年末~009

『……そっちもなんかあったようだな?』

「おう、潮汐が攻めて来た。じゃあ悪鬼羅網も動くだろ?」

『……潮汐?俺が仕入れた情報じゃ、南海の牧野派って所が…』

 牧野も来ていると言おうとした矢先――

『猪原の下に居た二年を吸収して、デカくなったから狭川が同盟を申し入れたっつう話だぞ』

 ビックリしてスマホを落としそうになった。木村が言った通りの事が起こったか…

『どうした?』

「…いや、何でもない。悪鬼羅網は?河内は何処の病院に入院した?」

『黒潮病院だ。奇襲で袋喰らってよ。命には別状は無いようだが、腕とあばら折ったな。悪鬼羅網はまだ黒潮から出てねえ。連合が検問張っているからよ…』

 そうか。じゃあ…

「悪鬼羅網に手を出すな。そいつ等は俺が殺す」

『……コウからお前には絶対に言わないでくれと頼まれたんだが、俺は話した。この件は連合に預けさせてもらうつもりでな』

 悪鬼羅網は渡さないって事か。だが関係ない。

「じゃあ俺は俺で勝手にやる」

『待て緒方、これはウチの問題…』

 これ以上は聞かない。動くなとしか言わないだろうから。

 なので俺は通話を終えた。そして河内に起こった事をみんなに話した。

 全員動揺した。特に横井さんが。

「そ、そんな…河内君が…」

 遂には泣き出す。声は上げなかったが、意外だった。

「横井さんがそんな感情も見せるとは…」

「当たり前でしょ。仮にも彼氏が入院したんだよ?」

 こそっと呟いたのを遥香が拾ってこそっと返した。

「大雅、南海の猪原の下についていた奴が、牧野に鞍替えしたらしい。誰か解るか?」

「……断定はできないけど…長野と木村に連絡して注意を促す。さゆ、頼む」

 橋本さんが頷いてスマホをピコピコ、これも意外だった。

「お前が連絡すると思ったぞ?」

「俺はこれからやらなきゃいけない事が出来たからな。連絡はさゆに全部任せる。さゆ、別の情報が入ったら俺に回して」

「うん、解った」

 そう指示を出してアウターを着る大雅。そして長い皮袋を持った。

「なんだそれ?」

「これか?中に竹刀が入っている。カーボン製の竹刀だから、簡単に折れる事は無いし、そこそこ威力もある」

「いやだから、そんなモン持ってどこに行くんだよ?」

「黒潮に行くんだろう?君がやり過ぎないように付いて行くんだよ」

 ストッパーだから、役目を果たそうって事か。それに、単純に俺の助っ人か…

「お、緒方君、マジ行くの?なんか物騒な事になっているのに?」

 鮎川さんがおっかなびっくり訪ねてくる。

「河内の仇を取るのは勿論、狭川は敵だからな」

 いずれやらなきゃいけない相手。予想よりも早かったが、まあいい。河内に譲るつもりだったが、こうなれば仕方がないからな。

 そんな俺の肩を叩いて振り向かせたのは麻美。

「やり過ぎはよくないからね」

 行くなとは言わないんだよな、お前は。流石は麻美、こうなればブレないのが俺だ。

「大雅も一緒だからな。大丈夫だろ」

「ちょっと待って。悪鬼羅網がこのタイミングで動くのはおかしいよ。何かあるのかも。だから情報を集めるから…」

 やっぱり行かせたくない様子の遥香だった。情報が揃っていればまた話が違うんだろうが。

「確かに的場完全引退までは動かないと思っていたけど、こうなったんだ。無理なのも承知だよな?」

 溜息を深くつかれた。諦めていたんだな、うん。

「…玉内君、一緒に行ってくれる?」

 止めないで玉内に同行を頼むとは。つか、それは駄目だろ。

「玉内は更生したんだ。こっちの事情に巻き込「いいよ、そのつもりだったし」ええええええ~……」

 台詞に被せて行くつもりだったとは…喧嘩になったら巻き込んじゃうから駄目だってのに。

 その旨を言うと、いやいやと首を振る。

「喧嘩はしないよ。俺がやるのはあくまでも正当防衛だ」

「それってやるって事だよな!?」

 もう完璧にやる気だろ、それ。お前練習生とは言えボクサーなんだぞ!?

「喧嘩に拳を使うのか?ボクサーのお前が?」

「だから、正当防衛のみだって。つか、お前も普通に拳使っているだろ?人の事は言えないだろ」

 確かに俺も練習生だし。だけどお前とは明確に違うんだよ。俺は喧嘩の為にボクシング習ってんだ。

「それに、みんな危惧しているんだ。お前のやり過ぎに。大雅だけじゃキツイかもしれないし」

 いや…うん。そうかもなぁ……

 ここで前に出てくる横井さん。酷く決心した表情で。

「私も連れて行ってくれないかしら?」

 その申し出に全員仰け反る。

「あ、あの、今から行くところは完全敵地で…」

「黒潮駅だけでいいわ。あとは自分で勝手に行くから」

「ど、どこに?」

「黒潮病院。河内君、そこに入院しているんでしょう?」

「病院に行くって?だけど、西白浜駅に行かなきゃいけないんだぞ?途中敵に遭遇したらどうすんだ?」

「緒方君が守ってくれるんでしょう?親友の河内君の為に」

 い、いや、そりゃそうするけどさ、俺は危ないからやめといた方がいいって言ってんだけど……

 やはり遥香が溜息をついてスマホをピコピコ。

「あ、槙原です。はい。そういう事になりました。つきましてはお願いが…」

 誰かに電話しているようだ。そして程なく、通話を終える。

「黒潮駅に的場さん、迎えに来てくれるから」

 ………ん?

「的場が俺達を迎えに?」

 いやいやと首を横に振って否定。

「横井を、だよ。隆君達はオマケ」

 な、成程、的場に横井さんを守って貰おうと…

「後輩の彼女さんだもの、心配になる気持ちは理解できるでしょ?で、病院まで連れて来てくれたら、あとは誰かがガードについてくれるって。河内君の寝こみを襲う輩もいるかもだから、黒潮の誰かか連合の誰かがガードしているから、ついでにって」

 ああ見えて黒潮の頭だからな。ガードはある意味当たり前か…

「ありがとう槙原。じゃあ行って来るわね」

 そう言ってコートを着た横井さん。マジで行くようだ。気持ちは解らんでもないが…

「正輝、ちゃんと横井さんを守るんだよ」

「任せろ」

「え、えっと、玉内君だっけ?えっと、頑張って」

「うん?ああ」

 大橋さんが大雅に釘を刺すのは解るが、鮎川さんが玉内を激励する意味が解らん。

「ダーリン」

「隆」

 彼女さんと幼馴染さんに呼ばれてそちらを向く。そしたら二人共、親指を突き出して笑いながら――

「「殺さないで勝って来てよね!!」」

 そんなにいい顔で送り出されちゃ…

「俺はまったく自信が無いが、大雅と玉内が止めてくれるから大丈夫だろ」

「「やっぱり行くな!!」」

 本心を述べたら今度は止められた。

「だってまったく自信がねーんだから」

「ホント、ダーリン素直だわ…」

「馬鹿なりの長所なんだけど、仇になり過ぎだよね…」

 二人とも頭を抱えて頭痛を堪える仕草。つか、誰が馬鹿だ。

「……正輝、緒方君を何とかして止めるんだよ?」

「……正直自信が全く無いんだけど…」

「……玉内君、大丈夫?」

「え?ああ、うん…うん…」

 困った奴等だな。頼るになるのかならんのか。お前等が止めないのなら、俺は暴れ放題になるんだぞ?だから気張って止めろよな。

「そろそろ出たいんだけれど、いいかしら?」

 横井さん、このグダグダに我関せずで、自分の要望を述べた。この人も結構な胆力だよな。だから河内を預けられるんだけど。俺の平和の為に。

 ともあれ、せっつかれたので、仕方なく出る。 

 西白浜駅には敵が沢山いる筈。遭遇戦は避けられない。横井さんの安全を第一に行動しなくちゃな…

「……緒方君、早速居るよ。やって行くか?」

 カラオケ屋から少し歩いた先に、ガラの悪そうな奴等がこっちに向かって走っていた。

 なんか焦って逃げている様な?

「既に誰かにやられた後か」

 玉内がそう言って納得した。誰かにやられて逃げている最中なのだと。

「つか、あれ南海生か?」

「いや、南海じゃない。潮汐だろう」

 まあいいやとこっちに向かって走ってきた糞が、丁度間合いに入ったので、右ストレート一閃!

 糞は虚を突かれた攻撃を喰らって簡単にダウンした。失神までした。

「な、なんだテメェ!いきなり!!」

 仲間が流石にざわめいた。5人程度瞬殺だが、その前に…

「!玉内!?なんで白浜に居る!?」

 玉内を見てビビる糞共。そういやこいつ、相当無茶やったんだよな。話によれば俺程じゃねーらしいけど。

「なんでも何も、ダチが遊びにこいって言ったら向かうだろよ。お前等はどうも違うようだがな…?」

 凄む玉内にビビって下がる糞共。このまま逃げちゃいそうだな…

 その雰囲気を察知して、大雅がさり気なく後ろに回った。これで糞どもの退路は絶たれた。

「た、玉内のダチ?テメェにダチなんかいる筈もねえだろうが?」

 じりじり下がりながら毒付く糞共。その後ろの大雅が此処で声を出す。

「彼にも当然友達は要るだろう。俺然り、あそこの緒方君然り」

 大雅にビックリして振り向く。

「南海の大雅!?」

「なんでここに居るんだ!?誰か情報を洩らしたのか!?」

「い、いや、それよりも、今緒方とか言わなかったか……?」

 ゆっくり、ゆっくりと、俺の方に顔を向けた。

 それとほぼ同時に別の糞に左ストレート!!

「がはっ!?」

「いきなりやりやがった!!!」

 どよめくなよと、ダウンしたそいつに蹴り。絶叫宜しく転がりまわる。鼻っ柱を蹴ったからなぁ。

「何か聞きたかったが、まあいいや。面倒だから殺そう」

 手加減無く、蹴った鼻に再び蹴り。鼻血が弧を描いた。

「ちょっと待て緒方。何か聞きたかったんだろ?」

「そうだよ緒方君。残りの三人は口が利けるようにしとかないと、後悔するぞ?」

 だから面倒って言っただろ。まあ、お前等は俺を止める役目で同行したんだから、当然そう言うよな。

 だけど、こうなったら関係ねえが俺だ。

「全部殺せば問題も無い。目に映った糞を殺しまくればいい」

 なので別の糞の懐に飛び込んでの右アッパー。

「!!!!!!」

 声も出せないか。顎を割った手応えがあるからな。ダメージも相応だろ。

 倒れ行く糞に追い打ちの打ち下ろし……の前に、玉内が俺を羽交い絞めにした。

「いや、俺も大概だが、お前はそれ以上だな…」

 呆れかえる玉内、すんげえ力で押さえられている。これを振り解くのはかなりの骨だ。

 そんな時、横井さんが俺の前に出て、咎めるように視線をぶつけた。

 そ、そうか、女子が居るのに、こんな真似は…

「緒方君、私は早く黒潮に行きたいのだけれど。この人達に用事があるのなら、とっとと済ませて頂戴、無いのなら早々に潰して頂戴」

 全員真っ青になった。糞共どころか、玉内も大雅も。

「よ、横井さんがそんな事言うのは意外だけど…」

 流石の俺も面食らった。だが、当の横井さんは涼しい顔。

「この人達が河内君を入院させた人達の仲間なのでしょう?ならば私の敵でもあるでしょう。今更何を言っているの?」

 い、いや、そうだけど、横井さん、河内を邪険にしていたよね?着信拒否までしているよね?

 そんな横井さんがそんな事を言うのは信じられんって事なんだけど…

「どうしたの?用事はないの?だったら…」

「い、いや、聞きたい事はある。大雅」

「お、おう。お前等は潮汐の奴等だな?何人くらいで来ている?」

 うまく言葉に出せない俺の代わりに、大雅に振った。俺は何つーか、言葉が出なくなったから…同じじゃねーかよ、それ。

「え?あ、潮汐は全部で50くらい…」

 咄嗟に答えた感があるが、其の儘進めて貰おう。

「聞いた名は新田と伊藤。それ以外には?」

 こいつ等が来ているだろ?今更何聞いてんだ?

「す、助っ人で三浦…」

 三浦と聞いて玉内の眉尻が上がる。

「有名なのか?」

「まあな。凶器を躊躇なく使う狂人だ。お前程じゃないけど」

 俺の方が狂人だってか?全く否定はできないが。

「お前等は駅の方角から来たよな?これからも増援はあるのか?」

「暇な奴は来ると思う…」

 項垂れてそう言う。だが、そんな言葉を聞いたからにゃ、ムカつきが加速する訳で。

 玉内の拘束が緩んでいたので、振り切ってそいつにダッシュし、頬を貫いた。手加減なしで。

 口の中を派手に切ったのだろう。吐血のように血を吐いて其の儘気を失った糞。

「緒方君。まだ聞いている最中だろ?」

「もう一人いるだろ。そいつから聞けよ」

 再び玉内に拘束された俺。まあ仕方ないが。

 その残ったもう一人が、超ビビって超小っちゃくなって項垂れた。だが、恨み言を呟いた。

「正直に話しているのに、ぶん殴るかよ、普通…」

 だからな、そんな事言われちゃ、関係なくなるんだよ俺は。 

 馬力で玉内を振り切ってぶん殴ろうとする前に、大雅がそいつをぶん殴った。

「がっ!?」

「緒方君、君にこれ以上はさせられない。情報源を失ってしまう。情報が無いと後手に回る」

 多分だが、既に乱闘しているであろう木村も聞いていると思うが。

 そして大雅がそいつを睨む。俺もちょっと驚いた。

 大雅の殺気が凄かったからだ。こんな殺気を向けられる奴、そうはいない。

「……大雅も結構な場数を踏んでいるようだな…」

 玉内も大雅の殺気を感じ取って驚いている。甘いと思ったが、やる時はやるタイプだ。それも壊す事を前提にする奴だ。

「……余計な事は口に出すなよ。聞かれた事だけ答えていればいい」

 焦って何度も頷く糞。確かにその通り、余計な事は口に出さない方がいい。尤も、聴取が終わったら普通にぶち砕くけど。

「南海生も結構混じっているようだが、誰が来た?何人くらいだ?」

「に、人数は解らねえけど、牧野派の連中と、猪原派から抜けた城山…」

 舌打ちする大雅。嫌悪を露わにして。

「城山って?」

「……柔道部の2年で、66Kg級のホープとか呼ばれていた奴だ。2年に上がってから試合ではあまり勝っていない。伸び悩んで少し荒れていたかな」

 限界を感じて糞に転落したのか。世界一どうでもいいけど。

 だけど、名前が出たって事は、そこそこ知られている奴なんだろう。警戒は必要だ。俺は目に入ったらぶち砕くから、警戒も何もだが。

 今までの内容を伝えるよう、ラインをピコピコ。そしてスマホを閉じて俺達を向く。

「さゆに通達を頼んだから、もう行こう。こいつ、どうする?」

「どうするもこうするも…」

 ぶち砕く、と言う前に、玉内が俺の拘束を解き、そいつにダッシュ。そして右フックで頬を貫く。

「ぐあっ!!」

 ダウンを奪ったのはいいが、玉内の拳にしちゃ、ダメージが少ないような気がするが……

「緒方の代わりだ。感謝しろ。緒方ならお前、確実に入院させられていたぞ」

 倒れながら頬を押さえて何度も頷く。俺だったら頷く体力も気力も残さないから、玉内の言っている事は正しい。

「終わったかしら。じゃあ行きましょう」

 こんな状況なれど、全く関係なしかよ、横井さん。結構怖いなこの人。

「……河内の彼女も胆が据わっているな…」

 大雅が慄くように呟くも…

「お前、河内知ってんの?」

「一度だけ会った事がある。君の評価であまり期待していなかったけど、結構男気がある奴じゃないか」

 そ、そうかな?チャラいナンパ男だって思わなかった?

 その時は女子が近くに居なかったのかな?野郎共だけならウザキャラじゃないからなぁ…

 そんなこんなで駅に到着。すると、検問よろしく西高生がたむろって改札口を凝視していた。

 なんでぶち砕かないって?そこに福岡が居たからだ。

「おい福岡、さっき5人ほど逃げていたぞ。一人を除いて病院行にしたけど」

 唐突に話掛けた俺に、西高生全員が振り向いて凄むが、俺だと解った瞬間高速で目を反らせた。

「な、なんだ、緒方君かよ。ああ、裏に引っ張っぱろうとしたら、逃げられてよ…」

 その福岡も目を泳がせている。こいつ等福岡派じゃないから、無駄に口を開かない様にって事なんだろう。

「もっと来るかもしれないから、増員した方がいい」

 大雅が前に出ると、安堵した空気。

「大雅君も来たのか…じゃあ、その、緒方君、止める役なんだろ……?」

「その役目で同行したけど、ちょっと自信が無いな…」

 肩を落として落胆したように。お前が頑張らなきゃ、玉内の負担が増えるだけだ。だから頑張ってほしい。

「緒方君、丁度電車が来る時間のようだったわ」

 世間話ししないでチャッチャと行こうって催促だな、コレ。

「…えっと、河内君の彼女だっけ?写メだけだから自信ねえけど、どこ行こうってんだ?」

 口を開こうとした大雅を止めて、俺が話した。

「横井さんを送って行くだけだ」

「そうか、今物騒になってっからな…女子一人じゃヤバい事になりそうだしな」

「納得してくれて何よりだ。じゃあ俺達は行くから」

「お、おう…」

 微妙なれど送り出す福岡。丁度電車が停車したので乗り込む。

「結構空いているな、座れるぞ」

 そう言って横井さんを奥の席に送り、通路側に座る玉内。

「なんでその席?」

「万が一、襲って来る奴が居ても、俺が最初に当たる事になるからな。だから大雅、お前も当然通路側だ」

「そうだな。緒方君を自由にさせたら、俺の心労がヤバい」

「俺、じゃねえだろ、俺達だ」

 いや、俺が物騒なのは否定しないが、お前等も大概…って訳じゃ無かったな。少なくともあの5人に対しては。

「それはそうと、なんで理由を言わなかったんだ?」

 着席した途端、玉内に訊ねられる。いや、ちゃんと言っただろ?横井さんを送るって。

 ただ、どこに送るか言わなかっただけでな。送った後どうするか言わなかっただけで、嘘は一切言っていないし。

「そんなの決まっているだろ。説明に時間を割きたくないのと、言ったら絶対に止められるからだ」

 大雅が俺の真意を代弁した。まあ、概ねその通り。

「緒方君、今更聞くのもなんだけど、河内君と戦った事は無かったのよね?」

 横井さんのいきなりの質問。喧嘩の話なんか聞かなかっただろうに、何故今更?

 ともあれ質問に答える。

「無い。喧嘩を止められた事はあるけど」

「ああ、何となく聞いた記憶があるわね。生駒君と戦った時の話しだったかしら?」

 頷く。尤も、止めたのは生駒とのバトルじゃない。佐伯の糞野郎を殺しそうになった時だ。

「緒方君から見て、河内君はどれ程強いの?」

 なんだ?興味ない筈なのに、食い入るように?

「河内は強いよ。ガチでやったら負けるかもしれない。此処に居る大雅や玉内と互角だよ」

「そう、河内君はそんなに強いのね。だけど、大人数に負けて入院した」

 しん、と静まった。成程、言いたいのはこれか…

「……俺も負けるかもしれないって言いたいんだな?」

 躊躇なく頷く。

「緒方君の武勇伝は今更の話。どんな人数でも関係なく喧嘩して、最低病院送りにする狂犬。今日負けても次の日から付け狙う執念深さ」

 いや、その通りなんだが、大雅と玉内が目を剥いたじゃねーか。狂人はホントだって。だからあんま言わないで欲しいかなー?

「そんな君と互角の河内君でも負ける。敵対グループの事は少し聞いた程度だけれど、緒方君、君も負けるかもしれない」

 大きく頷いて返す。結構面食らった様子の横井さん。

「負けるかもしれないのに喧嘩するの?」

「えっと、かなりの人は誤解しているようなんだけど、俺は勝ち負けで喧嘩した事はあんま無いんだよ」

「それは知っているわ。だけど、今回は河内君の仇じゃないの?」

「そうだよ。だけど、別に今日勝たなくてもいい。今日大人数にやられても、明日精鋭部隊にボコられても、最後にぶち砕ければそれでいい」

 最悪殺してもいい。流石にこれ言ったら止められるから言わないけど、俺はそんな感じでいつも喧嘩してきた。

 だから河内の仇だと言っても、俺はいつもと変わらない。いつも通り、向こうが根負けして関わりたくないと思うまでぶち砕くだけだ。

「……南海の時もそんな感じだったよな。負けるのを怖がらないと言うか…」

「俺との試合も、究極に言ってそんな感じだったよな。実際KO喰らったし」

 南海は兎も角、試合は勝とうとは思ったぞ。特攻に見える行為だろうが、あれも俺なりに考えた方法なだけだ。

「俺達とお前の違いって、俺達だったらなるべく攻撃を貰わないようにするんだけど、お前は貰う前提で動いているよな。そこが怖いって言うか」

「ああ、猪原さんと同じ感じだと思ったのはそこか…」

 喧嘩だから普通にいいのを貰う時もあるだろ。耐えるを選択するのも間違っちゃいないだろ。

「……河内君は君に内緒にしてくれと頼んだようだけど、どうして?」

 さあ?河内の考え何か知らないよ。俺は俺の思うが儘ぶち砕くだけだ。

「多分だが、緒方に参戦させたくなかったんだろうな。正直緒方を危険視する理由は解らないが、全員が全員喧嘩させないようにしていたし」

「さっきの潮汐の奴等を叩いたのを見てもそう言うか?」

「あれくらいは俺もやった事がある。限度を知らない野郎なら尚更だ」

 玉内も結構危ない奴等を見て来たからそう言うんだろう。だがな、殺すつもりで拳を振っている狂人は見た事が無いだろ?

 河内は佐伯の時、ライブで見たから、お前等以上にそう思うんだよ。多分ヒロと同じくらい、俺を危険視している筈だ。

 木村だって生駒だって、本当の俺を見た事が無いんだ。ヒロと河内だけが、俺の本当の危なさを知っている……

「まあ、取り敢えずは河内の入院先だ。横井さんを送らなきゃ」

「的場さんって方が迎えに来る筈だけれど」

「俺も見舞いくらいしたいだろ」

「緒方君と河内君は親友だからね。心配になる気持ちは解るわ……」

 感心したように溜息をつく横井さんだが、俺が河内の所に行くのは、確かに見舞いもあるが、確証を得たいからだ。

 悪鬼羅網、しいては狭川の危なさを。強さを。

 結構な時間、電車に揺られた。

 そしてついに到着した黒潮駅。改札口を出ると、ガラの悪そうな連中が降りた乗客をチェックしていた。

 取り敢えずガンをくれている野郎に話し掛ける。

「おいお前、的場は何処だ?迎えに来る筈なんだが」

「ああ?的場さんがオメェ何か……ん?」

 横井さんに視線を向けて首を傾げる糞。別の糞が真っ青になって小声で囁いた。

「お、おい…あれって孝平の女じゃなかったか?写メでした見た事がねえから自信ねえけど…」

「お、おう…だよな…じゃあこいつが………?」

 もうガクブルになって俺を見た。流石に河内の身内をぶち砕きたくないな…

 そんな中、大雅が前に出る。

「南海大雅派代表、大雅 正輝だ。友好校トップ、河内 孝平の恋人のガードで黒潮に来た。ついては的場さんが迎えに来ている筈だから案内して欲しい」

「やっぱりか!!こいつが緒方!!」

「お、おい…やべえよ…的場さんが絶対にふざけた物言いすんなって釘を刺した奴だろ?孝平も死にたくなきゃ目を合わせるなとか言っていたし…」

「……君は本当に有名人ね、緒方君。頼もしい限りだわ」

「それって絶対に嫌味だよな!?」

 遂に横井さんにディスられた!!時間の問題だとは思っていたが、今日この日とは思わなかった!!

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