二年の夏~002

「おうヒロ、麻美が頼んだものを横取りとは、お前ホントにカスだよな」

「一番にやろうとしただけでそこまで言われんのか!?」

 驚くなよ、常識外れなのはお前だから仕方がないだけだ。

「緒方の言う通りだ大沢。ここは公平にじゃんけんだ」

「私が用意してって頼んだんだよ木村君!?」

 麻美が小っちゃい身体を精一杯伸ばして抗議するも、木村に同意だ。

「おし、じゃあジャンケンだ。来い生駒、大雅、ついでにお前等」

「俺達はついで扱いか……」

 零しながらもじゃんけんに集まる『とうどうさん』だった。これは親睦会みたいなもんだから空気を壊す事は許されない。

 ……俺に対するあてつけかそれ?自分で言ってあてつけも何もだが。

 ともあれ、人数が人数なのでじゃんけんも時間が掛かった。スイカ三玉あるのでチャンスは三回あるとはいえ、なるべくなら最初の方がいい。

「……勝った」

 一抜けしたのは春日さん。鼻息をムッフーを荒くして勝利のグーを掲げる。

「ちっ、春日ちゃんに一番取られたか。二番狙うよー」

「甘いな橋本さん、二番はこの私が取る!コスプレファミレス期待の新人の名に賭けて!」

 児島さん、期待の新人とか言われてんの?初めて聞いたけど。まあ。ギャル系とは言え可愛いから言われている様な気もしないではない。

 順番も決まって春日さんに目隠しして指示を出す。

「春日さん、右だー!もうちょい右!って、ヒロ、お前も項垂れていないで指示しろよ」

 ヒロはじゃんけん最下位になってしまって、それでダメージを負って体育座りして項垂れているのだ。

「最後って、ほぼチャンスがねえじゃんよ……俺の華麗なスイカ割り捌きを見せたかったのに……」

「なんだスイカ割りさばきって?本気で頭悪いなお前」

 棒を何回も振るのか?剣客のように?

「項垂れるのも理解できるぜ大沢。俺はケツから2番だからチャンスがほぼねえし」

 外見に似合わずにスイカを割りたかった兵藤。敵の頭かち割っているばっかのイメージだから、意外っちゃー意外だ。

「三玉あるから何とかなるんじゃねーの?知らんけど」

「28人もいるんだぞ。三玉なんかあっという間だ」

 いじけながら言う兵藤だった。マジ意外だ、こいつこんなキャラなのか?

「「「おー!!」」」

 歓声が挙がったのでそっちを見てみると……

「マジか!?春日さんスイカ割った!!」

「「マジで!?」」

 トップバッターが一玉割ったのでさらにチャンスが遠のいた一番後ろとケツから二番。歓声よりもデカい声を上げて驚いていた。

「あんなちっこいのにスイカ割るのか……」

「春日ちゃん、持ってっからな、色々と……」

 なんか二人で春日さんを羨望の眼差しで見ていた。こいつ等これで若干仲良くなったような気がする。

 割ったスイカを俺達に持って来る後ろから3番目の鮎川さん。

「温くなる前に食べよ。これアンタ等の分」

「ありがとう鮎川さん。こいつ連山の兵藤ってんだけど、どう?」

 どう?とは彼氏にどう?って事だ。

「連山って偏差値どのくらい?」

 解らんので兵藤の顔を見た。

「連山工業は、まあ、ケツから数えた方が早い……」

「じゃあ駄目。そもそも遠いから論外」

 最後まで言わせずにいらんと言い切った。この子もブレずに何よりだ。

「……なんか俺の知らねえところで振られたような気がするんだが……」

 その通りだが、敢えて不言だ。傷付く事は避けた方がいいからな。

「だけどマジでどうにかして。みんな彼氏のバイクの後ろで来たじゃんか。私だけ電車とか馬鹿みたいじゃん」

「何言ってんだ。麻美と里中さんもそうだろ」

「まあね。電車の旅もそれはそれで楽しいけどね」

 嘆息して言いやがった。電車の旅が不満だってのが丸解りだ。つうか、そもそもバイクの免許を取っていいのは白浜と西高だけだろ?他の学校は勝手に校則破っているだけだった筈。

「アンタくらいの美人さんなら男なんか簡単にできるだろうに、こんな狂犬に何を期待してんだ?」

 兵藤が俺を親指で差しながら。

「鮎川くらいの美人さんなら男なんか楽勝でできんだろうに、隆みたいな馬鹿に何期待してんだ?」

 ヒロが俺を人差し指で差しながら。

「そりゃ、期待するでしょ。緒方君の友達は国枝君とか生駒君だよ?木村君とかさ。遠いけど松田君とか大雅君とかだしさ」

「え?俺の名前入ってない?」

「大沢君はその髪型と頭の中身が、その……」

 言い難そうに。ヒロは再び項垂れたが、兵藤が大笑いして転がっていた。

 その後、盛り上がりながら進行し、いよいよ俺の番になった。

「お?緒方、9番目か?割るなよな。無様に空振りしろ」

 なんか知らんが河内が茶々を入れて来る。

「お前なん番だ?」

「俺はお前の次」

「じゃあ木端微塵にしてお前の楽しみを奪う事に全力を掛ける!!」

「お前俺の事嫌いだろ!?」

 いや、お前から煽って来たんだから仕方がない事だろ。

「はいダーリン、原子レベルで分解して河内君を泣かせて」

 俺に目隠しのタオルを捲きながら遥香がそう言う。

「お前等マジでヒデェだろ!!」

 泣きそうになっているのだろうが、俺の目は隠れているので、残念ながら河内の顔は見えない。

 なので遠慮なく、躊躇なくぶち砕く。スイカを。

 くるくる回らされて10回。姿勢を正して棒を持つ。

「緒方君、右だ」

「馬鹿、もうちょっと後ろだ!」

「ちげえよ緒方!そこから左下45度の角度8歩くらいだ!」

 むう……全員違う指示を飛ばしてやがる。これ方向もどっちか解らんな……

 ならば、一番信頼している人間に訊ねるが吉!!

「遥香!!どっちだ!?」

「そのまま真っ直ぐー!!」

 遥香の声だ。ならば迷う事は無い。

「うわズルい!!!緒方君遥香に指示を仰いでる!!あれじゃ他の人の指示なんか聞かないよ絶対に!!」

 この声は黒木さんか。君も木村にそうやってやればいいだろ。

「馬鹿隆ー!もうちょっと左ー!」

「違うー!右にちょっと動いて……そう!そこ!!」

 当たり前だが、麻美の指示より遥香の指示だ。

「あの野郎、ブレやがらねえ!!槙原の声だけに反応してやがる!!」

 この声は木村か。これは愛し合っている者同士の圧倒的信頼によって成り立つ。お前等は果たしてどうかな?

「そこだ緒方!!」

「違う!「ギャーギャー!!」もう半「わあああああああああああああ!!」アンタ達煩い!!!」

 遥香の声を掻き消す作戦に出たかよ。どっちが卑怯だこの野郎。

 ならば活路を見出そう。

「大雅あ!!」

「もう半歩前!!」

「裏切るのか大雅!?」

 アホのヒロが裏切るとか言いやがった。と言うことは正しいと言う事だな。

 半歩前に出て様子を窺う。

 右だ左だと指示が飛ぶし、ギャーギャーワーワーうるせーが、これを全部無視すればどうだ?

「答えはここでドンピシャだ!!」

 振りかぶる棒!違うとかもう少しバックとかの指示が飛ぶ。

「「「そこだ!!!」」」

 大雅と生駒、赤坂君の声だ。じゃあやっぱ此処だろ。

 棒を振り下ろす!ぐしゃっと破壊した手応え!

「どうだ!?」

 目隠しを取って確認する。スイカは見事破壊されていた。

「やったねダーリン!!凄い凄い!!」

 遥香が抱き着いて来た。おっぱいが超密着状態になって、思春期には色々ヤバい。

「どおおおおおおおおだ河内!!お前の楽しみは奪ってやったぞ!!」

「マジで性格ワリィなお前!?」

 喧しい。お前が煽らなきゃこんな事にはならなかったんだ。よってすべてお前のせいだ。

「流石ね緒方君。信頼できる人たちの声だけ拾うなんて」

「横井さんも河内にそうしたらいいよ」

「まさか。他の人達のお楽しみを奪う真似なんでできないわよ」

 そう言ってスイカを片付けた。河内なんぞよりも他の人を優先させるとは、天使のようだが、当の彼氏的にはどうなんだろうか。

 当たり前だが、次の河内には全力で妨害した。結果豪快な空振りに終わる。

「緒方この野郎!!前に来てカバディカバディうるせえんだよ!!」

「妨害アリだろ。文句言うな」

「やり過ぎだろうがどう見ても!!」

 そうか?と周りに意見を求める俺。

「カバデイはやり過ぎだろ。河内だからどうでもいいけどよ」

 木村は宜しいと。

「流石にあれはね。河内君だから大らかな心で許してくれると思うだろうけれど、他の人にはやらないほうがいいわね」

 横井さんも河内ならいいと。

「俺にやらなきゃ何でもいい」

 ヒロは自分に被害が無いのならいいと。

 と言うか誰もがやり過ぎだが河内だらかいいんじゃね、と、遠回しながら言った。

「つう訳だからお前に関してだけにしとく、これからカバディは封印するわ」

「なんで全員俺に厳しいんだ……千明さんですらそうだしよ……」

 なんか伏してブツブツ言いだした。それはお前の日頃の行いだから、とは言えない。訳じゃなく、面と向かってそう言った。

 ともあれ、俺が割ったスイカを食いながら成り行きを見る。

 木村も生駒も東山も妨害によって苦しめられて不発に終わってしまった。他の奴等も似たようなモンだった。

「よし!ここで決めるよ~」

 此処で『とうどうさん』リーダー、藤咲さん登場!ボーダー柄のビキニにグレーのボトムズで大人しめの水着だが、両手首のサポーターに目が行く。

 リスカの跡を隠しているんだろうから、そこに目が行くのも情けないが、やっぱり少し目立っている。

「よし、幸、俺の指示だけ聞いてろ。他の連中の言う事なんか信じるな」

「嘘ばっかの颯介の言う事を聞け?悪質な冗談だね」

 東山が四つん這いになってザメザメと泣く。藤咲さんのも冗談だと思うから、そのみっともない恰好はやめた方がいい。一応『とうどうさん』の総括ポジだろ?

「じゃあさっちん、私の言葉に従って」

「さとちゃんもちょっとな~」

 超ビックリした。いつの間にか里中さんと藤咲さんが愛称呼びしていた事に。

「すんごい驚いている顔しているけど、藤咲さんと女子達はもう3回くらい交流があるよ」

 今度は遥香を超ビックリして見た。

「な、なんで?いつの間に?」

「なんでと聞かれたら、自ら人質になりに来たとしか言いようがないなぁ……そんな事しなくても共闘はいいがダーリンの出した結論だから、他の人達も文句はないのにね」

「な、何の人質?」

「『とうどうさん』全員の身の安全の為かな?ダーリンは東山君と白井君以外心を許していないじゃない?向こうにしたらいつ喧嘩になるのか気が気じゃないんだよ。だからそうならないように最初は藤咲さん一人で親睦を深めていた訳だけど、2回目から普通に遊びに来ていたみたいになったよ」

 此処でも共闘相手に気を遣ったのか?流石リーダー、仲間の事を案じている!俺とバトらないようにってのが気になるけども。

「それだけダーリンたちのと共闘は『とうどうさん』には必要だって事。須藤を完璧に倒す為にはね」

 ま、まあ、そうかも……遥香の頼み(友達全員京都の修旅)も実行したし、俺の新しい条件のおさげちゃんに謝罪もちゃんとやったしで、義理も通した訳だから。

「だから本当に完全にこれでお終いにしようよ?『とうどうさん』は友達だって言ってよ」

 寧ろ懇願するように、その表情が切実だった。

 それだけ藤咲さんも必死だったんだろう。遥香に容易に伝わるほどに。自分はどうでもいいが、他の仲間に傷つけさせないように、言ってしまえば媚を売って来たんだ。

 ならばその想いを無碍にはできない。なので俺は立ち上がった。

 藤咲さんは妨害の嘘情報に踊らされて見当違いの方向に向かっている最中。

 俺はここ一番のデカい声を張る。

「藤咲さん!!左脚を広げろ!!」

 しん、と静まった。何を大声でと思ったのか?

 お前等が嘘情報で躍らせるのなら、俺だけでも真実を伝えようって事だよ。

 藤咲さんも戸惑いながらも左脚を広げる。

「右脚を戻してそれを6回くらい繰り返して!!」

 やはり戸惑いながらも指示に従う。

「緒方君、次は!?」

 藤咲さんが指示を仰ぎ出す。『とうどうさん』が驚いて俺を見た。

 俺に指示を乞うのが驚きなんだろう。そんなに深い付き合いじゃないのに、俺が嘘を言っている可能性を全部排除したと、信頼するとの証拠を見たようなものだから。

「左足を軸にして回ってそこでストップ!そこから前に7歩くらい!」

 他の奴等も何も言わずに、成り行きを見ているような感じだ。このスイカ割りの結果で俺達と『とうどうさん』が仲間になれると感じたように。

 そして俺は叫んだ。

「「「「そこだ!!!」」」」

 俺だけじゃない、みんな叫んだ。誰も嘘指示を出さずに。

「えい!!」

 棒を振り下ろす藤咲さん。それは見事にスイカにヒットした。

 したが……


 ぽこん


「うん?」

 俺のうん?はみんなのうん?だろう。今の音、何?って感じの。

「当たった!当たりましたよ!………え?」

 目隠しを外して確認した藤咲さんも言葉を失った。

 スイカにヒットしたが割れちゃいなかったのだ。ヒビすら入っちゃいねー!!

「……藤咲は非力だからな……」

 兵藤が脱力してそう言った。非力ならしょうがないよな、うん……

「ど、ドンマイさっちん、女子の力で割れない事なんてよくあるある」

 里中さんが励ますも、藤咲さんはスイカから目を離さず、無言だった。

「そ、そうそう、私も掠ったけどヒビも入らなかったしね」

 麻美が励ますも、静かに頷くのみ。

「お、俺なんか緒方のカバディで見当違いな方向に叩きつけたし」

 河内のフォローにも静かに相槌を打つのみ。

 どんだけダメージ負ってんの!?スイカ割れなかったくらいで!!

 遥香に引っ張られてパラソルに戻ってくる藤咲さんは、顔色が死人のそれのようになっていた。スイカ割れなかった事にそこまでか……

「まあいいだろ。緒方も認めたって事が解ったんだから。『とうどうさん』は仲間だってさ」

 東山の言葉に微かに頷いたように見えた。見えたってのは、俯いていたから頷いたのかはよく解らんって事だ。

「さ、さあさあ!今度は私の番だよ!みんな、オラに力をくれ!」

 上杉が某悟空の真似をして出て来た。藤咲さんのどんよりをどうにかしようとの空元気だろう。

「お、おう!腹いっぱい妨害しようぜ!なぁトーゴー!」

「え?あ、おう!絶対に割らせるか!」

 玉内が振ってトーゴーが応えた。これで俺がやろうとした役目は実を結んだ。と言っても嫌だ敵だとは俺しかやっていなかったような気もするが。

「おい上杉、あいつ等邪魔する気満々だから、俺の言葉だけ聞いとけ」

 俺がそう発したら目を丸くしたが、それも一瞬、力強く頷く。

「右「ギャーギャー!!」三歩ほど「ワーワーワー!!」反転「ギャー!!ギャー!!ギャー!!」マジうるせええええええ!?」

 こいつら本気で妨害してやがる!!トーゴーも兵藤も白井も東山も!!

「ちょっと緒方!!どっちなのよ!!」

 目隠しでウロウロしながらも指示を仰ぐ上杉。

「だから右「ギャー!!ギャー!!ギャー!!ギャー!!」だからうるせえええええええ!!つか白井、カバディは禁止になっただろ!?」

「誰か前に居るー!?カバディカバディ言ってるー!?」

 多分上杉の番が一番カオスだっただろう。目隠し状態で棒を振り回した結果、カバディを行っている白井の脳天に、それは直撃したのだから。

「おい白井、生きてるか……?」

 とっても気の毒そうにぶっ倒れている白井を屈んで見ている東山だった。

「マジで何やってんだお前は?仲間ぶっ殺そうとか、正気じゃねえな」

「アンタも見ていたでしょ兵藤!?それでも私が悪いの!?」

 とうどうさん連中がギャーギャーやっているのを尻目に遥香が棒を持つ。

「白井君、ちょっと邪魔。もう少し端っこに行って」

「緒方の女だけあって、お前も相当だな……」

 東山が戦慄を以てそう言った。ついでに白井を本当に隅っこに追いやった。転がして。

「じゃあダーリン、指示お願い」

 ウィンクまでかましてお願いしてきた。ヒロと河内が「けっ!」とか言っていたが気にしない。

「おう、俺の声だけ拾えば問題無い」

「よしお前等!!今まで以上に声出せ!!隆の声を掻き消せ!!槙原に絶対に割らせんな!!」

「「「おおおおおお!!!」」」

 ヒロの音頭で全一丸となりやがった。しかも女子も。

 こうなったら絶対に割らせてやる!!最後までスイカが丸いままだと思うなよヒロ!!

 波崎さんに目隠しされて棒を額に当てて回る遥香。おっぱいがブルンブルン揺れ捲ってちょっとムッとした。他の野郎共にアレを見せるのがムカついたのだ。

 しかし、俺の彼女さん、この中で一番胸でっかいな。今Fカップだっけ?何もされていないのに育っちゃうとか嫌味を言われたな確か。

 遥香が目隠しして構えると同時に、俺は素早くスイカ側に移動!

「きたねえぞ緒方!!そこから指示出すつもりか!!」

 河内のヤジはみんなのヤジとなって俺に批判が降り注ぐ。

 しかし、俺は動じない。スイカの後ろで仁王立ちするのみ。だが、ブーイングが途切れた時にこう叫んだ。

「遥香、俺は指示を出さないが、スイカの後ろに居るからな!!」

「なに言ってんだ緒方は?槙原さんは目隠ししているんだぞ?」

 生駒の疑問はみんなの疑問で、全員果てしなく首を捻っていた。しかし遥香は力強く頷いた。

「槙原さんが歩いたぞ!みんな指示を飛ばせ!」

 大雅に促されて右だ左だ真っ直ぐだと指示が飛ぶ。時々ギャーギャー喚く奴も居る。

「え?緒方君さん本当に指示出さないですね?スイカの後ろで立っているだけですよ?」

 おさげちゃんが不思議そうに声を上げるが、更に麻美が声を上げた。

「遥香ちゃん、スイカにまっすぐ向かってる!?なんで!?」

 そう。真っ直ぐは大袈裟だが、ブレながらも確実にスイカに向かっている。

「な、なんで!?どんなトリックを使ったの!?」

 橋本さんも仰天だった。トリックなんか使ってないわ。種ならあるが。

「おい!槙原がスイカの前に立ったぞ!マジでなにやったんだ緒方の野郎!?」

 スイカの後ろに立っただろうが。今更何言ってんだ木村。

 指示は出さんと言ったが、声くらいは出そうか。

「そこだ」

 振りかぶって棒を力任せに振り下ろした。結果スイカは綺麗に真っ二つに割れた。

 目隠しを取って一度首を振って「ふう」と。

「やったな遥香」

「そうだねー。まあ、あれだったらこのくらいは」

 ハイタッチで成功を喜ぶが、他の連中が待て待て待てと。

「ちょ!なんでそんなあっさりしているんだい緒方君?」

 赤坂君が詰め寄って来たので答えよう。

「割れると信じていたからな」

「な、なんで遥香はスイカに真っ直ぐに向ったの!?」

 波崎さんが詰め寄って来たので遥香が答えた。

「スイカに向かったんじゃなく、ダーリンに向かって行ったから」

「だ、だって目隠ししていただろ!?」

 トーゴーが詰め寄って来たので遥香が答えた。

「ダーリンの気配くらい楽勝で解るから」

 ふふんと得意そうに言うが、当たり前に理由はある。

 遥香は無限地獄で、真っ暗で方向の解らない所を、俺が居ないにも拘らず俺を捜してずっと歩き続けてきた。

 直ぐそこに居る俺なんか簡単に見付けられる。

 まあ、これは俺がそう思ったからで、遥香がそう思ったのかは解らないが、見事スイカを割ったのは事実。

 なのできっぱり言い切った。

「「これが愛の力だ!!」」

 俺だけじゃなく遥香も同じセリフを言った。キリッとして。

 ボケッとした我が愛すべき友人達だが、直ぐに我に返る。

「大沢、海の家にスイカ売っていたよな?買って来ようぜ!」

「おう河内、お前もそう思ったか!!」

 二人でダッシュしてスイカを買って来た。ヒロと河内で二玉。

「隆!!早く割れたスイカを片付けろ!!」

 はいはいと遥香と一緒にスイカを寄せると、河内が速攻で買ってきたスイカを置いた。

「河内!!きたねえぞ!!俺が最初だ!!」

「うるせえ!!千明さん、スイカの後ろに居てくれ!!」

 目隠しをしながら横井さんを促す。

「……緒方君と槙原の真似をしようと言うのね……」

 豪快に溜息をついて言われた通りにスイカの後ろに着いた横井さん。割ったスイカをカットしながら遥香が呟いた。

「あれって私だから出来たんだけどね。ダーリンも出来ないよね。だって地獄に堕ちたのは私なんだし」

 遥香も種は見切ったのか。と言うか俺の意図を楽勝で見切ったのか。流石以心伝心のナイスバカップル。やっぱ他の奴には真似できないだろ、これじゃ。

 スイカをカットして配っていると、黒木さんと児島さん、倉敷さんの姿が見えない。

「あれ?どこ行ったんだ?」

 誰に訪ねる訳じゃないがそう訊ねたら、楠木さんが呆れ顔で海の家の方向を指差した。

「……スイカ買いに行ったのか……」

「遥香と緒方君のアレ見せられちゃ、ラブラブを自称しているんならそうなるっしょ」

 そう言われても、あれは遥香だからできた芸当でな。

「楠木さんは買いに行かねーの?」

 同じくラブラブを自称しているのに、行動に出ないとはこれ如何に?

「だって大沢君と河内君で二玉だよ?その上三玉増えるんだよ?全部割れたとしたらそれ片付けなきゃいけないじゃん。私まで混じって無駄にスイカ増やす訳にはいかないよ」

 確かにな。今現在で三玉片付けているのに、この上増えるんだからスイカだけで腹いっぱいになっちゃう。

「あー!!!」

 河内の絶叫でそちらを向くと、横井さんと全く関係ない方向で棒を振り下ろしていた。失敗したからの絶叫か。

「終わったらとっとと退け河内!!波崎、スイカの後ろに着け!!」

「いいけど、このスイカって河内君のじゃないの?」

「俺が買った奴をくれてやっからいいんだよ!!国枝、目隠し頼むぜ!!」

 はいはいと国枝君が目隠しをした。

「よし!!お前等に本当の愛の力を見せてやるぜ!!」

 どこからそんな自信が湧いて出るのか不明だ。波崎さんも眉間を押さえて首を振っているし。

「あー!!!」

 やっぱりヒロも失敗した。波崎さんから遙か後ろの方で棒を振り下ろしたのだ。

「大沢君、とっとと退いて!!吉彦ー!!」

「マジかよ……このスイカ河内んだろ?」

「私が買ったので弁償するからいいの!!鮎川、目隠しお願い!!」

 はいはいと溜息を付きながら目隠しする。そして移動して、はい、空ぶったー。

「明人!!」

「いちいち対抗すんなよ面倒くせえなぁ……」

 言いながらもちゃんとスイカの後に立った。黒木さんも失敗。

「和馬!!」

 はいはいとスイカの後ろの立つ玉内。児島さんは霊感があるからひょっとしてと思ったが、やっぱり失敗した。

「「「「「なんで!?」」」」」

 なんでも何も、普通はそうだろ。見えないのに方向が解るかってんだよ。

「どうでもいいけど、スイカ五玉もあるぞ。どうするんだコレ?」

 トーゴーが当たり前の疑問を呈する。

「四個は夜食えばいい。一個は俺が割るからよ!!」

「違うよ河内君!!私が割るんだから!!明人との仲をこんな事で疑われたくないし!!」

 誰も疑わねーよ。つうか自分からしゃしゃり出て疑われるも何もだろうに。

「なんかみんな必死だね……引くくらい必死だね……」

 そうだよな。鮎川さんが慄くくらいには必死だよな。

「私も彼氏出来たらあんな感じになるのかな……」

 それは何とも言えないが、俺の友達は全員極端だからな……鮎川さんも例に漏れずかもしんないし、そうなるかもだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る