んで言う。

「生身をぶっ殺せば犯罪になるからな……お前が幽霊で助かった。幽霊なら殺しても罪にならねえんだろ?」

 そして、その体勢の儘右パンチ!!

――ぎゃあああああああああああああ!!

 なんだアレ!?血が噴き出したように、蒸気が出てる!?

「……あれってひょっとして浄化……?」

 国枝君が目を剥いて呟いた。つか、浄化!?

「な、なんでヒロがそんな霊能者的な技を?」

「わ、解んないけど、多分そうだよ……悪霊祓いを殴ってやっているような……」

「そんな事が可能なのか!?」

 大雅の質問に答えられない。俺も国枝君も。

 だってそんな事できる人間、少なくとも俺の周りにはいないんだから!!

「大沢、なんか握ってないか?」

 生駒が何かに気付いたようだ。右手を見てみる。

「……白い紐みたいなものが……」

 まさか、お守り!?お守り握ってぶん殴ってんの!?それで効果ってあるの!?

「く、国枝君!!お守り握ってぶん殴っているようだけど、それであそこまで効果あるもんなのか!?」

「無いよ。普通は無い。だけど実際やっているし……」

 その通り。現実ヒロはお守りを握ってぶん殴ってダメージを与えている。しかも浄化だ!!

――な、何で……?大沢にそんな力が……

 苦悶の表情なれど、疑問が先にあるのだろう。この状況で考えてしまった。

「あん?お前が雑魚だからっつっただろうが?いいから死ねよ須藤!!」

 左でかち上げる様なパンチ!!霞がかったように消えるが、瞬時に元に戻る朋美。

 左にはお守りを握っていないように見える事から、あのお守に何か秘密が……?

 しかし、その隙に全身が消えて、瞬間移動の如く、ヒロから遠く間合いを取って立っていた。しかし、右半分はやはり欠損したまま……

――大沢……大沢あああああああああああ!!アンタも殺す!!あの生駒って奴同様に殺してやるからねええええええええええ!!!

 がさっと後ろから物音が聞こえた。瞬時に振り向くと、佐伯が棒を持って襲ってきた最中だった。

「あああああああ!死ね生駒!お前が死んでくれなきゃ俺が殺されるんだ!!!」

 あんな隙だらけの遅い攻撃、俺達に通じるか。しかも最後尾は大雅だ。棒のエキスパートだぞ。

 その大雅、棒を持っている佐伯の手首を手刀で叩く。

「ぎっ!?」

 響いたのか、武器を簡単に手放した。そして大雅がそれを拾う。

「その辺にあった木の棒か。脆いから本気で叩いてもそんなにダメージには繋がらないな」

 そして膝を使って真っ二つに叩き折る。佐伯、結構青ざめていた。つう事は結構丈夫な棒だって事だ。

 そしてボディにパンチを入れた。

「ぐ!?」

 青くなって膝を付いた。ストマックを叩いたんだな。

「いやいや、おい大雅、佐伯の糞は俺が殺すんだ。お前は引っ込んでろ」

「なに言ってんだよ。俺が狙われたんだろ?だったら俺が引導を渡さなきゃ」

 俺と生駒が佐伯を取ろうと前に出る。

「君達にやらせたら、本当に洒落にならない事になるな……」

 飽きれながらも顔面に膝を打つ。佐伯がいい感じに鼻血を噴出した。「ぎゃあああああああああああ!!」の絶叫付きで。

 そのうるせー口を塞ぐように真正面から口を打った。髪を引っ張って膝で。

「があああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 絶叫が煩くなった。塞いでねーじゃん。と思ったら、別の棒を拾って手に取った。

 そして喉に突き!佐伯、白目を剥いてぶっ倒れた。これには俺も生駒も驚いた。

「お、おい、お前、やりすぎだろ?」

「なに言ってんだ。緒方君ならもっと酷い事になっていただろ」

「それにしても、喉に突きは……凶器はマズイんじゃ……」

「なに言ってんだ。生駒の拳だって凶器なんだろ」

 苦言を呈したら的確に返されてぐうの音も出なかった。俺も生駒も。

「それよりも、向こうも蹴りが着きそうだ」

 そうだ!!ヒロは!?

 慌ててヒロを見る。朋美の幽霊にやはりパンチを入れていた。アレは左ストレートか……

 しかし、左はやはりあんまりダメージには繋がらないようで、霞がかったように消えて、ヒロから遠い間合いに移動した。

――大沢あああああああああああああああ!!アンタは絶対に許さないからね!!生駒って奴同様に殺してやる!!

 その形相、正に悪霊の如く。つうかすっかり堕ちたか。こうなると本体の方も随分な影響が出ている筈だが……

「あん?俺を殺すだ?その前に俺が殺すんだよ。いつ錯覚したんだ?俺よりも強いってよ?」

 バリバリ挑発するヒロ。朋美は口惜しそうに、恨みの眼を以て言う。

――佐伯に言いつけたのが間違っていたんだ!!あんな雑魚に頼む方がどうにかしていた!!

 そう、負け惜しみを言って消えた。

 そして暫く残心していたヒロ(俺達も残心していたけど)が気を緩めた。

「ちっ、あのままぶっ殺してやろうと思ったのによ。逃げやがった」

 面白くなさそうにそう言うが……

「お前、全部説明して貰うからな!!」

「解ってるって。その前にこいつだな」

 佐伯を見ながら。いやいや、此の儘殺すからどうでもいいけど。

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