文化祭前~004
スパーを終えて、ジャッジを待つが、国枝君が困り顔だった。
「仕方ねえな、申請式で行こうか」
「じゃあお前の勝ちだろ。手数の差で」
つうか判定ならヒロには殆ど勝てない。あのテクで俺の持ち味が悉く殺されちゃうからだ。
「そうは言っても、4ラウンドでいいの貰っちゃっしなぁ…」
手数の差ならヒロだが、4ラウンド終盤に、俺はヒロの顔面を右フックで捉えている。
スパーのグローブじゃ無きゃKOしていただろう。ヒロもその事を言っているようだ。
「まあいいだろ。KOできなかったのも事実だし」
俺はスパーのグローブでもKOを狙ってやっているから、KO出来なかったとなれば、やはり俺の負けだ。
国枝君はやや戸惑っていたが、やがて大きく頷いて――
「勝者、大沢!!」
そう、高らかに宣言した。
コーナーに戻ってグローブとヘットギアを遥香に外して貰い、リングの外に出ると、クラスメイトが大歓喜して俺達に詰め寄って来た。
「すげえ!!序盤は何か試しているように見えたけど、それ以外はすげえ!!お前等ガチじゃねえか!!」
と、蟹江君。拳を握ってぶんぶん振って、興奮を露わに。
「本当に凄かったわ!!本物の試合ならもっと凄いんでしょうね!!」
横井さんも興奮を露わに。その様子を見て、遥香が何故か満足気に何度も頷いた。
「まあね。本気のダーリンはもっと凄いから。ねえ波崎?」
いきなり振られた波崎さん。やや戸惑いながらも頷いた。
「う、うん。本気のボクシングを一回見たけど、怖くなって止めて貰ったしね」
「それって大沢君との試合かしら?」
答えた波崎さんに、横井さんの追撃。
「うん。あの時はどっちも本気でさ、あのまま続けていたら、間違いなくどっちか怪我していたと思うよ」
はあ~…と溜息をつく。
「こういうのは暴力的で私は観られないな、と思っていたけど、実際観てみると、真剣勝負って尊いものなのね…」
いやいや、真剣勝負って程良いもんじゃないから。今回はただの練習で、あの時は互いに引っ込みがつかなくなっただけだし。
「横井、格闘技男子に興味持っちゃった?」
遥香の質問である。やや戸惑いながらも、同意の頷きをした横井さん。
「そうね…やっぱりスポーツって観点から見ると、どっちもカッコ良かったしね」
カッコイイの弁でヒロの耳が動いたぞ。本当に解りやすいよなこいつ。波崎さんも察知して、呆れながら頭を振っているし。
「格闘技男子って言えば、楠木さんの彼氏も空手やっているし、系統は違うけど、黒木さんの彼氏も相当強いよ。大沢君もヤバいかもって言っていたから」
そんなヒロを豪快に無視して会話を続ける波崎さん。男子に囲まれて質問攻めにあっているヒロは今動けそうも無いので、聞き耳を立てるのが精一杯だ。
「黒木さんの彼氏って、あの西高の彼でしょう?西高生はね…野蛮なイメージがどうしてもね。緒方君も物凄い評判だったけど違ったから、やはりその彼も違うんでしょうけど」
「そうだね。木村君はそんな人じゃないよね。緒方君や大沢君と友達なんだし、もしどこかで会っても怖がらないで欲しいかな」
国枝君の木村の援護。あいつ強面だから、普通におっかないと思われるだろうけど。
「勿論、君達の友達なのなら怖がることは無いけれど、西高生ってだけでそう思っちゃうのは仕方がない事でしょう?」
それはその通りで、俺も一部を除いて全員糞と思っているから、殆ど同感だ。
まあともあれ、スパーは終わり。
「さあさ、皆さん。これ以上はご迷惑になっちゃうよ。片付けて帰りましょ」
遥香がパンパンと手を叩いて片付けを促した。
「そうだな。緒方、お前の親に話しておいてくれるんだろ?夜に庭先使わせてくれって」
蟹江君の質問である。俺は頷いて続ける。
「多分大丈夫とは思うけど、駄目だって言われた場合の事を考えて、期待はあんましないで」
「それでいいぜ。期待は…まあ、しちゃうけどよ」
がはは、と笑い合う。そりゃ期待はするだろうな。
「国枝、最上と蛯名も。自分のブースのイメージ画、明日にでも持ってきてくれ。と言っても、ブース作ってからのペイントになるから、急かすつもりはねえけど」
「うん。解ったよ」
国枝君達も頷いて了承する。
「さあて、材料にシート掛けて帰るぞー」
蟹江君の号令で、持ってきた材料にブルーシートを掛ける。これで今日の作業は終わりだ。
今日は親父もお袋も遅い様で、みんなが帰ってからも帰ってこなかった。帰ったら話さなきゃな。
まあ、それは兎も角。
「おい遥香」
「何?ダーリン?」
「なんでお前達は帰らないんだ?」
明日も学校があるってのに、遥香もヒロも、国枝君も波崎さんも帰らないで、俺の部屋で寛いでいる。
それはまあいい、読めていた流れだ。しかし、解らないのは、横井さんも俺の部屋にいると言う事だ。
その横井さんが居心地悪そうにそわそわして、視線を俺の部屋に向けまくっている。
「横井は実行委員だからね。おじさん達に許可を貰う為には、居なきゃいけないでしょ?」
そのくらい俺が話すっての。可愛そうじゃんよ。そんな重責を負わせるとか。
「大丈夫。私もお願いするし。国枝君もそうしたいって」
遥香が頼めば一発だとは思うけど。それ以前に断らないと思うけど。
じゃあヒロと波崎さんが居る意味が解らんが。
まさか、と、小声で訊ねた。
「お前、あの話を横井さんにしようとか思っちゃいないだろうな?」
あの話とは、言わずと知れた、俺の繰り返しの事である。
「流石にしないよ。横井は二年に同じクラスになるから、親密度アップを狙ってね」
お前、横井さんと同じ中学なんだよな?だけどクラスメイトってだけだったんだよな?
なんで二年に拘る?二年になって、なんかおかしい事あったか?
……あったな。大和田君が逃亡して、花村さんを追い込んで、微妙に孤立したんだっけか。
「ウチのクラスは学校一纏まったクラス。それはみんな、そう思っている。違うクラスの春日ちゃんも、美咲ちゃんも、さとちゃんもそう思っている」
美咲ちゃん!?いつの間に名前で呼ぶ間柄になったんだ!?
「だから、この縁を大事にする。実際隆君も蟹江君や吉田君と仲が良かった儘だったでしょ?」
それはその通り。二年に上がってクラスが違っても、俺達は友達の儘だった。
違うクラスに親しい友達がいるってのが妙に嬉しかったりしたもんだ。
「この縁はいつか大きな力になって帰って来ると思う。私はこんなだから、どうしても戦略ありきで考えちゃうけど、隆君はそうじゃない。だから、その辺の気持ちの辻褄は隆君が合わせて」
損得で考える遥香に対して、単純に友達として接する俺。その違いを今から示したか。
やっぱ何か考えてあるんだろうな。そして、それはほぼ俺の為。俺は打算で付き合いたくないけど、友達ならば大歓迎だ。
「つまり、お前の悪巧みが気に入らなかったら、その時に怒ってもいいって事だよな」
「悪巧みなんてしてないよ。私はどうしてもそう考えちゃう悪い癖があるから、この縁もそう言う風に使おうて思うけれど、隆君は違うから気にしないで、って事」
よく解らんが、悪巧みじゃないならいいや。つか、やっぱ何かに使おうって魂胆なのを自白しやがった。
その時、玄関を開ける音と話声。二人同時に帰って来たか。文化祭の部材作りの場所の事を話さなきゃな。
そう思って腰を上げると、遥香は兎も角、全員が立った。横井さんはキョロキョロと全員の顔を見上げていたが、やはり立った。
「俺が言いに行くからいいよ」
「なに言っているの?頼み事は皆でした方が言いに決まってんでしょ?ねえ横井」
「え?うん。そうね。私は実行委員だから、私が一番お願いしなくちゃいけない立場だからね」
そういうもんかな…まあ、横井さんが行きたいって言うのなら…
ともあれ、全員で下に降りると、お袋がまあまあと、親父が良く来たね~とデレデレに。
「新しい友達が来たから、あと、ちょっと頼みがあるんだけど」
言ったと同時にお袋がよよよ、と、いつもの大袈裟な嘘泣き。
「隆がまた新しい友達を連れて来るなんて…」
横井さん、目が点。そして更に目が点になる。
「隆、こちらのお嬢さんが新しい友達か?お前も社交的になったよなぁ…遥香ちゃんみたいな可愛い恋人が出来たばかりか、国枝君のような賢い子も友達になってくれたのが奇跡なのに、何処まで奇跡を量産し続けるつもりなんだ」
「あ、い、いえ、緒方君はクラスの人気者ですよ?本当ですよ?ねえ、国枝君、槙原?」
目が点になりつつもフォロー。同意を促された遥香と国枝君が普通に頷く。
それは兎も角、俺いつから人気者になったんだ!?初耳すぎる!!
そして親父はキョロキョロと見回し。
「今日は響子ちゃんや美咲ちゃん、綾子ちゃんや美緒ちゃんは来ないのか?麻美ちゃんはどうした?」
「女子ばっかじゃねーか!!何を期待してんだ!!そんな事はどうでもいいから、ちょっと話聞いてくれ!!」
「そうですよお父さん。明人君や志郎君、孝平君もいい子ですよ?」
「お袋もいつの間にあいつ等を名前呼びしてんだよ!!俺でさえ苗字呼びなのに!!」
もうなにが何やらだ。横井さん、目が点状態回復できないでいるじゃねーか!!
ま、まあ、取り敢えず先に進もう。
「文化祭が近い内にあるんだ。で、準備が、時間が足りないから間に合わないかもしれないか」
「ああ、遥香ちゃんから聞いたから、いいよ」
あっさり了承した親父!!確かに遥香の事だから、根回しはしていると思ったけど!!
「す、すみません。助かります」
許可を得たと言う事で、横井さんが頭を下げた。
「いやいや、良いんだよ、こんな馬鹿な息子に沢山の友達が出来たと言う証明だから…えっと…」
「あ、挨拶が遅れました。横井です。
「そう、千明ちゃんもご飯食べて行ってね~。みんなもね~」
波崎さんももう慣れたもんで、晩飯のお呼ばれには素直に受け取るようになったが、横井さんはやはり戸惑っていた。
そりゃそうだ。今日初めて訊ねて来たのに、晩飯に呼ばれるとは思わないだろう。
「いや!いやいや!!それは申し訳ないですから!!」
両手を胸の位置で前に出して、それを振ってイヤイヤと。
「いいから食べてってくれ。俺ん家の親は俺の友達に晩飯を振る舞う事を喜びとしている人達なんだから」
うぜえくらいに質問攻めに合うと思うけどな。
「だ、だけど、今日初めてお邪魔したのに…」
「あ、僕も初めてお邪魔した時に夕食を御馳走になったよ」
「私もそうだ。大沢君と付き合った時だったよね」
国枝君と波崎さんのフォロー。と言うか真実。この持て成しの晩飯お呼ばれには抗えないのだ。
やがて諦めたように「はい…」と小さく呟いた。気持ちは解る。俺もヒロや麻美、遥香の家でお呼ばれする時は未だに緊張するからな。
ともあれ、出来るまで部屋で話そう。おもてなしのコーヒーなんか淹れちゃってだ。
で、お盆に乗せて部屋に戻ると、横井さんが遥香に詰め寄っていた。
「何かあったのか?」
国枝君にコーヒーを渡しながら訊ねる。
「ああ、君達の付き合いの事でビックリして話し込んでいるんだよ。泊まったり、朝ご飯を頂いたり、居酒屋に呼んだりとか」
ああ、そうか。やっぱり俺達の付き合いってちょっとおかしいよな…横井さんの反応で確信を更に濃く確信したわ。
ともあれ、持て成しだ。
「横井さん。コーヒーで良かった?」
「あ、うん。ありがとう緒方君」
遥香に詰め寄るのを一旦治めてカップを取り、角砂糖二つにミルク少々。
眼鏡委員長イメージの横井さんは、ブラックか微糖イメージだったが、結構な甘党のようだ。
フーフーと息を吹きかけて冷まそうとするが、その都度ロングの真っ直ぐな髪が微かに揺れて、清楚なイメージが追加される。美人さんだな。
遥香といい、波崎さんといい、この横井さんといい、川上中が美人揃いなのか?
「横井さんは遥香と同じ中学だったよね?ウチのクラスに川上中の人いるの?」
「E組には居ないわね。D組に少し仲が良かった子はいるけれど」
他クラスでもDクラスには知り合いがいないからな…調べる気にもならないけれど。
「そう言えば、白浜に男子はあまり入って来なかったよね」
遥香の横からの入り込みに頷く。
「男子は殆ど荒磯に行ったからね」
「白浜第三は南女と東工が主だな」
聞いてもいないのにヒロも横入りしてきた。だけどウチの中学の殆どは南女と東工に行ったのか。佐伯をぶち砕いた時、よくかち合わなかったな?
「国枝君の中学は何処だっけ?」
「僕は沼里一中だよ」
海浜の方向か。あそこの中学って頭良かった人多かったような?
「因みに木村君は河川中だよ。白浜と大洋の境だね」
木村ってそんな遠い所から通っていたのか。山郷の方が近いんじゃねーかひょっとして。
此処で横井さんがそわそわした。一体なんだ?
「あ、あの、こんなこと聞いていいのか解らないけれど、さっき黒木さんと木村君のなれ初めを少し聞いて興味を覚えたのだけれど、彼女達ってどんなお付き合いをしているのかしら?」
恋バナに興味津々なのか?ちょっと意外だ。
「黒木さんが我儘を言って束縛して木村を困らせているっぽい」
思う通りに言ったら、横井さんの目が点になった。
「え?木村君って西高で一番強い人で偉い人なんでしょう?その彼を困らせているの?」
信じられんと言った体で詰め寄って来る。俺は同意を求める様に、みんなを見渡す。
全員コクンと頷いて、俺の言葉を真実と認識した横井さん。力無くペタンと座り直した。
「……西高生相手にそんな事…」
「木村は強面だけどいい奴で、面倒見もいいからな。ギャップ萌え的なアレがあるんじゃねーの?」
解らんけど適当に言ってみる。実際黒木さんが木村をそこまで好きな理由が解らんし。こういうのは理屈じゃねーんだろうし。
そして今度は波崎さんの方に目を向ける。
「波崎は大沢君と付き合っているのよね?」
「そうだ。俺と波崎は超絶ナイスカップルだ」
お前に聞いちゃいないのに、勝手に口を開くなよ。横井さん、微妙な顔になったじゃねーか。
「え、えーっと、どっちから告白したのかしら?」
俯いて黙っちゃったヒロ。あのアホ告白の事を思い出しているようだ。
「初めて会った時、大沢君が土下座して…」
黙ったヒロに構わずに進めたのは、当事者の波崎さん。ヒロは目玉と口を全開にして波崎さんを見た。「あの事を言うの!?」ってな表情だった。
「土下座!?それって緒方君が槙原に告白した時と同じじゃないの!?」
「それが成功して、みんなにも高評価だったんでしょ?」
波崎さんの問いに頷く横井さん。土下座云々じゃなく公開告白の方で評価が高かった筈だが、土下座のインパクトが強すぎて公開告白の方が霞んでいると言うね。
「その真似をしたのよ」
再び俯いて小っちゃくなって行くヒロ。今頃後悔しても遅いんだが。
「で、でもそれで付き合った訳じゃないんでしょ?」
「そりゃ勿論。パクリの告白なんて心に響かないよ。付き合ってくれるまで何度も土下座するって脅迫されたからね。お試し期間を設けて、其の儘、って感じ?」
「脅迫……」
遥香が復唱して俯いて震えた。思い出して笑いを堪えているようだった。
「隆の時は好印象だったのに…俺と何が違うんだ……」
まだ解っていなかったのかよこいつ?アホ過ぎるだろ。
横井さんが気の毒そうにヒロを見ながら言った。
「えーっとね、緒方君の土下座告白はね、その日のうちに一年の間で知れ渡ったのよね」
当日に!?そりゃ初耳だ!!あんな面白い告白ならそうだろうし、俺がやったって知れたら尚そうだよな!!
「あれって公開告白じゃない?女子の間では土下座云々よりも、そっちの方が高評価だったのよ」
やっぱりそうだよな!!土下座のインパクトが強いだけだよな!!
「だけど、男子の間では誤解が生じてね。土下座すれば可哀想だと思って付き合ってくれるんじゃねえか、って」
同情で付き合って貰っていいのか!?俺だったら御免だが、そう思う奴もいるかもな!!
「で、一時期ちょっとしたブームになったのよ。土下座して告白するって」
「初耳だ!!俺の他に土下座告白した奴がヒロの他に居るなんて!!」
吃驚して声に出して突っ込んでしまった。だけど…
「そんな話、聞いたことねーぞ?少なくとも俺には」
「だから、誤解したんだって。土下座は確かにインパクトがあったけど、女子が羨ましいと思ったのは、公開告白の方なのよ」
続きを言ったのは国枝君。
「土下座で告白したのは、人目に付かない体育館裏とかに呼び出してだからね。断られるかもって恥ずかしさからなんだろうけど、土下座する事は恥ずかしくなかったのかな?」
な、成程…じゃあ俺が知らない訳だな…人目に付かない所でひっそりと土下座していたんじゃ…
「それに、君のは完璧に緒方君のパクリでしょ?自分でも言っていたよね?攻略法だって」
波崎さんの追い打ちで言葉を失うヒロ。自分でそう言っていたな、確かに。
「それに、ダーリンの場合は約束だったしね~。大沢君とは全く重みが違うよ。あはは~」
そう言いながら腕を絡めてくる。おっぱいバリバリ当たってる~。
「約束?」
「ああ、うん。気にしないで」
「そう?」
気にしないでと言われて素直に引き下がるのか?助かったっちゃー助かったけどさ。
でも、焦ったわ。あんま迂闊な事を言わないで欲しいと、ジト目で遥香を見た。
遥香も「ごめん」と頭を下げたし、まあいいか。
「で、その様子がこれ」
スマホを横井さんに見せる波崎さん。物凄い表情だった。笑いを堪えているようで、困ったようで、憐れんでいるようで。
「なんの写メだ?」
「大沢君が土下座した時の写メ」
そう言って俺の方に画面を向けると、あの時の様子がばっちりと映っていた。
「なに見せてんだ!?」
流石に慌てたヒロを華麗にスルーして続ける。
「麻美ちゃんが写メ撮っていたでしょ?送って貰ったの」
そういや麻美が真顔で撮影していたな…それを貰うのか…そして見せるのか…自分の彼氏の無様なのに……
居た堪れなくなったのか、横井さんが話題チェンジをしてくれる。感謝しろよ、ヒロ。
「ま、槙原と緒方君って、すごく仲がいいわよね。羨ましいわ」
「あはは~。中学の時から狙っていたからね。私としては、念願叶って良かったなって」
べたべたべたべた引っ付いて来てのアピール。いいんだけどさ、ヒロの形相も気にしてやれよ。
「よ、横井は彼氏とか居ねえのか?」
自分の話題から外れて安心したのか、それとも、これ以上弄られたくないからか、ヒロが更に強引に話題を変える。
「いないわね。欲しいともあまり思わなかったけど…」
言いながら俺達、と言うよりも、絡められている腕の視線を向けた。
「槙原を見ていたら欲しくなったわね。だって、とっても幸せそうで嬉しそうなんですもの」
「そ、そうか、好みのタイプってあるのか?」
話題を続けようと必死のヒロだった。また弄られる方に回ったら困るからだ。
「そうね…容姿はあまり拘らないけれど…」
「赤坂君を毛嫌いしているじゃねーか…」
「赤坂は容姿以前の問題だからいいのよ。でも、あの体型は戴けないから、筋肉質の男性がいいかしら?」
やっぱ容姿は気にするんじゃねーか…
「やっぱり容姿の要望はあるんじゃねえかよ?じゃあ顔は?」
ヒロも俺と同じ見解だった。
「顔ねえ…強面じゃ無かったらいいかな?やはりイケメンなら尚良しだけれど。さっきボクシングを観たからそう思っちゃったのだけれど、格闘技を嗜んでいる男性なんかも素敵そうじゃない?」
欲張り過ぎだろ…筋肉質で、格闘技やっていて、イケメンなんていねーよ…
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