とうどうさん~001

 長い話になるからって事で、放課後にみんなと待ち合わせだ。因みにバイト組も全員休んだ。児島さんは除く。

「それはいいんだけどさ、なんでファミレス?バイト休んだって言ったじゃん」

 バイトを休んでバイト先で話すと言う、訳解らん状況に流石に苦言を呈する楠木さん。

「……大山食堂は却下されたから仕方がない」

 こっちは大山食堂での会議を棄却されて不満な春日さんだった。春日さん的には大山食堂が最強に美味しいお店らしいので、味が普通のファミレスは不満なのだ。

「どうでもいいけど、明人は遅れるって話だから」

 相変わらず木村ありきの黒木さんだった。ブレずに何より。

「河内君も来るそうよ。わざわざ黒潮から来なくてもいいでしょうに」

 やっぱり彼氏を邪険にする横井さん。こっちもブレずに何よりだ。

「波崎は元から休みだからいいけどよ。どうせならおたふくが良かったよな」

 こっちは食い物の希望を述べた。話しだっつってんだろ。食いたきゃ話が終わった後に一人で行け。

「流石に玉内君は来れないけど、大雅君は来るそうだよ。玉内君も来たがっていたけど、仕事があるからしょうがないよね」

 がっかりしている感がある国枝君だった。玉内と大雅は朋美を見たからあの狂人のヤバさを知っている。よって話は聞きたいんだろうが、わざわざ南海からなぁ……

 つうか、大橋さんも来るのかな?麻美は用事があって来れないとか言っていたが。あいつに何の用事があるのか不明だけど。

 児島さんも参加して欲しかったけど、彼女は俺の繰り返しを知らん設定になっているからな。何かと不便だが、しょうがない。つうかいつか話そうと思っていると遥香には言っといたが。

 つうか里中さんも一緒に来ると思っていたが、なぜか単独行動で遅れるとの事。入谷さんが何とかと言っていたから何となく事情は察したが。

 流石にヤマ農の松田も来ない。つまり倉敷さんも来ない。とか思ったら、ファミレスの入り口で立って待っていた。

「やっと来た!!遅い!!」

 そう、ぷりぷり怒りながら。

「ごめんね和美さん。大沢君がおたふくじゃ無きゃ嫌だって愚図ったから」

「なんで俺のせいになってんだ槙原!?」

 罪を着せられて目を剥いて突っ込んだヒロだった。

「つうか倉敷さんまで呼んだのか?」

「うん?お友達全員招待でしょ、この場合」

 当たり前だと返されて逆に困惑するわ。いいのか巻き込んで?つうかもう巻き込んじゃったから此処に居るのか?

「児島さんにもいずれね。もう知っていると思うけど」

 心臓が跳ね上がったかと思ったほどの鼓動。根性で平静を保って訊ねた。

「なんでそう思う?」

「なんとなく。言ったでしょ?欲しい情報が入って来る能力だって」

 それがなんとなくと言うあやふやな感情で完結するのかよ?もっと核心に触れる何かは無かったのか?

 あったら逆に俺が不味い事になるのか。俺だけじゃない、麻美もか。

「だけど折角倉敷さんも来たんなら、やっぱ松田も……いや、いいや」

「うん、松田君本気で忙しいからね。無理はさせられないよ。あの話を聞いているとしてもさ」

 それには同感だ。つうかこんな大所帯、初めてだな。全員俺の友達なんだぜ~。と、ドヤ顔で耽ってみた。

 ともあれ、入店すると、いらっしゃいませといつもの黄色い声じゃ無く、ちょっと硬い声。

「つか小島さんじゃんか。赤いコスか……」

 ギャルっぽい小島さんに実によく似合っている。児島さん、俺の凝視に反応してスカートの裾を下に引っ張った。

「視姦やめろ緒方」

 すんごいガンくれられてそう言われた。

「ヒロの方がガン見しているけど?」

「大沢ホントやめて、気持ち悪い」

「見てねえだろ!?何で俺が悪くなってんだ!?」

 正に本心で突っ込んだヒロだった。こいつは彼女さんが本職(?)だから、見慣れているのもあって他の子は見ないのは納得だ。

「そうか。児島は此処でバイトし始めたんだったな。早速喫煙席を案内して貰おうか」

 此処でいつの間に置か合流した木村が口を挟んだ。つうかお前遅れてすまんくらい言えよ。

「え……?学生を喫煙席に案内すれば叱られる……」

「本気にすんなよ!冗談だからな!」

 木村の冗談に素直に反応した児島さんだったか、逆に意外だと目を剥いた。

「木村君西高でしょ?だったら普通の事なのかなと……」

「さすがにこいつ等を巻き込めねえだろ」

 まあ、それは当たり前の事だ。こいつ一人なら補導されようが知ったこっちゃないが、俺達を巻き込む事は憚れる。

「まあまあ、男子の事はほっといて、席に案内してよ。後から何人か来るから、それに合わせた席お願い」

 遥香がグダグダをリセットするが如く催促した。児島さん、頷いて8人掛けのテーブル席を二つ確保してくれた。これは有り難い。話しもしやすいってもんだ。

 早速席に着いたら楠木さんが勝手にオーダーした。

「ドリンクバー全員分と山盛りフライドポテト4皿」

「はーい。って、楠木さんが勝手に決めちゃっていいの?」

 流石に疑問を呈した児島さん。ヒロがその通りだと言って追加注文しようと身を乗り出した所――

「ここはオゴリでね。折角社割貰ったんだから使わないとさ」

 乗り出した身体を引っ込めた。オゴリだからだ。実に解り易い奴だ。

「いいの楠木さん?社割とは言え全員分のドリンクバーなら結構なお金が掛かるんじゃ?」

 倉敷さんの常識発言。引っ込めたヒロの耳元で聞かせて欲しい台詞だ。

「うん。全然大丈夫だから。倉敷さんも沢山飲んでねー」

「でも、お金が大変でしょう?自分の分くらいは……」

 横井さんは申し訳ないって気持ちが強いようだ。なんか居心地も悪そうだし。

「大丈夫大丈夫。一人100円も取らないからさ。ポテトも半額くらいだし。そんな訳で児島さん、お願いー」

 有無を言わさず押し切った形を取った。このままではグダグダするのが目に見えているからだろう。

「あ、だけどアイス食べたかったら自腹だかんね」

 ヒロを見ながらそう言う。

「なんで俺を見るんだ!?アイス食いたきゃ勝手に注文するわ!!」

 文句を言うが、お前アイス好きだろ。この場でも注文すると思われてんだろ。オゴリだからって。

 ともあれ、これはもう決まった事だからと強引にドリンクバーに向かわされる俺達。有り難いけど、やっぱ申し訳ない気持ちはあるよな。

「折角だ、此処で飯食っていくか?だったら楠木が客連れて来たって事で俺達の罪悪感も薄まらねえか」

 木村の提案である。しかしヒロが首を横に振って拒絶した。

「なんでだい大沢君?別に構わないだろう?」

「いや、さっき槙原がおたふくがどうのと言ったらお好み食いたくなった」

「ホントに食ってばっかだだなお前は」

 しかしおたふくは賛成だ。話しが終わったら行きたい奴誘って行くのもよかろう。俺は行く事が決定したが。

 思い思いの飲み物を持って席に戻ると、遅れて到着した生駒がやっぱ児島さんに何かを話していた。

「おう生駒、わざわざ悪いな」

「いや、須藤の事なら俺も他人事じゃないからな。寧ろ話を聞きたいっつうか。どうせ恨みつらみしかないんだろうけど」

 そう言って席を立つ。

「どこに行くんだ?」

「どこって、ドリンク取りに行くんだよ。美咲が奢るからって。児島さんにそう言付けたみたいだしな」

 そうだった。こいつもドリンクくらいは飲みたいだろうし。

「あ、話が終わったらお好み行かないか?さっきちょっと話が出て、食いたくなってさ」

「おお、うん。いいよ」

 そう言って周りを見て、誰にも聞かれないと確認して言う。

「ここよりうまいんならどこでもいいよ」

「お前、一応彼女が働いているんだから……」

「だ、だってあんまうまくないし……」

 うまくないって事は無いだろ。味は普通なんだよ。何処にでもあるファミレスと一緒なんだよ。時々厨房の方から『チーン』との音が聞こえるのも一緒なんだよ。

 生駒がドリンク取りに行って暫ししたら、遥香が戻って来た。

「生駒君来たんだね。さとちゃんはまだ来ないけど、隣町の河内君と大雅君は仕方がないとして」

「入谷さんの相手で大変なんだろ。今年受験でなかなか会えないんだし」

「入谷さんはそうだろうけど、さとちゃんは気にしないんじゃないかな……」

 相変わらず彼氏を冷遇してんのかよ。受験の年くらい優しくしてやってよ。

 つうか賑やかになって来たな。この人数だからそうだろうけど。

「話し終わったらご飯ここでする?」

 遥香が晩飯の話を振って来たので、俺の中ではすでに決定した事を言う。

「おたふくに行く。さっき生駒も誘ったし」

「ああ、男子はおたふくにするのか。私達は此の儘ファミレスでお喋りする予定ー」

 まあ、ファミレスは安価だし、長居しても文句言わないだろうし、いいだろ。

「つうか意外だな。付いてくるとか此処に居ようとか言うと思ったけど」

「男子の付き合いも大事でしょ?女子もそうだしね。特にさとちゃんなんか男子とご飯は入谷さんいい顔あまりしないから」

 まあ、入谷さんはそうなのかもな。やきもち妬きっつうかなんつうか。

「たまにはダーリンも妬いてくれるといいんだけど」

「誰に対して妬けと言うのだ?お前に絶対的な信頼を寄せていると言うのに?」

「え?あ、うん、そうだね」

 なんか赤くなってはにかんじゃった。何となく一本取った感じで気分がいい。

 ここで河内が合流。キョロキョロと横井さんを発見して一目散に隣に座った。

「待ったか千明さん?」

「別に待っていないけれど、みんなに挨拶くらいしたらどうなの?」

「お前等こんにちは。ところでみんなドリンクなんだけど、俺も注文したいんだけど」

「適当な挨拶はしない方がいいわよ。誰も返してくれないのがその証拠でしょう?ドリンクは楠木さんがご馳走すると言うから」

「そうか、じゃあ取って来るけど、千明さんは何飲む?持って来るよ?」

「お礼くらい言ったらどうなの?私はもう紅茶を戴いているのだけれど、見えないのかしら?」

「ありがとう楠木。紅茶が飲みたいのか、解った、取ってくる」

「だから適当なお礼はしないで頂戴!!もう一度言うけれど、紅茶をもう戴いているの!!このティーカップが見えないの!?」

 相変わらずカオスだなあそこは。生駒が青い顔しているし。

「大盛りフライドポテトお待ちー」

 注文したフライドポテトが目の前に置かれた。どかんと。

「量多くないかこれ……」

「常連さんへのサービスというか、私達のオゴリで嵩増しと言うか」

 持って来た緑レースのコスが笑いながらそう言う。

「え?マジで?私が奢るのに……」

「美咲からお金は貰うよ勿論。だけど増えた分はみんなからのオゴリって事でね。ほら、緒方君や木村君達のおかげでおかしな奴来なくなったし」

 そのおかしな奴の殆どは西高だと思うのだが。そのおかしな奴を躾けるのも木村の役目なのだが。

「お、フライドポテト、あったかい内に食おう」

 手を伸ばした河内だが、その手を横井さんに叩かれた。

「これは楠木さんが御馳走したのよ?」

「ありがとう楠木。じゃあそう言う事で」

 また手を伸ばしたら、また叩かれた。

「だから適当にお礼言わないで!!」

「俺としちゃ普通に礼言っているつもりなんだけど……」

 何がお気に召さないのか解らんと涙目になった河内。流石に可哀想になって話題を変えた。

「か、河内、この話が終わったらお好みいかねーかって話になっているんだけど、来るよな?」

「おう、千明さんも来るんだろ。だったら行くだろ当然」

「え?私は行かないけれど?此処で女子会をする予定なのだし」 

 普通に断られていた。気の毒な程、普通に。

「え?じゃあ俺もこっちに……」

「だから、女子会。知っているでしょう?女子会は男子は入れないのよ」

「だ、だったら緒方と一緒にいるから……」

「なんで俺を巻き込むんだ!?俺はお好み食いに行くんだよ!!」

 女子会に混ざるなんて恐ろしい事ができるか!!俺は平和にお好み食いたいんだよ!!今度こそじゅうじゅう言わせるんだ!!

 つうか結構な時間が経ったのだが、まだ里中さんは来ない。大雅は隣町だから仕方が無いにしても、遅すぎだろ。波崎さんもまだ来てないし。

「遥香、里中さんに連絡した?」

「いや、まだ。万が一揉めていたとしたら、なんかとばっちりが来そうだし」

 ポテトをモグモグしながらそう返した。とばっちりがあるのか。それはちょっと困るなぁ……

「いらっしゃいませ~」

 お?来たか里中さん。

 と、思ったら大雅と橋本さんだった。

「悪い緒方君、ちょっと遅くなっかた?」

「槙原さん、あの時ぶりー」

 申し訳なさそうな大雅とは真逆でテンション高かった。いきなり遥香とハイタッチしているし。

「さゆは世話焼きだから……」

「うん?それが何でハイタッチ?」

「俺も聞いた話だけど、君達が丘陵に行く前に玉内に恋人世話したとか何とか……さゆ、そう言うの好きだから……前の日に3人泊まっただろ?その時からテンションが高くて、まだ戻っていないんだよ」

 ああ、うん。あの時はそうんな感じしなかったけど、テンション高かったんだ?

「ま、まあ、兎に角ドリンク持って来いよ。楠木さんのオゴリだって言うから」

「そうなのか?じゃあお礼を言わないとな」

 今だはしゃいでいる大橋さんを余所に、一緒にはしゃいでいる楠木さんに礼を言う大雅。

 横井さんが河内に大雅君を見習えと結構きつめに言ったのが耳に入った。

 ドリンクを持って来て席に着こうとした大雅を捕まえて言う。

「話終わったらお好みいかねーか?」

「うん?いいけど、じゃあちょっと待って」

 大橋さんに何やらごにゃごにゃと。そして戻って来て言う。

「OKだ。向こうは女子会なる物を催すらしいから、終わった時に迎えに来いって言われたけど」

 ああ、そうだったな。お前ってバイクで来たんだよな?つまり大橋さんを乗せて来たって事だよ。

 つうか面倒臭くないか?後で誰かから話を聞けばいいだけだと思うが……

 俺の表情を読みとったのか、苦笑して言う。

「あの話は俺にとっても重要だからな。だって俺も見たんだし」

「だからってなぁ。俺だったら面倒臭いかなと思う訳でな」

「君だって深夜わざわざ南海に来ただろう?」

「あれだって木村がどうしてもと言うからさ」

「俺の場合は自分の意思だけど、結局君も俺も似たようなものだろう?」

 そうなのか?違うと思うが、わざわざ隣町から来たって事しか類似点がないような気がするが、そう言うのならそうなんだろう。

「本当は玉内も来たがっていたんだけど、俺から後で話を聞く事にして妥協したからな」

「玉内もわざわざ聞きたいのか……」

「だって玉内も見たからな。それに、とうどうさんとやらも」

 そうか……とうどうさんの件は玉内的にも浅くないか。児島さんと付き合う切っ掛けになった訳だし。

 とうどうさんと朋美の繋がりの件で、そりゃ気になる事はあるか。

 そして漸く、漸く里中さん登場。

「ごめんごめん。彼氏が鬱陶しくてさ。あんまり鬱陶しいから別れてやるとか言ったら必死に謝って来て更に鬱陶しくなってさ」

 拝む仕草でとんでもなく酷い事を言っていた。鬱陶しいって!!

「やあやあさとちゃん、待ってたよ、先ずはドリンクで喉を潤して」

 遥香が素早く用意したオレンジジュースを渡す。

「うん?まだ注文していないけど、お金は?」

「美咲ちゃんのオゴリー」

 楠木さん、Vサインでドヤ顔を拵えた。

「おおー!!いいよいいよ美咲!!私は実に良い友を持ったよ!!」

 ご機嫌で一気に呷った。ついでにポテトもひょいぱくと。

「ちょっと行儀が悪いわ。座って食べたらどう?」

 横井さんに窘められて頭を掻いて座った。

「うん?知らない人が三人いる?」

「ああ、こっち、北商の倉敷和美さん。で、こっちは南海の大雅君と大橋紗友莉さん」

 ぺこりとお辞儀した三人に訝しげな顔。

「なんでそんな顔するんだ……」

「いや、緒方君、だって、あの話、ねえ?」

 ああ、そっか、俺の繰り返しの話を知らないとか思ってんのか。最初に話しとくべき事だったな。これは俺が悪かった。配慮もなかった。

「……此処に居ると言う事は知っているという事」

 春日さんが本日三杯目のカルピスソーダを飲みながらそう言った。

「そりゃそうか。そういや、友達が増えたとか言っていたもんね。遥香っちがそう言ったって事はそう言う事か」

「いやいや、勿論まだ知らない人もいるから」

「そうでしょそりゃ。でも、あの話しっておおっぴらにする事じゃないから、後で知っている人リスト頂戴。迂闊に口滑らせる訳にもいかないでしょ」

 里中さんなりに気を遣ってくれているのが凄い伝わった。なんかほろりと来る。

「勘違いして感動しているところ悪いけど、そんな良い話しじゃないから。うっかり巻き込んで死んじゃったら夢見が悪いからって程度の事」

 いや、それでも充分だよ。ついを懸念してくれたって事だろ。

「いやいや、美緒知ってたじゃん。だって年末の騒動の事、話したもん。私が」

 黒木さんがとっくにリークしていたとか!!君はマジで迂闊すぎるぞ!?

「そうだったそうだった!え?でも北商の……倉敷さん?は知らなかったんだよね?」

「うん、知ったのはつい最近で、しかも未だに半信半疑中」

「そりゃそうだよ。私も根っこの部分では否定しているかもしれないもん」

「じゃあなんで信じたの?」

「だって友達から助けてって言われたら信じるしかないでしょ」

 倉敷さん、里中さんが本心を述べたらがっちりと握手を交わした。

「友達に言われたから信じるとか、熱いね!」

「いやいや、まあ、私もなんやかんやでデジャヴが少しあるから、それが後押しした部分もあるよ。逆に倉敷さんはそんな事無いのによく信じる気になったよね?」

「ま、川岸の件でね。なるほどなあ、って部分もあったし」

「ああ、あの最悪勘違い女?」

「そうそう、自分は何してもいいって思い込んでいるアホな女」

 二人和気藹々と話しているが、黒木さんが微妙な表情だ。一応友達だったから複雑なんだろう。

 まあ、そんな黒木さんはほっといて。つうかほっといたのは他ならぬ木村だったが。

「里中。早速メール見せてくんねえか」

「ああ、うん」

 ど真ん中にスマホを滑らせた。一斉にその画面を見ようと身を乗り出した。結果互いに頭をぶつける羽目になった。

「いてえだろ大沢!!なんで俺にヘットバット喰らわすんだ!!」

「こっちの台詞だ河内!!つうか国枝もいてえよ!!」

「……今のは大沢君が悪いでしょ。国枝君のせいにするの?」

「え?あ、うん……た、確かに俺が悪かった。だからそのおっかねえ顔やめてくれねえかな、春日ちゃん……」

 なんかカオスになった。みんなヒロをジト目で非難しているが。春日さんの味方だって事だな。だが、俺は違うぞ。

「そうだヒロ、お前が全部悪い。みんなに謝れ」

 俺は更に踏み込んでヒロの責任にしてしまうからだ。悪役は一人で充分だろ。もっとも、二人必要なら河内にもなって貰うけど。

「それは言い過ぎだよ緒方君。これはだれの責任でもない。里中さん、悪いけど、全員が目に通せるようにできないかな?というかもうやっているんでしょ、実は」

 逆に里中さんを非難の目で見て問う国枝君だった。

「あははは!!ごめんごめん。予想通りの反応だなあって。勿論そうしたよ。コピーだけど」

 全員のスマホが鳴った。メール一斉送信したって事だ。わざわざ悪戯を仕掛けるとは、遅れた理由はこれだろ実は。

 ともあれメールを見る。大雅、大橋さん、倉敷さんのアドレスは知らないので、隣の人のスマホを見せて貰う。


『知ってんだよ?アンタがもう知っているって事』

『なにシカトしてんの、怖いの?アンタ、前もなかなかだったけど、今回もそうなんだよねエ?味方の振りして素知らぬ顔して』

『なんで返事返さないの?ああ、さっきのは冗談よ、ごめんごめん。怖かった?』

『返事頂戴よさとちゃん。今なら許すからさ』

『許すって言ってんだろ?何で返さないの?』

『アンタもとうどうさんに殺されるんだよ?私の指示一つでアンタなんか死んじゃうんだから!庇えるのは私だけなんだから、返事寄越せ!』

 大分端折ったが、こんな感じだった。ほぼ全てのメールが。

「ちゃんと見てないけど、緒方君のメアドが知りたいみたいだね。遥香っちの連絡先も欲しいみたい」

 涼しい顔で脅しメールを見ながらオレンジジュースを呷った。

「脅しって……これどうすんのよ美緒?」

 真っ青になったのは黒木さん。対してやっぱり涼しい顔で。

「どうもこうも。放置するし、実害が少しでもあったら警察に持って行くし」

「じ、実害って?」

「書いてあるでしょ。とうどうさんが私を殺すみたいな事」

 確かに所々そう書いてあったな。私、というよりみんなと書いてあった。言う事聞けば里中さんは除外してやるみたいな書き方だけど。

 後はヒロと生駒は絶対に許さないとか、麻美は絶対に殺すとかの物騒なメールも入っていた。

「ふん。許さないってどうするつもりだ?美咲を薬漬けにしようとした奴を許さないのはこっちの方だ」

「何度来ようが返り討ちにしてやるぜ。つうかマジで俺ん所に出てこねえかな、須藤」

 ヒロも生駒も上等のようだった。逆にぶっ殺してやるって意気込みが伝わる。

「……話には聞いていたけど、須藤って子、ホントにどうしようもない子なんだね」

 逆に呆れたのは倉敷さんだった。まだオカルトを体験していないからこその反応だろうが。

「で、これちょっと引っ掛かるんだが。とうどうさんの件についてだが」

 木村が送られてきたコピペをスライドさせて指差したのは……


『とうどうさんに狙われたら厄介だよ。私だけなんだから、あの子を止められるのは』

 

 あの子……つまり、とうどうさんは女子だって事だよな?

「女、でいいのか、とうどうさんは?」

 大雅の疑問に全員何とも言えない空気を出した。女だったら黒潮に来た上杉って奴もそうだったが、あいつが本体だとはとても思えない。

「黒潮で催眠術みたいなの使ったのは確かに女だったな、緒方」

 河内に振られたので頷いた。しかし、やっぱりあの女がとうどうさんだとは思えない。

「あの上杉って女は違うだろ、トーゴーや兵藤のような駒であり、とうどうさんの一人だろ」

「確かに、あの女が頭だってのは違和感がありまくりだな」

 河内も納得の様子。事実自分でもそう言ったし、間違いはないだろう。

「しかし、やっぱり迂闊だよね、須藤。何かやる度にヒント残しているじゃない」

 馬鹿にしたようにせせら笑う遥香だった。それには里中さんも同調して頷いた。

「出し抜けるとか、自分の思い通りに事が進むとか自惚れ過ぎだよね。要所要所で証拠を残すわ、操った駒も大した奴はいないわで」

 ケラケラ笑う里中さんに複雑な表情を向ける黒木さん。

「だけど、狂気は油断してはいけないわ。事実彼女は人を二人殺しているんですもの」

 油断すんなと窘める横井さん。その通りだとの頷きを何度もかます河内がムカつくが、事実その通りなのが何ともだ。

「……どうしたの、国枝君」

 春日さんの言葉に、全員国枝君を見た。国枝君、肘をテーブルについて頬杖をして真剣に何か考えていた。

「なんか気になる事でもあるのか国枝?」

 ヒロの問いに頷く。

「うん……湖の遺体は複数犯の犯行だと言ったよね?その一人は多分女子だ、しかも僕達の同年代の」

 ざわついた場。国枝君がそう言い切ると言う事は、視えたのか?

「察しの通り、霊視で視えたんだけど、湖に遺体を捨てたのは二人。その一人は女子、もう一人は男子。僕達と同年代。その人達が恐らくとうどうさんの本体だ」

「な、なんでそうなった?」

 遥香の読みとほぼ同じ。背筋が寒くなり、つい訊ねた。

「ヤマ農に行った時に君達がそんな感じで告げられた事と、その件からとうどうさんの噂が出て来た、というか、時系列から言えばそうなると言った方がいいのかな……丘陵のトーゴー君や、連山の兵藤君はその後スカウトしたみたいだ。こっちは霊視に引っ掛かったから解ったんだけど」

「あの、言っておくけど、私はオカルト否定派じゃない。だけど、川岸の件があるからどうしても胡散臭く思えてしまう。だからその言葉には疑いを持っちゃうんだけど、その疑いを払拭する何かを見せて貰えないかな?」

 本気で申し訳なさそうに倉敷さんが言った。まあ、川岸さんの相手をしてきたんだから、気持ちは解る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る