とうどうさん~007
そこで何となく違和感が。
この上杉って女だが、確かに何回か幸と話しているのを見た事がある。そこは先述のとおり。
だけど、そんなに印象は深くない。だって自分は幸をいつも見て来たんだ。この女が親友だって言うのなら、もっと印象に残ってもいいはずだ。
いや、考え過ぎか。だって自分は他人に興味なんか持っていないんだから。こいつ等に言った嘘も自分が気持ち良くなるための嘘。
「まあいいや。お前のどうでもいい意見なんか。幸、続きだ。俺と付き合え。高校卒業したら一緒にこの町を出て暮らそう」
騒然としたクラス。みんな聞いてないようでちゃっかりと聞き耳を立てていた。
「まあ、颯介にしちゃ根性は入っているよね。これって公開告白だよ」
呆れ返る幸。上杉は目を丸くしてパクパクさせているが。
「他の連中なんかどうでもいいんだって言っているだろ」
「今朝もそう言われたけどさ、公開プロポーズまでするのはどうなのよ?」
公開プロポーズ?そんなのした覚えは………
まあいいや。お前のどうでもいい意見なんか。幸、続きだ。俺と付き合え。高校卒業したら一緒にこの町を出て暮らそう。
高校卒業したら一緒にこの町を出て暮らそう。
一緒にこの町を出て暮らそう。
……………そんなつもりじゃなかったが、そう言う事になっちゃうかぁ………
い、いやいや、此処でそんな話じゃないとか言っちゃうと嘘ついたと言われてしまう。それは避けなければいけない。
なので仕方がない、いや、これは本心だ。
言いたくないが、ギャラリーがいっぱいだが、此処でちゃんとはっきり言わなきゃなきゃ男が廃る。
「そうだ。だから「なんでそう嘘ばっかりつくかな」本当だよ!?」
心外だ。台詞に被されるのはもっと心外だ。あんまり悔しくて手で顔を覆った。
幸は悔しがる東山にふっと微笑んだ。
「嘘にしときなさい。少なくとも、今は」
あん、と覆った手を退けると、クラスの連中が「やっぱりな」とか「そりゃそうだよな」とかの安堵感に包まれていた。
成程、そう言う事か。シリアス展開を嘘にして空気をぶち破ったのか。主に俺への風当たりを弱める為に。
そうなると、こう言う事か?
「幸、お前人気あったんだな」
「そりゃそうでしょ。可愛いし頭もいいし優しいし。アンタなんかには勿体なさすぎる超優良物件なんだから」
なぜか知らないが上杉が答えた。しかも結構なドヤ顔で。
まあいいや。だったら下校の時に聞かせて貰おう。
「あ、そろそろ午後の準備しなきゃ。じゃあ颯介」
「あ、おう。幸、一緒に帰「アンタなんかと一緒に帰らせないからね!!」なんでお前にまで被らされなきゃいけねえの!?」
ビックリだった。しかも関係ない奴に断られるとは予想外だった。まあ、関係ないから一緒に帰っちゃうけども。
そして下校時。当然のように速攻で席を立ち、幸の席に向かう東山。
一緒に帰ろうと誘おうとの算段だった。が……
「おう嘘つき野郎!!朝の決着付けに来たぜ!!」
勢いよくドアが開いたかと思ったら、三島山が仲間を引連れてクラスにやって来た。
「朝の決着って……本当の事を言われてキレただけだろうが?」
「うるせえ!!タイマンだ嘘つき野郎が!!」
タイマンとか言う割に仲間が10人くらいいた。暇な先輩が下級生を暇つぶしに虐めに来たくらいのノリだ。
「お前、勝手に熱くなるのはいいけどよ、俺はこれから帰るんだよ。幸と一緒に」
面倒臭くなって幸の手を引いて立ち上がらせた。
「藤咲に手を出すんじゃねえ!!」
柔道部なのにぶんなぐる体勢で向かって来た。クラス中が騒然とした。元クラス最強もビビって身を固くした。
机や椅子が沢山ある教室。思うように動けないのは向こうも同じ。
仕方ねえなと椅子を取って殴った。
「ぎゃっ!?」
額が切れたようで血が舞った。そして派手にぶっ倒れて、机も椅子も散乱させた。
その様子を見ていた三島山の仲間がキレて突っ込んできた。何がタイマンだ嘘つき野郎と、自分を顧みないで毒付いた。
身体は鍛えているが、喧嘩はした事がない。なので数には勝てない。
あっという間にフルボッコを喰らう。
ぶっ倒れた視界の端に幸が庇おうとしているのをクラスの女子が止めているのを確認する。他のクラスメイトはニヤニヤ顔で傍観中だ。
「やってくれたな嘘つき野郎!!」
復活した三島山まで加わった。ここで漸く言ってやれる。
東山は根性で精一杯笑った。
「何がタイマンだ嘘つき野郎」
嘘つき野郎に嘘つきと言われたら穏やかではいられない。
「お前と一緒にするんじゃねよ!!」
胸倉を掴まれて無理やり立たされた。
そして背負い投げ。散らばった椅子や机が更に散らばった。
「とことんまでやってやる!!」
そう言ってまた胸倉を掴まれて立たされた。アホかと思った。何度もやられてやるかと。
膝を曲げてかち上げて金的を狙う。それは見事ヒットして、掴んだ胸倉を離して目を剥いて股間を押さえた。
「ひ、卑怯者が!!急所狙うなんて!!」
ぴょんぴょん跳んでダメージをなくそうとしているのを見て、笑って言った。
「こんだけ仲間集めて掛かって来るのは卑怯じゃねえのか?」
また椅子を持った。そしてぴょんぴょん跳んでいる三島山に手加減無くぶちかました。
その様子に仲間が止めようと向かって来るが、こいつ等は自分を袋にした奴。三島山同様加減も遠慮もしてやる必要はない。
振り回す椅子。接近できずに困惑している間に三島山に追い打ちをかける。
「やめろっていってんだろ!!」
意を決して仲間の一人が飛び込んできた。丁度ハイキックの間合いに入ったので蹴りを入れた。
「ぐはっつ!?」
ぶっ倒れたのでそいつにも椅子攻撃。同じように止めようとしてきた奴にも椅子攻撃。
程よく全員に椅子攻撃が終わった所で動きを止める。というか今更ながらに気が付いたが、そんなに疲れていなかった。走っていたおかげで無駄にスタミナが付いたんだな、と他人事のように思った。
三島山に目を向けると、丸くなって震えていた。
「俺の勝ちでいいだろ?卑怯者の嘘つき野郎?」
返事が無かった。なので今度は机を持った。
「わ、解ったからもうやめろ!!」
机を持った事に勘付いたのか、返事が来た。まあ、負けを認めたのでこれ以上はやめておく。
机を降ろして三島山の仲間に言った。
「机と椅子、並べ直しといて。お前等のせいでこうなったんだから当たり前の事だろ?」
全員無言で頷いた。微かに震えながら。
じゃ、まあ、という事で、クラスメイトの女子に止められていた幸の手を取る。
「終わったから一緒に帰ろうぜ」
「いいけど、これどうするの?」
これ、とはクラスの目があからさまに変わった事か?自分としてはどうでもいい事だが、幸が気にするのならしょうがない。
なので、今回もまた、そうだったらいいなと強烈に思いながら嘘を言った。
「三島山達の仲間割れのとばっちりでこうなっただけだろ。全く、巻き込まれていい迷惑だよな」
空気が微妙ながら変わった。自分に向けられていた目が三島山達に変わったような気がした。
そして、何となくヘイトも三島山達に向けられたような気がした。
何となくそう思っていたが、やっぱりそうだ。
嘘が本当になっている……しかし、全部の嘘が、という訳じゃない。強烈に本当だったらいいと思った事が事実に書き換えられている……!!
生き返ってから身に付いた力か?そうだろう、その前はそんな力は無かった。
「じゃあ帰ろうか。後はこいつ等が片付けるでしょ」
三島山達をひょいと避けてドアに向かう幸。慌てて後を追う。
三島山達はカタカタ震えながら呟いていた。「なんで他のクラスで仲間割れなんかしたんだ?」とか「そもそのこのクラスに何の用事だったんだ?」とか。
三島山達にも嘘が上書きされたって事になる。今朝の母親やクラス最強もそうだった。
この嘘は何処までの範囲で付ける嘘なんだ?嘘を聞いた奴等全員か?それとも半径何メートルとかあるのか?
「何やってんのよ?来ないなら先に行くよ?」
幸に促されて咄嗟に頷いた。つうか一緒に帰る事はいいんだ。
出る時に教室を一瞬だけ向く。
クラスメイトは三島山達にヘイトの目で見ているし、当の三島山達ものろのろと片付けを開始した。
しかし、その中で一人だけ。一人だけ俺を見ていた。
上杉 冬華。
幸に近寄らせまいと頑張っていた女子。その時は嫌悪の目で自分を見ていたが……
帰り道。何となく無言で隣を歩く。考える事が多過ぎたからだ。
「あのね、颯介から下校を誘って来たのに無言は無いでしょ」
幸が呆れながらそう言う。
まあ、確かにそうだ。自分が生き返ったとか、おかしな力が宿ったとか、幸には関係ない話。幸に関係あるのは俺が告ったって事と、母親の事だ。
ならば再び話そうか。
「返事は?付き合うか?高校卒業したら一緒に暮らすか?それとも全部却下か?」
「……付き合うのは吝かじゃない」
おお?じゃあ付き合っちゃ負うぜ!糞な母親共なんて関係なく、二人で仲良く楽しくやって行こう!
「ぶっちゃければ颯介の事、好きだし」
「うんうん」
相槌宜しく頷いたら怪訝な顔。
「え?な、なに?」
「……好きだって言ったのに何も動揺しないとか……なんかおかしいな……」
ヤバい。知っていたとは流石に言えない。
「い、いやいや、あんまりビックリし過ぎて一周回ったって言うか……」
「嘘ばっか」
まあ、嘘だけど、本当の事なんかもっと信じられないだろうに。
「だ、だけど、好きって……?い、いつから?」
強引に話題を反らせた。しかし同様の話題だったので違和感はない筈だ。
「隣に越して来た時から、かな。知っている人が誰も居ない見知らぬ土地で不安いっぱいだったけど、颯介はいつも笑わせてくれた」
だから安心したと。妙に嬉しそうに。
知っているけど、相槌を打って程々のリアクションに留めた。
「……何も動揺が無いのがおかしいな……?」
「いや!?いやいやいや!!あんまビックリして頭回んなかったって言うか!!」
わちゃわちゃとジェスチャーをして誤魔化す。疑いをより濃くしたように思えるが、しかし本当の事は信じて貰えそうもない。
「だ、だがまあ!付き合うって事でいいんだな!?」
声を張って有耶無耶作戦だった。こんな誤魔化し方しか思い浮かばないのだからしょうがない。
「うん?まあ……………うん」
「それって付き合うって事?」
「だから、うん……………」
なんか俯いてうんしか言わなかった。
「ちゃんと言ってくれよ、解んねえだろ、そんなんじゃ」
「だから、うんだってば!!」
キレられた。告白を受け入れたのにキレるとは。女心は解らないな。マジで。
じゃあつまり、この瞬間から恋人同士になった訳で、より踏み込む事が可能になった訳だ。
「じゃあ高校卒業してからは………?」
「それは………今の段階なら、うん………」
また俯いた。今の段階ならOKって事か?
「だ、だけど、私は大学にも行きたいと思っていて……」
つまり卒業と同時に結婚は無理だと。流石にそこまでは言っていない様に思うが、まあ、頷いた。
「大学費用はやっぱ母ちゃんに頼らざるを得ないのかな?」
「そこは奨学金とか、いろいろ手はあるけど……」
「じゃあその金は俺が稼ぐ」
はあ?との顔をされた。
「なんでそんな顔になるんだ?糞な親からとっとと離れるって目的があるんだ。微塵たりとも依存して堪るか」
「い、いや、その考えは共感できるけど、颯介が私の大学費用を支払うとかイミフなんだけど?」
「親より俺に依存した方が良いだろ、俺も死ぬ気で働くし」
言ったら目を丸くした。お前の命に係わる事なんだ。学費くらい自分が稼ぐ。戻って来た理由がお前を助ける為なんだから。
長い道中に感じたが、どうにか帰宅。お隣同士なので本当にギリギリまで一緒に居られた。
「じゃ、颯介、明日ね」
手を振りながら家に入ろうとした幸の腕を取る。
「な、なに?」
「なんかあったら絶対に言えよ。例えば今朝の事とか。糞な親からの脱却を二人でするんだ。あいつに頼らなくても俺に頼れ」
ふっとはにかみながら頷く。
「じゃあ颯介にだけ甘える事にする」
「おう、そうし「嘘ばっか」此処でそう言うのかお前!?」
何故か出鼻を挫かれた。折角かっこいい事言おうとしたのに。
「あはは。私には嘘は言わないんだよね。信じるから」
「今までも嘘を言った事は無いんだけど……冗談と嘘は違うんだからな?」
「それ、どう区別すればいいの?」
そう言われても返答に困るが、事実違う。少なくとも東山の中では。
「ま、まあ、うん」
「なんだそれ?」
呆れられたが、うんとしか言えない。冗談と嘘の違いは悪意があるかないか、自分の為か否か。しかし、相手にはそれを確かめる術は無い。
ともあれ、幸と別れて家に入った。そして着替えて外に出る。
本屋とかコンビニに行こうと思ってだ。求人情報。取り立てバイトの情報を見る為だ。親に依存しないと決めたのならなるべく自分でお金を稼がなければならない。
幸の大学資金も支払おうと言うのだから、今から準備してもおかしくない。
いや、本屋やコンビニよりも職安に行った方がいいのか?いずれにしても、職安の近辺にはコンビニも本屋もある。調べるのにさほど苦労は無い筈だ。
自転車に跨り、職安を目指した。そして意外と遠かった職安に辿り着く。
アルバイトの求人募集を隈なく見るが、流石に中学生を雇ってくれそうなところは無い。新聞配達くらいか。
「……中学までは仕方がないのか……?」
そう、独り言を言いながら職安を出た。
「……見たような後姿だと思ったら、やっぱり」
あん?と思って振り返る。
上杉が腕を腰に当てながら仁王立ちで東山を睨んで……いや、見ていた。
教室の中では悪意しか感じなかったその瞳に、今は悪意がない。
困惑する東山。急に、いきなり自分を見る目が変わったのだから戸惑うのも当然だった。
「……ちょっと話しない?近くに公園があるのよね。そこでジュースでも飲みながら。アンタのオゴリで」
「話する程仲良かったか?お前とは今日初めて話ししたと思ったけど?」
しかも東山のオゴリとか意味が解らない。そんなのは友達に言って欲しい。
メガネが光ったような気がした。同時に笑ったような気もした。
「いいから。アンタにとっても有意義な話になると思うよ?何ならジュースは割り勘でもいいし」
「そりゃ助かるな。だけど、さっきも言ったと思うが、話するほど仲がいい訳じゃねえだろ」
とってもウザく感じた。そして、そうだったらいいな、と、心から思って口を開こうとした。
「待って。やめて。口に出さないで。『そうなっちゃう』」
そうなっちゃう?何が?
意味が解らなかったが、上杉の真剣そのものの表情が口に出す事を憚れた。
上杉は仕方がないと首を横に何度も振った。
「アンタは私を嫌い。それはいいよね?」
「いきなり何訳の解らない事を言うんだ?嫌いも何も。今日初めて話したって言ってんだろ。強いて言うんなら興味がない。好き嫌い以前にな」
「それでいいよ。少なくとも好意は無い。でしょう?」
とんだ自惚れ女だなと心底思った。それが表情に出た。
「いいねいいね。その感情。好感と真逆の感情だね。それでいいよ。そして、その感情を覚えておいて」
「本気で意味解からねえんだけ………ど……………?」
本当に不思議だった。さっきまでどうでも良かった女が、自惚れ女だと思って沸いた嫌悪感が消えた。
代わりに何となく好感が持てた。好きには程遠いが、少なくとも話をしたいと思う程に感情が変わった。
「解った?」
ふっと好感度が消えた。感情が元に戻った。
「わ、解ったって、何が」
「アンタ、今私に好意を持ったでしょう?」
好意とは少し違うような気がするが、感情が変わったのは確かにそうだ。マイナス感情からプラス感情になったと自分でも認識できたほど。
「……それは確かにそうかもしれねえが……」
「アンタにも似たような力があると思うんだけど?」
そう言われても思い当たる節は無い。腕を組んで考え込んだ。
「その話がしたいのよ。だから近くの公園に……」
「……何が言いたいのかぶっちゃけ解らねえけど、さっきも言ったがお前と話するほど仲が良い訳じゃねえし、そもそも俺は他人なんかどうでもいいんだ」
「他人じゃない。少なくとも仲間ではある。尤も、今朝からそうなったと言うべきかもね」
今朝から。つまり、戻って来てから仲間になった?
「……お前ももしかして一回くたば「続きは公園で話そう?」………そうするか……」
なんか深刻かつ聞かれたくないような話だったので、提案に乗る事にした。しかしその前に。
「俺はさっき幸と正式に付き合う事になったばっかなんだ。お前と二人で居る所を幸に知られて浮気を勘ぐられたら、お前がちゃんと言ってくれ。話ししただけだって」
「マジで付き合ったの?それは本気で信じられないけど……その力のせいって訳でもなさそうだし……」
なんか好奇の目でじろじろ見られた。そんな事はどうでもいい。幸との間を他人にとやかく言われる事も無い。話が無いんなら帰るだけだ。
「ちょ、どこ行くのよ?公園はそっちじゃないよ?」
「帰るんだよ。約束してくれないようだからな。幸におかしな誤解は微塵たりとも与えたくねえし」
嘘つき少年の東山は信用がない。他の連中は兎も角、幸の信用を裏切るような真似は絶対にしない。
慌てて解ったと東山の腕を取った。
「アンタの浮気相手と思われちゃ私もとっても不本意だからちゃんと言うよ。その前に他の奴等に見られたくないのは私も一緒。アンタと親しいとか思われたらハブにされちゃう」
話がしたい。仲間。そう言ったのに親しいと思われたくないと。
破綻しまくっているが、逆に興味が湧く。その話とやらに。
「じゃあお前、先に行って待ってろ10分くらいしたら俺もそっちに行くから」
「な、なんで別れて公園に入るの?」
「一緒に入った所を他の奴等に見られたくねえ。その辺はお前と俺の利害は一致しているだろ」
頷く上杉。そこは納得のようだが。
「アンタ、嘘つきじゃない?後から来るのも嘘とか無い?」
「じゃあ逆だ。俺が先に行くからお前が10分後くらいに……」
「先に行って其の儘どろんとかない?アンタ嘘つきじゃない?」
どう転んでも自分が嘘をついて煙に巻こうとの結論に達するようだ。東山は豪快に溜息をついてスマホを出した。
そして自分の番号を紙に書いて渡す。
「ほら、これで本当に逃げても大丈夫だろ」
「アンタとケー番の交換とか……」
「お前の番号はいらねえよ。なんかの力とかの話が聞きたいだけだ。それが終わったら今後話したいとは思わなくなるだろ」
本心で言い切った。幸意外の人間に関心なんかある筈もない。
その本心は上杉を納得されられるに足る。
「解った、じゃあ一緒に行こう。他の奴等に見つかっても対処してあげる」
そう、手を引いて強引に歩き出した。
「お、おい、だから勘ぐられるような真似は……」
「ぶっちゃければどうにでもなるから。あまり使いたくないだけだし」
よく解らないが、見られようが勘ぐられないようにする対処はあるらしい。あまり使いたくないらしいが。
その話に出た力ってのが関係している事は流石に薄々気が付いた。なので大人しく公園に着いて行った。
公園の入り口に差し掛かった時――
「あ、ちょっと待て」
取られた手を握り返し、強引に方向を変えた。
「え!?な、なになになに!?さっきの抜けきってなかったの!?」
なんか超あわあわしている上杉を無視して自販機の前に立った。そしてお金を入れる。
「好きなモン押せ。いらねえならそれでもいい」
そう言って自分の分は押した。買ったのは無難にコーヒーだ。上杉はちょっと迷っていたが、やっぱり無果汁のグレープジュースを押した。
適当なベンチに腰かけてプルトップを開ける。
「まあ、ジュースのお礼は言ってあげるわ。これで信用が成り立ったって事にしてあげるよ」
「ずいぶん安い信用だな」
ジュース一本で買える信用だ。自分の信用とは所詮そんなもんだろうし、そもそも信用なんかされている筈もない。
「じゃあ、聞かせて貰うか。長話しはしたくねえし」
「さっき私の事どうでもいいような事言っていたよね?今の風当たりの雰囲気じゃ嫌いの方に振られている気がするんだけど」
まさにどうでもいい。上杉に対しての好感度は自分の中の優先度では驚くほど低いのだから。
「話さねえなら帰る。こっちはそんなに時間がねえんだよ」
幸のリスカもそうだが、お金を稼ぐ目的もある。上杉の話には興味は確かにあるが、さっきも言ったように優先度はかなり低い。
「解った解った。まあ、そんなに難しい話しじゃないんだけどね」
そう言って自分もベンチに腰かけた。
「さっきの『力』ってのは?」
「せっかちだな。その前に、アンタ一回死んで戻って来たんでしょ?」
いきなり核心に触れられて心臓が縮み上がったような感覚を覚えた。
「私もそうだと言ったら信じられる?」
更に鼓動が激しくなった。上杉も一回死んで生き返ったのか!?『力』とやらもそれに関係しているのか!?
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