二年の夏~009

 コテージに戻った。話しによると、シャワーは一つとの事。

「途中温泉があったよな。そこ行って来いよ」

 準備を始めている松田がそう進言して来るが……

「いや、悪いだろ……みんな準備始めるってのに……」

「そう言われてもな。こんな大人数で調理場に入れねえだろ?」

 確かにそうだけど、他にも仕事があるんじゃないの?例えば掃除とかさー?

「お前等は入ったのか?」

「シャワーは浴びたよ。先に来た連中全員な。だから後はお前等だけだ」

 後は俺等だけなら風呂には確かに入りたいが、申し訳ないって気持ち、理解できるよね?

「いいじゃねえか、行って来いよ緒方。俺は燻製つくりで忙しいから行かねえが」

 木村も行って来いと。

「シロも行って来て良いよ。ご飯の準備の邪魔だから寧ろ行って来て」

「えええ~……俺も一応料理できるんだぞ……」

 生駒は邪魔だからと言われた。こいつはラーメン屋でバイトしているから戦力になる筈だが。

「じゃあ俺は行こう「河内君は雑用で忙しいからシャワーで我慢して」…………はい……」

 河内は行こうとしたが、横井さんによって止められた。雑用があるんなら俺も残るんだけど……

 そんな訳で風呂組。俺、ヒロ、生駒、白井。女子は黒木さん、波崎さん、麻美に里中さんだ。

 東山も来ようとしたが、松田の野草料理をじっくり見ると藤咲さんが言ったので、付き合って残る事にした。あそこは事情が事情だからしょうがない。

「トーゴーも残ったのは意外だったが」

「トーゴーは料理できないけど、一人暮らしだからな。掃除スキルは意外とあるんだよ」

 白井の弁である。掃除スキルとは食器を洗ったりか?だったらやっぱり他の仕事もあるんじゃねーか。

「それにしても、あんな大人数で準備してもしょうがないと思うが」

「コテージの掃除とかいろいろあるよ」

 波崎さんの弁である。ほらな、やっぱりあるだろ。じゃあ俺も掃除した方が良くない?

「お、おい、そうなると俺達だけで呑気に風呂なんか入っている場合じゃねえだろ?」

 ヒロも俺と同じ考えに達したようだ。つうか常識人ならそう考えるだろ普通。

「だから河内君は残されたんでしょ。あそこ探したの河内君だし。要するに責任者だね」

 麻美がさも当然とばかりに言う。だが、あそこには宇佐美と上杉も残っただろ?

「と言うか、私も行って来いよと明人に言われたんだけど……」

「くろっきーの家事スキルは壊滅的だから外されたんでしょーに」

「え?そ、そうなの?確かにお料理はあんまりできないけど、お掃除くらいは……そ、そう言う美緒だってお風呂行こうとしてんじゃん!」

「そもそも私達民宿組はお掃除免除でーす。何故なら宿泊しないからでーす。ねえあさみん?」

「その通り!ご飯食べてあの話する為だけにコテージに行くだけだからー」

 ねー、と顔を合わせる麻美と里中さん。ぐぬぬの黒木さんは兎も角、この二人って相性いいよな。

「だけどそうか。俺と波崎さんが風呂に行けと言われたのは民宿組だからか」

 生駒が納得と頷く。

「だ、だけどよ、俺と隆はコテージ組だぞ?」

「隆は兎も角、大沢なんか居たって邪魔なだけだから」

「大概にヒデェよな日向!!」

 突っ込むヒロだが、波崎さんの同意の頷きがパネエ。

「ま、まあ、兎も角、白井も来たんだぞ?トーゴーだってペンション組だろ?」

「だから、掃除に役に立つからだって。兵藤が居たら当たり前に風呂に来ているよ」

「だ、だって上杉も……」

「上杉は彼氏と一緒だろ、それは当たり前だし、宇佐美が残る言って言うんなら上杉だって手伝うために残るよ」

 どうにか仲間を増やしたい、と言うか居た堪れない気持ちを共有したい仲間を探すヒロだが、白井によって悉く封じられた。

「まあいいだろ、これは好意と受取ろう。奴等に感謝しつつ、風呂に入ろうぜ」

「そうするけど……おう……」

 もう居た堪れない気持ちの方が強いヒロ、なんか元気が無くなった。

 と、思ったら復活宜しく、俺に力強く指を差す。

「そうだ!そうだよ!お前もコテージ組なのに風呂に行けと言われたんだ!俺だけ申し訳ない気持ちになる方がおかしいよな!」

 まあそうだ。だから感謝して風呂に浸かろうっつっただろ。

「それは違うよ、緒方と大沢には決定的が違いがあるから」

「そうだよ、大沢君だけだよ、申し訳ない気持ちでお風呂に浸かるのは」

 生駒と波崎さんがそう発した。俺は申し訳ない気持ちにならなくていいだと……!!

「な、なんでだよ?隆だってコテージ組だろ?」

「だって緒方君にはみんなお世話になっているもの」

 黒木さんの発言である。全員うんうん頷いた。白井を除く。

「って、俺はなんもしてないぞ!?」

 寧ろ俺がみんなの世話になっているのでは!?

「だっていつも集まるの、隆の家じゃん」

「そうそう、緒方君の家に集まればご飯に呼ばれるし、いつも心苦しい思いをしているのはこっちだって事」

 ねー。と顔を合わせる麻美と里中さん。ヒロの蒼白な顔面なんか無視して。

「そ、そうだけど、それって俺じゃなく親じゃないの!?」

「そ、そうだぜ!!隆じゃなくおじさん、おばさんじゃねえか!!」

「そうだけど、緒方もちゃんと持て成してくれるからな。俺達のコーヒー代、いくらかかっていると思ってんだよ?」

「お、俺だって家に来ればジュースとか……」

「頻度が違うでしょ。少なくとも私は行った事が無い」

 黒木さんの返しに絶句して項垂れた。確かにヒロの家に行くのは男子ばっかで、しかもそんなに行く事も無いよな、大抵俺ん家だ。

 さて、温泉だ。前回、最後の繰り返しの温泉とは違うが、ここにもあるのだろうか?

 そんな訳で売店に向かう俺。

「風呂に入りに来たのに、もう何か買うのか?」

 生駒の疑問であった。それにまあまあと濁しながらも物色開始。

「あった!!」

 なにを探してたんだと覗く我が友人達。手に取った物を見て溜息を付いた。

「風呂上りに飲めばいいだろ、フルーツ牛乳なんか」

 ヒロが代表で物を言うが!!

「これはレモン牛乳だ。遥香が言うには栃木のご当地牛乳をパクったもんらしい」

「なんで知っているのよ?ああ、前回……」

 察した黒木さん。それにみんなもああ、とか言う。

「まず飲んでみろ。これみんなにお土産に買っていくけど」

「はあ?こんなもん土産にすんのかよ?つうかなんで土産だよ?」

「解ってないなヒロ。言っただろお前も。申し訳ないって」

 お土産でも買って戻れば心苦しさも半減ってもんだろ。

「いいから飲んでみろって。おい、生駒」

「わ、解った」

 俺と生駒はレモン牛乳を購入。そしてストローをぶっ刺してほぼ同時に啜った。

 目を剥いた生駒。そしてほぼ叫ぶように言う。

「なんだコレ!!本気でうまい!!」

「だろ!?旨いだろコレ!!」

 夢中でチューチュー啜る様を見た麻美。ごくりと唾を呑み込んだ。

「そ、そんなにおいしいの生駒君?」

「果汁は入っていないようだけど、レモンの風味がちゃんとあって、フルーツ牛乳とかコーヒー牛乳みたいな甘ったるさがない!!」

「そ、そう?じゃあちょっと買てみようかな?」

「ま、待ってあさみん、私も買う!!」

「ちょ、私も買うから待ってよ!!」

「里中さんと綾子まで!?だ、だけど私もちょっと興味があるかな……」

 女子達全員買いに向かった。生駒があんまりうまそうに飲むからだ。

「そんなにうまいのか?」

 白井の質問に頷く生駒。

「これ、本気でうまい。地元のコンビニにあったら買うな、絶対」

「そうか……じゃあ俺も飲んでみよう」

 白井も買いに向かう。ヒロは……

「お前は買わねーの?」

「今コーヒー牛乳と天秤にかけている最中だ」

 さっきお前、風呂上りに飲めばいいとか言わなかったか?まあ、うまそうに飲んだんだから興味がバリバリ湧いたんだろうけど、なんでそこにコーヒー牛乳が入るんだ。単純に何か飲みたいだけだろ。

 レモン牛乳を買った女子達プラス白井。早速ストローをぶっ刺して啜った。

「何これ!?ホント美味しい!!」

 麻美さん、目を剥いて夢中でチューチューと。

「ホント美味しい!!これお店で出さないかな!!」

 波崎さん、前回と似たようなセリフだった。

「へえ?ホント旨いなこれ。帰りにもう一本買おう」

 白井も納得の旨さだ。で、ヒロは……

「お前、結局コーヒー牛乳買ったのかよ」

「風呂上りにはコーヒー牛乳だろって事でな」

 まだ入っちゃいないだろ。これからだろ。

「緒方君、帰りに人数分買うんだよね?」

 里中さんの質問である。

「そのつもりだけど」

「じゃあその時言って。私もお金出すから」

「あ、じゃあ私も。明人喜ぶかなぁ?」

「あ、俺も出すよ、だから声掛けてくれ」

 みんなでお金を出して人間の分を買う事が決まった。ヒロを除く。

「大沢君は出さないの?」

 波崎さんにジト目で質問された。ヒロ、当たり前のように頷いた。いや、これは善意だからお金出したい奴だけ出せばいいとは思うが。

「ほら、俺コーヒー牛乳だからそれの旨さが解んねえし」

 ふーん、と全員。流石に金出せと強要は出来ない。なので何か言いたそうだった波崎さんの肩を叩いた。

「……まあ、仕方ないよね。こういうのは気持ちだから強要する訳にもいかないから」

「そう言う事。じゃあ風呂に入ろう。時間決めて待ち合わせするか?」

 それがいいと言うことで、一時間後にこのフロアに集合となった。

 300円払って男湯に突入。まずは身体を洗う。

 そして大浴場に……って。

「白井、入らねーの?」

「俺は先にサウナ」

 成程、サウナか。俺もそうしようかな……

「お、じゃあ俺もサウナに行くぜ。隆、お前は?」

 ヒロに振られて咄嗟に首を横に振った。ヒロもあ、そう、と、とっととサウナに入った。

「緒方は行かないのか?」

「先に風呂に浸かりたい。生駒は行ってもいいんだぞ?」

「いや、俺サウナあんまり好きじゃ無いから」

 そうなのか。だったらだ。

「露天風呂行くか?向こうは開放感があるだろうし」

「露天風呂なんてこう言う所に来た時以外、入る事はないからな。賛成」

 そんな訳で生駒と露天風呂に移動。竹垣によって景色は見えないが、解放感は内風呂の比じゃないので、これはこれで有りだろう。

 そんな訳でずぶずぶ浸かる。

「あ~……」

 思わず漏れる声。マジ気持ちいいからだ。

「少し熱いな」

 生駒が若干苦痛の表情をつかりながらも浸かった。

「お前、熱い風呂苦手なのか?」

「え?夏場に限り、かな。冬ならこの温度で丁度いいけど」

 肩まで浸かったら苦痛の表情が和らいだ。ちょっと我慢すれば通り越すタイプのようだな。

「緒方、トーゴーと戦ったんだよな?どうだった?」

 生駒がそんなこと訊ねて来るとは珍しいな?まあいい、真摯に答えよう。

「強かったよ。あいつの戦い方はムエタイだけど、本命は前蹴りのような蹴りか。速さ重視だが威力もちゃんとある。それがハイやミドル、ローに飛んでくるんだ。躱し続けるのがキツ過ぎるし、実際無理だった」

「ああ、あの蹴りか。確かに速かったな。軌道を読むのもちょっと骨だよなあれ」

 その通りだ。俺は超近距離のワンインチパンチでキックの間合いを封じたから何とかなったと思うが、ムエタイには膝も肘もある。間合いは多分俺達の中じゃ一番有効範囲があるだろう。

「お前がそんな事を聞くのは珍しいけど、どうして?」

「うん。まあ、そんな心配は必要ないんだろうけど、『とうどうさん』と決着付けたのはお前だけだろ?俺達はそれに便乗したに過ぎないからな」

「やり合うかもしれないって事?それは無いだろ。藤咲さんが俺達と共闘するって言ったんだし」

「だから、そんな心配は必要ないって言っただろ。ただの万が一、億が一の事を考えただけだよ」

 万が一、億が一も無いと思うが、慎重になるのには越した事はないか。事実藤咲さんは朋美に憑かれていた訳だし。

「つうか夜にあの話ってどっちから持ちかけたの?遥香?『とうどうさん』?」

「う~ん……元々海に行く予定だっただろ?そこに『とうどうさん』を絡めただけだから、本来はただの遊びな筈……」

「まあ、親睦を深める事はいい事だけど……」

 生駒の言う通り、ただの遊びでもいいとは思うし、あの話はついで扱いじゃないかとは思うが。

「お前等は『とうどうさん』と朋美の関係知らないんだっけ?その話もするみたいだが」

「ああ、軽く聞いたよ。だから今更感が強いし、京都にみんなで行く事になったのも『とうどうさん』の力だって事も何となくは」

 じゃあやっぱりただのおさらいだろ。かた苦しい事はいいから普通に遊べばいいのに。

 「と言うか、俺はホントはコテージの方が良かったんだけど、バイトの関係でなぁ……」

 お湯で顔をごしごししながら零す生駒。一泊二日程度の休みしか取れないんだったら仕方がない。尤も、コテージも進展がないのなら一泊二日で終わる筈だが。

「楠木さんと一部屋取れば良かっただろうに。二人っきりでの民宿お泊りだぞ」

「み、美咲にもそう言われたけどさ、お前等と遊んでいる方が楽しいからって言うか……いや、美咲に不満がある訳じゃないし、ホントはそうしたいんだけど」

 慌てて訂正する。それも何となく解る。ワイワイ大勢でやるのが楽しいって事だろ。

「と言うかもう出よう。のぼせて来ちゃったし」

「あ、うん。そうだな。サウナ行く?」

「お前サウナ得意じゃないんだろ。ミストサウナ行ってみるか」

 そんな訳で露天風呂から出た。ミストサウナは兎も角、マジでのぼせそうだったからだ。

 俺達がミストサウナから出てもあいつ等はまだサウナに籠っていた。中でぶっ倒れてんじゃねーかひょっとして。

「どうする?見てみるか?」

 生駒が心配して進言するも。

「中には他の人もいるんだろうし、ヤバくなったら出されるだろ。それより冷たいヤツが飲みたい」

「それは賛成だけど、一応……」

 そっと中を覗く生駒。戻ってきてきて状況を説明する。

「白井が凄いようだな。大沢は先に出たら負けるみたいに踏ん張っているっぽい。中には他のお客も結構いるからヤバくなったら追い出されると思う」

 ヒロのアホなプライドの話か。じゃあいいや。どうでも。

 そんな訳でアホなヒロはほっといて着替える為に出る。白井が付いているから大事にはならないだろ。

「またレモン牛乳?」

「いや、あれお土産で買うからその時自分のも買うからいいや。アイスコーヒーだ」

「ホントどこでもコーヒーだなお前」

 声を殺して笑われた。いいだろ別に。好きなんだから仕方ねーんだよ。

 着替えが終わって自販機に直行。やっぱりアイスコーヒーをチョイス。生駒はいろはすを買っていた。

「お前だっていろはすじゃねーかよどこでも」

「いや、俺の場合は違う。外食の時に頼むのはいろはすじゃないから」

 確かにファミレスにいろはすはねーな。まあいいや、好きなもん飲めばいい。お前のお金だし。

 コーヒーを飲みながらうろちょろしていると、ゲームコーナーを見付けた。

「エアホッケーがあるな。やるか?」

「今風呂から上がったんだけどな。汗掻きたくないな」

 そう言いながらもやる気満々な生駒だった。

 お金を入れるとエアが噴き出す。

「生駒、お前の方にパックあるだろ。先行譲るよ」

「いいのか?じゃあ遠慮なくっ!!」

 マレットで思いくそパックを叩いた。壁に当てて軌道をずらしての超スピード。

「本気じゃねーか!!」

 俺もカウンターで迎え撃つ。壁なんか知ったこっちゃねえ。生駒が追い付けないくらいの超スピードでゴールを取る算段で。

「真っ直ぐとは、やっぱお前だよな!!」

 カキンと打ち返された。やっぱ壁に当てて打ち返しにくいよう、意識して。

「にゃろう!!小癪だな!!」

 右に左にマレットを動かしてパックを弾く。それは程よいスピードとなって生駒の陣に入った。

「貰った!!あー!?」

 カキンと打ち返すが、好奇に焦ったのかヒットポイントがずれた。結果へなちょこパックが自陣にやって来る事になった。

 チャンスだが、生駒のように焦ってタイミングを逃せばこのように反撃に遭いやすいパックになる可能性がある。

 なので慎重に振りかぶって、渾身の力でパックを叩いた!!

「真っ直ぐなのは変わらないのか!助かった!!」

 カウンターで打ち返された。ガコンとの音が聞こえてパックがゴールに吸い込まれた。

「あ―――――っ!!?」

「あーっ、じゃないだろ。エアホッケーは壁をうまく使うのがポイントだろ」

 ドヤ顔でそう返された。いや、真っ直ぐ突っ込むのは俺の真骨頂であってだな……

「ま、まあいい、まだ一点だ。勝負はここからだ」

 速攻でパックを取って速攻でカキンと。

「うわきたねえ!!」

 うるせーな、今から打つよと言うルールは無い。

 生駒、今度は冷静に返した。壁を使って軌道がジグザグだ。

 俺は異様に目が良い。動体視力が異様にいい。だからこの程度のスピードなら追える。

 なので打ち返す、生駒の忠告に従って、壁に当てるよう意識して。

「お?主張を曲げたか?」

 挑発する様に言いながら打ち返す生駒。これは俺への精神的攻撃に違いない。お前真っ直ぐだけで勝負するつもりだったんじゃなかったっけ?ヘタレたの?だっせえ。って感じで。

 そんな挑発になんか乗るか。負けるよりは全然いいんだよ。勝負は勝ってナンボだろ。

 エアホッケーは特定の時間で終了するか、先に取り決めた点数を取るかで勝敗が決まる。

 このエアホッケーは時間勝負のようで、終了した時の点数は――

「なんとか勝ったな。ビーチフラッグの借りは返したかな」

 ホクホク顔の生駒だった。あの野郎、俺よりも4点も多く取りやがった。

「俺は球技は苦手なんだよ」

「ああ、緒方って人ぶっ飛ばした方が得意だしな。納得だよ」

 それはお前もそうだろうが!!言っておくけど、お前も大概なんだからな!!

「あれ?ホッケーやってんのか?」

 白井が風呂上りの牛乳を飲みながらゲームセンターにやってきた。

「ああ、まあ、な」

「その様子だと、生駒が勝ったんだな。なんかドヤ顔だし」

 全くその通りだ。ゲームで勝ったくらいでドヤ顔とは大人げない。

「つか、ヒロは?」

「脱衣所で伸びてる」

 ああ、やっぱそうなったか。アホな対抗心持っているからそうなるんだよ。

「大丈夫なのか大沢は?脱水症状とか……」

「スポーツドリンク飲ませたから大丈夫だろ。そもそもあんな長時間サウナに籠っている方が悪いよ」」

「え?お前と一緒に入っていたんじゃねーの?」

「俺は途中途中で抜けて水風呂に浸かったり脱衣所で涼んだりしたから。大沢はずーっと入っていたし」

 ああ、やっぱあいつ馬鹿だ。対抗心云々もそうだろうけど、折角入ったんだから長く入らないと損だとか思ったんだろう。まさに自業自得だ。

 ともあれソファーがあったので座った。なんか全員。

 間が持たずに何となくだが質問してみた。

「お前等ってペンションに泊まっているんだって?」

「うん?ああ、そうだな。晩飯を断ったらすんごい嫌な顔されたって藤咲が言ってた」

 牛乳を煽りながら。さっきレモン牛乳飲んでいた筈なのに、今度はノーマル牛乳か。

「晩飯って別に自由じゃないのか?少なくとも民宿はそうだったけど」

 生駒の弁である。料金に多少変動があるくらいだろ。その料金が惜しいとか?

「そのペンション、オーナーの奥さんが自慢の手料理を振る舞うのが売りでさ」

「「ああ」」

 納得して頷いた。そんなペンション、結構ありそうだし。

「海なのに、山もあるのに、しかも地元じゃない牛肉のステーキ売りにしている時点で違うよな」

 まあそうだ。海鮮料理やジビエじゃないんだったらそうだよな。

「うん?地元じゃない牛肉ってなんだ?」

「あるだろ、松坂牛とか神戸牛とか」

「「ああ」」

 そう言うブランド物の牛肉じゃないと。

「オージービーフ売りにしているんだからおかしいよな」

「「それは確かにおかしいな」」

 生駒と声を揃えて肯定した。なんだよオージービーフって。せめて地鶏とか、なんかあっただろうに。

 しかし、奥さんの手料理が自慢なのなら、やっぱ何か目玉があるだろ。

「他はなんかないのか?例えばイタリアン旨いとか」

「得意料理はハンバーガーだそうだ」

「ハンバーグじゃないのか……」

 何でバンズ使っちゃうんだよ。ハンバーグにしたくない理由でもあるの?

「他には?」

「じゃあ見せて貰ったメニューをそのまま教えてやる。さっき言ったステーキとハンバーガー。ビーフカレーに肉じゃが。これにご飯が牛丼で味噌汁はトン汁ならぬ牛汁。更に言えば全部オージービーフ。これがコースで出て来るそうだ」

「全部牛かよ。それは確かに俺でも断るよ」

 流石に呆れた生駒だった。コースにもなっていないような気もするが。しかもビーフカレーと牛丼って。せめてビーフシチューだったらまた違っただろうに。

「殆どの人が単品にするらしい。例えばビーフカレーだけとか」

「俺でもそうするわ」

「だから、コテージのバーベキュー、実は楽しみらしいぞ。特に藤咲」

「藤咲さん、あんなに細いのに結構食うのか?」

「藤咲は肉より魚派だからな。手配した材料にスズキがあっただろ。あれ楽しみらしい」

 材料表なんてあったのか?と生駒に顔を向けた。

「食材費は松田に渡しただろ?松田が安く手配できるからって。その時全員に希望取ったはずだけど」

「俺にはなんも無かったけど!?」

「槙原さんが決定したんだろうな、多分」

 そうなるよな……だって俺は遥香にお金渡したから。ついでに俺の分払っといてくれって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る