二人目~005
途中、見張りの宇佐美に今日は帰れと河内が言って、其の儘駅に向った。
「で、なんでお前は付いてくんだ?」
「あの女の話、するんじゃねえのか?」
するの?と児島さんを見る。
「あのね、言っておくけど、なんでも解るって訳じゃないんだからね?過度の期待しすぎじゃない?」
呆れてやんわりと退けた児島さんだった。彼女は嘘を見抜けるのと危機感知が主だから。
「そう言われても、縋るもんがそれしかねえし」
「あの女が言った事が今のところ全てだよ。本気で力使ったのかも解らないんだし」
ひょっとするとあれ以上の力を使えるのか?
「大丈夫だって。向こうのおかしな技はこっちには通用しないんだし」
遥香が妙に確信を持って言い切った。こいつ、何か掴んだな?
「それ信じていいのか?」
「じゃあ聞くけどさ、なんで私達は忘れないの?とうどうさんって記憶に残さないんでしょ?」
「……そう言われりゃそうだが、それはなんでだ?」
「そこもまだ解んないけど、向こうのおかしな技は使えないって証拠にはなるでしょ」
納得と頷く河内。麻美が妙に引き攣って笑っているように見えるのは気のせいか?
それから電車に揺られて家に到着。遥香は俺よりも先に最寄駅で降りた。
「遥香ちゃん、珍しいね。絶対に隆の家に来ると思っていたんだけど。まだ時間も早いのに」
「考え事する時はそんなもんだぞ。わざわざ俺ん家で考え事する時もあるけど」
俺の頭じゃ真実には辿り着けないってのに、議論を交わせば見えて来るものもあるとの理由で来たりもするのだ。
しかし、見えても俺にはなかなか教えてくんないと言うね。付き合ってあーでもない、こーでもないと言い合った俺に対してちょっと冷たいと思う。
「しかし、槙原さんって緒方の事、ホントに好きなんだねー。中学時代から好きだったんでしょ?あの凶悪狂犬を」
「君の彼氏の過去も結構壮絶なんだけど……」
詳しく聞いた事がないから何ともだが、玉内も相当無茶やったんだぞ。
「隆と互角に殴り合ったってのビックリだよね」
「だね。緒方の喧嘩ってちょっと洒落になんないじゃない?それと五分とかパネエよねー」
「試合だから。喧嘩じゃないし」
尤も、ガチバトルならどうなるのやら。ボクシングの技術の他に喧嘩のテクがある訳だし。
そんなこんなで件の十字路に差し掛かった。
「じゃあね隆、いつきは私の家でお喋りするって」
「あ、じゃあ此処でみんなとお別れか。じゃあな」
「緒方、私はアンタ達が繰り返した事は知らない。これは絶対に知られないようにしてよね」
妙な迫力で釘を刺された。頷くしかないだろってな迫力で。
実際いろいろ面倒な事になりかねないから、その辺りは厳重にしている。少なくともそう自負している。
ともあれ家に着いた訳だ。
部屋に入ってマッタリ寛ごうと思ったら着信が。
やっぱり遥香か。素直に帰る筈は無いと思っていたんだよなぁ……
「もしもし?途中下車しないで素直に俺ん家に来たら良かっただろうに」
『あはは~。流石愛し合っている者同士、考えは同じだったか~』
なんかご機嫌に笑っている。
「麻美と児島さんは帰ったよ。あ、いや、児島さんは麻美の家に行ったんだったか」
『そこに居ないんなら何でもいいよ。じゃあどうしようか?此の儘電話で話してもいいけど』
いやいや、お前、俺にボイスレコーダー預けただろ。それの回収はいいのか?あの会話を聞きたいだろうに。
「いや、俺がお前ん家に行こう。だけど今すぐは駄目だ。別れたばっかでひょっとしたらコンビニに向かっているかもしれないから」
『じゃあ一時間後くらいならどう?』
一時間後でも怪しい。あいつの行動はイマイチ読めんし、児島さんも着いているから尚更だ。
「いや、晩飯時にしよう。ついでにお前の家の隣の惣菜屋で……」
『晩ごはんの時!?じゃあお母さんに言っておかなくちゃ!!彼氏が晩ごはん食べに来るって!!』
「え!?いやいや、隣の惣菜屋で適当に買っていくからっておい!!」
切れちゃったよ!!まだ話終わってないのに!!
え!?じゃあ俺遥香ん家の晩ごはん食べるの!?いや、何回も御馳走になっているから今更だけど、心苦しさも解って欲しいんだけど!!
夕飯時。やっぱり俺は遥香の家の前に来ていた。
理由はこの時間に絶対に来るように、とメールが送られてきたからだ。これは逃げられねーだろ。
何度もお邪魔しているとは言え、未だ緊張して呼び鈴を押す。あいつ、こんな緊張感感じた事無いんだろうか?
「はーい!!」とテンション高めの声とともにドアが開くと、部屋着の遥香がお出迎え。スカイブルーのモコモコパーカーと生脚全開のショーパンだ。
「お前、その恰好どうにかならないか?超可愛いけど」
「超可愛いと思ったら押し倒してくれても構わないんだけどなぁ……何で手を出してこないの?」
出したいけど出さねーんだよ。非処女のヒロインはウケが悪いんだよこの手の話は。
それを言ったら春日さんも楠木さんもそうじゃないんだけどな。まあ、こんなメタ話は兎も角だ。
「早く入れてくれ。お前のその恰好はご近所さんの目の毒だ」
「はいは~い。入って入って。今日はダーリンが大好きなとんかつだよ~」
腕をグイグイ引っ張りながら。お前俺が来るからってとんかつをオーダーした訳じゃないよな?
ともあれ、居間に通されると、すでにご飯が並んでいた。とんかつは確かにとんかつだったが、厚みがおかしかった。
「来たね隆君。さあ、早く座って。母さん、隆君にお茶」
「今晩は。いつも御馳走になってすいません」
礼儀正しくお辞儀をしての挨拶。俺は好青年を目指しているのだから当たり前の行動だ。
「いいのよ~。遥香の方がお世話になっているんだし」
お母様、笑ながら俺に座るよう促した。手に持っているお盆からお茶を置きながら。
その他無糖コーヒーも置かれた。食後に欲しかったけど、好意は無碍にしたらいけない。ありがとうございますと言ってそのコーヒーを一口含んだ。
「コーヒーもいいけど、折角だからあったかい内に食べようよ」
ご飯大盛りを装って渡しながら。
「うん。だけどこのとんかつの厚さがな……」
通常よりも二倍はあろう厚さのトンカツにしり込みをしているのだ。コーヒーは心の平穏を保つためには必要なのだ。
「だから、ご飯大盛りにしといたんだよ」
うん。お気遣い有り難う。だけど普通でいいんだよなぁ……
「隆君、遥香の言う通り、温かい内に食べた方が美味いよ」
お父様に言われちゃ従うしかない。なので戴きますをして喰らい付く。
厚いからでっかく口を開けなきゃいけない。そうは言ってもカットされているから食べやすいけども。
「美味いっす。マジ美味い」
厚さがちょっとおかしいが、遥香ん家のトンカツはマジ美味い。俺ん家のトンカツよりも美味い。
「ははは。良かった。母さんも料理した甲斐があったってもんだよ」
「そうですねえ。黒豚は美味しいですから、お料理の甲斐があったってものですね」
黒豚!?通りで美味い訳だよ!!コスト重視のウチのとんかつよりも美味いよそりゃ!!
わざわざ俺の為に買ってんの!?多分そうだろうなぁ……ますます申し訳なく思っちゃうから安いのでいいんだけど……
「あ、忘れてた。ちょっと待っててダーリン」
そう言ってご飯途中なのにどこかに行った遥香。つうか台所にソースか何か取りに行ったんだろう。出ている中濃ソースで充分なんだけど。
戻って来た時はソースは持っておらず、代わりにデッカイ器に入っている味噌汁を持って来た。
「かきたま汁でーす。お野菜も沢山摂らなくちゃだしね」
トン、と俺の前に置かれるかきたま汁。うどん入れるドンブリだろコレ。野菜でスープが見えねーよ、どこぞのタンメンかこれは?
つうか、野菜摂らなきゃとか言うが、生野菜サラダ、俺の前にてんこ盛りに盛られているんだけど……
「ははは。隆君は男だからな。そのくらい余裕で食べるだろ」
期待されているのか……?俺がお残しするとは微塵たりとも思っていない、そのキラキラ瞳は?
「足りなかったら遠慮しないで言ってね~。なんならとんかつもう一回揚げるから~」
いやいやいやいやお母様。足りないなんて事は絶対にないっすよ。寧ろ多いっすよコレ。
しかし、いつまでもしり込みしている場合じゃない。冷めたらうまくなくなる。
なので喰らい付いた。超頑張って。とんかつ厚いし、サラダは途中からドレッシングが届いていない程山盛りだし、かきたま汁もそれに近いしで超苦戦したが、どうにか完食できた。
代償でひっくり返っちゃっているけど。
「あはは~。やっぱ少し多かったかな?」
「ウプ……大丈夫だ……ゥプ」
全然大丈夫じゃないのに大丈夫と言ってしまうあたりに、男の悲しい性を感じる。
「ははは、腹ごなしにキャッチボールでもするかい?」
いやいやいやいやお父様。動くのも億劫な状態っすよ今。
「隆君デザート食べる?」
いやいやいやいやお母様。そんなの入る隙間ないっすよ、今の俺の腹は。
「じゃあ部屋に行こうかダーリン。そこならだらしない恰好で大の字になってもいいから」
「そんなの居間でもいいだろう?キャッチボールもしたいし」
「駄目ですよ。果物は別腹なんですから」
何か知らんが俺を置いて俺の処遇を決めようとしている。心情的には付き合いたいが、キャッチボールでもデザートでも今は無理だ。腹が是としてくれていない。
遥香がこれ以上の問答は不要とばかりに、俺を無理やり立たせて部屋に引っ張って行った。
そこで再び大の字になる俺。
「助かった……キャッチボールもデザートも今は無理だから……」
「あはは~。ダーリンが来るとテンション上がるからね、ウチの家族」
歓迎してくれているのは理解できるが、ちょっと行き過ぎじゃないかな……まあ、真面目に感謝はしているけども。
「コーヒーも無理?大丈夫なら淹れるよ?」
「あー……コーヒーは欲しいかな。固形物じゃないから腹へのダメージもあんま無いだろうし」
「おっけ。じゃあマンダリンとブラジル、どっちがいい?」
豆まで選べるようになったのかよ……ブラジルはややフルーティーで、マンダリンはコクがあって酸味が少ない。どっちも飲みたいのが本音だが……
「いっそブレンドにする?50対50の」
ブラジルとマンダリンのブレンドか……スゲー贅沢だな。
「じゃあブレンドで」
「はーい。じゃあちょっと待ってね」
そう言って降りていく遥香。流石にローストまでは聞かれなかったか。そこまで凝る必要もないしな。カフェじゃねーんだから。
恐らく仕度中だろう、その間下から声が聞こえる。
コーヒーには甘いものだとか、ケーキ買って来るかとかの。遥香の声で、それをオール却下しているのも聞こえた。
いや、ホント気を遣わなくてもいいです。このままそっとしてくれるのが一番有り難いです……
程なく、お盆にコーヒー二つ乗せて遥香が戻って来た。
「いや~、参ったよ。ケーキ買って来るだの、クッキーなら軽いからいいだろうだの、断るのに苦労したよ」
うん、聞こえていたから解っている。ご苦労だったな。
ともあれコーヒーを貰い、啜る。
「美味いな。いい塩梅にブレンドされている。ちゃんとフルーティだし、コクもある」
「ほんと?やった」
嬉しそうにガッツポーズを拵えて。そんな顔見たらこっちも嬉しくなっちゃう。
なんかほっこりしていたら、遥香が手を伸ばした?
「ん?なに?」
「ボイスレコーダー、聞かせて」
ほっこりしたのが消えた。身も蓋もない切り返しやめてくんない?付いて行くのがキツイんだけど。
まあいいやとボイスレコーダーをテーブルに置いた。俺が来たのは正にこの為だから。
あの時の会話は一時間を切るくらい。黙って会話を聞く遥香。
終わったら軽く息を吐いた。鼻で笑って。
「なんか気付いたか?」
「気付いたと言うよりも確信したって感じ」
そう言えば、今日とうどうさんが来たら確信に変わるとか言っていたな……このボイスレコーダーの内容のどこかに核心部分があったのか?
「何を確信した?」
「私の能力」
超ぎょっとして遥香を見た。したらば苦笑された。
「相当驚いたって顔しているよ」
「マジ驚いたからな……じゃあなんでそう確信した?そして、お前の能力ってなんだ?なんでお前にそんなビックリな力がある?」
聞きたい事を捲し立てたら、やっぱり苦笑された。
「じゃあ順番にね。前から不思議に思っていたんだよ。なんで気になっている事の情報が入るんだろうか?って」
今更!?それはお前が頑張って情報収集したからだろ!?
その旨を言うと微妙に頷いた。
「それは確かにそうだけど、都合が良すぎると言うかね。例えば河内君と最初に知り合った時の事、覚えている?」
「あれはお前が佐更木を襲った奴だって……」
「うん。黒潮からそんな情報が流れて来たんだよね。それ自体は不思議じゃない。黒潮に行ってその手の人に聞けば、多分みんなそう答えただろうから」
あの当時はそうだろう。あいつ佐更木に付け狙われていたし、佐更木も確実に河内を潰しとかないと的場に知られるから全力で捜していただろうし。
「売人の人と一緒の写メを見付けたのもいつもの私ならそうする。だけど、河内君がダーリンと接触するとは夢にも思わなかった」
「あいつも白浜に楠木さんを捜しに来ていたから、たまたまだろ」
「うん。たまたま。だけど、そのおかげでいろんなことが知れた。それは後になってからだけど、その事実はあるよね?」
まあ、そうだな。ぶっちゃけ連合や黒潮の事なんか知ったこっちゃねーけど、後の助けになった事は山ほどある。
「次は……そうだな……東工の事件」
「佐伯の糞野郎に乱暴されそうになったアレか?あんな無茶すんなよマジで……」
「まあまあ、お小言はもういいでしょ。言いたい事は、佐伯さんが生駒君を脅していたネタだよ」
うん?確か楠木さんが薬やっているのを知ったのが佐伯で、それをバラされたくなければ言う事聞けみたいな感じだったか?
「それがなんだってんだ。アレは麻美も気付いた事だろ?別におかしな事じゃないと思うけど」
「おかしいよ。東工じゃ佐伯さんしか知らない事だったんだよ?私がそれを知ったのって、殆ど憶測だったんだから。物的証拠は皆無で、状況証拠も乏しかった。まあ、麻美さんがおかしいのは置いといて、なんで私が知りたい事が断片的ながら解るんだろうって」
麻美がおかしいのは今の俺なら知っているからいいとして、それはやっぱり遥香が頑張ったからだろ?
「勿論情報集めを頑張ったのもあるとは思う。だけどちょっと都合が良すぎるかなって。それが今日の件で確信が持てた。私の力は『欲している情報を得る能力』だって」
都合がいいのは有り難いんじゃない?つか、能力って?
「お前はただの人間で、能力云々があるとは思えないんだが……」
「その疑問は正に『とうどうさん』の件から沸き起こった物なのだよ」
得意気に胸を張って、指をタクトのように振った。いつもながら、その自信満々の顔はやっぱこいつには必要だよな。落ち込んでいる顔マジで見たくないし。
「なんだよ、その疑問って?」
「『とうどうさん』は変な能力を持っているよね?認識を外させたり、記憶を改ざんさせたり。今日の子は好意を持たせるんだっけ?」
「まあ、そうだな」
「その変な能力は生き返ったから、じゃないかなと思った訳よ。国枝君も、隆君と揉めたタイのハーフは繰り返したって」
確かにそう言っていたな……繰り返したのが俺だけだと思うのは早計だって。
つまり、そのおかしな能力は、繰り返したから身に着いた物だと言うのか?だけど俺にはそんな力、無いけど……
「で、今日あの子が断片的ながら情報をくれた訳だから。やっぱり私の能力は欲しい情報が寄ってくると思った訳」
ふうむ……根拠は多分それだけじゃないんだろうけど、遥香なりに確信しているようだな……
「じゃあ俺にもそんな力がある訳だよな?俺の力ってなんだ?」
「みんなを守る力だよ」
……いやいや、何となく嬉しかったけど、その力はなんだって事だけど……
「そんな漠然とした感じのじゃ無くてだな……」
「いや、そうだよ実際。もっと言うのなら、自分の親しい人を厄から退ける力、だね。須藤が隆君の周りに出て来れないのもその力のおかげ」
……いや……いやいやいやいやいや……ちょっと待て……それは麻美の力な筈だ。
だが……麻美は悪霊だったから、寧ろもっと攻撃的な力……そう、川岸さんを怯ませた、悪霊の邪気のように……
だったら朋美が出て来れない力はやっぱり違う。悪霊の力は『俺の為の力』なんだから、他の人に影響しない……!!
「なんとなく心当たりがあったような顔だね」
「……不思議に思ってはいた。なんで朋美は俺及び俺の周りに出て来ないんだ?って。それが俺が無意識に発していた力なら納得だ……」
つまり、あの時麻美が驚いた顔をしたのは、演技だということだ。いや、演技じゃない、確かに驚いたんだろう。ただ俺が勘違いしただけで、本質は正にそうだったんだから。だが、その力の持ち主を勘違いした俺をそのままにしておこうと思ったんだろう。
つまり、麻美は何か危ない事を企んでいるのか?じゃあ何が危ない?児島さんやよしこちゃんが麻美が繰り返したのを信じたのは、何の力を見たからだ?
「あはは~。何か難しい顔して考え込んでいるようだけど、考えるだけ無駄だよ。だって無意識で使っている力なんだもん。私もダーリンも」
ハッとして顔を上げる。他の事を考えていたのに勘違いしてくれた……?
これこそあの時、まさに麻美が望んだ状況だったんだろう。だから自分の力として話した訳だ。
だけど、実際は自分の力じゃないから、突っ込んだ事は話せない。だって解らないんだから。
まあ、その辺は後回しだ。勘違いしてくれるんだったらそれに越した事は無い。
「いや、だったら児島さんの危機察知とかはどうなるんだ?」
「あれは霊能力でしょ。波崎のお守りみたいなものだよ。国枝君が一番霊力を持っているんだよね?だけど使い方が解らないからあんな力の出し方も解らない。んでしょ?」
「そう言っていたけど、国枝君のフルパワーってどのくらいなんだろうな……」
「ダーリンを他の世界に降ろせるくらいの力は持っているでしょ?」
そりゃそうだ。危機回避も浄化も屁じゃねーよその能力。つってもそれでも国枝君の力の一部な筈だ。
「それに、多分無限地獄に居る私を引っ張ったのは国枝君だよ。私が戻りたいと願ったから引っ張り出せたんだろうけど」
超ビックリした。国枝君が遥香を助けた!?
「な、なんでそう思う」
「なんとなく。記憶が戻ったって言ったじゃない?その時誰かに引っ張り上げられた感触もあった」
その感触が国枝君だって事か!?
「無限地獄に居る私はダーリンを捜して歩き回っていた。だけど、こうして恋人同士になったじゃない?愛も絆もあのキスで確証を得たじゃない?だから『傍にいる安心感』が出た。そこに国枝君が介入して……」
「ち、ちょっと待て。そんな一気に言われてもだ……」
「まあまあ、今のところ、ただの仮説だから。小説の内容を聞く感じでさ」
いや、そー言われても。愛も絆も辺りから、なんかこそばゆいんだけど!!
一度咳払いしてリセットする。
「言いたい事は解ったし、納得もした。じゃあトーゴーの能力は?」
「そこまでは解らないよ。ダーリンと揉めたのも成り行きみたいだし」
まあ、確かにな、玉内がムエタイだって言った程度か?ムエタイが能力って事は無いだろう。
ならばここから更に追おう。
「湖の死体はやっぱりとうどうさんの仕業か?」
「多分ね。だけどあの子曰く、殺しはしないと言ったじゃない?それを信じるとしたら、依頼じゃ無く私怨」
私怨か……恨みで人を殺す奴が向こうに居るってこったよな、それ。
「……やっぱ一度渓谷のザ・ワールドと話した方がいいのかもな……なんかヤバい事頼んじゃったっぽいし……」
調べている最中恨みを買って殺されたらかなわん。俺達が殺したようなモンになっちゃう。
「渓谷はやっぱり要だよね。その意見には賛成だけど、多分あの人たち、もう忘れているんじゃない?とうどうさんの能力でさ」
その可能性も否めないが、万が一と言う事もあるしな。
「忘れていたとして、その話をもう一度するの?それ逆にまずい事にならない?とうどうさんは忘れていないんなら仕方ないから消そうとか思っちゃったりでもしたら……」
「やっぱやめよう。不味いような気がしてきた。だけど、あいつ等と連絡先交換したよな?その事実がある訳だから、俺達と繋がっているのは本人達も覚えているんじゃねーか?」
「なんで繋がったかまでは覚えていないかもね」
ううむ……言った方がいいのか駄目なのか解らなくなって来たな……
「あ、そうそう、私の能力とダーリンの能力、内緒にしてよね」
「え?なんで?」
「なんやかんや言っても、確信したと言っても、サンプルが足りないから本当かどうかまだ疑わしいから」
確信したのにまだ足りないと言うか。やっぱりこいつ、慎重さんだ。病的な程に。
もうちょっとゆっくりしていきなさいと言われたのが11時を回ったあたり。
これ以上ゆっくりしたら次の日になっちゃうと言う事で、流石に断って帰路に着く。
バイクに乗らずに電車で来たので、帰りは歩きだ。おかげでゆっくり考え事が出来る。
俺の能力……朋美を寄せ付けない力。守る力だと遥香は言ったが、それはそれで大層有り難いが、俺の前にだけ出てくんないかな……
そうなればぶち砕けるのに。あの写メで見た死人のような状態から完璧死人にしてやるのに。
しかし、とうどうさんは朋美と会った訳だろ?よくあんななりの生霊に依頼を請けたよな。狭川と須藤真澄を消せ、だったか?
いや、それすらも国枝君や児島さんの仮説な筈。本当の依頼はなんだ?俺狙いだったらもっと解り易い事になる筈なのに。
……俺の能力が朋美の依頼を遂行不可能にしている、のか?だから依頼を変えざるを得なかった?
俺の頭じゃ真相に辿り着けない。だからという訳じゃないが……
渓谷のザ・ワールドにもう一度話を……いやいや、ヤバい事になりかねんと自分でも思ったじゃねーか。
いやいや、俺の能力が本当なら、あいつ等に危害は与えられない筈……だよな?俺が守ると決めたのなら。
それとも丘陵に行ってトーゴーを捜してぶち砕いてるか?
そっちなら簡単……って訳じゃないが、良心は咎めない。あいつ敵だし、あいつ自身もそう言ていたし。
それよりも黒潮か?あの女が好意を持たせる技を使って河内を使って狭川をどうにかしようって企みがあった訳だし、それが無くなった訳でもない。
そもそも、佐川の前にも、あれから朋美が出なくなったんだよな。情報の為に狭川の味方をすると決めたのも、あの糞を守る事になるのか?
そうじゃなきゃ佐伯ようにぶっ殺してもよさそうなものだからな……多分そうなんだろう。非常に気に入らんが、奇しくもあいつを守った事になるのか……
何となく後悔しながら気持ち走った。いや、いいんだが、後悔したような気になるのも仕方ない事だろう。
そんな心情を振り払うように、走った。小走り程度だけども。
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