とうどうさん~017
10分くらいやりとりしただろうか。スマホを仕舞って私に向く。
「よし、みんないいってよ。行くか」
「行くって……どこに?」
「丘陵。トーゴーん家」
丘陵?トーゴー君の家?今から?
「ど、どうやって行くの?電車もバスも動いていないけど……」
「お前の母ちゃんの車……と言いたい所だが、車の運転は自信がねえ。だから原チャリで二ケツだ」
「颯介、免許持ってないでしょ!?途中で警察に捕まったら……」
「俺の力、もう知ってんだろ?」
あ、と思った。颯介は嘘を本当にする。しかし、簡単に使わないと決めた筈じゃ?
「お前の為なら躊躇なく使う。つっても上杉達には使えねえけどな。使えても効果が薄い。だから、お前に対する奴等の感情は本当だって事だ。勘ぐらなくてもいいからな」
力を使って是とする事は出来ないと暗に言った。そこまで考えてはいなかったけど、成程、言われてみればその通り。
「じゃあ……ちょっとババァの車に寄ってくれる?」
「なんで?」
「いや、せめてお金持って行きたい」
そうか、と同意を得られたので、ババァの新車に赴いた。鍵掛かっていたらガラス壊そうと思ったが、幸運な事にババァはロックしていなかった。
更に幸運な事に、ババァのカバンが置いてあった。探ってみると財布が入っていたのでそれを拝借。自分の財布も確保した。
「お前の母ちゃんの金か……」
なんか嫌そうな顔をする颯介だが、お金はお金。必要な物だ。颯介も学費を稼ぐとの目的でバイトしているんだから知っているだろうに。お金の必要性は。
「あのババァ、これから娘を殺そうってのに財布に20万くらい入れてやがる……」
営業の回収金もあるのだろうけど、それにしてもだろ。仕事のついでに殺人しようってノリに思えて仕方がない。
「確かに金は大事だからな。なんか嫌だが金に罪は無い」
「そうそう、お金に罪は無い。ババァが枕で稼いだお金だろうとも、お金はお金」
「……なんかそう言われると気持ちワリィな…」
安心して。言った自分の方がもっと気持ち悪いから。
「じゃあ行くか。あんまりあいつ等を待たせても悪いから」
頷いて同意して颯介の原付の後ろに乗った。思ったよりも狭かったので、颯介の身体にしがみつく形となる。
「お、おお……これはなかなか……」
「……おかしな気分になってもいいけど、事故らないでよね。それと、やっぱり狭いから大きいバイクにしてよ」
「まだ免許取れる年齢じゃねえんだから無茶言うな」
だから、免許取れたらそうしてって意味。尤も、冬華達が人殺しは勘弁と思わなきゃの未来の話。
場合によってはそのまま自首も考えている。いくら颯介が庇ってくれても、そこは揺るがない。
一時間以上は走っただろう。下手をすれば二時間に手が届くと言う時間、颯介にしがみついていた。
この温もりをずっと感じていたかったから。休憩を取ろうかとの申し出も断った。一瞬たりとも離れたくなかったから。
しかし、やはりそれも終わりが来る。トーゴー君のマンションに着いたから。
「やっぱ時間かかるよな。あいつ等を呼ぶよかマシだから仕方ねえけど」
「うん……」
俯いての返事。人殺しの私が受け入れられる筈がないとの思いで。
「そういやお前、腹は?」
「……まあまあいいかな」
「減ってねえって事でいいのかな、その返事は……」
晩ご飯にラーメンを食べたから、確かにお腹の具合は申し分ない。体感時間は果てしなく長かったが、実質4時間経っていないんだから。
それに、この状態でお腹が減る程、胆が太くもない。
「じゃ、まあ、入るか」
颯介がマンションの中に入って行く。それを追う。
エレベーターが丁度一階に停まっていたので押すと扉が開いた。12階のボタンを押すと、ドアが閉じた。
一階から12階までのわずかな時間、沈黙していた。私にとっては随分と長く感じた時間だった。
トーゴー君の部屋に前でチャイムを押す。直ぐにドアが開いた。
「おう東山。藤咲も大変だったな。まあ入れよ」
「おう」
颯介は普通に入ったけど、拍子抜けと言うかビックリだった。
人殺し、もっと言えば母親を殺した私に何の嫌悪も見せずに中に招いてくれるなんて……?
「どうした藤咲?早く入れって。みんな待ってんだから。腹減ってんならデリバリー取ってやるから」
逆に私のお腹の心配をしてくれるのかと驚いた。
しかし、颯介がまだ言っていないからこその反応かもしれない。人殺し、母親殺しだと知ったのなら……
「別にお前が母ちゃんぶっ殺そうが今更だって。東山もいつかこうなると思っていた筈だしな」
「知っていてその反応!?」
と言うか、颯介は覚悟していたの!?いつか私がババァを殺すかもって事を!?
逆に呆れたように肩を竦める。
「お前のその手首の傷の理由、みんな知ってんだろ。お前が死ぬか、母親が死ぬかの二択だ」
「え!?って事は冬華達も!?」
その通りだと頷いた。
「まあ詳しい事は中に入ってからだ。みんな待ちくたびれてんだから。白井なんか半分寝てやがるし」
その台詞を聞いて慌てて中に入った。みんな寛いで待っていた。白井君は本当に半分寝ていた。
「おう藤咲。遂にやっちゃったってな。まあ、いつかそうなるとみんな思っていたから気にすんな」
兵藤君がそう言って缶のオレンジジュースを渡す。それをなんと無く呆けながら受け取った。
「幸、やったんだってね。仕方ないから気にしないでよ。そうしないとアンタが殺されていたんだろうし」
心配そうな顔で駆け寄ってくれた冬華。両手を包むように握ってくれて、その温かさには誤魔化しが無かった。
「……つか藤咲、眠いんだからそんなもんでわざわざ召集かけないでよ……」
目を擦りながら文句を言う白井君だが、召集を掛けたのは颯介で……
じゃなくって!そうじゃなくって!
私は人を、母親を殺したんだよ!?それを嫌悪も無く、更に言えば同情も無く、なんで普通に受け入れてくれるの!?
「なんで!?何でみんな普通なの!?私は人を殺したんだよ!!それなのに……」
耐え切れずに叫んだ。
「だってみんな、一回死んでいるし……なあ?」
困ったように兵藤君がみんなの同意を求めた。
「まあね。私と白井は自殺だし、トーゴーと兵藤は殺されたしで……」
「そうだね。ぶっちゃければ同じ死だからね。そうじゃ無くても藤咲の場合は親に殺させそうになったから、反撃したからそうなったんだし」
白井君の結びに全員頷いた。本気で誰も文句は無かったようだった。逆に今更何言ってんの?と返される始末。
「そ、颯介、これは一体……」
「トーゴー、ピザ頼んでくれ。エビマヨのM」
「なんだ東山、腹減ってんのかよ、じゃあこのエビのクォーターにしようぜ。みんなで食うからLでいいだろ」
「なんで呑気にビザを頼んでんの!?今それどころじゃ……」
「そうだよ。チーズハニーの方が美味しいでしょ?」
「冬華までピザの心配してんじゃないわよ!!私凄い取り返しのつかない事をしたんだけど!!」
その相談というか報告で此処に来たのに、なんでピザの心配!?
「まあ、藤咲の言っている事は解るよ」
「し、白井君……」
なんかウルッと来た。白井君はピザの話じゃないと……
「どっちも頼めって言う事だよね」
「数の問題じゃねえよ!!」
「あれだろ、フライドポテトも頼めって事だろ?あ、ひょっとしたらサラダか?俺は芋の方がいいけどなぁ」
「サイドメニューの心配じゃねえよ!!」
なんてことだ!兵藤君ですらこの空気に毒されてサイドメニューまで追加した!と言うかみんなお腹減ってんの!?今結構遅い時間なんだけど、晩ごはん食べていないの!?
私一人で突っ込んでいたが、なんやかんやでエビのクォーターとチーズハニー(どっちもLだ)と山盛りポテトを頼んでいた。なんか兵藤君が私に気を遣ってサラダも頼んでいたけど。
「ピザ頼んで納得したよね?じゃあ私の話し「しかし、どっちもLはきついんじゃねえ?」まだピザの心配してんの!?」
颯介がわざわざ話の腰を折った。つかピザの話よりも私の話を気にしてよ!!LでもMでもどっちでもいいよ!!
「解った解った。なんだよ話って」
「え?だから母親を殺した……」
「うん。そうしなかったら逆に殺されていたんだろ?仕方ない事じゃないか?」
白井君が本気で気にした風も無くそう斬り捨てた。
「だ、だって母親だよ?身内殺しだよ?」
「全くの他人を八つ当たりで殺したっつうなら、そりゃ俺だったら警察に突き出すけど、母親だろ?藤咲がどんな目に遭っていたかなんて知ってんだから、やっぱしょうがねえになるよな」
トーゴー君の言葉に全員同意して頷いた。
「いやあのね、殺したんだよ、人殺し」
「だから、殺さなきゃ自分が死んでいたんだからしょうがないって言ったじゃん。と言うか死んで戻って来たんでしょ?お相子じゃない。一回殺されて、一回殺したんだから」
冬華の言葉にも全員同意して頷いた。いや、端折ったから解んないと思うけど。100以上は殺されているんだからお相子じゃない、寧ろ貸しがまだあるような……
え?あれ?だったら私悪くないんじゃないの?だってまだ貸しは100以上あるんだから……
何がなんだか、何だ正しいのか解らなくなってきた。思考がぐるぐる回り始めた。
「納得できねえがする所もあるって顔だな。それでいいだろ。少なくとも此処にいる連中、仕方ねえって事で落ち着いているんだから。それでもどうしても自首するっつうなら止めはしねえけど、お前って隠蔽工作で東山を頼ったんだよな?自首するとなれば東山も捕まるんじゃねえの?」
兵藤君の言う通り。颯介にボートを洗う手伝いを頼んだ。と言う事は共犯……?
「そ、颯介が捕まる事は無いよ!!全部私がやったんだから!!」
「お前が自首するって事は俺も捕まるって事は間違いないだろ。俺は別に捕まろうがなんだろうがどっちでもいいけど」
「なんで颯介が犠牲にならなきゃいけないのよ!?」
「言っただろ。お前が良いなら何でもいいんだって」
真っ直ぐに私を見て言い切った。
そうだ。この人の主張は変わっていない、ブレてもいない。最初から一貫している。私が良いなら何でもいいと。
「それよりも、お前の力の方に興味があるんだけど」
「母親殺しをそんな事とか……いろいろ壊れているね、颯介」
「お前を助けるって死んだ後に戻って来たんだぞ。元々壊れてんだよ俺」
そう言って笑った。釣られて私も笑った。
「イチャイチャするのもいいけどさ、東山君の言う力ってのに俺も興味があるんだけど」
「これをイチャイチャしていると見るんだ……」
ただ笑い合っていただけなのに。イチャイチャてのは手を繋いだり、抱き合ったり、色々と……
「真っ赤になってないで教えてよ。何を想像したのか知らないけど」
真っ赤になているんだ。通りで頬が熱いと思った。手のひらで覆うと、熱さが指先まで届いた。どれだけ照れているんだろう、私ってば。
まあ、気を取り直して。
「……死んでからみんな事、全部知った。その不思議な力も。その力で私を守って来てくれた事も」
そう言って深々と頭を下げた。
「いやいや、私達はアンタの旦那の手助けをしただけだよ」
「そうだよ。東山君が助けてって言ったから助けたんだ。藤咲にお礼を言われる筋は無いよ」
「まあ、そうだな。だからお前が気にする事じゃねえ。気にするんなら東山の方だ」
「だよな。こいつがみんなを巻き込んだんだ。だから礼を言うのはこいつだ」
なんか颯介に非難(?)が向かった。颯介、普通に笑って本当にお辞儀をする。
「いや、こいつ等の言う通り。俺が頼んだんだから幸が気にする事じゃねえ。本気で助かっているぞお前等」
「解りゃいいんだよ。だからピザ代はお前持ちだ」
「ちょ、兵藤君?俺お金無いんだよ?知っているよね?」
「じゃあピザ代どうするつもりだったんだ?」
「そこはホラ、トーゴー君はお金を持っていらっしゃるから」
「集る気だったの?ホント最低だね東山君」
「いやいや、人聞きが悪いよ白井君。ボクだって払う気はあったさ。千円くらいは」
「全然足りないじゃないほぼ奢って貰うつもりだったんじゃない」
「違いますよ上杉さん。ボクの全財産を支払うので足りない分は宜しくって事ですよ」
なんかピザのお金の話に移っていた。みんな割り勘で払うと思っているのだろうに、何だこの仲の良さは?
なんがこのまま流されそうだったので少し大きめな声で言う。
「ピザのお金は私が払うから安心して。で、力の事だけど」
「マジで?幸お金払うって言ってんじゃんか。嘘つき野郎、アンタがせこい事言うから嫁が自分の財布を削ろうと思ったんだよ。どうすんのアンタ?」
「いいから話の続きさせてよ!!お金の心配はいらないから!!あと、さっきから嫁だ旦那だ煩いよ!!」
「おい東山、なんか軽く振られてんぞお前」
「兵藤君もいちいち突っ込まないで!!颯介、ズーンと項垂れている場合じゃないでしょ!!」
「藤咲の言う通りだよ。今はそんな話じゃない」
「し、白井君……」
ジーンとなった。白井君だけは力の方に興味が……
「ピザの話でしょ。お金の話じゃなく」
「さっき終わってもう注文しただろ!!」
マジでジーンを返せよこの野郎!!さっきのウルッもそうだけど、今回の分もっ!!
「あ、飲み物ねえや。買って来るけど何が良い?」
「トーゴー君も大人しく座って話を聞いてよ!!飲み物なんかどうでもいいから!!」
普通にお喋りの会になっちゃたじゃないか!!人殺しとか力とかどうでもいい訳!?
「あ、俺コーラ」
「ホントに注文すんじゃないわよ颯介!!!」
散々叫んで私も喉渇いたけど。こうなったらオレンジジュースお願いしようかしら。
なんやかんやで飲み物を買いに出た。何故ならみんなジュースを頼んだからだ。勿論私もオレンジジュースを頼んだ。
その時お金を渡したら驚かれた。
「いいって、ここは驕るから」
「いいよ。お金いっぱい持っているから」
そう言ってお財布を広げた。20万のお札に流石にみんなビックリした。
「ふ、藤咲、この金……」
「ババァを殺して車に戻って来た時に財布をちょっと拝借したのよ。お金は必要だから」
流石に全員鎮まった。殺してお金を持って来たとか、そりゃ引くよね。
「金は必要だから幸の判断は間違っちゃいない」
なんか颯介だけは納得してうんうん頷いているけど。
「確かにお金は必要だよね。差し当たりピザ代とか。と言う訳でトーゴーはとっととパシリ行って」
「いや白井、パシリって……確かにそうだけどよ……」
なんか釈然としなかったのだろう。目が合った兵藤君の腕を取る。
「お前も来い。寂しいから」
「マジか?ジュースなんて外の自販機ですぐに買えんだろうが」
「うるせえ。パシリ気分をお前も味わえ」
そんな訳で武闘派二人、仲良くパシリに出た。ジュースくらい颯介に買いに行って貰ってもよかったんだけど。そもそも買う予定無かったんだけどなぁ……
つうかすんごいグダグダだ。結構深刻な話の筈なのに。
なんか落ち込んでいると、二人が帰って来た。
「ピザの宅配も来たぜ。つうか藤咲、ホントにいいのかよ?」
兵藤君が若干申し訳なさそうな顔だ。割り勘だと思っていたからだろう。
「だからいいよ。颯介、払って来て」
一万円を颯介に渡すと、こっちもブチブチ零した。
「自分で払えばよかろうものだが……お前の方が近いのに、わざわざ……」
「その辺はぶれないよな、藤咲。東山君だけは躊躇なく使う所が」
白井君が慄いているが、今更でしょ。ずっと見て来たよね。
ともあれ、テーブルにピザとか広げて。
「じゃあ話の再開していいよね?食べながらでもいいから」
この儘じゃ先に進めるような気がしないので勝手に続ける事にした。
「おう、お前の力の話だったか。何だっけ?」
「いや、トーゴー君、言った手前なんだけど、ホントにモリモリピザ食べられて聞かれるとは思わなかったんだけど……」
私の話よりピザの方が大事だと思っちゃう食べっぷりなんだけど。
まあいい。良くないけどしょうがない。話しの続きに戻るとしよう。
「颯介に連絡した時に警備員さんが来てね。ボートの洗浄前だったから、見つかったら確実に捕まっていたんだけど……」
「捕まらなかったんだよね。気のせいかと思われて反転したとか?」
冬華の論は常人ならそう思うのだろうが、ここの人達は違う。
「幸、その時どう思った?」
「うん。ここには何もないと強烈に念じた。あと、あっちの方だよとも思った」
「つう事は、警備員は他の場所を捜したって事か?」
兵藤君の問いに頷いて返す。ついでに逆に訊ねた。
「死んで戻って来た身だから解る。みんなもそうなんでしょ?颯介は嘘を本当にするし、冬華は自分の好意を向けさせるし」
全員無言で頷いた。ここで誤魔化すつもりは無いようだ。当たり前だが。
「つまり、藤咲の力って認識を反らす力って事かな。だったら話は早いか」
「うん?どう言う事、白井君?」
「証拠隠滅に使えるって事だよ。因みに母親の死体は湖に落とした?」
「う、うん。脚にブロック括り付けているけど……」
いずれは肉が溶けて骨は散らばり、至る所に証拠が現れる。
「俺もそう思う。東山君が定期的に湖に行っているのが幸運だったかな。『そんな遺体は無い』と嘘をつく。だけど骨とかが岸に流れ着くだろうから、対応がきつくなるでしょ?だから前もって仕掛けておくんだよ。『これは骨ではありません』とか」
「うん?結局東山の嘘で事足りるんじゃねえのそれ?」
「いや、兵藤も知っているでしょ。力の継続時間は無限じゃないって。東山君の嘘だって長いだけでいつか切れるんだ。そのいつかが解らないから、骨じゃなく木の枝と認識させれば……」
いや、結局それもいつ切れるのか解らないんじゃ?そもそも私の力って持続時間どのくらいなのかも解らないし……
「……死体は無いと嘘を付き、死体じゃないと認識を変える、って事か?二段構えって事だよな」
「トーゴーの言う通り。まあ、いずれにしても、定期的に通って上書きしなきゃいけないだろうけど、それでも捕まるリスクは激減だろ?」
おおー、とみんな拍手した。私以外。
「だけど幸の力の継続とか効果がイマイチ解んねえな。誰かで試さなきゃな」
「明日適当に街ぶらついて誰かに仕掛けてみようか。みんなの目で確認すれば安心でしょ」
そうしようそうしようと同意の声が挙がった。私以外。
「あと、幸のババァの車あんだけどさ、どうにか出来ない?」
「そっちは俺がやっとく。東南アジア辺りに売ればアシも付かねえだろ」
「ホント兵藤は頼りになるな。法を犯すやり方に限り」
「お前の女房の為に頑張るんだろ!?俺を悪者にすんじゃねえよ!!」
ははは、と朗らかに笑った。私以外。
「ん?どしたの幸?何か難しい顔して?」
冬華が顔を覗き込んでそう訊ねた。
「……なんで私を庇うの?みんなも共犯になっちゃうのに?」
「そりゃ……幸の境遇、みんな知っているから。アンタの旦那がばらしちゃったから」
「その言い方ぁ!!」
颯介が慌てて突っ込んだ。いや、解っているから大丈夫。みんなに協力して貰う為に話さなきゃいけなかった事くらい承知だ。そこまで颯介は必死だった。
私なんかを助ける為に、色々犠牲にして……
ごほんと颯介が咳払いをして誤魔化すように喋った。
「まあなんだ。明日適当な奴にその力使ってみてくれ」
「う、うん、それはいいけど、みんなに使っちゃ駄目なの?」
「俺達にはあんまかからねえんだよ。まるっきり無効になる訳じゃねえけど、それじゃ知れねえだろ」
ああ、確かにそんな事を言っていたような。
「じゃあ明日みんなで街に繰り出そう。じゃあ今日はトーゴーの家でお泊りだね」
冬華の提案は魅力的だし賛成だけど、颯介がいやいやと首を横に振った。
「俺は一旦帰る。新聞配達しなきゃいけねえ」
「え?じゃあ私も……」
颯介が帰るんだったらそうしなきゃいけない。仮にも友達とは言え男子の家に泊まるのはマズイでしょ。
「お前はそのまま泊めて貰えよ。上杉と話すのも久し振りだろ」
「そうだよー。幸が居なくなったんじゃ、欲求不満の男子三人に犯されちゃうでしょ?」
「「「ふざけんなよお前」」」
男子三人、結構本気で突っ込んでいた。流石にそんな真似はしない。尤も、冬華の方も冗談だろうけど。
それは兎も角、騒いだ。今日ババァを殺したのを忘れるほど騒いだ。
だけど現実に戻される訳で――
「あ、もう12時過ぎてんじゃねえかよ。マジで帰らねえと明日が辛い。じゃあなお前等。明日学校サボらせちまうけど勘弁してくれ」
そう言って立った颯介。慌てて私も立った。
「マジでお前は此処に居ろって。俺に義理立てしてんの丸解りだぞ」
「いや、そう言う訳には……」
「あ、じゃあ私も帰るね。明日何時にどこに集まる?」
「9時頃でいいだろ。駅で。流石に原チャリでは来たくねえ」
「おっけ。じゃあ幸、明日ね」
冬華も帰る?私が帰るって言ったから?
「ちょ、アンタは泊まって……」
「ああ、さっきのは冗談だから。流石にあの三人は信じているよ。信じてないのは嘘つき野郎だけ」
「本気でヒデェだろそれ……」
颯介はダメージが思いの外大きかったようだ。四つん這いになって項垂れる程には。
「上杉は地元民だし、家も近いしでそれでいいだろ。俺と白井はちょっと遠いから此処に泊まる」
男子三人はお泊りする様子。まあ、それは多分決まっていた事だろう。
「じゃあお前、上杉ん家に……」
「いいからちゃんと幸を送ってやってよ。幸もそれを望んでいるんだろうし」
なんか察しろって感じで颯介をじっと見た。冬華だけじゃない、トーゴー君も、白井君も、兵藤君も。
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