二年の春~002

 ヒロがチラチラ遥香を見ている。

 なんだ?と思い、聞こうとしたが、生駒によって阻まれた。

「緒方、悪いけど烏龍茶取ってくれるか」

 いいけど。確かに俺に前に置かれているけど。

「お前の前にも緑茶置かれているだろ?烏龍茶の方がいいのか?」

「あ、うん」

 そうか、と言ってペットボトルを生駒に回す。

 その時気付いた、生駒はヒロに注意していた。視界の端になるべく捕らえようとしていた。

 なんで?ヒロと何かあったのか?

「隆、お茶くれ。生駒の席からついでに持って来い」

「いいけど、何だその上から命令口調は?」

 ムッとするも緑茶を持った。その時解った。

 生駒とヒロがアイコンタクトを取っていた事が。

 一瞬見つめ合って微かに、本当に微妙な動きで頷いた。なんだ?何がしたいんだ?

 その後もヒロと生駒に注意して意識を向けたが、やはりアイコンタクトを取りながら、他の人と話していた。

 なんか内緒にしているい事でもあるのか?気になって飯に集中できない。

「まだ食ってんのか?みんな大体食い終わったぞ」

 その注意していたヒロに呆れられてそう言われた。

 慌ててテーブルを見ると、確かに俺の小鉢以外、殆ど空になっていた。

「マジで?あの量をよく食べたな?」

「……みんな頑張った」

 春日さんの言う通り、全員が椅子を背にして、体重を預けていた。

 こりゃマズイと一気に小鉢を完食。春日さん、コックリ頷いて立ち上がる。

「ど、どうしたんだ春日さん?」

「……デザート持って来るから。フルーツポンチ」

「「「マジで…………」」」

 全員が同じセリフを呟いた。この上デザートもかよ……

「……お腹大変だから、私の分、ダーリン食べて……」

「えええ~……俺も限界に近いんだけど……」

「……大沢君、申し訳ないけれど、私の分を頼めるかしら……」

 横井さんの申し出に、げんなりしながら返すヒロ。

「マジか……これからジムに行かなきゃいけないってのに……」

 え?ヒロはジムに行くつもりだったのか?

「……シロは勿論食べるでしょ?」

「……これ終わったら用事があるって言ったよな?正直これ以上積め込みたくないんだけど……」

 生駒はバイトに行くんじゃねーの?用事って珍しいな……

 なんか変だが、考え過ぎだろ。問題は持って来るフルーツポンチの量だ。どうか普通の量でありますように……

 フルーツポンチの量は少なめだった。大山食堂にしては珍しいが、有り難い事この上ない。

 なので余裕で完食……って訳じゃなく、女子の殆どがパスしたので、野郎どもだけで頑張って食った。

「……大丈夫?国枝君」

「はは……ウップ…な、何とかね……春日さんは平気なのかい?」

「……甘さが足りない。乗っている生クリームがあっさりしすぎ」

 正直言って女子は春日さんだけが食べたのだ。この様に甘さ不足で不満だったようだが。

「隆……少し休んだらジムに行くぞ……」

「俺も?正直行きたくないんだけど……」

「俺だってそうだけど、そろそろ顔出さなきゃオッチャンがうるせえし」

「俺は定期的に顔出しているんだけど……」

「うるせえな。いいから来い」

 なんか強引にジムに行くことになった。いや、別にいんだけどさ。この腹では満足に動けないぞ?

「ダーリンジムに行くの?じゃあ私はどうしようかな……」

「二次会無しなの?前はカラオケ行ったって聞いたけど?」

 里中さんの主張である。確かに前は二次会やったな。

「う~ん……じゃあそうしようか。横井もいい?」

「構わないけれど、みんなにも聞いた方がいいんじゃないかしら?」

 そう促されたので全員に参加を促した。春日さんと木村を覗いてはOKだった。

「お前も混ざればいいだろうに」

「女共の中に一人ポツンといられるか。お前じゃねえんだし」

「俺だって嫌だろ。女子の群れ大好きみたいに言うな」

 とんだ濡れ衣だ。お前俺をそんなふうに見ていたのか!!

「ま、まあまあ。木村も冗談で言ったんだろうし」

「お前はバイトいかねーのか?ラーメン屋」

「あ、うん。今日は用事があって。他にヘルプで呼ばれたから」

 そう言えば、バイトのヘルプを頻繁に頼まれるような事を言っていたな。勤労少年は多忙だな。こんな腹でも行かなきゃいけないんだから。

「国枝君は帰るのか?カラオケで騒げばよかろうものだが」

「いや、流石に女子だらけの中、一人居られる胆力は無いよ……だから素直に帰ろうかと思うんだけど」

 そりゃそうだな。これから春日さんのバイトが終わるのを待つのも大変だろうし。


 大山食堂で二次会班と別れて駅に向かう。

 のはいいけど……

「お前等も西白浜に用事があるのか?」

 何か知らんが全員俺に着いて来たので訊ねた。

「いや、どっちにしろ駅に行かなきゃいけないんだから……」

 国枝君の言う通りだった。じゃあ駅まで一緒か。

「国枝、お前も帰るな」

 ヒロが国枝君の腕を掴んでそう言った。

「え?僕にジムの見学をしろって事かい?」

「そうじゃねえ。ジムは口実だ。女共から離れる為のな」

 ……成程、こういう事か……

「野郎同士の内緒話があるって事だな?」

「そうだが、そう言われると気持ちわりいな……」

 俺もそう思うから突っ込みは入れん。

「じゃあ生駒のヘルプも嘘なのか?」

「ああ。違和感なかっただろ?事実ヘルプは結構頼まれるから」

「木村も?」

「俺はあの集まりの前にメールで誘われた。だから大沢の用事の中身は解らねえけど、何となくは想像つくか」

 俺も何となくは想像できる。いつもは絶対言わない事を、ヒロは言ったんだから。

「じゃあ僕にも事前にメールか何かで言ってくれたら良かったのに」

「俺にもそうだぞ。内緒話は結構しているんだから今更だろ」

「槙原に勘ぐられたらお前、げろっちゃうだろ。春日ちゃんが不審に思ったら正直に話すだろうが?」

 その通りなので何も言えん。国枝君も俯いちゃったから同じ心境なのだろう。

「西白浜まで行くのか?」

 木村の質問に頷くヒロ。

「ジムに行くと言ったからな。他の駅に行ったとバレたら勘ぐられる。槙原に勘ぐられたら終わりだ。つうか女子に勘ぐられたらマズイ」

「だけど、あんな爆盛食った後だから、店に入りたくねえぞ?」

「あ、それは俺も」

「それには僕も同意だね」

 内緒話する為にはどこか落ち着いたところに入った方が絶対に良いが、大山食堂で飯食った後にお店に入るのはちょっと……

「そんなモン、西白浜に着いてから考えたっていいだろ」

 まあ、それもその通り。なので、俺達は大人しく電車を待った。

 そしてこれだけは言わせて貰おう。

「ファミレスは絶対に駄目だからな」

「流石にそのくらい解ってんよ。お前結構バカにしてんだろ?」

 確かに結構馬鹿にしているけど。だってお前、馬鹿だもん。


 で、西白浜駅。他校生が結構電車待ちしている中、木村に訊ねる。

「おい木村、誰にも会わずに、飯食わなくても良くて、マッタリできるところに案内しろ」

「スゲエ厳しい条件だな……」

 流石の木村も難色を示していた。

「そこいらの公園でいいだろ」

 ヒロの提案である。だけどだ。

「春になったとはいえまだ寒いから外はちょっと……」

 国枝君の言う通りだ。桜が咲いているとは言え、まだまだ気温は肌寒い。そんな状況で外で話すのはキツイ。

「適当な喫茶店とか?ほら、駅前にもあっただろ?」

 生駒の提案である。しかしだ。

「あそこって西高御用達の喫茶店で、糞マズイ上に普通のお値段だぞ」

「そうなのか……じゃあ駄目だな。西高生は木村が何とかするにしても、糞マズイのは嫌だ」

「じゃあ俺ん家はどうだ?また電車の乗らなきゃいけねえけど」

 木村の提案である。それも良さ気だが……

「帰る時に離れちゃダリィから嫌だ」

 ヒロが却下した。木村の家は白浜の外れ。そこに行くのも、行ってから帰るのもダルい。案外遠いのだ、木村の家は。

 その後もあーだこーだと案を出すが、誰も納得しない。

「お前等いい加減にしろ。話すんなら公園でもいいだろ」

「だから、まだ肌寒いから……」

「こんな所でグダグダやってんなら、俺ん家だろうが同じだろうが」

「お前の家は遠いって言ってんだろ」

「もう糞マズイ喫茶店でいいからそこにしよう。ブレンドだけで粘ればいいだろ」

 誰もが是とせず、ちょっとしたカオスだ。

 ならば俺が活路を見出そう。

「良し解った。一駅歩くが、そこにしよう。いいだろヒロ、国枝君」

 振られた二人は怪訝な表情。一駅歩くに嫌な予感が働いたのだろう。

「緒方の言う所にしよう。これ以上のグダグダは面倒くせえ」

「そうだな。一駅くらいは問題無いし」

 木村と生駒の賛成を取った。後はヒロと国枝君だ。

「……あのスィーツの店か?」

「あの大盛りスィーツの店かい?確かに知り合いは誰も来そうも無いけど……」

「フリードリンクがあっただろ。それでいいだろ」

 そもそも何も食いたくないんだ。フリードリンクで粘れるだけ粘ればいい。


 んで、超歩いて付いた先は、ピンクの外観のプレハブを繋げたようなスィーツ点。

「マジで此処に入るのかよ……」

 流石の木村も躊躇する程のぷりぷりしている外観だ。

「えっと……他に客はいないよな?此処に男子だけで入るのはかなりの勇気が必要って言うか……」

 グダグダうるせー生駒を引っ張って入店すると、人懐っこそうなおばちゃんが「いらっしゃいませー」と笑顔で出迎えてくれた。

「おやまあ。男の子だけで5人?テーブル席空いているけど、そこでいいよね」

 一回来ただけなのに、常連のような扱いだった。

 何はともあれ、案内された席に着く。木村と生駒が忙しなく周りを見て、いや、気にしている。

「客が女ばっかじゃねえかよ。その女も2、3人くらいしかいねえのが何とも……」

「テーブル席でいい?とか聞かれたけど、カウンター席4席しかないじゃないか……」

 色々突っ込みたいのは解るが、先ずはメニューを開け。

「食いたいのあったら自腹で頼め。俺はフリードリンク」

 ヒロと国枝君も俺も僕もとフリードリンクにした。

「……まあ…まずはメニュー見てからだな……」

「見たところで頼む気にはならないけどな」

 そう言いながらメニューを開いた。空気を飲む気配が二人から感じ取れた。

「な、なんだよこりゃ……このパフェマジかよ……」

「このあんみつ、金魚鉢に入っているのか?」

 もう驚愕を通り越して冗談だと思う始末。

「そのパフェ、倉敷さん完食したぞ」

「「マジで!?」」

 マジもマジマジ、大マジだ。

「因みに鮎川はハニトー全部食った。槙原は半分以上残したけどな。その残したジャンボシューは倉敷が食った」

「ジャンボシューって、このキャベツみたいな奴か!?」

 ヒロが言ったら驚愕で返された。事実そうなんだから仕方がない。

「春日さんはスポンジケーキ、全部くったそうだ」

「この洗面器みたいな奴を一人で!?」

 事実だが、信じられんって顔で突っ込んでいる。まあ、信じられんのも無理はない。

「お前等もネタで一回なんか注文すれば?」

「……お前達は何食べたんだ?」

 生駒の質問に気持ち良く答えよう。

「このミルクレープ。カットされて出て来るんだから、他の物と違って確実に小さいだろうって踏んで」

「じ、実際はどうだった?」

「普通のよりはデカかったけど、甘さ控えめで助かったかな?」

「デカいって言うよりは高いって感じだったけどな」

「た、高いって?」

「ミルクレープはクレープ生地を重ねて作るだろう?面積はそうでもないけど、重ね続ければ高くなるでしょ」

 真っ青になった木村と生駒だった。あれでも多分、この店では小さい方だと思うぞ。

 まあともあれだ。

「早く注文しろ」

「ふざけんなよ。お前等だってフリードリンクで終わらせようとしてんじゃねえか。大体何も食いたくねえっつってんだよ」

 だって大山食堂のダメージ、取れてねーんだから仕方がないだろ。

「しかし、そうは言ってもよ、おばちゃん注文待ってそわしわしてんじゃねえか。あのおばちゃんを見たらお前、ドリンクだけって言えるのか?」

 ヒロの言う通りだ。おばちゃんの期待を裏切るような真似を、俺の友達にさせたくない。そんな極悪非道な奴と友達だなんて思いたくない。

「ふ、フライドポテト……流石に無いか……」

 生駒の台詞にデジャヴを覚えた。あれ確かヒロが言ったセリフだ。

「木村君も生駒君も大山食堂で食事したんだから……大体僕達もドリンクで済まそうとしているんだし……」

「俺達と木村、生駒は違う。決定的な違いがある。なぁ、ヒロ」

「おう。その通りだ。俺達にあってあいつ等に無いものがあるんだ。だから注文は必要だ」

「え?そ、そうなのかい?その違いってなんだい?」

 国枝君は気付いていないのか……仕方がないな。

「俺達は以前食ったけど、こいつ等は食ってない」

「俺達は怯んだ姿を女に見せたが、こいつ等は見せてない」

 ゴーン!!と白目を剥いた国枝君だった。思いの外くだらなかったんだろう。俺もそう思うし。

「だからふざけんなって言ってんだよ。そんなくだらねえ理由で「……そうだな。お前達の言う通りだ」はああああああ!?」

 木村の否定に肯定で被せた生駒だった。流石に突っ込む木村。

「お前までどうしちまったって言うんだ!?あの馬鹿共の馬鹿な理屈のどこに共感する部分があったって言うんだ!?」

 酷くディスられているが、文句は言うまい。他ならぬ俺自身もそう思っているのだから。MAXで。

「いや、俺も飲食店でバイトしているから、おばちゃんの気持ちは解るかなって」

「そっちかよ!!いや、うん。だけどそりゃそうだよな……スィーツ屋でスィーツ食わないとか、ちょっとおかしいか……」

 改めてメニューを見る木村と生駒。冗談で言ったのに、マジで注文しようとしている。

「……おい生駒、流石にこの量は無理だ。死ぬ。だから一つだけ頼もう」

「俺もそう思っていた所だよ。緒方達も加勢してくれると信じているし」

 ちょっと待て。なんで俺達も巻き込まれるんだ。俺は要らんと言っただろうが?

「だ、だったらせめて一番小さいのにして貰えるかい?」

 国枝君は加勢するつもりのようだ。俺はマジで嫌だからな。

「じゃあ……バケツプリンってのがあるけど……」

「それ、ほんとにバケツだよ?」

「マジか……パンケーキ……」

「それ、大きさもそうだけど、5枚重ねだよ」

「じゃあ駄目だ。命が惜しい」

 慎重に選んでいる。無理もないが、おばちゃんのそわそわが激しくなる一方だった。伝票握りしめて、まだかまだかと待っている。

 じゃあ逆に訊ねた方が早い。そこに経営者がいるんだし。

「あの、すみません。一番小さいものは何ですか?」

「うん?量が少ないって事?」

 頷いた。全員。

「そうだねぇ……おやきは小さいかね?」

 おやきって言うと、この大判焼きみたいな奴か……それでもDVDくらいのデカさだぞ?

「中身はなんですか?」

 生駒の質問である。あんこじゃねーの?知らんけど。野沢菜とか無さそうだし、この店。

「かぼちゃを白あんで混ぜたものだよ。甘さ控えめだから、男の子だったらいいかも」

 顔を見せ合って頷く木村と生駒。やれやれ、漸く決まったか。

「じゃあそれを」

「はい。5つでいい?それとももっと欲しいかい?」

「「「「「……………え?」」」」」

 俺と言うか、木村と生駒としては、一個を分けて食べるつもりだったんだが、おばちゃんの言い方からすれば、一人一個になるぞ?

「え、えっと、俺はフリードリンク……」

「はいはい。全員フリードリンクとおやきでいい?」

「「「「「……………はい……………」」」」」

 此処で否とは言えん。いや、普通に考えたら、おばちゃんの言った方が正しいのかもしれんし。

「……おい隆、どうすんだ?大山食堂で爆盛食った後だぞ?この上この店の馬鹿デカいスィーツはマジで死ぬ」

 どうすんだも何も……

「お前も結局頼んだんだろうが」

「だってあそこでフリードリンクだけって言えるのかよ?」

 言えないからおやきを是としたんだろうが。お前も結局は同じだろ。

「その前に、値段見なかったよな。いくらだそれ?あんま金持ってねえぞ」

 木村がぼやきながらメニューを再度開いた。

「……400円だってよ。フリードリンクが300円だから、700円かよ」

 フリードリンク300円?ファミレスよりも高いじゃねーか。そんなに差は感じないけど。

「最悪おやきは持って帰った方がいいか…」

「駄目だ。此処で片付けて行け」

 生駒が呟いたらヒロが否定した。流石に何で?と全員が思った。

「楠木にそれが見つかったらどう説明するんだ。だから隆、お前も駄目だ。此処で片付けろ」

 ああ、そうだったな。当初の目的を忘れる所だった。

「そういや内緒話するからって集まったんだよな。緒方がこの店を推薦するから……」

「生駒だって別に嫌だとは言わなかっただろ。俺に責任転嫁するな」

「俺この店初めてだし、どう考えてもお前の責任だろ」

 そう言われればそうかもだが、誰も俺を止めなかったんだ。だから俺の責任じゃない。

 まあともあれ、フリードリンクも頼んだんだから、飲みながら話そうか。

 そんな訳でコーヒーをチョイス。みんな俺に倣ってコーヒーにした。

「で、話ってなんだヒロ」

 漸くここに戻って来れたぞ。さっきまでのグダグダをリセットする様に、真剣な顔を拵えよう。

「なんかお前、槙原を煽っていたよな?日向絡みで」

 木村の弁である。両腕使えなかった時にあーんで飯食わせてもらった話だろう。俺もそう思ったんだから間違いない。

 普段のヒロなら絶対に言わない。俺にも遥香にも麻美にも気を遣って。少なくとも大勢の前では言わない。

「生駒もなんか協力的だったな。お前も噛んでいるのか?」

 訊ねたら頷いた。

「大沢からメールでな。槙原さんを揺さ振るからって」

「遥香を揺さぶってどうするんだよ?」

「日向の事をどれだけ掴んでいるか見極めるためだ。俺はどうしても疑いの目で見てしまうから、生駒に頼んだんだよ」

 そうは言っても、遥香は絶対にボロ出さないと思うぞ?あの時出した不愉快さも許容範囲だろ。

 その旨を言うと頷いた。

「それは俺もそう思った。やっぱあいつには俺程度の揺さ振りは通じねえ。尤も、マジで知らねえって線もあるが」

「確かに。注意して見ていたけど、あーんがムカつくのか、思い出してムカつくのか判断できなかった」

 そりゃそうだろ、つか、あーんとか言うな。麻美にやって貰ったとか想像したら、恥ずかしさMAXになっちゃう!!

「で、あんま言いたくなかったんだが、この際言っちまう。だけど迂闊に動くな、解ったか隆」

 結構な迫力で言われたので頷いた。しかし、動くなって事は、なかなかの爆弾発言を投下すんのか?

「国枝にも相談していたよな?児島なつきの事」

「どうにか接点取れないかって相談はしたけど……」

 チラリと国枝君を見る。

「僕自身荒磯にそんなに知り合いは居ないからね。一応遠く、遠くから近付いてはいるんだけど……」

「ああ、そういや俺にも荒磯の事、相談したことあったよな。福岡はまだ別れちゃいねえから接点持とうとするんなら可能だが、誰にも知られずが厄介だぜ。あそこの女はあんま信用できねえしな」

「それでいいんだ。まあ、隆の性格上、荒磯の女にはなるべく近付きたくねえからって諦めると踏んだんだが、俺自身限界だからよ」

 限界?何の?

「日向が記憶持ちだって事だ。隠してどうするってのが気になる所だが、槙原が何処まで掴んでいたのか知りたくて揺さ振ってみたんだよ」

 麻美が記憶持ちだってのは俺もそう思うし、なんで隠すんだってのは確かに気になる所だが……

「それと児島いつきさんと何か関係があるのかい?」

 それもその通り。児島いつきさんは麻美とちょくちょく話していた女子なんだろ?あいつだって話す人くらいは居るだろ。

「……隆って中学時代かなり荒れていて、おっかなくって誰も近寄らなかった。利用しようと近付いた奴もぶっ叩いたし、益々誰も近寄らなくなった」

「それは今更だろ。かなり遠い俺の中学まで緒方の噂は届いていたんだ。そんな狂犬とつるんでいる奴はお前と日向くらいだろ」

 それもその通りだろう。こっちの俺は俺以上に危なかったから、誰も近よらないのは納得だし。

「……槙原の言い方じゃ、中学時代、俺が紹介を頼まれた女子は3人から6人いるとか?」

 頷く。その通りだからだ。

 人数は多少変わるが、最低3人は居た筈だ。

「今回も居るんだろ?何員に頼まれた?」

「4人。で、俺は繰り返してねえから解らねえが、確実に3人は居た、んだよな?そいつ等の名前、知っているか?」

「解らねーよ。お前いっつも内緒にしていたんだし。朋美に義理を通して」

 非難するような目を向けながら言った。

「そ、それは須藤が敵だって知らなかったから……って、そんな話じゃねえんだよ。槙原も言っただろ。『あの状態のお前』を紹介してくれって言って来た女が4人いる。それも、毎回3人は確実に居る」

 それは確かにそう思ったし、意外だった。だけどヒロが朋美に義理を……

「ん?ちょっと待て。繰り返し中は須藤に義理立てして紹介しなかった。だけど今回は須藤を敵認定しているんだ。だから義理立てする必要はない。じゃあなんで緒方に紹介しなかった?」

 木村の言う通りだ!!なんでそこ気付かなかったんだ俺!?

「……ひょっとして、日向さんが何か言ったのかい?それとも君が自分から気を遣って言わなかったのかい?」

「どっちも違う。正確には『忠告を聞いた』から紹介しなかった」

 忠告?何の?誰に?ちょっと意味が解らなくなってきたんだが……

「その4人はお前の腕っぷしを利用しようと近付いた訳じゃねえ。単純にツラがいいからだ。それにお前ってなんやかんやで一般人に危害は加えなかったし、それに気付いた女が4人いたって事だ」

「だったら紹介してもいいんじゃねえのか?ツラから惚れるってのはよく聞く話だ。一般人をぶん殴らねえって気付いただけでも他の女とは違うだろ」

 木村の言う通り。聞いた印象じゃ、普通の女子よりもやや好印象だけど……

「俺が紹介をやめたのは、所謂ビッチだからだ。パパ活もやっている女も居た。それは俺自身調べたから信じた事だ」

 え?そ、そんな女ならいらないよな……お金目当てで抱かれるとか……

「そうじゃ無く、単純に彼氏だからって奴も勿論居るが、その彼氏が多過ぎる奴も居た。3年に入ってから6人とか」

 な、成程、要するに……

「男関係がだらしなかったって事か……」

「成程な。そうなりゃ確かにツラがいいから、一般人に力振るわねえからって理由は如何にも後付けっぽく聞こえるな。槙原が敵認定しないのも納得だ」

 要するに、大した事が無い女だと、自分の敵には成りえないと放置しなのか……それでも俺がくっつく様になったらそれこそ何かしらの工作を施していた……

「え?じゃあ忠告をしたのは遥香?」

「違う。槙原じゃねえ。その時俺は槙原の存在なんか知らねえし、匿名のメールでリークされても気持ち悪くてすぐに削除するから」

「じゃあ日向か?」

「それも違う。尤も、そう言ってくれと頼んだかもしれねえが」

 じゃあ誰がヒロにそんな忠告をした?

「その忠告をした人を知っているのかい?」

 国枝君の質問に頷いた。そして低い声で言う。

「児島いつき。日向と話していた、数少ない同級生だ」

 立ち上がった。結構デカい音を立てたのだろう。数少ないお客が全員こっちを見る程には。

「……何でそれを最初に言わなかった?お前に相談した時に」

「児島は日向とちょくちょく話していたっつっただろ。だから違和感が無かった。日向がそう言ったと勘違いする程までにはな」

 勘違いってレベルじゃねーだろ、それ……

「……って事は、日向さんも似たような事、言ったんだよね?」

 国枝君の発言に我に返った。そうか……だからヒロが勘違いする訳か……

「そうだ。児島から聞いた後にな。尤も、日向は多分確認の為に聞いて来たんだと思うけどよ」

「確認?」

「俺が隆にそう忠告したか。もしくは発言の裏を取る為に調べたか。結果的にだが、隆に言う事は無かった。調べたっつっただろ」

「……その調べた、も、日向から促されたような感じか?」

 木村の問いに頷くヒロ。

「今考えればまさしくそうだな。まずは座れ隆。目立ってしょうがねえ」

 言われて大人しく座った。確かに目立っているし。お客あんまいねーけど。

「俺が大沢に頼まれたのは、さっきも言ったけど日向さんがどれだけ関与しているか、それを槙原さんがどれだけ掴んでいるか見極める為。だけど、あの人隙なんか見せないから、全く解らなかった」

 まあそうだろう。あの時だってイラッとしたってしか思わなかったんだし。

 ヒロは喋り過ぎて喉が渇いたようで、フリードリンクにお代わりを貰いに行った。

 俺達はその間頭を付き合わせた。遥香が何処まで掴んでいるかなんて、誰も見切れなかったし、これは諦める。

 麻美がどこまで関与しているかなんてのも解る訳はない。精々仮説程度だろう。

 じゃあどうするか?

「……やっぱ児島いつきだろ。どうにか接点を持って聞くしかねえ」

 木村の発言に全員頷いた。そこにコーラを持ってヒロが戻った。

「日向に悟られないようにしなきゃいけねえぞ。できるのか?」

「そこが一番難しい所だよね……」

 その通りで、しかも難関がある。

「麻美の味方と仮定して、教えてくれるか?それを麻美に内緒にしてくれるのか?」

「まあ、無理だろうな。今も何かしらやり取りしていれば」

 生駒の弁にその通りだとみんな頷いた。接点を持つのも難しいってのに。

「お待ちどうさま」

 考えていると、思考を掻き消すおばちゃんの声と、焼き立ておやきの香ばしい香り。

 しかし、目の前に滑らされたおやきに全員絶句した。

「……デカさもそうだが、厚みがスゲエな……」

 5センチは大げさだろうが、そんくらいあるぞ厚さ!!一番小さいのを頼んだ筈なのに、何だこれは!?

 ごゆっくりと去っていくおばちゃんを何となく恨めしそうに見送る俺達。いや、これはサービスだってのは理解はできるんだけど、やり過ぎだろ……

 このビックリおやきは取り敢えず置いといて。いや、あとでちゃんと食べるよ?今は別の話の最中だから。

「じゃあ話に戻るぞ。どうすりゃいい?」

「そこでさっきの槙原の見極めだ」

 ヒロが発した。つうかこいつ、おやき食ってる!!

「お前、大山食堂であんな爆盛食った後に……」

「冷める前に食った方がいいだろが。つうか結構うまいぞ、甘さ控えめだからくどくねえ」

 言われてみりゃそうかと生駒も齧り付く。

「……うん。思ったよりは……」

「お前も結構食ったよな?しかも小鉢、楠木さんから押し付けられて」

「確かにそうだけど、冷める前にってのが最もだし。それはいいとして、槙原さんの見極めだよ。何か掴んでいたら、この事を話して槙原さんに探って貰おうって考えもあったんだ」

 遥香に?いや、確かに何かした掴んでいたとしたら、正直に話して助けて貰った方がいいけど……

「だけど、解らないんだよね?槙原さん相手にブラグは通じないから、駆け引きなんてできないし、結局ただ正直に話すだけになるような……」

 国枝君の弁である。おやきを食いながら。

「国枝君も食ってんの!?」

「う、うん。冷める前にって事で……それに、僕はそんなに食べていないよ、春日さんが頑張ってくれたからね」

 春日さんだったらなぁ……あんな爆盛でも敵にはならないと思うけど……


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