文化祭前~011
なんか煙に巻かれたようだが、その後も朋美雑談を続けて、あんま遅くまで女子の家にお邪魔するのもなんだからと、家に帰った。
「そしてこの本もゲットした、と」
あの格闘技の本を麻美の家から持ち帰る事に成功した。微妙に渋っていたが、俺のだから文句も言えずって感じだった。
この本に何かの謎が隠されているのかも…とも思ったが、俺が『思い出す』のが困るような感じだったから、切っ掛けくらいにはなるんだろう。
糞を殺す為に編み出したパンチは、霊夢ですでに見たから俺的にはあんま関係ないが、麻美へのハッタリには使えるかも。
ともあれ、今日も疲れた。川岸さんのせいだ。完璧に。
霊夢って、こっちの緒方君が見せてくれるんだが、今日はどうなんだろう?何となくだが、見られないような気がするが。
あくまでも中学時代の事のみだし、川岸さんは全く関係ないしな。
でも、麻美が記憶持ちかどうかくらいは解りそうなものなんだが。こっちの緒方君がそんな事知る由も無いので、俺が判断するしかねーんだが。
ともあれ、明日も朝練がある。なのでベッドに潜って速攻就寝。
で、朝になって起きた訳だが、やっぱり夢は見られなかったな…見られないような気がしたから、落胆は無いけど。
「まあ…俺は大した奴じゃないからな…」
狙い通りにできるのなら、そもそも何度も繰り返してないってな。
朝練の準備をする。文化祭まであとちょっとで、対抗戦まであとちょっと。少し気合を入れなきゃな。
「う~っす…」
予鈴ギリギリにヒロが濡れながら教室に入って来た。
朝のロードワークの時にちょっと危ないかと思ったが、やっぱ雨降ったか。
「おはよう大沢君。ジャージに着替えた方がいいんじゃないか?」
優しい国枝君は身体を気遣ってそう進言した。俺はどうでも良かったから何も言わなかったけど。
「そうすっか…おい隆、お前の繰り返しの話に雨降ったとかないのかよ?」
「天気までいちいち覚えていられるか。いいから着替えて来い。予鈴鳴っても戻れなかったら、先生に言っておくから」
「おう」
ビショビショって訳じゃないが、濡れたまま授業は受けたくないのだろう、ヒロにしては素直に着替えにどこかに行く。
「今日はスパーリングできないね」
遥香が残念そうに言う。腕なんか組んで。
「疲労も溜まって来たから、中休みもいいだろ。明日は土曜日だな。文化祭の準備で忙しいからどこにも行けないが、家には来るのか?」
「当たり前でしょ?奥さんだよ私」
逆に何言ってんのと返された。奥さんって。グイグイ来るなぁ。いいんだけど。
「ホント、毎日ラブラブで羨ましいな。喧嘩した事無いの?」
市村さんがマジ羨ましいとな訊ねて来た。ほう、と溜息まで付いて。
「喧嘩は無いかな?退けない事は譲るしね、お互いに」
確かに喧嘩は無いな。俺のごり押しをしぶしぶ了承するか、遥香のごり押しを仕方ないと諦めるか、どっちかだし。
上手い具合にバランスが取れているんだろう。流石ナイスカップルだ。バカップルとも呼ばれているが。
昼休み。蟹江君と吉田君と赤坂君、ヒロと俺で共に昼食を取る。国枝君は春日さんと一緒に図書館なので、いない。
「今日雨降ってっから、緒方ん家での作業は無しな」
コロッケパンを頬張りながらの蟹江君。
「野外は仕方ないか…だけど、日数的に大丈夫なのか?」
心配になって訊ねた。雨で作業が出来ないのは仕方ないが、他に何かやる事は無いかとのニュアンスを含めて。
「おお、お前ん家で作業してから、手伝いが増えたからな。他のクラスの連中とか」
「お前等がスパーを観せてくれたからだな。有り難い」
逆に感謝返しされたが、問題無いのならいいか。前回も結局日数内以上に早く仕上がったしなぁ…
「でも、昨日お前等おかしかったよな?他校の生徒囲ってよ」
川岸さんの事か…誰の目にも触れさせないようにしたつもりだが、結構見られているもんだな…
「あの女、体育祭に隆を盗撮してたんだよ、ダチに頼んでよ。槙原が面白くねえ話だろ。そういうこった」
肉団子を頬張りながら上手い具合に誤魔化すヒロ。ナイスだ。
「緒方君は盗撮もされるのか…僕は昨日行かなかったから解らないけど、北商の女子から緒方君のこと聞かれた事があるなぁ」
「あ、そういや、俺もだ」
赤坂君と吉田君の言葉に目を剥いた。北商の女子が俺を探っている!?
「……それって昨日来た女子か吉田?」
ヒロが俺の代わりに訊ねてくれた。今日はナイスが多いなヒロ!!
「昨日の女子はあんま見てないから断言は出来ねえけど、多分違う」
じゃあ体育祭のように友達に頼んで探っていやがるのか?
「あ、北商で思い出したけどさ、俺達のクラスって占いだろ?それと被るなぁと思って印象に残っていたんだけど、なんかよく当たる占い師が北商にいるみたいじゃねえか」
蟹江君の思わぬ発言に箸が止まる。
「……良く当たる占い師ってのは?」
「何か霊感占いとかなんとか?国枝もそうだろ。だから覚えていたんだよ」
コロッケパンをモグモグしながら、呑気に。
だが、俺達は呑気にしていられない。
多分川岸さんだ、その占い師ってのは。ちやほやされて気分良くなってそこに至ったんだ。
俺とヒロは顔を見せ合い、頷く。
今日は北商の情報収集に動こうと、お互いに決めたのだ。
で、放課後、北白浜に向かった訳だが…
「なんで着いて来るの?」
俺とヒロの他、遥香と国枝君も一緒だった。
「いや、あの子の事で動こうって言うのなら、報復も兼ねて情報を、と」
報復って言っちゃったよ彼女さん。無間地獄のお前への影響がどうなるか解らんから、それはやめてと言っただろ?
「川岸さんの件は僕にとっても捨て置けないからね」
国枝君は責任を感じて着いてくるようだが、国枝君は何も悪くないだろ?ただ川岸さんと同じサークルで友達だったってだけで。
「黒木さんも来たかったみたいだけど、部活の出し物で来られないって嘆いていたよ」
似てない似顔絵だろ確か。あんなもんに準備が必要なのか?
「つうか、北商付近は初めてだな、なぁ隆?」
ヒロが同意を求める様に言って来る。その通りなので頷く。
「で、どうしようか?北の方には知り合いがあんまいないのよね」
「僕も…東にはいるんだけど」
当然俺とヒロにも伝手は無い。取り敢えず作戦会議でもするか…
「遥香、この辺りにはお前のクーポン使える店は無いのか?」
「あったかな…殆どが白浜と西白浜だからなぁ…」
遥香の地元は東の方が近いのだが、なんで白浜と西に集中するんだろうか?
「国枝君、春日さんと遊びにこの辺りに来た事は無いの?」
「殆どが西だからね…」
そうなるのか…そうだろうなぁ…西白浜の方には殆ど揃っているからなぁ…
じゃあ適当に店を探して入ろう。
そう思い、暫く駅周辺をうろちょろする。
「流石に駅前には店がいっぱいあるよな…」
ヒロが何処に入ろうか悩んでいるが、俺としては安けりゃどこでもいいんだが。
……ん?ちょっと待て。赤坂君がコーヒーが美味しいカフェがあるとか言っていたな…
店名は…何だっけ…確かミックスジュースも美味しいとか言っていたな…
俺は赤坂君にメールした。例のカフェの名前を訊ねたのだ。
程なく還って来たメールには、その店名が記されていた。
「ヒロ、駅から国道方向に向かって歩いたところにある店を探せ。『フレッシュ』だ」
「フレッシュ?喫茶店か?ここいらは解らねえからそうするか…」
そして俺達は国道方向に向かって歩いた。
それは簡単に見つかった。黒い壁に黄色で店名が大きく描かれていたから。要するに目立っていたから、簡単に発見できたのだ。
ともあれ入店する。入口に立つと、自動ドアが軽快な音を奏でながら開いた。
「意外と人がいるな…」
赤坂君好みの女子高生集団が二組居た。他にもOLさんみたいな人とか、主婦みたいな人達が何やら語って笑っている。
「いらっしゃいませ。4名様ですか?」
店員さんのウエイトレスさんが訊ねて来たので頷くと、席に案内される。
「喫煙か禁煙か聞かれなかったな…」
いつも聞かれるから、若干肩透しだったが、兎に角座る。
「このお店、全席禁煙みたいだからじゃない?」
そう言いながら当然のように俺の隣に座る遥香。
「兎に角なんか食おう。折角カフェに入ったんだし」
既にメニューを開いているヒロに同意して、俺達もメニューを開いた。
「あー、俺はコーヒー。ブレンドでいいや」
「お前何処でもコーヒーだよな。メニュー見なくてもいいんじゃねえの?」
いいだろ別に。メニューくらいは見させてくれよ。
「隆君、何か食べる?パンケーキの種類、充実しているよ?」
フレッシュの名の通り(?)プレーンを基本にフルーツを乗せてフルーツソースが掛かっているパンケーキがずらりと並んでいる。俺はパンケーキはどうでもいいが、国枝君はバナナハニーをチョイスした。
「国枝君にしては甘いものを頼んだな…」
「春日さんが喜ぶお店かもしれないからね。リサーチを込めてと言うか…」
頭を掻きながらテレテレで。お熱い事で羨ましい。
「俺は豆乳ラテとミックスベリーにするか…」
「ヒロもかよ?お前パンケーキってキャラじゃねーだろ?」
「だってパンケーキを売りにしてんだろ?だったら頼んでみた方がいいだろ」
まあ、一理ある。売りを無視して他を頼んでも問題はないと思うけど。
「じゃあ抹茶ラテと和栗ー」
遥香は和で攻めて来たか…じゃあやっぱり俺もなんか頼まなきゃな。シェアしたいだろうし。
「ん?ベーコンエッグなるパンケーキがあるな?」
「おかずパンケーキだね。他にもツナサラダとかエビアボカドとかがあるね」
国枝君がそう教えてくれた。成程、おかずパンケーキか…なんか面白そうだな。
迷った挙句、チーズコーンなる物を頼んだ。ウェイトを気にするボクサーなら絶対に避けるようなメニューだ。
「隆君、ちょっと頂戴」
「勿論だ。」
「あ、じゃあみんなでシェアしないかい?僕も他の味に興味があるし」
「おお、そりゃいいな。そうしようぜ隆」
結局みんなでシェアする事になった。俺も他の味が気になるから問題無い。と言うか、寧ろありがたい。
全員の品が揃った所で、四等分にカットしてみんなに回した。みんなもそれに準じた。
「四種類のパンケーキか…そう考えると豪華だね」
国枝君が笑いながらそう言う。春日さんの甘々に毒されたのか、甘そうなパンケーキを見ても怯まない。と言うか嬉しそうだ。因みにバナナハニーはバナナの薄切りをふんだんに盛って、その上から蜂蜜を並々と掛けた、見るからに甘そうなパンケーキだった。
「和栗ってあんこか…あんこはちょっとなぁ…」
ヒロがそうぼやいたのを聞き逃さない遥香。因みに和栗とは、あんこを盛って生クリームを掛けた上に粒状にカットした栗をちりばめて、更に栗一個丸ごと乗せた物。こっちも甘そうだ。
「返してくれてもいいんだけど。一切れお得になって、私としては嬉しい限りだし」
「いやいやいや、返さねえよ?つうか栗がカットされて散りばめられてん.のは有り難いが、真ん中の丸ごとはやっぱお前が取るのか…」
「私の栗を狙ってる!?」
隠す素振りを見せる遥香。勿論冗談だ。多分。
「そう言うお前だって、真ん中のイチゴは取っているじゃねーか」
ヒロが選んだミックスベリーは、生クリームを塔のように盛り、ベリー類をちりばめた物。ド真ん中にいちごショートのようにイチゴ一個乗っかっている。
「イチゴがメインなんだから当たり前だ」
そりゃそうだろう。そのイチゴを死守するのも当然だ。遥香が栗を死守するのと同じように。
ところで、俺のおかずパンケーキと、他のパンケーキには大きな違いがあった。
遥香達が頼んだパンケーキは厚い。カットしたのを見たが、中はトロトロのヤツだ。
俺のは薄くて、フカフカなパンケーキだった。だけど二枚重ね。それにレタスとチーズ、コーンが挟んであった。
「おかずパンケーキにはトロトロは向かないんだろうね。でもおいしそうだよ」
国枝君の言う通りだと思うし、実際美味そうだからいい。だけど、なんかこの先おかずパンケーキしか頼めないような気がしてならない。
おたふくの二の舞は御免だ。今回は仲間外れはいいとするが、次は絶対にトロトロの方と頼むぞ!!
兎も角、戴きますと言ってフォークを刺す。先ずは遥香の和栗からだ。
「……和だな。つうか甘いな…」
「そう?美味しいよ?」
そう言ってモリモリ食う遥香。いや、確かにうまいけど。
つか、あんこと生クリームのバランスが絶妙だ。トロトロパンケーキにあんこの粒はどうかと思ったが、これはこれで全然ありだ。
次はヒロのミックスベリーだ。
「……生クリームが多過ぎだな…」
「…おう、塔だしな…だが、これはこれで…」
ベリーの酸味が甘さをくどく感じさせない。これはこれで全然いいと、ヒロの言葉の続きを思う。
国枝君のバナナハニーだが……
「これは甘い……」
バナナも甘いが、蜂蜜が凄い。だけど春日さんにとっては物足りないかもしれない。
「春日さんだったら、もっと甘くしてほしいだろうね。僕はこのくらいが丁度いいかな?」
俺は限界の一歩手前の甘さだが、国枝君は丁度いいのか…
口直しにコーヒーを一口啜る。
「!?美味い!!」
え!?一番安いブレンドでこれ!?白浜駅の喫茶店のコーヒーよりうまいぞ!?
「ミックスジュースも美味しいよ…バナナメインだけど、程よい甘さで全然くどくない…」
国枝君も絶賛する程のミックスジュース。あれ赤坂君が好きなやつだったよな。
「抹茶ラテもいいよ。ミルク系が美味しいのかも…」
「そうなのか?豆乳ラテはイマイチだな。豆の風味が前面に出ているし」
それがいいってお客もいるんだろうが、子供舌のヒロにはちょっと過ぎた物だったようだ。
しかし、コーヒーはマジでうまい。コーヒー好きの俺にとってはいい店かも。
今後贔屓にするかどうかは、おかずパンケーキに掛かっているな。メインが駄目なら、やっぱ通いたくないし…
「……俺、パンケーキよりこっちの方が好きだな!!」
うまい!!パンケーキそのものが、ほのかな甘みがあるのはいいとして、それを邪魔しないチーズ。寧ろほのかな甘さがチーズの良さを引き出している!!
加えてコーンの食感!!ベビーコーンも入っているから、食べごたえもあるし!!
「……ホントだ。俺もおかずパンケーキにした方が良かったかな…」
ヒロが後悔しながらも、おかずパンケーキにパクつく。
「僕もこっちの方がいいな…春日さんは違うだろうけど…」
国枝君ですら絶賛してパクつく美味さ!!
「ねえねえ、次に来た時に別の頼んでよ。私も別のパンケーキ頼むからさ。ダーリンはおかずメインで攻めちゃって」
遥香は当然のようにシェアを要求してくる。勿論いいぞ、彼氏だし。
だけどちょっと高いから、頻繁に来れる訳じゃねーな。1000円オーバーだし。普通に食事するなら、あのファミレスの方が安い。
だが、味はこっちの方が断然上だ。いや~、いい店紹介して貰ったな。赤坂君に感謝だ。
で、堪能終えて、やっぱりコーヒーをもう一杯頼んで一息つく。
「美味かったな。また来ようぜ」
今度はヒロもコーヒーを頼んで、そう言った。満足したのだろう。
「春日さん好みの店で、見付けられてよかったよ」
国枝君もコーヒーを頼んで満足そうに。
「そうだねー。また来ようね、ダーリン」
遥香は紅茶を頼んでのおねだり。お金に余裕がある時なら、全然OKだ。
で、ここからが本題だ。
「どうやって教祖様の情報を仕入れる?」
「教祖様って、言い得て妙だね」
苦笑する国枝君。俺も自分で言っておきながら、実に的を得ていると思った。
「北商に知り合いがいる人がいればいいんだけど……」
「遥香はいないんだっけ?」
悔しそうな顔で頷いた。だけど、何もない所からも情報を引っ張れるのが遥香だろ?
「こうなると、一からやらなきゃだから、先ずは北商に知り合い作ってからになっちゃうから、時間が掛かっちゃうんだよね」
ああ、前もそんな事を言っていたような気がする。
「別に俺達が居なくても、黒木とか木村とか居るだろ?あいつ等から紹介して貰えばいいだろ」
「うん。だからこそくろっきーも来たがっていたんだよ。友達が何人か通っているからって」
ヒロの提案に乗っかって述べる遥香だった。こうなって来ると、北白浜に来たのはちょっとフライングだったな…
パンケーキ食いに来たと思えばいいか。実際旨かったし。
「だけど、折角来たんだから、何かしらの収穫は欲しいよね」
国枝君も渋い顔。中学時代の共通の友達から何か引っ張れないのか?
「つうか、赤坂と吉田の地元なんだから、あいつ等から北商に通っているダチを紹介して貰うか」
ヒロの提案だが、それもアリだが…
「赤坂君と吉田君も巻き込むのか?それはちょっとなぁ…」
「そう言われちゃ何も言えなくなるが……」
実際巻き込むのは憚れる。今は文化祭に集中して貰いたいし、赤坂君も大洋の中学生の事で超集中しているからだ。
その時、誰かが入店して来た様で、店員さんが入り口で出迎えた。
「やっぱ繁盛しているんだな…」
何気なしに其方を向くと、高校生の男女数名がワラワラと。制服がバラバラだから、地元の友達同士か?
「……あれ?隆君、あの人…」
その一人に視線を注ぐ遥香。そいつは東工の制服で、見た目が糞だった。あんな糞でもこんな店に入るのか…
「って、対馬じゃねーか。そういや吉田君の友達だって言ってたな?」
「そうだね。で、お連れさんに北商の女子もいるんだよね」
……なんかチャンスっぽい。このビックウェーブに乗り遅れまいと、俺は高校生集団に歩を進めた。
店員さんに席がどうのこうのと言われている最中、俺はそいつ等に前に出た。
「あ?なんだお前…って、緒方!?」
最初はいきなり割り込んだ形になった俺に喧嘩腰だったが、俺だと知って及び腰になった。
「久し振りじゃねーか対馬。あの時以来か?お前、折角連絡先交換したんだから、メールくらいくれよ?」
「え?あ、ああ、佐伯の事か?そういやそうだったな。つか、生駒から聞いてんだろ」
折角の再会だってのに、顔色がとても悪かった。お前は別に糞じゃねーから、そんな顔色にならなくてもだが。
「丁度良く俺達の席の隣りも空いてんだよ、来ないか?」
俺の提案にどうする?と友達に目を向けた対馬。俺だと知って嫌そうな顔しているのが数名。いや、気持ちは解るけど、傷付くんだが。
「えっと、お前の席ってあそこ?あの時の女も来ているのか?」
俺達が陣取っている席に指を差す。遥香がはにかみながら会釈をして返した。
「いいじゃねーか。ちょっと話そうぜ。遥香も礼を言いたいってさ」
お礼を言いたいのだから、無碍にする訳にもいかず。渋々ながら俺達の隣に席を決めた。
んで、カルガモのヒナの如く、俺に後ろを付いてくると「緒方とお茶とか、考えらんねえ…」とか、「あれ大沢だぜ。初めて見た…」とか、聞こえて来る。俺達の評価ってどんなんだ?
で、到着直ぐに遥香が立って、対馬にぺこりとお辞儀。
「対馬君、あの時は有り難う。おかげでダーリンが人を殺さなくて良かったよ」
殺すの件で更に顔色が悪くなった対馬の友達。あの時の話は既に聞いているんだろうが、再確認したって事だろう。
しかし、結構な人数だな…6人か。お茶でも御馳走したい所だが、金銭的に無理だな…
なので早々に御馳走は諦めて、適当に話題を振る。
「同じ中学の友達か?」
「うん?ああ、北第二の連れ。お前って吉田とも仲良かったんだっけ?」
吉田君の名前が出た所で若干安堵の空気に変わった。自分の友達と仲がいいんだから、安心感が桁違いになったんだろう。
「お前、吉田君に色々言ってんじゃねーよ。興味津々で色々聞かれちゃったじゃねーか。あ、紹介するよ。このツンツン頭は…」
「知ってるよ。大沢だろ」
自分が結構な有名人だと知ってご満悦に頷くヒロ。お前の有名も悪評だと思うのだが。
「で、この人が国枝君。白浜の親友だ」
辞儀で応える国枝君。対馬は感心した体になる。
「真面目そうだな…吉田と仲良いから、意外じゃねえが…つか、お前だからそれでいいのか…」
俺は糞はぶち砕くのだから、国枝君が友達なのには、ある意味納得したようだ。
で、向こうも紹介。つか全く興味がないから適当に流す。
そして最後の本命…北商の女子の番になった。同時に遥香の集中力が増したのが解った。
「…で、こいつが北商の鮎川」
茶髪のギャルっぽい女子が微かに辞儀をする。この女子は安堵感が全く無かった。その他の友達は結構緊張がほぐれたと言うのに。
「なんだか顔色が優れないけど、具合でも悪いの?」
やはり斬り込んで行く遥香。女子は遥香しかいないから、切り込み役にはうってつけだが、誰相手にも切り込んで行くから今更か。
「えっと…緒方君の彼女…だろ?…でしょ?」
『だろ』から『でしょ』に言い直した。遥香を若干怖がっているように見えるけど…
「堀川の事聞いたよ…あの子、今どうなっているか知ってる?」
堀川って、体育祭で盗撮した女子か。遥香が結構えげつない脅しをしたと思ったが…
「学校辞めちゃった?」
逆にあっけらかんと。つうか辞めるほど追い込んだのかよ!?
「まだ辞めていないけど…北商以外じゃ、あの子の居場所はなくなったみたいだよ。ねえ?なにしたの?」
「事実をバラまいただけだよ。特別な事は何もしていない。空気を読んで内緒にしてあげる事もしないけど」
ニコニコと返す。鮎川さんの顔色が更に悪くなった。つうかどんな追い込みやったんだよ!!
「それに…その…」
今度は俺を見て、いや、直ぐに目を逸らしたが、兎も角視線があっち行ったりこっち行ったりと泳ぎっぱなしになった。
「なんだ?言いたい事があるんなら言ってみろ」
そう言ったら更に顔色が悪くなった。
「おい隆、お前の目つきでそんな事言われちゃ、委縮して何も言えなくなるだろが」
「そんなに目つきが悪いのか……」
「いや、緒方君、それは今更じゃ…」
「国枝君まで!?」
「そうそう、ダーリンは目つきがちょっと…以上ねえ…強面の木村君よりもきついから…」
「お前までそう思っていたのか!?」
ヒロ達の突っ込み(?)で緊張していた鮎川さんがちょっと和らいだ。まあ…一応ナイスジョブと言っておこうか。傷付いたけど……
「まぁ、緒方はおっかねえのは事実だし、目付ききつすぎなのも事実だけど、確かにやり過ぎの狂犬だけど、巷の噂ほど狂って……いたな…」
「対馬までそう言うか!?いや、お前は佐伯の時ライブで見ていたからなぁ……」
鮎川さんは見た目が糞の対馬にそう言われても何も報復しない俺に更に安堵して、漸く口を開いた。
「えっと…堀川のデータ壊したって」
「ああ、だって盗撮してたんだから。カメラそのものをぶっ壊したかったけど、一応我慢したんだぞ?」
「盗撮…うん、確かに。川岸の信者はみんな緒方君の事興味津々だからね。今後も誰か、そんな真似するかも」
……ようやく出て来たか川岸さんの名前が…
俺もそうだが、ヒロも国枝君も遥香にも、集中の気配を窺えた…
「……なんだ?川岸の信者って?」
ヒロの質問。俺や遥香じゃなくて取り敢えず安心の体だった。俺は噂通りだし、遥香は堀川さんを追い込んだ実績があるからだろう。
「あの子って霊感があるんだよ…あるのよ。その関係かもしれないけど占いやっててね。結構当たるって評判になって、その関係の取り巻きみたいな?」
「……川岸さんの占いってそんなに当たるのかい?」
国枝君の質問。やはり安心して続けた。
「100パーセント当たるって謳っているけど、流石にそれは無くて。せいぜい50パーセントかな?川岸を胡散臭いって思っている奴等から言わせると、曖昧な言葉とか、どっちでも取れるような言葉を並べているらしいから、それを差っ引けば5パーセントくらい?」
…なんか詐欺師が使うようなトリックでそんなのがあったような…
「ショットガンニングを使っているのかも。それは占いって言うよりは詐欺だね」
此処で発した遥香に全員が注目した。
「なんだ遥香?その…何とかガンって?」
「ショットガンニング。自称超能力者とか霊能者が使う話術の事だよ。この場合だと、占って貰う相手に沢山の情報を話す。すると、いくつかは当たるから、相手の反応から話題を修正して、全て当たっているように見せるんだよ」
ああ、それだ。何かのテレビで見た記憶がある。
つう事は、川岸さんは詐欺…と言うか友達を騙しているのか?一応霊感はちゃんとある筈だけど…
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