始まりの日~002

「あ、隆君。これから親睦会するけど、行くよね?」

 国枝君を捜す前に遥香にとっ捕まった。だけど親睦会か…

「誰と?」

「大沢君と国枝君。女子は私と黒木さん。ホントならクラス全体でやった方がいいんだろうけど、私的には、広く浅くより深く狭くの方だから」

 成程。信頼できる友達が一握り居ればいいタイプだったか。だけどそれじゃ困る時もある事を俺は経験で知っている。でも考え的には遥香に賛成だ。

「OK。どこ行くんだ?」

 今日は入学初日。あの味が普通のファミレスにはまだ波崎さんもバイトしていないだろう。当然春日さんも。

「学校の近くに喫茶店あるじゃない?そこ」

 繰り返しの時に何度か使った喫茶店か。確か遥香のお父さんの知り合いの店なんだよな。

「よし、行くか。つか、みんなは?」

 言ったと同時に、俺の腕に、にゅるんと腕を絡めてくる。おっぱいばりばり当たるポジションだ。柔らかくて気持ちいい。

「私達に気を遣って先に行ったよ」

 可愛い笑顔を向けて言った。

 その笑顔に見惚れるのもいいが、丁度いいから聞きたい事を聞いてみようか。

 喫茶店までも短い道中、ホントに嬉しそうに腕を絡めて歩く遥香。面倒な探り合いは無しで、単刀直入に聞いてみる。

「なんで俺の告白受けてくれたの?」

「実は狙っていたからタナボタでした、って言ったら信じる?」

 笑って首を横に振る。俺の一目惚れよりも無理があるし。

「あはは~。だよね。でも狙っていたのはホントだよ。中学時代からね」

「中学時代?」

「うん。隆君、中学の時に、痴漢に遭った不幸な美少女JCを助けなかった?具体的には東工の三年5人から」

「う~ん…俺よくそんなのに首突っ込むからなあ…でも、多分助けたのは結果であって、俺的には糞をぶち砕いただけって言うか…」

「うん。そんな感じだったよ。でも、それでその美少女JCは助けてくれたナイト様を調べました。その時都合の良い事に、ナイト様は幼馴染の暴力団の娘と揉めている事を知りました」

 遥香は空を見上げながら言う。嬉しそうに。楽しそうに。

 つか、その話、今朝麻美からちらっと聞いた記憶があるが…

「…ひょっとして、朋美を家ごと追い出した情報の発信源って…」

「そう。不幸な美少女JCは、困っていたナイト様を影ながら助けたのです。これはまさに内助の功ですよ」

 朋美を遠くにぶっ飛ばしたのは遥香だったのか!!繰り返しの時も今回も、俺をずっと助けてくれたのかよ…

 今度は含みのある顔で笑う遥香。

「じゃあ今度はこっちの番ね。ダーリンは何で告白してくれたの?」

「え?俺は動体視力が異常にいいから…」

「嘘だね」

 バッサリである。当たり前だった。だけど、繰り返しと出戻りよりも信用できると思うけど。

「私は隆君と付き合えて本当に嬉しい。だからあんまり望まない。言いたくないならいいよ」

 一転寂しそうに笑う。やめろ。遥香にそんな顔は似合わない。いつものように自信満々な遥香でいてくれ。

「言ってもいいけど、多分信じないよ?それ程ファンタジーな話だよ?」

「あはは~。信じるよ。例え遠い別の国から会いに来てくれたと言ってもね」

 そうか。そう言ってくれるか。だったら言うよ。お前が信じてくれると言ってくれるのなら。

「じゃあ喫茶店で話そう。丁度当事者が揃っている事だし」

 そう言えば、親睦会で市村さんに声を掛けなかったもんな。信用できる、と言うか、当事者を無意識に集めてくれたんだよな。

 立派な内助の功だ。やっぱ遥香は最高だ。

「当事者?穏やかな話じゃなさそうだね~」

 からかうように言うが、本当に穏やかな話じゃないからな。そこら辺は覚悟してくれ。

 喫茶店の道のりは本当に短くて直ぐ到着した。さて、此処からだ、本番は。此処からだ、お前をお助ける道のりは…

 俺は喫茶店の扉を開ける。カランカランと軽い鈴の音と共に、あの時のメンバーが席から顔を覗かせているのが見えた―

「おう隆、遅かったなあ?」

 ニヤニヤしながら一つ椅子を空けた。俺はそこに座る。

「槙原さんはこっちね」

 黒木さんが俺の隣に遥香を座らせる。遠慮も躊躇も全くしないで普通に座る遥香。

「緒方君、槙原さん、僕達はもう注文しちゃったんだけど、君達はどれにする?」

 国枝君がメニューを俺達の前に滑らせる。そのメニューを二人で眺めた。繰り返しの時も思ったけど、こういうのっていいよなぁ…

「う~んと、私はモンブランとダージリン。ダーリンは?」

 ナチュラルにダーリンと言ってくるな。コレ定着したらヤバいんじゃねーか?色々ハズい事にならないか?

 いや、別にいいんだけど。ハズいのを俺が我慢すれば済む話だし。

「俺はモカとピザトースト」

「やっぱそれ頼んだか。喫茶店と言えば、ピザトーストだからな」

 なんか満足そうに頷くヒロだが、別にピザトーストじゃなくてもいっぱいあるだろ。ハムチーズとかシナモンとか。

「国枝君は何頼んだの?」

「僕はコロンビアと野菜サンドだよ」

 成程、ヘルシーだな。流石国枝君、体調管理に抜かりはないな。

ついでに黒木さんにも振ってみる。

「黒木さんは?」

「私はレモネードとレアチーズケーキ」

「くそっ!!みんな単品じゃないか!!ヒロのピザトーしかかっぱらえないっ!!」

「なんで俺のをかっぱらうんだ!!お前も同じの頼んだだろ!!」

 ははは、と笑いを取ったところで先に頼んだ物が揃う。俺と遥香はお預けだ。

「ん?どうしたのさ?俺達を待たなくてもいいんだよ?冷めないうちに食べちゃってよ。ヒロは兎も角」

「俺も食うってんだ!!なんでお前は俺に厳しいんだよ!!」

 いや、みんな遠慮して口付けないから。だったらお前も口付けんなよって事だ。

「ははは。緒方君、やっぱり面白いね。前評判が嘘のようだよ」

 国枝君がいい感じに砕けて来たのと同時に、俺達の品も届いた。んじゃ、とヒロが立ち上がる。

「じゃあ同じクラスになった親睦会って事で、完敗!!」

「アホ。字、間違っているぞ」

「ホントだ。乾杯と完敗を間違っている」

 流石国枝君だ。俺以外に地の文を見切る事ができるとは。証拠に誰もがキョトンとしている。他ならぬヒロでさえも。

 みんなでワイワイガヤガヤと雑談。なんつーか、至福の時だ。

「何ニヤニヤしているのよ隆君?」

 言いながら一口大に切ったケーキを、フォークに刺してあーん、と。全く躊躇せずに、あーんと戴く。

「隆、お前やっぱおかしいぞ?昨日までのお前はそんなんじゃない!!」

 やっぱヒロは気付いたか。

「いやいや、緒方君と槙原さんはただのバカップルでしょ?あーんくらい、バカップルなら別に?」

 余裕の表情を作っているが、微妙に頬が赤いぞ黒木さん。

「……これは聞いても仕方ない事なんだろうけど…緒方君、君は本当に緒方君なのかい?」

 ついに国枝君の突っ込みが入ったか。これを待っていた訳じゃないが、切り出しにくかったから渡りに船だ。

「俺は俺だよ。だけど俺じゃない。でも俺なんだ」

 全員『?』である。国枝君を除いては。

「…君が実年齢より、歳を重ねて見える理由かい?」

「ちょ、国枝君…」

 国枝君に霊感がある事を知っている黒木さんが何かを察して止める。俺は笑いながらそれを制した。

「国枝君の言っている事は正しいけど、足りない」

「はあ?どう言うこった?」

 アホの子のヒロには理解が出来ないだろう。だからヒロに最初に白状しよう。

「ヒロ、実は俺には昨日までの記憶が全く無いんだ」

「はあ?記憶喪失って事か?でもお前、俺の名前を知っているし?」

「だって国枝君の言った通りなんだもの。俺は本当の俺じゃない。でも俺なんだ」

 ますます『???』である。首が折れるくらいに首を捻っている事から解る。

「俺は63年後から来た俺なんだ。解り易く言えば、こっちの俺の身体を乗っ取った俺って事だ」

「全然解らねえぞ?」

 だが、国枝君は察したようで、目をぱちくりとさせている。

「緒方君…君は一度死んでから戻って来たのかい?」

 頷こうとする前に、俺は黒木さんと国枝君に真剣な眼差しを送り、言った。

「これから話す事は、川岸さんには言わないで欲しい」

「!?緒方君、景子の事知っているの!?」

 流石に驚いた黒木さん。国枝君も身を乗り出した。

「黒木さん…川岸さんって、誰?」

 怪訝な遥香。付き合ったばっかなのに、別の女子の名前が出て来たんだから、穏やかじゃないのは理解するが、怖いからその咎めるような目はやめて欲しい。

 因みに、と遥香にも釘を刺す。

「お前もだぞ?波崎さんに言うなよ?言ってもいいけど、今は駄目だからな?」

「!!優の事知っているの!?」

「槙原さん、波崎さんって?」

「…私の中学の時からの親友…川岸さんは?」

「…私の友達で、国枝君のサークル仲間…」

「国枝のサークルってなんだよ?」

「オカルト研究会だよ」

 真っ青になるヒロと黒木さん。流石に遥香は頑張って堪えているが。国枝君に至っては流石だった。

「…解った。川岸さんには内緒にするよ。いいよね黒木さん?」

「ち、ちょっと待ってよ…景子の事知っているのは兎も角、何を話そうと言うの?その話、信じられるの?」

 まだ話していないのに、今から疑われてもな…無理も無いけど、じゃあもうちょっと信憑性を増してあげよう。

「川岸さんに、黒木さんはくろっきー。国枝君はくにゅえだ君と呼ばれているよね?」

 黒木さんは何も言えず、青い顔の儘頷いた。そして小声で「話さないから…」と言ってくれた。

 ならば話すとしようか。俺の繰り返しと出戻りの話を…

 そして俺は努めて平静を装って話した。

 繰り返した高校生活。結局死んで天界に行き、高等霊になる為に勉強していた事を。

 そして天寿を全うした国枝君に言われて戻ってきた事を。

 全部話し終えた時、流石に誰も信じなかった。いや、二人は信じた。国枝君と遥香だ。だが、やはり思う所はあったようだ。

「僕が霊能者に…?」

 自分でも信じられないんだろう。ちょっと霊感があるだけだと思っていたのだから。

「素質はあると思う。少なくとも川岸さんよりは。それに俺が死んだあと、何かあったみたいだ。凄く軽蔑していた感じだったから。その『なにか』の為に、国枝君は霊能者になったっぽい」

「…だけど彼女は御祓いとか…いや、自分が気持ち良くなる為、だったっけ…」

 何となく納得できたんだろう。それ以上は発しなかった。国枝君は元々俺が『何かおかしい』と気付いていた人だ。比較的簡単に納得はしてくれた。

「…話を聞けば聞く程私らしいって思っちゃうけど…納得できない部分が一つあるのよね…」

「どこだ?」

「後追い自殺しようとしたって所。なんでしなかったんだろ?って思って」

 胆の座り具合は俺の想像以上だった。春日さんより危険だと感じたのは正しかったって事だな。おかしな感心だけど。

 さて、残るは信じない方か。

 俺は黒木さんに視線を向ける。黒木さんは一瞬身体を硬直させたが、それでも疑問に思った事は言った。

「…いや、緒方君が景子の事知っているって辻褄は合ったよ?だけどそれを信じちゃうのはちょっと…」

 だろうな。俺だったら信じない自信がある。こんな馬鹿な話、と思うだろう。

「それを証明出来る手段ってのはおかしいけど、黒木さんの未来も解るよ。若干違ってくるもしれないけどさ」

「えーっと、西高の木村君とクリスマスの時に付き合う、だっけ?でも木村君って知らないし、そもそも西高生と付き合うってのが…」

「そうだぜ隆。西高生は中学の時からぶっ叩いているが、木村なんて奴は名前も知らねえ」

「木村は俺達と同じ歳だから、入学したばっかだからだろ。今に知るようになる。それ程の奴だ」

「解るのは夏…だっけ?楠木って女絡みで」

「そうだけど、それは微妙になるな。遥香と付き合ったから、楠木さんに告られる可能性が低くなったし」

 彼女持ちに告るか?無いだろうな、普通は。だけど『あの状態の楠木さん』だ。どう転ぶか解らない。

「つか、国枝と槙原は信じるのか?話としちゃ面白いのかもしれねえけど」

 ヒロの問いに、頷く国枝君と遥香。

「僕は確かに霊感持ちで、緒方君を少し奇妙だな、って思っていたからね。逆に納得したよ。川岸さんの性格もね…」

「だって、今の話じゃ、本当に私らしい事していたんだよ?やり過ぎて仲間にも、親友にも、好きな人にも疑われるって、まんま私の悪い癖だし。それよりなにより、ダーリンを信じないってあり得ないから」

 いや、マジ嬉しい発言だが、あんまそう言うのはやめて欲しい。黒木さんが小声でバカップルって言ったの聞こえたし。

「ふ~ん…じゃあ俺にも彼女ができるとかの予言は無いのかよ?あったら信じてやってもいい」

 敢えて波崎さんの事は話さなかったが…彼女の方から紹介してくれって頼まれたから、言わない方がいいのか、って気配りなんだけど。

 だけど仕方がない。ヒロには…いや、此処に居るみんなには信じて貰いたい。その為には出し惜しみしたくない。

「…味が普通のコスプレファミレスでバイトしている波崎さんに、お前を紹介してくれって頼まれて…付き合う事になる」

 ガタガタ、と椅子から立ち上がる二つの音。ヒロと遥香だ。

「…波崎紹介しようって考えていたんだけど、まさか向こうからそんな事言うなんて…」

「おい隆!!その子可愛いのか!?おい!!おいってば!!」

 茫然とする遥香に対して必死過ぎるヒロ。とても愉快な気分だ。

「だが、お前は思春期過ぎて若干引かれる」

「そりゃお前…ねえ?」

 ねえ?じゃねーよ。なんだその勝ち誇った顔は?ムカついたので爆弾投下しよう。

「だが、高校三年の時に破局する。お前の浮気が原因だそうだ。国枝君が言っていたから間違いない」

「国枝!!何でバラすんだよ!!おかげで振られたじゃねえか!!」

「えええ!?いや、その僕は僕であって僕じゃないし…何よりも原因は大沢君にあるんじゃないか?逆恨みだし、大体まだ顔も知らないでしょ?」

 アホ全開のヒロに爆笑してしまった。だが、それが呼び水になったのか、黒木さんがそわそわし出す。

「あ、あの、その木村君?と私って、どうなるの?」

「えーっと、同じ大学に行って同棲するんだけど、束縛がキツイって理由で振られたみたい。国枝君が言っていたから間違いない」

「ちょっと国枝君!!酷いじゃない!!なんで忠告してくれなかったの!?」

「えええ!?いや、その僕は僕であって僕じゃないし…何よりも原因は黒木さんにあるんじゃないか?逆恨みだし、大体まだ顔も知らないでしょ?」

 国枝君の同じ返しにまた爆笑した俺。尤もな事しか言っていないのが更に面白い。

 一頻ひとしきり笑った俺は、真面目な顔になって国枝君を直視する。

「…国枝君にお願いしたい事が二つある。一つは俺を助けて欲しい。もう一つは春日さんを何とかして欲しい」

「緒方君を助ける、ってのは、君をサポートすればいいのかな?槙原さんを無間地獄から解放する為の…でも、君は戻ってきて彼女と恋仲になったじゃないか?そこで解放されたんじゃないかな?」

「まだ解んないな…これからどうなるのか見当も付かないし」

「春日さん…て人は君を刺殺した人…なんだよね?その人と僕が夫婦になるのも、ちょっと信じられないけど、そんなに胆が据わっている女子は、僕には荷が重いんじゃないかな…」

 自信無さ気だ。無理も無い。『あの状態の春日さん』を国枝君に頼もうと言うのだ。俺だって気が引けるが、彼女本人が言っていたんだ。旦那様を好きだと。

「多分俺より上手くやれる。それは自信がある。勿論俺もサポートする」

 暫く首を捻って考える。首捻じ切れるんじゃねーかってくらい考え込んでいる。流石に直ぐに結論は出せないだろう。もう少しこのままにしてやろう。

「…ちょっと喉が渇いたね。追加しようか?」

 遥香の提案に全員頷く。こんな話をした、こんな話を聞いたんだ。喉も乾く。

 やはりみんな冷たい物を頼んだ。喉が渇いた時は冷たい物だな。俺もアイスコーヒー頼んだし。

 つか、何処でもコーヒーなんだな俺。好きだからいいんだけどさ。

「隆君アイスコーヒー?来たら一口頂戴」

「いいよ。関節キスになっちゃうけど」

「あはは~。直にしよっか?」

 そう言って唇を突き出してくる。重ねたいが自重する。何より人の目があるからだ。

「しかし俺に南女の彼女がなぁ…」

「しかし私に西高トップの彼氏がねえ…」

 追加の飲み物が届いたというのに上の空だった。だから、って訳じゃないが、これだけは言わせて貰う。

「俺が体験した未来、と言うか世界ではそうだったが、この世界でも同じとは限らないからな。現にいろいろ違っている。因果律が全く変わっているからな」

 この世界は国枝君が探した世界。麻美が生きていて朋美が居ない世界。俺が死なない世界。

 だからヒロが波崎さんと付き合えるのかも、黒木さんが木村をゲットできるのかも解らない。

「解ってるって。なんつーの?期待ぐらいしてもいいじゃねえかって事だ」

「そうそう。占いみたいなもんよ。当たるも八卦、当たらぬも八卦ってね」

 とか言いながら表情は…まあいいや。それよりも、もっと重要な事がある。

「俺の話を信じた、って事でいいよな?」

 そんなに期待しまくっているんだ。こっちは当然そう思う。前回も比較的簡単に信じてくれたし。

「まあ…流石に全部ネタとは言わねえよ。お前がおかしい事も納得したし」

「私も…景子を知っている事にも驚いたし…」

 川岸さん、謎の女でも演出してんのか?別に知っていてもおかしくないだろう?

 で、とヒロにもう一つ。

「ヒロ、お前塾通いしているのか?」

 前回は塾に通ってボクシングを辞めていた時期があった。この世界ではどうなんだ?

「あー。もう辞めた。つか、受験終わったから行く必要も無くなっただろ」

 成程…塾に通っていた時期はあったけど、受験の為か。だったら…

「お前、里中さんと友達だったりする?」

 里中さんは朋美と同じクラスだったから朋美と友達になった。だが、ヒロとの接点が解らなかった。

 だが、塾に通っていた時に知り合ったと考えれば納得がいく。俺が知っている里中さんは塾に通っていなかったが、それこそ中学の時に通っていたとすれば、ヒロとそこで知り合ったと言う事になる。

「里中?そういやあいつ、何処のクラスだったっけ?つか、里中の事も知ってんのかよ?いや、須藤と友達っつったか…」

 俺の読みは正しかったか。

「里中さんには前回も繰り返しの事を言っていないから、お前も言うなよ?」

「誰が信じるっつうんだそんな事…」

 いや、お前信じたじゃねーか。里中さんも信じるかもしんねーだろが。

「あまり知られたくはない、って事かい?」

「そうだな…それもあるけど、何より胡散臭く思われたくない」

 余計な警戒はさせたくない。俺は前回里中さんにも助けて貰った。今回も友達として接したいから。

「ねえ緒方君、私とは一年の体育祭で、二人三脚する事になったから縁が出来たって言ったよね?今回はどうなの?」

「いや…もう知り合っているだろ…」

 頓珍漢な黒木さんだった。メアドもケー番も交換した仲だってのに、わざわざ二人三脚で縁を作る必要があるのかよ…

「じゃあ体育祭は私と二人三脚?」

「解らないから。二人三脚にエントリーするかも、まだ解らないから」

 相変わらずぐいぐい来るなあ遥香は。その細い腰に腕を回したいとは思うけども。

「体育祭の前に注意することはあるかい?」

「う~ん…前回は朋美絡みで一年が終わったからなあ…それこそ楠木さんの薬と、春日さんの病みかな?」

「それを止めたいって事だよね?私は何かできるのかなあ?」

 有り難い黒木さんの申し出。涙が出てきそうだった。

「んじゃ、明日にでも春日さんの所に行ってみようよ?二人でさ」

「え?槙原さんと?」

 頷く遥香。そして頼もしげに笑って続けた。

「そして私とくろっきーで春日さんと友達になっちゃうの。孤独だから、寂しいから依存するんだから、友達になっちゃえば刺し殺す危険は減る。国枝君に楽に攻略して貰う為にさ」

「くろっきー!?い、いや、いいんだけど…でも、うん。そうだね。緒方君の話じゃ、春日さんは敢えて人を避けているようだけど、寂しいのは変わらないみたいだからね。やってみる価値はあるか」

 いきなりフレンドリーになった遥香に戸惑いながらも、自分の仕事としてやってくれると。

 ホント有りい難い。ホント助かる。俺の話を信じてくれて、国枝君のサポートまで買って出てくれるなんて…

「え?じゃあ俺に友達紹介してくれるっつうのは?」

「隆君の話じゃ、波崎から紹介してくれるように頼んだらしいじゃない?」

「え?じゃあ隆待ち…?俺かなり期待していたんだけど…」

 可哀想なくらい項垂れるヒロ。俯いて今にも泣きそうだった。

 その様子は流石に哀れで…俺は遥香にそっと耳打ちをする事になった。

「悪いけど、波崎さんの件は早めに頼むよ…ヒロが哀れすぎる…」

「……だね…まさかあそこまで落胆するとは思わなかったし…」

 流石の遥香も哀れと思ったようだった。国枝君と黒木さんも、ヒロを見る目がとても可哀想な子を見る目になっちゃっているし。

「お、大沢君?なるべく早く波崎紹介するから…」

 項垂れているヒロが微かに動く。ホントに解りやすいなこいつは。

「わ、私には?木村君は!?」

 こっちもなんか必死だった。ビビるくらい。

「く、楠木さんの薬の件から、木村との縁は始まるから…」

「えー!!じゃあ楠木さん待ち!?ちょっと酷くないそれ!!」

 そう言われてもな…木村が有名になるには、楠木さんの用心棒をしてからの筈だから…いや、その前に西高で有名になるのか?

 遥香が少し考えて口を開く。

「ねえ、楠木さんって、いつから売人やるようになったの?」

「それは…解らないな…そう言えば聞いた事無かった」

 そうだな。知っていれば、売人やる前に止められるんだよな。これは俺が迂闊、つーか、良く考えていなくて流されていたから悪い。

「今現在どうだと思う?」

「…何とも言えないな…Cクラスチラ見して様子見たけど、変わらなかったような…」

 強いて言うなら演技している楠木さんだったと言う所か。全て自分を良く魅せる演技をしていた頃の。

「楠木はお前を騙してボディガードさせたんだっけか?それを俺が見切って追い込んだと」

 なんか得意気なヒロだが、木村が舎弟を使ってお前に教えた筈だが…それに、その後直ぐ俺電車に轢かれて死んじゃったし。お前も自殺したし。どう考えてもドヤ顔出来る状況じゃないよな?

「そのイベントが一番最初に来るんだよね?今回は槙原さんと恋人になったから、嘘の告白する必要は無くなった訳だけど…」

「えー!?だったら私の木村君はどうなるのよ!!ずるいよ国枝君!!自分は春日さんといい感じになる予定なのに!!」

 私の木村君って!!会ったことも無いのに、なんでそんなに焦がれる事ができるんだ!?

 それに国枝君も春日さんの顔まだ知らねーのに、いい感じになる予定って!!国枝君苦笑いしまくりじゃねーか!!

 遥香はやはりやや考えて口を開く。

「木村君との縁、少し早める事出来るかも」

 いや、そこは別にいいんじゃないか?流れに任せても。

「どうやって?」

 いち早く喰い付いたのはやはり黒木さんだった。何でそんなに気になるんだ?運命を感じているとか?でも同棲まで扱ぎ付けても、別れる事になるんだけど…

「楠木さんは木村君をどうやって知ったんだろうね?」

「どうやってって…木村が有名人だから、取り入ったんじゃねえの?」

 適当に返すヒロだが、そういやそうだな。楠木さんと木村がどうやって知り合ったのかも聞いた事が無かった。

 遥香は我が意を得たりと大袈裟に喜ぶ。

「その通り!!流石だね大沢君!!隆君の親友なだけはあるわ!!」

「褒められたみたいだが、結局隆ありきかよ」

 イマイチ不満なヒロ。仕方ないだろ、そういうもんだ。お前も彼女できたら解るだろうよ。

「多分木村君は西高の強い人?偉い人?そんな人達を倒しちゃうんだと思う。結果西高で一番強くなって有名になる」

 まあ、そうだろうな。トップになったんだから、クソ偉そうな上級生をみんな潰しちゃうんだろう。糞の掃き溜めの西高で、一年生でトップになるんだから、そりゃ有名になるんだろう。

 俺は前回、そんな事全く興味なかったから、聞いた事も無かったが。

「じゃあ冬まで待たなくてもいいかも」

 遥香の弁で黒木さんが身を乗り出す。つか黒木さん、俺の話、あんま信じてなかったんじゃねーのか?

「ど、どういうこと?」

「だから、木村君が有名人になったと同時に、友達になっちゃえばいいって事だよ」

「だ、誰が?」

「勿論私のダーリンが、よ」

 ビシィ!!を俺を指差す遥香。思い切り不敵な笑みを浮かべて。

 同時に黒木さんが縋るように俺を見る。だから木村の顔見たことも無いんだろ?何でそんなに焦がれる事ができるんだよ?

「成程、そうなると、木村君は楠木さんと縁を持つ事も無い。緒方君が言っちゃうから」

「流石国枝君。メガネキャラなだけはあるね!」

 褒め言葉なのか否なのか解らないぞ。国枝君が苦笑いしかしないじゃねーか。

 だけどまあ…

「そうだな…俺の話は木村にも言いたいしな。何より伝言を頼まれたし」

 前回は半分しか信じてくれなかったが、今回はどうなんだろうか?多分信じてくれると思う。木村自身も、免許取ってツーリングに行こうと誘ってくれたし。黒木さんに束縛の事言っておけとも言われたし。

 自分は今回も信じるから話しをしに来い、と言ってくれたんだ。俺の荒唐無稽な話を言いに来いと。

 俺は黒木さんを直視し、言う。

「黒木さん、今回はクリパまで待たなくていい。それよりも早く木村と縁を持つから」

 黒木さんは実に嬉しそうに何度も頷く。脳が揺れるんじゃねーかってくらい。

「南女の子は?」

「大丈夫だから。私が責任持って話ししとくから」

 ヒロも実に嬉しそうに何度も頷く。こっちは脳が揺れようがどうでもいいや。

「…緒方君、僕も頑張るよ。君がお願いしてくれた事を」

 国枝君も雰囲気に流されたのか、覚悟を決めてくれたようだ。大丈夫。俺も手伝うからさ。

「じゃあ…ちょーっと名残惜しいけど、此処で解散ね。ダーリンもいろいろやる事があるだろうし、私も用事出来ちゃったし」

 悪戯な笑顔だった。その顔は…

「何か企んでいるだろ?」

「まあね」

 誤魔化さずに、笑顔を崩さず言い切った。流石だなあ。変わってないや。いや、変わる筈ないか。

 それが槙原遥香。俺が護る為に現世に戻ってきた理由の、大事な女の子なんだから。

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