文化祭・序~001

 さて、早いもんで体育祭の季節だ。今回の体育祭はなるべく目立たないようにとの事だったので、エントリーしたのは玉入れ。ヒロもスプーンリレーにエントリーしてぶっちぎりを封印したとの事。

 理由は文化祭で映画に引っ張られるリスクを少なくするため、らしい。じゃあその理屈じゃ国枝君とか楠木さんもダメじゃんと言ったが、彼等は手を抜く事に抵抗を覚えないからいいと。

 要するにだらだらやるって事だな。

 じゃあ俺もと言ったが、「ダーリンはみんな頑張っているから自分だけ手を抜く訳にはいかないとか言って頑張っちゃうでしょ」との事だ。

 なので団体競技。それも目立たないであろう玉入れになった訳だ。

「まあ、それでもいいんだけどな」

 昼休みにパンをかじりながら言った。結構不満そうに。

「まあまあ、気持ちは解るけど、目立たないって事は確かに僕もそうだと思うよ」

 机を合わせて弁当をつつきながら国枝君が言う。

「いや、理屈は解るけどさ、罪悪感がパねえって言うか……蛯名さん、しょんぼりしていただろ」

 一年の時の同じクラスの蛯名さんはあの当時の事をよく知っている。よって今回も熱量を以て敵クラスを蹴散らし、総合優勝しようと考えていたらしいのだが、俺とヒロが地味競技に決まったので超がっかりしていたのだ。

「蛯名だけじゃねえ、俺達のあの活躍知っている連中もなんかテンション低かっただろ」

 ヒロも弁当を突っつきながら言う。

「それにしても、お前なんで購買のパンなんだ?弁当は?」

「二学期に入ってから忙しくなったらしくて、弁当作って貰えなくなったんだよ」

「槇原さん、作って来そうだけどね、お弁当」

「二学期に入ってから横井さんと一緒になんか忙しなくやっているだろ。だから遥香も弁当作ってくれないんだ」

 本気で何やっているのやら。聞いても内緒とか言うし。部分的な情報では文化祭に向けての工作のようだけど。

「緒方君、ここいいかい?」

 赤坂君が購買のパンを買って戻って来た。いつもなら三浦君と一緒に食っているのだが、まあ、断る理由もない。

「いいよ」

「ありがとう」

 座って早速袋を広げた。

「そんなに食べるのかい?」

「豆パンが半額だったから、つい……」

 確かに豆パンは半額だった。人気が無いからそうなんだろうが、それにしても5つも買わなくても良かろうものだが。

「大沢君、一つ食べるかい?」

「マジで?食う食う。サンキュー赤坂」

 ヒロが豆パン一個ゲットした。俺達にも勧めてきたが、パンはもう買ったし、弁当があるしで昼にしては充分だろうし。

 そしてパンを食べながら言い難いそうに。

「緒方君、今回100メートルにエントリーしなかったね?」

「うん?ああ、うん。玉入れやってみたくて」

 当たり前だが嘘だ。と言うか競技は何でも良かったが正解だ。

「去年あんなに活躍したのに、もったいないなと思って。僕がエントリーした借り物競争と良かったら……」

 ああ、競技の交換か。赤坂君が嫌だったら交換してもいいけども。

「赤坂君って立候補で決まったよな。だったら交換できないよ」

「だけど、僕なんかよりもクラスに貢献できるだろうし……」

「赤坂君だって去年立派に貢献したじゃんか」

「そうだね。大玉転がしの優勝者だ」

「だな。お前も立派に貢献したんだから、もっと胸を張れよ。馬鹿隆に手柄なんかやろうとか考えんな」

 誰が馬鹿だ誰が。だが、クラスの貢献を考えている赤坂君がやっぱり出場するべきだ。俺達は手を抜くと決めたのだから。

 そんな訳で、赤坂君の申し出を断り、午後の授業を消化して帰宅。

「おう隆、帰ろうぜ」

「ああ。遥香、帰ろう」

「あ、ごめんダーリン、今日も……」

 すんごい申し訳なさそうに手を合わせて頭を下げた。

「なあ、マジで何やってんだ?裏でこそこそされたら不安しかなんだけど……」

「それは文化祭……おっといけない、横井」

「そういう言い方をされたら余計気になるでしょう。だけど、まだ未確定だから言えないわ。大筋は決まったけれど」

 大筋?文化祭でなんかやろうって事?

「他のクラスを巻き込みたいんだったら部活を作るか、同好会を作るかしかないだろ?」

「他のクラスは巻き込まないわよ。だから」

「おっとちあっきー、そこまでだぜ」

 なんか里中さんがかっこつけて遮った、具体的には手で口を塞いで、流し目で。

「里中さんも噛んでんのか?」

「当たり前すぎでしょ。ああ、言っておくけど、美咲もくろっきーも春日ちゃんも口を割らないからね」

 女子達全員動いてんのかよ。マジで不安しかなんだけど。

「さとちゃん、そろそろ時間だよ」

「ああ、うん。じゃあ野郎どもは寂しく帰れ。とっとと失せろ」

 しっしっと手で払われた。内緒にしなきゃいけない理由があるのか?

 そんな訳で野郎共と寂しく帰宅。

「なあ、国枝君、春日さんからなんか聞いて無いか?」

 俺に内緒でも国枝君には言うんじゃね?って希望のみで尋ねた。

「僕にも何も……ほんとに何しようとしているんだろうね?」

 国枝君も困った様子で腕を組む。春日さんも口を割らない事が確定した。

「ヒロ、波崎さんからなんか聞いてねーか?」

「白浜の文化祭に南女は関係ねえだろ」

 それは確かにそうだった。しかし、マジで気になる……

「じゃあ僕はここで」

 例の十字路に着くと、国枝君がお別れの挨拶。

「待て国枝、俺も行くから途中まで付き合え」

「うん?ヒロもなんかあんのか?」

「西白浜に行くんだよ。工具見たいんだ」

「何の工具だ?」

「俺のスーパーマシンのメンテに使う工具だ」

 こいつが自分でメンテナンスするってーのか?それはちょっとびっくりだ。的場に丸投げした方が圧倒的に楽なのに。

「ああ、じゃあ僕も付き合うよ。パーツ見たいし」

 国枝君が接近してそう言った。ヒロが仰け反るほどには興奮していた。

「じゃあ俺も……」

 暇だし。

「お前も来るのか?暇な奴だな」

 さっき心で思ったから反論不可だ。暇な事は変わらないのだから。

 西白浜駅に到着。ヒロのお目当ての店はどこだ?

「ヒロ、どこに行くんだ?」

「国枝、いいところ知らねえか?」

 かくっと項垂れた。ノープランかよ。

「工具だったらホームセンターだね。場所は解るかい?」

 首を横に振るヒロ。知らねーで来たのかよ。取り敢えず来たって感じだよな。

「お前昨日バイクのメンテの動画とか観た?」

「なんで知っている!?」

 驚愕を表した。具体的には目を剥いて仰け反った。

「国枝君、こいつただ影響されただけのようだから、ホームセンターに行かなくていいよ。国枝君が行きたいって言っていたパーツ屋さんに行こう」

「え?でも……」

「いいだろヒロ?なあ?」

「なんで凄むんだお前は。別に構わねえけど。実際ただ見に来ただけだし」

「買うとか言わなかったかな……」

 言っていたけど、買う気は最初からなかったんだろ。どんなもんか見たかっただけだろ。んで、金額に退けられて無かった事になるんだ。

 バイク屋さんと言うより、そこは町工場みたいな小さな金属加工工場だった。

「なんでここに?」

「ここはマフラーを作ってくれるんだよ。車とかバイクとか」

 へー、そんなのあるんだ。ガラスケースに確かにマフラーが飾ってあるな……

 国枝君、マフラーが置いてある棚をガラスケース越しからトランペットを見る少年のような目で見ていた。俺は全く興味がないので、本気でボケーっとしていた。

「おい隆、買うか?」

「何で買うんだ?俺のバイクはステンレス製だって木村が言っていたから買わなくてもいいだろ」

 なんかちょこちょこ弄ってあるような事を言っていたが、如何せんオーナーが俺だ。違いなんか解る筈もない。

「お前は買うのか?」

「高いから買わねえな。欲しいんだったら生駒にどうにかして貰う」

「なんで生駒がここで出てくるんだ」

「東工だろ、あいつ。ステンレスのパイプ曲げる程度の事できんだろ」

 そりゃ東工はそういうカリキュラムがあるのかもしれんが、お前の為にマフラー作る事は無いだろ、生駒は多忙なんだぞ、バイトで忙しいって言われて断るだろ。

「それか松田」

「農業高校に何を求めているんだお前は?金属加工なんかできねーだろ、松田だって」

「じゃあ河内」

「そこまで行くんだったら的場に頼めよ。つうか黒潮は普通高校だ。金属加工なんかカリキュラムには無い」

「じゃあ誰がやってくれるんだ!!」

「普通にお金出して買えよ!!そこでキレんなよアホ!!」

 これぞ正真正銘の逆ギレだ。思うようにいかなくて勝手にキレているバカっているだろ?まさにこいつの事だ。

 結構な時間物色した国枝君だったが、結局何も買わずに店を出た。

「やっぱり高いね。アルバイトしようにもそれはダメだと言われてるからなぁ……」

 ほう、と息を吐いてとぼとぼ歩く国枝君だった。国枝君の家はバイクは持ってもいいけどバイトはダメなのか。

「まあ、仕方ないよ。的場に頼んで探してもらうとかした方がいいんじゃないかな」

「あれはオーダーメイド品だからね。的場さんに頼んでもあれは手に入らないよ」

 乾いた笑顔でそう言った。そんなに欲しいのか、あのマフラー。俺は全く解らんから何でもいいけど、拘る人にとっては重要なんだろう。

「せっかく西白浜まで来たんだからどこかに寄るか?」

 ヒロの提案である。まあ、それも吝かじゃないけど。

「そうだね。漫画喫茶とかはどうかな?」

「いや、腹減ったからなんか食いたい」

 かくっと項垂れた俺と国枝君。こいつはホントにいっつも腹減ったばっかだな。

「まあいいけど……うん?」

「どうしたんだい緒方君?」

「いや、あれ」

 指差した先に居たのは横井さんと倉敷さん。珍しい組み合わせではあるが、友達だから一緒に遊ぶ事もあろう。しかし……

「横井って槇原と一緒に帰らなかったか?」

 ヒロの言う通り。遥香はなんか用事があるからと行動を共にしている、今日もそうだった筈だ。

 しかし、見かけたのは横井さんだけ。遥香はどこに行ったんだ?

「鮎川さんも一緒だから槇原さんが居ないのはますますおかしいんだけど……」

 確かに。一緒に遊ぶ約束をしていたのなら尚更だろう。まさか喧嘩して先に帰ったとかじゃないだろうな?

「なんか気になるな。後を着けるか?」

 ヒロの提案である。女子同士の、女子だけの付き合いってもんがあるから普段の俺なら遠慮したいところだが……

「……そうだな。あいつこそこそなんかやっているから、その関係かもだし……」

「じゃあ…おい隆スマホ鳴ってねえか?」

 俺のスマホに誰かから着信が入った。

「ちょっと待って」

 見てみると、生駒。着信したが、出なかったので切ったようだ。なので折り返す。

『もしもし』

「おう生駒、どうした?」

『なんか槇原さんが東工に来ているんだけど、なんかあったのか?』

 遥香が東工に行った?このビックリ情報にヒロも国枝君も固まる。

「遥香が東工に?それホントか?」

『ああ、俺って今日掃除当番でさ。終わって帰ろうとしたら先生にとっ捕まって備品整理をやらされてたんだよ。それも終わって帰ろうとしたら、槇原さんが職員室から出てきて』

 東工の職員室に遥香が?一体何の目的で?

『この頃女子達がなんかやっているだろ?その関係なのか?』

「女子達が?いや、何となくコソコソやってんなとは知っていたけど、まさか女子全員って事?」

『俺もよく解らねえけど、美咲も聞いてもはぐらかすし』

 楠木さんも加担しているのは承知だ。白浜だからコソコソ話してんのは見て知っているから。

 だけど『全員』って事は、倉敷さんとか鮎川さんとか児島さんとか波崎さんとかも?麻美もなんか絡んでんの?

「緒方君、横井さん達を見失っちゃうよ」

 国枝君に言われて慌てた俺。

「生駒、遥香はスルーしろ。気付いていない振りをするんだ。なんか気になるからこっちでも調べるから」

『ああ、そうする。一応槇原さんの後をつける?』

 やって欲しいのは山々だが……

「遥香にバレないって自信あるか?」

『全く無いから早々に離脱する』

 実に清々しかった。あいつを出し抜ける自信がある奴がいたら教えて欲しい。

「いや、生駒も頼もうぜ。東工は生駒だけじゃねえ、対馬も矢代も知り合いなんだ。そいつ等に見つかる事も想定しているだろ、槇原だったら」

 成程、と、言う事は、隠し事ではない?まだ期待できないから話せないと言ったから、そのまんまか?

「生駒、バイトに支障がないんだったらやっぱ後をつけてくれ、バレてもいいけど、なるべくバレない様に」

『今日はバイト休みだからいいよ。バレてもいいって事は、内緒にしている訳じゃないって事か?』

「多分な」

『じゃあ何か解ったら連絡するから』

 そう言って電話を終えた。じゃあ俺達は横井さんを付け狙おう。

 と、言う訳で早速横井さんの後をつける……

「あ!」

 ヒロが声を上げた。横井さんに感づかれるかもと思い、口を塞いで建物の陰に隠れる俺。

「馬鹿かお前は!?声上げるな!!」

「お前の方が声でかいだろうが、そうじゃなくて、あれ!」

 ヒロが指さした先は、橋本さん!?

 なんで橋本さんが白浜に!?南大洋からわざわざなんで来た!?

「なんか凄い事を企んでいそうだね、槇原さん……」

 国枝君ですら驚愕してそう呟いた。わざわざ橋本さんを呼んだのも遥香って事!?

「橋本、横井と合流すんのかな?」

「多分そうじゃないかな。もしくは槇原さんかも。何なら二手に分かれるかい?」

 成程、遥香と待ち合わせの可能性もあるのか……

「じゃあ俺は橋本さんをマークする。ヒロと国枝君は横井さんだ」

「おう、解った」

「じゃあ早速行かなきゃ、横井さんと結構離れてしまったからね」

 そう言って二人はストーカーを再開。俺は橋本さんを付け狙う。言い方は実に犯罪チックだが、言いたい事は解るだろう。

 橋本さん、軽快に迷う事無く歩き出す。この方向は……

「バジルか?」

 横井さん達とは反対方向だ。横井さん達はひょっとしたら北商に向かったのかもしれんな。遥香が東工に行ったように。

 ともあれ気配を消して進む。橋本さんは時々立ち止まって携帯を開いて何かを確認していた。

 何か調べているのか?まあいい、今は見失わないように進むが吉。

 そして進むこと数十分……着いた先は、やっぱりバジルだった。

 橋本さん、店内を覗き見る。そしてため息をついて戻る。待ち人がまだ来ていないって事だろう。その待ち人はやっぱり……

 橋本さんはあっちウロウロ、こっちウロウロして時間を潰していた感じだ。

 そして数十分後、待望の待ち人が来た。

「あー、やっと来た!」

「ごめんごめん。ちょーっと見つかっちゃってさ。まあ、そう言う所に行ったからなんだけどね」

 笑いながら登場したのは、やっぱり遥香。そこはいい、そこまでは何となく読んでいた。

 その後ろに連行宜しくとぼとぼ後ろを歩いていた生駒に心臓が飛び出そうになった。

「ああ、やっぱり?だって無理があるよ。巻き込むんならどうしてもそうなっちゃう」

 けらけら笑う橋本さんとは対照的な、生駒のしょぼくれた顔。しくじった感が見事表れていた。

「んで、どうなった?」

「許可は得られたよ。その話は中でしようか。ねえダーリン?」

 見つかった!?いや、視線も顔もこっちに向いてない。いると確信してそう言ったんだ!!

 こうなりゃ意地でも出て行かねえぞ。生駒のリベンジは俺が果たす!

「……緒方、槇原さんを出し抜くのはやっぱり不可能だよ……」

 俯いたままの生駒の言葉。なんであいつも俺が此処に居るって思うんだ!?

「緒方君、さっきから私の動き、観察しているの、バレているから」

 橋本さんにバレていただと!?注意して気配を消していた筈なのに!?

「その木の陰に居るよね?」

 橋本さんがゆっくりと俺の方向に指を差す。もはや回避不可能だなこれ!!

 諦めて万歳して木の陰から出て行った。遥香と橋本さんがにやにや笑って俺を見た。知らねえ訳ねえだろって感じで。屈辱過ぎる!!

「……いつから気付いていた?」

「えっとね、大沢君と国枝君と別れたあたり」

 序盤からかよ!!最初から知りながら俺を泳がせていたのか!?

「ああ、勘違いは良くないよ?これは内緒のミッションだから突っ込まないようにしただけだからね?」

 慌てて手をパタパタさせた。俺を笑っていた訳じゃないと。

「さゆちゃんから連絡があってね。その前に生駒君捕まえたし、じゃあもうしょうがないねって事でさ」

 生駒を見ながら遥香が言う。生駒の結構序盤に捕まったのかな……

「うん?って事は、ヒロと国枝君も?」

「うん。向こうは横井と倉敷さん達に捕まっている筈だよ」

 女子を出し抜く事は不可能だと改めて知った。もう絶望しかない!

「向こうは新しく発見したカフェに連行したようだよ。そしてダーリンと生駒君はバジルに連行」

 ぐいぐいと背中を押す遥香。中に入れって事か。

 まあ、しょうがない、隠し事を教えてもらえるんだったらいいや。

 四人掛けの席に案内されて、今回は俺と生駒が隣同士になる。橋本さんの隣は流石にまずいだろって生駒が言ったからそうなったんだけど。

「別に気にしなくてもいいのに」

「俺が気にするんだよ。なんか恥ずかしい」

 出されたお冷を飲みながら言う生駒。その恥ずかしいって気持ちは解らんでもないかな。

「まあまあ、まずは注文しようよ。と言っても軽めの物を……」

 遥香の意見に賛成してメニューを開いた。つうか俺ってコーヒーでいいんだけど。

「美味しそうだけど、時間が半端だからなぁ……」

 橋本さんのボヤキである。見ているのはパスタの写真か?

「ハニトーは?ハーフサイズもあるよ」

 女子達がきゃいきゃいやっているのを尻目に生駒とどんよりしながら雑談開始だ。

「いつ見つかった?」

「職員室から出る時にもう見ていたって…」

「お前も序盤からかよ。後を付けたのもバレバレだって事か?」

「東工から出てすぐに捕まってさ……そしてこう言われたんだよ。「ダーリンはどこ?」」

 既に俺に連絡が行っている事も見切ったのかよ。本気でおっかねえな、彼女さん。

「お前からの指令だからお前はここに居ないって言ったら、そりゃそうかって納得して、そして少しして橋本さんから連絡が入って……」

「俺が付けているのを知ったって事か……」

「そのちょっとした後に横井さんから連絡が入ったようで……」

 ヒロと国枝君も付けているのがバレた、と。

「……なんで簡単にバレるんだろうな?」

「俺が聞きたいよ……東工はホームだぞ?それなのに、簡単に看破されてさ……」

「ダーリンと生駒君はどれにする?」

 俺達のどんよりは関係なく、注文の心配かよ。入店したからにはなんか注文しなきゃいけないけどもさ。

「「ブレンド」」

 奇しくも生駒とハモった。一番安いのはそれだからな。そもそも入る気なんかなかったんだし。

 注文を終えて一息ついた。

「ふう……まあ、見つかったのはショックだが、改めて出し抜けんと確信したからいいとして、なんで東工に行った?橋本さんが此処に居る理由は?」

「まあねえ。許可が出たからもう内緒にする理由はないしねぇ……」

 水が入ったコップを回しながら。焦らすなよ面倒くせーな。

「白浜の文化祭の事だよ、要するに」

 うん?と生駒を顔を合わせる。白浜の文化祭に東工が何の関係がある?

「槇原さんが言うには、文化祭で緒方君、とんでもない目に遭うらしいじゃない?」

 文化祭と言うと、映画か?

「確かにそうだけど、クラス展示に協力しなきゃいい訳だし……」

「それがまかり通ると思う?」

 思わねーな。映画じゃないにせよ、他の出物になるにせよ、協力は不可避だ。

「せめて部活でもやっていれば、そっちを口実にできるけど、ダーリン部活に入ってないじゃない?」

 まあ、そうだけど。そもそも映画になるかもまだ解んない訳でな。

「なので特別展示を行いたいと学校に交渉していたんだよ。普通なら却下されるだろうけど、私は一年の体育祭の実行委員で、横井は文化祭の実行委員、ともに総合優勝を果たしている実行委員さん」

 なんか得意気に胸を張った彼女さん。実績があると言いたいんだろうけど。

「いや、だからどうした?その特別展示がOK出たって事なんだろ?」

「そうだけど、『特別』な訳だから。じゃあどう特別なんだって話になるよね。それも学校の先生たちが納得するような、ともすれば白浜高校が良い意味で名前が売れるような、魅力的な展示が必要って事になる」

 それもそうだ。普通の見世物や食い物屋なら何の魅力もない。普通に文化祭でやれって事になる。

「ところで緒方君、京都には緒方君の知っている学校が多数行くんだよ。なんと日にちもほぼ一緒。更に、更に自由行動日も一緒なんだよ」

 橋本さん、顔をずいっと近付けてそう言う。俺は思わず身を引かせた。

「それはもう聞いただろ?海に行った時に」

 生駒の返しである。その通り、もう知っているので今更だ。だから接近しないで欲しい。ドキドキしちゃう!!

「じゃあなんでそうなったっけ?」

 遥香の問い。今更それを聞くのか?

「朋美をぶっ飛ばそうって事だろ。後は俺の拉致を封じるとかなんとか」

 大きく頷く女子二人。満足そうに腕を組んでうんうんと。

「いやだから、それは聞いただろ?」

「生駒の言うとおりだ。それとお前がなんかコソコソしてんのと何の関係がある?」

「京都遠征は大々的に行われるから、連携が取りにくい上にみんなバラバラになっちゃう可能性がある。そのリスクの軽減のためだよ」

 京都遠征って。修旅に俺の事情をぶち込んだだけだろ。

「いや、それがどうした?特別展示と何の関係がある?」

「特別展示は『白浜高校地域活性化友好交流』なのだよ」

 大きな胸を張って、指をタクトのように振って。

 なんのこっちゃと生駒と顔を合わせた。要するに解らんと言う事だ。

「要するに、白浜高校に他高校を招いての合同イベントをするって事。参加高校は白浜の他、東白浜工業高校、白浜北商業高校、南白浜女子高校、西白浜高校、黒潮高校、山郷農業高校、南海高校、内湾女子高校、渓谷学院、中洲情報高校、丘陵中央高校、連山工業高校!!」

 ふ~ん……合同イベントねえ……

 ……………

「「はあああああああああああああああああああああああ!!!?」」

 思わず声を上げて立った。俺だけじゃない生駒も。

「な、なんだそれ!?何するつもりなんだ!?」

「だから、合同イベ。白浜は隆君と大沢君の公開スパーを出し物にする予定。だから会場はそこそこ広くなきゃいけないから、年に数回しか使わない講堂を借りられたよ」

 借りられたよ、じゃねえよ!!勝手に何決めちゃってくれてんのお前!?

「内湾女子はチアリーディングの演技披露。私はチア部じゃないけど、入っている友達が全面協力してくれるから、監督ポジかな?」

 内湾では出し物まで決まってんの!?

「え?じ、じゃあ東工も決まっているのか?」

 生駒がへっぴり腰で尋ねる。

「東工はソーラーシステムの展示及び解説。ソーラーパネルでの携帯充電気も販売する予定」

「それ俺のクラスの展示じゃないか!?」

 え!?そうなの!?

「だって東工は生駒君がメインで頑張るんだから、今やっている物をそのままやった方が時間も手間も掛からないでしょ?幸いに白浜の文化祭は今あげた高校で一番最後に行われるんだから、在庫処分も兼ねられてラッキー。みたいな?」

「俺がメイン!?在庫処分!?」

「勿論、東工の文化祭で全部捌けたら追加で作ってもらうけど。その他対馬君、矢代君も手伝ってもらうけどね。まだ言ってないけど」

「見切り発車もいいとこだろ!?断られたらどうするつもりなんだ!?」

 勝手に決めているんだったらそうなる可能性がデカいだろ!!本気で何言ってんのお前等!?

「大丈夫だよ。内湾女子はフリーの子しか来ないから」

 橋本さんが何でもないと言うが……

「まさか女子で釣ろうって言うんじゃないだろうな!?」

「西高はそれで釣れたよ?福岡派だっけ?その人達限定だけど。緒方君、他の西高生は殴っちゃうからね」

 俺に配慮した言い方すんなよ!!つうか西高は何すんだよ!?あそこの文化祭は屋台しかねーんぞ!?

「ああ、西高は会場警備とか誘導員とか。木村君もそれならウチにもできるって了承して貰ったし」

「木村には既に言ってあるのか!?」

「木村君だけじゃないよ、勿論、松田君も知っているけど」

 もう二の句が出ない。絶句であった。しかし気になるもんは気になる訳で。

「ま、松田は?ヤマ農は何するんだよ?」

「学校で採れた野菜で作った料理、だったかな?収穫祭での売れ残りを処分できていいって。毎年カボチャが売れ残るらしいよ」

 ヤマ農ならではの展示だが、それでいいのか松田!?あ、いや、売れ残りが処分できるんだからウィンウィンなのか……?

 ここで笑う女子二名。愉快そうに。いや、その顔可愛いからいいんだけどもだ。

「何がおかしい?」

「ああ、いや、向うでも横井さんと倉敷さん達が大沢君と国枝君に同じ説明して、緒方君達と同じ顔しているんだろうなって想像したらおかしくて」

 おかしくねーよ、少なくとも俺は。勝手に決められた生駒だっていい気分じゃねーだろ。

「む、向うは大沢達だったなそう言えば……倉敷さんと鮎川さんがいるって事は、北商も出し物が決まっている……のか?」

 生駒の疑問である。確かに北商はどうなんだ?

「北商は和楽器での演奏だね。倉敷さん、鮎川さんも多少覚えがあるようでさ。と言っても去年の焼き直しとか言ってたよ」

 倉敷さん達は去年和楽器の演奏を展示したのか……観たいような気もする……あ、観れるのか。

「他に決まっているのは渓谷学院もかな?藤咲さんメインで東山君が頑張るんだけど、湖で獲れた魚の炭火焼き。湯葉も作るそうだよ」

 あ、ああ、湖が売りの観光地だからな……そうなるのか……

「南女は波崎、麻美さんコンビ監修のカフェ。児島さんも手伝いで入るって」

 ま、まあ、南女は普通高校だからな……自分の所の文化祭の延長みたいな感じか……

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