年末~010

 兎も角、項垂れながらでも言わなきゃならない。

「ま、的場は?迎えに来ている筈だ…」

「え?あ、ああ…的場さんは孝平の病院に行っているから、迎えは…」

 続けようとした検問の糞を押し退けて出て来たのは…

「……確か、夜舎王の旗持ち…だったっけ?」

「……夜舎王はもう無い。佐更木も黒潮から居なくなったしな。俺だけだ、お前が知っている元夜舎王は。つうか名前、憶えてねえのかよ?賀川だ」

 いや、お前の名前なんかどうでもいいから、覚える気全く無いし。

「孝平の病院に行くんだろ。迎えが俺だ。外に車を停めてある。それに乗れ」

 こいつが迎え?いや、別にいいんだが、俺は確かにこいつを庇ったが、別に気を許した訳じゃねーんだけど。

「ありがとうございます。助かります」

 横井さんがお辞儀でお礼を言った。え?じゃあこいつの車に乗らなきゃなんねーの?

「…アンタが孝平の女か。孝平好みの美人だな。えっと、後ろのお前等も行くのか?」

 大雅は特に辞儀をする事無く頷いた。玉内も特に辞儀せず頷く。

「そうか。ちょっと狭いと思うが、我慢してくれ。じゃあ来い」

 俺の微妙な感情を余所に、旗持ちの後ろに続く横井さん達。乗る気満々だった。

 俺だけ歩くのもアホらしいし、タクシーなんてお金が掛かるし、仕方がない、好意に甘えるか……

 外に出て旗持ちが乗り込んだ車、それはスポーツカータイプの車。

「4人乗りだが、無理すれば5人乗れるが、狭いからな。病院まで我慢してくれ」

 我慢はいいが、確かに狭い。後部座席いらねーんじゃねーの?

 ともあれ横井さん、早速乗った。後ろの席に。次に玉内。大雅は横井さんの逆側から乗った。よって横井さん、ど真ん中になる。

 じゃあ俺は…

「どうした緒方、早く乗れよ」

「………ああ…」

 本気で嫌だが、超仕方なしに助手席に乗る。確かにこいつを庇ったが、助手席に乗るほど心を許した訳じゃねーのに。

「シートベルトしたか?じゃあ行くぞ」

 そう言って普通に走り出す。こいつ暴走族じゃ無かったっけ?何でびゅーんって行かないんだ?

「免許取りたてだから、ちょっと緊張しているが、気にしないでくれ」

 ああ、自信が無いって事か。じゃあ無駄な雑談もしない方がいいよな。話す事なんかないけど。

「緒方、お前、南海の猪原を引退させたって?」

 俺は振らなくても向こうから振って来た。ちゃんと前向いて、大人しく運転していてほしいが、質問には答えよう。

「その猪原の後輩が、あのぼさぼさ頭だ」

 ルームミラーを見ながら。旗持ちもぎこちなく頷く。

「孝平が南海と友好協定結んだって言っていたからな、お前が倒したのも驚きはしないが」

 こうなると、大雅の存在が有り難い。黒潮の友好校だって事で、すんなりと事が運ぶ事があるからな。

「黒潮病院って、ここからどれくらい?」

 大人しく乗っていれば解るんだろうが、とりあえず聞いてみる。

「俺の運転で20分くらいか。さっきも言ったが、免許取立てだからよ」

 確かにそう言っていたが、意外だ。

「お前等って暴走族だろ?無免許運転とかしていたんじゃねーの?」

「俺はした事が無いからな」

 それも意外だ。お前等って好奇心のみを満たす生き物だろうに。車の運転は興味が無かったって事なのか?

 まあいいや、碌でもない事を聞かされたら殴っちゃいそうだし。

「悪鬼羅網は誰も捕まえていないのか?」

「ああ、今の悪鬼羅網は15人くらいのチームだが、まだ誰も」

「狭川が乗っ取ったんだっけ?」

「乗っ取ったのとはちょっと違うか…薬の件で一年抜かして全員逃げたからな。残った狭川達がスカウトして人数増やして…15人くらいになったんだ」

 狭川がわざわざスカウトして、か…

「その15人全員で河内一人をフルボッコにしたのか?」

 後ろの席から荷が固まった雰囲気を感じる。多分横井さんだ。

「そうだ。なんでいきなり襲ったのか解らねえけどな…動くんなら的場が引退した後だと、みんな思っていたから、対応が取れなかった」

 それは俺達もそう思っていた。的場引退後じゃないと動かない。報復で確実に負けるからと。

「……その悪鬼羅網は大洋の潮汐高校と同盟を結んだようですが、他に仲間はいますか?」

 大雅の質問。こいつ相手に敬語なんか使わなくていいのに。

「解らねえな。潮汐全部と同盟を結んだ訳でも無いようだし」

 リームミラーで後ろを見ていると、玉内が微かに頷いたのが解った。

 玉内が言っていたが、あそこは纏まりが無いから、全部は無いって事だろう。名前忘れたけど、2、3人しか挙げられなかったし。

 でも、暇な奴なら来るとか言っていたな。同じ潮汐のアホが言っていたから間違いない。

 そんな事を話していると、車が停車した。

「着いたぞ。言っておくが、先に行くなよ。孝平のガードは勿論、ウチの連中がウロウロしているからな。お前、殴っちまうだろ?」

 黒潮の連中が病院でウロウロしてんのか。まあ…殴るよな、俺だったら。

 なので旗持ちを大人しく待って、病院内に入った。当然先頭は旗持ち。途中行き会ったガラの悪そうな高校生が辞儀をしていた。

「お前、黒潮内で偉い立場なの?」

「いや、あの件以来、俺は裏方に回ったから、立場も何もだ。単純に先輩だから頭下げたんだろ」

 そうなの?そうじゃないような気がするが…普通に慕っていたような感じがしたが……

 裏方の仕事ってのがどんなもんか知らんが、それに助けられた連中が結構いるって事じゃねーの?俺は心は許さんからあんま関係ないけども。

 河内の病室は3階だそうだ。

 旗持ちを先頭にズンズン進む。その間も院内をウロウロしている奴等が旗持ちに辞儀をしていた。

「あいつ、意外と慕われているようだな」

 玉内がボソッと言う。憧れに似た表情を以て。

「あんな糞に憧れるとか、黒潮も本気で糞だな」

「過去、お前と何があったか解んねえけど、改心したんだろ」

 多分そうだろう。そうは言っても俺の中では比較的マシな糞とのの位置づけには変わらない。

「ん?特攻服着ている奴等もいるいんだな?」

 こっちは黒潮じゃない、連合の連中だ。

 そいつ等が俺を発見すると、青い顔にチェンジしてそそくさと退散する。

「……お前、本当に何をした?マジで詳しく教えてくれ」

 詳しくも何も、人身御供にしただけだ。あと、ふざけた物言いをした糞をぶち砕いただけだ。特別な事は何もしていないぞ。

「つうか、お前も相当無茶やっただろ。さっきぶち砕いた連中、お前にビビっていたじゃねーか」

「そりゃ、潮汐で暴れたって事はそういう事だから……」

「そんなお前の答えも、俺は知っている。『特別な事はしていない』だろ?」

「………………そう言われるとなぁ……」

 解って貰えて何よりだ。お互い自分にとっては当然の事をしただけに過ぎないのだから。

 違うのは、お前は改心して喧嘩を辞めたが、俺はあんまり変わらないって所だけだ。

「…着いたぞ。孝平はこの中だ。個室になっているが、そんな深刻な状況じゃない。救急で搬送されたから、一時的に入っただけだそうだ」

 個室のイメージは重傷扱いだからな。だけど楠木さんも最後の繰り返しの時、捻挫程度で個室にいたのだ。俺は慣れたもんだ。

 ともあれ、ノックすると、奥から「どうぞ」との声。的場の声だ。

 ドアを開けると、横井さんが先頭でゆっくり入って行った。「千明さん!!?」と病院なのに、デカい声を挙げたのは河内だろう。

 次に大雅、その次に玉内を押し込める。そして俺も入ろうとしたが、旗持ちが振り返っている姿が目に入ったので脚を止める。

「お前は入らねーのか?」

「俺の役目はお前等を迎えに行く事。終わったら、元の仕事に戻るんだよ」

「元の仕事って?」

「悪鬼羅網の検問だよ。的場はもう諦めたようだが、俺からも一応頼む。この件は黒潮と連合に預けさせちゃくれねえか?お前には関係ない話だろうが、舐められたままじゃ戴けねえ」

 うん。そう言うと思ったが、俺はこう返すのみ。

「お前等の仲間に伝えてくれ。俺達の姿を見たら逃げるようにって。悪鬼羅網と勘違いしてぶち砕いちゃうから」

 溜息をついて頷いた。こいつも諦めていたようだな、うん。

 ともあれ、俺も入室する。すると、驚くべき光景が。

 横井さんが河内を抱きしめていて、河内が超キョドって目を泳がせていたのだ。

 これチャンスとか思わなかったのか河内!!お前ってそんなキョドるキャラじゃねーだろ!!

「え?緒方…ま、まあそうか…バレたんだしな…ち、千明さん、そろそろ離れて……」

「……この期を逃したら、君に抱きつく事はしばらく無くなるわよ。それでもいいのかしら」

「いや、やっぱそのままで」

 個室とは言え、病院の中で大笑いしてしまった。これは反省しなければならない。

 そして俺は的場に目を向ける。

「的場、こいつ、南海の大雅。一応猪原の後釜ってポジだけど、今のところはただの派閥の頭」

 一応河内にも意識を向けて紹介した。的場とは一回会って、つうか戦った事あったんだっけか?

 そこで猪原に助けられて心酔したんだっけかそう言えば。

「……猪原の後輩か。じゃあこいつも相当やるのか?」

「大雅は相当やるだろうが、猪原は別に…」

 カクッと項垂れる大雅。的場も微妙な表情。

「猪原は喧嘩は強くなかったけど、そうじゃねえだろ、あいつの怖い所は……」

「いいんだよ。引退した奴の評価なんか。少なくとも俺には全く関係ない」

「お前が引退させたんだろうが…関係ねえって事はねえだろ…」

 呆れられるが、本当に俺に関係ないって思うんだから仕方がない。関わろうと考えたらマジでぶち砕くし。

「で、こいつ、元潮汐の玉内。今はボクシングに励んでいるから更生したんだな。練習試合で俺と互角に殴り合った奴だ」

「緒方と互角に殴り合った!?」

 声を挙げたのは的場じゃ無く河内だった。的場の方も呆けた顔をしてはいたが。

「互角に見えて、内容は完全に負けているって言っただろ。お前の方がキャリアが長いんだから」

「そ、それでも信じらんねえよ…緒方とまともにやり合ったとか…」

「いや、だから、ボクシングの練習試合だから。喧嘩じゃない、スポーツでだから」

 玉内と河内の和気藹々(?)に、口を挟んだ的場。

「お前等は緒方を止めに来たのか?助っ人か?」

 空気が固まったような個室。だが、発した河内に注目が移った。

「……悪鬼羅網、つうか、狭川は俺がやる。お前にもそう言って納得して貰った筈だ」

 結構な凄みを以て。

「そんな様でよく言うぜ。お前は大人しく寝てろ。折角彼女が見舞いに来てくれたんだし」

 流石に離れていた横井さんに目を向けて言った。

「……そうだけどよ、俺にも借りを返したいって気持ちがあるんだからよ…」

「俺が殺した後にやりゃいいじゃねーか。言っておくが、もう無理だ。お前も何となくそう思ているんだろ?」

 俯いて言葉が出ない河内。無理だって事は薄々承知していたように。

「……さっきの質問だ。お前等は緒方を止めに来たのか?助っ人か?」

 再び的場が問う。答えたのは大雅。

「どっちもです。緒方君はやり過ぎるから、最悪の事態を避けるために。そして数も結構あるんでしょうから」

 次に玉内。

「やり過ぎを止めに来たんだが、正当防衛で当然参戦する事になる」

 的場が頷いた。その目的でついて来たのは読んでいると言った具合に。

「じゃあ次の質問だ。お前等は本当に緒方を止められるか?」

 なんのこっちゃか解らんと。顔を見合せて首を傾げていた。

「……コウ、お前、緒方の本気を見ただろう?」

「あ、うん。こいつ、危ないって評判だけど、本気のこいつはそんなもんじゃない、止めるつもりなら文字通り、身体張らなきゃいけねえ。最悪こいつをぶっ潰すって覚悟が無きゃいけねえ。お前等にその覚悟はあるか?」

 ああ、マジ殺す俺は河内にしか見せなかったしな。不安は解るよ。俺が本当に殺すかもしれないって言う不安は。

「……東工の事は生駒から聞いた。大沢曰く、その状態になったのは中学以来だそうだな。猪原さんの時は甘すぎるって言っていたから」

「そいつの本性はそれだ。多分、今回もそうなる」

「それは解らないだろ?」

「いや、確実にそうなる」

 確信があるみたいだな。狭川をやる程度でそこまで警戒するか?

「……俺も悪鬼羅網と事を起こす程度で殺す殺さないの話になるとは思えないが、コウがやたらと心配してな…だから、お前等に自信が無いのなら、俺が同行する」

 的場にしゃしゃり出られちゃ、狭川を殺せねーじゃんか。

「お前はもう少しで引退すんだろ。大人しく河内のおもりでもしていろよ。大雅、玉内、行くぞ」

 これ以上此処に居たら止められて終わっちゃう。何の為に来たか解らんようになってしまう。

「待て、緒方、悪鬼羅網は連合の検問にも引っかかってねえ。千畳は黒潮の外れだが、そこも張っているが姿を見せねえ。何処に隠れているのか見当はついてんのか?闇雲に捜しても見つからねえぞ?」

 俺はゆっくりと振り返り、的場を見た。

「まあな」

 この発言には的場も面食らった様子だった。因みにハッタリじゃない。結構自信があったりする。

 今度こそ出ようとドアノブに手を掛ける。

「待て、大雅。と、玉内、だっけ?」

 今度は河内に呼び止められる。なんだって言うんだ全く。

「……緒方をマジで止めてくれ。二人がかりで、ぶん殴ってもだ」

 なんか鬼気迫る迫力でそう言われた。

「……任せてくれ」

「……そのつもりで来たんだ。安心しろ」

「緒方君。私は終電に間に合うように帰るつもりなのよね」

 いきなり入って来た横井さん。流石に病院に泊まらないだろう?

「そうだと思っていたけど、それがどうしたんだ?」

「だから、緒方君達もその時間に間に合うように戻って来て。まさか私一人で寂しく帰れとは言わないでしょう?」

「え?でも、当てが外れたら捜さなくちゃいけないから…」

 無理だ、と言う前に、大雅が答えた。

「解った。戻ってくる」

「おい」

「そうと決まれば時間が惜しい。その心当たりに早く行こう」

 玉内も同意してとっとと病室から出た。大雅も躊躇なく続く。

 何なんだと思いつつも、俺も慌てて後を追った。

 病院から離れたところで、さっきの疑問を口に出す。

「なんで横井さんに断らなかった?当てが外れたら捜さなきゃいけねーだろ?」

「そりゃ、俺達も帰らなきゃいけないからだよ」

 大雅があっさりと。いや、お前等は大洋だからそうだろうけども……

「お前一人残していくとか、あり得ないだろ。関係無い奴までやっちまう」

 玉内もあっさりと、いや、多分間違いなくそうなるけども……

「だから、緒方君の心当たりが外れたら、病院に帰るからな」

「そうだな。お前は兎も角、横井さんだっけ?彼女を一人にするのは駄目だ。一人で帰すのも論外だ」

 え~……だったら俺一人で来た方が良かったような…ああ、お前等俺の監視だっけか。そりゃあそうなるよな……

 項垂れて一人、奴等と離れてトボトボ歩く。

「遅いぞ緒方君、心当たりは君にしか解らないんだ」

「それもそうだが、俺達は土地勘が全く無い。お前が案内しないでどうする」

 はいはい、と気持ち小走りになる。これで俺が先頭に立った形となった。

「その心当たりは此処からどのくらいだ?」

「えっと、多分小一時間」

「タクシー捕まえるか?早く着けるぞ」

「お金が勿体ないから却下だ」

 なんであそこに向かうのにそんなにお金を掛けなきゃいけないんだ。ぶっちゃけ連合をとっ捕まえて送らせてもいいけど、そうなったら的場にバレるからやんないだけだし。

 そして歩く事暫し、マジ小一時間。

 ついに到着した的場の家に向かう所にある、資材置き場。

「ここか?」

 頷く。

「ここからちょっと奥に行けば、的場の家だ」

「的場さんの家って、なんでそれが心当たりだ?」

「悪鬼羅網が河内を襲ったって事は、的場と確実に揉めるって事だ。だったら先制して奇襲を仕掛ける。あいつら、本当なら的場引退後に動くつもりだったんだ。それが何の理由か解らんが、今仕掛けた。つう事は、的場もやっちまおうって考える筈」

 成程と頷く二人。

「的場さんを襲うって事は考えつかなかったから、此処はノーマークだったって事か、だったら居るんだよな?」

 居る。間違いなく。狭川は危険だから、直接的場モータースに奇襲を仕掛けるかもしれないが、この資材置き場なら結構な人数が居ても大丈夫だろ。

 だから俺は声を張る。

「狭川ぁ!!出て来い!!糞仲間の悪鬼羅網諸共ぶち砕いてやる!!!」

 冬なのを加味しても、真っ暗な資材置き場。だが、人影くらいは解る。

 その数、ちゃんと数えた訳じゃないが、15くらい。全員何かしらの武器を持っている。

「やっぱりここだったか、狭川あ!!!!」

 一つの影が、ゆっくりと寄ってくる。あの危険な気配を纏わせた、狭川晴彦が、俺の拳の間合いから少し外れた所で脚を止めた!!

 あのムカつく笑みを浮かべながら、狭川が口を開いた。

「まさかここに来んのが緒方君だとは思ってもみなかったけどさぁ?何しに来たんだ?河内の仇?そんなキャラじゃねーよなアンタ?」

 大袈裟にゲラゲラ笑いながら。ムカついているのに拍車が掛かり、もう殺そうを一歩踏み出した。

 だが、狭川は大きく後ろに跳んだ。ダッシュで詰められても対応できる距離を作った。

「まあ待てよ緒方君。ちょっと世間話でもしねえか?」

「聞きたい事があったら、お前をぶち砕いた後、病院でゆっくり聞くから関係ないな」

「いいからいいから。緒方君、アンタ、不思議に思わなかったか?なんで今、河内を襲ったのか。連合と構える真似をしたのかよ?」

 それは確かにそうだ。だが、世間話をしに来た訳じゃない。

「言いたいなら勝手に話せばいい。俺は俺で勝手にお前を殺すだけだ」

 あからさまに肩を落とした狭川。でっかい溜息まで付いて。

「よぉ。お仲間の二人。ワリィけど、ちょっと緒方君を押さえてくんねえか?話も出来ねえよこの人」

 俺に指まで差して。呆れ顔でそう言った。

「話す事なんかあるのかよ?お前は殺す。その仲間も殺す。それだけだ」

 また一歩踏み出した。しかし、玉内が前に出てきて、それ以上の歩みを止めた。

「おい」

「……興味深い話が聞けるんだろうな?」

 玉内は話を聞きたいのか?どうせぶち砕くんだから、あんま関係ないと思うが。

 狭川は大きく頷く。そしてやはり小馬鹿にしたように言う。

「アンタはちょっとは融通が利きそうだな?とてもそんなツラには見えねえけどな。緒方君とよくツルめたな」

「いいから言え。さっきもちょっとこいつを押さえたが、今はさっきの比じゃねえくらいに高ぶってんだ。余計な挑発はすんな」

 まあ、白浜に来た潮汐の糞をぶち砕いた時よりもキレているから、そう思うのは当然か。

「それもそうだな。狂犬緒方を止める役で同行した、アンタ等の御苦労を労うために話そうか。つってもアンタ等はなんのこっちゃか解んねえと思うけどな」

 ……大雅と玉内には知らない話か?だったら朋美関係か?

「俺は確かに的場引退後に動こうとした。潮汐の連中や、南大洋のはぐれ者と同盟を結んだのは、確実に全県を取る為だ。的場引退後なら連合も烏合の衆と化すだろうし、俺達に寝返る連中も出てくるだろうから、楽に事を進められると思ってな」

 ふん。読み通りで泣けてくるぜ。組織をデカくして安心確実に取ろうって事だろ?

「だけどな、それを許さねえって女がいんだよ。早く緒方君の女を殺せって、せっつくんだよ。断ったら俺が死ぬ。だから仕方なしに動いたんだ」

 狭川に遥香を殺せって命令したのか!!

 拳を固く握ったのが自覚できた。

「ああ、言っておくけど、そっちの女じゃねえよ?幼馴染の方だ。緒方君の彼女は確かに脅威だが、あいつは幼馴染の方を危険視していたからな。だから殺す。これ以上邪魔させないように」

「……確かに俺達には何の事かさっぱりだな。それを河内にも話したのか?」

「話したよ。何処まで踏み込んでいるのか確かめる為にな。そしたら腕折ったにも拘らず、向かって来てよぉ…救急車呼ぶ羽目になっちまったよ…っ!?」

 もういい。もう解った。河内はこいつと俺をやらせないように頑張ったんだ。奇襲で腕を折られても、俺の為に孤軍奮闘して病院行になったんだ。

 だったらお前も病院で後悔しろ!!つうか、霊安室に直行しろ!!

 前に立ち塞がっていた玉内を吹っ飛ばしてダッシュした。流石に狭川は面食らった顔を拵えていた。その間抜け面、ぶち砕いてやる!!!

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