二年の夏~011

「うわああああああああああああああああああ!!?」

「きゃああああああああああああああああああ!!?」

 ミコちゃん達の絶叫が響いた。まあ当然ではある。兵藤から幽霊が出て来たんだ。普通はそうなるだろうがうるせーな。

「な、なんだあれ!?なんだよあれ!?なんだへぶしっ!?」

 うるせーので近くにいた糞にビンタを張った。

「こ、こいつが話に聞いていた須藤……」

 松田が生唾を飲んだ。頑張って堪えているのが解る。

「須藤……朋美……サイトでやり取りしていたのがこんなだったの……」

 里中さんもガクガクして麻美にしがみついている。

 その朋美がぐるんと目玉を藤咲さんに向けた――

 その顔、いつぞやよりも狂気に満ちていて、表情には怒り、恨みしかなかった。

「お久し振りですね須藤 朋美さん。仲間は返して貰いますね」

 へたってガクガクしている兵藤の手を取って、見据えながら言った藤咲さん。

――人殺しのカス女が……!一度ならず二度までも私に手を上げやがったなあアあああアアああああァああああああァアあああ!!!!!

 呪詛の様な響きの声だった。ミコちゃん達は立っている事すらできず、ぺたんと座り込んだ。

 カシャッ カシャツ カシャッ

「誰だこんな時に呑気に写メ撮った奴って遥香か!?」

「あはは~。撮ったのはまあ、ミコちゃん達だよ。ほら」

 指差した先は、へたったミコちゃんの股間部分。なんか水溜りが出来ているけど……

「失禁写メ撮ったんだよ。この後の交渉の為にね」

「それにしたって場合を選べよ!!」

 どんな時も調子を崩さずだが、これは確かに遥香の強みだろうが、朋美がすぐそこに居るのに、胆が太すぎるだろ!!

「……玉内、女共を何とか頼むぜ……」

「正直言って自信はねえが、木村、お前は?」

「……俺もねえな。悔しいが……」

 いいんだいいんだ。この糞女は誰にも渡さない。俺がぶち砕くんだからなあああああ!!!

「おう糞女!!ここで死ぬためにわざわざ来たんだろ!!」

 声を張ったらミコちゃん達が俺を見た。

 ぐるんと俺を見た朋美。ひっ、と声が漏れた音。黒木さんだな。

――隆ぃいィイいィイい……会えたのは嬉しいけど、アンタに構っている場合じゃないのよねぇえェ……

「じゃあ俺に構ってくれるのか糞ストーカー女」

 生駒が俺を押し退けた。

――楠木の男ォォおおおおおお……アンタもいずれ殺してやるけど、今はどうでもいいわぁぁぁぁ……引っ込んでなさいよぉおォお……

「ふん、じゃあ俺か?いいぜ、今度はぶっ殺してやる」

――大沢ぁぁああアァぁ……アンタも殺すけど、今はいいわ。念願の女に会えたんだしねぇぇぇ……

 ぐるんと目を向けた相手。それは……


――漸く会えたわね日向ァァぁあぁアああああああああああァアァァアアあ!!!!


「随分変わったね朋美。いや、それが元々か。アンタ昔っから化物だったしね。容姿が追い付いたって言うかさ」

 ケラケラ笑う麻美。女子達は勿論、俺達もビックリして麻美を見た程の挑発だった。

 だが、全く驚いていない奴も居た。当たり前だが遥香だ。

「まあまあ、この私を無視するとか有り得なくない?ねえ須藤さん?」

 ずずいと、あろうことか、あの朋美に向かって行った!!

 流石に止める俺。肩をぐっと押さえて。

「待て待て待て待て!!お前あの糞女をぶち砕けないだろ!?なにやろうとしてんだよ!?」

「普通にお話しするだけだよ?気持ち悪い顔見せないで。消えて。失せてって」

 ぐるん

 首の骨が折れているんじゃねーかと思う程の角度から首を回した朋美。その目は遥香を向いていた。

――槙原ぁア……アンタも殺してやるから安心して、今はしゃしゃり出ないでくれないかなアぁあぁ……?

「あはは~。しゃしゃり出るに決まってんでしょ。麻美さんは私が倒すって決めているんだから。須藤さんの出る幕はないよ」

 ぐるん

 今度は麻美の方に顔を向けた。やはり有り得ない角度から首を回して。

――そう言っているけど、アンタはどうなのよ日向ァあ?

「遥香ちゃんと戦う訳ないでしょ。私に戦闘の意思はないし、私が殺すのはアンタだけ」

 ぐるん

――だってさ槙原。お呼びじゃないのはアンタの方だったようだねェえ?

「あはは~。麻美さんはそう言うよ。でも、私の最大最後の敵は麻美さん。須藤さんじゃない事は間違いない。だから失せて。修学旅行、みんなで遊びに行くから、その時まで待っててよ?」

 なんか三人の間では何かが確約しているようだが……俺達にその術を知る由は無い。

――そんなに言うんなら先に殺してやるよ槙原ぁああァアぁア!!

 遥香に覆い被さろうとした朋美。いや、『闇』。当たり前に庇うように間に出てパンチを――

――ぎゃっ!!?

 全員呆けた。いや、遥香は呆けなかったが、やはりほぼ全員呆けた。

 朋美の左半身がぶっ飛んで消し飛んだのだから!!

――日向ァあアァああアあアアああァあ!!!!!

「……せめてもうちょっと……少なくとも今はばれたくなかったんだけど、しょうがない。アンタがムカつく方が大きいから」

 冷水を背筋に浴びせられたような感覚!!それ麻美から発せられた邪気によって起こった悪寒!!

「あ、あさみん……?」

 里中さんがヘタってガクガクしながらも麻美を見上げた。

「い、いいの麻美……?せめて修旅まで内緒にしようって言っていたじゃない……?」

 あの児島さんですらガクガクしならが麻美に問うた。

「いいよ、多分遥香ちゃんにはバレバレなんだし。それより今がチャンスと思うしね」

 至って普通に喋る麻美だが、邪気が凄まじい……これは正に悪霊の邪気……!!

「いいの麻美さん?私に知られても」

「遥香ちゃんに誤魔化しは無理だから仕方ない部分はあるよ、でも戦わないのはホントだよ?そこは信じて欲しいかな?」

「私の戦うと麻美さんの戦うは大きな違いがあると思うけど、そこは後で話そうか。まずはこの狂人糞女。まあ、ぶっちゃけ私も同類だけど」

「それを言うんなら私も同じだよ。なんてったて、生きながらの悪霊だからね」

 顔を見せ合って笑い合う二人。だが、演技臭が全く無い、心からの笑顔だった。遥香が麻美に初めて見せたであろう、本物の笑顔だった。

――ふざケんなよヒュうがああアァあぁぁアああァアあ!!!

 半身が吹っ飛んでも尚襲いに来るか朋美!

「相手は俺だろうが糞女あれ?」

 振りかぶったが、朋美が真逆にふっ飛んだので固まってしまった。誰がやった!?

「マジだ……俺でもできるじゃねえか……!!」

 玉内が左フックを放ち終えた形で止まっていた。じゃあ今朋美をふっ飛ばしたのは玉内!?

――児島の男オオおおおお!!お前もかアァあア!!!

 右頬に亀裂が走って眼球が剥き出しになった朋美。その剥き出しの目を玉内に向けて叫んでいた。

「た、玉内、なんでお前が?」

「話は後だ!!ここで畳み掛けるぞ!!」

 弾かれたように動いたのは生駒。回し蹴りで朋美の首を捉えた。

――ギャァァあぁアアァああああああああァあああ!!?

 生身だったら間違いなく首が折れていたであろう。その蹴りの威力に絶叫する朋美。

「よ、よし、なんか知らねえけど、玉内が出来たんだったら俺も……」

「駄目だ、動くな松田!玉内のアレはただのパンチじゃねえ!俺と同じようなモンもってっからできたんだ!」

 勇んで攻撃しようと前に出た松田を止めて前に出たヒロ。得意のスマッシュを放つ。

――ぎゃああああああああああああああああ!!!大沢ああアァアアぁあああ!!!本気で殺す!殺すからねェええええええええ!!!!!

 顎から蒸発するような煙が立った。浄化か!!波崎さんのお守りの効果か!!

「俺を殺す?やれんのかお前に!」

――やれるに決まってンでショおオォおおへぶしっ!?

 ヒロに襲い掛かろうとした朋美だが、後ろからの生駒の奇襲によって阻まれた。

「死ぬのはお前だろ、何言ってんだ」

――楠木の男があああァあああアァああァあ!!!この私を足蹴にぐはあああああああああああ!!?

 玉内のパンチが炸裂。やはり打たれた箇所にひび割れが生じている。

 え?俺なんもやってないんだけど?俺だろこの糞女をぶち砕くのは?

 なので俺も加わろうとしたが――

――クっ……!ちょっトだけ分が悪イか……

 意外とクレバーなのか、撤退宜しく霞がかって消えていく!

「まだですよ!!」

 びたーん!と藤咲さんのビンタ!霞がかった身体が元に戻った!

――ぎゃァあアああああァあ!?

「引き戻すように平手打ちを意識したのですが、結果が伴ってよかったです」

 なんか得意気にフフンと。

 そして朋美は俺の間合いに!!

 脚から腰、腰から肩。肩から肘。肘から拳に螺旋状の回転が伝わる。

「今日ここで死ね糞!!!」

 解き放つ俺のコークスクリュー!それは朋美の顔面に見事ヒットした!


――…………………!!!!


 顔が吹っ飛んだ朋美は其のままい霞がかったように消えた。とどめを刺したのか?まだ生きてんのか?ともあれ、もう場は静寂に包まれた――

「……逃げたね。ホント自分勝手な子だ。やるつもりならやりきるまで残れよ」

 逃げられたのが不満な麻美さん。ブチブチ文句を言う。

「じゃねえよ。お前……あの力は……」

 諦めたように笑いながら。

「ご飯の後で話すから。今はこの子達だね」

 目を向けた先は地面に尻を付いてガクガクしているミコちゃん達。

 視線で遥香に促すと頷いてミコちゃんの視線に屈んだ。

「解った?アンタ達如きが私達の敵になり得ないって事がさ。戦っている相手がアレだよ。私達にとってアンタ達は何処まで行っても雑魚。だから地元で粋がってもいいけど、私達がいる間は大人しく引き籠ってくれないかな?」

「い、粋がってないし……」

 涙を流しながらも強がりを言う。遥香は愚か、横井さんですら呆れて溜息を付いた。

「それを粋がってるって……」

 最後まで言わせずに、いつの間にかミコちゃんの前に居た春日さんがビンタを食らわす。

「ひっ!?」

「……命が惜しく無ければ何でもいい」

 その時の春日さんの瞳があの時と同じ瞳だった。

 最後の繰り返しの時、朋美をカッターで刺そうと持っていた、邪魔だからこいつ殺そうみたいな瞳……

 春日さんは俺的に一番危険な女子だ。秘密を知られたくないからと言って俺を刺殺したし、朋美も普通に殺そうとした。やると決めたら躊躇しない性格だ。

 その瞳はヤバい。朋美を見て引っ張られたか?繰り返しの時の危険値が高かった春日さんに……!!

 その迫力も相当なモンで、俺達も唾を呑み込んで成り行きを見ていた形になっていた。

 俺達でそうなんだ。ミコちゃん達なんか尚更そうだろう。朋美と言う生霊と同じ狂気を春日さんから感じただろう。

 そんな春日さんの肩をそっと叩く国枝君。

「大丈夫だよ春日さん、彼等も分不相応くらいは弁えているよ」

「……そう」

 あっさりと狂気を引っ込めた。流石に面喰ったのは俺達とミコちゃん達。

「な、なんだしその女!?おっかないんだか何だか解んないんだけど!?」

「あなた達が知る必要があるとは思えないのだけれど。私は正直あなた達はどうでもいいけれど、これ以上ごねると言うのなら最終手段を取らせてもらうわよ?」

 横井さんもずいっと前に出て来た。この人も随分俺達に毒されたよな……普通の優等生だった筈なのに。

「さ、最終手段ってなんだし?」

「的場さんに何か困った事があったら頼れと言って貰ったの。年上の、しかも……引退?した方にお願いするのは気が引けるけれど、しょうがない時もあるわ」

「ま、的場さん!?」

 へたっていた元銀翼が勢いよく立った。

「な、なんてアンタが的場さんと知り合いなんだ!?」

「妹みたいに可愛がってもらっているだけだけれど。そこの河内君の恋人と言う事で」

 その河内に全員注目した。だが、河内もボーゼンとして震えていた。

「ち、千明さんにそこまでの権限を与えていたとは……」

 権限で首を捻る俺達だが、元銀翼の顔が死人のそれになって更に震え出した。

「す、すいませんした!マジすいませんした!」

 元銀翼の土下座だった。いきなりの、しかも必死で地面に額を擦りつける様に。引いた。少なくとも俺は。

「ちょ……か、釜屋、確かに的場と言えばこの辺にも知っている奴が多いが、引退したんだろ?何でそんなに脅える?」

 糞仲間が疑問を呈した。俺も気になったので続きを待つ。

「……引退したとは言え影響力はまだある。なんたって伝説だからな……一声かければそれこそ連合クラスの人数を集められる」

 河内が代わりに答えた。と言うか、糞仲間の質問に今更ながらもイラッとした。

「おい糞、まだ俺達とやり合うつもりのようだな?的場がおっかないからここは適当にやり過ごそうって算段か?」

「ち、違う!!少なくとも俺はやる気はねえ!!幽霊をぶっ倒した連中と喧嘩できると思うか!?」

 両手を前に出してイヤイヤと。

「お、俺もそうだ!単純に数でも負ける!その前に簡単にやられたんだ!ホントなら仕返しの案にも乗る気はなかったんだよ!!」

 髭の金髪が涙目になって否定した。そういやこいつをぶっ倒したの生駒だったっけ?

 ともあれ糞男子はやる気はないと。んじゃ女子は?」

「……って、お友達も言っているけど?」

「……わ、私にこんな事してタダで済むと……」

 ガクガクしながらも、完全に負けていると認識しながらも虚勢を張るのをやめないか。なかなか意地っ張りじゃねーかよミコちゃん。

 遥香、軽く息を吐いて例の写メをミコちゃんに見せた。

「こ、これさっきの!?」

「今も湿っているよね?これも撮っちゃう」

 カシャ、カシャとミコちゃんの股間部分を連写する遥香。流石にやめてやめてと泣き叫んだ。

 そんなミコちゃんを無視して撮った写メをどこかに送った。

「ん?あれ?槙原、俺に送ったの?」

 送った先は白井か。つうか白井になんで?

「白井君、後はよろしくね」

 すんごい邪な笑顔でそう言った。

「ふ~ん……緒方も容赦しない性格みたいだけど、お前もなの?」

「あはは~。狂犬の彼女さんも狂っていると言う事で」

「そうか。了解。だけど後でいいだろ?流石に今すぐは面倒くさい」

 それに了承した遥香。あいつ、白井の力で追い込むつもりか。マジ容赦ねーな。俺の彼女さんこええ。

「ち、ちょっと待ってくれ!何するつもりか解んねえけど、俺は本当にこれ以上何もする気はねえんだからな!」

 元銀翼が必死になってやめろアピをする。

「横井さんが的場に可愛がられているだけでそこまで必死になるのか?」

「千明さんになんかあったら頼れと言っただろ?」

 河内の返しだが、それを言っちゃ、遥香も言われた筈だけど?

「そうじゃねえ。『こんな事』でもいいって事だよ。槙原達に言ったのはあくまでも相談の範囲。千明さんに言ったのは言葉通りだ。なんかあったら的場さんが出るって事だ。つまり連合も動かしていいって事だよ。権限ってのはそう言う意味だ」

 だったら横井さんは実質連合のトップなの!?普通高校の優等生なのに!?

「そうは言っても実質連合は解散したも同然だから、動かせる人数は少ないだろうが、千明さんが一声かけたら残った連合全て動く。いや、的場さんの影響下にある奴は全員動くから、下手すりゃ連合以上の規模になるかも……」

 そこまでなの!?横井さんどんだけ可愛がられてんだ!!

「そうか。決まったか、じゃあ失せろ。言っておくが、さっき起った事は他言無用だ。この話が漏れたらお前等が喋ったと決めつけて追い込む」

 木村が面倒になって打ち切った。遥香も普通に頷く。

「お、俺は本当に……」

「だからいいって言ってんだろ。言わなけりゃな。お前等はもういい。残りは女共だ」

 ミコちゃん達が真っ青になった。

「な、何かするつもり……?」

「教えるつもりはないですね。まあ、何と言うか、精々頑張ってください」

 藤咲さんがぺこりとお辞儀をしてそう言った。藤咲さんも是とする人種なのか……

「ち、ちょっと待って……アレは何と言うか、冗談と言うか……」

「消えて。そう言っているいつもりだけど?」

 倉敷さんもばっさりやるのかよ。まあ、川岸さんを追い込んだ実績があるからな。許せない人種はとことんなのは知っているし。

「で、でも……」

「いいから消えろっつってんだよ。またぶっ叩かれてえのか?」

 トーゴーが凄んだら力無く立ち上がり、項垂れて帰っていった。

「……ミコちゃんの方はアレでいいとして、今度は兵藤だな」

 ギクッとなった兵藤。妙に硬直しているのが手に取るように解った。なんもしねーよ。俺はな。

「朋美にいつの間にか憑かれたって話だが、それを差っ引いてもミコちゃん達にいいカッコしようとして喧嘩売ってきたのは間違いないよな?」

「あ、ありゃ俺の意思は……まあ、沢山あるけど……」

 意外と素直だな。いやいや、俺はなんもする気はねーんだから気にすんな。気にするんだったら木村の方を気にしろ。

「勘違いすんな。俺はいいんだよ。お前は木村預かりだからな」

 殺気を孕んだ瞳を以て前に出てくる木村。

「……須藤に憑かれて今までした事が無い行動に出た。そこは間違いないな?」

 兵藤から目を反らさずに訊ねる木村。答えたのは東山。

「さっきも言ったが、チャンス到来となってもヘタレが高じて声を掛けられない」

 追記とばかりにトーゴー。

「あの女にカッコ付ける為に敵討ちをしようとした事は間違いない。人数も俺達を当てにした事も間違いない」

 しかし、と、東山もトーゴーも付け加えた。

「こいつのしようとした事は知らなかった事とは言え腹に据えかねるだろうが、許して貰うぞ木村」

「こいつは俺達『とうどうさん』も助けて貰ったからな。一度のオイタで仲間をやらせる訳にはいかねえ」

 兵藤の前に立つ東山とトーゴー。兵藤、感激してウルウルする。

「お、お前等……」

「勘違いすんなよ兵藤。失態は失態。謝罪はして貰う」

「え?も、勿論そ、そのつもりだけど」

 そして兵藤は地面に正座して両掌を付けた。

「解った、もういい。そこまですんな。いいだろ緒方」

 流石に土下座は止めたか、仲間にさせる行為じゃねーしな。

「いいも何も、お前預かりだって自分で言っただろうが。よってお前がいいんならいいし、他に気に食わない奴がいるかどうかも聞いてみれば?」

 振ったら全員に目を向けた。誰も非難しない。これでいいとの空気が発せられた。

 一回のヘマで全部パーにする奴はここには居ない。厳しいようで友達には甘々なのが俺達だ。

「助かったぜ……俺のヘマで今までの苦労をパーにする訳にはいかねぇからな」

 立ち上がって手のひらを叩く兵藤。土下座までしようとしたんだからその覚悟はやっぱハンパじゃない。『とうどうさん』は伊達に一回死んじゃいないって事だな。

「じゃあ遥香、宇佐美達呼び戻せ。腹減った」

「あ、そうだよな。料理も冷めたからちょっと焼き直そうか。あいつ等が戻るまで時間少しあるんだろうしな」

 松田の言葉を皮切りに動く女子達。木村も炭の状態を見に向かったし。

「俺も何か手伝うか」

 兵藤が動こうとしたので留めて椅子に座らせる。

「お前は朋美に憑かれていたんだ。生命力削られている筈だからあんま動かない方がいい」

「え?そ、そんな大事になるのか?」

 頷く。いや、死ぬとかそう言う物騒な話じゃない。単純に疲れている筈だって事だ。

「ほら、これ飲んで大人しくしてろ」

 レモン牛乳を渡すと戸惑った表情。

「俺牛乳の類は……」

「いいから飲んでみろ、うまいから」

 そこまで言うんならとストローをぶっ刺し、啜った。

「なんだコレ!?コーヒー牛乳とかのレベルじゃねえな!甘ったるさが全く無い!」

 兵藤ですら夢中になって啜るレモン牛乳の凄さよ。味が解らんヒロはとっても可哀想だ。くれてやる気は全く無いけど。

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