二人目~004
「宇佐美、赤坂君とおさげちゃんを駅まで送ってくれ。その女の顔見たんだろ?接触しないようにして」
「いいけど、だったらその女、引っ張ってもいいんじゃねえのか?」
いや、駄目だ、その女、多分とうどうさん関係だ。
「いいからそうしろ宇佐美。赤坂とおさげちゃんが電車に乗ったのを確認してから戻って来い」
「あ、ああ……」
頭たる河内にそう命じられたら断れない。釈然としないながらも促して駅に連れて行った。
さて、多分糞からはもう情報は引っ張れない。記憶操作できる奴が向こうに着いているようだからな。
「児島さん、こいつ等どうしたらいいと思う?」
「……解放してもいいけど、今は駄目でしょ。宇佐美君が戻って来た時にそうすればいいよ」
児島さんも恐らく俺達と同じ結論に達したか。その女が赤坂君達を狙う事も充分予測されるからな。
じゃあ再び糞に訊ねようか。
「気のせいだって言ったな?それはなんだ?」
「……いや、無いよ。無い無い。だってその女が命じたとか言っても、お前等信用しないだろ。俺だってそう思うし、そんな気がするだけだから……」
「じゃあ女が一緒に居た事は認めるんだな?」
「認めたくないし、記憶にないが、あいつ等がそう言うんならそうなんだろう……」
なんか真っ青になって。その女が記憶操作する奴か?
だったら現れてくれていいんだが。ぶち砕けばおかしな事も出来なくなるだろ、多分。
「河内、全員起こそう。全員から話を聞くんだ。もしかすると、記憶がある奴がいるかもしれない」
「そうした方がいいな。緒方、起こすにしても手荒くすんなよ。最低口が開ける程度でやめろ」
口を割らせる事が目的なので頷いた。さっきは情報は取れないと言ったが、藁にも縋る思いってヤツだ。聞けば思い出す奴も居るかもしれないし。
取り敢えず全員起こした。全員同じような反応をしたので、同じように胸倉を掴んで脅し、事情聴取を開始した。
結果、誰も覚えておらず。しかし、女は確かに存在したようだ。
女が一緒に居たのは何となく思い出したようだが、どこの誰だかさっぱり解らない様子。みんながみんな、誰かの知り合い程度の認識しかなかった。勿論完全に忘れている奴も居た。
ここで宇佐美が合流。糞共の自供を元に、宇佐美の記憶と照らし合わせる。
「女はいた。だけど、安達が言ったように、呷ったとかは思わなかったな。尤も、状況が状況だから、気が回らなかったってのもあるが」
「状況が状況って?」
チラリ、と糞共に視線を移して。
「こいつ等に囲まれている状況だったからだ。連合を抜けたって事は、黒潮とも揉めても問題無いって事だろ。実際黒潮工業に在籍している奴等も、連合を抜けたと同時に俺達と揉めた訳だしな」
「しかし、こいつ等曰く、抜ける事はそのチームの判断に任せるらしいじゃないか?的場に義理があるんだったら黒潮にも義理はあるだろ?」
「的場さんにはな。黒潮は連合に属している訳じゃねえ」
的場に義理はあっても黒潮は関係ないか……的場は引退した身だからなぁ……そう言われりゃ何も言えないよな。
「ん?でも連合に入っている間は黒潮と揉めないって事か?お前の弁じゃそうなるが?」
「まあ、そうだな。とは言ってもやっぱり的場さんへの義理の為だ。的場さんは連合の頭だし、黒潮の頭だったし」
的場繋がりでそうなったと。連合を抜けたらその義理が薄れるからか?
「緒方、こいつ等どうする?話しても無駄っぽいぞ?」
河内がそう言って寄って来た。役に立たないから解放しても良さ気だが。
「もうちょっと待って。何か来るっぽい」
児島さんが寄って来てこそっと言う。児島さんがそう言うのならもう少し粘ってみようか。
近くの糞に寄って行く。そして屈んで顔を近付けた。この糞は赤坂君を殴っておさげちゃんを連れて行こうとした糞だ。
「おい、なんか思い出したか?さっきから考え込んでいるようだけど」
「……いや、顔を服装くらいしか……」
女の顔と服装は思い出したと。
「じゃあそれを言え。捜してぶち砕くから」
「女まで殴ろうとすんのかよ……」
まさに驚愕と言った表情を拵えた糞。やらなきゃいけないんならやるしかねーだろ。今更何言ってんだ。つうかお前の事も今直ぐ殴りたいんだけど、堪えているだけなんだぞ。
「顔はメガネを掛けて三つ編みで……」
おいおい……それイメチェンする前の遥香じゃねーかよ……
「ツラは童顔で……」
良かった、遥香じゃねーや。あいつ幼くは絶対に見えないから。寧ろ童顔は麻美の方だ。
「服はニットとスカート……ニットはピンクでスカートはミニ…だった気がする……黒いタイツ履いていたような……そしてブラウンのブーツ……」
頷いて河内に指令を出す俺。
「今聞いた特徴の女子、ぶち砕いて来い」
「そんな女、結構居そうだぞ……」
三つ編みはそうでもねーんじゃねーの?知らんけど。ともあれ、河内は指令を受け付けない様子だ。
「じゃあ宇佐美」
「人違いだった場合、マジで洒落になんなくなるから無理だな。もっと正確な情報が欲しい。だったらやってやるが」
情報が足りないと。だけど女子もぶん殴ると。河内よりもきっちりはっきりしていそうだな。
「……来る……」
児島さん、小声で言う。
ならば臨戦態勢を取ろうと緊張感を出すが……
「緒方はマジ動かないで、洒落になんないでしょ、アンタ」
そう釘を刺された。しかし、しかしだ!
「とうどうさん関係ならやらなきゃいけないだろ」
今更何言ってんだ?ぶち砕いて口を割らせる選択肢以外無いだろ。
「いいから言う通りにして」
有無を言わせぬ迫力だった。思わず首肯してしまう程。
「だ、だけど、来るって何処から?」
「そりゃ道路からに決まっているでしょ」
「だ、だって麻美が検問的に視張っているだろ?一番最初に当たるのは麻美だろ?それは不味いだろ?」
ふふんと不敵に笑われる。
「麻美の根性半端じゃないのは知っている筈だよね」
「そりゃ知っているけど、荒事は向かないだろあいつ?」
つうか女子で荒事に向いている友達は俺には存在しない。児島さんだって見た目ギャルだが、寧ろ荒事回避に長けるんだろ?
「向く、向かないじゃない、やんなきゃいけなかったらやるだけだよ」
まあ、そうなんだよな……俺もそんな事ばっか言って来たし……
「ま、その女の事は任せて。他はどうにかしてよね」
ポンと背中を叩かれた。他って何!?なんかあるんなら今の内に行って欲しいんだけど!!心構えって知っているよね!?
ざ、と、日当たりがあまりない路地裏に影が重なった。
全員そっちを向く。
そこには女子。三つ編みでメガネを掛けていて、ピンクのニットを着ている、ちょっと小柄な女子。
その女子は大きく息を吸い、「きゃああああああああああああ!!」と絶叫してしゃがんだ。
いきなりなんだ?と河内と顔を見合せる。
「ふ、不良が!不良が人を縛っていたぶっている!」
必要以上にでっかい声を張り上げて。
「緒方!不味いぞ!今の悲鳴で人が来る!」
河内が焦ったように言う。
まあ、ぶっちゃけ、そうだな、それが何だ?ってのが正直な感想だ。俺はそんな悲鳴、飽きるだけ聞いて来た。
他人が来ようが何だろうが、自分のキャパを越えた狂人が居れば関わりたくないだろ。俺は関わりたくない方の人種だからな。
だから構わず糞に訊ねる。
「おい、あの女子がさっき言っていた女子か?」
「……そうだな……つか、あんな女本当に知らねえんだけど、なんで自然に俺達に紛れ込んでいたんだ?」
それは真の疑問。本気で訳が解らないと目が言っている。
「河内、宇佐美、あの女子がさっきから話に出ている女子に間違いないそうだ」
「解ったけどよ!人が来るって言ってんだろ!」
「そうだな、早いとこバックれなきゃ……」
何慌ててんだ?人が来ようが何だろうがどうでもいい。貴重な情報源を此処で逃がして後で後悔する方が駄目だろ。
その間も女子はキャーキャー悲鳴を上げている。河内も宇佐美も焦ってばかりで動こうとしない。
ならば俺しかいないじゃないかと一気に距離を詰めようと、脚に力を込めて――
「え?」
込めた力が一気に抜けた。女子が「どぅふ!?」とか、女子に似合わない悲鳴(?)を上げてぶっ倒れたからだ。
ぶっ倒れた女子の後ろ、そこには、麻美が前蹴りの様な型で止まっていた。
麻美が蹴り飛ばしたのか!?つうか小柄な麻美に蹴られて飛ばされるって一体!?
「煩いのよアンタ。キャーキャーキャーキャー演技臭バリバリなんだけど」
見下ろして言い放つ麻美。その瞳は酷く冷たい。川岸さんをビビらせた悪霊の気配も微かに発している……
「流石麻美、ナイスキック」
「ふふん。この必殺技は朋美にぶち喰らわす為に開発したんだけど、いい実戦経験が出来たよ」
得意気だった。ヒッサツワザ!?ただの前蹴りだろ!?
「な、何だいきなり!?ただの女が私の隙をついて……?」
余程驚いたようだった。目をぱちくりさせている。つか、こいつ、例の訳解らん力を発動させていたのか?
隙を付いて、はまさしくそうなんだろうが、正直俺にはただ喚いているだけにしか見えなかったんだが……
「何やってんだお前!!俺のツレをぶっとばすなんざ!!」
いきなりさっきの赤坂君をぶん殴った糞がマジギレした。
結束バンドで縛られながらも、それをぶっちぎる勢いで暴れているし。
つか、さっきまで本気で心当たりがなかったようだが、今は仲間をやった麻美にキレている。これも演技じゃなさそうだが……
「緒方!こいつ等全員暴れ出したぞ!日向があの女を蹴っ飛ばした瞬間からだ!!」
河内の言葉で糞共全員を見た。確かに全員キレて暴れている。結束バンドのおかげで誰も立ち上がる事すらできていないが、肉が裂けて血を流している奴も居た。
「緒方、さっき言った事」
児島さんに言われて我に返る俺。他はどうにかしてってこれの事か?だっらた望むところだ。
「うるせーんだよ糞が!!!」
フックを喰らわした。手加減して。顔が横に飛んだ。
「お前さっき知らねえっつっただろうが!!嘘ついたのか!?おい!!」
胸倉を掴んで凄んだら、首を振りまくった糞。
「……本当に知らねえんだけど、あの女が倒れたのを見たら……」
また戻った?強いショックを与えたら正気に戻るのか?
「河内、宇佐美、取り敢えずぶっ飛ばせ。それで正気に戻るようだ」
「え?お、おう?」
取り敢えず全員ぶっ飛ばした河内と宇佐美。糞共全員一回固まったが、元に戻った。
「ホントだ……ぶっ飛ばせば戻るのか?」
「解らんが、今の様になったらそうするしかねーだろうな。ひょっとしたら、さっきの悲鳴で此処に来る奴が居て、そいつがいきなりキレる可能性だってある」
しかし、しくったな。こんな状況になるんだったら宇佐美を返すべきだった。あの事情に他の人は巻き込みたくなかったんだしな……
「こうなれば宇佐美を返した方が良かったな……」
「それ、俺もたった今思ったばっかだ」
奇しくも河内も同じことを思ったようだった。普通の喧嘩らなどうって事なかったが、これは摩訶不思議現象。あの事情を知っている人限定の揉め事だから。
「……宇佐美君だっけ?麻美がこっちに来ちゃったから、向こうの見張りが居なくなっちゃった、悪いけど……」
「あ、ああ、俺が見張りをやる」
宇佐美が離れた。と言うか児島さんの策略だろう。これで後、不思議現象をうまく誤魔化せばいい。
麻美がぶっ倒れた女子の胸倉を掴む。屈んで。
「ねえ?名前は?とうどうさん?」
一瞬目を剥いた女子。だが、直ぐに収めた。
「ああ、アンタは『こっち側』だったっけ……そりゃ効かない訳だ。言われていたの、すっかり忘れて油断していたぎゃっ!?」
びたーん、とビンタした麻美さん。手加減無く。そうは言っても非力な麻美さんではダメージに繋がらないが。
「お、おい、日向ってあんなキャラだったか?ビンタとか初めて見たような気がするが……」
「俺だって見た事ねーよ。だけど、やらなきゃいけないんだったらやるだろ」
口を割らせると言う事はそう言う事だ。そうじゃなくとも麻美は中学時代、俺のとばっちりで結構糞に狙われていただろうし、俺やヒロがぶち砕いていたのも見ている。
そこらの女子よりもずっと胆が据わってんだ。伊達に狂犬緒方の幼馴染じゃない。
「質問の答えになっていないんだけど?もう一回言った方がいい?」
平手を振り上げながら。この弦は恐怖を植え付ける常套手段。俺達もよくやったもんだ。尤も俺はぶち抱いて病院送りにしていたけど。
ビクビクしながらも一応睨んだ女子だった。こっちもなかなかだろう、とうどうさんの関係者ならば。
「とうどうさんではある。
「そうだよ?なんで私の名前、教えなきゃいけないの?勝手に知るでしょアンタ等なら」
河内が真っ青になった。「緒方にそっくりな物言いだ……」とか呟きながら。
「じゃあ次、アンタの能力は?記憶操作?」
「……違うけど。アレは私には無理。私は他人にちょびっと好感させられるって程度」
頷く児島さん。嘘は言っていないって事か。
「つまり、アンタに好意を持ったこの人達が、宇佐美君や赤坂君達を襲ったって事ね。ちょっとしたお願いは聞いてやろうと思う程度の好意を持たせられる訳か。なんで襲ったの?宇佐美君は兎も角、赤坂君も安達ちゃんもアンタ等には関わりがないでしょ」
「それこそ宇佐美って奴狙いよ。確実に狭川って奴を仕留める為にね」
狭川に悪鬼羅網の復活を促したのはその為か?連合を抜けた奴と一緒になって黒潮を襲わせる。
そのゴタゴタに紛れて潰してしまおうって魂胆か?だけどなんで回りくどい真似をする?
「ふーん……組織対組織にして『とうどうさん』が潰したと思わせないように、か……とうどうさん的にもそうしていただろうけど、朋美の分際でなかなか洒落た真似してくれたね。自分に関わりがないよう思わせるのも依頼の一つか。あそこのお家はいろいろ目を付けられている筈だから納得だ」
成程、そうか!!自分が関わっているとオヤジに知られたら、自分の身が危うくなる。須藤組は警察に目を付けられて、見張られている状態だろうしな。
だから須藤真澄も須藤組と関わりが薄い街でしか売買していなかったんだし。
「だけど、今後はそうじゃなくなるんでしょ?私達も『とうどうさん』の標的になった訳だしね」
「……そうね。一応アンタ達の事は聞いていたけど、正直見くびっていた。トーゴーもそう言っていたし。目的達成の邪魔になる、確実に……」
じゃあ今日この瞬間から間違う事無く敵同士、だったらこの女子ぶち砕いて戦力削った方がよくね?
「それにしてもおかしな話だよね。あの子だったら裏切り者を消せ、よりも、隆を手に入れる、とか、自分に害成す奴を殺せ、と依頼すると思うんだけど」
確かに。『何でも望みを叶える』のだから、狭川はぶっちゃけどうでもいい筈だ。その気になったら自分でも殺せるんだから。
だったらぶち砕いたヒロや生駒を殺せとか依頼する方が自然だろ?なんでそうしなかった?
「その辺はなんでそうなったかは解らないけど、いずれアンタ等とはバトる事になると思ったんじゃない?」
ぶつかるのは早いか遅いかの違いでしかない。トーゴーも似たような事を言ったな。
それにしても余裕のような?この状況、もっと慌ててもいいだろうに?
「ほーん。まあ、そっちの事情はやっぱ狭川を消すって事ね?具体的には湖に沈めた遺体みたいにするの?」
麻美の質問に固まった女子。この表情で確認が取れた。
あの死体はやっぱり『とうどうさん』の仕業だって事だ。こいつ等人も殺すのか……正義の味方って訳じゃないが、ムカムカが増してくるな……
「……アレは違う……狭川は結果死ぬだけ。追い込まれて自殺でもいいし、事故で死んでもいい。ただそれに関与しただけ」
違う?違わねーだろ。結局殺すって事なんだから。
「……そっちの要注意人物が随分おっかない目で睨んでくれているけど、殺しての依頼は結構あるのよ。だけど殺した事は無い」
「さっき結果死ぬっつっただろうが。今更取り繕うなよ糞女が……」
拳が握り固まった。ちょっとした切っ掛けで飛び込む事になるな、これは。結果あの女はくたばるかもしれねーけど、それが何だってんだ。結局『とうどうさん』は俺と同じだって事だ。
「言ったでしょ?自殺、事故。狭川が『それなりの奴』だったら自殺は無いし、事故は不幸なだけ。私達の領分じゃない、依頼主の領分よ」
自殺は兎も角、事故は朋美が起こすってのか?それに加担するんだろ?だったらやっぱり同じだ。
「『とうどうさん』はなんでも望みを叶えるけど、それは出来る望みだけしか叶えられない。例えば億万長者にしてくれとの望みは叶えられないし、殺せも無理。こっちにはそこまで『堕ちて』いる人居ないのよね。アンタ等に劣っている部分がそこ」
「こっち側に堕ちている奴がいるだ?ふざけんなよ糞女が。居るかそんな奴、確証があるんなら言ってみろ」
ここで糞女が不敵に笑った。
「知っているくせに、恍けるの?」
いねえっつってんだろうが、恍けるも何も、いない奴なんか知らねーよ糞が。
「……例えばアンタの好意を持たせる技?で、私達を刺し殺す奴は出て来るんじゃない?」
口を挟んだ児島さん。
「あるだろうけど、そこまでの好意は無理だと思うよ。結局は自分が一番可愛いんだから、自己防衛が働く」
暫く糞女をじーっと見て頷いた。
「ホントのようだね」
「……アンタは嘘を見抜く力があるの?アンタの情報、殆ど、と言うか皆無なんだよね」
「正直に答えると思う?」
逆に不敵に笑って返した。女子の方がおっかねえと思うのは俺だけだろうか?
「答えないとは思うけど、力付くなら可能かもね」
「お前が力付くだ?俺と緒方を相手に児島を襲える訳ねえだろ」
流石にムッとした河内が身を乗り出した。
「まさか。私には荒事は無理。見たように華奢で可愛いだけの女子だよ」
おどけるように肩を竦めて。じゃあこの女の他に此処に向かっている奴がいるのか?
「児島さん、増援はあるのか?」
「……今のところは無いと思う。だけど、長居は不味いね……」
こそっと訊ねたらこそっと返してきた。後に来る可能性があると言う事か?だったら解放して俺達もずらかるか?
俺一人なら兎も角、女子達を危ない目に遭わせられないからな……
もっと情報は欲しいが、ここらが潮時か?
「もう一つ。アンタ、どこの学校?どこから来たの?黒潮じゃないよね?」
麻美の追撃。黒潮なら河内のテリトリーだから、この女限定ならとっ捕まえる事は出来そうだが……
「さてね。言わないよ。これ以上の情報を与えるつもりはない。私の力も教えるつもりは無かったけど、時間稼ぎする為にはしょうがなかっただけだし」
時間稼ぎの件でハッキリした。やっぱ増援が来るんだと。
河内を促して糞共の拘束を解く。
「緒方がいる方から帰れ。間違っても逆に行くな」
向こうは遥香が張っているからな。あいつに何かあったら、間違いなく殺しちゃう。
糞共、おっかなびっくり俺の横を通り過ぎた。あの糞女の顔を見て、首を捻りながら。
全員居なくなったところで再開だ。
「なんでおかしな技、使わなかった?あの糞共をに好意を与えられるんだろ?だったら数で俺達を襲っても良かった筈だが」
「あの数じゃ無理だし、あのレベルじゃ無理。女子を人質に、とも思ったけど、それも叶いそうもないしね。あのチビは兎も角、こっちのギャルは想定外すぎた」
首を横に振って残念そうに。児島さんはホントにノーマークだったって事だ。だが、要注意人物指定喰らったな。
「隆、あの人達、遠ざかったみたい」
「そうか。じゃあお前も帰れ」
手の甲で追い払う仕草をした。
「いいの?増援から情報とか考えないの?」
「あの糞共みたいな増援なら無駄だろ。お前の事知らねーしな。いずれ必ず会う事になった訳だから焦らねー事にした」
「誰と会うっての?」
「お前等のボスだ」
睨みながら言った。だけど睨んだのは女じゃない。その向こうに居る、とうどうさんのボスだ。
糞女、漸くここで冷や汗をかいてカタカタ震えた。俺の殺意にビビったって事だ。
「……そこまでの殺気、出すんだ……言われた通り……」
慌てて口を噤んだ。多分何か重要な事を口走りそうになったんだろう。
ここで後ろで見張っていた遥香が合流。
「今慌てたよね?続きの言葉、気になるけど?」
「……さてね、言わないけど」
目を反らせて知らんアピール。遥香、邪悪に笑う。
「当ててみよっか?『以前会った時そう思った』んじゃない?」
「……違うよ」
「そっか。じゃあ『聞いた通りの奴だった』かな?」
「……違うってば。もう用事は無いんでしょ?じゃあバイバイ」
会話を斬って歩き出す糞女。だが、脚を止めてこちらに振りかえった。
「……日向麻美と槙原遥香、だっけ?そしてそっちのギャル。また必ず会う事になるから、その時はガチでね」
遥香、鼻で笑って返した。
「なんなら今でもいいんだけど?増援が来ようがダーリンと河内君に勝てる訳ないし、アンタのその訳解らない力って周りを操る力でしょ?私達に通用しない事は明らかになったしで、脅威は無いよ」
「なんで通用しないって思う?本気じゃないとは思わないの?」
「しないよ。絶対にね」
俺を見ながら、笑ながら。なんだ?何か勘付いたか?
「……面白くないけど、アンタの男、トーゴーが殺すから」
そう、捨て台詞を吐いて駆けた。あのタイ人ハーフ、そんなに俺とやりたいのか、とか思いながら、その後ろ姿を見送った。
「……増援が来る前に退散しようか」
居なくなって暫しした後、児島さんがそう発言した。それに同意して速やかに立ち去った。みんな無言で。考える事が多過ぎたからだろう。俺もそうだし。
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