南海~002
「ここに来る彼女って幼馴染だって話だけど、いつから付き合ってんの?」
特に興味があった訳じゃない。ただの話題振りみたいなものだ。
「う~ん…いつから…気付いたら…って感じかな?」
「そうなのか。じゃあ結構い付き合いは長いのか?あ、知り合ったのはって意味だぞ?」
「そうだね…幼稚園の前から、かな?家が隣だったから」
幼稚園の前から?長いなんてもんじゃねーよそれ。俺と麻美、もっと言えば朋美よりなげーよ。
「家が隣だったら意識しなかったんじゃないのか?常に一緒にいるのがスタンダードで…」
珍しく生駒がこの手の話題に乗っかって来た。自分が弄られるから、この手の話題は苦手な筈なのに。
「そうだね。だから気付いたら、だよ。それに、中学時代は部活も一緒だったしね」
つう事は、大雅の彼女は剣道部?
「今も剣道部?」
「内湾女子に剣道部はないから、今は趣味で竹刀を振る程度だよ。続けたかったら内湾に入らなかっただろうしね」
そりゃそうか。続けたいなら、それこそ南海に行けばいい話だもんな。彼氏たる大雅も居るんだし。
その時来店を告げる軽い鈴の音色。全員が入口を見た。勿論俺も。
女子だった。ジーンズに七分袖、ショートカットでボーイッシュな印象。その女子がこの席に気付いて寄ってくる。
「大雅、あの子が?」
頷く。
「こいつが俺のかのじょごっ!?」
大雅が何か言う前に、大雅を無理やり押し退けて大雅の席に着いた。無理やりってのは、ほぼぶん殴った形だったからだ。
その行動にポカンな俺達。
因みに大雅は俺の真正面の席だったので、その子とは対面の形となった。
その子は俺を興味深げに見て言う。
「……君が緒方君だね。成程、イケメンだね。正輝が言った通り」
納得と頷く大雅の彼女。席を奪われた大雅が流石に零した。
「いきなりなんだよ…席なんかいっぱいあるだろ…」
「だってあのイノブタに喧嘩売った人でしょ?好感度高いから真正面にね」
真顔でそう返した。イノブタって…猪原の事か?あいつ慕われていたんじゃないの?なんでそんなふうに呼ばれてんの!?
「猪原さんを嫌っているの?」
遥香が疑問を呈した。同時に遥香に目を剥けて、ニッコリと破顔した。
「こんにちは。橋本紗友莉です。さゆって呼んでね」
いきなりの自己紹介に面食らうも、ちゃんと返す遥香。
「う、うん。えっと、槙原遥香。こっちの緒方隆君のスィートハニーです」
スィートハニーの件で全員が噴いた。マジふざけんなよお前等。本当にスィートハニーなんだよ。それはそうと、恥ずかしいからそれ以上言うな。
「あはははは。うん。了解。愛しちゃってんの、伝わって来るよ。そりゃそうよね、緒方君みたいな優良物件、まずないからね。ウチのヘタレにも見習って欲しいもんだわ」
じろり、と大雅を睨み付けながら言った。大雅が委縮して小っちゃくなる程の、おっかない眼光だった。
「ウチのダーリンが優良物件なのは否定しないけど、大雅君だって…」
「いや、ほら、こいつ、あのイノブタに心酔しているからさ。緒方君なんか集まった南海生、全員と戦おうとしたでしょ?羨ましくってね」
やっぱイノブタって猪原の事か。だけど嫌う理由は?
「えっと、橋本だっけ?猪原を嫌っているようだが、なんでだ?」
木村が疑問を呈する。それは全員の疑問、って訳じゃ無く…
「解った!!猪原さんのおかげで大雅君に構って貰えないんだ!!そうでしょ!?」
発した楠木さんに全員の視線が向かう。いくらなんでもそんな理由で…
「うん、そう。あのイノブタ、こっちの事情なんか考えずに召集するからさ、心酔しているこの馬鹿なんか、デート中なのにも関わらずホイホイと行っちゃうのよね」
そうなの?と大雅を見ると、小っちゃくなった。ホントなのかよ…
「こいつだけじゃない、イノブタに心酔している奴等の彼女って、みんな同じ不満を持っているのよね。結果別れたカップルも大勢」
な、成程…猪原と自分彼女を天秤に掛けて、猪原を取ったのか…そりゃ怒るよな…
「庇う訳じゃないけど、猪原も無理に召集しようとは思わないんじゃないかな?用事があるんなら別に…って感じで…」
バイトであまり楠木さんに構えていない生駒が小さな声で反論した。自分も都合が悪いんだな、うん。
「そりゃそうだけど、招集に応じなかった人は村八分状態にされちゃうんだよ?だったら行くしかないじゃない」
「猪原にその事を話せば解決じゃねえの?」
ヒロが氷を齧りながら質問してきた。つか、いつの間にレモンスカッシュ頼んだんだこいつ?
「勿論話したよ。彼女全員一体となって嘆願したよ。そしたら「それは俺が無理強いした訳じゃないから、俺に言われても」だって。下も満足に纏められない、ただのブタだよあの野郎は!!」
怒り心頭の橋本さん。テーブルに拳を叩き付ける勢いだった。まあ、それにも共感はするな。ただの甘ちゃんだって。
要望と言うかお願いと言うか、彼女連合(?)の話くらい、集まった時にでも話してやればいいだろうに。甘ちゃんだから、彼女なしの連中に配慮したのか、下に厳しくできないだけなのか。
「……ウチのダーリンも夜なのに連れて来いとか言われたんだよね」
ジロリと木村を睨みながら言った彼女さん。その咎める目、マジ怖いのでやめて欲しい。
「いや、まあ、そうなんだが、興味を引いている内にと思ってな…いや、悪かった」
素直に謝罪して頭を下げた木村。彼女さんの怖さを知っているから、簡単に謝罪したんだな。うん。
まあ、要するに、だ。
「猪原って空気読まねーのか」
橋本さんは肯定の意味で豪快に何度も頷く。その後だから、と言って一気に喋った。
「南海もイノブタも全員と喧嘩しちゃおうって考えた緒方君はさ、女子達の好感度高いのよ!!イノブタの話に殆ど耳を貸さなかったんでしょ!?それってすごい事なんだよ!!更に牧野一派とも普通に喧嘩しようって考えたんだから、厄介者も倒してくれるヒーローだって思われちゃったのよね!!イノブタが会いたいって言ったって事は、少なくとも普通の生徒に迷惑を掛けない人だって事なんだしさ!!」
グーを握って興奮を露わに。だけどそれって俺の狂犬って言う二つ名と同じ事なんだが…
「だ、だけどもう緒方君は呼ばれないよ。猪原さん、と言うよりは仲間達が止めるだろうし。怖いし面倒だからって理由で」
「だからアンタもホイホイと呼ばれないようにぶっ潰すとか思っちゃえばいいんだよ!!イノブタなんか瞬殺でしょうに!!」
「村八分が怖いみたいな事、さっき言っていたよね…?」
だからホイホイ招集に応じるんだろうが。仲間内でハブられたくないのは理解するが、いきなりぶっ潰そうとか考えるのは俺だけで充分じゃね?
「いや、だから緒方君は特殊だから。怖いっていうか狂っているって言うか…」
村八分をスルーして俺をディスりやがった。自分は俺とは違う、みたいな。
「ひねくれた考えはやめようよ。自分には真似できないって言っているだけなんだからさ」
「だから、何度も言っているが、心を読むなってば」
本気で無の境地の練習しようか?どうやればいいのか見当もつかないが。座禅でも組めばいいのだろうか?
「……猪原は南海でも真ん中くらいの強さだって聞いたが、大雅が瞬殺できるレベルなのか?」
木村の素朴な疑問。瞬殺は大袈裟だろうが、話のネタ振りみたいなもんだろう。責められている大雅を庇った、と言うか、話を逸らそうとしているんだろう。
「正輝が本気を出したらね。と言っても竹刀とか木刀は必要だけど」
「えっと、橋本は見た事があるのか?大雅の喧嘩を?」
「試合は何回も見ているけど、喧嘩は一回しかないかな」
だったら瞬殺かどうかわからねーじゃん。喧嘩とスポーツは全く違うんだぞ。
「多分南海で一番強いのは正輝だよ。牧野も表立って仕掛けて来なかったでしょ?」
牧野みたいな糞でもビビって引いていたから、それは多分そうなんだろうけど、非情になれるかだな。ビビっていたって事は、以前はそうだったかもしれないが、今はどうなんだろうか?
「猪原のカリスマにビビって…って線もあるだろ?」
「あのイノブタにカリスマ性なんて無い!!!」
豪快に否定されたので、それ以上木村は何も言わなかった。猪原の良い所は彼女から聞けそうもないし、別に猪原の良い所なんて興味はないんだろうし。
えっと、この子に協力して貰うの?須藤真澄や春日さんの噂の事を?
どうする?と遥香に目を向けると、一つ頷く、大変躊躇して。
そしてテーブルにずいっと身を乗りだして訊ねた。
「橋本さんは内湾だよね?内湾ってどんな学校なの?」
全く関係ない質問から攻めるか。徐々に、って事だろう。
だが、橋本さんは静かに首を横に振って、自分もテーブルに身を乗りだした。遥香と顔を付き合われる形になる。
「まどろっこしい探りはどうでもいいよ。本当は何を聞きたいの?」
場が緊張する。全員が全員と目が合った。全員目を泳がせたって事だろう。俺もそうだったから。
「……何でそう思うの?」
「正輝はまあ、何となく解るよ。大体は聞いているし。白浜の西高、黒潮の黒潮高校との友好とかの話はね」
「そうだね。木村君が頑張って…」
「その木村君が、何で南海なんかと友好を結びたがっているかって事。イノブタを見たら気付いたでしょ?あそこって慣れ合いしか出来ないよ。そんな学校に見切りを付けずに、尚友好関係を結んだって事はね」
随分南海を低く見ているんだな…そんなに猪原が嫌いなのか?
「木村君の友好協定っての?は、南海に取ってはいい話。今はまだ大丈夫だけど、イノブタたちが卒業したら、間違いなく牧野に荒らされる。正輝はそれを危惧していたから、意外と簡単に頷いたと思うけど、当のイノブタや他の馬鹿達には危機感が全くない。だから何度も断られたし、実は今でも鬱陶しいと思われているんだよ。緒方君がこう言ったそうだね。『卒業したら知った事じゃない、自分達には関係ない』って。まさにそうだよ。流石にイノブタはそこそこ心配していたけどね。正輝だけじゃ間違いなく飲み込まれるって」
ビックリした。この子そこまで踏み込んでいたのかと。大雅が正直に話していたからに他ならないけど。
「実際、南海が牧野や他の学校に攻められたら、確実に負ける。木村君もそれは気付いていると思うよ」
今度は全員木村に目を向けた。
木村は躊躇しながらも頷く。
「……潮汐が攻めて来たら間違いなくやられるな。今はまだいい、猪原の影響力」
「あのイノブタに影響力なんて無い!!」
「……ま、まあ…それは兎も角、猪原が鬱陶しいと思われているのは、単純に数の問題だ。南海だけじゃない、深海にも猪原一派は存在するし、実は大洋にも存在する。だけど…」
「深海も大洋も喧嘩なんかできない生徒が殆どだよ。イノブタの傘に入って威張っているか、他校から匿って貰っているか。南海は体育会系が多いから、腕っぷしが多少強い奴いっぱいいるから、今のところは、って事」
つまり、猪原が卒業すれば、深海や大洋は簡単に裏切るって事か…
「そんな簡単な事もイノブタは解っていない。よって木村君が南海に拘る必要はない。逆に負担が増える可能性の方が大きい。だけど、なんで拘るのか?正輝を気に入ったんなら、正輝だけと友達でいればいい筈なのに」
そこでゆっくりと遥香を見据える。
「……この友好協定と私が呼ばれた訳、実は繋がっているんでしょ?内湾に何があるの?果たしてあなたは本当に味方?」
冷や汗がダラダラだった。橋本さん、実はかなりの切れ者じゃねーか!!遥香の方もまばたきをしないで直視しているし、緊張感バリバリだ!!
その時、大雅のスマホが振動した。
露骨に嫌な顔をした橋本さん。大雅は敢えて見ぬ振りをしたように(少なくとも俺にはそう見えた)スマホを滑らせて耳に当てた。
「もしもし?猪原さんですか?どうしました?」
猪原かよ。だから橋本さんが嫌な顔したんだな。
「はい…ですから、他の先輩に頼んで…え?今からっすか?」
橋本さんが険しい顔になった。何かの予感が働いたのか?
「え、いますけど…ちょっと待って貰えますか?」
大雅が申し訳なさそうに俺を見て口を開いた。
「……牧野が病院送りになった経緯を話してくれって…他に数人病院送りになった経緯も話せって…」
「は?お前学校の連中に話したんじゃねーのか?牧野は試合の怪我だから簡単に伝えられるだろ?」
「いや…君達に直接聞きたいらしい…」
なんだってんだ面倒くせーな。わざわざ俺に聞かなくても、潰した糞共はお前ん所の誰かに引き渡したんだから、そっちに聞けよ。
大体、俺は南海生はどうでもいいっつったじゃねーかよ。報告する義理は微塵も無いんだが…
「仕方ねーな…じゃあ電話を貸してくれ」
ガチで面倒臭いが、話せば納得するんだろ?その後糞をどうするかは知らねーけど。つうか、興味が全く無いからどうでもいいけど。
「いや、あの…直接聞きたいって…顔を見て話したいって…」
「はあ?じゃあ此処に呼べよ」
「…………こっちに来いって………」
ブチンと俺の何かが切れた。俺は大雅からひったくるようにスマホを奪った。
「おい猪原、俺がわざわざお前の所に出向かなきゃいけない理由、あるんだろうな?」
かなり抑えたが、解る奴には解る俺の怒りのトーン。全員あ~あ、って感じだった。木村でさえも。解っていないのは大雅と橋本さんだけか。
『緒方か?そりゃウチの者を病院送りにしたんだ。事と次第によっちゃ、みんなの前で謝罪して貰わなければらないからだ』
更に何かが切れる音。
「それは俺が謝罪する事が確定のようだな?言った筈だが?お前と大雅と早川以外は知らねってな……」
『早合点するな。そうは言ってない。だからみんなの前で話を聞かせろと…』
「じゃあそのみんなを連れて此処に来い。いいか?みんなだぞ?お前の言うみんなの事だ。俺がわざわざ出向いてやる義理は無いからな」
『……何か誤解しているようだが、話を聞きたいだけだ。だからみんなが揃っているこっちに…』
「何度も言わせんな。一時間だけ待ってやる。来なかったらとっとと帰るし、その後は知らね。お前に対する義理は、俺にはもう無くなったからな」
俺はそれ以上言わないで通話を終えて大雅にスマホを返した。木村が困ったように言って来る。
「緒方、ウチと南海は友好を…」
「猪原、大雅、早川以外は知らねって言った筈だけどな」
押し黙った木村。これは友好協定にも組み込まれている事。あの夜の糞ふざけた呼び出しに対する最大の譲歩。
木村も猪原も、俺が南海の他の奴をやろうが口を出せる事じゃない。よって猪原は立派な協定違反をした事になる。
その代償を『みんな』に支払って貰う事になっても、俺には全く非が無い。
もうムカムカしてコーヒーを啜った。これで3杯目だ。カフェだからドリンクバーじゃねーんだぞ。本気で頭来るな、あの野郎は。
「隆、牧野の件も話せって言ったんだろ?つまり俺にも出向いて来いっつった訳だよな?」
頷く。言葉も出したくない。出せば叫んでしまいそうになるほどイライラしているから、ただ頷いた。
「じゃあ俺にも上等こいたって事でいいんだな」
指をボキボキと鳴らすヒロ。牧野の件で鬱憤がまだ残っているから、八つ当たりできるとほくそ笑んでいる。
「大沢、俺の顔を潰さねえよな?」
木村の問いに頷くヒロ。
「当たり前だ。西高は関係ねえ。俺と隆だけでやるから大丈夫だ」
「お前全く解っていねえよな!?」
だってもうぶち砕く事確定してんだから。だからその前に。
「遥香、波崎さんと生駒、楠木さんと先帰れ。とばっちり喰らうかもしれねーから」
「もうやる事は確定なんだね…」
溜息をつく遥香。こうなれば、誰が何を言おうが簡単に収まらないのが俺だ。
「緒方君を止めるのは大沢君の役目でしょ…」
げんなりして落ち着くよう促す波崎さん。ヒロがこうなったら俺を止める奴が居なくなるからだし、何よりヒロの事が心配なんだろう。
「俺が残るから大丈夫だよ。美咲は先に帰って」
生駒がストッパー役を買って出る。まあ、やり過ぎはよくないから、有り難いと言えば有り難い。
楠木さんは首を横に振る。
「シロはなんかあったら緒方君に加勢しちゃうでしょ?だから帰れないよ。電車賃も節約したいし」
バイクの後ろに乗れば電車賃タダだからな!!
「……もう止まらねえな…」
呆れた木村は大雅に何か小声で指示を出す。
「多分大丈夫だと思うけど…何故そんな事を?」
「保険だ保険。こいつ等が暴れまくったら、俺達だけじゃきつくなるかもだからな」
戸惑いながら頷く大雅、スマホを滑らせてピコピコと。
「何を頼んだんだ?」
「ああ…大雅の他に危機感を持っている奴が5人とか言っていただろ?そいつ等を呼んでもらったんだよ」
確かにそんな事を言っていたが、何故そんな真似をする?
「……お前の気持ちは痛い程解る。悪気があろうがなかろうが、猪原がやった事は規定違反…つうか、お前が出した譲歩案を無視した行為だ。身内を大事にし過ぎて『他所様』を蔑ろにした行為だ」
頷く。その通りだからだ。俺の譲歩は先述の通りだが、身内に拘って俺の事情も全く慮っていない行為。俺を呼び出したのも筋も義理も無い。ただ身内に義理を通しただけだ。
「俺もいい加減疲れた。この先を思えば、猪原と手を切った方が絶対にいい。さっき大雅の女…橋本が言った通りだよ」
頷く。その通りだからだ。薬や春日さんの噂、もっと言えば潮汐との問題も、ぶっちゃけ大雅さえいればいい。南海なんて甘ちゃんを庇うより、それが絶対に良い。
「立場上加勢は出来ねえ。だが、もう止めねえ。だけどやり過ぎんなよ?女共は俺と生駒が面倒見るから気兼ねすんな」
肩をポンと叩いて自分の席に戻った木村。南海を諦めたのか?それとも別の策を思い付いたのか?
「ちょ、緒方君…まさかとは思うが、猪原さんと戦おうと思っているんじゃないだろうな?」
殺気を見え隠れさせながら大雅が問うてきた。
「猪原と戦おうなんて思っちゃいねーよ」
「そ、そうか…それならいいんだ…」
「猪原が言う『みんな』を一方的にぶち砕くだけだ」
「もっと駄目だろ!!何考えてんだ!?」
安堵した直後の突っ込みだった。何考えてんだって、ふざけた真似のケジメだろ。
「ホントに喧嘩するの?多分20人は来ると思うよ?その人数を一人で?」
橋本さんが不安そうに訊ねて来たので、首を振って否定。
「だ、だよね、流石に20人は多い…」
「最悪南海全部をぶち砕く」
「もっと凄い返答がキタ!!」
仰け反って驚く橋本さん。多分そうはならねーだろうから心配はないけどな。猪原を入院させりゃ、手間が省けるし。
「と、兎に角容認できない!!猪原さんが来る前に君達は早く帰れ!!」
そう言って伝票を持った。全員の分のお金を支払うつもりか?
「奢らなくていいぞ。自分が飲み食いした分は自分で払うから」
「その話は後でいいから!!兎に角出て!!」
鬼気迫る勢いで言われたので大人しく従って外に出た。勿論自分の財布からお金を出して。
「は、早く帰って!!」
出てきた大雅が急かすが、俺、いや、俺達は努めて呑気に自分の分のお金を大雅に渡した。
「いいから!!ここは奢るから!!」
「そんな訳にはいかねーよ。結構コーヒー飲んじゃったしな。二千円近く使っちゃったし」
この人数に御馳走するとか、どんだけ金持ちなんだと言いたい。それに、借りは極力作りたくない。
猪原をやったらお前が出て来るんだろ?大雅。コーヒー代だと言って、わざと負けてやる訳にはいかねーからな。
「大雅、そんな事より、さっき頼んだ5人、到着はいつだ?」
「だから喧嘩なんかさせないから大丈夫だ!!」
「保険、って言っただろ?今回は大沢もやる気だ。いつも止める側の大沢がそんな様だ。どうなるか解らねえから保険だって」
保険と聞いて渋々ながら再びラインをピコピコ。そして返事を見た大雅の顔色が変わった。
「どうした?」
「…猪原さんに呼ばれて、一緒に向かっているそうだ…」
「猪原が?……いや、そうなのか?そうだとしたら……益々帰る訳にはいかなくなったな……」
なんかブツブツ言っている木村。誰が来ようと関係ない。目に映った南海生はぶち砕く。勿論猪原もぶち砕く!!
「緒方」
「なんだ?言っておくが、もう無理だからな」
今更止めようとか思うなよ?お前の今までの頑張りをパーにするのはちょっと心苦しいが、猪原を味方に付けても無駄だ。いない方がよっぽどマシだ。
「解ってんよ。さっきも言っただろ。猪原と手を切った方が絶対に言ってよ」
解っているのならいんだが、お前が素直にやっていいというのが、ちょっと不気味なんだが…
「……お前は高等霊候補、だったか?救うのが仕事だっけ?」
「そうだけど…お前がそんな事言うのが驚きだぞ?」
オカルトは信じねーんじゃ無かったか?いや、もうそんな事はねーのか…
「まあアレだ。お前なら解る。だから心配はしてねえが、大沢だな、問題なのは」
「言っている事がさっぱりだが…ヒロだって問題無いだろ?」
何人相手だろうが知ったこっちゃねえのが俺達だ。今日、数に負けても、明日から追い込みを掛けるから心配ないし。
「猪原はタイマンで倒してやれ。雑魚は全部大沢に任せてな、良いだろう大沢?」
「問題無い。そいつはくれてやっから、それ以外は全部寄越せ」
「だから駄目だって言っているだろ!!木村、君も煽るような事を言うな!!」
結構小声で話していたんだが、大雅の耳に入ってしまったようだ。
だけど、それがどうした?文句があるんならお前も向かって来ればいい話。それが嫌なら、お前がケジメで猪原をぶっ叩けばいい。出来ると言うのならな。
その後もやんややんやと止めようと頑張る大雅だが、時間は刻々と過ぎて行き…
そして、遂にやってきた。先頭は知らん奴。脇を固めているのも知らん奴だが、その群れのど真ん中に居る…
そいつ等は俺達からちょっと離れたところに立ち止った。これ以上は近付かないよとの意思を示している。証拠に殺気は無い。喧嘩する気すらなさそうな程。
だけど、ど真ん中に居る事がムカついてムカついて…
「大雅!!猪原って身体を張って仲間を守るような奴じゃなかったのか!!」
安全な位置にいるように見えて、つい大雅に叫んでしまった。
「緒方君!!だから喧嘩腰にならないで話を…」
そこまで言って言葉に詰まる大雅。5人ほど緊張しながらこっちに向っている奴等に目を奪われて。
「なんだこいつ等?最初の生贄って奴か?」
ヒロが臨戦態勢を取りながら近付く。
「……俺達は大雅に呼ばれたんだよ…」
そう言えば5人呼んだとか言っていたな。
「い、猪原さんに呼ばれてそっちに行ったんじゃ……?」
「なんか…大雅の傍にいろとか…」
この5人は味方なのか?だけど猪原に呼ばれたんだから、敵なのか?つうか、この5人は一体なんだ?
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