二年の夏~010
因みに、と聞いてみる。
「お前は何か頼んだのか?」
「いや特に。美咲はジャガイモ頼んでいたようだけど」
ジャガイモ?楠木さんジャガイモ好きだっけ?
「白井、お前はなんかリクエストしたのか?」
「俺はご飯欲しいとは言ったな」
ああ、ご飯な、必要だ、米は。
まあいいや、晩に解るだろ。バーベキューの他に色んな食い物が出てきそうだし。何故なら料理上手が多数残ったからだ。
「あれ?此処にいたんだ?」
此処で女子達が合流。ホールで待ち合わせだったが、彼女達もゲーセンで遊びたかったようだ。
「いやいや、ただ見て回っていただけだよ。こんな所でクレーンゲームなんてお金の無駄使いでしょ。大沢じゃあるまいし」
里中さんが否定するが、クレーンゲームをやりたいと言った女子がいるのか?
と思ったら黒木さん、目を反らせて汗を掻いていた。ああ、黒木さんの提案か。
「隆、レモン牛乳買った?」
麻美が訊ねて来たので答える。
「まだ買ってない。帰る時に買おうかなって」
「大沢は?」
「脱衣所で倒れているようだが心配ないだろ」
「長風呂したの?大沢君も大概貧乏性だからなぁ……」
流石波崎さん。ヒロの事を大分解っていらっしゃる。これじゃ尻に敷かれるのも当然なんだよなぁ。と、一人納得して頷いた。腕を組んで。
「まあ、でも、そう言う事なら……」
波崎さん、スマホでピコピコと。
「メール?」
「うん、ラインね。じゃあレモン牛乳買って帰ろう」
「え?ヒロを待たないのか?」
「だから、ラインで先に帰っているって伝えたんだよ」
何の慈悲も無い言葉だった。彼氏がぶっ倒れているのにも拘らず帰るとは。
「え?いいのか?」
流石の白井も困惑で返す。
「いいのいいの。どうせ大沢君の自業自得なんだし」
「全くその通りだから擁護できないけど、可哀想過ぎる……」
生駒の呟きに俺と白井が同意の頷き。本気でスゲーな女子は……
「じゃあレモン牛乳買って行こう。緒方君、これお金」
黒木さんがお金を渡すと、私も私もと女子達が俺にお金を渡した。
「ちょ、これ多いだろ。人数分以上になっちゃうぞ?」
「買えるだけ買えばいいよ。大沢には飲ませないけど。お金出さないって言ったし」
麻美さんの辛辣ながらも真実の言葉だった。まあ、そう言う事ならと、俺達男子もお金を出してレモン牛乳を購入。一人2つ飲める量を買った。勿論ヒロの分は除く。
帰っている途中、ヒロが汗だくになりながら走って追って来た。折角風呂に入ったのに台無しだった。
「待てって!!酷過ぎるだろ、置いて帰るとか!!」
「だって脱衣所でへたっていたんでしょ?白井君からスポーツドリンク貰って涼んでいた所を邪魔するのも忍びないし」
俯いたヒロだった。俺達は慣れたもんだが、白井は違う
「大沢の彼女って可愛いけどきついんだな……」
もう戦慄の表情で慄いていた。
「お礼は言ったの?」
「え?いや、まだ……こ、これから言おうかなと……」
呆れたように固く目を閉じて
「……スポーツドリンク買って貰った事を当たり前だと思っているみたいだね」
「いやいや!そんな事はねえぞ!白井、ありがとう!」
見事なお辞儀を道の真ん中で披露したヒロ。注目されるのでやめてほしい。
「あ、うん、解ったから此処で頭下げるな。目立ってしまう」
「そうか、お?隆、例の牛乳か?沢山買ったな、一本貰うぞあいてっ!?」
袋に手を伸ばしたが、それをフルスイングで叩かれた。
「なにすんだ日向!?」
「なにすんだ、じゃないよ。これはみんなでお金を出して買ったお土産。大沢は買わないって言ったから、大沢の分は無い」
「こんなにあるんだからいやそうだな。その通りだな、うん」
文句を言おうとしたが、波崎さんの殺気を孕んだ眼光に気付いて言うのをやめた。流石の危機管理能力だ。
しかし、諦めたようでもチラチラチラチラ袋を見るヒロに豪快に溜息を付く俺。
「解ったよ。俺の分一つ飲んでいいぞ」
「そ、そうか?そこまで言うんだったら……」
手を伸ばしたが、手首を掴まれて阻まれた。
「な、なんだよ里中?」
「緒方君の好意と言っても納得はできないかな」
もう、すんごく咎めるような目であった。つうか女子全員そんな空気だった。
お金出さないって言ったのがそんなに気に食わないのか。やっぱりお金出して正解だった。
「あの時俺達がお金を出さなけりゃ、大沢のような目で見られていたんだよな……」
生駒も安堵してそう言った。あの咎める瞳は向けられたくない。断じて。
「緒方、あの牛乳ってコンビニとかでも売っているのか?」
白井の質問に答える俺。
「多分ない。あそこの温泉で仕入れているだけなんじゃないか」
前回コンビニに行った時、レモン牛乳は無かった。ここも多分同じだろう。
少し考えた白井。そしてヒロにこう言った。
「大沢、俺フルーツ牛乳飲みたくなった。あのコンビニで売っているだろうから買ってくれないか?代わりに俺のレモン牛乳一つやるから」
「いや、金出してまで飲みたいと思わねえからな」
「「「お前には心底ガッカリした!!」」」
白井の助け舟をお金出したくないって理由で却下しやがった。男子全員同じ言葉で突っ込んだし!!女子達の瞳もさっきより厳しくなっているし!!
こいつはもう知らんと言う事でコテージに向かう。誰もヒロに話し掛けなかったのが印象深い事だっただろう。ヒロの方は勝手にしゃべっていたけどド無視したし。
「帰ったぞー」
「おう、こっちも大体準備終わったぞ。ん?なんか買って来たのか?」
松田が俺が持っている袋を指差した。
「これお土産。この辺でしか売っていない牛乳」
「ひょっとしてレモン牛乳!?」
遥香がひょっこり顔を出す。テンション高めで。
「うん。みんなの分買って来たから。あ、ヒロには絶対にやるなよ。あいつだけお土産代出してないから」
念押ししたら目を剥いたヒロ。誰かから貰おうとの魂胆だったようだな。
「ま、まあ解った。じゃあこっちだ」
松田がドモりながらも案内する。と言ってもバーベキューが出来る庭先だが。
「うわ凄い!!ご馳走沢山!!」
里中さん、瞳を輝かせた。つうか全員そうなった。
肉とか野菜とかのバーベキューは勿論、海鮮もそうだし、宇佐美の差し入れも焼かれていたし。
おにぎりが正に山のように握られて大皿に盛られていたし。
「鶏の丸焼きもあるぞ!!」
ヒロのテンションも上がったが、違うと木村が。
「燻製だ。スモークチキンだよ」
「お前が作ったのか?」
「一回やってみたくてな。宇佐美が簡易燻製器持っているっつうから頼んで持って来て貰ったんだよ」
そういや宇佐美に燻製器頼んだとか何とか言っていたな。いやいや、これは頼んで正解だよ。実に旨そうだし!!
「しかし、凄い量の天ぷらだな」
天ぷらが好物の生駒が目が釘付けになるほどの山盛りだった。
「この天ぷらは私作でーす」
楠木さんが手を上げてアピる。楠木さんの天ぷらなら問題無いだろう。つうか超旨いだろう。具材はエビとナスとレンコンと……何だあの葉っぱ?
「美咲の……一人で大変だっただろ?」
「春日ちゃんにも手伝って貰ったからね。ミズの葉っぱ?初めて使ってみたから、感想教えてね」
松田達が取って来た山菜か。初めて食べるから興味がある。
「ん?楠木さん、ジャガイモ頼んだって聞いたけど?」
「ああ、それは遥香に渡したよ。私は天ぷら担当って事になっちってね」
遥香に?そろーっと目を向けると、ニコニコしていた。
「何作った?」
「ジャーマンポテトとヴィシソワーズ。今横井が装ってるよ」
なんだヴィシソワーズって?無表情を装ったが遥香に簡単に看破される。
「ジャガイモの冷製スープ。熱い夏にピッタリだよ」
「心を読むなと言うのに……だけど旨そうだからいい」
初めて食べるから興味バリバリだし。
「これなんだ?」
白井が指差したのは……漬物?
「ああ、これ、松田君から教わった野草料理。ミズ?の丸い所をきゅうりとキャベツと一緒に浅漬けにしてみた。こっちは同じく野草のノビルを味噌で和えた物」
藤咲さんがドヤ顔でそう言う。浅漬け良いよな。俺は大好きだ。普通のサラダよりも好きだし。
と言うか、藤咲さんはスズキを頼んだ筈。
「藤咲さんが頼んだスズキは?」
なんかフフンとドヤ顔して奥に引っ込んだ。
んで、赤坂君と一緒にアルミホイルが乗っかっている紙皿を大量に運んできた。
「これは?」
「スズキです」
またまたドヤ顔でアルミホイルを開ける。鼻腔を擽る超いい匂い!!
「スズキのホイル焼きです!!」
「ほほう、これはうまそうだ」
「なんかリアクション薄くないですか!?」
なんかびょーんと突っ込まれたが、いやいや、実に美味そうだぞ。たまねぎと人参、シイタケが乗っかっていてさ。
「このソースって味噌?」
「味噌とマヨネーズとみりんを混ぜたものです。シンプルながらも素材の味を生かす素晴らしいソースです」
やはりドヤ顔で胸を張った。
「松田君凄いよね。こう言ったレシピも持っているし、山菜も取って来れるし、生活力が凄いって言うか」
赤坂君も尊敬する松田のスキル。傍で尻尾振ってじゃれついている倉敷さんは実に勝ち組だろう。
「しかし、これだけ沢山の料理、食い切れるか?」
「え?まだありますよ?」
藤咲さんの台詞に絶句した。この他にまだあるの!?
「おう緒方、帰ったか」
しかめっ面で玉内が櫛に刺さって焼かれていた魚を持って来た。しかめっ面なのは煙で目がやられたからか。
「え?お前魚焼いてたの?どこで?」
「裏手にちょっとしたかまどがあったんだよ。そこで獲った魚焼いてたんだが、数が少ないからイカを足した」
え?あの魚か?イカは買ってきたの?わざわざ?
「わ、わざわざイカ買って人数分にしたのか?」
「イカだけじゃねえけど、そうだな。それこそアイナメとか」
いやいやいやいや、充分過ぎるだろ。そもそも買わなくても良かっただろうに?
「いつきがイカ焼き食いたいって言ったからついでにな」
「え?じゃあお前のお金なのか?みんなで割り勘にした方がよくね?」
玉内にばっか負担をかける訳にはいかない。ここはみんなに話してだ……
「ああ、いいよ。500円程度だったし」
「なんでそんなに安いの!?」
「だから、安いの買ったからだ。鮮度が落ちている、焼かないと安心できない奴」
だ、だから串焼きか、成程な……
「俺ってこう言うの初めてだから。なんか楽しいよな。みんなで金出してワイワイ仕度してさ」
それはホントに嬉しそうに。糞だった時代は喧嘩ばっかで、友達もいなかったから、尚更そう思うのだろう。
「じゃあ俺も手伝うか。裏手にあるんだろ、魚」
「ああ、頼む」
そんな訳で裏手に回った。かまどは簡素な物で、以前誰かが組んで使ったものをそのまま使った感じだった。
串に刺されているイカや魚を、俺は大事に、丁寧に持って歩いた。
全部料理が出そろった訳だが、まだ食べる訳にはいかないようで。
「おい、兵藤はどうした?腹減ったんだけど」
ヒロが苛立ちながらそう聞いた。まだナンパしてんのかあいつ?
「さっきライン送ったら、ナンパ成功したからこっちに連れて来て良いかって」
東山が申し訳なさそうに。白井とトーゴーが目を剥いたし。
「成功!?あいつが!?どうやって!?」
「さあ……俺も詳しくは突っ込まなかった……と言うかビックリしてみんなに聞いてから折り返すって送ったから……」
相当な事件のようだな、ナンパ成功した事が……
「いいんじゃねえの?料理もこんなにあるんだし」
河内の弁である。今のメンバーでも絶対に残る量だし、一人増えた所で……
「なんでもその子の友達も一緒だそうで……合計6人追加いいかって……」
「嘘だろ!?あいつが多人数に声を掛けたっての!?」
白井の驚きは相当なようなモンだったようで、大声での疑問だった。
「俺もビックリしているんだけど、兵藤がそう言うんだし、どうかなと思って……」
「別にいいだろ。まだ食材もあるしな」
料理総合監督(?)の松田はそう言って許した。
「この量だし、6人増えた所でだから、俺もいいと思うよ」
大雅も良いと。と言うか誰も異議を唱えない。しかし、微妙な顔をしている人がいた。
「どうしたんだ国枝君、児島さん、波崎さん?なんか難しい顔しているぞ?」
この三人は言わずもがな、霊感持ちである。児島さんの分析では国枝君が一番霊力があり、次に波崎さん、その次に自分だそうだ。
川岸さんの事は全く大した事は無い、ただの霊感持ちだと言っていたが、そうなると国枝君達との違いがよく解らない。
その国枝君が重い口を開く。
「うん……なんか嫌な予感がすると言うか……」
「私も……なんか持ってきそうな……」
国枝君も波崎さんも否定的だが、児島さんはちょっと違った。
「出来れば来て欲しくないけど、兵藤君が納得しないと思うからいいと思う。どうせすぐに帰る羽目になると思うし」
「……児島さん、何か確証があるようだけど」
「国枝君と波崎さんの嫌な予感は当たりだと思うけど、こっちには緒方と生駒君、藤咲さんがいるからね」
名前を上げられて顔を見合せる俺達。特に藤咲さんは「なんで?」と首を傾げ捲っていた。
「いずれにせよぶつかるんだから、今から少しでも弱らせた方がいい」
「……児島さんの話は解ったけど、だったらやっぱり気のせいじゃないって事だよね……」
波崎さんが俯いてボソッと言う。なんかヤバい気配がするが……
「俺と生駒がいればどうとでもなるんだったらいいよ別に。なあ?」
「あ、うん。連れて来た女がヤバい奴だろうが、別に?」
「私の名前が挙がったのが解らないのですが、お役に立てるのであれば」
名前が挙がった俺達が是とするんならと渋々了承した国枝君。なんかあったら僕も頑張るから、と、ボソッと呟いたのを耳が捕らえた。
東山に促して、連れて来てもいいからと連絡させる。
「到着は15分くらいだそうだ」
意外と近くにいたのか。だけどだったら食わないで待っていた方がいい。何か起こるらしいし。
それまでの繋ぎと言うことで、みんなにレモン牛乳を勧めた。最初は牛乳の類かよと渋っていた木村だが、そのあまりの旨さに目を剥く。
「マジか!?なんだこの牛乳!!」
木村でさえ絶賛したレモン牛乳。みんな夢中でチューチュー啜ったのは言うまでもない。
唯一その味を知らないヒロが物欲しそうになるのも言うまでもないだろう。
「な、なあ、それってそんなにうまいのか?」
誰と言う事でもないが振ると、大雅が律儀にも返してくれた。
「これ本当にうまいよ。学校の売店にあったら間違いなく買うな。パンのお供に最高だ」
「そ、そうか?じゃあ俺も一本……」
「は?大沢君は飲んでないからお土産代も出さないと言ったでしょ。白井君の気遣いにも非礼で返したでしょ?」
波崎さんに言われて縮こまる。実際その通りなのだから擁護は不可能だ。
「これウチの学校でも作れねえかな……」
松田がレシピ研究を頭の中で行う。倉敷さん、なんか知らんがウチの彼氏ってサイコー!とか言っているし。
じゃり、と砕石を踏む音。その足音7つ。
「来たか」
児島さんの言葉が無ければそんな事は無かっただろうが、俺と生駒、そして藤咲さんが若干緊張して身構えた。
明かりに照らされて顔が見えた。間違う筈もなく兵藤だった。
「おうおう、すまんすまん、いきなりで悪いなお前等」
超ご機嫌で俺達の方に来る兵藤。東山も若干緊張して出迎えた。
「おう……遅かったな……で、ゲットした女ってのは?」
「おうおう!そうだそうだ!!漸く俺にも春が来たって事でよ、紹介するぜ!俺の女と新しいダチを!!」
超テンションでお連れさんを手招きで呼ぶ。その顔を見て仰天した。更に言えば向こうも仰天しただろう。
「「「「ミコちゃん!!?」」」」
兵藤が肩を抱いて前に出したのは、忖度ミスコンの優勝者、大矢美子さんだった。
「え!?ま、マジで!?アンタ等がこいつの友達!?」
兵藤をこいつ呼ばわりしやがった。多分咄嗟も手伝って演技が解けたんだろう。
「釜屋!?」
「河内ィ!!?」
あの元銀翼って奴も来たようだ。その他に海の家と公園でぶっとばされた金髪の髭。ミコちゃんとお友達のギャル。
「え?知り合い?なんで?」
平和に兵藤が俺達とミコちゃん達を交互に見た。いや、知らんのなら仕方がないが、この程度の雑魚に国枝君達が警戒していたのが解らない。
俺達の驚きを察してナチュラルにあいつ等の後ろに回った大雅と松田。逃がさないと決めた動きだ。
それでも何の事か解らないので質問してくる。
「緒方君、こいつ等は?」
「ああ、ミスコンでな」
あの時の事をあれこれそうよと説明。特に何も言っていないが、糞共(野郎だけだが)自主的に正座に移行して俯いた。
「お、おいお前等?何がどうなってんだ?なんで正座するんだよ?」
兵藤だけが理解が及ばないようで、正座野郎共に焦って問うていた。
「兵藤、こいつ等と知り合った経緯、教えてくれ」
木村が赤坂君とおさげちゃんと言う一般人を後ろに回しながら問う。一応ながら守ろうとしている様子。
「え?ああ、なんか海岸をブルーになって歩いていたこいつに声を掛けたんだよ。もしかしたら失恋して傷心なのか?と思って」
ミコちゃんの肩を抱きながら。そのミコちゃんも俯いてブルブル震えているんだけど、それはお構いなしなのか?
「成程、傷心に付け込んでゲットしようとした訳か」
「ちげえよ東山!!いや、違わないけど、それには触れんなよ!!で、声を掛けたら他県から来たチンピラに友達も自分もやられて……」
「成程、自分がぶっ潰してやるって言って好感度爆上げを狙った訳か」
「だから振れんじゃねえって言ってんだよ東山!!ま、まあ、だったら俺が仇取ってやるからと言ったら向こうは結構な人数だと言うから……」
「成程、こっちも大人数だから問題ねえとか言って頼もしさをアピッた訳だな」
「だから振れんじゃねえって言ってんだろ!!」
悉く東山の読みが当たっているのか……そうだとしたら、こいつも相当解り易いな……
「ま、まあ、そんな事を言ったら、何者だと聞かれたから、連山最強だと言ったら……」
「利用できると踏んで兵藤に好意をアピったんだな、ミコちゃん?」
言ったらミコちゃん、超ガクブルになった。唇なんて紫色になったし。
「おい緒方、美子に凄むんじゃねえよ。ぶっ殺すぞ?」
兵藤が若干ドヤ顔でそう言う。ミコちゃんにいいところを見せたいって事なのか?そんなモン知ったこっちゃねえのが俺だが、それは勿論覚えているよな?
「つまりお前は俺とやり合う。そう決めたんだな?いいぞ」
ずい、と、前に出たら上杉が身体を張って止めた。
「ちょ、あいつ馬鹿だから許してやってよ。折角仲良くやってきたのに」
「その仲良くやってきたのをぶち壊してまでミコちゃん側に着きたいって事だろ。俺は全くどうでもいい。敵ならぶち砕くだけだ」
上杉を押し退けて前に出ようとしたが、宇佐美と白井によって阻まれた。具体的には羽交締めのように拘束されて。
「ちょ、緒方、ちょっと待て。あいつにも説明してからだ」
「兵藤は馬鹿なんだ。好意を向けられた事は殆ど無いし、免疫も無いんだから、ちょっと我慢してくれよ、ちゃんと説明するから」
上杉達の慌てっぷりで俺が結構本気なのを察した様子。
「え?ちょ、こんなの身内の軽口だろ?そんなに怒んなよ……」
ビクビクしてから手を前に出して微妙に下がりながらそう言った。
「待て緒方」
此処で木村が俺の前に出た。露骨にホッとする兵藤。
「助かったぜ木村。緒方はホント洒落が通じねえんだな……」
「兵藤は俺の預かりだっただろうが。お前は引っ込んでろ、俺がやるからよ……」
「お前も本気でキレてんのか!?」
当たり前だろ、留飲を下げたとは言っても昼にやり合った相手側に立ってんだぞお前。それも程よく利用されて、俺にぶっ殺すとか言っちゃったんだぞ?ミコちゃんにカッコ付ける為だろうが、俺達にそんな事通じるか。
此処で遥香が前に出て来て、あれこれそうよと。兵藤、口をあんぐり開けた。
「まあ、兵藤君が仕返しをしてあげようと思ったのは私達だって事だよ」
どうするの?との視線を向けながら。
「え?そ、そりゃ……」
なにかの助けを求めるかのごとく、周りに目を向ける兵藤。ほぼ全員咎めるような目をミコちゃん達に向けているのが容易に知れるだろう。
「……なあ、美子……」
「アンタ仇討ってやるって言ったし!!連山最強なんでしょ!?連山ってのは……どう言う所?」
知らねーだろうな。他県の田舎なんて。
「どうでもいいから来い、兵藤。ケリ付けるのには丁度いいだろ。何ならこっちから行くぜ」
「ちょーっと待て木村!!想定外すぎて困ってんの解かるだろ!?」
両手を突っ張って待て待てと。こいつミコちゃんに結構な人数がいるとか言われても尚仇を討とうと言ったんだよな……
「おい兵藤、ひょっとしてだが、ミコちゃんの敵討ちに俺達、もしくは『とうどうさん』に助っ人頼もうと考えていたんじゃねーだろうな?」
訊ねたら速攻で目を反らせた。ビンゴかよ。
「おい釜屋。昼も言った筈だがな。逃げたのはいい判断だが、そこでイキっちゃ駄目だろうと」
河内が元銀翼の前で見下ろしながら喋った。元銀翼、目を伏せて汗ダラダラになっていた。
「あはは~。まあまあ、みんな落ち着いて。丁度良かったのは私も同じだし、ちょっと待ってね」
遥香が木村と河内を宥めた。しかし、その瞳は兵藤を捉えていた。
「……槙原さんって霊感が開花したのかい?」
国枝君が不思議な事を訊ねた。
「ううん。ただの読みだよ。宇佐美君、赤坂君と安達ちゃん、鮎川さんを連れてここから避難してくれない?そうだな……ペンションにでも。終わったら連絡するからさ。下手すれば増援が来て迷惑かける事になっちゃうから」
「それはいいが、他の女子は?」
「そっちはどうにかするよ。荒事に向かない人達だからお願いしたって事。いいよね鮎川さん?」
振られた鮎川さんも咄嗟に頷いた。それを同意として宇佐美が3人を引っ張ってコテージから出た。
程よい時間が経ったところで疑問を述べる俺。喉がカラカラだが、どうにか言葉を出す。
「……何で宇佐美達を避難させた?」
「ダーリンも何となく察しているでしょ」
察した。と言うか察するような状況になった。何故なら残ったメンバーは……
「……槙原さんの読みって此処まで凄いの?先視の気があるみたい……」
「あはは~。児島さん、結構ヒントくれたじゃない。だったらそうなるよ。問題は兵藤君って所だけどね」
「俺!?俺がどうした!?」
慌てる兵藤だが、俺も解らない。なんで兵藤なんだ?
「……そう言えば、私でしたよね、最初は」
藤咲さんも察したようだ。と言うか全員察したようだった。ミコちゃん達は俺達の尋常じゃない気配にオロオロし出したが。
「……東山君、兵藤君は基本的にヘタレで一人で声を掛けられない。そうだよね?」
「……ああ、その通り。傷心の女がトボトボ歩いてチャンス到来となっても、ヘタレが高じて結局何も出来ない」
「じゃあ、なんで声を掛けられたんだろうね?」
そういやそうだと当の兵藤も考え込んだ。お前結構酷い事言われているんだが、それはいいのか?
「……ミコちゃん達はこの儘でいいのか?」
「いいんじゃない?喧嘩売った相手がとんでも無かったと後悔するだけだし」
しれっと言い切った。いや、危ないんじゃねーか?最悪死んじゃうとか……
「……緒方さん、今回は私のせいみたいですので、私がどうにかします」
深々と俺、いや、全員に頭を下げた。兵藤、流石に慌てる。
「ちょっと待て藤咲。なんでお前が謝る?お前の責任なんかどこにもねえだろ。この件は俺が浮かれてこうなった訳で……」
「違うよ兵藤君。私から移ったんだよ。いつ移ったのか解らないけどね……」
此処で陣形が変わった。大雅と松田がミコちゃん達の後ろに回っていたが、ヒロが加わった。
「……有り難い。正直俺じゃどうしようもないと思うからね……」
「……なんかやべえ気配がビンビン伝わって来るけど、大沢が加わった事でどうにかなるもんなのか?」
「……まあ、任せろ、お前等はあいつ等が逃げた時にぶっ飛ばしてその場に留める事に全力を注げ」
別に逃げても良いように思うが、なんで引き止めるんだ?
「……逃げられたらどうなる?」
「ここで起こった事を触れ回られる。それは駄目だ。ぶっちゃければ今直ぐ消えて貰った方が早いんだが、時間もなさそうだからよ……」
成程、終わった後に程良く脅して口封じした方がいいって判断か。つうか東山がいるんだから『嘘』でどうでもなると思うが、そこは保険だな。
遥香が留めたのもこう言う理由か。なかなか考えていらっしゃる。俺が考えなさ過ぎなだけかもしれないが。
俺の横に生駒が着いた。玉内を除く他の野郎共はミコちゃん達を囲むよう陣取った。みんな考える事は同じなんだなぁ。やっぱ俺が考えなさ過ぎなだけか。
女子は全員玉内の後ろ。なんかあったら玉内が対処するのか。だけどちょっと無理じゃねーかな。
だって今から出て来るのは人間じゃねーんだから。
「おい……なんだよこの尋常じゃない感じは?いや、美子達が来た事は確かに許されねえ事なんだろうが、そこまでの殺気を出すかよ……?」
「みんながビリビリしているのは兵藤君の新しい友達に向けてじゃない。兵藤君に、もっと言えば兵藤君の後ろに、だよ」
藤咲さんに言われて振り返る兵藤だが……
「だ、誰もいねえけど?」
「いや、居る。お前も見た筈だ。感じた筈だぞ兵藤」
俺に言われて動揺し撒しまくった。なんかワチャワチャ踊っている様に見えた。
「見たって何を!?」
「見ただろ。『とうどうさん』全員見た筈だ。だからお前達は負けたと言った筈だろ」
生駒に言われて更に動揺した。膝がガクガクしっぱなしになった。
「そ、それってまさか?嘘だろ!?俺に!?」
「ちょっとじっとしてて兵藤君。今『出す』から」
そう言って振り被った藤咲さん。その構えはビンタのフルスイングの構え。
「なにするつもりだ藤咲!?」
「だから黙ってて!」
びたーん!と非力な藤咲さんにしては、結構いい音のビンタを兵藤にかました。
「いてええ!?」
頬を押さえる兵藤。藤咲ビンタは肉体的ダメージはせいぜいその程度だろうが、生霊ならばどうだ?
――ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!
大音響の絶叫が響いた。それはミコちゃん達が耳を塞ぐ程の絶叫で。
そして兵藤から勢いよく飛び出すように――
朋美が横っ面を吹っ飛ばされたように『出て』きた―――――!!!
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