とうどうさん~009

 あれから1か月。毎日一緒に登校し、毎日一緒に下校して、学校の中でも一緒に居る時間の方が長くなるが……

「おい、嘘つき野郎」

 机に伏して居た時に上から話掛けられた。上杉に。

「なんだよ」

「なんだよ、じゃないだろ。なんで幸の手首に傷が増えているんだ。アンタが止めるんだろ?」

 結構な凄みでそう言われた。そうなのだ。幸のリスカは収まる事は無く。

 最初の事は気付かれないようにひたすら隠していたが、付き合って3日後辺りに上杉にばれたのだ。

 あの時も殺される勢いで殴られた。まあ、非力な女子の腕力では死ぬことは無いけど、向こうは半分以上本気だったとは思う。拳ずる剥けたし。

「アンタ。あれを止める為に戻って来た筈じゃなかったの?」

「それは違う。俺が戻って来たのは幸を幸せにするためだ」

「あれはどう見ても幸せに見えないんだけど!」

 責められるが自分が一番よく解っている。手首の傷が1日毎に増えるなんて、どう見ても幸せには見えない。

「何とかしなよ。気付いているのが私だけだから、今は騒ぎになっていないけど、時間の問題だよ?そうなればアンタと付き合ったからそうなったって言われるよ?」

「俺のせいだと言われるのは読めているからいい。だけど、本気で何とかしたいんだけど、どうすりゃいいのか……」

 はあ、と溜息を付く。マジでどうにかしなきゃ。あの儘じゃ幸がヤンデレとかメンヘラとか言われてしまう。

「ねえ、アンタってバイト始めたよね?」

「なんだ唐突に?中学生だから新聞配達くらいしか出来ねえ。たかられるのは勘弁だぞ」

 毎朝走っているので、その時間に始められるのと、中学生だから新聞配達くらいしか出来ないのでそうなった。

「バイト料貰った?」

「ひと月働いてねえから満額じゃねえが、貰ったには貰った」

 ふむふむと頷く。なんだってんだ一体?

 ごそごそと財布を取り出して、なんかのチケットを二枚伸ばす。

「動物園の入場チケット。気晴らしでデートにでも誘いなよ。新聞の勧誘の人からお父さんが貰ったのを貰った」

「動物園?え?でも、動物園って丘陵じゃ無かったか?」

「そう、だから惜しげもなくアンタにあげられるって訳」

 丘陵は遠いからな。バスや電車もタダじゃねえしな。だから気前も良くなるってもんだよな。

「当たり前だけど、入場料以外は全部アンタが払うのよ」

 割り勘じゃねえのかよ、と突っ込みたいが、初デートに値するお出かけだからそうかも、と思うが……

「マジで言ってんのかよ。さっきも言ったが満額貰えねえし、そもそもバイトを始めたのは幸の大学資金の為だし」

「遠い将来の為に頑張るのもいいけど、今が一番大事なのも解るでしょ。中学2年は一度しかない」

 青春っぽい事を言っても納得なんかするか。とは思ったが、幸の気晴らしと言うのならマジで仕方がない。

「まあ、全額は厳しいが頑張ってはみる。サンキューな、一応」

「一応はいらないでしょ……」

 いや、必要だろ。有り難いと思う反面、迷惑だって思うんだし。


 ともあれ日曜日、始発。

 東山と幸は電車に揺られて丘陵を目指していた。

「初めての遠出が丘陵の動物園とは、なかなかじゃない」

 嬉しそうに笑いながら。

「お前動物園好きだったっけ?そんな印象無かったように思うが」

「う~ん……どこかに遊びに行くのが好き」

 動物園じゃなくてもよかった。映画でもなんでも。

「丘陵動物園ってカピバラにおやつあげられるんだよね?楽しみ~」

 やはり動物園で成功だった。本当にうれしそうだから。

「まあ、中学生の身だからこれが精一杯だが、いつかディズニーランドとかにも連れて行ってやる」

「ホント!?期待しちゃっていい!?」

「当たり前だ。俺はお前に嘘はつかねえって……はっ!?」

「え!?な、なんでいきなり伏して泣くの!?」

「……い、いや、嘘ばっかと被せられなかったから嬉しくて……」

「え?あ、そ、そうなんだ……」

 東山と幸の反応が真逆だった。方や感動して涙し、方やドン引いて苦笑いしていた。

 そして丘陵駅。県内では大洋と並び都会に位置する。湖が自慢の田舎、渓谷とは人の数が違う、違い過ぎる。

「おお……これ、はぐれないようにしないとな……」

「そこまで凄いって訳じゃないんだけど……こんな人数で尻込みしていたら、ディズニーランドになんか行けないよ?」

「……あのネズミの国はこれ以上の人混みだと言うのか……?」

 無理だ。絶対に人酔いして具合が悪くなる。こちとら清流が自慢の田舎から出た事が無いんだから。

「ここからはバスだよね。早く行こう」

 幸が東山の手を取った。比較的リスカの跡がない、右手。

 これ以上その手首に傷をつける訳にはいかない。人混みに尻込みなんかしている場合じゃない、全力で楽しませて不安なんかぶっ飛ばさせなきゃいけない。

「よし、カピバラにおやつやりに行くぞ」

「それだけが楽しみって訳じゃないんだけど……」

 他に何があるのか知らないんだからしょうがない。ライオンくらいは居るのだろうけど。

「スマホで調べたら、なんかふれあいコーナーってのがあるみたいだよ」

「ウサギとかハムスターとかだろうけどな」

「なんか……オウムとか」

 鳥?ふれあえるのか?あいつ等って結構脆いんじゃなかったっけ?

 まあ、行けば解るだろ。という訳で動物園行きのバスに乗る。このバスも結構な混みようだった。座る席がない。

 立ってバスに乗る経験、滅多にない。渓谷のバスはぶっちゃければガラガラだから。と言うか、そもそもバスにあまり乗った事は無い。

「幸、大丈夫か?」

「え?なにが?」

 平然と返された。立ちっぱなしで疲れないかって意味だったんだがダメージは薄い模様。

 ともあれ、結構な時間の様な気がしたが、実際はそうでもないんだろうが、漸く動物園前に停車する。

 殆どのお客が此処で降りる様だった。一気にがらがらになった。

「何してんのよ?早く行こう」

 腕をグイグイ引っ張られてバスから降りた。がらがら具合をもうちょっと堪能したかったが、まあいいや。

 チケットを出して入場する。これで入場料はタダだ。

「さて、カピバラにおやつやりに行くか」

「だから、それだけを楽しみにしていた訳じゃないってば。順番に回ろうよ」

 有無を言わさずに腕を引っ張られた。幸のテンションが高いのはかなりいい事なので、其の儘引っ張られた。

 連れ回された。カピバラのおやつは勿論、レッサーパンダの餌やり体験やアルパカと写真やら、オウムとふれあいやら。

「だらしないな。毎朝走っているんでしょ?体力ないよ?」

 ベンチでへたっていた東山に容赦なく言う。

「だ、だって俺こんなの初めてだし……」

 放置児だった自分は動物園なんかに連れて行って貰った事は無い。初めての体験故にバテるのも仕方ない事だ。

「つうか昼飯も食ってないんだぞ。お前の体力で俺を越える事は有り得ないのに、テンション高すぎだろ……」

「え?だってデートじゃない、これ」

 ……デートだからテンションが高いって言う事か。ま、まあ、そう言う事ならなぁ……

「だ、だけど昼も過ぎたんだし、腹も減ったしで、流石に飯は食いたいぞ?」

「じゃあレストハウスに行こう」

 また腕を取られて引っ張られた。幸の体力で云々。

 そこは入り口付近に有った、お土産屋と併用のレストラン。自分としては広場でノボリがはためいている屋台(でいいのか?)のハンバーガーが美味そうだったが(やたらデカくて厚いハンバーガーだった)、幸が此処が良いの言うのならここでいい。

「さて何食べようかな~」

 席に着いて早速メニューをめくる幸。なんやかんや言ってもお腹が空いているようだった。

「颯介はどれ食べるの?」

 訊ねられても、メニューはお前が見てんだろ、とは言えない。

「あーっと何がある?」

「無難な所でハンバークとか、カレーとか」

「じゃあ……えっと、ナポリタン」

「ハンバークとかカレーとかって言わなかった!?」

 いいだろ別に。ナポリタンも無難な部類だよ。

「あーあ、カレーかハンバーグが食べたかったのになぁ……」

 ブチブチ零してメニューを再度見る幸だが、食いたいんならそれを頼めばいいだろうに。

「オムライス食べるつもりだったのに、ケチャップ繋がりで違う味を楽しめない……」

 楽しめない?それは駄目だ。幸を楽しませる為に動物園に来たんだから。

「解ったよ。ハンバークとカレー、どっちがいいんだ?」

「え?いいの?」

 頷いた。ぶっちゃけて言えば何でも良かったのだから。ナポリタンに拘っている訳でもないし。

「じゃあハンバークカレー」

「どっちもかよ」

 まあ、それでもいい。1600円というバカ高い値段だが、まあいい。

 ファミレスなら1000円行くか行かないかだろうに、こう言う所の食事は本当に高いな。来た事無いから偏見だけで物を言うが。

 ともあれ、決まった所で店員を呼ぶ。

「ハンバーグカレー」

「チキンドリアを」

 ビックリして幸を見した。お前オムライス食うとか言わなかったっけ?

「かしこまりました、御一緒にドリンクはどうですか?」

 当たり前の様に飲み物を勧めて来る。400円のコーラなんか頼まねえよ。

「私はオレンジジュースで、彼は烏龍茶」

 ビックリして幸を二度見した。勝手にドリンクを頼まれた!?

 ちょっと待て、ウーロン茶も400円だろ。高いから水でいい……

 とは言えず、そのオーダーに何も言わずに頷いた。幸が良いならいいんだ。自分の懐具合は二の次だ。

 食事を終えて再び園内に。懐具合が厳しいが、それはいい。

「またふれあい?さっき鳥と戯れただろ」

「こっちのはうさぎとモルモットだって」

 そういや別館の方をスルーしていた。小っちゃい小屋的な所だったので入っちゃいけない所だと勝手に誤解したからだ。

「颯介って動物嫌いだっけ?あまりテンションが上がっていないような?」

「いや、好き嫌いの問題じゃない。お前が「なんで口から出まかせを言うかな?」本当だってば!?いい加減心が折れるぞ!?」

 なんで出まかせと思うんだ?その前に全部言ってねえから解んねえだろ?

「お前が楽しいんならいいんだって言おうとしたのに……」

「そうなの?ああ、かっこいい事言おうとしたんだよね。ごめんね遮って台無しにしちゃって」

 テヘペロで頭を掻く。いや、可愛いから許そうか。

「お前は出かけられるんならいいって言ったか?」

「動物園もお出かけだからいい。次は何処に連れて行ってくれる?」

 腕を組まれてそう言われた。不意打ちだったので超ドキッとした。

「あ、あーっと、そうだな。渓谷の湖とか、渓谷の清流とか」

「思いっきり地元じゃない……」

 いや、咄嗟に出ただけだから気にするな。ちゃんと考えておくから。給料日が来てからになるけど。

 動物園も堪能した所で、家に帰ろうとバスで駅に向かった。

「ホントはこのまま帰りたくねえんだけど、脛を齧る身としてはな……」

「ああ、そうだね。だけどウチも颯介の所も心配して捜索願を出す様な事はしないよね、多分」

 激しく同意して頷き捲った。世間体を気にして悲しむ真似をする程度だろう。

「……早く高校卒業したいよね」

「おう、お前の学費は俺が稼ぐから」

「そこは期待はあまりしないでおく」

 期待が重いのも困りものだが、してくれないのも何となく悲しい。

「駅に付いたよ。電車はゆっくり座れるよね?」

 多分な。丘陵は都会だから解らないが。

 ともあれ、駅に向かう。

 途中、数人がパーカーを被った野郎を囲んで路地裏に入るのが目に入った。

「……喧嘩かな?」

「多分。あのパーカー野郎を数人でフルボッコにしようって事だろ。しかし、そうなると、あのパーカー野郎は相当強いって事になる」

「なんでそう思うの?」

「向こうは10人くらいいたんだぞ?なんかの報復でそう言う事になったと考えて、そのくらいの人数を集めなきゃ勝てねえって事だろ」

 成程と頷く幸、しかし、表情は優れなかった。

 なんか幸が路地裏に着いて行こうとしたので腕を取った。

「なにする気だお前?」

「だって、止めなきゃ。10人もは流石に酷い」

 呆れて深く溜息をつく。

「お前がしゃしゃり出て好転するとはとても思えないぞ」

「私?私は10人は酷いと言いに行くだけ。好転するとか望んでいないけど」

 だから、それを言いに行くって事は巻き込まれるって事だろ。

「巻き込まれて最悪になる事もあるぞ。そして、それはほぼ確定だ」

「最悪にはならないよ。颯介が守ってくれるんだから」

 ……いや、守るよ?守るけどさ?

「最大の自衛は見て見ぬ振りをする事だ。巻き込まれてとんでもない目に遭う事は無いからな」

「颯介は私の事情を見て見ぬ振りをしたの?」

 それはお前だからだ。という前に、とっとと路地裏に走った。

 超深い溜息をついた。10人相手に喧嘩?自分はつい最近まで自主練しかしてこなかったんだぞ?クラス最強と柔道部員に勝った程度のキャリアしかないんだぞ?

 あっちの野郎たちは見た感じもそっち系だろ?そんなの相手に喧嘩した事は無いんだぞ。まあ、最悪、俺には『嘘を本当にする力』があるから多分何とかなるとは思うけど。

 狭い路地裏だが、立ち回れるスペースは充分にあった。そして幸が簡単に見つかった。

「あん?お前の女かトーゴー?」

 厳つい野郎がいやらしい目で幸を見た。

 その前にすっと立って見せないようにした。

「なんだお前?こいつのダチか?」

「んな訳ねえだろ早乙女君、こいつにダチなんかいる訳ねえよ」

 ギャハハハハハ、と下品な笑い声が路地裏に木霊した。つうかあんな厳つい野郎だが、苗字が早乙女とは。

 幸が俺を押し退けて前に出る。

「あなた達、一人にそんな大勢で虐めようとするのはやめなさい」

 呆気に取られたのはパーカーも含めて全員だった。何言ってんだこいつ?って感じで。

「……おいトーゴー、お前の女とダチなんだろ?」

「……知らねえな。というかこの辺の奴じゃねえだろ、顔も見た事がない。逆にお前等の知り合いじゃねえのか?」

 おい、俺をこいつ等の仲間にすんな。俺はまだ中二だ。こいつ等は高校生くらいだろ、仲間と間違うなよ。

「俺は渓谷「お前等の仲間ならぶっ倒しても関係ないだろうからな」お前も最後まで言わせねえのか!?」

 あまりの驚きと悲しみで両手をついて嘆いた。この行動によっていよいよ俺達が何者か解らなくなったようで、困惑が増していた。

「私達は通りすがりのお助け……助っ人?渓谷のどうどうだ!!」

 なんか幸が勝手に名乗ったが……

「なんだとうどうって?」

「声が大きい!!本名名乗って粘着されたら鬱陶しいでしょ。ここは偽名が正解」

 寧ろ慌てて自分の口を手で塞ぐし、声もそっちの方がデカいと思うが、丘陵から渓谷にわざわざ粘着しに来るか?気軽に来れる距離じゃねえぞ?

「ま、まあ、そん感じだ。困っている人を助けるのがとうどう。これは俺達のルールだ」

 立ち上がって真剣な顔を拵えて言う。我ながらこんな簡単に嘘が口から出るとはと感心する。

「困っている?誰が?」

 早乙女さんがそう言うが、えーっと?

「おい、そこのパーカー、困ってんだろ?こいつ等に狙われて」

「いや、別に?何か知らねえが俺を助けに来たのか?だったら余計なお世話だ。巻き添え喰らう前にとっとと消えた方がいい」

 助けに来たのは幸で、俺は幸を助けるために付いて来た。とは言えず。

「困っている事にしろ。何しに来たのか解んなくなる」

「……何か知らねえが、俺達に喧嘩売っているって事は理解したぜ」

 早乙女さんと愉快な仲間達が俺と幸に凄んできた。お前等の後ろのパーカー野郎は無視なのか?

 と、思ったら最後尾にいた野郎がぶっ倒れた。何事?と思ったら、パーカー野郎の蹴りでぶっ飛んだのだ。

「野郎!!相変わらず足癖が悪い奴だぐわっ!?」

 全員パーカー野郎を見たので後頭部が隙だらけ。なので一番近くに居た野郎の背中を飛び蹴りしてぶっ倒す。

「巻き添え喰らう前に消えろ、と言った筈だがな」

 呆れたようにフードを捲ると、素顔が露わになった。

「……えっと、東南アジアの人?」

「呑気に話している場合かコラア!!!」

 当たり前だが早乙女さんの仲間達が俺達に踊り掛かった。

「幸、後ろに居ろ、絶対に守「本当に頼むからね。か弱い彼女をあんな暴漢の前に晒す様な真似、絶対にしないでよね」お前が首突っ込んだからこうなったんだろ!?」

 しかも台詞に被せられるとか。嘆きたいが、そんな場合じゃない。

「トーゴーもそうだが、先ずはお前からだ!!」

 早乙女さんが俺の前に立った。

「安心しろ、お前がくたばったらお前の女は責任を持ってちゃんと面倒見てやるからよ。色々とな……」

 やらしい顔で笑ってそう言う。馬鹿野郎が、幸をお前なんかに渡すかよ。

 えっと、こいつ、年上だろ?俺は同級生としか喧嘩した事ねぇし、それもつい最近の事だし、実際問題どのくらい強いのか解らねえが、幸を不幸にすると言うのなら……

「取り敢えず、死んどけ……」

 右のパンチを放った。なるべく無心で。死ねとか本気で思ったらくたばっちゃうかもしれないから。

「ぐおっ!?」

 あれ?と自分でもびっくりした。簡単に顔面に入ったから。

「……おい東南アジアの人、こいつ強いのか?」

 倒れた早乙女さんを見ながら問う。

「そう言われているな」

 向こうは向こうで群がっている野郎相手にしながら質問の答えていた、あいつ超余裕じゃねえか。

「が……ゆ、油断したぜ……だけど次はねえがはっ!?」

 なんか起き上がって来そうだったので、その前に蹴っ飛ばした。顔面を。

 そうしたらまた倒れた。ホントに強いのこいつ?

「……おい東南アジアの人、伸びちゃったけど、本気で強いのかこいつ?」

「そう言われているな。その前に、東南アジアの人じゃねえ。タイと日本のハーフだ。ククリット・トーゴーっつうんだよ。東南アジアの人とか言うんじゃねえ」

「そ、そう?ま、まあいいや。つか余裕だなお前……」

 数がきついだろうと加勢しようと向かうも――

「いらねえ。お前は大人しく女守ってろ。人質にされたら面倒だ」

 それもそうだと幸の傍に寄る。本当に強いなあいつ。確実に一発でぶっ倒している。

 本気で驚いた。時間にして10分経ったかどうか。全滅させるにそんな時間とか……

「ボケッとすんな。とっとと逃げるぞ」

「え?だ、だってお前、全員ぶっ倒したんじゃ?」

 逃げるも何も、敵はもういないだろ?

「全員じゃねえ。一人はお前がやっただろ」

 いや、早乙女さんはそうなったけど、敵がいない事には変わらないだろ?

「仲間呼ばれている可能性があるからな。俺は毎度の事だが、勝手に首突っ込んできたとはいえ、巻き込んだのは否めねえ」

 増援の可能性があるのか。つかこいつ、大人数と揉めてんのかよ。

「じゃあ早く逃げなきゃ。行こう颯介」

「ちょ、引っ張るな。つか、逃げるも何も、どこに?渓谷に帰るんじゃないのか?」

「今電車は拙いかもな。夕方まで待て。その時だったら他の客に紛れ込める」

 その弁だと、今の時間は空いているって事になるが、あの混みようで!?渓谷なら満員電車扱いだぞ!?臨時便出るレベルだぞ!?

 つか、夕方になったらもっと混むの!?流石都会だ!!

「ま、まあ解ったけど、逃げろと言われても土地勘が全く無いから、どこに逃げればいいのやらだが……」

「仕方ねえな……ついて来い」

 ついて来いと言われたら、そりゃついて行くけども、つうかそれしかないけども。

「躊躇してないで、トーゴー君について行くの」

 また幸に引っ張られてトーゴーの後を追う。つか、お前が首突っ込んだせいでこうなったんだから、少しは反省して欲しいんだけど。

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