球技大会~001
とうどうさんの件で結構慌しかったが、河内なんか警戒心ビンビンだったが、あれから目立った動きは無く。
連合を抜けたチームと小競り合い程度はやっているが、大きな喧嘩に発展していないと。
連合は的場のチーム。的場は俺が信用している人の一人。よって的場にはとうどうさんの影響が少ないので、結局は大きな喧嘩にはならないとの遥香の弁だった。
だが、みんな結構気を張って過ごして居た為に精神的疲労が嵩んでいた。だからって訳じゃないが、気晴らしに出かける事になった。
山郷に。
「まあいいんだけどよ。松田は忙しいんだろ?球技大会の応援とか言われても逆に困るだろうよ」
黒木さんに超誘われて渋々参加した木村が面倒そうに言った。
「まあまあ、ウチの彼氏のカッコ良いところ見て、羨望しちゃってよ」
誘った張本人の倉敷さん、なんかドヤ顔でそう言った。
「まあ、山郷の遊べる場所探せるからいいけどよ。俺がお前を連れて来る理由が解んねえんだよなぁ……」
げんなりして倉敷さんが被っていたヘルメットをこんこん叩くヒロだった。倉敷さんはヒロが後ろに乗せて連れて来たからだ。
「だって波崎さん、バイトで来れないって言ったから。じゃあアシあるかなって」
「波崎の為のシートなんだぞ言っておくけど」
「いやいや、大沢君、免許取るまではみんなに乗せて貰っていたでしょ?だったら借りを返さなきゃ」
遥香が何か無茶苦茶な事を言った。言いたい事は確かに解るが、理屈に全くなっていない。
「隆や木村、河内とか国枝には確かに世話になった。だけど倉敷には借りはねえだろ」
「それ、波崎に言っておくから」
「……言っても良さそうだけど、俺の言い分が正しいと思うけど、なんか叱られそうだからやめろ」
最終的にヒロが折れた。女子にはなるべく逆らわないのが吉だから、それは間違っちゃいない。例え釈然としないとは言え、飲み込む方が平和なのだ。
「まあまあ大沢君。確かに恋人以外の女子を乗せるのは罪悪感があるだろうけど、僕もそうなんだから……」
「だってウチの彼氏、大洋だし。春日ちゃんもいいよって言ってくれたし」
国枝君の後ろに乗って参加した児島さんが当たり前の様に言った。因みに倉敷さんとは初対面ながら、なんかきゃいきゃいしていた。彼氏以外の後ろに乗るのって浮気になるのかな?とか言いながら。
「まあいいだろ、乗せちまったもんはしょがねえし、お前等の女だって了承したんだし。ところで既に学校前なんだが、松田は迎えにくんのか?」
「来ないよ?お昼にみんなでランチする時は来るけど」
「やっぱ忙しいんじゃねえかよ。逆に迷惑かけてるよな気がするんだがなぁ……」
やっぱりげんなりする木村だった。ヒロも国枝君もあまり乗り気じゃ無かったし。
俺だけだ、行きたかったのは。
「ダーリンは文句言わないでいいよって言ったよね?結構楽しみにしてたの?」
「うん。他校の体育祭の応援なんてした事無かったからさ。去年の体育祭、みんなで昼飯食ったのも楽しかったしな」
「ボッチには輝くようなイベなんだろうな、他校の祭りってのは」
「誰がボッチだヒロ。その暴言を許して欲しかったらコーヒー奢れ」
「別に許して欲しいとは思わねえけど、自販機なんか見当たらねえぞ?中にあんのかな?」
「流石に僕達は中に入れないよ。せめて競技が始まるまではね」
国枝君の言う通りだろう。しかし、この辺には確かに自販機がないよな。
「じゃあ松田に買って来て貰おう。ヒロ、メールか電話で連絡取れ」
「嫌だよ。開会式最中かもしんねえだろ。お前、確かパシリが中に居るんだろ?そいつ等をこき使えよ」
竹山達をパシリとか言うな。顔見たらぶち砕くレベルなんだぞあの糞共は。つうか、木村が来ているんだから、竹山達を紹介してやろう。とっても面白い事になりそうだ。
仕方がないので、木村を誘って自販機を探す旅に出た。
「旅ってなんだ?その辺をプラプラ歩いているだけじゃねえか」
苦言を呈する木村だった。欠伸をしながら。
「あんま寝てないのか?」
「ああ、この頃はとうどうさんの情報を取りに、連山に入り浸りだ」
連山か……あそこはとうどうさんと佐伯が出会った場所だから、要注意と言えばそうなんだよな。
「なんか掴んだ?」
「なんにも。佐伯が潜伏していた家くらいだな。ただのアパートだった」
そこの大家がとうどうさんとか無い?あっても気付くのは無理か。あいつ等おかしな技使いやがるし。
「お前等黒潮でとうどうさん関係の女とっ捕まえたんだよな。なんで連絡先押さえなかったんだ?」
「なんかヤバそうだったから。あいつ等の仲間にはおかしな技を使う奴が多数いる。電話越しからそんな変な技を仕掛けられる奴がいるかもしれないからな」
「だけど、俺達にはとうどうさんの技通用しねえんだろ?なんつったけ……みんな忘れるが、俺達は覚えている、だったか?」
それが情報を得る遥香の力だと言っていたけど、誰にもまだ話していない、内緒にしてと言われたから。
「なんで俺達に通用しないか解らんけど、向こうの情報がほぼ無い状態だからな。さっきの電話越し云々の技使う奴も居るかもしんないし、まあ、保険だよ」
「ふうん……慎重になる事はいい事だが、やっぱ何にもねえってのはキツイぜ?」
何にもない訳じゃない。一つはあるだろ。お前も行ったから覚えている筈だけど。
「丘陵に行けばタイ人ハーフのトーゴーが居るだろ。そいつを捜してぶち砕いて口を割らせるって手がある」
「ああ、あいつは目立ちそうだから、見付けるのも簡単そうだよな。あの辺だったら丘陵情報が一番厄介だから、多分そこじゃねえかな」
前言っていたヤバめな学校だったっけ?そこだとして、レベルはどのくらいなんだ?
その旨を訊ねる。
「丘陵では最底辺が尾根東って高校だが、丘陵情報はケツから3番目くらいか?ウチよか偏差値は高いな。だが、ああ言った半グレが多いのもその学校だ」
半グレって。トーゴーは半グレって訳じゃないと思うが。繰り返したのが事実なら、その前の事は知らんけど、今現在ではそんな気配は感じない。
「そこには頭ってのが居なくて、チームが複数あるって感じだな。あの感じじゃ、あのタイ人はチームの頭って訳じゃなさそうだが。そもそも丘陵情報かどうかも解らねえしな」
「ふーん。お前等の友好校協定と喧嘩したらどっちが勝つ?」
「そりゃ勿論俺等の方だ。単純に数が違う」
迷いなく言い切った。だが、喧嘩は数が多い方が勝つんだから、その弁には賛成だ。俺なら数関係なく喧嘩しちゃうけども。
「逆に聞くけどよ、あのタイ人とあのままやり合っていたらどうなっていた?国枝は偉く心配していたが」
「ああ、どっちか死ぬってヤツな。国枝君がそこまで言い切るんだったら、間違いなく互角で、狂人加減も互角なんだろ」
「お前と同じような狂人かよ。そりゃ揉めたくねえよな」
「お前も充分狂人の部類だと思うけど……」
絶対に人の事は言えないと思うぞ?俺の方が勝っているとは思うけど。
「まあ、どこの学校、もしかすると学校に行ってねえのかもしんねえが、そのレベルの野郎、他にも居ると思うか?」
「とうどうさん側にか?それは何ともだ。どうせやり合う事が確定したんだから、今度とうどうさんの関係者に出会ったらぶち砕く。だからお前、絶対に止めんなよ」
「馬鹿言うな。お前はやり過ぎんだろ。ダチを警察に連れて行かせるか」
河内と同じ事を言った。有り難いな。友達ってホント、有り難い。心からそう思う。
旅は唐突に終わりを迎えた。結構直ぐそこに自販機があったからだ。
適当に買って戻って適当に配る。俺は当然コーヒーだ。
「お前どこに行ってもコーヒーだよな」
「お前にコーラ買って来てやったが、今の発言で気分を害した。返せ」
出したコーラを引っ込めたらヒロが目を剥いた。
「コーラくらいやれ。誰も飲まねえんだから」
木村が呆れて言う。確かに、このメンツでコーラは無い。女子の倉敷さん、児島さん、黒木さんはお茶だし。遥香は紅茶だけど。
「て言うか明人、緒方君はちゃんと遥香の好みの物、買って来たんだけど?」
「緑茶も烏龍茶も変わらねえだろ」
確かに、緑茶を半発酵させたのが烏龍茶だな。紅茶は発酵だったか。元はおんなじだって事だ。
因みにコーラのカフェインもお茶から抽出されているものだとか。そうなるとお茶が大半だな、このパーティ。
「あ、ライン来た。グランドだって」
漸くか。ところでだ。
「松田は何に出るの?」
「野球とサッカー。勝ったら明日決勝で、負けたら代掻きだって」
「なんだい、その代掻きって言うのは?」
国枝君の疑問。つうか全員の疑問だった。
「田んぼの土を細かく耕して、田んぼに水を引いて機械でドロドロにかき回して、最終的に平らに均していくのよ。稲を植える前段取りみたいなものかな?」
「倉敷さん、凄いね、そこまで解っちゃうんだ?」
「そりゃ、彼氏がやっている事だから、自分も興味持たなきゃね」
「わかる~。私もボクシング勉強し始めたし」
キャッキャ再び。意外と児島さんと倉敷さんは相性が良いのかもしれない。
グランドには意外と観客が来ていた。地元の親父さんとか、爺さんとか、婆さんとか。
空いている席に適当に座って観戦開始。
「吉彦のクラスは農業科で、敵は園芸科だね」
「いや、鉢巻の色で教えてくんないかな……」
赤と青、どっちのクラスなんだよ?農業科とか園芸科とか知らねーよ。
「え?知らないの?ヤマ農には農業科と園芸科、畜産科、造園科、食品化学科があって……」
「いや、だから、鉢巻の色で教えてくれってば」
農業高校の専科を覚える必要ないだろ。少なくとも俺達には。
「赤い方だろ。松田一番バッターだし、見りゃ解んだろ」
ヒロの言う通り、松田がバッターボックスに立って素振りをしていた。赤い鉢巻チームだ。
「松田って喧嘩強かったけど、野球の腕前の方はどうなんだろうな?」
「去年は速攻で負けて代掻きに回ったとか言っていたな」
「ふーん。まあ、喧嘩と野球は別モンだしな」
そりゃそうだ。スポーツと喧嘩を一緒にすんなって話だ。
つうか誰一人として真剣に見ていない。倉敷さんだけが打てー!とか叫んでいるが。
ところが、松田がバットに当てて一塁ベースを踏んだら状況が変わった。
「おいおい!松田塁に出たぜ!」
「そうだね!ここは送りバントで松田君を二塁に……」
「次がホームラン打てば1点だろ!送りバントでワンアウトはダセえだろ!」
国枝君と木村とヒロが興奮してきた。やっぱスポーツはチャンスが捲ってきたら盛り上がるもんだ。
しかし二番が三振。松田を二塁に送る事も出来ず。
「何やってんだ!!代われ!!俺と代われ!!」
ヒロが立ち上がって代われを連呼する。観客の注目を集め捲ってハズいんだけど。
「座れ大沢。目立ってしょうがねえ」
ズボンを引っ張って座らせた木村。安堵する女子達。
「大沢は髪型もそうだけどさ、目立つの好きななんだよね。だけど、それに巻き込まないで欲しい」
「髪型と言うんじゃねえよ児島。神型と言え」
「アホみたいな事言ってないで、次の三番を応援しようよ」
国枝君にアホと言われて目を剥いた。いやいや、お前アホだから。つうかヒロの地の文を見切るとは、流石だ国枝君。
続く三番バッターも凡退。観客が「あぁ~……」と落胆する。
「だから俺に代われっつったんだ」
「お前、バット振った事あんまねーだろが。今の奴と変わらねーだろ。木村はよく振っているみたいだが」
「そうなのか木村?」
「いや?そんな事は全くねえが、なんでそう思ったんだ緒方?」
「だってお前、不良だろ。喧嘩でよくバット振って周りに迷惑かけているだろが」
納得と頷いたのは女子達とヒロ。心外だと立ち上がった木村。
「そんな事した事ねえだろ!!お前も見た事ねぇ筈だぞ!!」
うん。見た事は無い。だけど、実にやりそうな顔をしているだろ。
「いいから木村君も座って。次は四番なんだ。チャンスはまだあるんだから」
「あ?お、おう」
国枝君に促されて座った木村。全く他人様の迷惑なんかどうでもいいとか、まんま不良だな。
「緒方君も余計な呷りはやめて、応援しよう。四番に座ったって事は経験者かもしれないんだし」
「え?あ、うん」
国枝君に叱られてしょんぼりする俺。いや、確かに悪かったけど、こう言うのはノリ……
「前も思ったけど、ホント仲良いよねアンタ達」
「ねー。あの緒方君とあの木村君でしょ?普通は険悪だと思うよね」
君達も仲良いよな。会ったの数回程度なんだろ?
まあ、外見は同系統だから、そうなっちゃうのかな?倉敷さんも児島さんもバッチシメイク決めている訳じゃねーけども。
その四番、ブンブンバットを振ったのち、バッターボックスに入った。
「あの構え、経験者だな」
「だな。デカいの飛ばしそうなガタイだしな」
確かに、ドカベンみたいな身体だ。当たればデッカイとは思う。
「あ、そうだ、緒方君、鮎川がいつ男子紹介してくれるんだって怒っていたけど」
「今それを言う場面か!?すっかり忘れていた俺が全面的に悪いけど!!」
さっき応援しようと叱られたばっかなんだから、今は応援に集中しようぜ!!
「なんだよあの四番!!見かけ倒しか!!つうか度胸ねえな!!」
ヒロがいきり立った。つうか観客の溜息がパネエ。
あの四番、三振とか外野フライとかならまだ良かったが、事もあろうに送りバントしやがったのだ。ツーアウトだと言うのに。
「ガッカリを通り越して馬鹿だな、ありゃ」
流石の木村も呆れてベンチに背中を全部預けた。今まで前のめりだったにも拘らず。
「あれ?和美さん、野球って何回までだっけ?」
「お前も飽きるのはえーだろ」
訊ねた遥香に突っ込んだ俺。まだ一回表だろ。これからだ。
「5回までだよ。と言うか私的には勝って貰わないと、明日デートできないんだよね」
「倉敷さんも自己都合かよ。負けたら仕事だからそう言ってんだろ」
どいつもこいつもなんだかな。俺みたいに純粋に応援したらいいだろうに。
と、息巻いたのはいいが、俺もがっくりと肩を落としてしまった。
一回の裏、一挙5点入れられたのだ。応援する気が失せたのもしょうがないだろ。5回までらしいし。
「だけど松田君、外野フライ取ったよね」
「そうそう、流石私の彼氏だわ―」
丁度良く守備範囲の所のフライ飛んできたからだろ。それでも落とすよりも遙かにマシだけども。
そんなこんなで最終回。0対6で先頭バッターに松田。既に観客は諦めモードだ。
「まあ、サッカーで頑張ってくれればいいか」
「あの、キミの彼氏の打席なんだけど、諦めるの早過ぎじゃない?応援しようよ」
「そうは言っても6点差をひっくり返せるレベルじゃねえだろ」
ヒロなんかさっきから自販機を往復して、トイレも往復する程にコーラ飲みまくっているし、全く応援していない。
「それでもだろ、向こうだって野球部はいないんだろ?」
「白浜の体育祭は確かに陸上部は陸上競技に参加できないルールだけど、山郷農業はどうなのか解らないよ」
国枝君の言う通りか。他の学校もてっきり同じだと思っていたな。だが、確認は必要だろ。
「倉敷さん、北商はどうなんだ?」
「北商も白浜と同じ。部活に在籍している人は陸上競技に参加不可。勝っちゃうからね」
「児島さん、荒磯は?」
「荒磯は部活真面目にやっている人がそもそも少ないから、あまり関係ないかな?」
「木村、西高には部活なんかないだろ?」
「決めつけんな。つっても似たようなもんだけどな。殆どが幽霊部員だった筈。野球とバスケだけが普通に部活やっていたような記憶がある程度か」
驚きだった。アホの西高にも運動部があったとは。
そもそも体育祭なんかないだろ、あのアホの西高には。文化祭は屋台ばっかで、何の文化祭なのか全く解らんし。
松田、バッターボックスに気合の入った顔で。
「松田、気合入ってんな。デカイの飛ばすかもしんねえぞ」
「そうだね。この回で最終回なんだ。気合も入ると言うものだよね」
「勝負をまだ諦めてねえってこったな。流石松田だ」
何か知らんが男子連中、松田に熱い期待を掛けていた。勿論俺もそうだけど。
「一球目、見送ったか」
チャンスに振ればいいので問題無いが、ワンストライクを取られた。
二球目はファール。あああ、と落胆の声が所々から漏れたが、まだチャンスはある。
三球目、手に汗を握り、成り行きを見守るが、これを見送ってボール。ツーストライクワンボールだ。
「心臓にワリィな……」
ヒロの言う通り、今のは際どかった。ストライクを取られても不思議じゃないくらいだったし。
四球目、ファール。しかもファースト方向へのフライ。あれも一歩間違えれば取られる位置だった。
うおおお……緊張すんな。観客の俺ですらそうなんだから、バッターボックスに立っている松田なんか気絶しちゃうくらい緊張してんだろうな……
5球目。誰の目にも明らかなボール。これも振らずに、ツーストライクツーボール。
くそう、こんな時はどうすればいいんだ?あだち充の漫画でも読んで予習しとけばよかった。俺はただの観客だけど。
6球目。ここでほぼ全員立ち上がった。危険球を投げやがった!!松田が避けたから大事には至らなかったものを、アレ喰らったら洒落になんねえぞ!!
「おい隆!!松田の仇、取りに行くだろ!!」
「当たり前だあの糞が!!ふざけやがって!!」
「ちょっと落ち着いて二人共。わざとじゃないんだから」
これはすっかりエキサイトしてしまった。反省して座る。これはスポーツなので、仇討なんかもっての外だ。
「だがまあ、これでツーストライクスリーボールだ、次は勝負しなきゃいけねえだろ」
木村の言う通り、後がない。釣り玉を投げて振らせるか、ストライクを投げて三振を取るか。
固唾を飲んで見守る7球目。
キン!といい音がしてボールが前に飛んだ!!
「走れ松田!!ちょっと短いぞ!!」
ヒロの絶叫が響いた。確かにちょっと距離がない。証拠にワンバウンドながらも取られている。
一塁に送球。松田の疾走。一塁ベースを踏んだのと、グローブにボールが入ったのとほぼ同時くらいだ。
「セーフ」
塁審の気の抜けたコールに対して割れんばかりの歓声を上げた観客席。特に倉敷さんは酷かった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!吉彦凄い!!あれ私の彼氏!!凄いでしょ!!!」
知らん親父に自慢しまくる始末だった。親父、生暖かい目をしてうんうん頷く。
「解ったから座って和美さん。目立って仕方ないから」
「あ、うん」
遥香に窘められて我に返り、座った。なんか真っ赤になって。
「これで終わりじゃないよ。点差は6点。最低でも7点散らないと逆転できない」
国枝君の言う通り、7点取らないと勝てないが、その前に。
「倉敷さん、同点なら延長戦やるのか?」
「ううん、ジャンケンだって。時間短縮の為に」
そんなこったろうと思ったよ。学校行事だから時間優先だってさ。なんかガックリしたが、これは読んでいた流れだ。是が非でも7点取って貰わなきゃ、山郷まで応援に来た意味がない。
なんのドラマも無く終了。松田の後は三者凡退だったのだから、ドラマなんかないと言うね。
「次はサッカーだっけ?どこ?」
「流石に試合終わったばっかりなのに、すぐ次は無いよ」
それもそうかとポケットから折りたたんでいたチラシを取って広げた。
「体育館でバレーやっている最中だな。見に行くかヒロ?」
「いいけど、他なんかねえか?」
他は、野球は此の儘このグランドだから……
「なんだこの第二グランドって?」
木村が指差したのは、キックベースボールなる物が催されている第二グランド。この学校にグランド二つもあるのか?
「ああ。これは山郷公園のグランド。そこ借りてやっているんだって」
ほほー。競技が多ければ多い程、競技場は必要だからな。納得だ。
「確か女子はドッチボールの代わりにキックベースボールだとか言っていたよ」
そこも納得だ。女子がボールぶつける姿なんか見たくない。ぶつけられる姿も見たくない。
「じゃあ明人、そこ行ってみようよ。野球見ててもつまんないから」
黒木さんが酷い事言った。目を剥いたのは当然倉敷さんだ。さっきまで彼氏が戦っていた競技をつまんないと言われればそうなるだろう。
黒木さんもラクロス女子の筈だから、スポーツ観戦好きそうなんだけどもな。野球には興味ないのかな?
「倉敷、そこ近いのか?」
「え?ああ、うん。歩いて10分くらい」
じゃあそこ行こうかと木村が言った。こいつも意外と黒木さんの言う事は聞くのだ。だが、断る時はきっぱりと断る。俺に無い即決力は少し羨ましいとは思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます