二年の夏~012
此処で宇佐美達が到着。決着がついたと言う事で慌てて向かったようだ。息切れているし。
「だ、大丈夫だったかお前等?冬華は?」
なんか手を握って。マジで心配していた感じだ。
「ああ、うん、問題無かったよ、そりゃそうだよね、この面々だし」
上杉が大分ぼやかして顛末を伝えた。
「そうか、兵藤も許して貰えたんだら良かったな」
「そうだねー。あいつがナンパ成功なんて奇跡起こせる筈がないと思ったけど、やっぱりかーって感じ?」
程よく兵藤をディスっている上杉だった。宇佐美、何とも言えない微妙な作り笑いを拵えた。
「おう赤坂、ちょっとゴタついたがケリは付いた。今から騒ごうぜ」
「はは……う、うん……」
「だから怖がるなっつってんだろ!!緒方のダチだろ!?あいつよりも遙かにマシだぞ俺は!!」
赤坂君を横に座らせた木村が俺をディスった。いやいや、お前顔極悪人だから、怖がるなって方が無理だろ。糞の西高のトップだし。
「倉敷、大丈夫だった?」
「うん?ああ、うん。全然?ほら、ウチの彼氏も超凄いし」
「え?あ、う、うん、そうだね」
鮎川さんに心配された倉敷さんだったが、見当違いな返しが来て困惑状態だった。
「まあまあ、予期せぬトラブルがあったが、無事解決したし、肉もいい感じだしで、まずは乾杯だ!!」
此処でも目立とうとするヒロが乾杯の音頭を取った。だがまあ、文句は言うまい。ここはノリで乾杯だ。紙コップのお茶でだが。
超盛り上がったバーベキュー。腹一杯食っても減らない食い物。お開きになる頃にはぶっ倒れた状態だった。
「……お、おい……片付けは……?」
星空を見ながら誰と無く訊ねた。ぶっ倒れているのだから星空くらい余裕で見れるのだ。
「……しなきゃいけないけど、ちょっと待ってくれ……今動くの厳しい……」
大雅の声だコレ。あいつも腹いっぱい食っていたから星空を見ているんだろう。
「……じゃあ動ける人で片付けしようか?」
春日さんの声だ。春日さん、一番食っていた筈なのに動けるのか……
「男子は全滅ね。女子も美緒と綾子は無理そうね」
横井さんの声だ。里中さんも結構食べていたからな……」
「え?私動けるよ?」
「えっと、くろっきーは、その……ねえ?」
「まさか足手纏いだから何もするなと言われてる!?」
黒木さん、意外そうに声を張ったが、足手纏いとまでは言わないが、要領悪いからなあの人……
「す、すみません……私も頑張りたいのですが……どうにも身体が言う事を聞きません……」
藤咲さんの声だ。あの子、あんま食わなかったのに動けないのか……
「俺は普通に動けるぞ。片付け手伝うよ」
「玉内君は買い出しをお願い。具体的には花火。くろっきー、一緒に行ってくれる?」
流石ボクサー。自重していたようだな。同じボクサーのヒロは一言も発していないけど。
「じゃあ私もあるくんの分まで頑張ります。いつきさんと一緒に」
「なんか巻き込まれた!?」
おさげちゃん、やっぱり児島さんに懐いてんだな。児島さん的には玉内と一緒に買い物に行きたかったんだろうが、儚く散ったか。
「スイカとメロンどうする?」
「えー?美咲ちゃん食べたいの?私はちょっとお中に入る余地ないかな……」
「お腹は厳しいけど、花火だけってのも寂しいじゃん?」
「………あ、アイスなら入るぞ……」
「「まだ食べるつもりなの大沢!?」」
麻美と楠木さんに突っ込まれたかヒロ。お前男子で一番食っていた筈だが。
しかし、じゃあ欲しい人の分だけ買うと言う事で注文を取る事になった。
「正輝、アイスどうする?」
「……俺は……いい……」
大雅はアイスイランと。と言うか橋本さん、普通にアイス頼んだか。彼女も結構食った筈だが……
男子はヒロ以外アイス拒否。ジュース類はまだあるから、口寂しいのならそっちを飲むと。
「じゃあ行って来る。黒木さん、荷物持ち大丈夫なのか?」
「花火とアイス程度程度でしょ。大丈夫大丈夫」
玉内と黒木さんが買い出しに出た。因みにこれは全部会話を拾って把握しただけだ。さっきも言ったが、ぶっ倒れているんだから状況なんて見えないのだから。
片付けは女子が頑張ってくれて、花火は男子は腹のダメージからほぼ女子に丸投げして。要するにずっとぶっ倒れていて。
「そろそろお開きにしない?」
花火をやり終えた時に上杉がそう発した。
「そうだねー。じゃあコテージ組はコテージに移動して……」
うん?あの話するんじゃないの?もう寝ちゃうの?俺は全然それでもいいけども。
「いやいや、もうちょっと話そうぜ。赤坂、ペンション来いよ。向こうに荷物置いてあるんだよ」
宇佐美が赤坂君を誘った?荷物?
「この前言っていた幻の本!?」
「そうそう。お前見たいっつっただろ」
何となく上杉を見ながら。なるほど、そうやって誘い出そうって事か……
「じ、じゃあ行こうかな……」
「あるくんが行くなら私も行きます!」
なんか手を上げてアピったなおさげちゃん。これも狙い通りか?
「いつきさんも行きましょうよ。あっちでお話ししましょうよ~」
なんか児島さんの腕を取ってグイングインと。児島さん愛想笑いで。
「お腹いっぱいだから動きたくないかな。ごめんね」
「そっか。いつきさん結構食べていましたもんね。じゃあ鮎川さん、どうですか?」
いきなり振られて戸惑う鮎川さん。俺もビックリだ。仕込みに入っていない筈だろうに、誘うとは?
疑問に思っていると、倉敷さんがこそっと寄って来てこそっと喋った。
「安達ちゃんってギャルに憧れを持っている様なのよね。でも、普通のギャルってなんか怖いじゃん?」
「……鮎川さんもギャルっぽいからって事か?それに俺達の友達なら恐くないし……」
「そう言う事。児島さんに懐いているのもそう言う理由も少なからずあるって事よ」
そう言って鮎川さんの元に向かう。そんで耳元でこしょこしょと。
「……うん、解ったよ、安達ちゃん、メイク教えてあげようか?」
「ホントですか!やった!」
喜びをアピるようジャンプするおさげちゃん。あの子基本的にスポーツ女子だからジャンプもたけーな。
こそっと倉敷さんに寄って訊ねる俺。
「なんて言ったんだ?」
「普通にメイク教えてあげれば?って。ああ見えて面倒見はいい方だからね」
成程、鮎川さんの性格に賭けたのか。それが功を奏したと。
「じゃ、まあ、向こうは任せて」
「うん、頼んだよ冬華」
藤咲さんと二、三言葉を交わしてペンションに向かう。よってこの場は話し合うメンツのみとなった。
しん、と静まった場。緊張感もあった。しかし誰も何も発しない。何となくこの雰囲気に飲まれたからだろう。
なので打開すべく俺が動いた。
「遥香、アイスコーヒー取ってくれ。喉渇きそうだから」
「あ、は~い」
呑気な返事と共に立つ遥香。じゃあ、と黒木さんも立った。
「明人は何か飲む?」
「うん?そうだな、俺もコーヒーくれ。ついでに他の連中のも頼む」
「……じゃあ私が注文取るから」
「お?春日ちゃんに負けらんないな。このさゆちゃんにもオーダーください」
なんか張った空気が和らいだ。あれこれオーダーをし出して活気が付いたからだろう。
「俺はレモン牛乳だ」
ヒロがそう発した途端再び空気が凍ったけど。
「……は?大沢君はお土産代も出さないと言った筈だよね?」
波崎さんの目の温度が超冷たかった。ヒロ、当たり前の様に縮こまって訂正する。
「そ、そうだったそうだった。俺はコーラで」
「は?何を便乗してんのよ大沢?自分で取りに行くとかしないの?」
里中さんも冷たかった。声の質が。
「……いいよ。コーラだね」
「いやいや、駄目でしょ。大沢は自分で取りに行かなきゃ」
なんか知らんが麻美さんも追い込んだ。折角の春日さんの好意を却下したし。流石にヒロは涙目になった。
「なんでそんなに冷たいんだよちくしょう!!」
テーブルと叩いて悔しそうに。生駒が土産代出さないだけで此処まで追い込まれるのかと慄くほどだった。
みんなの飲み物が届いて何となく和気藹々と雑談し出す、ヒロのコーラは自分で取りに行ったものだが。
そんな和気藹々をぶち壊すのも俺の仕事だろう。なんてったって当事者だから。
「玉内、あの時なんで朋美をぶち砕けた?」
訊ねたら話すのをピタッとやめた。そして緊張感が戻った。いよいよかと。
「……いつきが俺の背中に張り手してな」
「……私の霊力じゃアレはどうにもできないから、代わりに彼氏にやって貰おうと思って霊力を注入した。つもり」
じゃああれは波崎さんのお守りと同種の物か?
「……俺には見えていたからな。児島が玉内の背中に自分の力を押し込むのを」
ヒロがそう言うが、見ていたってなんだ?お前霊感無いだろうに?
「正確にはそうしたように感じた、だが、合っているだろ児島?」
「そうね。そう意識した。上手く行ったのは良かったよ。失敗するかもと思っていたしね」
玉内に何とかして貰おうとの気持ちの表れで上手く行った。んだろう。信頼して身も心も預けているからだ。
「波崎さんのお守りは浄化だが、児島さんのは朋美がひび割れていたように思ったが?」
「あれはどっちかって言うと緒方君に近いね。打ち砕く力だよ。玉内君と緒方君の戦い方が近いからそう言う力に変換したんだと思うよ」
国枝君のまとめである。確かにそうだな。俺の場合はもっと細かいと言うか、玉内の場合は目に見える程に大きいと言うか。
「つまり、霊感でぶん殴るが揃ったんだな。波崎さん、児島さん、国枝君と」
「僕の場合はまだまだだね。本当に一番力を持っているのか疑わしいよ」
しょんぼりと項垂れる。国枝君は最後の切り札だろうと俺は予測している。だから気に病まなくてもいぃ。これからなんだから。
そして遥香を見る俺。
「ミコちゃんに『驕心』を仕掛けるんだろ?具体的には何処までやるつもりだ?」
「それ俺も聞きたかった。加減の程度が解んないからさ」
仕事を言いつかった白井も身を乗り出した。遥香、コホンと咳払いして――
「自殺する程度」
「「そこまですんなよ!!」」
流石に俺も白井も否と言った。あんな程度で命まで奪おうとすんな。
「あはは~。それは冗談だけど、実際何処までできるの?」
訊ねたら少し考えて。
「……自殺まで持って行ける自信はある」
「じゃあ自殺で」
「「だからそこまですんなってば!!」」
「冗談冗談。まあ、お父様が失脚する程度?」
「そこまですんなとは言ったが、そこまでするのか……」
白井が青ざめた。たかが忖度ミスコンの仕返しの仕返しの為にな。
「と、言う事は出来るんだ?失脚させる程まで自画自賛させるのは?」
「実際何人かやったし、出来るよ。だけどそこまでする必要ある?」
そこは俺も聞きたい所だ。必要あるのか?そこまで追い込む事は?
「じゃあいいや、何人かやったって実績がもうあるんだったら。まあ、自主退学する程度でいいよ」
やけにあっさり引っ込んだな?と白井を顔を見合わせる。
「ああ、そっか、遥香の狙いは須藤のお父さんを追い込む事?」
楠木さんが納得して確認を取る。
「そうだね。娘が周りに吹聴して、もうフォローしたくないって気持ちになってくれればやりやすくなるから」
「ちょっと待て、あの親父は朋美を庇うぞ?繰り返し中もそうだったし」
だから親父が見限るのは無いんじゃねーか?
「隆君は最後の繰り返しで亡くなったからその後はよく知らないと思うんだけど、見限ったよ。自分がいっぱいいっぱいになったら。正確には構っている暇が無くなったって事だけど」
そ、そう言えば国枝君もそんな事言っていたな……
「だけど須藤の家を巻き込む必要はあるのか?あそこはヤバい家なんだろ」
木村の弁である。下手な真似すればこっちの身が危ないと懸念しているんだろう。
「修旅に須藤さんを構っている暇が無くなればいい程度だよ。白井君の能力でやるんだからバレてこっちの身が危なくなるような事も無いだろうし。須藤が勝手に周りに吹聴してお家に迷惑かけるだけだもん」
「……そこら辺は大丈夫なのか白井?」
「俺がやったってどうやってバレるんだ?」
言われてみれば、白井の仕業だと気付けるのか?無理だろうな……
「まあ、その辺は東山君のフォローも入れるから」
『嘘』も織り交ぜるのか。だったら尚更バレる心配はねーだろうけど。
「須藤の警護を薄くするって事か?病院に乗り込む時に?」
河内の質問である。成程、あんな糞でも、どうしようもないカスでも娘に警備を付けない筈はない。薄くして比較的楽に病院突破するって事か……
「そして病院に突っ込んで俺がぶち砕く訳だ」
なんてシンプルかつ俺向きの作戦なんだ。こんな作戦組んでくれた遥香にありがとうと言いたい。
「え?いやいや、本体はダーリン達は近付かせないけど」
「え?何言ってんのお前?あいつをぶち砕くのは俺だろ?」
「だってダーリン、本体見たらどうなっちゃう?」
「殺すに決まってんだろ」
「じゃあ駄目じゃない。ねえ麻美さん?」
「その通り。ダメすぎだよ馬鹿隆。何のために戻って来たのよ?朋美を殺す事が目的じゃないでしょ?」
確かに俺が戻って来たのは遥香を助ける為だったけど。
「じゃあどうすんだよあの狂人?」
「そこは私のプランとは無関係だけど、麻美さんはどうするつもりだったの?」
全員麻美に顔を向けた。悪霊の力、記憶が戻っていた件。ご飯の後で話すと言った。遥香はその話をさせるために振ったんだ。
「うん……本体の近くに私が居たらバチバチにバトれるから、私がとどめを刺そうと思ていた。けど……」
ちらっと児島さんを見る麻美。児島さん、大きく首を横に振った。
「殺すのは駄目だって言ったよね。生霊相手でも殺人は殺人。生身でも悪霊の麻美だから容易に地獄に行っちゃうし」
そうでもない。前世での借りを返すと言うのなら地獄行きにはならない。業を祓うと言う事だから。
だから俺もぶっ殺そうと普通に思っていたけど。
「あはは~。麻美さんのその考えはいつから?」
「正直に言えば高校入学時。もっと言えばその朝」
え!?こいつ俺ん家に早朝やって来た時にもうそんな事を考えていたの!?
「だよね。その気だったら中学の時もうやっていた筈だから」
麻美の言葉を待つように静まる。当の麻美が軽く息を吐くまで、その静寂は続いた。
「……最初からの方がいいよね?」
「あはは~。そりゃもう。と言うかそれしかないまであるでしょ」
軽く目を瞑った麻美。
「記憶が戻ったのは実は中学入学の日。とは言ってもちょくちょく夢で見てはいたんだけども」
麻美が言うには小学校の時から繰り返しの夢は見ていたそうだ。
姿を、声を変えて俺に憑いていた時や、何度も死んだ俺を見て絶望に陥った時も。
楠木さんに騙されて付き合って轢死した時も、春日さんに刺殺された時も、遥香と付き合って楠木さん刺殺された時も夢で見たと。
「小学の時、隆とはそりゃ話した事はあったけど、そんなに親しくは無くて。寧ろ朋美と親しかったしね、隆は。だからなんで?って思ったよ」
「確かにな。お前と本格的に話し出したのは小学6年の時だったか?同じクラスになった時だよな?」
「そう。そこまで朋美の方と親しかったよね。色んな事があって距離を置こうとしていたようだけどさ」
頷く。あいつの我儘に振り回されて疲れて来たからもういいやってなったのがその頃だ。麻美と親しくなっていたのもその時期だ。
「私の力を確信したのは、とある事件がきっかけで、朋美が私の友達の友達に酷い事をして、そこでキレて自覚した。同時に隆の事も漸くあの女の被害者だと認識した。その時は5年生、だったかな?以前の私はそんな事を知らずに普通にクラスメイトの一人として親しくなっていたんだけど、その事件があったから6年生の時にこっちから話掛けた。あの女とあんま仲良くしない方が良いよって警告をするように」
そうなの?今回はホント記憶がないから麻美の証言を丸のみにしなきゃいけないけど、要するによしこちゃんの件で俺云々の前に朋美にキレたって事?まあ、充分あり得る話だからそうなんだろうとは思うけど。
「で、6年生の時に隆と頻繁に話すようになって、気が付いたらなんかいつも一緒に居る様になって」
「そうなると須藤とも仲良くなるよな?」
ヒロの質問である。それに普通に頷く麻美。
「察しの通り、隆と仲良くなれば朋美が付いてくる。その辺は大沢も解るよね」
「おう、結局は俺も須藤と仲良くなっちまったしな」
そこでちょっと待てと口を挟んだ俺。
「朋美は俺を独占したいんだろ?寧ろお前等を排除しようとしないか?」
「それはより深くになれば、だよ。一クラスメイトと仲良くなっても朋美は動じない。あの子おかしな自信があったから。実際隆はクラスの人達と普通に話していたでしょ?」
確かに。そもそも朋美の方が俺は不細工だからモテない。アンタの相手をしてやるのは私だけと、俺に刷り込んでいた。
自分が一番だとの自信は確かにあったんだろう、実際垣間見た時もあるし。
「まあ、話を戻すけど、朋美とより近付ければあの女の弱みも容易に視れるって事で、奥歯を噛んでそこそこ親しくはしていたよ。気は全く許していなかったし、朋美の方も何となくは気が付いたと思う」
そんな感じで小学時代を終えた。そして中学に入学して。
「中学に入ってから隆はモテるようになった。顔はいいからね。ヘタレだけど。思春期突入で色恋に目覚める時でもあるし。だけど、そうなって来ると……」
「須藤が暗躍するって事か?」
木村の質問に頷く。
「朋美はやっぱり遠回しに隆に好意を寄せていた女子達を追い払っていた。それこそ家の人の力を使ったりして脅したり、他の男子を宛がったりして」
頷く木村。そこは読んでいたような感じで動じなかった。と言うか中学生の色恋沙汰に暴力団を介入されていたのか?末端のチンピラ程度だろうが、やる事がホントに迂闊だろ。直ぐにばれるだろそんな真似。
「その頃は夢で知っていた事が重なりまくりで、もう信じるしかなかった状態だった。私って悪霊だったんだって」
「そんな状態になったから緒方を守ろうと思ったって事か?」
生駒の質問に首を横に振った。
「守られるほど弱くないのはもう知っていたから、そこはね。寧ろ人を殺すまでの強さと狂気を持つ事の方が不安だったよ。でも、私にそんなの止める事は出来ない。悪霊だから負の力を振るう事しか出来ないからね。じゃあどうやって止めようかと考えていた。で、結論が……」
ちら、と遥香を見た。遥香、大きく頷く。
「私と隆君をくっつける。私に守って貰う」
一回頷き、やはり否定の意味で首を横に振った。
「そこは確かにそう思ったけど、当時の遥香ちゃんがどんな状態なのか、私には知る由が無い。なので出会うまで私が何とか守るしかない。そこまでの感情を隆に抱くとはおかしな話だったけど、6年の頃から頻繁に話して弟のような感じに思えて来たから庇護欲が出たって言うか。実際隆は全く頼りなかったし」
「守るってどうやって?日向さん自身も言っただろ?悪霊だから負の力しかないって」
生駒の追撃に返す麻美。
「遠回しに忠告を発する程度の事しか出来なかったよ。だけど隆って頭も悪ければ察しも悪いし」
「ここでも俺をディスるな」
「実際そうだもの。だから苦肉の策で朋美の方を封じ込めるしかない。たとえば怪我させて学校を休ませたり」
悪霊の力か……そりゃ確かに負の力だな。対象者を不幸にさせるとか。
「そこで児島にばれたって事か?」
ヒロの質問に頷く二人。麻美と児島さんだ。
「麻美の悪霊の力ってさ、具体的にどういうもんだと思う?」
逆に児島さんに質問される俺達だった。さっき麻美自身が言ったように、怪我させるんじゃねーの?あとは病気にさせるとか?
「そりゃ悪霊だから祟るとか呪うとかじゃねえ?」
河内が適当に言う。
「じゃあその祟ったり呪ったりした場合、対象者はどうなるの?」
「どうって、そりゃ死ぬんじゃねえの?」
渇いた笑いを漏らす児島さん。同時に横井さんが河内の頭を叩いた。
「君は言葉を選びなさい!」
「だ、だってぶっ殺しいや、はい、そうですね気を付けます……」
項垂れて正座にチェンジする河内だった。麻美が仕切り直しとばかりに軽く咳をした。
「ん、んん……ま、まあ、河内君の言う祟りや呪いとはちょっと違うと思うけど、障るんだよ。その人の肉体にね。大沢、漢字間違えていると思うから、そのだらしなくも驚いた顔やめて、キモいから」
「し、してねえだろそんな顔!」
言いながら顔をこねくり回すヒロだった。障ると触るを勘違いしたんだろう。
「結果はまあ、河内君が言った事と概ね同じ。最悪死に至らしめる。病や病気が蝕む」
「じ、じゃああの須藤の豹変は、やっぱ麻美の仕業なのか?あんな幽霊みたいな成りになったのは……」
「違う。あの子の不摂生が原因だから、そんな顔しなくてもいいよ隆。勿論やれと言えばできるけど、私がやったのは邪気をぶつける程度だよ。勿論病気や怪我もさせたけど、通院すれば治るレベルだよ」
「俺はどんな顔をしていたんだ……?」
「凄く痛そうな顔してたよダーリン」
そりゃそういう顔になるだろ。あんなになった朋美が麻美の仕業だって言うんだったら。俺の為だと言うんだったら。
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