川岸景子~001
気が付けば、閉会式。
遥香の記憶が戻ったの件から、その後の記憶は俺には無い。
クラスメイトが総合優勝取ったとはしゃいでいるのが、辛うじて耳に入っただけだった。
キスで記憶が戻った…いつだったか、遥香が満足すれば、地獄から抜け出せると。禊、懺悔の切っ掛けにはなるだろうと、国枝君とも話した。
その切っ掛けがキス?確かに満足に値する、男女間での上位なイベントだと思うが…
じゃあ…えっと…遥香の誘いに乗れば、完全に無間地獄から助けられるのか?
その可能性もある。それこそ『完璧に物にしたから満足』って事になるだろうから。
「ダーリン帰ろう?さっきの話もちゃんとしたいし」
遥香が袖を引っ張って、思考が掻き消えた。
「ああ、うん。でも、里中さんも来るって言っていなかったか?」
「だから、さとちゃんが帰った後にでもさ」
確かに、一度約束したんだから、いきなりキャンセルとかはできないが。
そう言えば、俺ん家に来る筈の二人の姿が見えない。
「ヒロと生駒は?生駒は兎も角、ヒロはずっと姿が見えなかったけど」
「え?そう言えばそうだよね……どこ行ったんだろ…?」
遥香も辺りを見回して、その姿を捜している。
丁度、ヒロが険しい顔をしながら、こっちに向かっているのが遠目で見えた。
そのヒロが俺の傍まで小走りに寄って来たかと思ったら、腕を掴んだ。
「隆、ちょっと来い。波崎も待っているから」
それに反応したのは遥香。
「波崎が隆君に用事?何の用事なの?」
「槙原、お前もついでに来い」
遥香の質問に答えずに、遥香も促す。
「なんだってんだよ。何かあったのか?」
「…お前がさっき見付けた、俺達を撮っていた女の事だ」
ああ、生駒に張り付いて貰ってどうのってヤツだったか。
「それが何だよ?」
「撮っていた女は北商の女。名前は堀川真理子。撮っていたのはお前の姿だ」
堀川真理子って…波崎さんにふざけた事をした、元友達!?
「ち、ちょっと待って、堀川って、川上中の?私と波崎の同級生の?」
流石に動揺したようで、ヒロに詰め寄る遥香。
「おう。生駒と波崎が逃げられない様に張っている最中だ。だから隆、来い。お前の姿を撮ったんだ。なんか企んでいるかもしれねえし。槙原は隆の女だから、当然非難する権利はあるだろ」
それで俺と遥香に来いと…
「解った、行くよ。遥香も…」
「う、うん…あ、ちょっと待って。くろっきーも連れて行かなきゃ…」
黒木さんは関係ない…あ、北商か…
頷き、連れて来るように促す。その間ヒロと俺は二人きりになった。
こいつの事…いや、波崎さんが付いているんだ。当然多少の尋問は終えただろう。
「なんの目的か聞いたか?」
「北商のダチにお前を撮ってくれって頼まれたらしい。一般の人も観戦できるんだから、隠し撮りには当たらないと突っ張っていたけどな」
「その友達って、川岸さんか?」
「おう。波崎が引っ掛けて、つい口が滑ったって感じだったが、そうらしい」
「じゃあ黒木さんも連れて行くってのは妥当な所か…」
川岸さんと黒木さんは友達で、俺を紹介してくれと何度か頼まれたらしいが、それを断っている筈だ。
なのにこんな真似をしたんじゃ、黒木さんの顔に泥を塗ったようなもんだ。黒木さんと遥香は親友だからな。
親友の彼氏を紹介する訳にはいかないから。だから拒んでいたんだから。
「国枝も呼ぼうか?川岸って女と同じサークルだったんだろ?」
国枝君か…今現在の状況はどうなんだ?
川岸さんと同じサークル仲間で、一応友達カテゴリーに居る筈だが、中学の頃の記憶と、俺の情報でいいカッコしいだって見切った訳だし、やはり縁切りも考えているんだろうか?
ならば、このタイミングは結構な渡りに船だと思うが…
「国枝君に聞いてから決めよう。俺ちょっと探してくる」
「いや、その必要はないようだぜ」
駆けようとした矢先、遥香が黒木さんを連れて来た。国枝君と春日さんも連れて。
「緒方君、遂に川岸さんが動いたんだって?同じサークルに属していたんだ。出来る事があったら協力するよ」
「国枝君、いいのか?彼女とは一応友達なんだろ?」
俺の問いに答えたのは春日さん。
「……国枝君も以前から言っていたから。緒方君に迷惑を掛けるんなら絶縁したいって」
それは…どうなるんだ?共通の交友関係もあるだろう?
「景子には何度も無理だ、無理だって言ったから。それでもこんな真似をするんなら、私にも考えがあるよ」
黒木さんが意外と腹を括っている感があるのに驚いた。なんだかんだ言いながら、庇うと思っていたから。
俺の驚きの表情で読めたのだろう。更に続ける黒木さん。
「景子は確かに霊感があって、御祓いとかできるんだろうけど、私はぶっちゃければお化け嫌だからさ。普通に話する分はいいんだけど、全て自分の霊感ありきで話すから、少しうんざりしていた部分もあるんだよ」
「え?それってどういうこと?」
「例えばテスト勉強の時に、ヤマ張る時あるじゃん?その時景子が此処とここが出るからとか言うのよ。当たったら、私の霊感で当たったとか、恩着せがましい事を言うんだよね。外れた場合はそんな時もあるで終わり。要するに、上手く言ったら自分の手柄で、失敗したら何も無し。その言葉に対する責任なんて全く無い」
大袈裟に肩を竦めてそう言うが、でも君は見事に誘導尋問に引っ掛かって、俺の事を川岸さんにバラしたんだけど。
まあ、それは兎も角、俺達は例の堀川真理子さんの元に向かった。
どうにかして蹴散らさなきゃなぁ…面倒な事になったな…
着いた先は、裏門に位置する、デカい松の木の麓。そこに生駒と波崎さんに見張られている女子。
あれが堀川真理子さん…波崎さんを無能呼ばわりして、遥香に仕返しされた人か…
その堀川さんが俺を見るなり駆け寄ろうとするも、波崎さんに腕を掴まれて止められた。
「どこ行くのよ堀川?」
「勿論緒方君の所に決まってんでしょ!!死んで生き返って…しかも何回も人生やり直しているとか、話聞きたいじゃん!!」
それは期待に満ち溢れた瞳で。
黒木さんに目を向けると、ゆっくりと首を横に振った。言っていないと言う事だ。
じゃあ、何故その事を知っている?
「…君に話す事なんか何もないんだけど?ぶっちゃけ盗撮とか気持ち悪いし」
「それは!!悪かったけど、話は聞かせて貰えるんでしょ!?」
遥香が文句を言おうと身を乗り出したのを、視線で止めて続けた。
「何の話だ?さっき妙な事を言っていたけど、人生やる直しているとか何とか?つうか盗撮だって認めたよな?ハッキリ言うけど、ふざけんな糞女だ」
「だ、だから悪かったって……」
期待に満ち溢れた瞳から一転、脅えが見えて、身を硬直させた。若干震えてもいる。俺の噂を知っているであろう、脅えだった。
「まあいいや、その盗撮データ消して。メモリーカードも壊して。俺の目の前で」
「え?だって他のデータも入っているから……」
苛立ちをアピりながら、ただでさえ鋭い目付きを更に鋭くさせて睨みながら言った。
「聞こえなかったのか?壊せっつったんだけど」
過去に俺の噂を聞きつけて、取り入ろうとした糞女のような対処よりも、全然甘々な口調で言った。
だが、『普通の女子』には充分怖かったようで、泣く泣く(実際泣いていた)メモリーカードをカメラから抜いて俺に渡した。
それを地面に落として、慈悲なく踏みつけて破壊する。
「ほ、ホントに壊した……」
まさか壊す筈がないと思っていたのか?俺は壊せっつたよな?まあ、兎も角、続きだ。
「なんでこんなふざけた真似をしたのか聞きたいんだけど?」
俯いて震える。俺の評判は知っているだろうに、好奇心に負けて、のこのこ出てきた結果がこれだ。
「…堀川、この人私のダーリンなんだけど、私が自分の彼氏を盗撮されて、黙っているとかあり得ない女だって事は、身を持って知っているよね」
びくんと身体を硬直させて、ここで漸く顔を上げた。
「ま、槙原、あの時、悪かったって謝罪したじゃん…」
「波崎の時はね、今はダーリンの件でしょ?ウチのダーリンのケジメ付けなきゃ。そうでしょ?今度は北商で孤立してみる?」
真っ青になった堀川さん。遥香は一体何をやったんだ?めっさ気になるんだけど……
「いいよ面倒くせえ。西高に渡しちまおうぜ。奴等なら程よく嫌がらせしてくれんだろ」
ヒロの脅し。俺はそんなの嫌いなのも、噂等で知っている筈なのに、震えが尋常じゃなくなった。
「ちょっと大沢君、ウチの明人にそんなくだらない事頼まないでよ。渡すんなら黒潮にして」
黒木さんが乗っかって追い込む。この人もいい感じに汚染されてきたなぁ…遥香に。
「あ?いいじゃねえかよ。つうかこの女、中学の時、波崎にふざけた真似しやがった女だろ?本心なら俺自らぶっ叩きたいんだけど、それで勘弁してやるって言ってんだ。自分の女に舐めた真似されてこれで終わらせるんだから、逆に感謝して欲しいもんだぜ」
半分以上本気のヒロだった。波崎さんの被害も既に知っていたのか。まあ、気持ちは解るな。俺だったらぶち砕いていた所だ。
「まあまあ、みんなそれくらいにして。話くらいは聞いてあげようよ。言うでしょ?」
国枝君のフォローに安堵のよう。だけど、それって結局は言うって事なんだけど。
ここまでの追い込みでパニックになって、元に戻った事を忘れているみたいだ。
「も、勿論言うよ。き、北商の同級生に川岸さんって女子がいるんだけど、その人に頼まれたのよ。動画撮って来てくれって」
「それはさっき聞いた。それ以外の事を話せよ」
生駒が凄んだ。堀川さん、再び涙目になって頷く。何度も。
「え、えーっと、その子が言うには、緒方君って何度も死んで、何度も甦って人生やり直しているって。そんなこと聞いた事も無いから、せめて顔見て霊視してみたいって……」
それを聞いた黒木さん。スマホを出して、ピコピコと。
『はい~。くろっきー。例の件考え直しててくれた?』
電話向こうの呑気な声…聞いた事のある声…川岸さんに電話したのか…
「考えるも何も、親友の彼氏だから無理だって言ったでしょ!!そう言ったのに、同じ学校の子に盗撮まで頼んで!!」
『あれ?バレちゃった?いや~。ごめんねくろっきー』
全然悪いと思っていない。軽い謝罪…単なる言葉…
川岸さん、前回は『自分は凄い』ってキャラだったが、今回はその奥底まで晒したか…
『自分さえよければいい』『自分が気持ち良くなれば何でもいい』……
成程、危う過ぎる。前回は麻美に利用されて、その怖さを知ったけど、好奇心猫を殺すって
黒木さんは続けた。この気の無い謝罪に憤慨して。
「本当にふざけんなだ!!私の親友にふざけた真似すんな!!!」
『いやいや、くろっきーさ、親友親友って言うけどさ、所詮女の親友なんて儚いもんだよ?これが切っ掛けで縁が切れても、幻想が消えて良かったね、って私は思うよ?』
それを決めるのは川岸さんじゃなく、黒木さんだろ……
「じゃあこれが切っ掛けで、私と縁が切れても良かった良かった、って事!?」
『いやいや、くろっきーと私は友達だから。こんな程度で縁が切れるとかあり得ないでしょ』
自分は良くて他は駄目……こんなに嫌な奴だったのか川岸さんは…?
最後の繰り返しの時、凄い世話になったし、確かに善意は感じたのに…
「……川岸さんって、前から確かにこんな感じだったけど、一層ひどくなった様な気がするな…」
「どういう事だ国枝?」
ヒロの問いに頷いて応える国枝君。
「彼女は自分が気持ち良くなる為に善意の押し売りをするんだけど、こんなあからさまに『見下している』事は無かった筈なんだ」
成程…善意の押し売り、見下している。国枝君は俺よりも付き合いが長いから、実に的確に川岸さんの性格を掴んでいるんだな…
「……堀川、アンタ、その子と友達なんだよね?こんな身勝手な子と、よく友達に成れたね?ああ、アンタも身勝手だから丁度いいのか」
波崎さんの嫌味に反応せずに、俯いている儘。
尤も、こっちは俺達に囲まれているから怖いって事なんだろうが。
しかし、妙だな…何つうか、余裕があるっつうか…
企みがバレても全然焦っていないような…
まるで、別口にまだ自分の好奇心を満たす何かがあるから、特に問題にしていないような…
『だから、そんな話はいいからさ、緒方君と話させてよ?友達なんでしょ?緒方君と。そして私はくろっきーの友達なんだから、友達繋がりでお喋りするのは当たり前の事だと思うんだよね』
「そんな事って…!!親友の彼氏だっつってんでしょ!!親友が嫌がる事をなんでしなきゃいけないのよ!!それこそ当たり前でしょうが!!」
『まだ親友とかいってんの?それは単なる気の迷いだから』
黒木さんが今まで見た事が無い形相に変わった。
「……解った。友達繋がりと言うのなら、友達じゃなくなれば繋がりも無くなるって事だよね」
『うん。その緒方君の彼女と友達をやめれば……』
「私が友達をやめるのはアンタだ!!これで繋がりも切れたよね!!永久にバイバイ!!!」
『ちょ。何マジになって』
最後まで言わせずに、通話を終えた。そしてスマホをピコピコと。
「…景子の連絡先を消した。着信拒否にもした。だから、景子の言う通り、友達繋がりでお喋りする事は無くなったから、安心して緒方君」
怒りの表情に見え隠れする、痛い表情を隠しもせずに。
俺の為に、友達の縁を切らせたか…なんか居た堪れないな…
「……堀川、見ての通り、アンタの友達とは縁が切れたから、アンタが此処に居る理由も無くなった。早々に消えて。報復はいずれするけどね」
遥香がやはり凄い形相で堀川さんに言う。
「報復って…また中学の時みたいにするつもりなの!?」
「早々に消えて、って言った筈だけど?」
縋ろうとする堀川さんに、完全拒絶の意志を示した。堀川さんは青くなりながらも、おっかなびっくり、後ずさりながら、学校から出て行った……
……兎も角帰ろう。つうか、体育祭が終わった感が全くしないが…
「……緒方君、今日私もお邪魔していいかな?なんか一人になりたくなくて…」
黒木さんの申し出に頷く。あんな事があったんだから、寂しい思いをしたくないんだろう。
「…さとちゃん捜してくる。先に行っててダーリン」
遥香も何か元気がなくなり、里中さんを捜しに出向いた。
「……じゃあ、私バイトだから。大沢君、またね」
「おう」
波崎さんもしょんぼりしているし。絶交の場面なんかライブで見ちゃったから。しかも原因の一つが元同級生だってんだから、尚更か。
「……緒方君、私もお邪魔していい?」
まさかの春日さんの申し出に吃驚。国枝君ですら。まさか、そう言い出すとは思わなかったんだろう。
「……本当はちゃんと固まってから言おうと思っていたんだけど…なんか嫌な予感がするから…先走り感があるけど、話があるの」
「う、うん…じゃあ国枝君も来る?」
「う、うん…お邪魔させて貰うよ…」
国枝君も妙な迫力を感じたようで、頷いた。
ともあれ、大勢で俺ん家を目指す。何かどんより感に支配されながら……
家に着くと、やはりお袋が歓喜した。
「!!隆にこんなにお友達が!!!」
「いいからこれ。遥香の手作りの残りだ。晩飯に食うから、友達には温かいモン提供してくれ」
そう言って遥香のバスケットを渡す。
「遥香ちゃんの手作り!?お父さん喜ぶわー!!さあさあみんな上がって!!コーヒーでいいかしら?」
お袋の謎のテンションに思わず頷く生駒。何度か来ている国枝君達はいたって平然だが。
つうか生駒の俺ん家はこれで二度目だっけ。あの時は夜に集まったから、晩飯は外で食って来たんだったっけ。
「いいから上がれよ生駒。コーヒー出るから」
「う、うん…」
戸惑いながらも上がる。気にすんな、友達連れてくればあんな感じなんだから。毎回。
ともあれ部屋に着くなり、全員が脱力した。
そして黒木さんがしょんぼりしながら言う。
「景子…確かに自分勝手な所があったけど、あそこまで酷くなっていたなんて…」
それは俺もそう思った。川岸さんは確かにアレだったが、あそこまで身勝手じゃ無かった。
自分が気持ち良くなる為だとは言え、そこには確かに善意があった。
今回の川岸さんはそれが無い。尤も、あれが本性だろうが、もうちょっと隠す筈。あんなに無茶苦茶に自分の事だけをごり押しする様な人じゃ無かった。
「その、川岸って女、お前が繰り返している事をどうして知ったんだ?そして、それを本当に信じているのか?」
生駒の疑問。それは俺も思った。
「黒木さん、確認なんだけど、俺が繰り返している事は言っていないんだよな?」
頷いて肯定。そして続ける。
「確かに先走ってゲロっちゃったのは否めないけど、一回死んで生き返ったってしか言ってない」
ならば、何処から知った?
「生駒の疑問は同感だ。何処からかその情報を引っ張ったとして、それを信じるか?生駒は信じちゃいないんだろ?」
ヒロの問いに神妙な面持ちで答える生駒。
「美咲の件もあるから信じちゃいないって事は無いんだけど、確かに話しとしては、よくできているとは思う。大沢だって全部信じちゃいないんだろ?」
「全部は流石にな…だが、大筋は信用している。隆が嘘を言って得をする事でもないし」
ヒロでさえ全部は信じていない話。それをなんで信じた?
「川岸さんは確かに霊感があるけど、そこまで視られないと思う。だから、誰かから聞いたのは間違いないと思うんだけど……」
国枝君も不思議に思っている。だが、春日さんは意外と平然として輪に加わっていた。
「……そう言えば春日さん、何か話があった筈だよな?」
「……うん。だけど、遥香ちゃんが来た時に言うから。それまでちょっと待って」
春日さんは何か掴んだのか?気になるが、確かに遥香がいた方がいいだろう。俺達だけなら、疑問のぶつけ合いにしかなりそうもない。
それから程なく、遥香が里中さんを連れて家に来た。それはいい、最初からその約束だったから。
問題は、何故麻美も連れて来たかだ。勿論わざわざ呼んだからだろうが。
「え?何この雰囲気?」
里中さんが珍しく狼狽える程の雰囲気だった。
「遥香ちゃんから呼ばれてきたんだけど、何なのコレ?」
麻美もビックリ、どんよりした空気だった。
「隆君、ごめん、麻美さんも呼んじゃった」
「うん。それはいいんだけど……?」
続く言葉を失った。遥香が正座して、里中さんの方を向いたのだから。
そしてそのまま頭を下げる。超ビックリで、超困惑の里中さん。勿論疑問を呈した。
「なになになになに?遥香っち、いきなり何!?」
超及び腰で。実際後退ったし。
遥香はそのままの姿勢で、つまり頭を下げながら言う。
「さとちゃん…里中さん。これから言う事は真実です。間違っても他に漏らさないでください。そして、私の味方でいてください………」
里中さんに言うのか!?繰り返しの事を!?
ヒロにも頼んだが、里中さんには言わないつもりだったのに!?確かに繰り返し中の友達の一人だけど、今回は朋美がいないんだから!!
流石に止めようと身を乗り出したが、それを麻美と黒木さんが止めた。
「なんでだ?」
言わない方がいいだろ?朋美が居ないんだから、普通の友達でいいだろ?
入谷さんが何かしら協力してくれると申し出てくれた事だけでも充分有り難いのに?これ以上里中さんに何を求める?
「美緒ちゃんも何かしら絡みがあると思う」
麻美の弁に真っ青になる俺。
追記の如く、黒木さんが囁くように言った。
「多分、須藤が何かしらで接触していると思うんだ。どこかのSNSとかで」
黒木さんもそう思うのか!?
「……何となくの勘だけど、私もそう思うよ」
春日さんもか…前回朋美をぶち殺す有力候補に挙がったからそう思うのか?いや、黒木さんもそう思っているんだから…
ヒロと国枝君に目を向けると、やはり無言で頷いた。俺を除いた全員が、いや、生駒も除くが、そう思っているのか……
里中さんはやはり戸惑っているようで、仕切りに視線をあちこちに泳がせている。
誰かにこの状況を止めて欲しいって事なんだろうが……
だが、そんな事情なら、遥香が助けて欲しいとお願いするのなら…
俺は立ち上がり、里中さんの前に向かう。
里中さんから安堵の空気が発したが、期待には全くそぐわない事をこれからやろうとしているんだ。申し訳ない気持ちになる。
「緒方君、良かった、遥香っちを止めてよ。何を頼みたいか知らないけどさ、出来る事は勿論協力ええええええ!?」
遥香の横で同じように正座した俺に、ビックリの様子。
だが、俺はその後の里中さんの顔を見る事は叶わなかった。
俺は土下座したのだ。里中さんに。よって顔を見る事が出来ない。
「お、おい緒方……」
生駒の困惑声が聞こえた。やっぱりそう思うよな。
「里中さん、今から話す事は本当にあった事だ。それを聞いて、遥香を、俺を助けてくれ」
「助けろって言われても………」
ボスンと音がしたと思ったら、低い視線に里中さんの膝。
「……先ずはその話を聞かせてよ?ちゃんと聞くから、ちゃんと顔を上げて話して」
真摯に話を聞こうと、正座の姿勢に移行したのか。
ならば、俺と遥香は顔を上げなければいけない。
話を聞いてくれると言うんだ。ちゃんと顔も見て話さないと失礼だから。
肘で遥香を突いて顔を上げさせる。
遥香が顔を上げたタイミングで、俺はあの繰り返しの事を話した。
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