丘陵~002
で、注文の品が揃う。戴きますして早速ペペロンチーノを食う。
「やっぱうまい。ペペロンチーノ最強だな」
「シェアしたいけどニンニクだからなぁ……」
物欲しそうな遥香だが、お前ブレスケア持っているんだろ?だったらいいだろうに?
「みんな揃ったって訳でもないけれど丁度良かった。食べながら聞いて貰えるかしら?」
なんか横井さんから重大発表があるようだ。まさか河内を別れたとか……?
「昨日河内君から連絡が来て、いや、いつもは着信拒否にしているのよ?的場さんの携帯を借りて連絡してきたから、河内君のスマホに折り返ししたのよ?」
なんだ、別れた訳じゃねーのか。つか、俺意外とほっとしているな。結構心配していたって事か。
だけど、それよりもだ。
「いや、一応彼氏彼女だからそんないい訳じみた事を言わなくてもいいんじゃないかな……?」
うっかり連絡してしまったような言い方になっているぞ。つうかまだそんな状況なのかよ、河内いい加減にしろよ。
「だけど、的場さんのスマホを借りてまで連絡を取って来るって事は、相当な事があったって事じゃないのかい?」
国枝君の言う通り、そこまでしても連絡を取りたかったって事は……
「別に緒方君や国枝君に連絡しても良かったんだろうけど、千明と話したかったからかこつけただけでしょ」
楠木さんが身も蓋も無い事を言った。それに頷く横井さん。
「まさにその通りだけれど、やっぱり重要な事だったから大人しく聞いたわ」
「じゃあなんだよ横井?」
「……とうどうは渓谷には居なかった。だけど、遠い街に一つの噂があるそうよ。どんなお願いでも聞いてくれるとうどうさんって」
全員顔を見合せた。いきなり突拍子もない話になって何が何やらだからだ。
「横井、それってどういう事?」
斬り込んだのは彼女さん。それを手を翳して制する。
「最初に言っておくけれど、その噂の元に話を聞きに行く事は可能。だけど、女子全員は遠慮して貰いたいとの事と、生駒君、河内君にも遠慮して貰う。これが条件らしいわ」
「なんでその条件なの?」
「女子に目の敵にされているのと、生駒君は万が一があるから。河内君に至っては一緒に出向く事自体あり得ない」
またまた顔を見合せる俺達。一体なんだその条件?
「ハッキリ言って意味が解らないけど、つまりダーリンか大沢君、国枝君、木村君、大雅君、玉内君だったらいいって事?」
頷く。結構険しい顔を拵えて。横井さんにしては、そんな表情は珍しい。
「その話を聞いた時、私は簡単に頷いたわ。私も会いたくなかったし、河内君にも会わせたくなかったし」
「じゃあ電話とかで聞けばいいんじゃねえの?」
ヒロの言葉に全員同意の頷き。わざわざ会わなくも電話で聞けばいい話だ。
「向こうの話では、万が一を危惧して、らしいわ。見張られている可能性も否めないからって。だから緒方君は絶対に来て欲しいそうよ」
「見張られているかも?誰に?」
横井さんは大きく息を吐いた。そして、なお一層厳しい表情になって発した。
「須藤朋美によ」
全員息を飲んだ。場が静寂に包まれた。朋美に見張られているかもしれない?俺に来て貰いたいって意味はなんだ?
つうか、誰だその噂の元は?
そして横井さんは俺を直視する。怖いくらいに真剣に。
「正直言ってみんなには渓谷の件は関わらせたくない。大切なお友達に、あの意味不明な事件に関わらせたくない。何が起こるのか全く見当がつかなくて怖いから。だけど、君は行くのでしょう。須藤朋美と決着をつける為に。それに殉じて槙原も着いて行くでしょう。大好きな君の為に。そしてみんなも付き合うでしょう。大切な友達だから。よって私も着いて行くことになる。大切な友達だからね」
なんかすんごい大袈裟な事を言い始めた。俺は朋美をぶち砕ければなんでもいいだけなのに。
「だから話を聞きに行く事は止めない。だけど、君一人では絶対に行ってはいけない。この条件、飲める?飲めるのなら続きを話すわ」
深刻かつ大袈裟な物言いだが、それだけ心配してくれている事は伝わった。
だからきっぱり頷く。
「その条件飲む。ヒロ、国枝君、一緒に行ってくれるか?」
ヒロも国枝君も躊躇なく頷いた。当然だとばかりに。
「なんか知らねえが、荒事になる可能性があるのか?だったら俺は必要だろ」
「渓谷のとうどう、そして湖の遺体。おかしな事が起こっている事は事実だからね。じゃあこのメンバーでは僕は必要だろう?」
そう。と頷いて、今度は女子に目を向けた。
「女子は何がなんでも着いて行っちゃ駄目。向こうがいくらどうしようもない事をしても、こっちもそのレベルに堕ちる必要はない。約束できる?」
「……まだ確信部分が見えないけど、横井がそこまで言うのなら約束するよ」
女子全員も頷いた。約束は違えないと。
ならば話そうと横井さん、オレンジティーで一旦喉を潤した。緊張しているのが伝わってくる……
「噂の元は丘陵。その話は須藤真澄から出た。それを狭川晴彦が河内君に電話で伝えたの」
須藤真澄と狭川晴彦!!
朋美の親戚にして、ある意味朋美の一番の被害者で、一番の協力者!!
「……狭川晴彦の話では、大洋に双月が出来る時に、丘陵に支店を出す計画があったそうよ。と、言うか、今も進行中。須藤真澄は大洋在住だったけれど、その関係でちょくちょく丘陵にも顔を出していた。狭川晴彦曰く、薬の販売先を探していたらしいけれど」
双月は全国チェーンの和風ファミレス。だから支店を出す計画は常にあるのだろうが……
「で、須藤真澄は現在四国に居るけれど、テスト休みと休日が重なって日数に余裕が出来たから丘陵に来る事になった。名目はただ視察に行くお父さんに着いて行く旅行。だけど、実際は須藤朋美の近況報告を狭川晴彦にする為」
「ちょっと待て。狭川と須藤真澄は普通に連絡を取り合っている筈だ。わざわざ会って報告する必要、今更あるのか?」
ヒロの疑問はみんなの疑問。俺もそう思ったし。
「なんか尋常じゃない事になっているようよ。須藤真澄も聞きたい事があったようだからこっちに来た。緒方君と大沢君にね」
「それだって俺のケー番、メアドを知っているんだし、わざわざぶち砕かれるかもしれないリスクを冒してまで?」
「自分から話を聞けば、呑気な君もその異常さに気付くそうよ」
ちゃんと顔を見て話したい。それによって真剣さをアピール、か……
「……成程、女子とシロは除外な訳だ。春日ちゃんの噂の仇は確かに女子全員の話だったからね。自分から手を引いたとはいえ、私に薬を撒こうとしたんだから、シロも顔見たらぶっ飛ばすかもしんないし」
納得と背もたれに身体を預ける楠木さん。俺も納得した。
「つまり、丘陵に来い、と言う訳か。狭川が案内するからついて来いと。河内が狭川とつるむ事なんかあり得ないしな」
頷く横井さん。聞きたかったら狭川の案内で丘陵に来い。狭川ともちゃんと顔を合わせて話したい事がある。俺やヒロは朋美をぶち砕いたから、万が一朋美が出てもどうにかできるって事か。
「……正直言ってダーリンと須藤真澄を会わせたくないけど……」
私も行くと言う言葉を頑張って飲み込んでいた。
「……横井。それは三日後の日曜日でいいんだよね?」
「そうね。だから向う人をその時まで決めてくれたら……」
頷いてピコピコと。なんか何人かにメールを送っているようだけど?
「今、木村君と大雅君、玉内君にメールしておいたから」
顔を見合せる俺と国枝君とヒロ。ぶっちゃけこの三人で充分過ぎると思うけど?
「正直言って須藤真澄は信用できないし、これが狭川晴彦のリベンジ狙いで仲間を大勢待機させているかもしれない。だから出来るなら五人で行って欲しい」
懇願するように。そうだったな。遥香は慎重だったな。しかも病的に。
「いいけど、あいつ等にも用事があるんだろうから、無理にとは言えないぞ」
「それでいいよ。ボイスレコーダーも持って行ってね。会話を全部収めてね?」
まあそうだな。その話が嘘か真か、俺には解る筈も無いし、全員に聞いて貰いたい気持ちも当然あるしな。
程なく遥香の携帯に着信が入る。メールの返事だろう。それを読む遥香。
「……木村君と玉内君はOKだって。大雅君はその日に用事があるから無理だって」
頷く。切れ者の木村が同行するんなら心強い。少なくとも言葉で丸め込まれる事は無い。
遥香の懸念通り、これがリベンジマッチだとしても、俺、ヒロ、木村、玉内と四人もいるんだ。国枝君を逃がす事くらいは楽勝でできるだろう。
その日から遥香が必要以上にべったりだった。かなり心配しているのが解る。
ヒロも木村も玉内も居るんだから大丈夫だと言っても、丘陵、と言うか、峠から向こうは情報はほぼ皆無。知らない事に非常に不安を感じているようだ。
調べたいが丘陵の方には知り合いはいない。これから動くと言っても時間も無い。これも不安の要因だそうだ。
麻美にそのことを相談すると、遥香だったらそうなると。だから地獄に堕ちたんでしょ?と。それもその通りなので頷くしかなかった。
「だけど丘陵か……朋美に丘陵の知り合いなんかいない筈だし、そのとうどうは渓谷な筈だし、正直言って何が何やらだね。だから須藤真澄の話は有り難い事なんだけど……」
なんかブツブツ言って考え出した。
「お前の力である程度解らねーのか?」
「だから、悪霊の力はそんなに便利な物じゃないってば。精々牽制くらいだよ、できるのは」
確かにそう言っていたが、藁にも縋りたいって言うかな……
「……玉内君って彼女いたっけ?」
唐突に話題を変えるな?別にいいんだけども。
「いない筈だ。それがどうした?」
「いやいや、友達に彼氏欲しい、できれば強くてイケメンな人って言われたのを思い出してさ」
玉内を紹介したいって?いいんだろうけど。
「その条件なら玉内にピッタリだが、あいつにも選ぶ権利って物があってだな……」
「そりゃそうでしょ、玉内君だって気に入らなければ断ってもいいよ。で、どこで待ち合わせだっけ?」
またまた唐突に話題を変えたな?
「大洋、つうか、内湾駅だな。あそこから連山に抜けて峠を越えて、丘陵に向かうそうだ」
「内湾か……そうか……うん、解った」
なんか一人で納得する麻美さんだった。何か企んでいるんだろうな。余計な事をして貰ったら困るんだけど……
そして日曜日。待ち合わせは西白浜駅に朝6時。その前にちゃんといつも通りのメニューをこなす。
「隆、槙原は泊まったのか?」
隣で同じく柔軟していたヒロが訊ねてくる。
「いや、昨日も来なかったし、あいつにしては珍しい事もあるもんだな、とは思った」
かなり心配していたから、土曜日は絶対に泊まると思っていたが、家にも来なかった。一応電話で話はしたけど。
「なんて話した?」
「え?明日気を付けてねって」
「それだけか?なんかうすら寒い感じがするな……」
ヒロも同じ感想か。流石に着いてくるとか、先回りで丘陵に行ったとは思わないが、間違いなく何企んでいるだろうとは思う。
「波崎さんはどうだった?」
「波崎も結構不安がっていたけど、槙原程じゃ無かったな」
やっぱそうか。女子全員できれば行って欲しくないと言っていたもなんな。特に黒木さん。
木村に俺を信用してねえのか?と言われて漸く口を噤んだくらいだ。あの儘だったら当日まで行くな行くなと騒いでいただろう。
「今日は早めに上がって西白浜に行かなきゃな。つう訳で走るぞ隆」
全くその通りなので走った。何となくの不安を感じながら。
で、超はしょるが、西白浜駅だ。そこには木村が既にベンチに座って待っていた。
「おう、緒方、大沢、国枝。早かったな」
「おはよう木村君。なんか眼が冴えちゃってね」
代表で国枝君が答えた。まあ、俺達は普段よりもちょっと早起きした程度だけど。
「狭川は?西白浜駅に来る筈だけど?」
「ああ、まだ来てねえ。あいつに案内させなきゃ須藤真澄に辿り着かねえから待つしかねえが、なんであの野郎とつるんで走らなきゃいけねえんだ、ってのが正直な感想だな」
渋い顔を拵えて言う木村。それには完全同意だ。なので激しく頷いた。
「まあ、狭川にも用事があるっつうんだし、仕方ねえよ。で、もしも丘陵で荒事になった場合、あの野郎は味方ポジでいいのか?」
ヒロが自販機で買ったコーヒーのプルトップを開けて訊ねた。俺としちゃ、知ったこっちゃねーけども。
「案外敵で俺達を連れ出したって線もあるぜ」
「そうなったらそうなったでいいけど。国枝君さえ逃がせれば後はどうでもいいんだし」
「なんか申し訳ないな……僕は荒事に全く役に立たないから……」
項垂れる国枝君だが、それでいいんだよ。本来なら荒事は無い方がいいんだから。
「木村、丘陵の事、ちょっと調べたんだろ?なんか情報ないのかよ」
俺の頭じゃ、沿岸沿いの大洋、内陸部の丘陵としかイメージが湧かない。共にこの県ではでっかい街だとしか。
「一応な。だけど知りたいもんは何も出て来ねえな。警戒すべき学校くらいか」
一応そこは調べてんのな。しかし、麻美情報じゃ、朋美は丘陵に知り合いはいないから、学校云々もそんなに重要じゃないだろうし。
そんなこんなで話していると、早朝ゆえに控えめな排気音。
「来たか。だが、ほぼノーマルの単車だな。てっきり緒方の嫌いな暴走族使用だと思っていたが」
同意の意味で頷いた。狭川は暴走族だから、あの糞うるせえ、派手なバイクだと思っていたから、逆に拍子抜けだ。
「……まだ待ち合わせ時間には早いと思うが、全員揃ってんのかよ」
黄色地に派手なステッカーやら何やらべたべたのヘルメットを抜いてそう言う。
「いいだろうが何でも。遅れるよりはマシだろうが。それより、お前がそのバイクなのは意外だが。もっと糞バイクだと思っていたけど」
「……的場にノーマルに戻されたんだよ。ゾク辞めるんだから必要ねえだろって言われてな」
面白くなさそうに、吐き捨てるように。
「XJR400Rか。まあまあいい趣味だ」
「そうかよ。まあ、取り敢えず言っとくが、俺も込み入った話は聞いてねえ。会って話したいらしいからな。だから今聞かれても答えられねえからな」
「それでもお前が須藤真澄にどうどうの事を訊ねた事が切っ掛けなんだろ?」
「そうだよ。どとうどうなんて知らねえからな。調べても解らねえし、だったら顧客獲得でいろいろ動いていた真澄に聞いてみようって事でな」
顧客獲得の件で超イラッとした。
「……緒方君よぉ、一応善意で動いた俺に、その拳を握るのは不義理じゃねえか?」
ビビりながらも苦言を呈した狭川。善意も何も、お前も自分の為だろうに。
「仕方ねえだろうが。こいつ馬鹿なんだから」
ヒロがフォローじゃないフォローを入れる。誰が馬鹿だ。
しかし、狭川は我が意を得たりとばかりに何度も頷いた。お前相手にそんな真似されちゃ、ムカつきがピークに直ぐ達するんだけど。
俺のその様子に気付いたか、国枝君が話しを変えた。
「そろそろ出ようか。時間は大丈夫だと思うけど、玉内君も朝早いからね」
それもそうだとバイクに跨った。
「おい、俺はまだ慣れちゃいねえから、ゆっくり頼むぜ」
「おう」
木村が先頭で走り出す。次に狭川、国枝君、俺、ヒロの順だ。
内湾までの道のりは50分くらい。だけどヒロが居るから1時間は掛かるかもな。俺がそれを言うとは驚きだけど。
去年の俺だったら1時間でも充分だと思うし。実際南大洋まではそのくらい掛かったしな。
適度に休憩を入れて、漸く内湾駅に着いた。時間は50分切ったくらい。ヒロが頑張って喰らい付いた結果だ。
「時間はまだ早いから、少し休憩できるよ大沢君」
「おう……助かるぜ……やっぱまだ緊張するな……」
早速自販機からコーラを買って煽るヒロ。俺も最初の頃はそうだったなぁ……
「……おい西高の大将。あれって誰だ?」
狭川が駅のベンチにこそっと座っている女子を発見して指差した。
「誰って地元の奴だろ……んんん!!?」
ビックリして二度見した木村。かく言う俺も、いや、国枝君もヒロもそうだった。
すんごく目立たないように頑張って座っていたのは、橋本さん。それはいい。地元なんだから。
問題は遥香と麻美も居るって事だ。何やってんのあいつ等!?着いてくんなと言っただろうが!!
女子達目掛けてズンズン進む俺達。流石に狭川は遠慮したが、突っ込みたいのを根性で堪えていただろう。
女子は遠慮しろっつったよな、と。
そして俺は遥香と麻美の前に仁王立ちになって訊ねた。
「……よぉ、彼女さんと幼馴染さん。隣町なのに奇遇だな?」
「あ、あれ?ダーリン?何でこんな所に?」
すっとぼけやがったよこいつ。絶対に騙せないと思っているだろうに。
「あれ?馬鹿隆じゃん?なんでここに?」
「お前等が馬鹿だろうが!!女子は着いてくんなと言っただろ!!」
怒っている俺に対して、まあまあと宥めに入る橋本さん。
「日向さんも槙原さんも着いて行くって来た訳じゃないよ。昨日からウチにお泊りしていたから、紹介と言うか……」
昨日!?どおりで昨日家に来なかった訳だよ!!橋本さんの家に行っていたから来ねーよな、そりゃ!!
「そ、そうそう。大洋にお友達の家に遊びに来たから、ついでに……」
「そ、そうそう。今日隆達が丘陵に行く前に内湾駅に寄ると言うからついでに……」
豪快に目が泳いでいやがる。しかし、まあ、こういう事だろ?
「見送り、でいいんだよな?着いてくるから待っていた訳じゃねーよな?」
「え、えーと、見送りもついでと言うか……」
橋本さんが目を反らして指を遊ばせながら言った。汗ダラダラ掻きながら。
「見送りがついでとか意味が解んねえが、兎も角丘陵には連れて行かねえぞ。女子達は遠慮しろってのが条件なんだからな」
木村がきっぱっり断った。それに頷く遥香と麻美。
「着いて行くとは言わないよ」
「そうそう。私達はね」
また意味深な事を言いやがる。どんな屁理屈を捏ねようが、着いてくることは絶対に許さないかなら!!
「あれ?もう来ていたのか?結構早く出たと思ったんだが……」
ここで玉内が合流。狭川が引き攣りながら身を仰け反っていたが、ビビんじゃねーよ。ホント雑魚だなこいつは。
「良かった~。待ってたよ玉内君」
何か知らんが女子三人が玉内を囲む。安心したように。
「橋本?つうか槙原さんと日向さんも?なんで内湾駅に居る?」
玉内もビックリしていた。つう事は玉内と何かしらの約束があった訳じゃないのか。
「え?玉内君に言ったよね?こういう子が彼氏欲しいって言っているけど、どうかなってさ?」
麻美がキョトン顔を拵えながら。つうか遥香も橋本さんも小首を傾げているけど?
「確かにそう言われたし、会ってみるだけならいいよとも言ったし、会ってもどうなるか解らないとも言ったよな?俺が気に入られない場合だってあるんだから」
前に言っていた彼氏欲しい子を玉内に紹介しようって事か?その話をする為に、わざわざ内湾駅、つうか南大洋に来たのかよ?
「だから、会ってみてよとも言った筈だけど」
「だから、それはいいよって言ったよな?」
顔を見合せる遥香と麻美、実に悪い笑顔で。その隙に橋本さん、外に飛び出したし。
「なんか知らねえが、着いて来ねえつうんならいいだろ。玉内、ちょっと休憩させてやるから、もうちょっとしたら出るぞ」
何か知らんがヒロが仕切った。
「俺はもう出てもいいけど」
「まだコーラ残ってんだよ」
「「「じゃあお前の為の休憩だろ」」」
俺と木村と玉内が突っ込んだ。恩着せがましい事言うんじゃねーよって具合に。
と、少し離れた狭川が木村に向かって言う。
「……おい西高の大将。アレ誰だ?」
「あ?知らねえよ。地元の奴だろ」
木村は本当に知らないようでそう返した。じゃあ、と俺が狭川の向いている方向を見た。
噴き出しそうになった。その様を見たヒロも俺と同じ方向を見た。
ヒロも噴き出しそうになった。一応俺もそうだが根性で耐えた。危なく突っ込むところを。
橋本さんが連れて来たのは、児島いつきさん!!
「お待たせ日向さん、槙原さん。玉内君、この子が紹介する子だよ」
「チース。君が玉内君?写メで見るよかイケてるねー。ちょっと怖い感じだけど、まあまあ許容範囲。槙原さんの彼氏よか全然怖くないし」
馴れ馴れしく寄ってきて玉内の手を握りながらそう言った。
「ちょ!」
突っ込みたかったが、やっぱり根性で堪える。しかし、逆に児島さんの方から話を振って来た。
「チース大沢。久し振り。そうは言っても駅とかでちょくちょく話するけどね。緒方の方は本気で久し振り。中学以来だっけ?」
児島さんの設定が瞬時に脳を駆け巡った。俺は怖くて話掛けられなかったが、ヒロとはちょっと話していると。
それを読んだのはヒロもそうだったようで、実に柔軟に対応した。
「……児島じゃねえかよ?なんでお前が此処に居る?」
「なんでって、麻美から彼氏紹介して貰うために決まってんじゃん。聞いた話しじゃ緒方と互角に殴り合ったほど強いんでしょ?だったらフリーなら世話して貰うじゃん普通」
「そういや日向と仲良かった方だよな。そうか、その経由かよ」
設定を国枝君と木村にも教えた形となった。俺達と初めて会う設定だと。
「って事で、この子どう?玉内君?」
麻美が出てそう言う。玉内、いきなりの事で頭が付いて行かず。
「どうって言われても、初めて会ったし、しかも不意打ちだしで……」
「可愛いとか思わない?」
「そ、そりゃそう思うけど、俺は中退でバイトと練習で忙しいし、隣町だしでなかなか会えない……」
「可愛いって、いつき」
「マジで!?相思相愛じゃん!!」
なんかキャッキャ騒いでいる。それを横目に遥香に寄ってこそっと訊ねた。
「おい、どう言う事だ?」
「どうも何も、玉内君に紹介するって事でしょ。見れば解るでしょ?」
「そりゃ見れば解るが、今日はそんな暇はねーのは承知だろうが?今から丘陵に行って須藤真澄に会わなきゃいけねーんだから」
ここで木村も合流。
「おい槙原、本気で何を企んでいる?玉内に女紹介するのは今日じゃなくてもいいだろ。なのにわざわざ前日から泊まってまでそうした?あの女も橋本の家に泊まったんだろ?つう事は女共全員今日このタイミングで世話する事を知っているってこったろ?」
そ、そうか。そうなるか。児島さんも橋本さんの家に泊まったって事だ。それはつまり、女子全員この事を知っているって事だ。つまり絶対何か企んでいるって事だ。
「児島さん、麻美さんの友達だって」
「そう言っていたが……」
「麻美さんの友達なら須藤の敵でしょ?いや、それを言ったらほぼすべて須藤の敵になるけど、ランクが違うって言うか」
「そう言われればそうかもだが……」
「で、霊感あるんだって。結構凄いらしいよ。川岸さんよりも上みたい。波崎が言っていたから間違いないよ」
顔を見合せる俺と木村。何を言いたいのかさっぱりだ。
「……丘陵に行くのをみんな賛成しなかったよね?不確定要素が大きいから展開が全く読めないから。それでも私達が行けばそこそこは納得できるんだろうけど、条件がアレだから無理でしょ?」
頷く俺と木村。破ってもいいとは思うが、横井さんの言う『向こうと同じになる』に賛同した結果だ。
「あの話が出たのは三日前だったよね?それから考えたんだよ、どうにかして私達、もしくはそれに近い子を連れて行けないかなと」
「それが児島だってのか?だけど児島は普通の女だ。こっちの事情に巻き込むのは憚れるだろ」
木村も児島いつきさんは名前だけは知っているが、初めまして設定だからこれでいい。
「普通だけど普通じゃない。言ったでしょ?須藤の敵で霊感があるって」
「それだけを当てにして玉内に紹介したってのか?だけど着いては来させねーぞ?お前も言っただろ。不確定要素ばっかりだって」
普通に考えれば須藤真澄が『何でも望みを叶えるとうどうさん』の噂と、朋美が何か酷い事になっている報告を受けるだけ。
だけど俺、いや、俺達はそれで済まない思っている。絶対に何か起こると確信している。
とうどう関連なら国枝君は必要だから頼るしかない。代わりに俺、ヒロ、木村、玉内でガードをきっちり固める。
それが俺達が出した結論だ。因みに狭川は全く当てにしていない。何かが起こったら勝手に逃げろって感じだ。
「でも、国枝君も全部読める訳じゃない。と言うより殆どは読めない」
「児島さんなら読めるってのか?」
「一人より二人。児島さんも言っていたけど、たかが霊感が強い程度だから完璧に視る事は出来ないって。だけど、嘘、偽りは見切る事が出来るし、何より麻美さんの友達だったのに無事に中学を過ごして来た事は大きい」
「麻美だって話する友達くらいは居ただろ。ヒロもそう言っていたし、麻美もそう言っていたし……」
「そうじゃない。危機管理能力に長けるって言うか……須藤の、もっと言えば須藤に脅されたり頼まれたりして麻美さんから距離を置いた連中の目を欺いて麻美さんと話していたんだよ?完璧じゃないにせよ、児島さん本人も友達は一握り居ればいいってタイプだからだとしても、他の連中に文句も言われなかったのは凄い事だよ」
そう言われてみれば……麻美からあまり話し掛けない方がいいと言われながらも結構話していたみたいだし、それは即ち朋美とその糞仲間の目を欺いていたとも取れる。
「……お前の言う事は解ったが、条件に反している事実は変わらねえだろ。連れて行く事は出来ねえよ」
木村の言葉に引き戻される。そうだった。そもそもついて来ようとするのが駄目って事だ。
「そうじゃない。だって児島さんは春日ちゃんの件に関わっていないし、須藤真澄もその存在を知らない。だから条件外だよ、ちょっと強引だけど、事実でしょ」
「そう言われりゃそうだが、着いて来るって理由は?」
「彼氏たる玉内君に着いて丘陵に遊びに行くだけ」
それって玉内がうんと言わなけりゃ駄目じゃねーの?つか、そもそもだ。
「児島さんは玉内に好印象なのか?お前等の事情の為に無理やりって事は無いよな?」
「それは保障する。玉内君の写メ見せた時、この人良い!!って拳を握ってブンブン振って興奮していたし」
それならいいけど……無理してとかだったら絶対に駄目だからな。児島さんに悪いし、玉内に失礼だし。
「おい隆、そろそろ出なきゃ約束の時間にやべえって狭川が言ってんだけど」
ヒロが寄って来てそう言う。確かにそろそろヤバいか。
取り敢えず玉内の所に行く。児島さん、玉内の手を引っ張ってはしゃいでいた。
「良かった緒方……バイクに乗せろって言われて困ってたんだ……もう直ぐ出なきゃいけないのに……」
「え?私を可愛いって言ったよね?」
「言ったけど、俺は隣町でなかなか会えないし、ジムとバイトで忙しいからやっぱりなかなか会うのが難しいって言ったよな?」
「それでもいいって言ったじゃん」
どうやら付き合えアタックを喰らって困っている様子。こうまで積極的ならいいのか?
ともあれ、これが仕込みじゃない本当の感情ならば、俺も動こう。
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