西高~009
ぶつぶつうるせーヒロは置いといて、早速食事にありつく。
「……肉丼の肉、味染みて美味いな」
「そうか。俺には解んねえけど」
木村の感想に物調ズラで返すヒロ。気持ちは解らんでもない。
つーか楽しく飯食おうよ!!お前の自業自得じゃねーか肉丼はよー!!
「木村君は免許持っているのかい?」
耐えかねたのか、国枝君の話題チェンジ。
「7月が誕生日だからまだだ。単車は決まっているけどよ」
「へえ?なんだい?」
「カタナだ。実は既に家にあるんだぜ」
無免許運転じゃねーのかそれ?持っているだけだったらいいのか?
それよりも、実に楽しそうだ。国枝君と木村が。前回も気が合うと言っていたからな。今回も同じで良かったぜ。
「免許取ったらツーリング行こうぜ。緒方も誘ってよ」
「いいね。緒方君も400買いなよ?スクーターでもいいなんて言わずにさ」
俺に振られたか。国枝君は400押しだしなあ。
「そうだぜ?スクーターでもいいが、50はやめとけ。長距離疲れるぞ」
ツーリングに行くのは決定のようだった。いいんだけどもな。俺も行きたいし。
「……俺も免許取る」
此処で話題に入って来たヒロ。つってもさぁ…
「お前誕生日12月だろ。取るにしても来年の春だろ」
「いい。取るっつったら取る。だから……」
俺達に凄む。結構な迫力で。
「俺を仲間外れにすんな!!俺も誘え!!」
「お、おう。じゃあ来年の夏あたりに行くか?」
「そ、そうだね。来年なら資金を溜める時間もあるしね」
言い知れぬ迫力に了承する木村と国枝君。ああいうのは大勢で行けば楽しそうだし、いいか。キャンプみたいなもんなんだろ?
「じゃあ今から大沢の単車決めとこうぜ。買うっつう段階で迷っていたら困るからな」
「い、今から?」
裏返った声で聞き返す。俺にも400400うるせーんだぞ。お前のバイクが決まるまで、こんな調子になるぞ。多分。
「前緒方ん家に行った時、ドラッグスターがいいって言っていたな?ヤマハだし、俺や国枝と被らねえからそれにしろ」
「メーカーまで指定されんのか!?」
ビックリする俺とヒロ。じゃあ俺はカワサキってメーカーに決まりじゃねーか!!
それはそうと、国枝君に訊ねなきゃいけない。
「国枝君、今日こっちに来たのは、春日さんを誘う為か?」
噴き出しそうになる国枝君。咽ているし。
「な?何でそう思うのさ!?」
「いや、バイク来たから、送って行くのかな、と」
真っ赤になって俯いちゃった。図星を付いたって事だ。
「つってもメットどうすんだ?二つ買ったのか?」
木村の疑問もごもっとも。バイクの後ろに乗る場合も、ヘルメットは必要だからな。
「う、うん…買った…」
「そうか。じゃあ問題ねえな。メガネがバイト終わるまで、緒方の家で寛げよ」
いや、いいんだけど、寧ろ俺から誘おうと思っていたんだけど、お前が決めんな。
「そういや春日ちゃん、今日何時上がりなんだ?この店夕方から夜以外混まねえから、多分夜までなんだろうけど」
「そ、それはまだ聞いてない…聞く前に…」
俺達が来ちゃったからか…なんか悪い事したなあ。折角勇気を出して誘いに来たっての
じゃあ、ちょっとお節介を働こう。
俺は手を上げて春日さんを呼んだ。
「……お水?」
「うん」
「……だと思った。みんなのご飯、味濃いからね」
既にポットをスタンバっていた春日さん。気が利くなあ。
「あ、春日さん、今日何時に上がるの?」
「……7時、かな?お客さん次第で残業になるかもしれないけれど」
「じゃあ終わったら俺ん家おいでよ。遥香と麻美も呼ぶから」
目を剥いた国枝君。木村は感心したように唸っているし。
「……ご迷惑じゃない?」
「迷惑な訳ねえだろ。俺達も食ったら隆ん家行くんだから」
ヒロのアシストにも感心して唸る。ヒロもいい奴だろ?
「……でも…電車の時間、丁度だから…」
「そうなのか?だったら国枝に送って貰えばいい。こいつ今日単車来たっつってウキウキなんだからよ。幸いな事にメットも二つあるそうだ」
木村までナイスアシスト。これには俺達も驚いた。ここまでしてくれんのか?が正直な感想だった。
「……でも…国枝君も折角バイクが来たんだし…」
ヤバい、断る流れだ。かなり躊躇、ってか悩んでいるみたいだが。
「そうか。そうかもな。国枝が送り狼になったら洒落になんねえし」
「そ!そんなことしないよ!!」
木村の冗談に立ち上がっての抗議だった。春日さん、顔真っ赤になったし。
「……だ、大丈夫だよ?冗談だって解っているから……」
「そ、そうかい?だったらいいんだ…」
座り直す国枝君。木村がにやけた顔を崩さずに追撃する。
「さっきも言ったけどな、こういうのは早いもん勝ちの部分もある。気になっている女が他の男にかっさらわれたら、死ぬほど後悔するんだろうな。気になっている男の単車に他の女が乗っていたら、気が狂っちまうようにな」
「春日さん!!送るから緒方君の家に来てよ!!」
「……国枝君、お願いしてもいい!?」
同時に互いを誘い合う。俺達は声を殺して笑う。もう付き合っちゃえよ。
だがまあ、狙い通りにはなったか。あとは繰り返しの事を言うタイミングだな。遥香も呼ぶからその時に相談してみよう。俺一人だったら碌な考えが浮かばないし。
じゃあ、とスマホを取り出してコールすると、簡単に繋がった。休日に何してんだろうな?俺の彼女さんは。
『こういうのは普通男子から誘うものだよ?』
「心を読むなと言っているだろうが…マジで妄想も出来ん。それは兎も角」
『妄想しなくてもダーリンが望めば…』
「いいから!!取り敢えず聞け!!今大山食堂に来てんだけどさ、ヒロと国枝君と木村もいるんだよ。だからお前も来ないか?俺ん家に」
電話向こうで驚いた気配。俺も意外と心は読めるもんだな。
『木村君って…なんで!?』
「詳しい事は後で話す。だから来る?」
『うん行く。ダーリンが来いと言ったら、どこだろうと何時だろうと行く』
簡単に約束が出来た。そういやこういうのでごねた事無いよな、遥香は。
「俺も波崎呼ぶかな…」
「来るか来ないか解らんが、お前の気の済むようにすれば?」
多分来ないと思うけど。それはそうと、今度は麻美だ。
俺は麻美にコールする。こっちも簡単に繋がった。
『はいは~い』
「おう。今大山食堂にいるんだけど」
『え~?もうお昼ご飯食べちゃったよ。これ以上食べられないよ。しかも大山食堂でしょ?いっぱいお腹空かせている時に連絡するから、その時お願い』
誰が飯食いに来いっつったんだ。しかも俺が奢るような前提で話を進めるんじゃねーよ。
「飯食いに誘ったんじゃねーよ。そこにヒロと国枝君と木村もいるんだよ。春日さんもバイト終わったら俺ん家来るから、お前も来ない?遥香も来るし」
『響子ちゃんと遥香ちゃんも来るって?じゃあ行かない訳にはいかないよ』
それは来るって事だな?まどろっこしい言い方だが。
『んじゃ差し入れ期待しているからね~』
「差し入れ?自分家なのに?っておい!!」
既に電話は切られていた。何つう身勝手な幼馴染みなんだ!!
「お前も意外と女っ気あるのな」
感心する木村。女っ気っつうか、朋美に滅茶苦茶にされた交友関係で、最後まで残ってくれたのが麻美なだけだ。
その点は感謝もしている。俺を最後まで見捨てなかったのは麻美だけだし。他は知らん。切ったらしいしな。
それは兎も角、春日さんにも安心して貰う為に言う。女子一人で野郎の家には来たくないだろうしな。
「春日さん、遥香も麻美も来るって」
「……うん」
あんまり動じていない。ただの返事。春日さん的には国枝君さえ来ていればいいのかな?
「さっきの電話だと差し入れがどうとか?」
木村の問いに頷いて返す。麻美が差し入れをする立場だと思うんだが。
「ケーキでも買えばいいのか?」
「お前がケーキとかキャラじゃねーような気もするが…あんま気を遣うな。適当なスナック菓子でも買って帰るさ」
「……でも、終わるのは7時だよ?いいの?」
頷く。多分遥香も麻美も飯食って帰るだろうし。
「……大沢君は項垂れているけど?」
見ると燃え尽きたように真っ白になって俯いていた。なんで?
「さっき誰かに連絡したみたいなんだけど、繋がらなくてへこんでいる様なんだ」
国枝君がそう教えてくれた。つまりは波崎さんに電話したが繋がらなかった、と。
「バイト中だからだろ」
「……そう言われてみりゃそうか…」
大体お前、朝飯食いにあのファミレスに行っただろ。波崎さんに会いにさ。だったら今バイト中なのも知っている筈じゃねーか。
さて、食い終わったし、春日さんも来るって言うし、取り敢えず俺ん家で休憩しようか。
そう思って席を立ったその時、木村のスマホが鳴った。
「はい。………そうか。直ぐ行く」
なんかあったのか?と問うも、なんでも無いと首を振る。
「お前等が心配する事は起こってねえ。単純に話を聞きたいって連中が多いらしい。そりゃ、お前等と俺は協定つうか、ダチだから、そこそこ融通を利かせるか程度の話なんだが、西高は違う。お前等と事を構えたくない奴等が多いからな」
ああ、つまり俺達の約束の事をちゃんと聞きたいって訳な。駅裏で加勢したのが知れたんだろう。
それまであんま信じていない奴が多かったんだろうな。俺達が友達になったってのが。
「悪いがこれで帰る。あいつ等にも釘刺しとかなきゃいけねえからな。南女とファミレスに迷惑かけんなって」
改めて言い聞かせるか。頭になったタイミングだから、丁度良かったのもあるんだろう。
「そうか。気を付けて帰れよ?」
「ガキじゃねえんだからよ。じゃあな、緒方、大沢、国枝。またな」
手を上げて俺達より先に出る木村。ちゃんとお金は払ってくれた。
「え!?僕の分も!?」
「……あの人、全員分のお会計をしたから…」
なんと国枝君の分まで奢ってくれたのだ。ついでなんだろうが、気を遣い過ぎだろ。国枝君恐縮しているしさ。
「まあいいだろ。次に会った時に、ちゃんとお礼言えばいいさ」
「うん…そうだね…そうするよ」
つうかそれ以外にないだろ。一応連絡先交換したみたいだけども、わざわざ改めて電話掛けるのもなんかな。
「じゃあ春日さん。バイト終わったら俺ん家ね」
「……うん」
最後に接客業のバイトさんらしく「ありがとうございました」と礼をして俺達を見送ってくれた。
「……木村じゃないんだけど、もう付き合っちゃえば?」
「そうしたいのは山々なんだけど…」
躊躇している。腰が引けている。春日さんの病みを気にしているんだろう。
なので俺はこう言った。
「今日、春日さんに繰り返しの事を話そうかと思う」
目を剥いて俺を見る国枝君。そんな表情をされても、いつか言わなきゃいけないんだし。それにだ。
「記憶持ちかどうかも確かめなきゃいけない」
「…前に話をした、緒方君の世界から記憶を持って来れるってやつかい?春日さんも確かに中心に近い所にいたけれども…」
近い、と言うよりも、一年の冬は中心そのものだしな。
記憶持ちの可能性もあると思う。出戻って来た時にも出て来てくれたし。
其の儘何故か全員無言になって家に着いた。
俺の部屋に上がって貰い、話の続きをする。
「…さっきの話だけど、春日さんに繰り返しの事を話すのをどう思う?」
ヒロに聞いたんじゃない、国枝君に聞いたのだが、何故かヒロが答えた。
「いいと思うぜ。当事者だしな」
逆に国枝君から反論が出た。
「でも、春日さんは、その、緒方君を刺殺した、んだよね?その事実を言ったら、春日さんの精神状態はどうなるんだろう?」
それ故に国枝君が親密になるまで話そうと思わなかったってのもある。
精神的に充実した時に話そうと思った訳だが、逆にもっと異常をきたすかもしれないとの危惧もあった。
みんな知りながらそれを内緒に自分を笑っている、と思うかもしれない。
「ん~…でも、前は春日ちゃんにも言ったんだろ?でも何もなかったんだよな?」
「確かに言ったけど、その前に遥香と楠木さんが、俺が何故か知っている事を勘付いて、春日さんに話したのが最初だ」
俺は一年の文化祭前におかしい事を勘付かれてみんなに話しただけ。あの時誰も気付かなかったら、多分誰にも話さなかった。
こんな話を誰が信じる?と思っていたから。
「…僕以外知らなかった、んだよね?おかしいと気付いたのがみんなで」
「波崎さんは麻美が憑いていたのを気付いたみたいだけどな」
「今回も信じると思うかい?」
それなんだよなあ…俺だったら信じない自信があるから、どうにも説得しにくい。
「木村も信じなかったよな。春日ちゃんはどうだろうな?」
「木村も若干は信じてくれたと思う。楠木さんが接触してきたら教えると言ってくれたし」
信じなかったらそんな真似もしないだろう。前回と同じく半分は信じたと思う。あいつ結構ノリノリだったし。
つーか信じる信じないじゃない。性的虐待の事を知っていると知ったらどう思うかが重要だ。
「国枝君は春日さんの事を今現在でどう思う?」
「え?か、可愛いと思うよ………」
ごにょごにょと。顔真っ赤にして。
「俺の話は信じてくれているんだよな?」
「勿論そうだよ。春日さんの暗い過去もね」
性的虐待の事を知りながらも、可愛い人だと好意を寄せている。
ならばやはり話した方がいい。遅くなったらそれだけタイミングが難しくなる可能性もある。
ガラガラと玄関を開ける音。トタタタタ、と少し小走り気味に階段を駆ける音。
「きたよー」
顔を覗かせたのは麻美。意外と遅かったな?連絡した後直ぐに来ると思っていたから。
「おう日向」
「…大沢ボロボロじゃんか?あー、隆もか。うん。見切ったや」
慣れたもんで心配すらしてくれないと言う。いいんだけどな。下手に心配されたら、今後の活動に差支えがあるから。
「で、誰とやったの?そう言えば木村君?って人も居るとか言っていたけど?」
座布団にペタンと座って質問。国枝君に挨拶しろよ。
「木村君は帰ったよ。用事が出来たと言ってね」
「国枝君は綺麗なカッコだね。流石に隆と大沢にそこまで付き合わないか」
ケラケラと小馬鹿にしたように笑う。俺達をなんだと思っているのだろうか?
「つか、木村君って誰?」
「あー。木村は西高の一年だ。前話しただろ?前回世話になったって」
「あー。あー。そう言えばそんな事言ってたね」
ガクッと項垂れた。本当にあんまり信じていないようだな。大まかには信じているらしいが、眉唾もんだ。
あんま興味を示してねーしな…そうなると、やっぱ麻美は記憶持ちじゃないのか?
ガラガラと玄関を開ける音。トントンとごく普通に階段を歩く音。
「ただいまダーリン」
顔を覗かせたのは遥香。この様に、自分の家の様にリラックスする振る舞い。緊張の欠片も見せない。
「遥香ちゃーん」
「麻美さーん」
なんか瞬間ハグし合うし。こんなに仲良かったっけ?
「…随分ボロボロだねえ?木村君がどうのと言っていたから、西高絡みかな?」
こっちもあんまり心配はしないと言う。それよりも詳細を聞きたい節が見受けられる。
ヒロに目を向けると、あれこれそうよと顛末を話す。
「なんだ。今回は大沢に付き合ったんだ」
やはりあんまり興味を示さない麻美さん。
「じゃあ木村君は西高のトップになったんだよね?」
こっちは興味津々とばかり身を乗り出す。俺に。話したのヒロなのに。
「うん。仲間にその報告と言うか釘刺しと言うか、それで木村が帰ったんだ」
「やっぱ早くなった方か~。だけどこれで南女とファミレスに被害は行かないね。良かったね麻美さん」
「うん。と言うか私は絡まられた事無いけどね。幼馴染が超凶悪で有名だから」
その超凶悪な幼馴染とのツーショット写メで追っ払ってんじゃねーかよ。まあ、悪名も抑止力になるからいいんだけども。
まあいいや、と、今度は春日さんの事を相談する。
「う~ん…春日ちゃんも信じないんじゃない?どこから噂が出たと思って傷付くかもだけど」
麻美は信じないが傷付くだろうと。自分もあんま信じていないからか?
「……ちょっと解らないよね。友達全員が知っている事に、酷く驚く事は間違いないと思うけど」
遥香はみんな知っている事に驚くだろうと。
「…だけど早めに言っておいた方がいいと思うけど」
「だから、当事者だからいいと思うぜ俺は?」
「でも、知られたくないと言って刺し殺すんだよ?」
「だから、信じないかもしれないじゃん?」
「う~ん…どう転ぶか予想できないなぁ…」
ちょっとしたカオスになった。意見がバラバラ。これを纏める器量は俺には無い。
なので結論と言うか、決定事項と言うか。兎に角俺の独断で進めたいと思う。
「春日さんに話す。繰り返し、出戻りの事、信じなくても構わない。だけどみんな知っているから大丈夫だって事を伝えたい」
これをクリアしないと、春日さんはいつまで経っても本当の友達になれないと思う。
隠し事して俺達と付き合っているんだから、引け目を感じるだろうから。
「だ、だけど緒方君、その事で病みが悪化したらどうするんだい?」
「その為の俺達だろ?俺達は春日さんの友達なんだ。過去の事なんざ関係ない。今現在友達なんだよ」
「要するに、知っているけど何?春日ちゃんは春日ちゃんでしょ?って事を言ったり態度で示せばいい、と?隆の癖に生意気に考えているんだねえ」
感心する麻美さんだが、所々酷かった。
「そうだね。友達がこんなにいるから大丈夫だよ」
遥香も賛同してくれた。つうか大抵俺の考えに賛同してくれるけど、いいのか?おかしな事になったら修正できる自信の表れかもしれないが。
そして俺達の意見を聞いた国枝君が、意を決したように口を開いた。
「…緒方君、その話、僕がしてもいいかい?」
「国枝君が?」
この申し出は予想外だ。どうしようと遥香に顔を向けるが、国枝君が構わずに続けた。
「それでも、どんな過去があろうとも、僕は春日さんが好きだと言うよ」
………
「おおおおおおお!!!!!」
絶叫してしまった!!遥香も目をまん丸くしているし!!麻美も声も出せない程ポカンとしているし!!
ヒロだけだ!!呑気にコーヒー啜っているのは!!
こいつのこのあんま気にしていない感、結構ピンチだぞ?
国枝君は告白するって言ったんだぞ?仲間しかいないとはいえ公開告白なんだぞ?お前のパクリとは違うんだぞ?
「……国枝君なら絶対OKだよ!!」
「私もそう思う!!!」
ほら、女子の反応も好感だし。お前の時は引かれていたし、呆れられていただろ?
と言う事は、国枝君と比較されちゃうんだぞ、波崎さんに。いいのかそんな呑気で?
俺の心配を余所に。こいつは何故か上から目線で…
「そうか。まあ、頑張れよ」
お前が頑張れよ!!いや、国枝君にも頑張ってほしいけど!!
「うん。頑張るよ」
改めて決意した国枝君。ヒロの激励(?)が切っ掛けではないだろう。女子二人がやれると踏んだからだ。
でも、上手く行くとは俺も思う。
既に両想いっぽいしな。やっぱ懸念は性的虐待を知っているって事だ。
それを知ったら春日さんはどう思うのだろうか?取り乱すのか?諦めるのか?
いずれにしても、友達がいっぱいいるんだ。何とでもなると信じる。
それから親父とお袋が帰ってきて、案の定飯食ってけと誘って。
女子二人はやっぱり遠慮なんかせずに、はいはいと。国枝君もごちそうになりますと。
ヒロも当然食卓に着いた訳だが…
「…やっぱ波崎呼ぼうかなあ…」
さっきからこればっかである。鬱陶しい程こればっかである。
「だから呼べばいいじゃねーかよ…」
うんざりして返したこの言葉も、10を超えてから数えるのをやめた。
飯に集中していないせいか、から揚げがちっとも減っていない。
「いや~…大沢君って結構面倒臭いね~…」
さっきまで一緒に呼べばいいと言っていた遥香も、持て余し気味だった。
「大沢、から揚げ食べないんだったら頂戴」
麻美なんて返事も待たずにから揚げパクっているし。それにも気付かない。上の空である。
「遥香、呼んでやれよ?」
「いいけどさ、幻滅されない?彼氏が友達の彼女を介して呼ぶなんて、とか」
するのか?遥香ならするのかな?まあ、俺だったら来る来ない別にしても誘うけど。
しかし、ヒロを止める国枝君。妙に焦りながら。
「悪いけど、今日は遠慮して貰えないかい?ほら、あの話をするんだからさ…」
成程、春日さんにとっては知られたくない話だ。知っている人は少ない方がいいだろうし。
「そりゃそうだけど「そうだな。そうした方がいい」えええええ~…」
ヒロの反論に被せて俺が同意した。
「そうだね。隆君の言う通り、そうした方がいいね」
「お前は隆の考えに全て頷くじゃねえかよ…」
不満気なヒロだが、そういうもんだろ。お前だって最後の繰り返しの時、波崎さんに逆らわなかったぞ?
「うん。国枝君の言う通りだね」
麻美さんもヒロからパクったから揚げを頬張りながら同意する。
「そりゃそうだけどさ~…う~ん…」
「そんなに会いたきゃ、今からどこかで待ち合わせしてデートでもして来い」
「夜はあんま会ってくんねえんだよ」
警戒されているなあ…無理も無いか。仮彼氏だしな。
飯も終わり、部屋でマッタリ。国枝君だけはそわそわしているが。
「もうちょっとで7時になるから。焦んないでよ」
「いや…うん…焦っていると言うか、逸っていると言うか…」
つっても7時に終わるのかも怪しいみたいだけども。お客が多けりゃ残業になるようだし。
「春日ちゃん、晩御飯どうするの?買って来るんだったら、私がコンビニから何か仕入れておこうか?」
麻美さんの気遣いだった。俺ん家でタダ飯食っている人と同一人物とは思えない程の。
「バイト先で賄いが出るからね。量が多くて食べるのが大変だって言ってたよ」
遥香の返しは勿論春日さんから聞いたんだろうけど、春日さん、多分俺より食えるぞ?海に行った時のバーベキュー、木村が青ざめたくらいだし。
「大山食堂は基本大盛りだしな。春日さんは何が好きだって言ったっけ?」
「春日ちゃん好き嫌いないから。温かいものが食べられて嬉しいとは言っていたけど」
俺ん家で飯食った時もそんな事言っていたよな。父親の性的虐待が無くても、母親が看護師だから、作り置きとかが主流だったんだっけ?
「俺は肉が好きだな」
誰も聞いちゃいねーのに、自分の好きなモンを言うとは、やっぱり可哀想なヒロだった。誰も返事をしないし。
「あ、でも甘いものは好きだよな。カスタード&生クリームDX」
「うん。殆ど毎日それ食べているよね」
項垂れるヒロ。誰も自分の発言を拾ってくれなかったから悲しんでいるのだ。つうか構うのも面倒だけど。
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