西高~001
……俺は今、夢を見ていた。
此処は…公園か?そこで俺は沢山の糞を相手に、たった一人で孤軍奮闘…いや、暴れている俺を、眺めている状態だった。
その俺は傍目から見ても、とっても危険で…完全に殺意を持って、相手を殴っている…
糞…西高生は、そんな俺相手に、完全にビビっていた。逃げ出す奴も結構いる。
そんな中、一人の西高生が、暴れまくっている俺の前に立った。
「中坊のガキが!西高相手にたった一人で何が出来るってんだ!!」
直感で理解した。こいつが頭だと。中学の俺がそこに居るのだから、こいつが西高の三年生で、頭なんだろう。
そして、それはその通りのようで、そいつは確かに強かった。事実、俺は何度も意識が飛びそうな攻撃を受けた。
的場なんかと比べ物にならないが、こいつもそこそこ以上はやる。今の俺なら覚悟を決めてぶち砕こうものだが、夢の俺は全く違った。
他の糞同様にそいつを殴っている。敬意も警戒も全く無しで。
俺も以前は糞は糞、一律同じで、多少やろうが何だろうが関係なかったが、あの緒方君はもっと単純だった。
糞は『殺す』。それのみしか考えていなかった。
事実、顎に入ったアッパーでぶっ倒れた糞に、追い打ちをかけるが如く、石を持って殴りつけているのだから。
流石に止めに入る西高生。あのままじゃ、間違いなく殺す。だから止める判断は間違いじゃない。
「もうやめろ隆!殺しちまうぞ!!」
騒ぎを聞きつけたのか、西高生が呼んだのかは解らないが、ヒロが強引に割って入って止めた。
「ぶっ殺すからいいんだよ。退けよヒロ…」
その時ヒロに向けた目…凍りつくかと思った程、憎悪に満ちた目…止められた事が凄い不満のようだが…
それだけで、そんな殺気の籠った瞳をヒロに向けるのか?
「退かねえよ。どうしてもっつうのなら、俺を倒してからにしろ」
ファイティングポーズを取ったヒロ。こいつの目もバリバリやる気の目だった。
本気でやらなきゃ、俺は止められないとの判断か?
「……お前とやれる訳ねーだろ…前回も手も足も出なかったんだし…」
前回?この前に、俺はヒロとやり合っているのか?いや、単なる夢に理屈を求めるのもなんだが…
脱力した俺を確認し、他の糞に目配せをするヒロ。ぶっ倒れた糞を担いで、全員正に逃げて行く。
全員が居なくなったのを確認して、俺は地面に座った。凄い不満そうな顔を拵えて。
「殴るなとは言わねえし、その為に鍛えたんだから目的通りなんだろうけど、やり過ぎなんだよ、お前は」
「殺すからいいんだよ。邪魔すんなよ。あの時も…」
「完璧殺すところだったろうが?いくら佐伯達だろうが、殺すのは駄目だ。さっきも三井を殺すところだったし。つかお前、西高のトップを完全粉砕とか、マジふざけんなよ。俺よりも名前が売れるじゃねえか」
冗談めかして言うヒロ。やっぱあいつ、頭だったか。木村の前のトップって事か。
それよりも、俺は佐伯達を殺しそうになったのか?いや、そうだろうな…今の俺は多少堪える事が出来るだろうが、それでも佐伯達五人を目の前にすれば、どうなるか見当も付かない。
「まあ、今はお前もぶっ殺す事しか考えていないだろうけど、いずれは堪える事が出来るようになるとは思うぜ。手加減を覚えるっつうか…」
「そうなったらそうなったで構わないけど…俺一人で済む問題なら、此の儘でも構わねーんだけど…」
そう言って顔を覆い、伏せた。あの俺も殺したくはないと思っているのか?だけど殺す気で拳を振るっている…
その矛盾に心が付いて行っていない状態なのか?だから危険過ぎると感じているのか?
そして、その顔を覆って伏せている俺から、言葉が発せられた。
「三回…」
その言葉に、ヒロは反応しない、聞こえていない感じだ。
「三回」
やはりヒロは反応しない。
「三回だ、俺が出て来るのは。アンタが降ろされて多少まともになったとは言え、俺も自我を持っているからな」
?何を言っている?ヒロはやはり反応していないし…
「三回だ。忘れるな。俺の…『明確な殺意』の俺は、必ず三回出てくる。堪えても我慢できない所で出てしまう。出てきたら殺してしまうかもしれない…だから、頑張って堪えてくれ」
そこで顔を上げて俺を見た…?
ヒロはやはり反応していない。顔を上げたのなら反応しようものなのに?
じゃあ、あいつは………
そこで目が覚めた。
あれは…霊夢?以前も体験した事だ、印象深いのは、朋美の家に潜入して、病院に居る筈のあいつが家で寝ていたのを知った時と同じ。
あいつは…こっちの緒方君?俺が降ろされてまともになった?確かにあの俺と今の俺と比べたら、そりゃ今の俺の方がまともだろうが…
…考えても解らないもんは解らない。国枝君に相談してみよう。霊感があるから、何か解るかもしれないし。
ともあれ、着替えて走りに出よう。なんにせよ、毎日の日課は欠かせない訳だから。
学校に着いたと同時に国枝君をとっ捕まえて、人目が付かない屋上に行く。
屋上は鍵が掛かっていて入れないのだが、金属製のドアの前でも人目は無いので、そこで今朝見た夢の事を話した。
「う~ん…緒方君の中に、こっちの緒方君がいる、って事なのかな…?その人が忠告をしてくれた、と考える方が無難かも…」
自信なさ気での回答だった。そりゃそうだろう。国枝君は将来的に霊能者になるとはいえ、今現在は普通の高校生。そんな最深部まで霊視が出来る訳じゃない。
だが、何かピンときたようで、俺に質問をする。
「緒方君がこっちに来た理由ってなんだっけ?」
それは未来の君に言われたからだよ。と言いたいが、そう言う事じゃないんだろう。なので目的を話した。
「そりゃ、遥香を無間地獄から救い出す為に…」
「自分も助けられないような人が、他人を助けられるのかい?」
……そう言われてみると、そうだな…つまりはこう言う事か?
「俺は自分を助ける為に、こっちに降りた?」
頷く国枝君。
「さっきの話だと、こっちの君は殺す事に躊躇はなさそうだけど、殺したくないって気持ちがあるみたいだ。なんでそんな矛盾を抱えているのか解らないけれど、要するに自分を止めて欲しいんじゃないかな?」
それは俺もそう思ったけど…
「君がこっちに来た時に、僕に話してくれたよね?自分の身体とは言え、降りるって事は、その緒方君の魂を取り込む?でいいのかな?まあ、そういう事だから、人ひとり殺す様なものだって」
それはその通りだ。そしてこっちの緒方君も、結局は俺なんだから、文句は言うまいと。
そして、確かに文句は言って来なかった。代わりに要望を述べて来たが。
多分だが、こっちの緒方君よりも、俺の方がマシな魂を持っているんだろう。かたや矛盾した心を持つ、あらゆる危険を孕んでいるこっちの緒方君。そして高等霊の修行をしていた俺。
マイナスの魂にプラスの魂を降ろした事から、融合様態の俺はプラマイゼロ、普通の魂となったと。
それでもまだ足りない。こっちの緒方君も、なんだかんだ言いながら自我もある。まだ存在が残っている。よって忠告を発してくれたのだろう。『明確な殺意』に飲まれるな、と。
「でも、こっちの君のお願いはそれでいいとしても、槙原さんは無間地獄から解放されたのかな?それとも、君の世界では未だに彷徨っているのかな?」
そうなんだよな…それもどうやって知ればいいのか…
「緒方君、君は天界で修行して来たんだろう?心当たりがないかい?」
そう言われても…自分の修行でいっぱいいっぱいだったし…
「……地獄に堕ちようが、昇天しようが、死者は死者なんだから…要するに、禊が終わればいいんだから…」
満足させる事と、心から悔いる事か?だが、俺がこっちに降ろされたって事は、満足の方か……?
「……まだ解らないけれど、満足すれば、多分悔いる事が出来るんじゃないかな…?」
満たされれば懺悔の気持ちも起こるだろう。俺を捜しているって事は、俺と会いたいって事なんだから…それは叶った訳だから…
結局満足と懺悔は一体だって事だ。
「それを向こうの世界の地獄に居る槙原さんはどうやって知るんだい?」
……多分だが、俺がそうであるように、向こうの世界とこっちの世界では魂が繋がっている。んだろう。繰り返し中のデジャヴの件も、そう言う事だと思う。
よって向こうの遥香も、俺達がこっちの世界で付き合った事は知っている、もしくは、いつか知る。
「そうか…そうだよね。繰り返し中もデジャヴがある人が沢山いたんだっけ。じゃあ、君の言う通りなのかも」
回答として一応の合格を得たようで、国枝君が大いに頷いた。
「じゃあそのデジャヴは、向こうの世界で君と親密になった関係の人達は、みんなが持つ事になるのかな?」
「多分そう。最後の繰り返しもデジャヴを感じた人もいた事だし」
「君と同じように、向こうの記憶を持つ人も現れるのかな?」
俺と同じように降ろされた、もしくは降りたのなら、そうなんだろうけど、今のところは解らないな…
「それにしても、なんか『3』の数に縁があるよね。記憶を引き継ぐ前…と言うか、過去君と親密になったのが、槙原さん、春日さん。楠木さんだろう?そして今朝の夢の『明確な殺意』が三回。ひょっとすると、記憶が現れるのも三人なのかもしれないね」
何気無しに言った国枝君だが、その言葉に、脊髄に電流が走ったような感覚を覚えた。
「そうだ!!きっとそうだよ!!記憶を持って来れる奴が多分三人いる!!」
興奮して詰め寄った俺に、若干引きながら頷く国枝君。
「そ、そうかい?君がそう思うのなら、そうなんだろうね。多分僕も確定だと思うよ」
話を合わせてくれているような感じなのか?イマイチ軽いような気がしないでもない。
「そんな顔をしなくても…本当にそう思っているよ。『3』の数字に縁があると、僕も思ったんだから」
「俺は一体どんな顔をしていたんだ…?」
「ちゃんと考えてくれって、抗議の表情をしていたよ」
「それは…申し訳ない……」
俺は心から申し訳なく思い、膝に額が付かんばかりの辞儀をして謝罪した。こんなに親身になってくれている国枝君に対して、そんな顔を見せたとは…
国枝君が必死にやめてくれとお願いしているが、俺の気が済みそうも無かったので、予鈴が鳴るまで、俺は謝罪を続けた……
四月末日、俗に言うGW突入だ。
長期休日(飛び日だけど)は高校入学して初めて。当然デートにも誘われるわけで。
「ねえダーリン。休日にお部屋デートもいいけどさ、いいお天気なんだし、どこかに行こうよぉ」
座布団に座ってコーヒーを飲んでいる俺の腕をグイングイン揺すってのお誘い。
「うん。そうしてもいいんだけどさ、さっきロードワークから帰って来たばっかなんだよな。まだ朝飯も食ってないしさ」
真顔で遥香を見る俺。それに対して小首を傾げて「?」の表情。可愛い。
「うん。お前のその表情は可愛い。押し倒したいくらい可愛い。だから俺の質問に答えてくれるよな?」
「勿論。初めてが彼氏のお家なのは納得だし。処女はダーリンの為に取っておいたし」
頬を染めてのはにかみ。うん、可愛い。マジで。
「そりゃありがとう。だけどそれって質問に答えてねーよな?つか、まだ質問もしていないよな?」
「ああ、そうだね。処女だよ勿論。ファーストキスはダーリンに奪われたけどね」
「そうだったな。しかし質問はそれじゃねーよ。俺が聞きたいのは、なんで早朝から俺の部屋にいるかって事だ」
ロードワークから帰って部屋に入ってビックリ。それは遥香がコーヒーを飲んで寛いでいたからだ。
俺が飲んでいるコーヒーは遥香の飲んでいた物をパクった物だ。何故ならビックリし過ぎて喉が渇いていたからだ。
「そりゃあ、入れて貰ったからだよ。彼女が彼氏のお家を訪ねるのは当たり前でしょ?」
今更?って感じで返される。繰り返し中も、お袋に部屋に入れて貰っていたから、そうだろうけども。
「うん。当然だな。じゃあ俺が朝飯食うのも当然だよな?」
「勿論だよ。今日はスクランブルエッグだよ」
朝飯のメニューまでご存知とは恐れ入る。
「目玉焼きはお塩だけど、スクランブルエッグはお醤油だよね?」
「そんな微妙な好みまで把握済みとは…」
こええ。こええな彼女さん。俺のプライベートは丸裸じゃねーか。
「お前はソーセージが好きだよな。ボイルじゃなく焼いたの」
「うん。だから添えていたら頂戴」
ソーセージくらいやるわ。んで、だ。
「どこにお誘いだ?温泉プールか?」
マジ仰天とばかりに仰け反った彼女さんだった。やった。一矢報いたぜ!!
「凄いね隆君…それも繰り返しで?」
頷いて応える。神尾とかち合って色々あったからな。思い出深いもんだし。
神尾は今回西高だから、朋美の情報云々は必要ないからいいけども。まあ、見たらちょっと小突く程度にしてやろうか。
何はともあれ朝飯だ。遥香の言うとおりスクランブルエッグだ。あとサラダ。
「あ、隆君はブラックだよね。はい」
彼女さんがコーヒーを淹れてくれた。
「隆、このコーヒーはな、遥香ちゃんが父さんの為に淹れてくれたんだぞ~」
「解ったから冷める前に飲め」
有頂天の親父だった。もうデレデレである。
つか、付き合ってから何回か家に来て、何回か一緒に飯食ったんだが、その間もデレデレだった。あの胸にやられたのか?それともJKだからか?
「別にJKとのトークを楽しんでいるからって理由じゃないよ。ただ娘が欲しかったんだよ」
「何故俺の心を読める?」
本気でビビるよ彼女さん。おちおち夜のオカズにもできねーよ。
「別に我慢しなくていいんだよ?」
「お前なんかの修行やったのか!?」
的確過ぎて怖すぎだ。以前も思ったけど、俺ってこの人敵に回したら生きていけねーんじゃねーか?
「どうしたの?早く食べよ?」
いや、勿論食うけども。
何はともあれ、遥香の水着姿を網膜に焼き付けるべく、迅速に行動しなければならん。夜に色々活動する為にもな。
で、電車に揺られて暫し。ポッキーやらぼんち揚やらで旅を満喫して到着。前回に神尾と待ち合わせした喫茶店を通り過ぎ、漸く着いた温泉プールだ。此処は街外れなので、知り合いに会う機会は少ない。
なので、と遥香に問う。すんごい真剣な眼差しで。
「水着奮発しただろうな?」
「奮発って…ちょーっと際どい赤いビキニですよダーリン。真ん中に白いリボンが映えているやつ。これって奮発になる?」
高速で頷く。何度も。
「でもさ、ダーリンが望めば、水着も無しの状態を堪能できるんだよ?丁度近くにモーテルもあるし」
「お前は俺を挑発して何を企んでいやがる?」
健全な高校生なので興味はバリバリだ。引き返す事も考えていないので、流れに身を任せる事も出来る。
出来るが、まだお付き合いしてひと月経ってないでしょ?ちょっと早いんじゃない?俺ってヘタレなんだよ。知っているでしょ?
「私はいつでもウェルカムなんだけどなあ…彼氏がヘタレだと苦労するなあ…」
肩を落として溜息を付きやがった。いいだろ別によ。そんなヘタレの為に無間地獄に堕ちたのはお前だろうに。
「まあいい。早速入ろう。そして俺にお前の水着姿を堪能させてくれ」
「強引に話逸らしたようだけどさ、隆君がその気になったら、水着無しを堪能できるんだよ?」
「結局行き着く所はそこかよ!!いいから早く入ろう!!想像させんな!!俺は着替えに更衣室に行かなきゃならないんだからな!!」
ぐいぐいと背中を押して入場させる。ある一部分が変化したままでは着替えに手こずっちゃう。有無を言わさぬ強引さも、男には必要なのだ。
速攻着替えて中で待つ。前回は外のプールに浸かっていて、寒かったからの教訓だ。
「お待たせダーリン」
息を切らせて遥香が寄って来た。あの爆乳はバスタオルによって隠されてはいるが、万全じゃない。
証拠に野郎のスケベな視線が遥香に注ぎまくっている。
まあ、見るだけならいい。と言うよりも、見ただけでぶち砕く真似はしない。どんな狂人だと言う話になるからな。
「待っていないが待ち侘びた。その爆乳を少しでも早く見たかったからな」
「だからダーリンがその気なら」
「それはもういい!!兎に角中のプールに行こう。外は寒いからな」
そう言って手を取る俺。遥香が妙に嬉しそうだった。そして野郎共の舌打ちが、実に心地いい。
温泉プール故に温かいので浸かるように入る。遥香もそれに倣い、俺の隣に来た。
「あったけ~なぁ~」
流石に風呂とまで言わないが、気持ち良い温度だ。
「そうだね~。だけどひと肌はもっとあったかいと思わない?」
そう言って密着して来る遥香。オッパイバリバリ当たっている。
今回は彼氏彼女なので振り解く事はしない。つまり、存分に柔らかいおっぱいを堪能できる。出来るが、いろいろヤバい状態になりそうなので、気を紛らわす為に話を振った。
「ところでお前、色々調べているんだよな?」
「うん。と言っても、薬の方はやっぱりキツイかな」
だろうな。ああいう人種は臆病なもんだから。他人に危害を与えて自分は助かろうと言う糞だからな。
「今解っているのは、木村君が三年生に手こずっている事と、東工が荒れて来た事かな?」
木村が?まあ、糞の掃き溜め、西高の最高学年だ。一年、二年をぶっ叩いたように簡単にはいかないか。
「三年生はトップってのがいなくてさ。派閥って言うのかな?それが沢山ある訳」
頷く。俺的には向かって来た奴をぶち砕くスタンスだから、西高を掌握しようとは思わないからどうでもいいけど、相槌は必要だろ。
「派閥には二年も含んでいる場合も多くてさ。二年のトップを倒したと言っても、派閥に属している二年は無事な訳だから…」
「結構二年も踏ん張っているって事か」
流石の木村も全部掌握は出来ないんだろう。今の状態じゃ。
そう言えば、繰り返しの一年の時に、遥香が三年が卒業すれば木村もやり易くなると言っていたな。今思うとそれも含みなんだろう。
「隆君が大っ嫌いな先輩達はトップにくっついていたから。派閥には入っていなかったから、実質木村君の下になるね。そうは言っても仲間って訳じゃなさそうだけどさ」
そういや安田も木村の下っぽかったよな。仲間とはちょっと違ってはいたが、神尾と阿部もそうなんだろうか?
まあともあれ、折角プールに来たんだ。
「泳ごうぜ。イチャイチャしながら」
「あはは~。賛成」
と、言う訳でイチャイチャしながら泳いだ。つか、イチャイチャしながら泳ぐってのがイマイチ解らなかったので普通に泳いだ。
「く、クロール早い!」
おっと、泳ぎに夢中で遥香を置いてしまったぜ。
立ち止まり、遥香の到着を待つ。
頑張って俺の所まで泳いだ遥香だが、もうちょっとの所で壁に阻まれた。壁、と言うか男だ、男共だな。複数だから。
「おお~!!遠目から眺めていた時も思ったが、おっぱいでけえな!!」
いやらしい言葉全開で遥香に纏わり付く男。
「ち、ちょっと、彼氏と来てる…」
身を捩って抵抗する遥香だが、簡単に腕を掴まれて動きを止められた。
「彼氏?んなの知ったこっちゃねえよ。いいから俺達と遊ぼうぜ」
「何なら此処から出て行って外で遊んでもいいぜ。丁度モーテルもあるからな」
ゲラゲラゲラゲラと下品に笑う。うん。いいやぶち砕こう。そう思ってそいつ等に傍に行き、遥香の腕を掴んでいた糞の肩を叩いた。
「あ?」と凄みながら振り向く糞の顔面に、躊躇なく拳を見舞う。
「がああああああああ!?」
簡単に仰け反ってプールを鼻血塗れにした糞。ヤバいな。失敗したな。みんなが使うプールを汚してしまった。
なので今度は俺から凄んでこう言った。
「全員プールから出て俺に付き合って貰おうか?」
遥香が俺に身体を寄せる。そして驚いたように言った。
「隆君、こいつ等西高生!」
西高?こんな所に来てまで迷惑行為か?
「だったら尚更遠慮はいらないな。とっととプールから出ろ。出ないって言うなら力付くで叩き出す。その後とことん付け狙うぞ?」
半分以上本気の脅し。いくら修行しても、嫌いなモンは嫌いなのだ。
「…!!お、緒方!?」
ほう?流石は西高生。俺を知っている奴が居るとはな。
「俺を知っている奴がいるようだな。だったら俺の追い込みも知ってんだろ?後に糞面倒な真似をされたくなくなきゃって神尾!?」
逆に俺の方が驚いた!!神尾との邂逅は確かにこのプールであったが、繰り返し時の神尾は他県の人間。
まさか西高に行ってまで似たようなシチュで邂逅があるとは!!
「ひ、久し振りだな緒方…」
超及び腰で話し掛けて来た神尾。そこで俺は正気に戻った。
「神尾、取り敢えず仲間全員と一緒にプールから出ろ。断るなよ?そして逃げるなよ?」
一応穏便に言った筈だが、神尾の震えが尋常じゃ無くなった。まあ、中学時代のトラウマがあるからだろうが、気持ちは解らんでもない。
「聞こえたよな?おう西高の糞共、聞こえたよな?」
ただの確認だったが、西高の糞共も固まって動かなくなった。散々ぶっ叩いたから、納得の反応だが。
だが、このままじゃ埒が明かない。なので俺は溜息交じりで付け加えた。
「此処じゃ何もしねーよ。だが、断ったり逃げたりしたらする。それは言わなくても解るよな?」
苛立って頭を掻いている素振りをしながら言った。
「……わ、解ったよ緒方…信用していいんだよな?」
やはり及び腰で確認する神尾にちょっとイラついた。
「お前と違うんだ。約束は守る。つか、うだうだしてお茶を濁そうとしてんのか?だったら…」
「い、今出るから!!」
そう言って高速で出る神尾と西高生達。プールなのでバシャバシャやりながらだから高速では全然なかったが、雰囲気としてそうだったと言っておく。
さて、神尾と西高の愉快な糞共は、今プールサイドで正座中だ。
GWで多少のお客がいるのだが、その全てが好奇な視線を正座連中に浴びせている。等の糞共は俯いているので、そんな事解らないと思うけど。
まあいいやと話を始めた。
「この女子は俺の彼女だ。お前等は俺の女をからかって遊んだな?」
「い、いや…ほんの冗談…ぐふ!?」
糞が冗談と言った瞬間、そいつの腹に蹴りを入れて黙らせた。
「お、緒方…何もしない約束だっただろ?」
神尾が脅えながらも苦情を言う、そうだったが、心情ってのがあるだろ。
「冗談で自分の女をからかわれたんだ。ムカつくのも解るだろ?いや、お前は解らねーか?弱い者虐めしか出来ない糞だからな?」
黙って俯き直した神尾。その通りなのだから、言われても仕方がない。
「つか、冗談だよ冗談。お前等も冗談で遥香をからかったから許せって事を言いたいんだろ?だったら俺が冗談で腹蹴っても許すよな?まさかそれはそれ、とか言わねえよな?ああ、糞が?」
ついムカついて言葉が汚くなっちゃった。そのおかげで糞共は小っちゃくなって震えが酷くなったけど、そこは許して貰おう。別に許さなくてもいいけども。
しかし、逆に神尾が意外そうな顔を拵える。
「なんだ神尾?何か言いたい事でもあんのかよ?」
「……いや…お前なんか変わったか?」
何でそう思った?逆に怪訝になった俺に、神尾が被せて来る。
「お前なら話も聞かないでぶっ叩くだろ?特に俺がいるんだ。それなのに…」
ああ、自分が無事なのが信じられないと。まあそうだよな。以前の俺は顔見ただけでぶち砕くレベルで嫌いだったし。こっちの緒方君も然りだろう。
つっても、こいつに繰り返しや出戻りの事を言う気にはならないけども。
「そうして欲しいんならそうするけど?」
脅した(八割本気だが)途端に青い顔になって首を振った。好んでぶん殴られたい奴なんかいないから当然だが。
「隆君、そろそろギャラリーの視線が痛いんだけど」
遥香が俺の腕を引っ張る。
「それはお前のおっぱいが凄いから視線を集めているんだ」
「それも理由の一つだろうけど、それだけじゃないのも知っているよね?」
おっぱいが凄いのは認めるのか。実際凄いしな。細い身体によく映えるし。
「んじゃラウンジで軽食でも取るか。こいつ等のオゴリで」
言ったと同時に目を剥く西高生と神尾。俺の発言に驚いたんだろう。絶対に言わなさそうだし。
「詫びくらいしろよ神尾?」
「あ、ああ…それくらいでいいなら…」
言いながら他の糞共と目配せをする。糞共も頷いて了承する。
んで、ラウンジに到着したと同時に、尋ねて来る神尾。
「ど、どれがいいんだ?」
「あー…んじゃ、コーヒーとハンバーガー。遥香は?」
「じゃあ烏龍茶とホットドッグ」
大量に頼まれると思ったのか、糞共が小声で「それだけ?」とか言ったのが耳に入った。
お前等じゃねーんだから、無闇に
じゃあ、と注文しに行く神尾を止める。
「お前、電車で来たのか?」
「い、いや…単車だよ…」
「そうか。んじゃ他の糞共は帰れ。神尾はちょっと残れ。用事があるから」
神尾は心底嫌そうな顔をしたが、他の糞共は明らかに安堵した顔になった。
やっぱこいつ等糞だな。仲間が酷い目に遭うかもしれないってのに、嬉しそうになるんだから。
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