二年の夏~003

 木村も黒木さんに引っ張られてやらされたが不発。生駒も楠木さんも失敗。本命であろう、付き合いの長い大雅と橋本さんも両方失敗。繰り返してまでも共に居たかった藤咲さん、東山カップルもどっちも失敗。

「「「「なんでだ!?」」」」

 なんでも何も、遥香にしかできねーつうの。

「こんなの納得できない!緒方、アンタもう一回やれ!」

 児島さんが棒を持って俺に突き出した。いや、納得できんと言われてもな。

「俺にはできないけど……」

「はあ!?アンタが出来ないってんならやっぱりマグレって事!?」

 その問いに首を横に振って否定して、遥香に指を差す。

「遥香なら俺を見付けられるって意味だけど」

「「「「じゃあお前に愛は無いのかよ!?」」」」

 全員同じ突っ込みが入った。俺は出来んが遥香は出来るって意味なんだが……

「あはは~。ダーリンは私は出来る言って信じているから、それが愛だよ言っておくけど」

 そう言って抱き付いてくる。おっぱいが当たって気持ちいい。だけど人目があるので、更に言えば俺も水着なので、反応したら色々ヤバい事になるからやめてほしい。

「じゃあ槙原さん、もぅ一回やってみてよ?」

 児島さんが今度は遥香に棒を伸ばした。それを躊躇なく取って……

「ダーリン、目隠しお願い」

 この発言に全員仰け反った。今の位置はスイカ割りをした位置から更に離れて、方向も斜めに行かなければならない位置。要するに、最初に割った位置よりも難易度が高いのだ。

 目隠しが終わって、じゃあ俺も位置に着こうと思ったが、橋本さんと倉敷さんに両腕をがっちり取られた。

「なになになに?両手に花にしちゃ関節極められている様なんだけど?」

「いいから大人しく着いてくる!!」

 倉敷さんにやたら凄まれてそう言われた。なので大人しく連行された。

 向かわされたのは、さっきのスイカの位置よりも更に遠い、もうすでに波が脚に当たる位置。

「難易度を上げても同じなんだが……」

「いいから!さっきの様に絶対に指示出さないでよね!」

 橋本さんにきつく言われて素直に頷く。なんでみんなこんなに必死なんだよ?

「よし槙原、回れ!!」

 ヒロに促されて10回回るが……

「もう10回回ってくれるか?」

 生駒によって追加された。生駒ですらそうなのかよ?

「え~……これ意外ときついんだけど……」

 まあ、言われるがまま追加で10回回ったが……

「今度は逆回転で10回回ってくれないか?」

 大雅によって新たに逆回転が追加された。なんなのお前等!?俺の彼女さんを虐めようって魂胆じゃないよな!?

「本気で言っている……んだよね。だけどこれっきりにしてね。ホントにキツイ……」

 これっきりだと逆回転で10回回った。止まると、俺の位置と正反対の方向だった。

「じゃあみんな、ここからは声を出さない様にしよう。僕達の指示から正解とフェイクを見切っていたのかもしれないからね。声の質とかで」

 国枝君ですらそうだった。こうなりゃ再び愛の力を見てつけて、ぐうの音も出ないようにしなければならないな!!

「んじゃ行くよ~」

 フラフラしながらも位置修正を微妙に繰り返して俺の方向に向いた。

「マジか………!!」

 トーゴーの声だコレ。他の奴に「シッ」とか言われて慌てて口を噤んだが。

 そしてやはりフラフラしながらも俺のほうに歩いて来る。

「「「「……………!!!」」」」

 固唾を飲んで見守るってこの事なんだろうなぁ、と思いながらも、俺も声を出さず。余計な難癖付けられちゃうかもだし。

 そして、当たり前の様に俺の正面に着いた。

「そこだ」

 振り下ろし、ばこっとした音。綺麗とは言わないが、スイカは見事真っ二つになった。

「「「「「すげええええええええええええええええ!!!本物だあああああああああああああ!!!!!」」」」」

 ふん、漸く納得したか。ただ突っ立っていただけの俺だがドヤ顔はさせて貰おう。

「まあこんなもんだよねダーリン」

「おう、これが愛の力だ」

 やはりハイタッチして見せ付けた。愛の力の凄まじさを。

「納得できないけど、割ったのは事実だからね……」

 悔しそうな橋本さんに全員頷いた。苦虫を噛み潰したような表情で。

「スイカ割りはこれで終わりだ。これ以上スイカはいらんから」

「そうだねー。まだ続けたいんなら、割ったスイカはその人達が片付けてねー」

 そう言って割ったスイカを片付ける俺と遥香。賛同したのか、誰もスイカ割りしようとは言わなかった。

 これで最後の割ったスイカはみんなで食う。なのでカットしてみんなに配った。いらねとか言った奴も居ただが、お前らが参加させたから増えたんだろと無理やり渡した。

 で、鮎川さんに持って行ったところ――

「緒方君、彼氏の条件追加していい?」

「はあ?ただでさえ厳しいのに、これ以上?」

「この条件があるんだったら、距離とか頭の問題は多少目を瞑るからさ」

 拝む仕草で頼まれちゃ、嫌とは言えん。と言うか条件が甘くなるのは大歓迎だから、寧ろ持って来いだ。

「じゃあ、無理なら無理って言うから、一応言ってみて」

「やった!じゃあ私を100パーセント信用してくれる人!!さっきの槙原さんと緒方君みたいに!!」

「どうやって捜すんだよそんな奴!!」

 ハードルが上がりまくりだよそれ!!さっきの条件の方がまだマシだ!!

「それは緒方君の人徳でどうにかして貰って……」

「人徳なんてねーよ!?」

 狂犬に人徳があると思うなよ!寧ろ逆だ!俺の友達が俺と付き合ってくれる分人徳があるんだよ!

 ともあれ、しゃくしゃくとスイカを食う。

「緒方、岩場に行かねえか?食材確保しに」

 木村がそう誘って来た。食材確保と言うと……

「貝?」

「おう。あとは玉内が銛を買ったから魚もか」

「貝は密漁になんないか?」

「この辺なら大丈夫だろ。多分」

 多分とか不安だが、まあいいか。

「よし、行くか。だけど普通に食材も買ったんだよな?」

「ああ、だから獲れなきゃ獲れなくていい」

 獲れなくてもいいのなら気が楽だ。

「じゃあ行くか。緒方、お前も銛使うか?」

 玉内が銛を勧めて来るが、使った事が無いので丁重に断った。

「あ、僕も行くよ」

 国枝君とヒロも行くと。手持ちぶたさでブラブラしていた白井をとっ捕まえる。

「お前も来い。暇だろ?」

「俺を狩りに誘うのかよ?この体型見たら得意か不得意か解るだろ?」

「いいじゃねえかよ、暇人なんだろ?」

 木村も強引に引っ張った。白井は最初抵抗していたが、諦めて渋々ながらついて来た。

「この辺でいいか。ちょっと泳げば岩場だ」

 玉内がそう仕切ったら白井がやっぱ嫌だと。

「ちょ、俺水中メガネも持って来なかった。だからやっぱいいや」

「マジか?じゃあどうすっかな……」

 玉内が考え込んでいる隙に強引に銛を渡す。

「おい?」

「水中メガネは木村が二つ持っているからそれ使え。いいだろ木村?」

「おう、忘れた奴の為に予備を持って来たんだからよ」

「俺こんな事した事無いんだけど……」

「じゃあ大雅と松田に混ざるか?あいつら山の方に山菜とか野草探しに行ったぞ」

 此処でヒロもしゃしゃり出る。

「兵藤はナンパしに行ったが、あっちにするか?」

「ナンパなんかしたら彼女に殺されるからやれない」

「「「お前彼女いたの!?」」」」

 全員ビックリして突っ込んだ。国枝君は言葉にこそ出さなかったが、目を剥いていたし。

「なんだその反応?俺にいちゃおかしいのか?」

 いやいやいやいやと高速で首を振る。おかしいとか言ったら絶対に失礼になっちゃう!!

「お、おい、じゃあ、その、写メとか無いのか?」

 玉内がおっかなびっくりそう訊ねた。結構な及び腰で。

「勿論あるけど今はスマホ持って来てないから見せられない」

 当たり前に断られたが、後でならいいと言う事だ。

「じゃあどんな感じなんだ?」

 ヒロも興味津々で訊ねた。

「どんな感じって……まだ中学生だからな。そんなに飛び抜けた特徴は……」

「「「お前中学生と付き合ってんの!?」」」

 流石に吃驚して突っ込んだ。いや、別にいいんだが、何となく。

「今年受験だから猛勉強しているよ、本人曰く」

「本人曰くって事は、猛勉強していないと?」

「アニマックスばっか観ている様な気がする」

 ああ、そりゃ勉強していないな。アニメばっか観ていたんじゃな。

「あ」

 なんか思い出したように手を打った。

「な、なんだ?」

「ATーXも観ていたな」

「どっちにしてもアニメばっかじゃねーかよ」

 絶対に猛勉強なんかしてねーだろ。アニメ三昧のようだしな。

 小一時間ほど海に潜って獲った獲物を岩場で広げた。

「魚7匹に貝類が……結構獲れたな」

 網にゴロンゴロン入っているサザエとかトコブシを見ながらご満悦の木村だった。

「おう、その魚もちっこいのは見逃してやったから、そこそこのデカさだし」

「俺なんだかんだ言ってアイナメ一匹しか獲ってないけど……」

 白井が申し訳なさそうに言うが、いいんだよ。獲れなきゃ獲れなくても。食材がたんまりあるんだから、本当ならこの獲物も必要ないんだから。

「取り敢えず戻ろうぜ。山組も帰ってきているだろうし」

 ヒロの言う通りだ。だからと言ったらなんだが。

「……隆、なんで俺に魚とかが入っている網を伸ばす?」

「これを持って帰ったらお前の株が上がるかと思って」

 株が上がるでピクンと反応したヒロだった。実に解り易い。

「……何で俺の株が上がる?」

「そりゃ、こんなに大量だってのを見せ付けたら、お前が獲ったもんだとみんな思うからだろうが」

「……お前等絶対にみんなで獲ったって言うだろ?」

「少なくとも俺は言わない。木村は?」

「わざわざ言う事でもねえだろそんなモン」

「玉内と白井」

「俺も別に?みんなで食うもんだし」

「俺は一匹しか獲れなかったし」

「国枝君は?」

「わざわざ言う事でもないと思うよ」

「じゃあ俺が持ってやる!!」

 意気揚々と網を持ったヒロ。アホすぎる。向こうの連中だってヒロ一人で全部獲ったとは思わないだろうに。

 戻ったら山組も帰って来ていた。既にシートの上に採った山菜等を広げていた。

「おう、帰ったかお前等」

 出迎えてくれたのは、同じ山組の生駒。

「おう、結構採ったな」

「松田が言うには、夏は山菜が取れない時期だからあんま期待すんなとか言っていたけどな」

 いやいや、沢山だよ、どうやって食うのか解らんけど。

 なので同じ山組の東山に訪ねた。

「おい東山、これはなんだ?」

「さあ……俺は今後の参考のためにと思って着いて行ったから……」

 首を傾げるが、今後の参考とは?

「ああ、俺達はほら、親いないようなもんだし」

 単純に食費軽減狙いか……藤咲さんに限っては親いねーじゃん既に。

「じゃあ大雅、これなんて言うんだ?」

「えっと……松田」

 お前も知らないのかよ。いや、知っている高校生の方が少ないだろうとは思うけど。

「ああ、これはミズって言うんだ。ウワバミソウ、知ってる?」

「解らん。どうやって食うのこれ?」

「茎の薄皮を剥いて茹でておひたしにしたり、根っこの方は生で叩いてご飯に乗せたり。他にもみそ汁の具とか、葉の方は天ぷらにもできるな。この葉っぱに付いている小っちゃい玉みたいなのは浅漬けにしたら最高だぞ」

 ほー。つまり全部使えるって事か。なかなか万能食材じゃねーか。

「なんかニラの匂いがするけど、これ?」

 ニラに似た葉っぱを指差す。

「おう、ノビルってんだ。初夏が旬だけど、まだ食える状態でよかった」

「ニラみたいにして食うの?ニラ饅頭とか、レバニラ炒めとか?」

「まあ、それも可能だけど、この根っこの方だな、丸いとこ。これを味噌に付けて食うんだ。超うまいぞ」

 マジでうまそう。聞いただけだけど。早く食いたい。

「ところでお前等も魚獲ったんだろ?」

「ああ、あれ」

 指差す方向に女子に獲物を見せ付けてご満悦なヒロの姿が。

「大沢一人で獲ったのか?」

「まさか。持って行って貰っただけだ」

「それだけであんなにドヤ顔で胸を張れるのか……」

 張れるんだよ、あいつはそれだけでな。お前が困惑する程度のドヤ顔をするんだよ。

「つうか他の女子達は?」

 俺達の帰りを待っているであろう女子達の数が足りないので聞いてみた。

「うん?ああ。向こうでミス何とかやっているからそっちに行った」

 ミスコンに参加してんの!?うわ見てみたい!!勿論遥香がナンバーワンだろうけどなっ!!

 常にそう思っていないと俺の命がヤバいし。あいつ心を読むから。

 居ない女子は遥香、波崎さん、黒木さん、横井さん、楠木さん、児島さん、鮎川さん。

 魚自慢をしまくられてうんざりしている麻美をとっ捕まえて訊ねた。

「麻美、遥香達ミスコンに参加しているんだって?」

「え?あ、うん。さっき大会委員とかがスカウトしに来てさ。人足りないから出てくれって」

「ふーん、なんでお前は参加しないの?」

 常に可愛いと言っているのだから自信があるのだろうに?

「優勝賞品がメロン3個だから」

 メロン3個?別にいいだろ?つうかこいつ、優勝する気満々なのか……

「せめてハワイ旅行とかじゃないとモチベ上がらないし」

「町内会レベルの大会にどこまで要求するんだお前は……」

「だけど、7人も行ったからメロンゲットして来るでしょ。少なくとも1個は」

「なんで1個?」

「三位がメロン1個で二位が2個、一位が3個なんだって。参加賞もメロン1個だから、一つは確実」

 三位からメロンくれるのか。つうかだったらメロン沢山ゲットして来ると言えよ。表彰台独占するだろうとか言ってやれ。

「応援は赤坂君とトーゴーだけか?」

「うん。応援と言うよりは他のイベでのメロン狙いだけど」

 ミスコン以外にもなんかやってんのか?

「赤坂君はクイズでトーゴー君はビーチフラッグだったかな?」

 ほほう。クイズは自信がないが、ビーチフラッグは面白そうだな。今からでも参加可能だろうか?

 その旨を訊ねた所、行ってみなけりゃ何ともだと言うことで。

「おいヒロ、河内、イベント会場の方に行くぞ」

 二人ともそうだな、と言って立った。

「つうか河内、お前は横井さんに着いて行くもんだと思っていたが、なんで留守番しているんだ?」

「千明さんがお前等が来るまでみんなを守れって言ったから……」

 武闘派が居ないんじゃそうなるか……

 じゃあついでに玉内と木村と生駒も誘おう。

「いいけど、ここの守りはどうする?残った女子達をナンパ野郎の魔の手から守れって事で河内が留守番していた筈だが」

 玉内の疑問である。

「東山も国枝君もいるだろうが。何なら今は大雅も松田もいるんだから」

 しかも仲間内で良識のある奴ばっかなんだから。俺だったら声掛けた瞬間にぶち砕くんだし。

「うん?しかし兵藤はナンパしに行ったんじゃねえのか?」

 木村の弁である。ナンパしに行った仲間がいるのに、ナンパ野郎から守れとはこれ如何に?って感じで。

「ああ、あいつのナンパ成功率は0パーセントで、しかも意外とヘタレだから単独じゃ女子に声掛けられないから。近くで眺めるのが関の山だって幸がそう言ったら……」

 東山の回答に納得と頷く。他のお客に迷惑は掛けられないだろうって事で放置されたんだな。

「まあ、ここは俺等が見とくから行っていいよ。メロンゲットして来てくれ」

 松田のお言葉に甘えよう。あいつ、メロンが目当てみたいだが。

 俺達が拠点にした砂浜よりも更に奥。

 こっちがメインのようで、人混みがパネエ。

「おい玉内、なんであそこにパラソル設置した?こっちの方がいいじゃねえか」

 ヒロが恨み節の様に言う。

「知らねえよ。向こうの指定だ」

「向こうって?」

「『とうどうさん』だよ」

 あいつ等があそこを指定したのか?なんで?

「単純にあっちの方が人が少ないからだ。岩場があるからだろうが、こっちの人数考えりゃ、パラソルとかの場所取りも楽だしな」

 河内の弁である。今回の場所選びは河内がメインで動いていた。その関係であいつ等と連携していたのか。

「ん?って事は、お前この場所知ってんの?」

 今更ながら言うが、ここは他県。隣の県だ。前回遥香のコネで借りたコテージよりも先にある海岸だ。

「こっちには的場さん信者が少しいるからな。連合に属している訳じゃねえけど、まあ、的場さんは顔が広いんだよ」

「そういや的場って他県にまで名を轟かせているんだったな。つうか緒方、前回チンピラぶっ飛ばしたのはここか?」

 木村が訊ねて来るのでイヤイヤと。

「ここよりももっと手前だった。ほら、休憩で寄った道の駅みたいな朝市があっただろ?あのあたり」

「ああ、あそこもコテージ多かったよな。でも、此処よりも賑わっていなかったような」

 確かに。こっちの海岸の方が人がパネエ。ミスコンとかビーチフラッグのイベやっているのも頷ける。

「おい、ビーチフラッグの受け付けやっているぞ。参加するか?」

 生駒が目敏くビーチフラッグの会場を発見した。一応商品などを見てみよう。

「なになに……参加賞としてメロン1個……三位メロン1個、二位メロン2個、優勝メロン3個……」

 優勝すればメロン4個ゲットって事か。ミスコンと変わらないのな。

「よし、俺は参加する。お前等は?」

 生駒と玉内も参加すると手を上げた。

「なんだよヒロ、木村、河内、お前等は参加しねーのかよ?」

「お前等四人全員で表彰台独占してくれ。俺はいいや、折角綾子から逃れられたからゆっくりしてえ」

 酷い言い様だが、束縛系彼女を持つ身としては少しは解放されたいのだろう。

「四人って?」

 生駒の疑問だった。答えたのは河内。

「トーゴーも参加してんだろ。三位は二人出るんだから、お前等全員で表彰台独占って事だよ」

 そうか、言うなれば三位は準決勝だからな。決定戦が無い限りは二人出るって事か。

 つう事は、表彰台独占したとしてメロンが10個手に入る。

 ミスコンも友達全員表彰台独占すれば、10個だ。赤坂君のクイズはどうか解らないが、優勝したとすればメロン4個。

「スゲエ……メロン24個ゲットできるチャンスだ!」

「そんなに都合良く行かないと思うけどな」

 玉内が俺の喜びに水を差す。ホント遊び心がねーよなこいつ。ストイックっつーかさ。

 まあいいや、じゃあ俺達はビーチフラッグにエントリーに行こう。

「じゃあお前等はミスコンの方だな。遥香の応援バッチシ頼むぞ」

「波崎を応援するに決まってんだろ」

「千明さんを応援するに決まっているだろうが」

 ヒロと河内に見事に断られる。

「じゃあ木村、頼んだからな」

「あ?俺はクイズを見に行くから知らねえよミスコンは」

 え?と思ったのは俺だけではないだろう。全員目を丸くしたのだから。

「お前黒木さんの応援しねーの?」

「しねえって言っただろ。クイズに行くってよ」

「な、なんでクイズ?」

 玉内の疑問はみんなの疑問。なので誰も口を挟まず、木村の言葉を待つ。

「向こうは野郎が群がってうるせえだろ。ゆっくりしてえって言ったよな?そう言うこった」

 な、成程、あくまでも自分の時間を優先させたのか。木村に此処まで言わせるとは、黒木さんどんなけ束縛してんだ?振られるから気を付けろって言った筈だけどなぁ……

「お、おうそうか。だけどそれはそれでいいだろ。赤坂の応援も必要だしな」

 ヒロが驚きのままそう言う。

「ああ、そうか、あいつも出るんだったか。仕方ねえ、ツレが出るんなら応援しなくちゃな」

 木村の口から赤坂君が連れだとの言葉が出た事に更に驚いた。お前と赤坂君、真逆もいい所なんだけど!!

 俺のビックリ顔に気付いて溜息を付く。

「お前がダチっつうならそうなるだろうが。何も知らねえとは言え、『こっちの事情』に巻き込んじまった手前もある」

「そ、そりゃそうだけど……事情?」

「お前と東山達、取分け上杉と揉めないように、揉めても最小限に抑える様にと一般人を呼んだんじゃねえかよ」

 やっぱり赤坂君達を誘ったのはそう言う理由か……俺の枷つうか、普通の人を怖がらせないようにと。

「遥香め、そこまで気を回さなくてもやんねーっ言ってんだろうに」

「いや?槙原じゃねえぞ。横井だよ」

 また目を剥いた。横井さんが仕組んだの!?

 此処で河内が口を挟む。

「千明さん、今はだいぶ慣れたからちょっとやそっとじゃ驚かないし怖がる事も無いだろうが、他の人達は違うってよ。お前は女でも普通にぶっ飛ばそうとすんじゃねえか。多分上杉も相当怖がっている筈だって」

 ま、まあそうだが、そんな所構わずぶち砕くなんて真似は……するな。

「俺達が宥めてもいいんだろうが、この先そんな調子じゃ困るだろうから、今の内に一般の人たちの目に慣れて貰うって。だけど、お前関係ねえ奴なら視線も顔色も気にしねえだろ?そう言ったら……」

「……友達の目だったら意識するだろうって事か……」

 此処でヒロも口を挟んだ。

「横井は吉田と蟹江にも声掛けていたぜ。あいつ等普通に金ねえからって断ったけど、要するにお前の凶暴さをどうにかしようと思っていたってこったよ。友達なら心配は当たり前でしょうとか言ってよ」

 そこまで心配してくれていたとは、本当に有り難い。やっぱ俺って友達に恵まれているよなぁ……

「綾子は敵にしか容赦しないからそこまで心配しなくてもいいとか言っていたようだが、逆に言えば敵なら女でも容赦はしねえって事だろ。じゃあやっぱどうにかしなきゃいけねえってよ」

 いや、黒木さんの言う通りだけど、木村の言う通りでもある。やっぱ色々自重しなきゃなぁ……これでもかなぁり我慢している所もあるんだけど……

「へえ?横井さん、大したもんだな。緒方、お前ダチに恵まれてんなぁ。羨ましい限りだ」

 玉内が本気でそう言った。本気だと解ったのは言葉に力があったからだ。

「ホントだよなぁ……横井さんには感謝しかない。河内じゃもったいない器量だよ」

「なんでそこで俺をディスる!?」

 身体事突っ込んできた河内だった。それを華麗にスルーする俺。

「じゃあビーチフラッグで優勝してメロンゲットして横井さんに一番美味そうなのをあげよう。今はこのくらいしか感謝の念を見せられないのが情けないが」

「じゃなくて、今まで以上に自重すればいいだけだろ。横井さんが一番望んでいるのはそれなんだから」

 生駒が呆れてそう言う。だけどいやいやと。

「お前も大概だろ。俺の次に短気じゃないかと思っているくらいだぞ」

「え?俺なんかまだマシだろ?大沢だろ気が短いのは」

「お前もなかなか折れねえじゃねえかよ!隆とどっこいどっこいなんだよ!」

「いや、俺は許せない事は許せないだけだから。お前はいつでも騒いでいるだろ。牧野だって譲ってくれなかったし」

「そこが気が短いって言う事じゃねえのかな……」

 河内の言葉に頷いた。牧野を譲りたくなくて喧嘩したんだもん、馬鹿だよなこいつ等。

 俺だったら狙っているんだったら誰に病院送りにされようが、その病院に深夜お邪魔して入院期間を長くする事に貢献するのに。

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