文化祭前~001

 体育祭が終わり、次のイベントは文化祭だ。その前に、通常の授業があるが。

 体育祭は日曜日だった為、次の日の月曜日は代休、よって今日は火曜日だ。

 そんで、朝から全校集会なる物が体育館で行われている最中。議題は体育祭の優勝クラスの表彰だ。

 我がEクラスの学級委員長の中畑君が代表で賞状を受け取っている。全校生徒が見ている前で。

 因みに二位は3-Dで、三位が3-A、一年の総合優勝は初だそうな。

 割れんばかりの拍手が中畑君に降り注ぐ。具体的には一年から。つっても拍手していない奴も沢山いるが。具体的には借りもの競争で糞くだらないクレーム付けた奴等とか。

「いや~、結構緊張するもんだな~」

 笑いながらも若干汗を掻いて席に戻る中畑君。気持ちは解るぞ。こんな大勢の前で校長から賞状を貰うとか、正気じゃねーよな。

【え~…今回特別賞として、体育祭MVPがあります。呼ばれた生徒は前に出てください】

 MVP?今までの体育祭ではそんなもんなかったな?ハプニング賞はあったけど、あれも俺が取ったんだっけ。

【一年E組、緒方隆君!!】

 ほう、MVPは一年が取ったのか。すげーなその緒方隆君って。


 …………………………………今なんて言った!?


 隣の遥香を見ると、こっちも驚いた様に俺を見ている。

 じゃあ他のクラスメイトは……

「おい緒方、呼ばれているぞ!!早く行けよ!!」

 蟹江君!!間違いだって可能性だってあるんだぞ!?それなのに、前に出ろと!?

「緒方君、君がMVPなんだってば!!早く行きなよ!!」

 小声で注意してくる国枝君だが、俺!?借りもの競争、不正疑惑で0点だったんだぞ!?

【一年E組、緒方隆君!!いませんか?】

 やっぱり俺だった!!いるけれど行きたくない!!ハプニング賞はグランドで貰ったんだから!!

「おい隆、早く行け。お前がぐずぐずしていると、終わる時間が遅くなっちまうだろうが」

「え~…お前、俺の緊張とか考えてくれよなぁ…」

「知るか。校長の長話で貧血起こして倒れる奴もいるんだ。お前がグダグダしてっと、もっと遅くなるから、ぶっ倒れる奴が増える事になるんだぞ」

 俺のせいで貧血患者が増えると言うのか…それは勘弁だな…

 なので、渋々、超渋々ながら、校長の待つ壇上に向かう。

「見ろよ槙原。あの馬鹿緊張して右手と右足同時に出して歩いているよ」

「ダーリン無茶ばっかりするけど、結構小心者だからね~…」

 親友と彼女さんの会話が丸聞こえだった。それは俺だけの耳に入った訳じゃなく、結構な生徒の耳にも入ったようで、クスクス笑いが所々から湧いている!!

 つか、なんだよMVPって?三冠取ったって言っても、他の生徒も取ってんじゃねーの?知らんけど。

 ともあれ、どうにかこうにか壇上に立った。畜生、ここに立つのは、卒業式の時だけだと思っていたのに!!

【え~…緒方隆君は、100メートル走、400メートルリレー、二人三脚と三冠を獲得しました。そして、借りもの競争で他競技の妨げにならぬよう、失格処分を自ら促しました。この行動に実行委員は大変感謝しており、緒方隆君に借りもの競争の一着に相当する何かの賞を与えて欲しいとの実行委員からの要望があり、今大会MVPを与える事になりました。おめでとう!!緒方隆君!!そして実行委員のミスを庇ってくれてありがとう!!】

 実行委員の差し金か!?つうか、拍手パネエ!!主に実行委員からの!!

 ともあれ、震える手でその賞状を受け取り、礼をして足早に退散した。

 実行委員も罪滅ぼしがしたかったんだなぁ…その心は有り難いが、こう言う事はやめて欲しかった…

 遥香も言っていたけど、俺って小心者なんだから。目立つ事は避けたいんだから。

 ……悪目立ちには慣れているんだけど。

「すげーじゃん緒方!!二年、三年を押し退けてMVPってよ!!」

 朝礼最中だと言うのに、吉田君が寄ってくる。

「流石緒方君ね。やっぱりE組の顔は緒方君ね」

 横井さんも微妙に持ち上げているが、ホントやめて。目立つのは悪目立ちで充分だから。

「よし!!MVPを胴上げだ!!」

 蟹江君の音頭でワラワラ集まってくるクラスメイト……つか、今朝礼中なんだぞ!?マジで!?

 との疑問を抱いている途中、俺の身体が軽くなる。

 え?ちょっとマジで?本気で?

 胴上げは本当のようで、わっしょいわっしょいと宙に舞う俺の身体!!

 おいいいいい!!止めろよ先生達!!つか、今視界に楠木さんが映ったぞ!?Cクラスだよね!?なんで胴上げに参加してんの!?

「……良かったね緒方君」

「こうなると、棄権したのも良かったって思えるよね」

 春日さんの声がしたぞ今!?国枝君も普通に会話しちゃっているし!!

【あー、そろそろ気が済んだかー?朝礼最中なんだぞー】

 どの教科の先生かは知らないが、マイクからの声で漸く俺の胴上げが止まった。

「いやー、ちょっと羽目外しちゃったねー」

「う、うん…里中さんが此処にいる事自体、羽目外し過ぎなんだけど……」

 ともあれ、漸く解放されて、朝礼の続きを少しやった。

 終わってクラスに戻ったら、そこでも胴上げされたけど…

 授業が終わり、帰宅途中。遥香が腕を絡めながら、ニコニコご満悦だった。

「なにか機嫌良さそうだけど、どうした?」

「うん。体育祭での棄権、帳消しになったなぁ、って」

 帳消しねぇ…まあ、そうだな。同じ実行委員の遥香も知らされていなかった事だからな。サプライズ的な演出なんだろう。

 ともあれ、あれはあれで良いものだ。もう胴上げは勘弁だが。

「ところで次は文化祭なんだけど、国枝君の占い押すの?」

「と、言うのは?」

「うん。私も記憶持ったから解った事なんだけど、霊感占いも確かにあったけど、その他の出し物もやっていたよなあ、って」

 確かに俺の記憶じゃ、最後の繰り返しの文化祭しか印象に残っていなかったが、その他にも結構やったよな。

 マンガ喫茶もやったし、休憩所もやった。その他もあったと思うが、記憶にない。

「う~ん…その時によるんじゃねーか?他に良い案があったらそっちに乗っかると思うし。つか、お前、実行委員に立候補すんの?」

 繰り返し中、Dクラスの実行委員をやってきた遥香だが、今回のEクラスでも実行委員はやるのか?

「いや、Eの実行委員は横井だったでしょ?だったら横井に譲ろうかな、と」

「お前、横井さんと仲良いって訳でもないんだろ?なんで?」

「仲良いいって訳じゃ無かったけど、悪いって事も無かったよ。まあ、これも私が記憶を持ったから解るんだけど、二年の時、横井もEだったでしょ?だったら二年になった時の為に、少し地固めしておこうかな、と」

 なんだそれ?地固め?そんなことしてどうすると言うのだ?

「まあまあ、つまりは、ダーリンと一緒に一生徒の立場で文化祭を楽しみたいって事ですよ」

 そう言って密着して来る。何か考えてんだろうな…無茶する予定なら、事前に言って欲しいけどなぁ…


 それから三日後のLHR。今日は文化祭の出し物を決める日。前回は国枝君の霊感占いだったが、今回はどうか?

 ウチの実行委員はやっぱり横井さん。遥香から聞いたところ、中学の時も実行委員をやっていたとの事。

「やっぱお前は立候補しなかったんだな」

 ひそひそ声で隣の遥香に訊ねる。

「だから、二年への布石だって」

 にべもなくそう言われるが、その布石って物騒な事にならないのか?それならいいんだが……

「じゃあ始めます。ですがその前に。体育館の使用はできません。じゃんけんで負けましたので。屋台の方も参加できません。くじ引きで取れませんでしたので。ですから、クラスでの展示のみになります」

 この体育館使用許可も、屋台も一回もやった事無いんだよな。

「じゃあ何か案を…赤坂君」

 赤坂君の挙手にちゃんと反応した横井さん。その嫌そうな顔をしなければ尚良しなんだが。

「僕は渋めのカフェがいいな。リラックスしてお茶が出来る空間を希望します」

「却下です。メイド喫茶は他クラスでも展示するでしょうから、被るからえええええええ!!?」

 びっくりして最後まで言わなかった。それは横井さんだけじゃない、俺含みのクラスメイト全員が。

 赤坂案は絶対にメイド喫茶だと思ったが、渋めのカフェとの案は超意外だったのだから。「あ、赤坂…メイド喫茶じゃ無くて、渋めのカフェ?」

 三木谷君が恐る恐る訊ねると、普通に頷いた。

「ジャズバーとかでもいいと思うんだけどね。退屈するお客さんも出てきそうだからね。雰囲気と味で勝負するカフェがいいなぁ、と」

 信じられんと言った感じで、黒板に書き写す横井さん。国枝君がそうか、と小声を漏らしたのも、ちゃんと耳に入った程の静寂だった。

 前の席の国枝君の肩をちょいちょい叩いて振り向かせ、訊ねた。

「国枝君、赤坂君のカフェの理由、解ったの?」

「うん。大洋の中学生達を招待するだろ?だから時間も取れてゆっくり話が出来るカフェ案を出したんだよ。ムードが出るように雰囲気も注文していただろう?」

 な、成程そうか…つか、そこまで必死なのか赤坂君…

 だが、それじゃ普通の喫茶店と同じで、集客も他とあまり変わらない。

 その時、遥香が挙手した。

「槙原さん、どうぞ」

「えー…ウチのクラスは体育祭で総合優勝を果たしました。一年の総合優勝は初の快挙だそうです」

「そうね。槙原のダーリンのおかげでね」

 どっと湧くクラス。俺はハズいんだが、遥香は寧ろ得意そうに胸を張る。

「それはその通りなんだけど、流石私のダーリンなんだけど、文化祭にはそんなに貢献できそうもないんだよね。ほら、ダーリン体育系だから」

 脳筋には文科系の仕事は無理だってか?その通りで何も言えねーが。

「それは兎も角、どうせなら二冠狙おうよ。体育祭と文化祭の総合優勝の二冠!!因みに文化祭の総合優勝は、未だに一年で取った事無いんだって」

 文化祭も総合優勝を狙うってか…それは…なんか燃えて来るな!!

「ウチのクラスは一年で…ううん、全学年で一番纏まっているクラスだから、総合優勝も夢じゃないよ!!」

 遥香の机を叩いての力説。その様子に、火が点いたのは横井さん。

「……そうね…槙原は体育祭実行委員だったしね…私も総合優勝目指して頑張りたいわ!!」

 横井さんって遥香をライバル視でもしてんの?なんかグーを握って灼熱しているけど?

 成績は確かに遥香と対張ると思ったけど。国枝君が一番成績良かったんだっけ?兎も角、学年トップスリーがウチのクラスに勢揃いしているって事だ。それも、よく考えたらすげー事だが。

 ところで、文化祭の総合優勝ってどんなんだ?単純に集客集なのか?

「横井、総合優勝の条件はなんだっけ?」

 クラス委員長の中畑君が俺の代わりに訊ねてくれる。

「集客集と純利益ね。尤も、純利益は人件費は考慮されないけど。赤坂案の喫茶店で言うのなら、カップのレンタル料とか、材料費は除かなきゃいけないようね」

 資料を見ながらの説明。お湯を沸かす電気代や、従業員扱いの学生は経費と見做さないと。

「コスパが良くて、集客が多い出し物が必要って事ね。赤坂案の渋めの喫茶店も、静かにお茶を楽しむのが好きな私はいいと思うけど、集客数は他の食べ物屋さんと同等くらいになるからね…」

 珍しく赤坂君を褒めたぞ!!赤坂君が腕を組んで満足に頷いているけど!!

「赤坂、他になんか案無いのかよ?もう一頑張りだぜ?」

 偉い無茶振りをするヒロだった。赤坂君は女子中学生の為に発言したんだから、もう引き出し無いだろ。証拠にドヤ顔から困惑顔に変わっているし!!

 此処で市村さんが遠慮がちに手を挙げた。

「あの、国枝君って霊感あったよね?霊感占いなんてどうかな?」

 クラスが一斉に国枝君を見る。国枝君は眼鏡を人差し指で軽く持ち上げて立った。

「占いって言っても、当然必ず当たる訳がない。当たるも八卦、当たらずも八卦で良いのなら、引き受けてもいいよ」

 此処までは前回の流れと同じだ。しかし…

 後ろのヒロが小声で聞いてくる。

「おい、前回は何位だったんだ?」

「集客数は4位だった筈だな…売り上げは見料とハーブティー、それにおみくじだけだから、そんなに無かった筈だ…」

 それでも一年では売上二位だった筈。一位はCのメイド喫茶だったか?そのCも総合売り上げじゃ、トップ3に入らなかったし。

 ともあれ、集客集勝負なら勝機はあるが、総合優勝となれば厳しいな…

 前回最上さんが星座占いに回って実質二人体勢になっても集客集4位。もう一押し欲しい所だが……

「あれ?蛯名って確かタロット占いやらなかったか?」

 中畑君の質問に、蛯名さんが頷いて答える。此処で遥香からの小声の質問。

「蛯名さんって二年の時Eだったよね?」

「確かそうだったな…中畑君は違うクラスに行ったけど…」

 此処で遥香が挙手をして発言。

「じゃあさ、国枝君と蛯名さんで占いの館ってのはどう?」

 前回は最上さんの星座占いな筈だが、ここで微妙に変えるのか?

「占いの館か…イケるかも…」

 横井さんも若干力が籠ったように頷く。俺もイケるとは思う。集客数限定だが。

「どうしたのダーリン?難しい顔をして?」

 なんか知らんが、別にそんな顔はしていないと思うが、いきなり遥香が振って来た。

「緒方君、なんか不安な点があるの?だったら言って頂戴。意見はなんでも聞きたいわ」

 横井さんですら詰め寄って来るが…俺に何を期待してんだ?

 だがまあ、前回の経験者だからこその意見もあるしな…

「集客数は勝負になると思うけど、純利益はどうかなと思って…占い一回100円取るとして、それが全部純利益になるとしても、やっぱ食べ物屋さんには勝てないような気がするんだよなぁ…」

 実際そうだ。屋台は集客数には含まれないが、サイドビジネス扱いで利益には加わっている筈。

 ウチのクラスは屋台の権利は無いから、やっぱり利益勝負は厳しい戦いになると言わざるを得ない。

「成程…緒方君の考えも一理あるわね…でも、占いで200円も取ったらお客さんが来なくなるからね…」

 考え込む横井さんに、更に追撃を仕掛ける俺。

「そもそも、蛯名さんがまだ返事していないだろ?この雰囲気じゃやるようになっているけど、それでも蛯名さんが嫌だって言えば俺は反対に回るよ」

「それもそうね。無理強いは良くないからね…」

 そう言って蛯名さんを見る横井さん。

「…蛯名さん、どうかしら?」

「え?えーっと…本当はあんまりやりたくないんだよね。疲れるのよ。集中力かなり使うから。スポット出演ならいいんだけど…」

「そう…残念だわ…」

 本当に残念そうな横井さん。だけど、とそこで付け加える。

「でもさ、緒方君が嫌だって言ったら反対に回るって言ってくれたじゃん?みんなは流れ的にやらせようとしていたのにさ。それ、結構嬉しいんだよね。ちゃんと配慮もしてくれていた所が」

 クラスみんなが顔を伏せた。蛯名さんが言う通り、流れ的に『押し付けようとした』のを自覚したのだ。

「だからやるよ。だけど、さっきも言った通り、集中力を使うから時間は掛かるよ?それでも良いなら、クラスの為に頑張るよ」

 此処で歓声が湧く。これで占いは2ブース。お客を効率よく回すのなら、もう1ブースは欲しい所だが…

「流石私のダーリン。見事クラスを纏めたね」

 破顔して言うが、嫌なモンは嫌なのはお前も承知だろうに。お前が言っても同じ結果になっただろうに。

 わざわざ俺の顔を立てようとしなくてもいいんだぞ?お前が内助の功をよくしていてくれているのは充分知っているんだから。

「じゃあ俺の親戚が神社に居るんだけど、おみくじとかお守りを手配して貰おうか?緒方の言う通り、多少の利益は稼がなきゃだし」

 前回はおみくじだけだったが、今回はお守りも販売するのか。それは利益に繋がるな!!流石角田君!!グッジョブだ!!

 此処で最上さんが挙手をした。

「私、星座占いと血液型占い、ちょー詳しいよ。占いブースも回転率を上げなきゃでしょ?どうかな?」

「それは頼もしいわ!お願いね最上さん!」

 横井さんも納得の3ブース。これで集客数は前回を上回る事になる!!

「お客の回転率を上げて集客数を稼ぐのは勿論、おみくじとお守りで利益も上がる。他に何かないかしら?もう一押し欲しいと思わない?」

 横井さん、結構貪欲だな。俺ももう一押し欲しいと思うけど。

「それなら赤坂案の渋めのカフェを併用して…」

「駄目だよ。あくまでも占いが主体なんだから。それじゃ何屋さんか解らなくなるでしょ?」

「そうか…そうだよな…だけどもう一押しなんだよなぁ…」

 やいやいガヤガヤ案を出し合う。そのもう一押しも俺は、いや、俺と遥香は知っているが…

 遥香と顔を見せ合い、お前が言えよと、いや、ダーリンが言ってとアイコンタクトを取る。

 その時、国枝君が挙手をした。

「ハーブティーと薬膳クッキーを販売しよう。占いに来る人にリラックス効果を得て貰う為に。勿論、これはお客が決める事だから、買うも買わないも自由にして。どうかな?」

「…ハーブティーも材料によってはコスパがいいし、クッキーも家で作れば材料費のみか…これはいいんじゃないかしら!!」

 横井さんが促すと、歓声と共にそれは可決された。これで売り上げも伸びる事だろう。

「ウチのクラス、結構上位に行くんじゃない?」

 遥香がこそっと耳打ちをしてくるが、俺はいやいやと首を振る。

「なに言ってんだ。勝つんだよ。集客数と純利益、二つトップを取って、体育祭と文化祭の二冠を取るんだ」

「そのつもり。横井も蛯名さんもそのつもりになったし、これで二年は安泰になるね」

 何を言っているのか解らんが、これも二年に上がった時の為の布石とやらか?二冠を取って二年が安泰になるのなら、それは凄い良い事だが。

「じゃあ各ブースの建築は…えっと、それはモノづくりクラブの二人に頼めるかしら?」

 蟹江君と吉田君が勢いよく立ち上がる。

「「任せろ!!」」

 ガッツポーズを作っての灼熱だった。体育祭の熱が甦って来た!!

「ハーブティーと薬膳クッキーは…お菓子作りは私が得意だから、レシピを作って来るから、それを女子で分担にして…」

「任せてー!!」

 市村さんが名乗り出る。彼女もお菓子作りが得意なのか。

「あとは占い師のコスね。それぞれのイメージがあるでしょうから、簡単なイラストを作って持ってきて頂戴。それを元に衣装を作りましょう」

 頷く国枝君と蛯名さんと最上さん。盛り上がって来たな!!

「占い氏はブースのイメージも簡単に描いてくれ。内装をそれっぽくしたいからな」

「解ったよ蟹江君」

 早速仕事をしようとしているな蟹江君は。前回も頼もしかったからな。

 何はともあれ……

 パン!!と一つ柏手を打って、静かにさせた横井さん。そして笑顔でこう言った。

「E組の出し物は占いの館!!目標は一年初の文化祭総合優勝です!!」

 おおおおおお!!と歓声が起こる我がクラス!!やっぱ青春はこうでなくちゃ!!


 興奮も冷めやらぬまま帰路に付く。因みに遥香は俺の腕に絡まってニコニコ顔だ。

「文化祭、盛り上がりそうだね」

 実に嬉しそうに。

「お前も楽しみにしてんじゃねーか」

「私は別のお楽しみだよ。勿論文化祭も楽しみだけど」

 何の楽しみがあるのだ?その旨を訊ねると――

「前回は美咲ちゃん、春日ちゃんがいたからね。今回は私一人が隆君の隣にずっと居られる。文化祭の時はほぼ毎日一緒にいたでしょ?」

 そう言えばそうか。前回の文化祭は俺が繰り返している事が知れて、朋美対策にほぼ全員が俺ん家に集まっていたからな。

 ん?でも、そうなると今回もじゃね?

「前回、朋美対策で俺ん家にほとんどの友達が集まっただろ?今回もそうなんじゃねーの?」

「今回はお泊りすると駄々をこねるのは私一人ですよ。そして、既に私の御両親にはその旨を伝えているのです」

 目を瞑って、胸を張って、指をタクトのように振って、さも当然のように。

「泊まるって、それは駄目だからな?今回俺はバイクがあるんだ。終電が終わったって言い訳も通じないからな」

「でも、既におじさんおばさんにも了承を得ているけど?」

 もうそこまで根回ししてんのかよ!!ビックリだよお前には!!

「だけど、本当に駄目だからな。流石に毎日は駄目だ」

「その言い方じゃ、毎日じゃないならいいって事だよね?」

 ……この手の言い合いで遥香に勝った事は少ない。実際俺も諦めている所もあるし。1日2日はそうなるんだろうなぁ、って諦めが。

「今日はジムに行くんでしょ?文化祭で忙しくなる前に顔を出すって言っていたから」

 頷く。そして、大洋の新設ジムとの対抗戦の話もある筈。

「大沢君も?」

「うん。あの野郎をバイクで送る事になった。電車か徒歩でいけばいいのに」

「あはは~。来年免許取るでしょ。それまで我慢してね」

 本当に取るのだろうか?あいつ、無駄遣いのスペシャリストだぞ?免許代もバイク代も無い様に思うんだが……

 まあ、それを俺が気にするのもおかしな話だ。

「じゃあ名残惜しいけど、ここでね。明日からいつも一緒ねダーリン」

「いや、帰らせるからな?送るからな?」

 そう言ったが、聞きやしねー。手を振って駆けて行きやがった。

 溜息をついた。あいつ、此の儘住み着くもりじゃねーよな、と。

 ともあれ、俺も家に帰って準備しなきゃ。

 そういや木村にも大雅との顔見せを頼まれていたんだよな…対抗戦の時についでに、って訳にはいかねーかな?

 そもそも対抗戦があるのだろうか?あっても文化祭開けになるだろうし。

 んで、ジムに行き、程よい汗を掻いて、さあ帰ろうとした時に会長に止められる。

「博仁、隆、お前等文化祭が終わるまでジムに来ねえんだったよな?」

「おう。文化祭は一大イベントだからな。オッチャン達も来てくれよ」

「あん?文化祭って歳でもねえからなぁ…まあ、それは兎も角、俺の知り合いが隣町にジムを立ち上げてな。ああ、博仁は知ってんだったか?大洋にな、そりゃ立派なジムを建てやがったんだよ」

 顔を見せ合う俺とヒロ。やっぱりこのイベントも起こったか……

「プロもいるが、何せ新しいジムだ。4回戦しかいねえし、練習生が殆どなんだが、ウチの選手とスパーさせてぇって」

 苦々しい顔に変わる会長。つう事は、スパーの理由も前回と同じか。

「練習生同士スパーさせればいいんじゃないっすか?ウチが胸を貸したら、力量不足を感じて自信喪失に繋がりますよ?」

 そう言ったら口を全開にして呆けた。そして、ヒロが追撃する。

「まさかと思うが、ウチ相手に新設ジム如きが自信付けてぇ、って事じゃねえよな?」

「お、おう、博仁の言う通りだ。だが…何だ?薄ら寒い感じがするが……」

 何かを不気味に感じたのか、会長の顔色が悪くなった。大袈裟に自分の肩を抱いて震える仕草までしているし。

「はーん…随分ふざけた奴等だな。んじゃあ俺と隆で全滅させてやるよ。4回戦のプロも混じってもいいぜ」

「お、おう…だけどお前等、文化祭で来なくなるんだろ?練習はどうすんだ?」

「学校でも家でも練習は出来ますけど、せめて文化祭が終わってからにしてください。流石に準備期間中はクラスメイトに悪いっすから」

「お、おう…」

 釈然としないながらも、スマホを片手に外に出る。練習試合了承の電話に出たのだろう。

「やっぱお前の言う通りになったな」

 流石に自腹で買ったヘルメットを被りながら言うヒロ。

「そうだな。だけど、俺とお前だけでやるのはキツイだろ」

「流石に対抗戦形式にすんだろ。前回は6人抜きをやらせようとしたんだっけ?」

 それをお前が戻るって条件で、対抗戦形式になったのだが。

 今回ヒロは最初からいるから、マジで6人抜きさせられそうだが。ヒロと二人だから3人抜きか?

 今回も蟹江君と吉田君にリング作って貰おうかなあ。つうか、俺ん家に集まってブース作る事になるのだろうか?

「グローブとヘットギアも借りて来た事だし、いつものロードワークプラスどこかでスパーか」

「欲を言えば、ミッドとサンドバックも欲しいけどな」

「コーチがいねえんだから、仮に持ってきても意味ねえだろ…」

 いや、そんな事は無い。お前がミッドを構えて、俺がそれを打つ。具体的には構えた所以外を打つ。

「お、そうだ。パワーリストとパワーアンクル付けて授業を受けようか?」

 ヒロの提案にうっかり賛成しそうになるが、自重する。

「こっちの俺も多分そうだったと思うけど、俺は中学時代、授業中にクルミ握ったり、鉄アレイ持ったりしていたが、白い目で見られたぞ」

「そうだったな。あれ、目立ったよな。馬鹿じゃねえかあいつって感じで」

 やっぱこっちの俺もそうだったか。

 結構話し込んだ感があり、ヘルメットを被ってキーを捻る。

 ともあれ、明日からだな。今日の所は大人しく帰って寝よう。

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