二人目~003
ともあれ、食ったのでカラオケ屋から出た。二時間も必要なかったし、何なら残りの時間歌えばよかったが、そこはまあまあ。
「じゃあどこ行く?やっぱ駅前か?」
「別にどこでも。ラウンドワンに行こうって話があったじゃない?そこでもいいよ」
その弁じゃいつでもどこでも現れるようだが……
「とうどうさんは別に俺達を狙っている訳じゃないんだろ?なら襲われる心配は無いんじゃない?」
「だって暴走族の集まりから抜けた人達を使っている訳だから」
児島さんの弁である。つう事は、連合から抜けたチームは河内を狙うと言う事か?
「なんで俺を狙う?」
河内の疑問。
「河内君が一番有名だからかな?だけど緒方の言う通り、狙われている訳じゃ無いから、暴走族の人達が勝手にそうなるって事かな?」
よく解らんが、とうどうさん云々じゃない、河内をぶっ倒して名を上げたいって事?
アホだな。的場から直々に指名を受けたんだぞこいつは。そんな奴をどうやってぶっ倒そうって言うのか?数で押すのか?黒潮の友好校協定を知らん訳じゃないだろうに。
数でも優位に立ってんだぞ。それとも関係ないと言って喧嘩すんの?そんな真似、俺以外にできる奴がいるの?
「じゃあ遠慮する理由はねえな。しかも今日はラッキーな事に、白浜の狂犬さんも居られるから」
「じゃあ暴れても止めんなよ。お前等のおかげでいっつも鬱憤が残ってんだから。今日は鬱憤を晴らすために存分に暴れてやるから」
「ダーリンが見境無く暴れたら死人が出るんじゃないかな……」
いや、冗談だからな?だからそんな不安そうな顔するんじゃない。
何となく最後尾になった。隣は当然遥香。ちょどいいから疑問を訊ねよう。
「児島さんって俺の繰り返し、知ってんの?」
ホントは知っている事を知っているし、遥香達には内緒にしている筈だか確認だ。
「知らないみたい。ダーリンと麻美さんがちょっと変だって思ったのは聞いたけど」
「みたいって、お前らしくないな?はっきりきっちりさせるのが趣味みたいなもんだろ?」
「趣味って……それが性分なだけなんだけど……それはさておいて、勿論さり気なく聞いているよ。知らないんだったらハッキリ聞いちゃえば知る事になっちゃうから、難しい所だしね」
それもそうだな。そう考えるといいポジに着いたな、児島さん。これも彼女の危機回避能力の賜物か?
「それに、私も何となく解って来たから」
「何をだよ?」
「とうどうさんの謎の能力。解って来たと言っても能力の理由かな?」
なんだそれは?俺にはさっぱり解らんけど?
「まあ、それも追々ね。何にも確証がないから、ただの勘だし、だけど、今日とうどうさんが現れるのなら、勘が多少は確証に変わる」
それは既に確信した瞳だった。
え?マジで気になるんだけど?お前俺の知らん所で無茶やるから、滅茶苦茶心配なんだけど?
「だから、ダーリンの周りに須藤の生霊が現れない理由も解るかも」
ドキッとした。それ知られたらヤバいじゃんか。アレは麻美の能力だし。
……いや、ちょっと待て。いつだったか、俺自身も疑問を抱いた筈だ。麻美は悪霊の力を持っているが、それは生霊を退ける力じゃないと。
「……何で俺の周りにはあの狂人女が出て来ない?」
「だから、追々だって。気になるのは理解できるけど、勘で言っちゃうのはちょっとな、って感じだから」
そうは言ってもお前、結構女の勘とか言っちゃっているじゃねーかよ。なんだそのダブルスタンダードは?勘でもなんでもいいから言えよ気になるから!
そんな話をしていると、先頭の河内が止まる。
「もしもし」
なんだ電話か。だったら止まっても仕方がない。
「……マジか?丁度そっちに向かってっから今すぐ行く!!それまで持ちこたえろ!!」
慌てて電話を切って俺に向く河内。
「宇佐美、アニメショップから出たら元連合に絡まれたらしい。つう事は緒方のダチとおさげちゃんもやべえって事だ」
結構な顔つきで。つうか赤坂君とおさげちゃんが巻き込まれたのか!!
「どこだそこは!!」
「行こうとしていたラウンドワンの近くだ!!こっから走ったら30分くらい!!」
30分!?宇佐美だけで持たせられるのか!?
「隆、タクシー捕まえよう」
麻美さん、慌てている俺に助言する。
「河内、タクシー止めろ!!」
「おう!」
河内も焦りながら、走りながらタクシーを探した。俺達のランに女子達は懸命について来ていた。待つのもまどろっこしいが、置いて行く訳にはいかない。何が起こるか解らない。守れる距離に女子達を置かなきゃいけない。
「だ、ダーリン、先に行って!!」
「そ、そうだね!!そのペースなら走った方が早く着くよ!!」
息も絶え絶えにそう言った遥香と児島さん。しかし置いて行くのには抵抗がある。
迷っていると、麻美が言い切った。
「絶対に追いつくから、先走って殺すなよ馬鹿!!」
誰が馬鹿だ!!と言いたい所だが、殺すなと釘を刺したか。自分達も危ないかもしれないと言うのに。
「こっちにはいつきが居る!!馬鹿だから忘れただろうけど、いつきは危険察知が出来るから!!」
そうだった!児島さんはヤバい事を見切れるんだった!
「河内ダッシュだ!!」
「え!?お、おう!!」
河内に前を走らせてそれを追う。後ろで息を付いてへたっているであろう女子にちょっとぶち砕いてくると心で言いながら。
つうかこいつ遅え!!何回か抜きそうになったぞ!!俺そのショップの場所解らねーってのに!!
「河内!!もうちょっと速く走れよ!!」
「お、お前が速過ぎなんだよ!!つうか疲れねえのかお前!?」
スタミナ付ける為に毎日走っているからな。疲れるに決まっているが、お前程じゃない。
そんな事はどうでもよくてだな!
「だから速く走れっつってんだろ!!俺場所解んねーんだから!!」
「わ、解っちゃいるけど!!」
顔を真っ赤にして走り出す河内。さっきよりはマシになったか?
ゼーゼー言いながら走った。国道沿いを。
そこで見た。とあるビルの前で揉めている奴等を。
「あれか河内!?」
「はー!!はー!!」
頷くので精一杯のようだった。間違いないのなら問題無い。
河内を抜き去る。ダッシュをかましたのだ。
そして丁度いい間合いに入った所で、跳び蹴り一閃!!
「ぐあっ!?」
糞の背中に見事にヒットしてぶっ倒した。
「ぜー!!ぜー!!赤坂君、どこだ!!」
唐突に現れて飛び蹴りを放って、しかも糞共を無視して赤坂君を捜す俺。
「な、なんだこいつ!?いきなり!!」
「おう!俺達に文句あんのか!お前黒潮がはっ!?」
肩を掴まれたので手加減無くボディブローを打った。当たり前だがゲロを吐いてその場でへたり込んだ。
「お、緒方……?」
呼ばれて見てみると、ボロボロの宇佐美の姿。赤坂君はその後ろで倒れていて、おさげちゃんが守るようにしがみ付いていた。
「赤坂君、どうした!!やられたのか!!」
「あるくん、私を守ろうとしていきなり殴られて……」
泣きそうになりながら、泣くのを必死で我慢してそう言った。
「……悪いな緒方……こっちのゴタゴタに赤坂と安達を巻きこんじまった……折角ダチになったのに……」
本気で申し訳なさそうに、項垂れて。赤坂君を毛嫌いする奴は大勢いるが、会って間もなくなのに心配するか。
お前もおさげちゃんも良い奴だよ。赤坂君がいい奴だって知ったからそう接したんだ。だから何も言うな。そして、絶対に止めるなよ!!
「お前等は一人残らずぶち砕く!!ここで逃げても付け狙う!!病室で後悔しろ糞共が!!」
構える事も無く、一番近くの糞にストレートを放った。手加減無く。
骨を砕く感触が拳に伝わった。同時に鼻血をたっぷり垂れ流して沈む糞。
「なんだこいつ!?」
「黒潮じゃねえぞ!!こんな奴知らねえし!!」
ざわめく糞共を無視して宇佐美に訊ねた。
「こいつ等はなんてチームだ!?」
「……ファイアバード。12人ほどのチームだ。必要なら後でリストを作って送る」
「その他に入院先も調べといてくれ」
超大振りのフック!届く事は無かったが、向かって来ようとした糞の足を止めるのには充分な、殺気の籠ったパンチ!
「……ちょっと待て……こいつ、ひょっとして白浜の緒方……?」
青くなって後退りする糞。
「どうでもいいだろ、俺の名前なんざ。お前等が気にするのは入院費だ!!」
ダッシュして懐を取り、これまた大振りのアッパー!!
ガキン、と、やっぱり拳に砕けた手応え。その糞が絶叫して膝をつく。
「こ、この野郎がぎゃあ!!」
最後尾に居て調子に乗ろうとした糞が真横にぶっ飛んだ。河内が追い付いて跳び蹴りを食らわしたのだ。
「ぜー!!ぜー!!もう二人も潰してんのかよ!!お前速過ぎなんだよ!!脚もぶっ倒すのも!!」
全身で息をしながら文句を抜かす河内。糞共が流石にざわめきだした。
「おう河内。止めんなよ絶対に!!」
それは殺気を込めた瞳。止めるのならお前もぶち砕くとの意思を込めた瞳を向けて。
「馬鹿言うな。止めるよ。殺しそうになったらな」
言いながら他の糞の顎を蹴りあげた。綺麗に弧を描いてぶっ倒れる糞。
「お前も本気でやってんのか、一応」
倒れた糞を見ると、口から泡を拭いていた。血をが混じった泡。舌を噛み切ったって事だ。しかも一発で気絶させている。
「当たり前だ。黒潮云々は置いといて、的場さんを裏切った奴等だぞ。引退したとは言え、世話になった事実はあるだろ。そしてこれも当たり前だが、宇佐美の仇も当然取るし、お前のダチの仇も当然取る」
そうか、と頷いて糞に向く。
「聞いた通りだ糞!!最低病院送りだからな!!宇佐美!赤坂君とおさげちゃんを任せたからな!!」
近くの糞の懐に潜ってリバー。膝が折れた所で、顔面に右フック。
「こ、この野郎が!舐めんじゃねえぞ!」
躍り掛かってくる糞。上等だと間合いに入った糞にストレートを放った。
「緒方!人通りが多いから直ぐに通報される!だから短期決戦だ!」
河内が蹴りながら忠告して来る。頷いて目に入った糞を片っ端からぶち砕いた。
俺が倒した糞が動いていたら、河内がとどめで地を這うような低いローをぶち込んで、河内の蹴りが浅かったら俺がダッシュで詰めて顔面を打って。
そんなこんなで十数分、場には動いている糞が一人も居なくなった。
「……河内から聞いていたが、本気でおっかねえな、アンタ……鼻や顎砕けた奴、結構いるだろ、これ……」
慄く宇佐美。河内が追記する。
「馬鹿言うな。追い込んでねえからマシだ。ここから更にいたぶるのがこいつなんだぞ」
そりゃ当然と頷く俺。つうか河内も結構鼻折っただろ。顔面に蹴りだったし。
ここで女子達が合流、超息を切らせながら。
おさげちゃん、漸く身体が動いて児島さんに抱き付いた。児島さん、結構面食らいながらも背中をポンポン叩く。
「怖かったねー。大丈夫。彼氏は助かったし、緒方もこれ以上やんないし」
ウンウン頷くおさげちゃん。俺に怖がっていたのかとちょっとショックを受けた。
「当たり前だろ。男の俺だっておっかねえと思ったんだから……」
「お前は殺気振り撒くからな。普通の人間、しかも女子なら尚更だ」
「そ、そうか。うん、そうだよなぁ……と、ところでお前等は何やってんだ?」
遥香と麻美がぶっ倒れた糞を後ろ手で何かで縛っていた。
「これ?結束バンド。結局タクシー捕まらなくてさ、走っていたらホームセンターあったから買ったんだよ」
「これから尋問するんでしょ?だったら逃げられないようにしないと」
青くなる宇佐美。女子、しかもまともな見た目の二人の方がこんな事するとはと。
まあ、そんな宇佐美は置いといて、河内に訊ねる。
「そこの路地裏に引っ張るか?」
「そうだな。検問も欲しい所だけど、宇佐美一人でいいだろ」
宇佐美が見張るそうだ。宇佐美本人は「え?」とか言っていたが、お前しかいないんだからしょうがない。
「じゃあ児島さんは赤坂君とおさげちゃんを……」
「おっけ、こっちの人を起こしたら帰るように言っておくから。安達ちゃんも彼氏に付き添ってね。じゃあ早速起こそうか?」
「はい……有り難うです……で、でも、もうちょっと一緒に居てください……」
グシグシしながらも指示に従うと。児島さんに懐いちゃったようだな。なんでか解らんし、児島さん自身もなんで私に?って顔しているし。
宇佐美を促して路地裏に引っ張った。全員引き摺りながら。
そして最後部に麻美さん。これで両サイドに見張りが付いた事になった。
河内が覚醒しそうな糞にビンタをかまして起こす。
「……は?」
拘束された自分に気付いてパニックになって騒ぎ出す。
「な、なんだこれ!?河内、テメェふざけた真似をしやがって!直ぐに解けがっ!?」
うるせーので頬を打った。そして胸倉を掴んで引き寄せた。
「おい……お前等が襲った人はな、お前等とは真逆の一般人なんだよ……しかも俺の友達だ……ふざけた真似をしたしたのはどっちが最初だ?」
「な、何言って……つうかお前誰だ……?」
「こいつは俺のマブダチ、緒方だ。名前くらいは知ってんだろ」
河内が発したら真っ青になった。
「な、なんで白浜の緒方が俺達にこんな真似をする!?お前は連合にノータッチだろ!?」
みっともなく狼狽えながら。しかし、なんかおかしいな……さっき俺だと気付いた筈じゃなかったか?それとも、こいつは気付かなかったのか?
「俺は確かに連合にノータッチだが、お前等宇佐美と一緒に赤坂君を襲っただろうが?あれは俺の友達なんだよ。赤坂君は一般人だ。お前等みたいな糞人種は弱い者虐めしかしないから言っても無駄」
「何言ってんだ!?俺達は何もしちゃいねえだろ!?宇佐美とただ話ししただけだ!!」
発言途中に被せた糞。それを聞いて顔を見合せる俺と河内。
「話しって何の話だ?」
切り込む河内。糞、必死に訴える様に。
「連合を抜けた話だろ!?そりゃ確かに的場さんに義理はあるが、抜ける事自体は各々の判断に任せる。そう決まっただろ!?」
こいつの中では宇佐美を襲った事は無かった事になってんのか?赤坂君を襲った事も無かった事になってんのか?
なんか変だと他の糞をビンタして覚醒させる。
「は、はぁ!?何で縛られてんだ!?つか、痛てえええええええええ!?何だこれ!?鼻折られてんのか!?」
程よく暴れる糞の胸倉を掴んで引き寄せた。
「おい、お前等が襲った宇佐美と一緒にいた人はな、普通の人なんだよ」
「はあ!?宇佐美を襲った!?なに言ってんだお前……え?ひょっとして白浜の緒方……?」
俺の顔を知っている奴のようで、ガクガクに震えた。全員俺の顔を知っているって訳じゃねーんだな。
「……宇佐美を連れて来てくれ。見張りを槙原に交代して貰って」
「おう……おかし過ぎるしな……襲われた本人が話してくれたら間違いないだろ」
そんな訳で遥香に頼んで宇佐美と交換して貰った。その際、ボイスレコーダーを渡された。
「一応会話全部撮って」
「ホントに用意周到だよな、お前」
呆れるやら頼もしいやらだ。まあ、有り難く使わせて貰おう。俺達の頭じゃ難解だし。
宇佐美を連れて河内の元に戻る。さっきの糞、やっぱり必死に訴えた。
「宇佐美!こいつ等なんか勘違いしてんだよ!お前からも言ってくれよ!なんで抜けたか聞かれただけだって!」
「……俺を襲った事は無かった事にしてんのか?赤坂をぶん殴った事は?その彼女の安達を引っ張って連れて行こうとした事は無かった事になってんのか?」
「はあ!?何で俺達がお前を襲うんだ!?それに、お前のツレなんて知らねえし、一番は女を拉致るなんて有り得ねえだろ!?的場さんに知られたら間違いなく殺される!!」
それもその通りか?宇佐美を襲った事や赤坂君を殴った事は兎も角、おさげちゃんを拉致った事が的場に知れたら、引退したとは言えぶっ殺す勢いで追い込まれるだろう。
「しらばっくれてんのか?安達を守ろうとして赤坂」
「だから何言ってんだ!?そ、その赤坂って奴と安達って女………………え?」
なんかいきなり真顔になった。そして俯いた。何か考え事し始めたようだ。
河内が寄って来てこそっと呟く。
「おい……嘘言っているようには見えねえよな?」
無言で頷いて返した。宇佐美と話しただけだと。
「……念の為に、他の糞に聞いてみるか」
「そうだな」
そう言って隣の糞にビンタをかます河内。糞、顔を顰めて唸りながら覚醒する。
そして目を開けて……
「河内!?いてえええええ!?なんだこれ!?鼻、いや、顎!?胸もいてええええ!!!」
ああ、こいつは俺がやったんだな。怪我の具合からして間違いない。
そんな喚く糞を無視して、河内が胸倉を掴んで引き寄せた。凄みながら。
「お前等が宇佐美を襲ったからそうなったんだろうが?緒方のダチをやったからそうなったんだろ。女まで拉致ろうとしやがって……」
「襲った!?誰を!?宇佐美!?え、誰こいつ?」
俺を見て疑問を呈した。答えたのは河内だ。
「緒方だ。お前等黒潮に遊びに来た緒方のダチをやったんだろ。だったらそうなってもしょうがねえ。こいつには近寄るなって的場さんから散々言われただろうが?おう?」
「緒方!?こいつが噂の!?つか、襲ったって誰を!?俺達は宇佐美に抜けた理由を聞かれただけだ!!」
こいつも同じ事を言いやがった。宇佐美から抜けた理由を聞かれたと。
「宇佐美、こいつ等と最初はどうだったんだ?」
確認の為に聞いてみる。
「確かに、なんで抜けたんだとは聞いた。その前までは普通、とは言わねえけど、ただ話していたよ。こっちには赤坂と安達が居たからな。荒事にしたくねえから、普通の雑談に留めていた。少なくとも俺はな……」
「じゃあ抜けた話を聞いたらこいつ等が豹変して襲って来たって事なのか?」
河内がそう訊ねたら頷いた。全く躊躇なく。
「さっきも言ったが、こっちは赤坂と安達が居るから、喧嘩したくねえ。だから話のネタ程度に聞いたんだ。なんで抜けたんだ?別に在籍していても良かったんじゃねえか?って。そしたらいきなりだよ。俺をぶん殴って、呆気に取られていた安達の手を引っ張って、それをやめさせようとした赤坂をぶっ飛ばして……その後すぐに河内に電話したんだ。終わったら孤軍奮闘だよ。俺の格好見たら解るよな?」
確かにボロボロだ。結構傷も負っている。こいつ等にやられたのは間違いじゃない。
「……赤坂君とおさげちゃんに話しを聞く事も可能かな?」
「そりゃいいだろうけど。児島が帰している可能性もあるぞ?」
「だろうけど、ちょっと行って来る」
そう言ってさっきの場所に向かおうとした。しかし、それは憚れた。
児島さんを先頭に、赤坂君とおさげちゃんがこっちに来たからだ。おさげちゃん、赤坂君の腕をがっちり組んで脅えながらも。
「赤坂君、大丈夫か?」
「うん。やっぱり緒方君が助けてくれたんだってね。お礼を言いたくてさ。そっちの、えっと、河内君も有り難う。宇佐美君も」
さっきまで襲っていた糞共が大勢いる中で俺達に礼を言う。怖いだろうに、わざわざ礼を言いに来るとは。
「やめてくれ。黒潮のゴタゴタに巻きこんじまったんだ。逆に謝らなきゃいけねえ」
河内、お礼を拒否する。当然宇佐美も。
しかし赤坂君が来てくれた事は素直に感謝だ。
「赤坂君、こいつ等にやられたんだろ?どうなってそうなったんだ?なんか話が噛み合わないんだよ」
「え?宇佐美君がこの人達と話していたんだよ。僕達は怖いから後ろで愛想笑いしていたんだけど、いきなり……」
赤坂君がおさげちゃんに目を向けると頷いた。そして怒りの眼で一人の指を差す。
「あの人が私の腕を引っ張って連れて行こうとしたんです。女いるじゃん、ラッキーって言って。あるくん、その人の手を取ってやめてくれって頼んだんですけど、顔とお腹を殴られて……」
それを聞いて簡単にキレた俺。今だ気絶中のその糞の元に行き、腹を手加減無く蹴っ飛ばした。
これが幸いして呻いた糞。覚醒したって事だ。
「おう糞!!赤坂君をぶっ飛ばしたってな!!おさげちゃんを連れて行こうってしたらしいな!!おい!!」
胸倉を掴んでグワングワンと揺さ振る。
「やめろ緒方。言いたくても言えねえだろ。それじゃ」
河内に諭されて超ムカついたが、堪えた。
「っぐ……ゲホゲホ……な、何だってんだいきなりよ……って、なんで俺は縛られてる!?」
置かれた状況に漸く気付いたようだった。狼狽え方が実に面白い。
「おい、お前あの子を連れて行こうとしたらしいな?それを止めたあいつをぶっ飛ばしたらしいな?」
河内が胸倉を掴みながら赤坂君達に指を差す。
「はあ!?俺が!?」
赤坂君とおさげちゃんを見ながら。
「しらばっくれんじゃねえぞお前。さっきは止めたが、今度は止めねえぞ。緒方はダチがやられて大人しく引っ込む奴じゃねえんだよ」
「緒方!?白浜の!?」
非常に引き攣った表情を拵えた。じゃあご本人が胸倉を掴んでやろう。
「おう糞。お前、俺の友達をぶん殴ったんだってな。その彼女を連れ去ろうとして」
「な、なんか勘違いしてんじゃねえか……?お、俺はそんな真似してねえけど……」
超汗を流しながら。
「……赤坂君、おさげちゃん、こいつで間違いないよな?」
「う、うん、その人だよ」
「そうです!その人が私の腕を引っ張ったんです!あるくんを殴ったんです!」
目を剥く糞。ちょっと待てと大声を張った。
「ホントに俺か!?そっちのデブをぶん殴ったのは百歩譲ってあるとして、女を連れ去ろうとは絶対に思わねえよ!!的場さんに知られたらどうなるか想像がつくだろ!?」
それは確かのその通りだ。河内もそこは納得していたし。
だけどこれだけは言わせて貰う。
「デブってなんだ?赤坂君だ」
「え!?あ、お、おう……………」
「お前、俺の友達をデブって馬鹿にしたな今?俺は友達を馬鹿にする奴は許さねーんだよ……」
「あ、う、うん……あの……ゴメン……」
「え!?あ、いや……」
謝罪した糞に戸惑った赤坂君だった。声が裏返っていたし。
「だけどこいつで間違いないんだよな?」
「う、うん……」
「ほ、ほんとに俺か?見間違いとかじゃ……」
「なに誤魔化そうとしているのよ!!あるくん殴ったの絶対に許さないんだから!!」
涙を溜めて怒りの感情其の儘吐きだした。自分も拉致られようとしたにも拘らず。
「い、いや、ホントに記憶がない…………ん?」
さっきの糞の様に何か考え出した。眉間にしわを寄せて。
「……宇佐美、こいつ等だけか?お前と話をしたのは?」
「え?あ、ああ……多分……」
多分とか、随分自信が無さそうだな?ひょっとしてだ。
「もう一人いなかったか?」
「え?えっと……」
考え出す宇佐美。赤坂君も思い出すよう、腕を組んで考え込んだ。
「……女子が居なかったか?」
「……うん……いたけど、あのゴタゴタから姿を消したから、あまり関係ないんじゃないかな……」
女子が居た?この糞共に紛れ込んでいた?
「おい、その女は誰だ?」
河内が赤坂君をぶっ飛ばした糞に訊ねる。
「……女が居た……?それ見間違いじゃねえのか……?」
言いながら自分でも自信がないのか、最後は声が小さくなった。
「それもそうなんだよな……こいつ等だって流石に女連れで、他の女を拉致ろうとか考えないだろうし……」
「で、でも、確かに居たよね?」
「う~ん……居たけど、やっぱ関係ねえんじゃねえかな……」
宇佐美と赤坂君が言い合いしながら考える。赤坂君、宇佐美はあの手の顔の奴だってのに、仲良くなったよなぁ。趣味が似ているからか?
「何言っているんですか!?その女が呷った関係もあるでしょ!!」
おさげちゃん、驚いたように声を張る。
「……おさげちゃん、その女が何を言ったのか聞いたのか?」
「はい!!あの女、男二人に守って貰ってムカつくとか言ってました!!」
おさげちゃんに聞こえたんなら赤坂君にも聞こえる筈だが……
「赤坂君、その辺どうだった?」
「……確かに何か言っていたような気はしたけど、内容までは……」
赤坂君はよく覚えていないと。じゃあ糞に聞いてみようか。
「おい糞、お前さっき何か考え込んだよな?何を考えた?」
「…………いや、やっぱ気のせいだ」
首を振って思考を消すように。俺と河内が顔を見合せるに十分な反応だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます