地域活性化友好交流会~002

 俺は音楽を楽しむ、特にクラシックなんて聴くような高等な趣味は持っていない。

 持っていないが、すげえってのは解る。

 いろんな楽器で奏でる音。迫力がすげえ。熱がすげえ……

「こんなにすごいのか、クラシックって……」

「違う。海嶺の演奏が凄いんだよ。白浜の吹奏楽部なんてお遊びだよ、これに比べたら……」

 蛯名さんも感動に震える程だった。ヒロは欠伸を噛み殺していやがるが。

 海嶺の音楽科。専門科だけあってレベルが一つ二つ違う。こりゃメインイベント食われるんじゃねーのか……?

 音が止まった。壇上の海嶺生徒さんたちが礼をする。その後の割れんばかりの拍手。

 海嶺の生徒はやり切った表情で笑っているし、喧嘩ばっかの俺と違っていい青春しているな!

「このイベマジですごいね。横井さんと槇原さんが企画立てたんだよね?」

「あ、うん。海嶺は後から加わった学校だけど、予想以上の出来で次の内湾女子のチアリーディングがプレッシャーじゃねーのか?」

「内湾も専門職なんでしょ?解らないけど。あ、幕が閉じたよ」

 休憩、というか、次の準備だな。

「屋台でなんか食べるか?俺とヒロは食べないけど」

「え?なんで?美味しそうなのいっぱいあるじゃない?」

「俺達は試合があるからな。昼食に程々取る程度にしとかねえと」

 ヒロの言う通りだが、こいつがそこまで気を遣うとはよっぽどだ。食い物があったら口に入れるのがこいつなのに。

「南女にジュースでも買いに行くか。ジュース程度ならいいだろ」

「そうだな……波崎が仕切ってんだから顔出さなきゃ不味い」

「大沢君も尻に敷かれるタイプなんだ……」

 そっちの方が平和だからな。だから蛯名さんも彼氏ができたら尻に敷いた方がいい。

 そんな訳で外に出る。次の出し物まで時間があるので、殆どの人が外に出て買い物をしていた。

「うわ……凄い人……」

「だから白浜の文化祭も潤うんじゃねえか。あれ見ろよ、あの客が持ってんのは白浜の屋台から買ったフランクフルトだ」

「え?でも。黒潮もフランクフルト出しているじゃない?」

「ちげえよ。値段が違う。見ただけで黒潮の方が旨そうだろ。向こうは既製品を串に刺して電気で焼いたやつ、黒潮のは手作りでガスで焼いたやつだ。ちゃんと燻製だぞ、黒潮のは」

 なんで詳しいんだこいつは?食いたいのか?宇佐美のフランクフルトを、俺も食いたいけどもさ。

「ホントだ、黒潮のは一本500円もする……」

 その500円のフランクフルトも結構買っている人がいると言う。白浜の生徒も買っているし。

「まあ、南女のカフェだな。蛯名、お前は?」

「うん、私も取り敢えずそれ。でも並ばなきゃ」

 結構な人込み故並ばなければ買えない。なのでお行儀よく並んだ。

 そして次の内湾女子の出し物の出番であろう時間に漸く変えるポジションに着いた。

「いらっしゃいませ!って、なんだ緒方か」

 なんだとはご挨拶だな児島さん。一応お客様だぞ。

「そっちの人は友達?」

「ああ、うん。同じクラスの蛯名さん」

 お辞儀する蛯名さんにカウンターでお辞儀を返す児島さん。俺達にもちゃんと接客して欲しいものだが。

「えっと、蛯名さん、どれにしますか?」

 メニューボードに指を差す。

「俺は……」

「大沢と緒方はコーヒーね」

「なんでだよ!生ジュース飲ませろよ!」

 いや、俺はコーヒーでいいんだけど。一杯100円だし。

「果物系は身内にはあまり出したくない。数に限りがあるから。その代わり二人で100円にしとくから」

 そんな理由なら、まあ。つうか半額はとても嬉しいからそれでいいや。

 そんな訳で半額コーヒーをゲット。蛯名さんはキウイの生ジュースだ。氷と一緒にジューサーに掛けていたから完璧100パーセントって訳じゃないだろうけど、生ジュースには変わるまい。

「本当はパイナップル飲みたかったんだけどね」

「うん?飲めば良かったんじゃねーの?」

「いや、私って生パイナップルを食べるとお腹痛くなっちゃうし。過熱しているんだったら大丈夫なんだけど」

 ああ、そう言う事情ならしょうがないよな。何とかって酵素で胃とか腸にダメージを与えるんだったっけ?

「おい、もう内湾女子のチアリーディングやってるぞ」

 ヒロの言葉につい足が講堂を向くが……

「流石に飲み物持って入ったら不味いだろ。間違って零してしまったら掃除が大変だし」

「じゃあここで飲んでいこう」

 蛯名さんの案に賛成してゆっくり味わう。このコーヒー…インスタントだな。

 忙しいとか言っていたが、せめて豆を挽いたのから淹れて欲しかったが……

「50円ならそんなもんだろ」

 結局ヒロの言葉が真意だ。そもそもメインは生ジュースみたいだし。

「バナナオレもあったからそうでもねえんじゃねえの?」

「お前も心を読めるタイプに進化したのか……」

「いや、お前小声で言っていたぞ」

 なんと、声に出していたのか。そりゃ解って当然だよな。

 ヒロ相手に無我の境地を極めようかと思う所だったぜ。声に出していたのならセーフだもんな。何がアウトでセーフか解らんけど。

「あはは。緒方君、愚痴り過ぎ」

 蛯名さんに笑われた。やっぱ小声で言っていたか。良かった良かった。

「無我の境地とか、面白すぎるよ」

「そこまで言っていたのか俺は」

 素直とよく言われるが、それ以上の逸材だったようだな。

「まあいいや。俺は飲んじゃったが、ヒロは」

「50円のコーヒー程度、俺の敵じゃねえ」

 敵味方で語るか、流石はヒロだ。俺以上の逸材だぜこいつ……!

「私も飲んだよ。チア観に行こう」

 蛯名さんも飲んだか。と言うかだ。

「キウイジュースっていくらだった?」

「えっと、500円」

 たけーな生ジュース!!いや、大体そんなもんだろうが、あれの中身が店頭に並べられない果物だと知っている身としてはぼったくりだと思ってしまう!!

「何やってんだ?早く行くぞ」

 ヒロに急かされ、講堂に向かう。やっぱ立ち見の人の数がすげえ。

「講堂じゃ狭かったようだね。他の施設借りた方が良かったんじゃない?」

「一応学校同士の協力だからな。それに、こんな大規模になるとは思っていなかったようだし」

 文化祭とバッティングするように調整した結果だからな。講堂は最初からの狙いだったようだし。

 一応学校貢献も美味しい餌として交渉に内に入っていたようだし。

 入ったらまた言葉を失った。俺もよく解らないが、大橋さん曰く、チア競技にはチアリーディングとパフォ―マンスチアがあるとの事。

 今回内湾女子の出し物はチアリーディングの方で、一般的にチアと言えばそっちの方を連想するだろうと。

 確かにテレビとかで観た事がある。組体操からのバク転とか、今まさにその演技を生で見ている!

「うわ……高い……」

 蛯名さんが呟いたのは、選手の一人が足場になって、もう一人の選手を飛ばせてバク転されたものだ。あのくらいの高さが無いとバク転が難しいから大ジャンプしたんだろうが、マジで高い……

 全身がバネのようで、しかししなやかで。

「おいおい……マジで俺達のファイナル食われるんじゃねえか?」

 ヒロですら苦笑いしてそう言うほどの出来栄えだった。

「海嶺のオーケストラも凄かったよな……なんでこんなにレベルたけーの?」

「俺が知るか。俺だって文化祭の出し物の延長くらいしか考えていなかったってのに……」

 今なんかのダンスを行っているが、そのステップもすげえ。よく脚もつれないな……

「おい、次は何だ?」

「今内湾女子の出し物中だろうが、なんで次を事聞くんだよ?」

「次がぽしゃったら俺達のプレッシャーが軽減するだろうが」

 何てこと考えるんだこいつは。自分さえ良ければいいのか!

「次は山塊の演劇だって。題目は……青髭?グリム童話?知らないなぁ……」

 その題目は知らんが、グリム童話って赤ずきんとかシンデレラとかじゃなかったっけ?

 まあ、その青髭も似たようなもんだろ。

 歓声が上がる。チアリーディングは最後の決めポーズで終了した。

 しかし、マジでスゲーな。海嶺といい、内湾女子といい、レベルが高い。

「ほんとに凄かったね。緒方君達ってチアの人とも友達だったんだっけ?」

「ああ、いや、責任者の大橋さんとは友達だけど、チアはやっていなかったな」

「剣道だっけか。しかも高校に剣道部無いから無所属な筈だ」

「チア経験がないのに責任者なの?」

「それを言っちゃ、国枝だってボクシング経験ねえのに責任者だろ」

「そう言われればそうか……」

 そうなんだぞ。責任者ってイベントの監督みたいなもんだし。国枝君に至っては俺達よりもジムと打ち合わせしてばっかだし。

「次の山塊の演劇も観たいけど、流石に放置しまくりは不味いかな……」

 一応クラス委員としては実行委員に丸投げは心苦しい様子。

「放送部でDVD販売するらしいから、それ買って見てくれ」

「売れるの?」

「売れるだろ。各学校のPTAとか」

 俺も買うし。白井も買うって言ってたし。

「だけど海浜の出し物に協力してくれた人たちにはただでやるっつってたな」

「え?なんで海浜だけ?」

「海浜は資金提供が一番でかいから、お礼も兼ねてらしい」

 元々金目当てで海浜を巻き込んだんだから、そのくらいのサービスはやって然るべきだろ。他の学校からも文句は出なかったんだし。

 結局蛯名さんは後ろ髪を引かれながらもクラスに戻った。あんなもん花村さんに丸投げでいいのに。どうせ碌な事になんねーんだし。

「おい隆、どうする?」

「いちいち移動すんのも面倒だから、このまま此処に居る」

 お前は行っていいよと言ったつもりだったが、ヒロも付き合うと。

「お前演劇に興味ないだろうに」

「お前もだろうが。俺だけ芸術に無関心みたいないい方すんじゃねぇ」

 まあ、俺も人の事は全く言えないけどもな。お前の指摘通りだよ。

「座れるところ探すか?」

「う~ん……いや、立ち見でいいや。座席は遠いところから来てくれたお客さんに譲ろう」

「そうか。それもそうだな」

 律儀にヒロも付き合うと。お前は好きにしてもいいのに。

「あれ?緒方君と大沢君ですよね?」

 声を掛けられて振り向くと。海嶺の佐倉さん他数名の女子。一緒に責任者ポジにいた向井さんの姿は無い。

「おう、えっと、佐倉さんだっけ?演奏聴いたぜ。鳥肌立った」

 ヒロが馴れ馴れしく会話を開始した。その姿を波崎さんに見られれば面白い事になるかもな。

「そうですか!よかったです!」

 キラキラした瞳で返されて若干引き攣ったヒロだった。最後の方しか聴いていなかったのがバレたらどうなんだろうな?

「緒方君は?どうでした?」

 やばい、俺にも振られたぜ。

「うん。凄かったとしか言いようがない。俺達メインなのに食われるんじゃねーかって心配ばっかしていたよ」

 素直に答えたぜ。実際そう思ったからな。

「ホントですか!?お世辞じゃなく!?」

「本心だよ。海嶺の音楽科ってレベルたけーなって思ったよ」

「いやいやいやいや!まだまだまだまだですって!全国にはまだまだまだまだすごい学校があるんですから!」

 慌てて手をパタパタ振るが、全国を目指している学校なのか。それはホントにスゲーな……

「私達なんて地区予選通過できないような弱小校ですから!」

 マジで!?あれだけすげーのに!?

 つうか吹奏楽部だよな?全国大会とかあるのか?初めて知った……

「あれでかよ……内湾女子のチアも確か地区予選でいっぱいいっぱいとか言っていたな……」

 ヒロも慄くレベルの高さ!!それが全国レベルだ!!

「でも、緒方君と大沢君の試合はホント楽しみにしていますから!」

「え?観ていくの?最後だから時間遅くなるよ?」

「いえいえ。世界前哨戦と聞けば期待は高まるばかりですから」

 なんだその世界前哨戦って!?誰がそんな事言った!?

「え?知らなかったんですか?話題そればっかりですよ?緒方君も大沢君も将来はプロボクサーになって世界相手に戦うんでしょう?その前哨戦だって」

「「誰がそんな事言った!?」」

 俺とヒロが同時に突っ込んだ。プロになんかなんねーよ俺は!?ヒロは知らんけども!!

「誰って……表の屋台の人たちとか、さっき言った内湾女子の監督さんとか、南海の大雅君とか」

「「何言ってんだあいつ等!?」」

 やっぱり同時に発した。何勝手に適当な事触れ回ってんのあいつ等!?

「あ、始まりますよ、山塊の演劇」

 おっと、突っ込んで大声を出している場合じゃねーぜ。演劇観戦に集中なくちゃ。

「でも、童話だろ?三匹の子豚みたいな奴だろ?」

 ヒロがつまらなそうと遠回しに言った。

「童話でもプロのお芝居になっていますよ?シンデレラとか超有名ですし」

「解るけどよ、青髭なんて童話知らねえんだし」

「ああ……まあ、観れば解ります」

 なんだその言い方?しかも緊張しているし。

 ともあれ、じっくり観ようじゃないか。その青髭とやらを。


 ……………


 幕が下りた。拍手はまばらだった。演技が下手だったからじゃない、言葉を失ったと言うべきか。

 それは感動したとの理由じゃない。

「……青髭ってホラーじゃねえかよ」

 そう。完成も拍手もまばらなのは、恐怖でうまく行動できなかったからだ。

 しかも演技中悲鳴とか沢山聞こえて来たし、マジ怖えじゃねーかよグリム童話。

「は~……怖かったですね、青髭」

 涙目で漸く拍手して言う佐倉さん。俺達も慌てて拍手を送る。

 呼応するように、閉じた幕なれど、拍手が凄くなっていく。

「そもそも、グリム童話って本当は怖い話が多いんですよ。今世の中に出回っているのは改定した内容ですからそうでもないんですが」

 そ、そうなの?それは知らんかったけど……

「シンデレラだって本当はカボチャの馬車も、ガラスの靴も、12時の鐘も無いらしいですし、それでも最終版はより怖く改正し直したみたいですし」

「そ、そうなの?」

「はい。詳しくは私も知らないんですけど、王子様が落としたガラスの靴の持ち主を探すシーンがあるじゃないですか。あの時意地悪なお姉さんたちも舞踏会に行きましたよね。よって王子様の使いがシンデレラの家に行く事になるんですが……」

 頷く俺達、いくらなんでもシンデレラの有名シーンくらいは知っている。

「あの時継母はお姉さんたちが靴を履けないからって、脚の指を切断しろとか、踵の肉をそぎ落とせと命令したらしいんです。それをホントに実行しちゃったお姉さんたちも相当なサイコパスです。まさに身を削った努力によって履けたには履けたんですが、ガラスの靴は血まみれ、ドレスも血まみれ。当たり前に持ち主じゃないとバレちゃいます」

 なにそのホラー!?童話じゃ絶対ないよね!?

「で、シンデレラは靴を履けてハッピーエンドになる訳ですが、意地悪なお姉さんたちは指を切断したり、踵の肉をそぎ落としたりして漸く履けた靴を、どうして簡単に履けたんでしょうか?」

「え?そりゃシンデレラの足にぴったりのサイズだからじゃ……」

「その通り、ではなぜ足にぴったりのサイズなんですか?」

 何を言いたいのか解らん。オーダーメイドだから履けたんだろって程度にしか思わないけど……

「足の指を切断、踵の肉をそぎ落そてサイズダウンさせた足と同じ大きさだったって所です。当時は靴は木靴が一般的でした。意地悪継母は安物の木靴しかシンデレラに与えなかった」

「……まさか、ちっさい時に買った木靴のまま生活させていたって事か?」

「そうです。よって足は成長できなかった。なのでシンデレラの足は成人女性の脚よりもかなり小さかった。ガラスの靴はまごう事無くシンデレラの為のオーダーメイド品だって事です」

 まさかのショッキングなシンデレラのオチに言葉を失う俺達。まんまホラー展開じゃねーかよシンデレラ!!

「多分ですが、酷い行いをした者には酷い結末が待っていると言いたいんでしょう」

「いや、それにしてもだろ……」

 童話を名乗らないで欲しいレベルだろそれ。いや、子供に戒めを教えるって意味じゃ正しいのかもしれないが……

 で、青髭のあらすじだが、森の中に男が住んでおり、3人の息子と1人の娘がいた。

 そこへある日、6頭立ての金の馬車に乗った王様がやって来て、娘を嫁に欲しいと申し出た。

 父親は喜び、すぐに申し出を受けたが、王様の青い髭が恐ろしく、娘はあまり乗り気ではなかった。

 不安になった娘は3人の兄たちに、何かあったら助けに来てくれるようお願いをする。

 お妃となった娘は、青髭から城中の鍵を渡されるが、金の鍵の部屋だけは入ってはいけないと言われる。

 青髭は旅に出て、お妃は城の中の部屋を見てまわった。

 そして、金の鍵の部屋をどうしても見たくなってしまい、扉を開けたとたん、血がどっと流れ出てきた。

 壁には、女の身体がたくさんぶら下がっていたのだ。

 お妃はすぐに扉を閉めたが、鍵を血の中に落としてしまい、拭いても取れなくなった。

 青髭が帰ってくると、金の鍵の部屋に入ったことがバレてしまった。

 青髭は次のターゲットをお妃に決め、包丁を持ってくる。

 だが、お妃は最後に祈りたいと願い出て、青髭が包丁を研いでいる間、窓から叫んで兄たちに助けを求める。

 青髭がお妃に包丁をつき刺そうとしたとき、兄たちがやってきて、サーベルで青髭を切り倒す。

 青髭は他の女たちとともに壁につるされ、財産はすべて娘のものとなった。

 これを劇でやったもんだから、しかもせ全体的に暗いセットだったものだから、恐怖も増すって訳だ。

 特にカギを開けた時の血。掃除大変だろって量の血だったし。

 これはシンデレラみたいな解説はいらんだろう。だってどう観てもホラーだし。

「青髭は普通に怖いですよね」

「うん。女がいっぱいぶら下がっているとかな。普通に異常者だろ、青髭」

「あの女の人って青髭の元お妃の人達です」

 そ、そうなの?ま、まあ、王様だからな……

「青髭は殺す女の人を捜していたんでしょうか?お城の中は何を見てもいいが、金のカギの部屋だけはいけないとか、わざわざ気になる事まで言って旅立ったんですから」

 そうだよな。普通に殺人鬼だろ。

「だけど、兄も娘も相当です。殺した青髭を女に人と一緒に吊るさなくてもいいでしょうに」

 た、確かにそうだな。因果応報みたいな感じかな?

「そりゃそうだが、やったらやられてもしょうがねえって事だろ?」

 ヒロの回答に同意だ。まさに俺達はその通りにやって来たんだし。

「娘は青髭の財産全て貰ったんですよ?殺された元お妃の遺族たちに公平に分配してもいいでしょうに、独り占めです」

「ま、まあそうだが、相続人は娘しかいなかったんだろ?一応妻のポジだし……」

「そもそも、青髭は金のカギの部屋にはいったら殺すと忠告したんです。元お妃も金の鍵の部屋を見たから、そこに吊るされたんでしょう。だったら最初は何が入っていたんでしょうね?」

 え?そう言われてもだな……

「答えは何も入っていない。です。青髭は信頼を試したんですよ。裏切られたから殺して吊るしたんじゃないんでしょうか?まあ、私の勝手な解釈ですが」

 信頼を試すって、わざわざ嵌めるような真似までしてか?異常者の考えは解らんな。

「青髭は王様ですから、お金持ちですし、権力も当然あります。よってお妃選びに苦労はしなかった」

「だろうな。財力と権力持っているんだったらそうだろ」

「加えて、たくさんのお妃を娶った訳ですから、見た目もイケメンなんでしょう。青い髭が怖いだけで」

「ああ、つまりは寄ってくる女に騙されたことがある。言い換えれば女性不信って事か?」

「その側面もあったんでしょうね。ですから信頼できるパートナーが欲しかった。わざわざ警告したのも彼なりの優しさかもしれません。お前は裏切るなよ?って警告も兼ねての」

 すげえな、見方を変えただけで青髭が可哀想な奴に思えて来るぞ。

「娘は約束を破って信頼を壊したのにも拘らず、夫を殺して財産全てを奪った糞女です」

「その通りだな!!青髭は悪くねえ!!悪いのは娘だ!!」

 ヒロの圧倒的な手のひら返し。いや、俺もそう思っちゃったから人の事は言えないけど。

「まあ、さっきも言いましたが、私の勝手な解釈ですから、真意のほどは解りません。グリム童話怖いのだけは確定ですか」

 頷く。結局それだ。グリム童話怖い。

「あ、話し込んでいたら次の出し物が始まっちゃいましたね」

「そうだな、このまま見ていくか隆」

 同意してやはり立ち見する俺達。中洲情報の自主製作アニメだ。

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