二年の夏~015

 ちらっと外を見る。まだ電気が点いている。

「女子達もなんかやっているみたいだな」

「さゆがコンビニ袋持っていたから、多分お菓子を食べているんだろう。しかし、普段は痩せたいとか言って我慢しているのに、こういう時にバカ食いすれば結局は同じ事だろうに、なんで後悔するのを解っていてもやるんだろう?」

 それは俺もそう思う。もっとも、遥香も麻美もダイエットとか口にした事は無いけど。

「綾子は特にそうだな。つっても真逆つうか。あいつ、俺の前だけあまり食わねえんだよ。親に呆れられていたぜ。普段のように食えばいいだろってよ」

 既に彼氏に見切られているのに、未だに小食の私可愛いをやってんのか……

「波崎はそんな事ねぇんだよな。精々夜に揚げ物控える程度か。食うのは早いけど」

 波崎さんも食いたいもんを食うタイプだが、夜はとんかつとか食わないんだよな。だけどドリア食うんだったら同じだと思うが。

「千秋さんはそもそもあんま俺と外食してくんねえから……」

 ああ、まだそんな状態か。お前の場合は自業自得の部分が多いから仕方がない。

「あんま、って事は外食した事はあるだろ」

 ヒロの弁に否定の意味での首振り。

「……そもそのあんま二人っきりで会ってくんねえし、黒潮に来たら的場さんの店で話すだけだし……」

「どんだけ的場に懐いてんだよ」

 これは河内が可哀想だろ。的場に会いに黒潮に行っているようなもんじゃねーか。

「的場さんも千秋さんを可愛がるしで、彼氏ポジの俺の立場がイマイチ掴めねえし……」

「だから自分のほぼ全権を横井に使わせてやってんだろ。お前も可哀想で気の毒だが、そもそもお前のせいがデカいからイマイチ同情もできねえし」

 木村の弁に納得だ。横井さんだってただ妹ポジで可愛がって貰っているだけじゃない。それに値する何かをやっているからそうなったんだ。例えばお前の躾とか。

「まあ、俺の事はいい。さっきの話の続きだ」

 場をリセットするが如く、真剣な声色になる。いつもそうなら俺達に呆れられる事もないんだぞ?

「槇原に隠し事は無駄だって話かよ」

「違う。日向の話だよ」

 そっちか、俺も気になっていたにはそうだ。

「さっき日向が話した事だが、須藤が嫌い、憎いという感情だけで、お前に肩入れする理由が薄いように思えた」

「ああ、それは俺も思ったな。緒方君を守る理由が私怨のように聞こえた。だけど……」

 大雅が一本目のビール缶の握り潰す。その大雅に二本目を渡しながらヒロが乗っかった。

「あの話の筋は合っている。逆に言えばしっくりし過ぎた。そして抱いた感想は河内、大雅と同じだ」

 そう、そこが俺も気になった。俺に協力したのはあくまでも私怨の為。俺の為ってところが殆ど感じなかった。

 こっちの緒方君と話した時は完全に俺の為だと解ったくらいだったのに?

「それは俺も感じた。しかし大筋は合ってんだろ。だったら信じるしかねえ」

 木村が残ったビールを煽りながら言った。

「疑えばキリがねえ。解ってんのは日向は完全にこっち側で、須藤をぶっ殺そうと思っているって事だ」

 だからこそ遥香もそれ以上突っ込まなかった。何かを隠しているのは知っていても、正直に話した事もまた事実だから。

「お前は気にならねえのかよ木村?」

 河内の質問に頷く木村。

「気になるっちゃ気になるが、俺達が気付いたくらいだ。槇原も当然気付く。しかし、何も言わなかった。須藤をぶっ倒すのに関係ねぇ話だって事だ。今回の集まりは須藤打倒の話だからな」

 全員木村の弁に頷いた。確かにそうだし、何かを隠そうが、麻美はこっち側なのは確定なんだ。わざわざ暴く必要はないって事なんだろ

「槇原が日向に突っ込むのは京都が終わってからか。そうした方がいいのはみんな承知だから何も言わなかったって事か」

 河内が不思議な事を言う。

「京都が終わったら平和が訪れるだけだろ。まだ悶着があるような言い方は何だ?」

「は?お前さっきの話に納得したんじゃねえのか?」

 したけど、お前がおかしな事を言うから聞いたんだが。

「隆はそれでいいんだ。お前が気にする事じゃねえ。須藤をぶっ飛ばす事だけ考えればいい」

「うん?ヒロ、お前も何言ってんだ?」

「だから、気にすんなって事だよ。お前不器用だから2つの事いっぺんに考えられねえだろ。今は京都に集中した方がいいってこった」

「ああ、緒方君てそう言えば鈍いんだったか」

 大雅が納得したように頷くが……

「だから何だよ?お前等だけなんで通じ合ってんの?」

「いや、気にしないでくれ。大沢が言ったように、今は須藤朋美との因縁に決着をつける事を考えた方がいい」

 お前が気になる事を言うから気になるんだろうが。

「ところで国枝が言っていた京都でのお前の拉致だがよ」

 豪快に話を変えたな河内。まあいいけど。そっちも気になっていたから。

「国枝君曰く、俺達レベルが大勢来るような話だったな?」

「それは多分大袈裟だろうが、向うは須藤のホームだから仲間、つうか手下が大勢いるのは当然だな」

 木村の言うとおりだ。仲間から手下に言い換えたのもその通りだ。

 確実なのは、組関係者の息子が朋美の完全シンパだって事だ。そいつが他の奴等を牛耳っているんだろう。

 どっちにせよ、俺狙いならやりやすい。問題は……

「女子、もしくは白浜の生徒が人質になる事だが……」

「だから俺等も京都に行くんだろうが。同じ時に」

 木村がやはりビールを煽りながら言う。お前もう3本目だろ?そんなに吞んでいいのか?

「だったら俺のガードなんかよりも、一般生徒の事をだな……」

「勿論そうなるだろ。もっとも、そう簡単に一般生徒は狙えねえだろうが」

 まあ、ヒロの言うとおりだ。修旅に来た生徒が行方不明になれば、速攻で警察が動く事になる。

「よって顔が知られている君がやはり一番要注意と言う事だよ」

「いやいや、俺だけじゃねーだろ。お前も朋美と会ったよな大雅?」

「生霊のな。だけど俺の顔は須藤の記憶に中にしかない。君は写真もあるだろうし、そうなると大沢と日向さんも危ない事になる」

 そ、そうか。何なら卒アルとかで児島さんの顔も知れるから、彼女も要注意かも……

「日向と児島は須藤の病院に首を取りに行くんだろ。その戦略はちゃんと組むだろ、槇原なら。だったら問題はやっぱお前だ。白井の力で翻弄しようってのが槇原の案だろうが、お前はどう頑張っても確実に狙われる」

「そうは言ってもお前んところが俺のガードに来るとかやめろよな。黒潮の糞の顔全部把握している訳じゃねーんだから」

「ウチのモンにガードなんかさせるか。お前が一番危ねえんだから」

「当たり前だが西高生もお前のガードには使わねえ。お前が一番危ねえんだし」

 木村と河内に逆に断られた。安心するが、逆に傷つく。俺が一番ヤバいってさー。その通りだから何も言えないが。

「じゃあやっぱお前等はただの遊びで呼ばれた事になるの?」

「だから、国枝が言っただろ。俺達レベルがいっぱい来るって。その対処だろ」

 そういやそうだな。俺一人じゃ確実に負けて拉致られるからこいつ等集めたんだっけ。

「だけど、さっきに話のまた戻るけど、一般生徒の拉致はリスクが高いからやらないだろうとの事だったが、緒方君だっていなくなれば警察は動くだろう?」

「隆一人なら囲えるんだろ、そういう部屋がある、もしくは作らせたんだろ」

 そこまでするか?と思うだろうが、そこまでするのが朋美だ。あの狂人に常識を求めたらいけない。

「しかし、大所帯になるが、連携はどうなる?黒潮、西高、南海、山農は兎も角よ」

 河内の弁だが、何の連携をすると言うのだ?

「槇原の事だから、そこも考えてあると思うぜ。横井と一緒に学校で動いているからな」

 何?何しようとしてんだよマジで?

「おいヒロ、遥香と横井さんは何しようとしているんだ?」

「文化祭の時に大々的になんかするらしい。槇原も横井も何も喋らねえから全く解らねえが」

「文化祭は大和田君の映画じゃ?」

「それでお前、クラスから孤立気味になったんだろ。まあ、それに関しちゃどうでもいい事だろうが、お前の話を聞いた後じゃ、クラス展示に貢献したくねえ」

「綾子もなんかそんな事言っていたな。映画になったらどうしようとか、先の話を今不安になっていやがった」

 大和田君の映画も最悪だったが、その後の花村さんの対応も最悪だったからな。遥香曰く、俺を大和田に渡さないとの事だったが、その関係もあるのかも?

「ああ、さゆが白浜の文化祭がどうのとか言っていたのはその関係か」

「千秋さんもなんかそれっぽい事を言っていたような気がするな」

 なんなのあいつ等?当事者の俺を置いて何をしようっての?

「嫌な予感しかしないんだが……」

「俺だってそうだ。一年の文化祭のように過労死する程追い込まれねえか、今から心配だ」

「お前よりも河内の方がこき使われていただろ」

「まあ……他校の文化祭でああもこき使われている奴を見れば、俺なんて平和な部類に入るけどよ」

 なんか河内が項垂れた。思い出したのだろう。あの時の理不尽を。


 眩しくて顔を顰めた、ぼーっとする頭を振って上体を起こす。

 隣には木村と大雅が軽い寝息を立てて寝ていた。いつのまにか寝ちゃったんだな。

 時計を見ると5時ちょいすぎ辺り。玉内と約束した時間は5時半だったか。丁度いい時間に目覚めたって事だ。

 奴等を起こさないようにそっと起きる。隣のテントではヒロと河内が寝ているだろうが、起きた気配は無い。あいつ等何時まで呑んでいたんだ?

 ともあれ着替えて顔を洗う。そして軽い柔軟をしたころに、玉内がやってきた。

「オス、緒方。時間にはちょっと早いがちゃんと起きてたな」

「おう玉内。ヒロはまだ起きてねーけど、柔軟している間に出てくるだろ」

「そうなのか?じゃ、まあ、柔軟しつつ、起きるのを待とうか。だけどランニングする時間は欲しいぜ?」

「そうなったら置いて行くからいいだろ」

 違いないと玉内も柔軟開始。折角二人いるので、ペアでの柔軟を重点的に行う。

「やべえ!ちょっと遅れた!」

 焦り気味にヒロが飛び出してきた。河内を起こさなかったんだろうかってくらいに慌ただしかった。

「おうヒロ、着替えして来い、取り敢えず」

「おう大沢、歯、磨いて来いよ。待ってるから」

「お、おう!」

 速攻洗面所に向かうヒロ。コテージの女子達も起こさないか心配だ。

「昨日盛り上がったみたいだな。大沢、目が腫れているぜ。酒飲んだだろ?」

「俺は超下戸だから飲酒はしないが、そうだな。お前等んところは?」

「俺んところも。飲酒はしなかったけど。寝た奴も多かったが、起きていた奴は盛り上がったな。静かに」

「静かに盛り上がれるもんなのか?」

「民宿は他のお客もいるからな。騒いで迷惑は掛けられねえだろ」

 笑いながら。こんな感じで友達と遊びに行く事がなかったんだから、楽しかった事は容易に想像できる笑顔だった。

「悪ぃ。じゃあ早速ランいくか」

 ヒロが着替えて登場。

「少しでも柔軟した方がいいだろ。手伝ってやるから」

「お、おう、悪いな」

 優しくも玉内が柔軟の補佐を買って出た。俺はボケーっと見ているのみだ。

「隆、お前もなんか手伝え」

「よし、股割りの手伝いをしてやろう。玉内、お前右足な、俺左足」

「相撲取りじゃねえんだぞ!!」

 まあ、力士ではないな。ボクシングの練習生だ。

 程良いところで柔軟終了。ランニングと洒落込もう。

「じゃあ行くか。砂浜でいいだろ」

「そうだな、お前にビーチフラッグで負けたし」

「何?お前隆如きに負けたのかよ。つうかメロン食ってねえな。今日食おう」

 こいつはホント食ってばっかだな。しかし、確かにあの大量のメロンとスイカ二玉は処分していかなきゃ。捨てるのはもったいないし、持っていくのにも荷物になるし。

「そういや朝飯ってどうなっているんだっけ?」

 ランニングしながら玉内に尋ねる。

「俺達は民宿で食う筈だ。朝飯の料金払った記憶がある」

「宇佐美達もペンションで食う筈だ。つまり、俺達は自炊だってこった。朝飯は誰が作るんだろうな?」

 遥香と橋本さんじゃねーの?黒木さんは期待薄だし、横井さんはお菓子作りならとか前に言っていたような気がするし。

 ロードワークを終えてコテージに戻る。テントは片付けられていて、昨日の飲酒の形跡はなかった。見事な証拠隠滅と言えるだろう。

「じゃあ俺が先だな」

 なんか知らんがヒロが先にコテージに入ろうとしたが、それを止める。

「じゃんけんだバカ」

 これはどっちが先にシャワーを浴びるかじゃんけんで決めようと言う事だ。ヒロはフライングで先にコテージに入ってそのままシャワー室に逃げ込むつもりだったのだ。

「ちっ、うまくいくと思ったんだがな。お前ボケているし」

「ふざけんなよ。誰がボケだ。いいからほか、じゃんけんだ。最初はグー」

 じゃんけんぽんで俺はパーを出す。ヒロはグーだった。

「やっぱりな、気合のグーとか言うからなお前」

 せせら笑いながらコテージに入る俺。

「ちくしょう。ボケ隆に読み負けするとは……」

 だから俺はボケてねーんだよ。お前が浅はかなバカなだけだ。

「あ、お帰りダーリン。まだご飯できていないから、先にシャワー浴びてきて」

 そう言って料理の手を休めて俺にタオルを渡す超可愛い彼女さん。

「ありがとう。お前だけか?朝飯作ってんのは?」

「ううん。橋本さんもだよ。横井も手伝ってくれているから」

「やっぱり黒木さんの名前は出なかったか……」

「ああ、いやいや、くろっきーもお皿出したり、手伝ってはくれているよ勿論」

 慌てて訂正するが、戦力になっていないから名前が出なかったんだろうに。

 まあいい、先にシャワーを浴びるのは、俺が勝ち取った権利なのだ。よってその権利を粛々と利用するまで。

 シャワー室の前でヒロが「早く出ろ」とか「ぐずぐずするな」とか騒いでいたのでゆっくりと浴びた。

 出たら出たで「飯はみんなで食うもんだからな!」とか言っていたから、腹が減っているからどうなるかしらんと言っておいた。

 で、リビングに行くと、圧巻のおかずの量!

「なんだこれ?朝食ブッフェか?」

 各大皿に盛られていたのは、スクランブルエッグとソーセージ、ジャーマンポテトに生野菜のサラダ。シュウマイに八宝菜と筍と牛肉の炒め物。それとカットしたメロンとスイカ。

「あはは~。昨日の残った食材で作ってみました。洋食っぽいのは私作」

「中華は勿論私作。お味噌汁は横井さん作ね」

 笑いながらご飯を装って渡してくれた橋本さん。横井さんが味噌汁を作ったんだ。

「やっぱりジャーマンポテト作ったんだな。お前ジャガイモ好きだから」

「あはは~スクランブルエッグは卵焼き作るスキルが足りないって事で我慢してね」

 そう言って俺の隣に座った。丁度横井さんが味噌汁を装って渡してくれた。

「ネギとわかめだけれど、よかったら」

「ありがとう横井さん。いやいや、おいしそうだよ」

「当たり前だぜ緒方!千秋さんの味噌汁がまずい訳がねえ!」

「お前がドヤ顔するのは違うと思うが」

 普通に美味しいだろ。香りがそう言っている。

「大沢はまだシャワーか?腹減ったんだけどよ」

 木村が焦れてそう言った。あんなの待つ必要はないだろ。先に食って文句言ったらぶち砕けばいいだけだ。

 そんな時、ヒロが髪を乾かす暇もなく飛び込んできた。

「腹減った!って何だこの量?すげえな!!」

 喜びながら空いている席に座った。因みに河内の隣だ。河内、すんげえ迷惑そうな顔だった。

 まあいいやって事で、頂きますをして箸を割った。そしたらみんな俺に倣った。

 なんで自分のタイミングで食おうとしないんだ?俺が号令を掛けなきゃ食わないのか?

 まあいいや。小皿に各おかずを取り揃えよう。

「ダーリンどれがいい?」

 俺が取るまでもなく、遥香が既にトングを持ってスタンバっていた。しかも持っているのは小皿じゃなく大きめな皿。

「そんなに食えないだろ……」

「ああ、いやいや、私と一緒って事で。小皿沢山だと洗い物が大変でしょ?」

 成程、そういう理由なら納得だ。

「じゃあお前が食いたいもんでいいよ」

「あはは~。了解了解」

 そう言って取り分けるが、結局全おかずに手を付けていた。

 そして、遥香がそうしたと言う事は、こう言う事でもある。

「明人、どれがいい?取ってあげる」

「そんなのデカい皿じゃなくていい。小さい皿があんだろ」

「いやいや、私と一緒って事で。ほら、お皿多かったら洗うの大変になるから」

「槇原の言葉そっくり真似ただけじゃねえかよ。だが、まあ、それもそうだ。八宝菜取ってくれりゃ、あとは何でもいい」

「解った。卵もいいよね?」

「だから、お前の好きなもん取れ」

 当たり前のように動いた黒木さんだった。だが、やはり黒木さんだけじゃ無かった。

「千秋さん!!俺と一緒の皿使おう!!」

「槇原が言った事よね。だけど遠慮しておくわ」

「なんでだ⁉俺は純粋に皿洗いの手間を軽減させる為に提案したんだぜ⁉」

「だって君、既に小皿に牛肉の炒め物取っているじゃない。しかも山のように」

「だ、だからこれを大皿に移せば……」

「洗い物が増えているのだけれど?君は一品しか取らないと言うのなら兎も角」

「ち、千秋さんの皿とシェアすればいいんだよ!!」

「私は自分の分は紙皿に盛っているのだけれど。これなら洗い物は増えないでしょう?捨てれば済む話なのだから」

「じゃあ俺も紙皿に……」

「そうして頂戴。洗い物が無くなるから」

「……………はい……」

 見事玉砕中の河内を憐れむように、橋本さんも大皿に料理を盛っていた。

「河内君は、ちょっと……なんて言うかな……」

「他所の事情に顔を突っ込まない方がいい。とばっちりが来ない事の方が大事だ」

「そうか……うん、そうだよね。だけど正輝、この料理でよかったの?お魚の方が好きでしょ?」

「無いなら無いで仕方がないから。それよりも、残さず食べた方がいいだろう。用意してくれた槇原さんにも悪いし、勿論さゆもいい気分じゃないだろう?」

「それもそうよね。じゃあ多めに作ったシュウマイをもっと取ろうか」

 見事な対比だ。付き合いが長いだけじゃこうはならない。これも河内の自業自得の部分が働いている。

 唯一ペアのないヒロは我関せずでもりもり食っているし。こっちも平和だ。実に。

 昨日の食材の残りがメインだったので、量はちょうどいい塩梅だった。それでもお代わりはしたが。

「綺麗に食べてくれたね~」

 用意した遥香もニコニコ顔である。

「いや、うまかったよ。だけどあのメロンはなぁ……」

 スイカとメロンの量が尋常じゃなかった。あれを片付けたのは我ながら偉いと思う。

「あれでも民宿組とペンション組に分けたんだよ。でもやっぱり多かったようだね。ところで食後のコーヒーなんかは?」

「ああ、貰おうかな」

「ああ、槇原、そっちは私がやるわ。橋本さんも休んでいて頂戴」

「え?でも……」

「いいから。ご飯のメインは槇原と橋本さんが頑張ってくれたでしょう?コーヒーを淹れる程度、何て事はないわよ」

 そう言って台所に向かう横井さん。黒木さんも腰を浮かしたが、休んでいてと一蹴された。

「私も何もしていないのになぁ……」

「じゃあ片付けで貢献しとけ。厨房は邪魔だって言われてんだから」

 木村の弁である。反論したのは遥香。

「ここ、台所が狭いのよ。だから人数が居ても邪魔になるから」

「ああ、そうか、だったら片付けは綾子が頑張るから、お前等は休んどけ」

「ええ~……私一人?いいけどさ……」

「俺もやるからいいだろ。緒方と大沢は朝走ってっから疲れがあるしな」

「え?だ、だったらいいかな?」

 仄かにはにかむ黒木さんだった。彼氏と片付けが意外と嬉しいようだな。

 しかし、そうなると黙っていられない奴がいる訳で。

「木村一人に片付けを手伝わせる訳にはいかない。俺もやるよ」

 当たり前に大雅が名乗り出た。因みに河内はスマホを触っていて全く反応せず。

「片付けっても皿洗いくらいだろ。大した量じゃねぇからいい」

「そうそう。それに、ここの台所は狭いから。人数が多いと邪魔になっちゃうし」

 黒木さんが胸を張ってそう断った。遥香の言葉まんまに。

「しかしだな……」

「だったら正輝はゴミ出しとかやってくれれば。結構な荷物だからね」

 そういう仕事もあるんだったなそう言えば。

「あ、じゃあ俺もそれやる」

「いや、緒方君は朝走ったんだから疲れているだろう?俺がやるからいい」

 そう言われても、ランニングは日常なんだけど……

「いいじゃねえか隆。ダチの言葉に甘えとけ」

「お前は手伝うという台詞を吐く素振りすら見せなかったのに……」

 まあ、俺が許されるらなヒロも許されなきゃいけないからな。好意に与るって言うならそうなんだろうが。

「お待たせ。ミルクとお砂糖は各自でお願い」

 ここで横井さんが登場。みんなに紙コップのコーヒーを回す。

 しかし、あの会話が聞こえていた筈なのに、河内に何も言わないとは、らしくないな。

 ともあれだ。

「ありがとう横井さん」

 コーヒーを淹れてくれたお礼は言わなきゃいけない。何もしていない身としては、尚更だ。

 コーヒーの飲んで雑談していると、玄関の方からにぎやかな気配。

「あ、来たようね」

 横井さんが身体を浮かす。そして民宿組、ペンション組と一緒に戻ってきた。

「あれ?もう来たのか?」

「だって午前中しか遊ぶ時間がないんだよ?」

 麻美さんがさも当然のように言った。だけどだ。

「まだ片付てないんだけど……」

 皿は運んだが、今はまったりタイムの途中。洗い物は済んじゃいない。

「もう来たかよ、だったら洗いもんしなきゃな」

 そう言って木村と黒木さんが立った。

「ちょ、俺も……」

「いいから遊んでろ。台所が狭いからかえって邪魔になる」

 確かにさっきもそう言われたが、何もしないのは心苦しいんだけど。

「緒方君、大沢君と一緒にゴミ出ししてくれるかしら」

 ああ、それが俺達の仕事だったか。だけどだな。

「遥香、大橋さん、休んでいていいよ。朝飯の用意してくれただろ」

 もう仕事は済んだのだから、これ以上はいい。

「え?まだお掃除とかあるよ?」

「そっちは私と河内君でやるわよ。ねえ?」

「え⁉」

 聞いて無いよって顔で横井さんを見た河内。ああ、だからさっき何もしない事を咎めなかったのか。後で掃除でこき使おうとの考えで。

「聞いての通りだ。だから遥香たちは遊んでいいよ」

「だってお掃除も結構かかるよ?」

「そこは俺もいるから問題ないよ」

 大雅も遊んでいいよと。まあ、当たり前だが俺達も手伝うし、早く終わるだろ、多分。

「いいから行け。せめてコテージから出ろ。掃除の邪魔だ」

 ヒロが率先して箒を持った。感心した……訳じゃない。

 波崎さんをバリバリ意識していたからだ。あっちに神経を尖らせているのがビンビンに伝わる!

「そ、そう?そこまで言うなら……」

 遥香と大橋さんはみんなを伴って外に出た。そこらへんで遊ぶんだろう。

 まあいい。掃除開始だ。

「おいヒロ、お前部屋掃いてこい。俺ゴミ集めるから」

「河内君は廊下をぞうきんで拭いて。大雅君、大沢君と一緒に履いてもらえるかしら」

 こんな感じでてきぱきと掃除をやった。洗い物が終わった木村と黒木さんも掃除を手伝い、意外と早く終わった。

「じゃあ俺達も外出るか。つか、あいつ等どこ行ったんだ?」

「掃除が終わったって槇原に連絡すればいいだろ」

 それもそうだと遥香にコール。掃除が終わって合流する旨を伝える。

「おい、みんな山の方に行ったらしいぞ。アスレチックがあるそうだ」

「マジか。時間つぶしにはちょうどいいか。俺達も行こうぜ」

 そんな感じで歩いて向かった。みんなのバイクがコテージに停めてあったので、歩きで向かったのだろうと推理した結果だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る