二年の春~001
遂に、と言うかとうとう俺も二年に進級だ。
遥香が刺殺されたのは、この二年の春だったが、今回はその心配は皆無だし、普通に高校生活をエンジョイしようかと思う。
当然修学旅行は朋美をぶち砕く事が目標だ。撲殺しちゃうかもだが、狂人は死んでいいだろ。
生駒も東工の修旅が京都だったらぶん殴りに行くらしい。曰く、楠木さんを薬漬けにしようとした奴は絶対に許さんと。
その先兵の須藤真澄は四国に行ったし(たまにメールでやり取りしている)、狭川は俺と河内に負けて大人しくなったし、川岸さんは相変わらず引き籠っているしで、朋美の刺客は今の所無いが、まだ駒があるかもしれないから注意が必要だ。
安田に偽のメールを何通も出させたが、返事無しで、本気で何してんのか全く解らん。狭川も知らんと言っていたし。
ただ、体調が悪いようだと言う話は他の親戚から聞いたとの事。どうせなら其の儘死ねばいいのに、と言ったら、狭川も激しく同調した。
まあ兎も角、二年の初登校。桜並木を鼻歌を歌いながら歩いている状況だ。
登校したら掲示板に張ってあるクラスを眺める。既に通知で来ているが、知っている奴は普通に知っているが、俺は敢えて見ない派だ。学校に来て初めて知るっつう感覚が新鮮でいいのだ。
つっても俺はEクラスなのは、経験で知っているけど。
なのでEクラスの掲示板を見る。当然あった俺の名前。ついでに男子生徒で知っている顔があるか見てみよう。
ヒロ、国枝君、赤坂君……三木谷君の名前もあったぞ。梶原君もだ。つか、やっぱ大和田君の名前もあるな……
女子は……遥香の名前が当然のようにあった。いつだったかの繰り返しでヒロが細工したんじゃねえ?みたいな事を聞いていた記憶があるが、今考えると有り得そうだな。
あとは、やっぱり楠木さん、春日さん、黒木さん、里中さん、横井さん……蛯名さんもあったぞ。そして、やっぱり花村さんの名前もあった。
教室に入る。席は自由なので、窓際の真ん中に陣取った。
「……おはよう緒方君」
「あれ、春日さん、俺の斜め前取ったんだ?」
気付かなかった俺もなんだけど、春日さんのステルススキル、上がってねーか?
「……うん、そう。じゃあ私の後ろは遥香ちゃんかな?」
クスクス笑いながら。多分そうなると思うけど。
「おはよう緒方君。前、いいかな?」
此処で国枝君が登校。つか、良いも何もだ。
「国枝君が春日さんの隣取らないでどーすんだ?」
全く裏表なく、思った事を言ったら二人で真っ赤になった。
「そ、そうだよね。おはよう春日さん」
「……う、うん。おはよう」
慌てて挨拶しながら俺の前を取る。それを微笑ましく見る俺。
「おはようダーリン。ここ誰も取ってないよね?」
遥香と横井さん、同時に登校。
「うん。誰も取ってないよ」
「当たり前でしょう?緒方君の隣を取ったら、あとで煩くなる事必至なんだから」
遥香を見ながら横井さんが突っ込んだ。春日さん、笑ながら同調の頷き。
「あはは~。煩いくらいに交渉はするよ。勿論。ダーリンの隣は誰にも渡さないし」
こっちは当然と言わんばかりに意気揚々と座った。
「じゃあ私は春日ちゃんの前ね?誰も取っていないでしょう?」
「……うん。いらっしゃい、千明ちゃん」
こっちも笑いながら。つか、春日さん、いつの間にか、横井さんを名前呼びか。仲良くなったよなぁ。俺が知らない間に色々やったんだろうなぁ。女子会とか。
「おはー。遥香の後ろゲット!!」
「じゃあ私は最後部ゲットだぜ!!」
此処で登校してきた楠木さんと里中さんが席を取る。つうか里中さんって常に後ろの席だな。
「うわ。もう前の方の席しかない」
そう言って渋々横井さんの前に陣取った黒木さんだが、結構他の席も空いているけど?
「ねえ千明、席交換しない?」
「いいけれど、綾子はその席の方がいいんじゃないかしら?程よい緊張感は成績向上の効果があるのだし」
横井さんも黒木さんを名前呼びか……ホント仲良くなったよな……冗談とも本音とも言える発言も躊躇なくしているし。
「おおお!まだ後ろの席あるよな!!つか隆の後ろか!!でかしたぜ隆!!」
飛び込んできたヒロが、これまた飛び込むように席を取る。そんなに後ろの席が欲しいなら、早めに登校すればいいのにな。
「うんうん。仲良しで固まったね。良い事良い事」
満足そうに頷く遥香だった。いや、普通にばらけて好きな席取った方がいいだろって思うのは俺だけか?
「ハハハ。なんだかんだでみんな仲良いよね」
「……うん。そうだね」
和やかな国枝君と春日さん。言っておくけど、お前等も俺同様の視線を浴びる事になるんだからな?今の内に慣れとかなきゃいかんぞ。
で、始業式をやって教室に戻る。ここからはLHRの時間だ。
学級委員は蛯名さん。一年の時に副委員長だったからの抜擢だった。
「で、お前は保健委員になんないの?」
一年の時、保健委員だった遥香に訊ねた。
「うん。今年は仕事しない。文化祭くらいかな?」
文化祭と聞いて大和田君と花村さんを目で追う俺。
「……あの二人を文化祭から切り離そうって事か?」
「いや?お化け屋敷でも映画でも好きにすればいいよ。私は別で行動するから。勿論ダーリンを大和田と花村に渡さないから」
何企んでんだろうな……嫌な予感しかしないけど……
「まあでも、花村も大和田も関係ない第三者が、実行委員をやる事になる可能性もあるけどね」
そりゃそうだな。あの二人がごり押ししても、関係ないねって奴がいるかもだ。
……その関係無い奴が俺の隣の女子じゃねーか。
「体育祭もあんまり目立たないでよ?そうじゃなくても、ダーリン悪目立ちするんだから。かっこいいから憧れている女子も沢山いるんだし、余計なフラグは立てないでよ?」
お前が目立たせたんじゃねーかよ。つうか憧れている女子って誰だよ。フラグも立てた覚えはないんだけど。
んで、学校終わって帰っている最中だ。愛すべき友人達と共に。
俺ん家は駅から一番近いから、途中まで一緒にと言う事は多々あるのでそれはいい。
よく解らんのが、遥香が駅の曲がり角で、俺を商店街の方にグイグイ引っ張っている事だ。
「ちょっと、何なの?俺をどこに連れて行こうっての?」
「え?さっき話したじゃない?大山食堂で昼食会しようって。今日は午前中だけだから、みんなお弁当持ってないからって」
初耳だぞ。少なくともお前から聞いてはいないな。
「ヒロに伝言を頼んだのか?」
「うん。そうだけど……」
そろーっとヒロに目を向ける遥香。ヒロ、なんかこそこそと俺から遠ざかっているけど。
「……まあ、解った。確かに昼飯は食わんといかんし」
「うん……なんかごめんね?」
謝る必要はない。俺に謝るのはヒロで充分だ。
「でも、みんなはそれでいいのか?国枝君は当然いいとしても」
今日は半ドン。他校生の彼氏持ちはデートでもした方がいいんじゃないのか?
その旨を誰となく訊ねたら楠木さんが口を開いた。
「ああ、シロも来るから大丈夫大丈夫」
え?生駒がわざわざ大山食堂に来るのか?昼飯食いに?
「明人も来るから問題無いよ」
木村もわざわざ飯食いに白浜に来るの!?
恐る恐る横井さんを見た。苦笑いして首を横に振る。
「流石に河内君は呼んでいないわ。黒潮からご飯だけ食べに来いとは言えないでしょう?」
ご飯だけってのがもうね……その後遊びに行っても良かろうものだが。
「波崎は来ねえってさ。だから俺も行く必要ないんだが」
「お前は取り敢えず俺に謝れ」
なにをしらっと会話に参加してんだ。伝え忘れた事を謝罪しろ。まずはそれからだ。
「波崎は麻美さんと同じクラスになったから、その親睦会で来ないって」
じゃあ麻美も来ないって事か。南女の親睦会っての、一回見てみたい。女子校だから華やかなんだろうか。
「多分外ヅラのみでキャッキャしていると思うよ。女子ってそんなところあるから」
「お前、本気で心を読むのはやめろ」
何で俺の考えが悉く読まれるんだ。隠し事できなくなるだろうが。
取り敢えず暖簾をくぐった。昼を少し越えた時間だが、意外と混んでいる。
「……じゃあみんな、こっちの席に」
春日さんに案内されたのは座敷席。人数が多いと、この様に座敷席に通される。
流石に木村も生駒もまだ来ていないので、取り敢えずお冷で時間を潰そう。
「私、このお店初めてなのよね……」
興味深げにキョロキョロして呟いた横井さん。ボロイとか言いたそうだが堪えているようだ。
「そうだっけか?河内は結構来ているけど」
ヒロの言う通り。河内もこの店には結構来ている筈。俺ん家の晩飯が無いときとか。
「そうなの?と言うか、彼ってそんなにちょくちょく白浜に来ているの?」
「そうだな。多分黒潮よりもダチが多いんじゃねえの。白浜の方が」
「そ、そうなの?彼、黒潮で嫌われているのかしら?」
「そうじゃねえよ。あいつ、あんなでも黒潮の頭だぞ。だから極力慣れ合わねえつうか、示しがつかねえから距離を置いているつうか。だから白浜の方が気心が置けるダチが多いんだよ」
ここで会話に加わる俺。
「大体、あいつがトップに立った理由の一つに、糞先輩をぶち砕いたからって理由があるんだよ。その糞先輩は黒潮では外ヅラがいいから慕われていたんだ」
「ああ、何か聞いた事があるわ。その先輩が河内君を指名手配みたいな事をしたんだったかしら?」
「そんな感じかな?つう事は、黒潮の生徒ほぼ全員河内を狙っていたって事になるだろ?じゃあやっぱりそんな連中に心は許さないだろ」
納得と頷いた横井さん。なんやかんやで佐更木をぶっ倒して、的場に指名を受けたから、黒潮の生徒の殆どが河内を怖がっているのだ。
だったら白浜の方が気兼ねしない分、楽だろ。
「それに、河内君は黒潮で強いと言われているけど、白浜には同格の人が四人もいるからね。友達を選ばなきゃいけない立場だとしても問題無いよ」
あの野郎が友達を選ぶほど偉いとは思えないが、国枝君の言いたい事はそうじゃないんだろう。多分。
「同格と言うと……」
「緒方君、大沢君、木村君、生駒君だよ」
「ああ、でも、緒方君は別に腕っぷしが強いからと言う理由で友達になった訳じゃないでしょう?」
「それは勿論そうだよ。僕が言いたいのは、河内君が気兼ねせずに遊べる友達が白浜には多いって事だよ」
いや、俺としては、気兼ねして欲しんだけど……
来る度俺ん家に泊まらなくても、と思うんだよな。いや、別にいいんだけどもさ。
「じゃあ南海の彼……橋本さんの彼氏もそうなのかしら?」
橋本さんの彼氏って……大雅だよ、覚えてやれよ。可哀想だろ。
「大雅は元々甘ちゃんだから、そんなでもねえんじゃねえか。今は玉内とよくつるんでいるらしいけども」
「玉内君と言うと、ボクシングの人?」
「ああ。玉内もあんなツラで過去がああだから、殆どの奴が敬遠しているからな。大雅とつるむようになったから、周りの評判が変わるんじゃねえかな?」
大雅と友達だってだけで覆るような評判じゃねーんだけど。その大雅も線引きをきちっとして来ているから、甘々な評判の儘じゃねーけども。
ここで生駒と木村が合流。手を挙げてこっちだと促す。
「おう、待たせたか?」
「いや、そうでもない」
実際そんなに待ってない。腹は減ったけど。
「待ったよ、腹減って困ってたところだ」
ヒロが毒付く。黒木さんの物調ズラにも気付かずに。
「わ、悪い。そう言っても、学校が終わったらすぐに出たんだけど」
生駒が恐縮して謝罪した。楠木さんの物調ズラがヒロに向けられたにも拘らず。
「気にすんな。東白浜からわざわざ来ただけでも充分なのに、なあ、遥香」
「そうそう。文句言っている人は一人だけだから気にしないで。後で波崎に言っとくし」
遥香が脅したらヒロが真っ青になった。
「まあまあ、取り敢えず座れよ。まだ誰も注文してないから」
促すと、木村は黒木さんに引っ張られ、生駒は楠木さんの横に座った。
んじゃあ、とメニューを開く。そこに春日さんの提案。
「……宴会料理できるけど、どうする?」
夜に居酒屋と化す食堂だから、宴会料理は可能だろうけど、お値段次第だな。だけどちょっと興味はあるかも。
どうする?とみんなに目を向ける。
「一人幾らくらいだ?」
木村が値段について訊ねた。
「……一人700円もあれば。高校生だからお酒が付かないから安くできるし」
約8000円か。つうか700円だったら普通の定食とあんま料金が変わらんし、いいかな?
「料理の内容は?」
横井さんがご飯の中身を訊ねた。
「……大皿でおかずが数品。トンカラと八宝菜、山菜の天ぷらは確実かな?あとは小鉢数種」
おお!!山菜は旬だからな!!それを天ぷらで戴けるとはラッキーかも!!
「飲み物は付くの?」
楠木さんがお酒が付かないからジュースは付くでしょと暗に催促した。
「……ペットボトルのお茶とジュースが付く筈だよ」
うん。俺はそっちの方がいいや。お得感がパネエし。
「俺山菜あんま好きじゃな「いいな、それにして貰おう。俺山菜好きだし」えええ~……」
ヒロの却下の提案に生駒が被せた。そのビックウェーブに乗る俺。
「俺もそっちがいいな。遥香は?」
「うん。お得感があっていいよね。宴会も二度目だし、あんな感じなんでしょ?」
あんな感じとは、河内が的場に言われてこっちに来た時か。あの時も相当の量が出たからな。恐らく類似しているだろ。
同意を促すような遥香の視線。全員それでいいよと頷く。ヒロ以外は。
「じゃあ春日さん、それを頼んで貰えるかい?」
国枝君がお願いすると、コックリ頷いて厨房に向かった。
「俺山菜好きじゃねえのに……」
ヒロが零す。ブチブチとうるせーな。
「俺は山菜好きだからな」
「俺はどっちかって言えばそうでもねえが、旬だしな。旬のモンは食っといた方がいいだろ」
生駒と木村の意見におおむね賛成の女子達だった。
「まあいいや。じゃあお前等で山菜食えよ。俺はいいから」
なんかいじけているヒロだが、その案には乗ってやろう。山菜の天ぷら多く食えそうだからラッキーだし。
「この店は旬の物をよく使うから、ひょっとしたら魚も旬ものが出るかも」
「おお、いいなそれ。ひょっとしたらしらすも出るか?」
「解らないけれど、そうなったら有り難いわね。しらすのかき揚げ大好きだから」
和気藹々と旬談義に興じる俺達。ヒロはやっぱりいじけて一人水を飲んでいた。
そんなに山菜食いたくないのかよ。旨いんだぞ山菜。タラの芽とかコゴミとか最高じゃんか。
注文をしに行った春日さんが戻って来た。お盆にコップを沢山乗せて。
そのお盆にはやはりペットボトルのお茶は乗せてあった。
「……出来上がるまでこれ飲んでてって」
やっぱここはサービスいいな、暇潰しのお供まで貰えるなんて。
「ありがとー春日ちゃん。早速みんなに配ろうよ」
楠木さんが率先してコップに注ぎ、春日さんがそれをみんなに回す。
「……宴会は普通ビールとかお酒で料理が来るまでの繋ぎにするから……お通しも今回遠慮したからね。店長さんがサービスだって」
そう言われればそうかも。遥香のお父さんに居酒屋で御馳走になった時、ビールで繋いで待っていたような気がする。
俺と遥香はその時勿論烏龍茶だったが、こっそりビール勧められたっけっけなぁ……
俺は超下戸だから超遠慮、つうか、涙目で拒否したけど。
「俺はビールでもいいけどな」
「お前ふざけんなよ。白浜で酒飲もうとすんなよ。最低俺を巻き込むな。ヒロはどうでもいいけど」
「俺も巻き揉まれたくねえんだけど……」
いやいや、お前ビール飲む奴じゃねーか。夏のキャンプで空き缶何個転がしたと思ってんだよ。
「……君達はそうやって他で飲酒しているのかしら?」
「少なくとも俺はやってない。他の奴は知らんけど」
横井さんにおかしな誤解をさせる前にハッキリと言っとかなければならん。国枝君が高速で視線を逸らしたのはこの際無視しよう。
ワイワイガヤガヤやっていると、強面店長がデッカイお盆を持って登場。
「腹減っただろ!!もうちょっと待ってな!!全部揃ってからだ!!」
ドカンと山盛りのトンカラ、八宝菜が置かれた。横井さんがそれを見て引き攣った。
「ち、ちょっと量が多いんじゃないかしら……」
「11人前だろ!?これでも足りねえと思うけどな!!がははは!!まだまだくるぜ!!」
一旦引っ込んだ店長を目で追ってから発した。
「……11人前以上あると思うのだけれど……」
「それは大袈裟だ。精々6人前くらいだよ」
俺の言葉の同調して頷いた春日さん。横井さんの顔が更に青くなった。
「6人前って……じゃあ一人分はどれくらいなの!?」
大山食堂は基本大盛りだってば。この八宝菜も5人前くらいだし。
「おら、山菜の天ぷらと白エビのかき揚げ。それに刺身!!」
またまたドカンと置かれたおかず。刺身なんて真鯛一匹だった。横井さん、更に真っ青になる。
「白エビのかき揚げか。俺、それも好きなんだよ」
「ああ、シロって天ぷら好物だもんね。良かったねー」
この量を見ても、動じないどころか喜んでいる生駒を信じられん表情で見た。まあ、この店は初めてだろうから、気持ちは解る。
更に奥に引っ込んだ店長を確認してから発する。
「ね、ねえ。これで終わりよね?」
「……まだ小鉢がある」
春日さんの言葉に口をあんぐりとあけた。まだあるの!?と言った感じで。
今度はデカいお盆に小鉢の乗せてやってきた。
「ホタルイカの煮物、じゅんさいの酢の物、それに漬物だ!!」
これで終わったと思ったか、ほっとしてお礼を言う横井さん。
「あ、ありがとうございます。こんなに沢山……」
「あん。まだ終わっちゃいねえよ!!ちょーっと待ってな!!」
ガハハと笑いながら奥に引っ込んで行く店長を、更に真っ青になって見送っていた。
「ね、ねえ。これ以上何が来るのかしら?正直結構きついんだけれど……」
「まだご飯とお吸い物が来ていないから。お味噌汁かもしれないけど」
遥香の返しに真っ白な顔色になった。血の気がどこにも見当たらない。
「またせたな!!」
ドカンドカンと山盛りご飯とあさりの吸い物を置いて行く。ついでに山芋を下ろした小鉢も。
「飯と吸い物はおかわりしても良いぜ!!あ、響子ちゃん、冷蔵庫にあるジュース類、どんどん出してもいいからな!!がはははは!!」
ご機嫌宜しく豪快に笑って、奥に引っ込んで行った。
「……以前も似たような事をやったのよね?その時もこんな感じだったの?」
「そうだね。もうちょっとおかずが多かったかな?」
「……でも、これはサービスで大盛りにしてくれたんだから、毎回は無いよ?」
「いえ…サービスは大変ありがたい事なのだけれど……」
「いいから食べようよ。お腹減った!」
里中さんのこれ以上待てんアピールで口を噤んだ横井さん。大丈夫だ。多かったらヒロが何とかしてくれるから。
じゃあ戴きますで小皿に自分の好きなおかずを取り分ける。
今回は各々自分で。とは言っても、やっぱり遥香は俺に取り分けてくれたが。
「はいダーリン。お刺身、それで足りる?」
「多いくらいだから、お前も食べてくれ。醤油一緒に使ってもいいだろ?」
「それはもう」
そんな訳で、仲良く刺身を一つの醤油で食べる事が決まった。
「シロ。山菜の天ぷら、この位でいい?」
「いいけど、ちょっと多くないか?他の奴等も食べるんだし……」
「大沢は食べないって言ったからいいんじゃない?ねえ、大沢」
「おう。いいから持って行け。かき揚げは駄目だが」
生駒は好物の天ぷらを沢山食えると言う事で、ちょっとホクホクしていた。ヒロが山菜嫌いで良かった。
「……国枝君。取り敢えずトンカラでいい?」
「なんでもいいよ。小鉢の物もあるし。だから春日さんの好きな物で」
コックリ頷いてトンカラを2人前ほど持って行く。
「け、結構持って来たね?」
「……そう?2人前くらいだよ?」
トンカラ定食2人前くらいは持って行った。あのトンカラは6人前くらいだから、残りは4人前だということだ。
だけど、誰も文句は言わん。なんならもっと持って行けとの雰囲気を醸し出しているほどだった。
「明人、八宝菜……」
「いい、自分で取る」
「え?じゃあ天ぷら……」
「それも自分で取るからいい。つうかお前は何食いたいんだ?」
「え?小鉢のじゅんさい食べているから……」
「じゃあ俺のもやる。ほら」
「え?う、うん、ありがと?」
なんか疑問で有り難うを返した。木村って多分じゅんさい嫌いなんじゃないか?押し付けたようにしか見えなかったぞ。
「……やっぱりみんな仲良いわね……」
横井さんが憧れの瞳を以てそう呟いた。
「千明っちの彼氏はアレだからねー。ところでまだ着信拒否してんの?」
里中さんの質問にビンビン聞き耳立てた俺。
「夜寝る前に拒否して、朝起きたら解除しているわよ」
「まだそんな状態!?河内君も変わんないねー。的場さんに叱られたんじゃ無かったっけ?」
「そうだけれど、効果があったのは二、三日だけだったわ。的場さんも卒業したから、安易に頼れないし、困っている所よ」
うわぁ……相変わらずかよ。ホントあいつ馬鹿だよな。いつ逃げられてもおかしくないぞ……そうなったら誰も庇わないし、同情しないぞ……
「いや~。いつもこんなに賑やかになった事が無いから嬉しいね、ダーリン」
いつもとは、繰り返しの事だろう。最後の繰り返しを抜かしてヒロだけだったからな、俺の場合。
「俺はそうだけど、お前もそうだったの?」
「勿論ダーリンよりは話す人は多かったよ。友達って意味でね」
話す人って言い方がもうね。心を開いていなかったって言い切っているんだけど、それ。
「そして、意外や意外、そんな中でも結構話していたのが須藤なんだよね」
「え!?そうなの!?」
そりゃ意外ってもんじゃねーよ!!初耳だよそれ!!
「そう?一年の冬の時なんか、結構話していたけど」
言われてみれば……
春日さんを脅したり、いじめの黒幕だって事を駆け引きの材料にしたりと、結構な活躍(?)をしたんだったな。
「他になんか思い出した事無いか?」
「そうだねぇ……一年の夏は隆君が轢死したじゃない?その時ちょっと話したかな?」
「な、なんて話した?」
「美咲ちゃんの悪口の言い合い。隆君はいないし、大沢君も美咲ちゃんも病んじゃっていたから、何もしなかったけど。でも、その頃から須藤の事はちょくちょく調べていたよ」
ま、まあ、俺は死んじゃったし、後の話になるけど、ヒロも楠木さんも死んじゃったからな……でも、後追いするくらいまではまだ親密じゃ無かったんだよな。
それだけでも有り難い事だ。深く付きあえば付き合う程、遥香が危ないって事になるから。精神的にも、肉体的にも。
だけど、遥香の記憶は興味あるぞ。
「他はどうだ?里中さんとか」
「さとちゃんは元々須藤に適当に話しを合わせていた人だから。須藤が死のうが狂おうが関係ないって言うか」
ドライだな里中さん……元々信頼していなかったんだから、そりゃそうか。
「えっと、夏に大沢君とさとちゃん、須藤とダブルデートみたいな事するよね?あれも須藤に頼まれたってよりは、大沢君に頼まれたから引き受けた部分の方が大きいよ」
「え!?そうなの!?」
「うん。最初は適当に理由を付けて断っていたんだけど、大沢君に頼まれて、説得されたって感じ。その大沢君も須藤に泣き付かれたからって部分が大きいよ。そうは言っても、須藤の応援していたからに他ならないけど」
「なんて迷惑な奴なんだ……」
「いやいや、大沢君は隆君の味方だからだよ。須藤じゃなくても別に良かったんだ。麻美さんを忘れて精神的に落ち着けたら。だけど、あの時点では、須藤が好意を持って接しているのを知っていたから」
俺の為に朋美とくっつけようとしたっての?いや、まあ、そんな話を聞いた事もあるけどさ。
「だけど、須藤の味方だったのは変わらないかな?中学の時から。中学の時、隆君の事紹介してくれって頼まれたのを断っていたからね」
あ!そう言えば、中学時代、俺の事を好きだって言ってくれた女子が4人だか5人だか6人だかいたんだった!!
それを悉く断っていたんだよなあいつ!!今思えば朋美の被害が行かなくて良かったけども。
「何回か繰り返して人数が多少変わるけど、確実に3人は好意を持っていたよ。だから大沢君が断ったのは確実に3人いる。今回はどうか解らないけどね」
「そうか……しかし良かった。そのまま紹介して貰ったら、朋美に酷い目に遭わせられていただろうからな」
「私としても、それは良かったよ。『あの緒方隆』を紹介してくれって頼んだ女子だから、結構胆が据わっている子だろうし」
……よく考えてみればそうだな……こっちの俺もそうだろうが、俺自身の中学時代も酷かったもんだ。
そんな俺を紹介しろと言ったんだから、荒磯の女子みたいに腕っぷしを頼りにして寄って来た女か、それとも相当胆が据わっている女子かになるんだ。
「その中でも結構食い下がっていた子がいてさ」
「俺の狂暴凶悪を知って寄って来るんだから、腕っぷし目当てじゃねーの?」
適当に相槌を打ってみる。なんか嫌な予感がするからだ。
「どうだろ?だけど、結局退いたんだから、大した思いは無かったのかもね」
まあ、そうだな。退いた方が結果的には良かったと思うけど。あの狂人を相手取るなんて、普通の女子じゃ不可能だろ。
「まあ、私のダーリンは中学の時からモテモテだったと言う事で」
トンカラを箸でつまんで、あーんと。俺はあーんで迎え撃つ。横井さんが目を丸くしようが迎え撃つ!!
「こ、こんな所でもそれやるのよね……ファミレスでもやっていたのだから今更だけれど……」
「緒方君と遥香っちにそんな事言うのは今更だよ。初めて会ってお昼一緒にした時もそうだったし」
「初対面の人にもこれ見せたの!?」
頷く里中さん。別に気にした風も無く。
「か、彼氏さんの反応はどうだったのかしら?」
「彼氏には羨ましいって何回も言われたけど、他所は他所、ウチはウチだから」
全く関係ないってスタンスだった。それが里中さんの持ち味だしな。
ごほんと一つ、咳払いをし。
「外では控えて貰えると嬉しいのだけれど。河内君がとってもウザくなるから」
「ああ、お前ら二人でやる分にはいいから、俺達の前ではやるな。綾子がうるせえ」
横から乗っかってくる木村だった。黒木さんが箸でつまんでいたトンカラを木村にあーんしようとした矢先の事だった。
「そのくらい我慢してよ。これでも外では我慢しているんだから」
「「「これで!?」」」
木村と横井さん、里中さんが突っ込んだ。本当にそうなんだぞ。遥香の家でご飯戴く時なんか、膝に乗っかろうとした事もあったんだから。
「こいつ等に何言っても無駄だ。諦めろお前等」
物調ズラで白米をパク付きながらヒロが言う。お前は何回もチャレンジして断られているからな。その物調ズラは許そう。
その表情を哀れに感じたのか、横井さんが口を挟んだ。
「お、大沢君、こういうのは恥ずかしいものなのよ」
「知ってんよ、そのくらい。だけど隆は中学の時、何回か日向にやって貰っていたよな。喧嘩で両手首捻挫した時とかよ」
隣の彼女さんの額に青筋が立った。余計な事言うなよ!!つーか、そうだったの?
「……両腕使えないんじゃ仕方がない」
「そ、そうだね。緒方君も助かったんだろうし」
国枝君と春日さんのナイスフォロー。爆弾発言したヒロとは雲泥の差だ。
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