体育祭後~001
遥香があの事を言おうとしたのを押し留めて、俺が話した。
最初は自分が、と思ったであろう遥香だが、俺に任せた方が真実味がある。よって邪魔はしなかった。
淡々と、感情を交えずに話す俺に食い入る里中さん。
他の人達もちゃんと真面目に話しは聞いてくれたが、里中さんのように食い入って話は聞かなかった。
何か感じる所があるのだろうか?ともあれ、話し終った俺は、最後にこう締めくくった。
「……これが俺が体験した、繰り返しの話だ。此処にいる人達は信じてくれた。生駒はやっぱりあまり信じちゃくれなかったようだが、それでも俺を信用はしてくれた」
「……成程ね……信じる、信じない以前に面白い話しではあるね」
お話として面白かったのか。だから食い入るように聞いていたのか…
若干の肩透し感があるが、それでも俺は訊ねなければならない。
「信じられないだろうけど、信じてくれとしか言えないが、どうだ?」
「……信じられないけど、協力しろって言うのなら勿論協力はする。それで緒方君と遥香っちが助かると言うんなら、協力は間違いなくするよ」
ニカッと笑って胸を叩いた。頼もしさアピールなのか?
「ありがとうさとちゃん…本当にありがとう…」
またまた深々と頭を下げようとした遥香を止めた里中さん。
「いいって。だけど、何を協力するのか皆目見当がつかないんだけど、その点は遥香っちが指示してくれるのかな?」
頷いて、今度は全員の方を向く遥香。
そして怖いくらいに真剣な顔になって言った。
「実はさっき記憶が戻ってね。その記憶の事をみんなに話そうと思うの」
流石にざわめいた場。つうかキスで戻ったって言わなくて本当に良かったぜ…
「成程ね、それで私にも繰り返し?の事を言う事にしたんだ」
妙に納得したような里中さん。遥香の記憶が戻った事と、里中さんを巻き込もうと思った事に、何かがあるのか?
ともあれ、今度は遥香の記憶の番だ。だが、その話は全員が青ざめた。
遥香はあの繰り返し中、楠木さんと春日さんをどうやって出し抜くかしか考えていなかった。
麻美を一番の敵として、どうやって麻美に勝とうかとしか考えていなかった。
朋美は勝手に死ぬから放置しても良かったが、俺が困っていたから、どうにかしてやれば自分の物になるだろうと思って協力していた等々…
当時の俺からしたら、善意しか感じなかった行動の裏で、そんな事を考えていたんだと。
流石に俺もちょっと引いたが、それは大体解っていた事だ。自分からそう白状した事もあるのだから。
「遥香、緒方君の話にも出ていたけど、本人から聞いたら凄みが増すね…」
慄く黒木さん。春日さんに至っては平然としていたが。こっちの胆の据わり具合もパネエな……国枝君大丈夫か?
「こんな私でしたが、これからもお友達で居てください。お願いします……」
土下座に移行しようとした遥香を全員が止める。
「大体隆から聞いていただろ?今更だ」
ヒロの弁に全員が頷いた。やっぱり生駒は除くけど。何処となく居心地が悪そうだな。
「馬鹿な隆の面倒を見てくれるだけでも充分有り難いよ。逆に正直に言ってくれたから、信頼度もグンと上がったよ」
やっぱり酷い麻美さんだったが、その弁にも全員頷いた。つう事は、俺って全員に馬鹿だと思われていたって事になるんだけど…
しかし、やはり生駒は慄いたようで。
「お前の彼女…とんでもないな…」
ハッキリ言ってもいいのに。狂っていると。
俺も狂っているからこそのナイスカップルなんだし。
「まあ、遥香はそんなとこがあるからね。でも、自分の為でも、私達の為になった事もあるんでしょ?緒方君?」
黒木さんの質問に頷いて肯定した。自分の為で行動したのは間違いないが、結果的に友達を助けた事もしばしばだ。
だが、それは結果的に全員がそう思っていたようで。証拠が最後の繰り返しの修旅の時だ。
あの時は俺も疑ったが、全員が疑った。やりかねないと。全員が友達だったが、深く心を許していなかった訳だ。
「遥香っちの考え方は解ったよ。素直に黒い部分も晒してくれたし、私も頑張るからさ、なんでもいいから言って」
男前だ里中さん。親指を突きだしてニカリと笑った所が。
「うん。じゃあ早速甘えさせてもらうけど、さとちゃん、多分須藤と連絡取っているんだよ」
「え?だって私、須藤さんって知らないけど?さっきの話じゃ、えっと、繰り返し中?には友達だったらしいけど、自分自身は全く面識も無いし」
頷く遥香。その通りだと。でも、と続ける。
「私は記憶を持った。須藤も多分記憶を持っている。よってさとちゃんが遊んでいるSNSも把握していると思う。確認だけど、今遊んでいるのは、アレとコレ、ソレだよね?」
「……凄いね…その通りだよ…緒方君の話、本当なのかも……」
慄いた里中さんだが、本当の話だって言っただろ。信じないとは思ったけどさ。
だが、記憶を持った遥香は本気で頼もしい。里中さんが遊んでいたSNSまで覚えていたとは凄すぎる!!
「で、須藤が遊んでいたのは、アレとコレ。だけど、コレは地域コミュで春日ちゃんの噂を広めた時に使っていたやつで、そんなにログインはしていなかった。よってアレ一択になる。さとちゃん、そのサイト開いてくれる?」
戸惑いながらもログインしてマイぺを見せた。
遥香はそのフレンド一覧をざっと見て、指を差した。
「こいつ、こいつが須藤。馬鹿だねホント。前回と同じハンドルネームじゃない」
邪に笑っているし…勝利を確信したように!!
だが、つまり、こういう事だ。
「……やっぱり彼女も記憶持ちって事になるよね」
春日さんの弁に全員が目を剥いた。
「その通り。木村君の仮説、と言うよりも、当事者の『なんとなく』が一致したって事でもある」
……それは春日さんに向けた言葉じゃないな。麻美に向けた言葉だ。
みんながそう思ったなんだから、アンタも記憶持ちだと暗に詰め寄っている……
ともあれ、そんな事を知らない里中さん。そのページを凝視して呟いた。
「………爽やかポニーが緒方君達の敵か…」
爽やかポニー!?誰が爽やかだ!!インケンもいいとこだろが!!
「爽やかポニーだ!?よくもまあ、そんなふざけたハンネ付けられたな!!」
吃驚して怒ったように声を張ったヒロ。俺もそう思ったんだから当然だ。
「で、この爽やかポニーとの友好度はどのくらい?」
遥香が真顔で質問するが、普通に朋美でいいだろ!!ムカつくやら面白いやらで胸中複雑過ぎるんだけど!!
「普通かな?近況報告する程度。アドレスも知らないし、ラインもしていないから」
あくまでもサイトを通しての繋がりだと。
「だけど近況報告はしていると?」
「うん。聞いて来た事に答える程度だけどね。勿論私からも質問しているよ。差し障りの無い、何処住みとか、何歳とか、そういうの」
聞いて来た事…その中に、俺の情報も含まれているのか…?
生唾を飲んで、続く言葉を待った。
「よく聞かれたのは、学校でカッコイイ人いるかって質問。向こうも女子だから、そんな話題が好きなんだろうなぁって程度しか思わなかったけど、成程ねぇ、って感じ?」
俺を見て含み笑いを浮かべた。
「隆君の事を言ったのね?」
身を乗り出して訊ねた遥香。頷いて、思い直したようにいやいやと首を振った。
「緒方君の事だけじゃないよ。国枝君の事とか、三浦の事とか」
三浦君って、二年の時同じクラスだったよな?Eクラスで一番イケメンだって言い張っていた人だ。
確かにイケメンだとは思うけど、朋美情報には必要なかっただろうに、なんか可哀想。
「里中、それには俺は入っていないのか?」
何故かヒロが気にして訊ねて来た。解かりやすい程バカだよな。
「大沢の事は微塵たりとも話していないから安心して」
「隆と国枝の名前は出たのに、俺が入っていないのはおかしいだろ!!」
いやいや、国枝君はイケメンだからいいんだよ。お前はアホだろ。だから名前が挙がらないんだ。
その前に、ちょっと待て。
「俺の名前が挙がった?」
里中さんからの返事の前に、遥香が口を挟んだ。
「隆君の名前が出なかったら、次は『学校で一番強い人』とか、『格闘技を習っている人』と言う具合に質問を変えて来ていただろうね。あくまでも『緒方隆』の近況を知りたいんだから」
頷いて続く里中さん。
「そのカッコイイ人を10人くらい挙げたんだけどさ、質問を繰り返してきたのは緒方君だけ。と言っても、違うクラスだからよく解らないって言っておいた。理由は面倒くさいから詳しく話したくなかった」
物凄い里中さんらしい理由だった。朋美云々と言うよりも、よく知らない奴に話す必要を感じなかったって事だ。
「それでも食い下がって来てさ、他の男子の事を詳しく知ると彼氏が鬱陶しくなるからって言ったら、引っ込んだよ。緒方君の話が本当なら、彼氏の事も知っている筈だから、信ぴょう性があったんだろうね」
入谷さんってそんなに嫉妬深いのか?そんな感じには見えなかったけど…
「だけど、チラチラと聞いてくると?話のネタ程度に?」
「そうだね。遥香っちと付き合っているとか言っていないから安心して」
本気で深く関わる気が無いって事なんだろうな。その程度の情報も話さないって事は。
「まあでも、爽やかポニー情報なら、少しは持っているから聞いてよ。そうは言っても、向こうが話して来た事だけしか知らないけどさ」
やっぱりそのハンドルネーム、ムカつくな。クサレポニーに変えろよ糞が。
「ありがとさとちゃん。じゃあ、爽やかポニーと友達な人で、白浜近辺の人いる?」
「それは聞いた事も話した事も無いな。いつか聞いてみようか?」
里中さんが頼もしくも情報収集を買って出てくれたその時、春日さんが勢いよく挙手した。
その行動に面食らいながらも、遥香が促す。
「な、なに春日ちゃん?」
コックリ頷いて訊ねる春日さん。
「……内湾女子の方、どこまで調べられたの?
「内湾?伝手を探している最中だけど…」
流石の遥香も伝手なしの状態は厳しい様で、先ずはその伝手を探す事から始めているらしい。
木村が伝手に為に南海に知り合いを作っている最中のように。
「……私の元同級生に、内湾女子に通っている子がいるんだけど」
そう言ってスマホを滑らせる。
「……この子。幸いにも、アドレスが残っていた、数少ない子なんだけど」
「春日ちゃんの友達?」
不審な目を向けながら訊ねた。なんでそんな目をする?
「……遥香ちゃんの記憶が戻ったのなら、もう知っている筈だよね。昔の知り合いの連絡先は全て絶った事を」
そうだったの!?全部捨てて白浜に来たのか!?
「春日ちゃん、白浜から遠い所に住んでいるでしょ?気になって聞いた事があったからから。そしたら…」
そこで生駒の方を向いて、口ごもる。
流石に性的虐待の事をおおっぴらに話せないとの思いで留まったのだろう。
しかし、そうなると、里中さんには話したのか?少し気まずそうに俯いているだけだし…
詮索は絶対にできないけど。
「春日さんは万が一にも知り合いに会わないように、遠い所にアパートを『借りられた』んだ。だから、それは彼女の意志じゃないと言うか…」
国枝君の擁護。『借りられた』って事は、お母さんにか?実際家賃払っているのはお母さんなんだから、そうなんだろう。
「……その通りで、連絡する気は無かったんだけど、前持っていた携帯にはまだアドレスが残っているから」
そこから追った訳か。自分自身の噂を訊ねる為に…
「だけど、誰が噂を流したかなんて、解らない、もしくは知らない振りをする。だからちゃんとした情報は入って来ない?」
頷いて肯定。
「……それには私も期待していなかった。だけど、別の話も聞けたんだよ」
希望の情報は濁されたが、他に気になる事が聞けた?
「……去年新潟の方から転校してきた人が、内湾に居る」
里中さん以外、立ち上がった。等の里中さんはキョドって俺達を見たが、気にしている余裕は無かった。
「……その子のお父さんはファミレスの店長さん。去年新しくできたファミレスの店長として転勤になったらしいの」
唐突に阿部の言葉が脳を過った。
須藤建設にパチンコ屋。あとレストランもあったか?須藤組は確かに解体したが、未だに須藤の親父の財源だ―――
レストラン…ファミリーレストラン…まさか、そのファミレスとは…
俺が聞きたかった事を口に出した遥香。
「そのファミレスって、『双月』?」
頷いて肯定。そうだったか……!!
「緒方、双月って、東白浜にある和風ファミレスか?」
生駒がおっかなびっくり訪ねて来るので、それに答える俺。
「そうだ。双月はそんなに店舗は無いが、一応全国チェーンのファミレスだ」
有名ファミレスには全然及ばないし、白浜には東白浜店しかない。だが、閉店した店舗は無いと言う、結構な繁盛店だ。
「……その子の名前は真澄…須藤真澄」
須藤!!
その苗字で、俺達全員が固まった。里中さんでさえも。
ついさっきまで、その苗字が頻繁に出ていたんだ。そうなるのは必須…!!
「……だけど、解っているのはそこまで。本当はもっと固まってから言いたかったんだけど、凄い嫌な予感がするから…」
そう言って俯く。その嫌な予感は俺も気になる所だが、春日さんの気持ちも解る。
やはり朋美も記憶持ちなのだと、俺達に確信させる程の情報なのだから…!!
「…そうは言っても『まだ解らない』が正解だな。双月と苗字でほぼ確定とは思うが」
ヒロの言葉に無言で頷く。『まだ解らない』が正解だ。そいつが噂を広めたのかも解らないし、そいつが東工にちょっと現れた女なのかも解らない。
「だけど、河内君には話した方がいいよね?明人にも言っておいた方がいいと思う」
黒木さんの言う通り、そう思うが…どうする?電話で話するか?
「…みんなで一回会って、情報を纏めた方がいいんじゃない?ちょっとゴチャゴチャして来たからさ」
麻美の意見にも賛成だ。ならば…と、時計を見ると、6時ちょい過ぎ。
俺達は体育祭の代休で明日休みだが、木村と河内は違う。普通に学校がある。
そんな状況なのに、呼ぶか?木村は兎も角、河内は隣町……
丁度その時、下からお袋が飯食いに来いと。全員来いと。
「……兎も角、一旦忘れよう。流石に暗い雰囲気の儘飯食えない」
「そうだね。おじさん、おばさんに余計な心配を掛けちゃうかもね。ご飯のときは、みんな和気藹々としよう」
遥香の提案に全員頷き、下に降りる。
晩飯はみんな大好き、カレーライスだった。それに目玉焼きとソーセージのトッピング。付け合せのサラダにスープと、実にありふれた夕飯だった。
そして遥香のサンドイッチは、当然のように親父の目の前にあった。つか、その中にラーメンバーガーとファミレスのハンバーガーも入っているから、遥香のだけって訳でもないが。
「親父、サンドイッチ量多いだろ?俺も食うから寄越せ」
「なにを言っているんだ!!遥香ちゃんの手作りだぞ!!これはこの父が責任を以て全部戴く!!残ったら明日の朝食にするのだ!!」
のだ!!って、明日まで取っておいたら不味くなるだろうに。つか、遥香のだけじゃねーんだが、ここは言わない方が幸せなのかもなぁ…
「えー?おじさん、明日まで残っていたら美味しくなくなるじゃないですか?それって結局残り物なので、私と隆君で食べますよー」
「いやいや、これは父さんが戴く!!」
頑として譲らねーのな。親父がいいんならいいけど。
「それもそうだけど、新しい友達が来たから。生駒と里中さんだ」
紹介すると、ぺこりをお辞儀する二人。
「隆も社交的になったなぁ…中学の時は麻美ちゃんと博仁君だけだったのに…」
感動している親父はどうでも良いので、早速飯にありつこう。
「生駒君。里中さんも、お腹いっぱい食べてねー。母さんも遥香ちゃんのサンドイッチ戴こうっと」
目を剥いた親父。そんなにサンドイッチ渡したくねーのかよ。
「ん?ソーセージが添えられているね?珍しいですねおばさん」
里中さんが感心したように問う。なんでソーセージが珍しいんだ?
「多分何処かのB級グルメにあるんだよ。ソーセージカレー的な奴が」
こそっと耳打ちする遥香。それに同感して、大きく頷く俺。
「遥香ちゃん、ソーセージが好きだからねー。里中さんは何が好きなのかしら?」
そんな感じで、特に暗い雰囲気にはならず、雑談しながら晩飯を楽しんだ。
そして晩飯が終わり、再び俺の部屋に。
途端に雰囲気が暗くなる。俺もそうだが、みんなそうだ。
「……だーっ!!辛気臭えんだよ!!なんだよこの雰囲気は!?」
ヒロが切れて静かに怒鳴った。器用な奴だよな、こいつ。
「いや、俺はカレーの余韻に浸っていただけだから…久しぶりに家庭料理食ったから…」
生駒の発言で、みんな逆にしんみりした。春日さんだけは大きく頷いているが。
「ま、まあカレーは旨かったし、それはいいけどよ、さっきの続きだ。木村と河内に話そう。日向の言う、情報纏めしようぜ」
そう言って俺に目を向ける。
え?俺に連絡しろって事?木村と河内に?
「私から誘ってもいいけどさ、緒方君なら間違いなく来ると思うんだよ」
黒木さんも呼べと仰る?つうか、君の彼氏なんだけど?君も呼んだら来ると思うよ?
「河内君は明日学校があるからね。無理なら河内君だけ、後日に改めて貰おう」
国枝君も呼べと仰る?いや、国枝君が呼べと言うのなら呼ぶけれど…
なので、木村にコールした。
『おう緒方、丁度良かった。ちょっと話があんだよ。今から家に行ってもいいか?つっても8時近くになっちまうけどよ』
まさかの木村からの誘いが来た!!こっちから呼ぼうと思ていたのに、渡りに船だ!!!
なんだこのタイミングの良さ!?俺は今、ビックウェーブに乗っているのか!?
兎に角、来ると言うのなら是非も無い。
「俺も話があるんだよ。丁度良かった」
『そうか。じゃあ急いで向うからよ』
そう言って電話を終える。次は河内か…
コールすると、こちらも簡単に繋がった。
『緒方、丁度良かった。話しあんだけどさ、今から家行っていいか?実は今白浜なんだよ』
こっちもミラクルがキタ!!なんだこの偶然!?
「は、話ってなんだよ?」
動揺してしまい、用件を聞いてしまった。
『ああ、狭川の件だ。後ろの正体だが、朧気だが掴んだんだよ』
こっちもその用事かよ…!!なんだ?やっぱり運命かコレ?遥香の記憶が戻ってから、一気に!?
い、いやいや、みんな何かしら調べて、行動してきた結果が今だ。それが集約しつつある……?
「そ、そうか…俺も用事があったんだ。今結構な人数が来ていてさ、木村も8時近くになるけど来るっつうから…」
『そうなの?じゃあ丁度良かったっちゃあ丁度良かったな。じゃちょっと待ってて』
そう言って電話を終えた。同時に俺はみんなの方を向く。余程おかしな表情をしていたのだろう、みんな、眉根を顰めて怪訝そうだった。
「………木村も河内も来るって…用事があるんだって……」
俺の言葉に全員蒼白。タイミングが良すぎて気持ち悪いって事だろう。
だが、誰もそれを口にする事は無く。
そりゃそうだ。それは寧ろ喜ばしい事なんだろうから。
暫くして、呼び鈴が鳴り、淡々と静かに上がってくる足音。
ドアが開くと、それは河内だった。
「おう緒方……つか、すげえ人だな…」
「おう河内…みんな来ているっつただろ?」
「確かにそう言っていたけど…」
そう言って腰を降ろして、コンビニからゲットして来たであろう、袋を開ける。
「一応飲み物を大量に買って来て良かったぜ…」
差し入れか。気が利いているな。
「おう河内、有り難くゴチになるぜ。ちょっと喉が渇いていたもんでよ」
そう言ってコーラを取るヒロ。河内が怪訝そうな顔で尋ねた。
「喉が渇いていたって、なんかやっていたのかよ?」
「いや…まあ…木村が来てからだな、なぁみんな?」
促すと、全員普通に頷いた。
「マジでなんかあったのか?みんな疲れた様なツラしているけど…ん?こっちのカワイコちゃんは初顔だな?」
里中さんの方を向いて言ったら、上機嫌になった。
「いやいや、可愛いなんて。初めまして、里中美緒です。因みに彼氏います」
ぺこりとお辞儀しての牽制。上機嫌になったように見えたのは愛想笑かよ。
「お、おう…そ、そうなのか…えっと、里中さん、どれがいい?つか、ついでにみんなに配ってくれたら有り難い」
そう言って袋を渡す。お世辞で言ったのに、微妙に振られた感になってやるせなくなったようだ。
河内は女受けしそうな顔しているんだけどなぁ…可哀想になって来るな…
暫くして、呼び鈴が再び鳴り、二階に軽快に上がってくる足音。
黒木さんが腰を浮かせた。ヒロに負けず劣らず、解りやすいな。
そしてドアが開いたと同時に、軽いため息。
「靴の量から言って、そうじゃねえかと思ったが、案の定かよ…」
木村がやはりコンビニ袋を持って到着したのだ。
「明人…!!」
涙を溜めて木村に寄って行く黒木さん。
「……何かあったのか?その前にこれ、みんなに配ってくれ」
河内に負けず劣らずの量に缶ジュースだった。気を遣わなくてもいいのに。
「うん…」
木村から袋を受け取ろうとするが、それを避けて俺に渡した。
「緒方、ちょっとこれ頼む。綾子、先ず座れ。何があった?」
自分も座って話を聞く姿勢を取った。やっぱかっこいいよな、こいつ。河内とはやっぱりちょっと違う。河内もいい奴ではあるんだが。
ともあれ、木村の差し入れをみんなに配る。その時里中さんがこそっと耳打ちをした。
「ねえ緒方君、彼が西高の木村君?意外とイケてんね」
「君の彼氏も充分イケていると思うけど…」
入谷さんだっていい人じゃねーか。イケてるよ。充分。
暫く聞いていた木村。その顔は結構怒っていた。
「……北商の女か…以前緒方が言っていた奴だな?」
「うん…まさかそこまで迷惑を掛けるとは思ってもいなくてさ…縁切ったって言っても、それは結局は私の自己満足にしか過ぎないし……」
グシグシと鼻水を啜る音。木村登場で安心して気が緩んだのか。
そんな黒木さんの頭をポムポム叩く木村。
「気にすんなとは言わねえが、実際お前が発端のようだし、そこは気にして貰わなきゃいけねえが、もういいだろ。緒方には俺からも侘びとくからよ」
咎める所はきっちり咎めるが、ちゃんとフォローもすんのな。言う事ばっか聞いているヒロとは雲泥の差だ。
そして木村が俺を見る。
「緒方、迷惑を掛けた。すまねえな」
頭を下げようとした木村を止める俺。
「いずれこうなったと思うし、それはいいんだ。ところでみんな集まっている理由だが……」
此処で遥香が前に出る。
「木村君。私の記憶が戻ってね。戻ったのとはちょっと違うか…追加された、と言った方がいいのかも」
驚愕を露わにした木村。
「槙原がやっぱり記憶持ちって事か!?」
頷いて続ける遥香。
「その為に、新しい人も巻き込んじゃうことになったんだけど、あ、紹介するね。此方、さとちゃん。前回須藤の友達だった人」
ついっと里中さんに手を伸べる。同時に里中さんも、挨拶のようにお辞儀をした。
「…里中っていや、確か須藤のダチだったな。そうか、槙原の記憶が戻ったから、須藤が前回やっていたサイトも覚えているって事か…」
流石木村、そこに辿り着くとは。こいつも記憶持ちなら偉い助かるんだろうなぁ。
「そこで見付けたのよ、須藤を。さとちゃんから隆君の情報を引っ張り出そうとしているの。それは既にさとちゃんから確認済み」
木村が頼もしそうに里中さんを見た。それに気付いた里中さんも、微妙に胸を張っていた。
「やっぱり須藤も記憶持ちか…読み通りだな…」
にやりと笑う木村。だがちょっと待ってと里中さん。
「確かに私は『爽やかポニー』と友達だけど、あくまでもサイトを介した友達であって、聞いた事や自分から喋った事しか知らないから、過度の期待は勘弁ね」
「それでもいいんだよ。これからなんだろ?槙原」
頷く遥香。これから里中さんを介して、朋美の情報を集める事になる。
それを里中さんも了承してくれた。これで後手に回らずに済むかもしれない…
「じゃあ次は俺からだ。緒方に話があるっつったよな。その話だが、俺が南海に伝手を作る為に、大雅に接触している事は覚えているな?」
「おう。生駒も手伝ってんだよな?」
いきなり振られても、生駒は動じず、静かに頷いた。
「手伝いって言っても、昔の連れを紹介しているだけだけどな。もっと協力したいんだが…」
申し訳なさそうに言う生駒に木村が遮った。
「いい。それで充分だ。お前はバイトが、それも生活の為のバイトがある。これ以上は逆に俺の方が心苦しい。つっても、どうしようもない時は協力を仰ぐぜ?」
「ああ、そりゃ勿論」
生駒には生活に直結しているバイトがあるから、あんま無理は言えない。だけど、頼めば多少の無茶は叶えてくれると。
ホント有り難い。ホント感謝だ。此処にいるみんなには、いくら頭を下げても下げ足りない…
「ちょっと話が逸れたが、大雅と仲良くなって行くうちに興味深い話が聞けたんだ。だけど、あくまでも疑惑だが」
そう言って河内の方を見る木村。河内に何かあるのか?
「……大洋の外れに
「……潮汐か…つうか、大洋の方は俺も知り合いがいねえしな…」
河内が渋い顔を拵える。薬関係は河内がメインで動いているから、河内に向かって言ったんだろうけど。
「つっても大洋にバラまいている訳じゃねえらしい。隣の
連山とは、大洋の北にある街だ、海側が大洋なので、当然海無しの街だ。
「連山?あそこって結構な田舎じゃ無かったか?薬なんかなかなか売れねえだろ?」
ヒロの弁である。その通りで、峠を超えるか、高速道路でその隣町の
「そこら辺はまだ解らねえが、その潮汐の生徒が夏頃に白浜に来たらしい。それっぽい格好してな」
夏頃に…それっぽい格好…
「…そいつ等が東工にちょっと現れた女について来たチンピラだって事か?」
河内の質問に食い入る俺達。その通りなのなら、一気に話が進むかもしれない…
「それは何ともだ。そう言う話を聞けたってだけだからな、だが、聞いておいて損はねえだろ」
それはその通りで、頷く。そして、ここで春日さんが動いた。
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