北商~005
お好みをモグモグしながら木村が言う。
「緒方、南海だけどよ、お前ルール、もうちょっと優しくして貰うからな」
「はあ?俺は別に厳しい事は言ってないだろ?大雅派だけは敵認定を解除するってだけだ」
さっき来た30人くらいだろ?下手に馴れ馴れしくしないのなら別に……
「ところが、そうも言えなくなった。緒方君の大っ嫌いな人種が派閥に加えてくれと言って来たからな……」
大雅が苦い顔でそう言うが、南海も隠れ糞が居るから別に?
「だから、お前がケジメ付けてくれればなんでもいいってば」
「……持ちかけて来たのが潮汐だとしても?」
流石に吃驚した。潮汐が大雅派に?
木村が追記とばかりに口を挟む。
「潮汐の一年がよ、あの喧嘩の事を知ってよ。あの騒動には参加しなかったんだな。まあ、それは兎も角、俺達も仲間に入れてくれって来たんだよ。10人くらいだけどな」
「玉内にも聞いたんだが、そいつ等は別に目立っていなかったから知らないと。中学時代も派手に暴れていた事も無い。そうだな……君の知り合いで言えば水戸に近いかな?」
「潮汐にもまともな奴がいたのかよ…そっちの方が驚きだ……」
言ったら木村が噴いた。
「なんだよ?おかしな事言ったか?」
「いや、水戸をまともと評するとか、お前も随分丸くなったもんだなと思ってよ」
まともじゃねーかよ。少なくとも狭川みたいな奴よりは。見た目が糞でも中身が違うんならいいんだよ。
だけど言いたい事は解った。
「潮汐も混じったから俺ルールの範囲を広げろって言うんだな。だから、それは別にいいんだってば。なんかあったら大雅に文句言うんだから」
頷く二人。答えを知っていたかのように。
「まあ、お前は元々そのスタンスだからな。なんかあったら俺達に言うし、目に余ったら関係なくぶん殴るっていう」
「そうだよ。今更だ。俺は友好校協定に関わっていないんだから、そんな話をされても逆に困る」
単に危険人物指定されているだけだろ。解除してくれと頼んだ事もねーんだし。
「じゃあ潮汐の連中を派閥に加えてもいいんだな?」
「だから、それはお前が決めろよ。俺には関係ない。あくまでも大雅派は敵認定しないってだけで、俺になんかしない限りは俺もどうもしないし、俺の前でふざけた真似しなければなんでもいいんだし」
何で南海大雅派の人事まで俺が関わらなきゃいけねーんだって言うね。
「逆にそいつ等に言ってくんね?俺にあんま関わるなって」
「それは勿論そう言ったよ。緒方君はちょっと洒落になんないから距離を置く様にって。片山も深海の新しい仲間にそう通達を出したし」
じゃ安心じゃねーか。なんかあったらお前に言うんだし。お前がケジメ付けてくれればいいんだし。
「じゃあ大雅派って結構な人数になったのか?」
「そうだね。猪原さんに比べるとまだまだだけど、南海は勿論、深海、内湾、潮汐と、そこそこ数は集まって来たよ」
人数が多いと纏めるのも大変だぞ。しかし南海大雅派ってのは小さい連合みたいな感じになって来たな。
「だけど、潮汐の奴等がお前の傘に入って上等こいて暴れたりしたらどうすんだ?」
南海でもあっただろ。具体的には菅野とか。
「そうした場合、もれなく粛正する。それは別に潮汐の奴等だけじゃない。南海も深海もだ」
「できるのか?」
「やるよ。猪原さんを裏切った連中をやった時に、南海の仲間にそう告げたから、少なくとも本気だって事は伝わったと思うよ」
そうか。だったら安心だな。
「じゃあ次は木村、安田の詳しい事情を説明してくれ」
俺にとっては南海大雅派よりもそっちの方が重要だし。
「おう、阿部と神尾が安田を探っているのは知っているな?つうかお前が頼んだようなもんだし、当然知っているだろうが、安田は以前、羽振りが良かったが、ここ数か月は全然で、あの単車も売っぱらって金を作るまで落ち込んでいた」
「それは既に知っているが……」
今更だろ、それ。俺が知りたいのはそのお金が誰から流れていたか、だ。
「で、あいつ、羽振りの良かった頃の癖が抜けなかったようでよ。単車売った金も使い果たして、だけど浪費はやめられなくて、遂には神尾に金を貸してくれと頼んで来たそうだ」
「馬鹿だろあいつ。神尾もそんなにお金持っちゃいねーのは知っているだろうに」
お前と同じくらいお金持ってねーだろ。バイトもしていないんだし。
「で、神尾は当然断った。持ってねえからな。だけどその時ちょっとカマを掛けた。「お前のパトロンから金貰えばいいじゃねえか」と」
「………うっかり口を滑らせた?」
頷く木村。やっぱ安田は馬鹿だな。それを利用しようとした朋美も大概な馬鹿だ。
「その時の言葉が「須藤にどうやっても連絡がつかねえんだ」だったそうだ」
確定したって事だな。それで阿部がお前に話したって事か?
その旨を訊ねると頷く。
「そこまで言ったんならもういいだろ、って事で、呼び出して。お前が緒方の情報を須藤にリークしていたんだな?から始まって……」
「お前が怖いから全部喋ったと」
頷く。そして追記する。
「俺が須藤の事を知ってんの、逆に酷く驚いていたぜ。それってつまり、須藤の方は安田に何も情報を渡していなかったって事だよな?そりゃそうだ。金で雇われてんのは安田だけだ。須藤は雇った側。情報交換なんてしてやる義理もねえ」
まさしくその通りだ。安田にしてみりゃ、俺にバレなきゃ良かっただけだ。木村経由で伝わるのも恐れてはいただろうが。
「で、ダチにふざけた真似をしたって事で、程よく痛めつけて、お前に話すからな、と」
「じゃあ俺も安田をぶち砕いてもいいんだな?」
「勿論、そのつもりで話したが、逆に止めるつもりでもある」
「無理だろ」
お前も知っているだろうに。漸くぶち砕ける理由が出来たんだ。躊躇も遠慮もするもんか。
「だから、それを取引に使うんだよ。お前のみの安全は保障するから、今まで流した情報を全部寄越せ、これからは俺の偽情報を流せ。とかな」
え~……そんな面倒な真似を……
しなけりゃいけないんだよな……朋美を躍らせるルートが出来たって事なんだから……
「ん?だけど朋美と連絡が付かないって言わなかったか?」
だったら偽情報を流そうとしても無駄なんじゃ?
「一方的にメールは出せるだろ?こんだけ情報を流したんだから金くれって言えば、信ぴょう性も増すってもんだ」
そう言うもんか?まあ、俺だったら信じちゃうかもなぁ……
つか、連絡付かないで思い出したが……
「里中さんも言っていたよな?爽やかポニーが退会したって」
「そういや言っていたな。安田も連絡が取れない………」
何かの勘が働いたようで、考え込む木村。俺もなんか引っかかるけど……
「……狭川や須藤真澄は連絡取ってんのか?」
「生霊相手に、直接ならな」
そこで今まで沈黙していた大雅が口を挟んだ。
「……もう死んでいた、ってオチは無いのか?アレは生霊じゃ無かった。本物の幽霊だった、とか……」
少し考えて首を横に振る。
「そうだったら狭川も須藤真澄も知っているから教えてくれるだろ。親戚が死んだ事は流石に親経由で聞くだろうから」
「そうか……それもそうだな……じゃあ、連絡が付けられない状況になった、とかは?」
それって一体どんな状況なんだ?あの狂人は自己都合で勝手に連絡するし、連絡を無視するような奴なんだが。
「例えば入院したとかはどうだ?病気によってはスマホ禁止とかないか?」
そう言えば……精神に異常をきたして入院した時は、携帯禁止だったな……
あれは麻美が祟ったような感じになった副産物だったか……
…………麻美が祟った?
全く証拠はないが、俺は麻美が記憶持ちだと思っている。遥香は悪霊の力を持っていると推測している。
まさか、今回も麻美が朋美を祟ったのか?俺と関わりが深い奴等の前に出て来られないってのも、ひょっとしたら麻美の仕業か?
なんかざわざわする……嫌な予感ってヤツだ。
「そうなった場合でも、狭川に連絡がくんだろ。スマホも弄れなくなった重病患者になったんだ。親が狭川に言う筈だろ」
木村の言葉に引き戻される。
そうだ、そうだよ……そんな重病になったら、親戚なんだから話は行くはずだよ……
「だけど、話によれば……えっと、川岸だっけ?霊感があると言う女がおかしな事を話しだしたのも、連絡が付かなくなった時期と大体一緒じゃないか?」
それもそうだ……
川岸さんが俺の話を細かく知って来たのも、サイト退会と同じ時期だった……
なんか繋がっている様な……しかも、悪い方に繋がっている様な……
軽く頭を振って、その嫌な予感を振り払う。そして無理やり天むすに齧り付いた。
おかしな考えを思い浮かべないように……
食い終ったので店を出る。早い晩飯なので、食い終った時間も早かった訳だが……
「これからどうすんだ?」
話は終わっただろうから帰るのか?まだ時間は早いけど。
「そうだな。大雅、もう帰るか?」
「いや、もう少しいるよ。さゆからも調査を頼まれたから」
俺と木村が顔を見合せた。調査ってなんだ?
「川岸って女は女子だけでやるらしい」
「う、うん。遥香も麻美もそう言っていたけど……」
「綾子もそう言っていたな。じゃあお前は川岸を探って来いと橋本に言われた訳だ」
頷く大雅。だけどだ。
「遥香達から情報は回って来てねーの?」
「いや、当然さゆにも来ているよ。俺には細かく報告してくれないから確実とは言えないけど……」
「なんでお前に報告しねえ?ん?そういや綾子も細かく報告はねえな?」
言われてみれば、遥香もだ。途中経過も碌に言ってくんないな?
「女子だけでやる事に拘っている様なんだよ。国枝は別だけど」
まあ、国枝君はオナ中で元サークル仲間で、知り合いも被っているから戦力になるって事で誘われた、もしくは自分から名乗り出たんだろうけど。
「今解っているのは、日向さんの藁人形だね。暇を見付けては探しているらしいじゃないか?」
頷く。その通りだからだ。
遥香に限った事じゃない。倉敷さんも鮎川さんも、春日さんも波崎さんも、それっぽい所を探しているのだ。
「藁人形を探すだけで結構大変だから、川岸の情報は碌に集められない状況で、俺が今日こっちに行くから、丁度いいから何か探って来て、と」
そんな簡単に探れるか!オナ中の国枝君や黒木さんが頑張って漸く、って所だろ!
「大体倉敷さんから情報を貰っているだろ?大雅が探れる情報なんか大した内容じゃないと思うんだけど……」
「俺もそう言ったんだけど、何もしないよりは可能性が高いからって」
まあ、そうだな。何もしないのなら0だが、行動するんなら0じゃなくなる。
「じゃ、まあ……だったら北白浜に行ってみるか?無駄足になるだろうけど、橋本の言う通りでもあるしな」
「木村、お前も付き合うのか?」
「当たり前だろ。お前も当然行こうと思ってんだろ。だったら俺も付き合うだろうよ」
い、いや、俺は当事者だから当然だが、お前が付き合うとは思っちゃいなかったんで……
「北白浜に行って北商の生徒から情報を集めようって事か?だけどもう学校には人はいないだろ?」
部活の人達は居るだるけど。時間も時間だ。もう直ぐで誰も居なくなる。教員すらも。
「まあ、そうだが、それだけじゃねえ。無駄足になるだろうが、ひょっとしてってのもあるからな」
何か勘付いたのか?無駄足って事は可能性が低いのかな?だけど行動するには賛成だ。
ともあれ北商、つうか、北白浜駅に移動する。
帰宅最中の生徒がチラホラ目に入るが……
「おい大雅、俺と木村は聞き込みは無理だぞ。有名人だから」
間違いなく怖がらせて終わるだろう。狂犬緒方と糞の掃き溜めの頭なんだから。
「緒方の言う通りだな。力付くでも構わねえって言うんなら多少は何とかだが、女共の邪魔になるだろうし」
「じゃあなんで付いて来たんだ……」
零す大雅に何の反論も出来ない。事実俺自身そう思っちゃったんだから。
取り敢えず大雅の邪魔にならないよう、木村と共にベンチに腰かけて様子を見る。
早速大雅は三人組の女子に話しを聞きに行った訳だが……
「多分徒労に終わるだろうな。川岸がお前に御熱心なのは北商中に知れているみたいだし」
木村がそうボソッと呟いた。黒木さん経由でそう聞いたのか。
「だけど徒労って事は無いだろ?ランダムで適当に話を聞きに行けば、ひょっとしたら信者に当たるかもしんねーんだから」
基本信者たちとは敵同士な訳だから、倉敷さんも話を聞けない。だから第三者なら何かしら情報を引っ張れると思うのだが。
「信者から抜けた奴等も居るんだぞ。そいつ等に既に当たっているに決まってんじゃねえか」
そ、そうか、言われてみればその通りだな……
じゃあそんな無駄な事を大橋さんがやれって言ったのか?
「大橋の狙いは隣町までインチキが広がっているんだぞって教えるためだろう。要するに川岸潰しの一環だな」
「え?それってどういう事?」
「大雅がわざわざ南海の制服を着て白浜に来た理由がその一つだって事だ。大分抜けたとはいえ、槙原が一人潰して見せしめをしたとは言え、信者はまだ居るんだろう?そいつ等にもっと危機感を持って貰う為に
成程な……実に遥香がやりそうな事だが、遥香にはあんま酷い事をするなと言ったから、大橋さんが代わりに行っているんだろう。
だけど、それには穴がある。
「川岸さんは孤立なんて屁とも思っちゃいねーぞ。自分が良ければ何でもいいって人なんだから」
「だけど、ちやほやされたい。カリスマになりたい。自分は凄いんだって思いたい、んだろう?だったら言ってくれる奴は必要だ」
な、成程そうか……そう言う人達を間接的に脅している訳か……孤立させる為に……
「で、日向の藁人形の件も、実は北商内限定の話ではあるが、結構話題になっていたりする。倉敷がそう触れ回ったらしいからな。「誰か知らないが、緒方の幼馴染であり、自分の友達の日向が藁人形で呪いを掛けられている、だけど日向はいつもと変わらない、体調に変化も無い。呪いは成さないようだ。とな」
「だけど、藁人形は川岸さんの仕業だってみんな知らないんだろ?」
「だけど、関連付けるだろ。日向を悪魔と触れ回っているんだし、自分はそっちの世界に精通していると公言しているんだし、証拠がないとは言え、ほぼ全員が川岸の仕業だと思うだろ」
それも川岸さん潰しの一環か。だけど、そうなると、警戒して藁人形を打ち込みに行かなくなるんじゃ?
「藁人形は一つ押さえりゃいい。それを通報するだけだからな。証拠隠滅で回収に動くつうならそれを押さえりゃいい。動きは全部とは言わねえが、把握しているからなんとかなる」
「深夜に動くような人だから、押さえるのは難しいんじゃねーか?」
「推測だが、結構大量に打ち込んでいるって考えているからな。流石に全部回収は困難だろうってよ」
それは全部想像、つうか読みだろ?過信しすぎるのもなんだと思うけど……
本気でぼけーっと待った。大雅が聞き込みしている最中、動いた事と言ったらトイレに行った時と缶コーヒーを買った時のみ。
木村も同様にぼけーっと待っていた。暇に任せてスマホゲームに興じていたし。
で、一時間以上だろう、駅には北商の生徒がまばらになる頃、漸く俺達の元に戻って来た。
「おう、どうだ?収穫は?」
「川岸がハブにされてきた程度だな、掴めたのは。緒方君の繰り返しの事を知っている生徒も沢山いたが、やっぱり全員信じてはいないようだ。話のネタくらいの認識だと」
じゃあ新しいネタは掴んじゃいないって事か。それはそこそこ読んでいた話だから。
「日向さんの悪口を吹聴して歩いているってさ。尤も、誰も相手にしちゃいないらしいが」
そうは言っても、麻美はマジで悪魔だぞ。ある意味。
「ふうん。収穫なしか。そんなもんだろうな」
木村も読んでいたからの返事。
「まあね。だけど、例の藁人形を打った場所、一つは特定できた。中原神社。知っているか?そこの奥に太い杉があるらしいんだが、そこに打っているって」
俺は知らないけど、木村はどうだ?
「……流石に知らねえな……場所、聞いたか?」
「南白浜の河川敷近くにあるらしい。俺からさゆに連絡しておこうか?」
頷く、木村も頷く。女子に任せるって事だから、そうしたのだ。
ラインを打った大雅に直ぐ返事がきたようで。
「……そこの近くに国枝が向かったって」
そうか。国枝君が向かったか。川岸さんと鉢合わせしてもなんとかなるだろう。
遥香や麻美なら感情的になるだろうし、国枝君で正解だろう。
「じゃあ次は俺の勘に向かうか」
そう言って木村が腰を上げた。
「どこに行くんだ?」
「北商だ」
北商に藁人形打ち込みに行ってんの?目立つんじゃない?
「北商の裏に雑木林があるだろ、そこに打っているんじゃねえかと思ってよ」
「神社とか寺はないだろ?」
俺も確信は持てないが、あそこってただの林だった筈。
「無いが、なんかの祠があるらしい。福岡の女の知り合いがそこの近くだってよ」
福岡からの情報か。だけど福岡の彼女って荒磯じゃなかった?
……荒磯?そういや、こっちの緒方君の霊夢に、児島いつきさんの名前が出て来たっけな…確か荒磯だった筈。ヒロ情報だけど。
「えっと、荒磯ってどんな学校だっけ?」
「はあ?今更だろ。偏差値は西高の次、真面目な生徒は殆どいねえ、だけど骨のある奴も居ねえ。相手にすんのが馬鹿らしい程の学校だ」
そ、そうなんだけど。俺が聞きたいのはそうじゃない。
「あーっと、福岡の彼女って荒磯だよな?糞女なの?」
「さあ?興味ねえから何ともだ。だけど、俺に言い寄ってくる女はみんなそんな奴だったが」
じゃあ、児島いつきさんも糞女の可能性が高いって事?麻美が糞女と親しいの?それもなんだかなぁ……
つーかそれよりも。
「北商に藁人形を打ち込んでいるってのの勘は?」
「別に?狭川、つうか、悪鬼羅網の姿が消えた時、みんなが闇雲に探していた時、お前が的場を襲うだろうって事で的場ん家に向かったじゃねえか。盲点を付いてよ。それと同じ事を考えただけだ」
成程……まさか北商付近で藁人形を打ち込んでいるとは思わないか。結構人目もあるし、雑木林に入った所見られたら間違いなく不審がられるし。
それに、北商付近なら放課後とかでも速攻で藁人形に釘を打ち込めに行ける。見つからなければ打ちに行ける頻度は桁違いになるか……
「なんか俺もそこにありそうな気がしてきた」
「そうだね。俺も何となくそう思って来たよ」
大雅もそう思うのなら間違いないだろ。
「過度の期待はすんな。勘だし、見つかるリスクを考えりゃ、やっぱり無しだろ」
そんなと言われてもだ。するだろそりゃ。
「で、見つかったらどうする?女子達に渡すのか?」
大雅の質問。川岸さんは女子がやると言っていたからそうだろう。
「そりゃそうするが、例外はある」
「例外って?」
「ご本人が都合よく居たら、俺達でやっちまう」
俺達でやる!?女子に暴力を振るうのか!?それはちょっとなぁ……
俺の表情で何を考えたか読んだのだろう、苦笑いで否定する。
「ぶん殴ろうなんて思っちゃいねえよ。本心じゃやりてぇけど。動画かなんか撮って証拠にして警察に通報するさ」
「ふむ、だが、君は警察は嫌いじゃないのか?」
「まあ、好きか嫌いかっていや嫌い、つうか苦手だがよ。だったら被害者の緒方が通報すりゃいい」
俺?まあ、俺が通報してもいいけど。
「河内も生駒も警察が苦手みたいなんだよな。お前も漏れずにそうか」
そんな顔じゃそうだろう。と、一人激しく頷く。
「お前、なんか失礼な事考えてんだろ」
フルフルと首を横に振った。考えていたが、素直に言えないだろ。
「緒方君は苦手って事は無いのか?派手に暴れていたんだから、補導経験位はあるだろう?」
「俺は別に……そういや補導もされた事無いな……」
そう考えたら奇跡だよな。あんなにぶち砕き捲ったし。
「お前はあるのか?」
木村の質問である。
「二回ほど……」
「ああ、お前も荒れた時期があったらしいからな。納得だ」
「そう言う君はどうなんだ?」
「一回ある」
なんだこいつ等?悪い事ばっかしてるんだな。俺みたいに糞しかぶち砕かなければ、補導なんかされないんだぞ。寧ろ治安を保ったって事で表彰対象だろ。
何はともあれ、折角来たんだ。北商裏手の雑木林にいざ突入。
「……毎日誰か来ているようだな。獣道が出来ている」
大雅の言う通り、踏み固めたように道が出来ている。雪が積もっているから歩きやすくて有り難い。
「だったら逆におかしいぜ。何の用事でここを歩く?」
「え?お前、祠があるって言ったじゃんか?」
その祠の管理だろ?他に何があるって言うんだ?
「だから、毎日って所だ。管理程度なら月一だろ?」
そうなの?信仰心が厚い人だったら毎日来ているんじゃないの?
「だけど普通に林を管理するとかあるだろ?薪が欲しい人とかも居るんだろうし」
「見た限りじゃ、手入れなんてしていない様に思うけどね」
確かに。冬で他の雑草が生えていないから逆に解りやすい。放置されているような感じだ。積雪で折れている木もいっぱいあるし、蔓も切っていない。
だけど、歩きやすい。誰も来ないようなこの林に、何の用事で?
そこで、先頭を歩いていた大雅の脚が止まる。
「どうした?」
「……祠があった」
そうか。ここがお目当ての場所か……キョロキョロしていた俺だが、目を剥いて固まった。
太目の雑木、そこに穿っている藁人形……それに目を奪われたからだ。
「……緒方君、そこじゃない。こっちに来て見てくれ」
大雅に促されて、気分が悪くなったが前に出る。
「…………狂ってんな」
「そうだな。お前も狂犬とか言われているが、それ以上だと思うぜ……」
祠自体も放置されているようだが、その横にある杉の木。
伸びすぎて切られたんだろうが、一応ご神木扱いなのだろう、枝を数本付けて死なないように、伸びすぎないように施されている太めの杉……
そこに無数の藁人形が打ちこまれていた……!!
「……ちゃんと数えた訳じゃないが、100近くはあるか?」
大雅が嫌悪感丸出しの表情でそう呟いた。いや、大雅だけじゃない、木村も。
「……どうする緒方君、警察に通報するか?」
「そうだな……いや、ちょっと待って」
俺はスマホを出してコールする。
「槙原に渡すのか?」
「ああ。川岸さんは女子でやるんだろ?俺が此の儘通報してもいいけど、俺は別口で通報する」
「別口ってなんだ?」
理由を述べる前に遥香が電話に出た。なので後でその別口を述べよう。
『はいはいーい。経過報告のおねだり?』
呑気にそんな事言って来る遥香に、こう告げる。
「藁人形見つけた。北商近くの雑木林で。一本の木に100近く打ち込んでる。他の木にも数体打ち込まれている」
電話向こうで息を飲んだ気配があった。
「木村、悪いけど、写メ撮ってくれ」
「お、おう」
「今木村に写メ撮って送って貰うが、お前の他に、そこに誰が居る?」
『え?今日は和美さんだけど……』
遂に倉敷さんも名前呼びか。つか、今日はって?昨日は別の人と探索に行ったのか?
「木村、倉敷さんのアドレス知っているか?」
「ああ、仲間の連絡先は控えているだろ普通」
倉敷さんも仲間認定か。まあ、松田の彼女だし。
「倉敷さんに撮った写メ送るから、お前も見て」
木村に促して写メを送って貰う。そして待つこと数十秒。電話向こうから「うわっ!!」との声。
「届いたようだな、見ただろ」
『……見た……けど、予想を超えたからちょっと引いた……』
まあ、引くだろう、普通の感性なら。川岸さんは異常だから、自分のやっている行為が常軌を脱しているとは思ってもいないんだろうけど。
「で、更に説明だ。北商裏手の雑木林に雪を踏み固めて通った跡がある。多分常習的に通っているんだろう。そこに倉敷さんが居るんだろ?雑木林に出向く生徒っているか?そしてその理由は?」
ごにょごにょと倉敷さんに訊ねている。そしてその返事。
『雑木林は確かにあったけど、そこに通う生徒なんか居るはずもないって。用事なんか思い付かないって』
「そうか。つまり、藁人形を打ち込みに来ているだけ、って事だよな?」
『多分。で、確認なんだけど、川岸さんって結構面倒臭がる人なの?』
「どうだったか……そこに同級生が居るんだから、ちょっと聞いてみて」
再びごにょごにょと。そしてまたまたその返事。
『ずぼらな所は確かにあるって』
「じゃあ、他に行くのが面倒な時に此処に来ているんだな。もしくは放課後、ちょっと藁人形に釘打ちに行って来るみたいに気軽に来ている」
『……そうだと思う。だけど川岸さんって確証がないから……』
「ああ、俺も通報はしない。別口でするからいい。だからこの藁人形の扱いはお前が決めていい」
『別口って?』
「深夜に俺ん家を覗いたところを通報する」
この発言に静まった場。電話向こうでも静寂している空気が伝わった。
「木村、西高は倉敷さんとその友達は保護対象なんだよな?他の生徒はどうでもいい」
「あ、ああ。その通りだが……」
困惑の表情の木村。それに構わずに進める。
「倉敷さん、鮎川さんは俺の友達でもある。だから倉敷さん。俺繋がりを北商でアピールしてくれ。しかも大袈裟に」
『……川岸さんに興味を向けさせるって事?』
電話向こうでの遥香の質問。
「おう。あの人好奇心の塊だからな。思えばあの夜俺ん家を覗きに来たのも、朋美が出て俺の情報、つうか、話を聞かせたからだろ。そうなると麻美ん家にも行っている可能性があるな」
神が降りたのは文化祭が終わった頃。恐らくその頃から俺ん家を覗きに来ていたと推測する。
で、西高は北商に迷惑を掛けに行っているが、倉敷さん達は被害なし。それは木村が後ろに付いているからだ。
「倉敷さん達が無事なのは木村が言い付けたのは勿論、俺と友達だからだ。それを派手にアピってくれ」
『でも、和美さん達と友達なのは今更じゃない?』
だから新たな興味は抱かないんじゃないか?と。
それも解決させる。絶対に興味を向けさせてやる。
「北商に行く。倉敷さん、鮎川さんに会いにな。木村、お前も来い。川岸さんが寄ってきたら、殺す勢いで睨みつけろ」
「……成程、実際お前の姿を見せて、好奇心を煽るってのか」
得心がいったと頷く木村。今までは関わらないようにしていたが、藁人形まで打ち込んでいるんだ。無視はできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます