南海~001
牧野以外整列して、礼をして会場を後にする。
軽くミーティングをして帰る事となったが、俺達は友達と少し遊んでから電車で帰ると言ったので、其の儘大洋に残った。
で、場所を変えて近くのカフェでお茶している訳だが…
「…おい緒方、なんか注目されていて居心地悪いんだけど…」
隣に座っていた玉内が超こそっと俺に耳打ちをしてくる。
「お前の人相が悪いからだろ」
「お前…誘ったのはそっちなのに、その台詞かよ?」
呆れられたので、冗談は此処までにして、紹介する。
「さっきの俺の対戦相手、玉内和馬ってんだ。ちょっと話したかったから誘った」
何となく辞儀をする玉内。みんなもそれに倣って辞儀をする。
「ダーリン、玉内君に聞きたい事って何なの?」
「ダーリン!?」
目を剥いた玉内。これでも外では大分我慢させているんだぞ。言っておくけど。
「そんな事よりも、お前も自己紹介しろ」
促されて立つ遥香。いや、わざわざ立ち上がって挨拶しろって言っていないんだが。
とにかく全員自己紹介が終わり、改めて俺から切り出す。
「玉内は元潮汐なんだ。先輩相手に随分暴れまわっていたらしいから、興味深い話も聞けるかもって事で誘った」
「……噂は聞いているよ。夏休みに入る前に、潮汐の生徒が続々と病院送りになったって」
大雅が厳しい目を玉内に向けながら言った。
「昔の事…って言っちゃ、被害者に申し訳が立たないよな」
項垂れる玉内に優しくフォローしてやる俺。
「糞なんかどうでもいいだろ。一般人に被害行かなきゃ何でもいいさ」
「お前のその思考がシンプルで羨ましいぜ…」
木村にも溜息をつかれた。俺って常にそう言ってんじゃんか。今更だろうに。
「玉内、一つ聞きたい事があるが、いいか?」
ヒロが切り出す。玉内は頷く。
「牧野の入院先を教えてくれ。夜に追い込みかけるから」
「教えなくていいからね玉内君!!」
ヒロが訊ねたら波崎さんが必死に拒否った。いや、俺が聞くから結局同じなんだけど。
「じゃあ俺から聞くよ。牧野はどこの病院に行った?」
「シロにも教えなくていいからねー。無視しちゃって」
代わりに生駒が訊ねたら、楠木さんがレアチーズケーキを食いながら拒否った。俺が聞くから、どう転んでも同じだけど。
遥香が俺をじっと見た。その目は呆れの色が見える。やっぱこいつ解ってんな。
「玉内、俺には教えてくれるんだろ?」
「お前が一番駄目じゃねえか」
木村に突っ込まれるも、想定内なので何も言わん。
「緒方君には絶対に教えないでくれ」
大雅に突っ込まれるのも、想定内なので何も言わん。
「……お前、本当に何をした?ダチがこんなに心配するとか……」
「玉内君が想像している通りだよ。ウチのダーリンの噂、知っているでしょ?」
遥香の返しに頷く玉内。
「昔の俺みたいな奴は、顔見た瞬間殺される勢いで殴られるとか。実際、牧野の連れの前歯飛ばしたのも見たし」
「お前だってボディで全員潰していたじゃねーか」
人の事は言えまい。同じような事を、俺よりも多くの糞にやったのだから。
「アレはジムにこれ以上迷惑かけないように、一発で気を失わせただけだ。お前のパンチとは根本的に違うよ」
何が違うと言うのだ?結果は同じ事になっただろ。反論宜しく口を開く。
「そう言っても、アレ牧野の下っ端なんだろ?ジムと関係ねーじゃん」
「その牧野がジムに所属してんだろ。牧野を庇った、つうか、牧野のせいでジムにおかしな噂を立たないようにした、んだろ玉内?」
ヒロの問いに頷く玉内。あくまでもジムの為か。それじゃ感情其の儘で暴れようとした俺のパンチとは違うな。
大雅が嘆息して続きを言う。
「猪原さんとそこの木村を引き合わせるのに、緒方君も連れて来るのが条件だったんだけど、流石の猪原さんも後悔していたからな…」
知らねーよ。勝手に後悔しとけよ。お前が呼んだんだろうが。
「そ、そうなのか…猪原ってかなり甘い…いや、人格者だって聞いたけど、それでもか…」
甘いから人格者と言葉を変えた玉内だが、やっぱ世間の評価はそうなんだな。厳しさが全く感じられなかったし。
「ま、まあいいや、それで俺に聞きたい事って?」
「おう、そうそう、先ずは牧野の病院」
「それは俺も解らないから答えようがないな。救急車で運ばれたから総合病院だと思うが、そのまま入院するのか、それとも別の病院に転院させるのか」
じゃあその総合病院の夜に行ってみよう。
「大沢君は帰るんだからね!!」
「シロもそうだよ。明日学校があるんだから、送ってくれなきゃ帰れないかんね」
彼女二人に止められて項垂れるヒロと生駒。じゃあ俺しかいねーじゃん。
「ダーリンも帰るんだよ」
「え?なんで?」
素で驚いてつい聞き返してしまった。遥香が深く溜息をつく。
いや、お前は読んでいただろうに、今更だろ、それ。
まあいいや。じゃあ本当に聞きたい事(牧野の入院先も本当に聞きたいが)を訊ねよう。
「潮汐って薬やっている奴、もしくは売買している奴がいるか?」
訊ねたら全員に緊張が走った。得に遥香から。
「学校でやっている奴は見た事が無いけど、多分いる。特定はできないが」
「誰かは解らないが、いるんだな?」
頷いて続いた玉内。
「潮汐はあんな学校だ。過去に大麻を吸って退学になった生徒もいる」
流石に薬物等は退学になるのか。いくら潮汐とは言え。
「じゃあ連山のチンピラと関係ある奴、いるか?」
「連山かどこかは知らないが、確かにそれっぽい奴の出入りはあったな。と言っても珍し事じゃない。OBや中退した奴が仲間に会いに来る事なんかしょっちゅうだ」
こっちも特定できないって事か。そんな奴等の出入りが日常茶飯事なんだからそうだろう。
ヒロがスマホを操作して玉内の前に滑らせる。
「こいつだ。見た事ねぇか?」
じっと見る玉内だが、やがて首を横に振る。
「あると言えばあるかもしれないけど、自信が持てないから何ともだな。人違いの可能性も否めないし」
こんな連中の出入りがしょっちゅうあるって事の裏付けが取れた程度か。仕方ないけど。
「じゃあ女子だ。内湾女子の生徒が潮汐に出入りしているって話を聞いた事があるが、どうだ?」
国枝君が持って来た、春日さんが調べたネタだ。潮汐は馬鹿ばっかりだから、内湾女子の生徒が出入りすれば、かなり目立つ事だろう。
「内湾かどうかは解らないが、女子の出入りも勿論ある。つうか結構女子の出入りはある」
潮汐に女子が入り浸るのか…
「……海峡の生徒だな。あそこは女子の比率が多いが、殆どが…」
言葉に詰まる大雅。じゃあ生駒に聞いてみようと視線を向ける。
「海峡は普通高校だけど、偏差値が低いっていうか…白浜で言うと荒磯みたいな高校だな」
言っても荒磯も西高よりは偏差値が高いんだが。まあ、糞女ばっかって事だろう。
その中に私服で紛れているんだったら解らないよな。
「潮汐の内部事情が少し解っただけでも有り難い」
木村の締めに全員頷く。わざわざ来てくれただけでも充分有り難い事だ。
「結局質問に答えていない様に思うんだが…あんなのでいいのか?」
玉内の問いに頷く俺。
「充分だ。面倒臭くなったら潮汐全員やっちまえば済む話だと、改めて認識できたからな」
「……成程、噂に違わず危ねえな」
いやいや、お前の方だろ。志半ばで退学になったから出来なかったが、あのまま突き進んでいたら念願のトップになれたんだろうに。
「潮汐は本当にヤバい学校だぞ?それでもやるのか緒方君?」
大雅が若干不安そうな顔で訊ねて来る。
「必要ならな。お前等が動くなっつったから我慢しているだけなんだし」
「牧野は俺にくれよ」
なんか横から乗っかって来る生駒。
「何言ってんだお前。牧野は俺が追い込むっつってんだろ。波崎の仇、中途半端なんだから」
「それには同情するけど、牧野は俺の因縁だから、ここは引けない」
「ふざけんなよお前等。俺が頑張って頑張ってどうにか南海と友好関係を結んだって事を忘れんな。牧野はあんな野郎だが南海だ。猪原に義理が立たねえだろ」
ギャーギャー言い合うヒロと生駒と木村。
「面白い奴等だろ?」
「面白いっていうか…まあ…」
言葉濁しまくりの玉内だった。真面目になったんだから、こんな馬鹿共のようにならないようにな。
「玉内君、潮汐以外に友達っているの?」
なんかいきなり話題チェンジしてきた遥香。
「居るには居るが、少ないよ。昔はダチなんかいなかったから、つい最近なった連中ばかりだけど」
「どんな友達?」
「どんなって…普通のダチだよ。一人は見た筈だけど?」
見た?玉内の友達を?
「ひょっとして対抗戦に出ていた人?」
レアチーズケーキを食い終って生駒が頼んだコーヒーをパクリながら訊ねる楠木さん。全く遠慮していない所が、最後の繰り返しもやっぱり演技だったんだと思わせるよなぁ…
「ああ、ライト級に出ていた奴だよ」
「その人の高校は?」
身を乗りだして訊ねる波崎さん。その妙な迫力に若干怖気づくも答える。
「深海高校…言っても解らねえか…」
確かに解らないが、確か猪原が深海と内湾がどうのとか言っていたような気がする。
「内湾女子に知り合い居ない?口が固くて誠実な人」
更に身を乗りだして訊ねたのは遥香。おっぱいが俺の顔面に当たっているんだけど。
「内湾女子?バイト仲間に内湾女子が居たと思ったけど、親しい訳じゃないから、口が固いとか誠実とかまでは…」
めっさ困り顔の玉内だった。友達とか言っても浅い付き合いしかしていないんだろう。意外と俺と被るかも。コミュ症的なアレで。
困っている玉内を救出するべく、木村に話しを振った。
「木村、折角来てくれたんだから、玉内に何か聞きたい事は無いか?」
救出じゃなく別方向に振っただけだった。だけど女子にやいやい聞かれるよりマシだろう。
「うん?そうだな…潮汐で一番ヤバい奴、とか?」
「さあ…言っちゃなんだが全員ヤバいからな。色んな意味で」
「じゃあ…そうだな…黒潮の千畳と繋がりがある野郎、いるか?」
「千畳?そこかどうかは知らねえけど、大洋のモンじゃ無い奴は、確かにちょくちょく来ているみたいだな」
木村の瞳に鋭さが増す。
「お前って潮汐を辞めたんだろう?それってその前の話か?」
「いや、つい最近…って訳じゃねえけど、俺が辞めた後の話だな」
「辞めたお前が何でそれを知っている?」
「さっき言った深海の奴がそう言っていたんだよ。そいつ、家が潮汐の方だから」
成程、納得はした。だけどだ…
「なんで大洋の人じゃないって言い切れるんだ?」
見た事が無い奴だと言うのなら、大洋にもいるだろう。なんで大洋じゃないと言い切れる?
「なんか特攻服を着ていたらしいんだが、大洋に無いチームだったとか」
「チーム名解るか?」
「えっと…悪と鬼の文字がどうのとか言っていたな…」
悪鬼羅網!?
俺の思考は木村とヒロ、生駒と同じだったようで、みんなで顔を突き合わせた。
「そのチームがどうしたんだ?」
知らない大雅がキョトンとして訊ねてくる。
「……それが俺達が思ったチームなら、俺達の敵の一つだからだ」
「緒方、お前って敵が多いのか?牧野も敵扱いしていたし…」
玉内の疑問である。それに答えたのは愛しの彼女さん。
「ウチのダーリンは見たら殺すが評判だからね。恨みを持っている人もいるし、倒して名前を売ろうって人も勿論居るから」
旨い具合にはぐらかせてくれた。いや、別に正直に言ってもいいんだけど、それもあながち間違いじゃないからいいや。
「そうなのか?だけど的場を倒したんだから、その関係で暴走族の仲間が沢山いるとかないのか?」
「逆だ逆。こいつ、そんな連中大嫌いだからよ。的場の下だろうが、木村の仲間だろうが、ちょっとでも馴れ馴れしくしたら病院に送っちまう」
ヒロが言ったら大雅が激しく頷いた。同じようなシチュをライブで見たからだろう。
その大雅が思い出すように呟いた。
「南海では猪原さんと俺、早川さんがギリギリ許して貰ったよ。親しく話す事を」
「なんだその親しく話す事って!?俺はドンだけ高みにいるんだよ!!」
この三人以外は知らねえと言っただけだろ!!早川さんも実はどうでもいいんだけど!!
「じゃあお前は南海とも喧嘩するのか?」
玉内が疑問を呈しする。
「だから、喧嘩すんのかじゃなくて、俺が嫌いな糞は目に入ったらぶち砕くって事だ。それは南海に限った話じゃない、西高も黒磯もそうだよ。俺は大雅とは友達で、猪原は別口でちょっとあって、早川は憎めないからギリギリいいやってなっただけだ。南海全部が友達な訳じゃない」
「必要ならするって事か。成程、やっぱお前は危ねえな」
納得する玉内。危ないって…いや、お前は更生したから言ってもいいよ…
「でも、決して話を聞かないって訳じゃねえんだぜ。納得させんのが一苦労なんだが」
木村がフォロー…微妙なれどフォローした。
お前の顔も結構立てていると思うんだが…それでもその評価か…仕方ねーけど、世話になっている方が大きいから、何も言えねーし。
玉内が申し訳なさそうに顔を向ける。
「悪いが緒方、これからバイトがあるんだ。もっと話したいが…」
バイトがあるんじゃ仕方がない。生駒も大きく頷いているし。
「じゃあ連絡先交換しようぜ。今度は対抗戦云々じゃなく、普通に遊ぼう」
そう言ってスマホを出すと、玉内はあっさりと交換に応じた。新たな連絡先、ゲットだぜ!!
「俺もいいか?」
木村が訊ねると、便乗の如く、俺も私もとスマホを出す。
「いいけど、俺なんかと逆にいいのか?」
申し訳なさそうになった玉内に、何言ってんだとヒロが言う。
「俺なんかってなんだ?お前をお前なんかっつった野郎が居たら、俺がぶん殴ってやるから気にすんな」
「お前に殴らせる前に自分でやるだろ…」
潮汐全部と喧嘩しようとした奴なんだぞこいつは。危なさだったら俺以上かもしれねーんだから。
「いや、俺は喧嘩はやめたから…」
ボクサーならそうだろう。俺はボクサーじゃないからいいけど。
ともあれ、玉内は全員と交換して帰って行った。普通に手を振って、微かに笑いながら。
玉内が帰って暫し。
「さて、大雅君だっけ?ちょっとお話いいかな?」
遥香が何の脈絡も無しにいきなり切り込んで行く。
「なんか怖いな…なんだい?」
若干引き攣りながら、笑ながらも一応答える形を取る。
「内湾女子に知り合い居ない?口が固くて誠実な人」
「それ、さっき玉内にも訪ねていたよね?内湾に何がある?言っておくけど、あそこも南海と友好校なんだから、あまり無茶な頼み事は聞けないよ」
物凄い怪訝な目でそう言われた。
「無茶なお願いはその人に聞いて貰うから、誰かいない?」
こっちも凛として訊ねた。南海の事情なんか知ったこっちゃねえってのが丸解りだった。
「おい槙原、その目的の為に南海を友好校に引き入れたんだ。こういうのはもっと親しくなってから…」
木村が苦言を呈するも、遥香は首を横に振って否定する。
「木村君は潮汐の事で忙しくなるよ、多分。だから構えなくなる」
「だから代わりにお前がやるってのか?」
横から口を挟んだのは波崎さん。
「遥香が、じゃなく私達が、だよ。春日ちゃんは親友だからね」
「そうそう。内湾女子に犯人がいるとは言わないけどさ、それを調べるのはやっぱ女子じゃない」
楠木さんも凛として言い切った。これには男子全員面食らった。
「勿論、それだけじゃないけどね。知っているでしょ?」
遥香の含みのある言葉が大雅の好奇心を煽ったようで。
「内湾女子の何かを調べる為に内部に協力者が欲しい、って事だね。相当な何かがあるのか?」
「それはまだ言えない。隆君や木村君が信用しているって言ったけど、私はまだそこまで信じられないから。申し訳ないけど」
腹の内を晒したか。だが、これも誠意だ。どう応えるのかは大雅の勝手だが。
「そこまでハッキリと言われちゃ寧ろ清々しいけど、なんでそう思う?」
「猪原さんを信望しているから」
それは咎める目。その瞳の儘続ける。
「逆明利君って知ってる?尊敬しているとは言え、今の儘じゃただの盲信だよ。木村君が友好校の話を持って来なかったら、来年多分牧野って人に南海周辺は荒らされていた」
「それを言われると耳が痛いが、猪原さんは本当にできた人で…」
「先輩や他の人が当てにならないんだったら、君一人でもいいから頑張って説得しなきゃいけなかったんじゃない?聞いた話じゃ的場さんのおかげみたいだよ。木村君の苦労をなんだと思っているの?君もいい話だからって思ったから乗った話でしょ?」
「槙原、大雅も骨を折ってくれた事は事実だ。的場にいい所を持って行かれたような印象を抱くのは仕方ねえが…」
「わざわざウチのダーリンを夜に呼んで、喧嘩売るような真似させた事は許さない。ハッキリ言うけど、どこが出来た人なの?下を説得も出来無くて、なぁなぁで済ませているだけじゃない」
遥香的にそれが全てか…まあ、俺の為なんだよなぁ…木村が居なけりゃ、間違いなく暴れていただろうし…
「それについては…申し訳ないです」
素直に謝罪した。だが、遥香は追撃する。
「それは猪原さんの代わりに謝ったって事?それに関しては、君に落ち度はないから謝罪は必要ないよ」
「いや…俺は猪原さんに助けられたから…」
「へえ?猪原さんは出来た人って評判のようだけど、慕っている後輩に代わりに謝罪させるような人なの?それとも、君が自主的に謝罪したの?悪くないのに?それってどういう意味なのかな?謝っとけば丸く収まるとか思われているのかな?」
結構ガチで怒っているんだなぁ…ヒロも木村も生駒も慄くくらいは。波崎さんと楠木さんは我関せずで、追加のジュース頼んでいるけど。
「……緒方君、助けてくれ」
俺に止めてくれってんのかよ?遥香怒るとおっかねえんだけど…
「遥香、そろそろやめろ。どっちにしても、南海はノータッチになったんだから。少なくとも俺は」
「まあ…ダーリンがそう言うなら…」
渋々とだが、溜飲を下げてくれた。大雅、マジ安堵した様子。
「遥香は頭に血が上っているようだから、代わりに私が聞くけど、内湾に知り合いっていない?」
楠木さんが遥香の代わりに交渉に乗りだした。
「えっと、口が固くて誠実な人、だったかな?要するに信用できる人でいいんだよね?」
「うん。追加で友達が多い子がいいかな」
大雅が暫く悩んで、漸く口を開いた。
「……いる。けど、その話って俺には聞かせてくれないのか?」
「遥香が言っていたけど、まだ信用できないからね。緒方君達は信用しているようだけど、私達はまた別の話って言うかね」
「緒方君の彼女は、その、怒った理由は解るけど、君達も倣ったって事でいいのか?」
「違うよ。遥香だけじゃない、『そんなチンケな大将』に会う為に、随分苦労した木村君の彼女も良く思っていないんだよ。その子も私達の親友だからね」
猪原を容赦なくディスってんな…つか黒木さんも怒っちゃったのか。
「……女子を敵に回すと面倒臭いな…」
生駒の呟きに全員頷いた。マジでそう思ったからだ。心から。
「猪原さんの事は兎も角、そう言う理由じゃ紹介は出来ない」
「なんで?」
大雅はちょっと躊躇したが、仕方ないとばかりに続けた。
「そいつは俺の幼馴染で、付き合っているからだ。誰に言わないにしても、それじゃ君達は納得しないだろう?信用できないのなら尚更だろう」
幼馴染で恋人かぁ…それはちょっと、どうかなぁ…何かの拍子で大雅には知られちゃうよなぁ…
「じゃあその子でいいよ。紹介して」
発言した波崎さんに目を丸くした遥香と楠木さん。
「ちょ、波崎、まだバレる訳には…」
「なんで?いいじゃん。緒方君は大雅君が窓口なら、南海の話は聞くんでしょ?」
振られて咄嗟に頷く。まあ、話だけって事もあるからな。間違いじゃない。
「だったら大雅君は信用してもいいじゃない?」
「遥香もそうだけど、綾子も面白くないでしょー?南海に木村君がどれだけ振り回されたと思ってんの?」
「それは木村君の事情で、綾子が我慢しただけでしょ。大雅君には非はないよね?」
木村も咄嗟に頷いた。木村がやりたかった事を優先させて、黒木さんは我慢しただけだしなぁ…
「……そうだけど、その情報を猪原さんに渡されちゃ困るでしょ?私的に猪原さんは絶対に許せない人なんだから」
遥香は信じる信じない以前に猪原を嫌いな人認定してしまったから、少しでも情報を渡したくないんだろう。
そりゃそうだ。嫌いな人にアキレス腱を晒す様な真似、遥香がする筈がない。
だけど波崎さんの言っている方が、筋が通っているんだよな。遥香と楠木さんは感情論だし。
「……猪原さんには勿論、他に奴等にも情報を漏らさないよ」
怒ってもいい場面だとは思うが(ほぼ冤罪での八つ当たりだし)大雅が大人ぶりを見せた。
「うん。そりゃそうでしょ?漏らすような人を、緒方君は友達とは思わないよ」
波崎さんに断言されて項垂れる遥香。いち早く動いたのは楠木さんだった。
「ごめん、大雅君。優の言う通り。ちっと感情的になった。ホントごめん」
口調は軽い感じだが、真摯に頭を下げたのは伝わった。
「はは。いいよ別に。あの夜の事はホント返す言葉が無いからね」
実際そうだしな。やってもいいよってなったら、今すぐにでも菅野をぶち砕きに行くと思うし。
「…大雅君、万が一その情報が元で、猪原さんと隆君を天秤に掛けなくなってしまったら、どうする?」
春日さんの噂、須藤真澄の薬売買で、猪原と俺を天秤にかける事態になるのか?
よく解らんが、大雅はハッキリと言った。
「約束したよね?他に情報は漏らさないって」
確かにそう言った。違えたらどうなるかも解るだろう。少なくとも俺とは殺し合いになる。
木村の顔も潰す事になり、西高、黒潮と全面戦争に発展する可能性もある。
そのリスクを負いながらも俺と親しくなろうとしているのだ。疑うのは今更だと言える。
「……その子を紹介してください。お願いします」
躊躇を微塵も見せずに頭を下げた遥香。流石に男子は面食らった。あんなに怒っていたのにと。
「いいけど…君は俺を信用できるのか?そいつを信用できるのか?」
「君の事を猪原さんの盲信者だと思っている事は事実。だけど信用しないと思うのはまた違う。隆君のあの危険さも見たのに友達になったと言う事は、君も隆君を信用したからに他ならない。彼氏を信用した人を疑うのはあり得ない」
猪原に怒っているのは事実でも、いつもの遥香か…
俺を信用したから信用する。だけど多分一応が付く。俺は単純だが、遥香は用心深いから。
その大雅の幼馴染も。会って見極めてから付き合いを考えるんだろう。
それもどうかと思うが、その用心深さに助けられてきたのも事実だしなぁ…
「君も裏表なく話すんだな…それも信用を勝ち取る手段かな?」
「そうだよ。綺麗事を聞きたいのなら、他に言ってくれる人が居るでしょ?君達の大将とか」
やっぱり猪原をディスってんのな。だけどそれに関しちゃ同感だけど。
少し考えて大雅が携帯をピコピコ。また少ししてから大雅の携帯が振動する。
それを見て、頷いて遥香を見た。
「一時間、待てるかい?」
「…紹介してくれる人が此処に来るって事?」
頷く。そして続ける。
「さゆと君は相性が良さそうだし、結構いい友達になれると思うよ」
「さゆって?」
「
大雅がそう言ったら物凄い目で俺を見た。
「な、なに?」
「大雅君、彼女さんを愛称呼びしているんだよ!!隆君はそうしないの!?」
「いきなり何を言い出すんだお前!?」
その物凄い目は羨ましいって目かよ!!
さっきまでの怒りは何処に飛んで行ったんだよ!!変わり身が激しすぎるだろ!!
「だったら遥香も緒方君を愛称呼びすりゃいいじゃん」
呆れながら追加のレモンティーをコクコクする楠木さん。
「今でもダーリン呼びされているんだけど…」
この上更に愛称とか、お腹いっぱいになるわ。
「はは、じゃあ俺達も愛称呼びしてみるか、波崎」
「いや、いい」
ばっさり断られたヒロ。項垂れに加えて背景が黒く染まって行く!!
「おい、それはお前等だけの話にしてくれよな。綾子には何も言うな」
「木村君もくろっきーって呼んであげればいいのに」
「いうか!!」
苦言を呈した木村に返した遥香に、更に突っ込んで返した。
「…君達って本当に仲がいいんだな」
大雅が憧れに似たような瞳を以てそう言う。
「いや、たまについて行くのにギリギリな時があるぞ」
生駒の感想に頷く俺。尤も、俺はいつも突っ込む立場にいるけども。
いや、それよりも。
「お前って南海に友達はいないのか?こんな感じでじゃれ合い…のようにできる友達って?」
訊ねたら寂しそうに首を横に振った。
「仲間と友達は違うだろう?」
そうなのか?似たようなもんだと思うが…
「なんとなく解るな。対馬や水戸は友達って言うよりも、緒方を介した仲間って感じに近い」
生駒の同意。つか、お前等そこそこ話しするようになったんじゃねーの?連絡先くらいは交換してんだろ?
その旨を訊ねると頷く。
「それはそうだが、殆ど連絡した事は無いな…大洋の中学生、お前に頼んだ事があっただろ?その時くらいか」
じゃあ他校生の俺達の方が親しいんじゃねーかよ。
「それは俺も同じだよ。みんな猪原さんを介した仲間。一緒に遊ぶなんて事はないし、連絡も定時連絡みたいなもんだよ」
ふーん…意外と孤独なんだな、大雅も。だがまあ、幼馴染の彼女が居るんだから、いいとは思うけど。
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