始まりの日~003

 今日の晩飯は麻美の家でゴチになる。朝、麻美から聞いたのだから間違いはない。実際メールも来たし。

 6時まで家に来て、っつー内容だ。絵文字多用しすぎて実に面倒くさいが、あっさりメールより若干嬉しい。麻美からだし。

 なので気持ちスキップしながら麻美の家に向かう。

 麻美の家は俺ん家から徒歩20分くらい。朋美の家と方向が真逆だから、麻美の家に遊びに行くときはかち合わなかったな。

 一応気を利かせて買ったケーキの箱を、大事に小脇に抱えながら呼び鈴を鳴らす。

「はーい」と玄関を開けて出迎えてくれたのは、麻美の母さん。麻美みたいに小柄だ。

「こんばんは。ごちそうになりに来ました」

 美しい辞儀を意識して礼をする。

「えーっ!!?隆君どうしちゃったの!?いつもはもっとカクカクしているじゃない!?」

 …こっちの緒方君は麻美のかあさんに緊張しているのか。いや、麻美だけじゃないな。多分ヒロのおふくろさんとかにも同じ反応するんだろうな。

「まあ…俺も高校生になった事ですし…あ、コレ、ケーキっす」

 持ってきたケーキを渡す。まあまあと受け取り、居間に案内される。

 晩飯は焼き肉か…入学のお祝いだからな。豪勢に、って事だろう。

「おう隆、遅かったな。ほら、早く座れ」

 麻美の父さんが自分の隣の座布団をバンバン叩く。そこに座れって事だろう。有り難く座らせて貰おう。

「また逞しくなったか?ボクシングのし過ぎで成績ガックンと落ちたらしいけど、まあ男だからな。頭の出来は気にするな」

 背中をバンバン叩かれる。笑いながら。麻美の父さんにも可愛がられていたな、そういや。娘一人なら、やっぱ男が欲しいもんなのか?ウチも娘が欲しかったとよく零しやがるし。

「いや、一応高校受かったんで」

「だから御祝いだろ?お前の頭じゃ、白浜は危ないって、麻美が心配していたからなぁ」

 入学祝は本当の事だったか。ただし麻美のじゃなく俺の。嬉しいがなんか切ない。

「お、ちょっと遅いけど、ちゃんと来たね?偉い偉い」

 麻美が破顔しながら登場。何でそんなに嬉しそうなの?

「隆にしては珍しく気が利いたじゃんか?ケーキ買ってくるなんてさ」

 破顔の理由はそれか。つか、本当はマカロンにしようと思ったんだけど、そうなると、おじさんおばさんの腹には入らない。お前一人で食べちゃうから。

「でもケーキは飯食った後だからな?」

「あたりまえでしょ?アホみたいな事言わないで、お茶碗寄越して。ご飯装うから」

 アホって…まあ、良いけどな。お前がご飯装ってくれる方が嬉しいから。

 だから俺は好意に甘える。俺の世界では麻美は死んだ。こうやってごはん装ってくれる事も無かった。

 だから、本当に本当に嬉しかった。気を緩めると涙腺も緩みそうなくらい、嬉しかった。

 たらふく食った。俺はプロになる気は無いからウェイトは気にしないからいいんだけど、振る舞い過ぎだろ。

 おじさんは休む間すら与える気が無いのか、どんどん皿に肉盛ってくるし、おばさんは茶碗が空になったと同時にご飯装うし。

 おかげで居間に大の字で仰向けになったわ。つか、なっているわ。

「だらしないなあ。せめて座ってよね」

 麻美のジト目である。つか、こいつあんま食わなかったな?なんでだ?

「さて、ケーキ食べよー!」

 ご機嫌よろしくケーキの箱を開けた。成程、あんま食わなかったのはケーキが控えていたからか。

「おー!!ガトーショコラにレアチーズ!!抹茶ケーキもかぁ!!」

 買ったのは三つ。俺は食わないから。

「ありがと隆!ねえねえ母さん、どれがいい?」

「私はチョコかなあ?」

「じゃあ父さん抹茶ね」

 自分はレアチーズか。余り物を父に渡したか。まあいいけど。おじさん喜んで頬張っているし。

 かと思ったら、レアチーズを皿に乗せ、立ち上がった?

「何してんの?早く部屋行こうよ?」

「?」な表情の俺を促す。自分の部屋で食うって事か。まあいいか。あの話は二人きりの方がいいからな。

 動くもの辛いが、どうにかこうにか麻美の部屋に行く。

 ……懐かしいな、麻美の部屋。小さい頃は良く遊びに来たもんだ。

「何見てんのよ?早く座って。コーヒー淹れて来てあげるから」

「おう。つか、部屋変わったか?具体的には壁…」

 以前(と言っても俺の世界の話だが)は白だった筈だが、今は淡い黄色になっている。

「はあ?何言ってんの?張り替えたの、隆と父さんでしょ?」

 …俺も手伝ったか。そうか、そうだよなあ…張り替えると決まったら、俺を呼んで手伝わせる女なんだよなあ…

「…マジどうしたの?朝もなんかおかしかったし…」

 超接近して俺の顔を覗き込む。ドキッとするからやめて欲しい。

「…訳は話す。その前のコーヒー淹れてくれ。ちゃんと腰を落ち着けて話したいから」

「う、うん…」

 不安顔で階段を降りて行く。コーヒーを淹れる為に。

 その間俺は麻美の部屋を懐かしんだ。壁が変わってしまった他は大きな変化はない。強いて挙げるとしたら、本棚が大きくなった程度か?

 中身は…漫画ばっかだな。だが良かったBLが無くて。

 パンツ落ちてねーかな?あいつ、洗濯物をよくベッドの上に放置していたからなぁ。風呂入ったようだから洗濯機の中か?

「おまたせ-」

 パンツを探す前に麻美が戻ってきた。お盆にはコーヒーとホットミルク。今朝も俺ん家で飲んでいたよな?背が小さいから、少しでも伸ばそうと言う涙ぐましい努力だろうか?

 有り難く戴く。ブラックだった。丁度いい温度でもあった。やるな麻美。

 自分もホットミルクを一口飲んで、ついでにレアチーズを一口食べて一息つき、俺を睨むように見る。

「…訳、ってのを話してくれるんでしょ?」

 促された。別に言い難い訳じゃない。信じないだろうなあ、と思っているだけなんだが。

「笑ってないでさ、言ってよ?」

 笑っていたのか俺は。相変わらず自分の表情は解り難いもんだなあ。

 その前に、と釘を刺す。

「今から言う事は、お前は信じないだろうが真実だ。俺はお前に対しては絶対に嘘は言わない。それは解るよな?」

「え?いや、普通に嘘言われるけど…英語のテストで35点取ったとか。本当は31点なのに」

 いいじゃねーか4点くらい!!誤差内だ誤差内!!つか31点!?末期なのかこっちの緒方君も!?

 ま、まあ気を取り直して…

 俺は本気で真剣な顔で麻美を見据える。麻美は一瞬身を強張らせたが、やはり真剣な顔で俺を直視し直した。

「…麻美、実は俺は昨日までの記憶がない」

 一瞬険しい顔になった麻美だが、すぐに平静を取り戻し、頷く。先を促したのだ。

 だから俺は真剣な顔つきで話した。繰り返しと出戻りの事を。

 話を続けていると、真剣だった顔が徐々に砕けて来る。信じてねーなこいつ。

「…と、言う訳だ」

 温くなったホットミルクを煽るように飲み干す麻美。そして真顔でこう言った。

「脳外科行く?」

「お前相変わらず酷いな!?繰り返し最中も酷かったけど、今も酷いな!!」

「酷いのは隆の頭だよ。信憑性があるのは、屋上から転落死した所だけじゃない」

 いや、俺の頭も酷いけどさ。言い過ぎだろそれ。お前に何回も助けて貰ったっつーのに。自虐になっちまうぞ。

 麻美は大仰に溜息を付く。ハイハイとまで言いやがった。

「で、隆は、その槙原さんって人を助ける為に戻って来たと?」

 頷く俺。その通りだからだ。

「そんで私とは来世だと約束したと?」

 頷く俺。その通りだからだ。

「……ごめん。頭痛くなってきた」

 しかめっ面を拵えて眉間を押さえる。

「お前の頭が痛くなろうが、事実だっつってんだろ。つか、お前が何回も俺を助けた事も信じねーのか?」

「えー…出来の悪い幼馴染に、何回もチャンスをあげる私マジ天使とか思えと?」

 …いや、そうなるかもしれないけども!!実際そうだったんだから、そうじゃねーか!!

「でも隆、確かに昨日までの事、覚えていなかったみたいだからね…マジで病院行った方がいいかも」

 心配している素振りなんか全く見せねーな。理由はレアチーズをモグモグやりながら言っているからだ。

「まあいいよ。信じる信じないは置いといて、だ、いや、置いておかれちゃ困るが、この際棚上げにしといてだ」

「はいはい。何?」

 はいはいとか。お前、あんなに頑張った事忘れんなよ!!いや、こっちの麻美は解らない事ばっかだから仕方ないけども!!

 まあいいや。気を取り直して。

「今朝お前に言った事、覚えているよな?」

「今朝の話を忘れる訳ないじゃん?隆じゃあるまいし」

「お前本当に酷いな!?」

 話をする前に心が折れそうだった。ボッキリと。

「うわ?なんで項垂れて涙ぐんでんのよ?キモいよ?解った解った、冗談だよ。えーと、最短で三日で彼女が出来るとか?」

 涙ぐませたのはお前だろうに、キモいとは更に追い打ちだろ!!だけど俺の傷心は置いておこう。話しが進まないし。

「おう。その話だが、今日できた」

「………隆、本当に嘘付きになっちゃったんだね…」

 大袈裟にザメザメと。つかそれ嘘泣き!!涙なんか流してないから!!

「嘘じゃねーよ!!ホントだよ!!友達も出来たんだから!!」

「…それって一方的に友達だと思っているだけとかじゃないよね?」

「お前は俺を失意のどん底に落として嘲笑いたいのか!?」

 悪意しか感じねーわ!!ガチ泣きするレベルだ!!

 半分泣いてスマホを滑らせる。みんなで撮った画像を見せる為に。

 麻美は鬱陶しそうにそれを眺めるが、一瞬で顔色が変わり、食い入るように画面を見た。

「た、隆!!これマジ!?」

 頷く俺。マジもマジマジ。大マジだからだ。

 ヒロが一緒に写っているから、信用性が段違いなのだ。

「じ、じゃあ彼女出来たってのもマジ!?」

 頷く俺。マジもマジマジ。大マジだからだ。

「ど、どの子よ!?」

「可愛い方だ」

「ぶっ飛ばすよ!?」

 この程度でぶっ飛ばされちゃ堪らん。なので画面に指を差して教える。

「……良く見たら、隆と腕組んでる…」

「この子が槙原遥香。俺が助けに戻ってきた理由の子だ」

 へ~とか言いながらめっさ凝視する麻美。何かに気付いたようだ。

「…この子の胸…凄いような…」

「ああ。Eカップとか言っていたな」

「いいかっぷぅ!?」

 万歳した状態で仰け反る麻美。ビックリだろう。お前の胸は頑張って贔屓目に見ても、Bが関の山だからな。

 その後もいいかっぷ…と呟く麻美だが、面倒くさいので先に進ませて貰おう。

「この眼鏡の男前が国枝君。遥香と同じ、俺の繰り返しと出戻りを最初に信じてくれた親友だよ」

「へ~…眼鏡男子…意外とカッコイイなぁ…」

「んで、この子が黒木さん。以前、と言うか、繰り返しした時に、朋美に狙われた人だ。この子も最終的に信じてくれた」

「朋美ならやりかねないからね…阿部に頼んで、と言うか、脅して車で轢こうとしたなんてね」

 そうかそうか。納得した所で再確認だ。

「で、信じるよな?俺の話」

 腕を組み、眉根を寄せながら考え込む麻美。う~ん、う~ん、と唸っている。

「…正直信用できる部分もある。朋美の所なんか特に。でも…」

「オカルトは信じられない?」

 躊躇しながらも頷いた。お前、そのオカルトの最たる存在だったんだが。

「お前には信じて貰いたい。お前には助けられっぱなしだったからな」

「う~ん…善処するよ…」

 善処って。まあいいか。信じる方に前向きになったと捉えよう。じゃあここからがお願いだ。俺は再び麻美に向き合う。真剣な顔を拵えて。

「さっきも言ったが、俺は昨日までの記憶がない。だから大雑把でいいから、どんな事があったか教えてくれないか?」

「それは朋美関係の事…でいいのかな?」

「そうだけどそれだけじゃない。今一番知りたいのは、俺に中学時代の友達は居たか、って事と、糞先輩5人の事だ」

 中学時代の友達云々は重要じゃないが、背景を知る事ができる。朋美のネガキャンがどこまで浸透していたか知れる事。ちゃんと調べた訳じゃないが、白浜にはオナ中の奴いなかったし。

「友達と呼べるのは大沢だけかなぁ…あとは隆自らがみんな切っちゃったから…」

「それは虐めを見て見ぬ振りしたから?」

 頷いて肯定。俺の世界と似たようなもんか。

「あの頃の隆はかなり荒れていたからね。私達以外じゃ正直怖いんじゃない?現に白浜には10人程度しかオナ中いないでしょ?」

 一応白浜に入学している奴はいるのか。此処も前の世界とは違う所だな。だが親しいって訳じゃなさそうだ。

 と、言う事は、朋美のネガキャンは確かに浸透していたが、前の世界程じゃない。

「じゃあ糞先輩は?どこの学校行った?」

「えーと、佐伯は東工、安田と神尾と阿部が西高、武蔵野が荒磯…だったかな?」

 白浜にはやっぱいないのか。それも結構救いだな。殴っちゃいそうだし。

「それにしても意外だな?佐伯は絶対西高だと思っていたが…」

 武蔵野が荒磯だってのも意外だ。あの中じゃ一番頭悪かった筈なのに。

「佐伯は西高には行かないよ。あそこでトップ取れる筈ないから」

 成程、そう言う事か。つか、東工も舐められたもんだな。佐伯如きが頭張れると勘違いしちゃうんだから。

「でも佐伯は東工でもトップにはなれない」

「そりゃそうだろ?頭ってのは強けりゃいいってもんじゃなくて…」

「違うくて。あそこには隆や大沢レベルがいるから」

 俺達レベル?そんなのいたのか?そうなら東工生も結構ぶち砕いていたから、絶対ぶつかっている筈だけど?

 麻美は特に興味がない顔をしてレアチーズを一欠けら口に入れる。つかまだ残っていたのかよ。早いとこ全部食えよ。

「たまたま偶然だけどさ、南女の隣の席に、隣の県から引っ越してきた子がいてさ。お隣だからちょっと話した時にさ」

 隣隣しつけーな。突っ込まないけど。話の腰折っちゃうから。

「その子が嫌そうな顔して言うのよ。人殺しと同じ街に来ちゃった、って」

「人殺し?また物騒な奴がいたんだな。つか、同じ一年か。じゃあまだぶつかっていないのも納得だな」

「そう言っても、詳しく聞いたら違うくて。その人空手やってんだけど、仲良しの子が隆の大っ嫌いな連中に絡まれて、助ける為に拳振るったら死んじゃった、って」

 それは人殺しとは違うな。結果死んだんだろ。つか、糞共は死んで当然だからいいんじゃねーの?高等霊目指していたから、ホントはそんな事言ったら駄目なんだけどさ。

「その事件が中三の春ね。その後引越してこの街に来たって訳。転校先がどこ中かは知らないけど、東工に入学したのは知っていたって。昔の仲間からラインで聞いて」

 知り合いに会わないように引っ越してきたんだろうに、バレてて麻美にそんな話をされるとは夢にも思わないだろうな、そいつ。

 しかし東工か…戻ってくるとき、楠木さんが東工の件で何か言い掛けたよな…気になる…

「だけど糞じゃないじゃねーか。だったら俺とぶつかる事は無いから平和だな。俺は」

 糞じゃないのなら関係ない。楠木さんが何を言おうとしたのかは気になるが。

「うん。だけど殴り殺しちゃう程正義感が強い訳だから、佐伯が傲慢な態度で虐めとかやったら、その人にぶん殴られちゃう。だから佐伯はトップにはなれないよ」

 そりゃ佐伯が災難なだけであって、自業自得なだけであって、やっぱ俺には関係ねーな。

「どっちかって言うと、隆に近いかもね」

「俺はぶち砕くつもりでやってんだけど、ヒロとお前が止めてくれてたんだろ?」

「まあね。流石に人殺しは駄目だし」

 まあ、常人の考えだ。あの世の理とは少し違う云々。

「ん?だけど、引越ししてきたのが中三の春って事は、この町に丸一年いた訳だ。その間俺はそれらしい噂を聞いた事が無いぞ?」

「多分自重しているんだろうね。また人殺ししちゃうかもって考えてさ」

 だから目立った噂は聞かなかったって事か。納得だ。

「あ、そうそう、入学式に西高の馬鹿がやって来たよ。私も絡まれたけど、写メ見せたら青い顔して逃げちゃった」

 な?やっぱそいつより俺の方が有名だろ?写メ見ただけでも糞が退散するんだからさ。

「神尾も来たよ。私の顔見るなり逃げちゃった」

 あー神尾か。阿部の話じゃ、麻美を殺した事を佐伯は知らんが、全員後悔していたらしいからな。

 顔見たらぶち砕くかもしれないが手加減はしてやろう。病院送りはやめといてやるか。

「でも鬱陶しいよね。あの馬鹿共はさー」

 本当に嫌そうな顔を拵えてレアチーズの最後の一口をパクン。これでレアチーズケーキは完全に消滅した。

「まあ…ちょっと我慢しとけ。なんとかするから」

「なんとかって、半殺し以上に追い込む事?」

「いや、平和的に。木村と知り合えば南女に被害は出なくなるから、それまで我慢してくれって事」

「さっき言ってた西高トップの一年生?隆がああ言う人種と仲良くなるって言うのが胡散臭さを増すんだけど…」

 一番信憑性が無い所だろうなあ…俺もそう思うし。だけど…

「ああ言う連中の中にも、ちゃんとした奴がいるんだ。それを知れたのも、木村や的場のおかげなんだよ」

「まあ…それは私にとっては嬉しい事だからいいけど。隆が見たら病院送りにしなくなるだけでも安心だってもんだし」

 こっちの俺もいろいろ物騒な奴だったんだな。もしかして俺よりも物騒かもしれない。

 で、とやけにニヤた顔を近付けてくる。キスしちゃいそうになるだろ。しないけど。

「槙原さんだっけ?どうやってゲットしたの?」

 あー恋バナか。女子はそんなん好きだからな。

「そりゃ普通に」

「普通に?」

「土下座して」

「普通に土下座!?どう言う告白それ!!」

 めっさ驚かれた。万歳して仰け反る程に驚かれた。

「三つ指で受けてくれたぞ」

「マジでどんな状況!?凄い興味湧くんだけど!!」

 どんな状況と言われても、まんまなんだけど。

「いつか紹介してやるから、その時に聞けばいいよ」

 自分の恋バナなんてハズすぎる。ちゃんとまともに言える訳がない。だから遥香に丸投げしよう。

「え!?マジで会わせてくれるの!?ホントに!?」

 ぐいぐい接近してくる麻美。なんか必死だ。なんでだ?

「こんな頭が可哀想な隆と付き合ってくれるなんて、絶対にいい人だよその子!!ちゃんとお話ししてみたい!!」

「本当に酷いなお前は!!」

 いや、確かに遥香はいい子だけども!!出戻りの俺がこんなに傷心になるなんて!!一応高等霊を目指していたのに!!

「ま、まあいいよ…会わせてやる…近いうちに…」

 元からそのつもりだったからな。ちょっと予想外に精神的ダメージ喰らったが。

「うん。楽しみだなあ…」

 ニコニコ麻美さん。本当に楽しみにしているようだ。

 中学の時は一応両想いで、最後の繰り返し、死んだ後、一瞬だけ恋人関係になった筈だが…そこら辺はどうなってんだ?やきもちのやの字も感じられんから、友達以上恋人未満?超仲良しの友達?まあいいや、仲良きことは美しきかな、だ。

「んで、大沢にも彼女出来るって?」

「あ、うん。南女の子な。波崎優さんって子」

「波崎優ちゃん…」

 考え込む麻美さん。なんか良からぬ事を企んでいるようだ。

「言っておくが、お節介すんなよ。例えば仲良くなって彼氏紹介してやるとか言うなよ」

「なんでー!?」

 思い切り立ち上がっての抗議である。やっぱそのつもりだったか。

「だから、俺の繰り返しっつーか、お前が憑いているのを見切った子なんだよ。下手な真似して警戒されちゃ、ヒロが可哀想だろ」

「あー…勘が鋭い子なんだっけ…そうだね。大沢が可哀想だもんね。中学の時、毎日毎日ぼやいていたからね。彼女欲しいって」

 こっちのヒロは俺の知っているヒロそのもののようで安心した。ぶっちゃけ喫茶店の時から安心していたけど、更に安心できた。

「つか波崎さん、私と同じクラスじゃないなー。自己紹介の時にそんな苗字の子いなかったし」

「そうなのか?因みにお前は何組?」

「3組だよ。南女は5組まであるんだ」

 南女も5クラスか。白浜も5クラスなんだよなー。

 昔はもっとクラスがあったようだけど、少子化の影響か、クラスが減っているんだよな。

「んで、このメガネ男子の国枝君の彼女になる予定の子が、隆を刺殺した子ね…」

 写メを見る目が厳しいが…

「お前、繰り返しの最後の時には春日さん押しだったんだが…躊躇なく刺すからと言って…」

「そりゃ対朋美ならそう思うよ。あの子は刺されて死んでも仕方ない事ばっかりしていたし」

 怖い事を仰っていやがる。つか、こっちの麻美もあっちの麻美も同じ思考なんだな。

 と言う事は、性格はあまり変わらないって事か。益々以てやり易くなる。

「でも、隆を刺殺したのは気に喰わない」

 …い、いや、確かにそーなるけども。春日さんも追い込まれていたから、そうなった訳でな。

 その追い込んだ人は、本日めでたく恋人さんになった訳だし、問題は何もない。多分…

「でも、朋美を刺そうとした事は評価する」

 文化祭のカッターな。俺は勿論、遥香も止めたんだよな。やっぱ春日さん危ねえな。そこを評価する麻美も危ないけど。

「でもまあ、あまり信じてない気持ちの方が大きいから、気にしてないけど」

「結局そこかよ」

 げんなりするが、仕方がない。こんな話を信じろっつう方がおかしいのは承知だし。

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