文化祭~001

「晴れたな。絶好の文化祭日和だ」

 一緒にランニングしているヒロに、何気なくそう呟いた。

「そうだな。波崎が来る時は抜けさせてもらうからな。文句は言わせねえぞ」

「文句は言わないよ。お前がちゃんとノルマをクリアすれば」

「チラシ配りだっけ?楽勝だろ」

 お前、翌日もチラシ配っていたんだが。ノルマクリアできなかったから。そもそも女子とペアなんだから、お前だけ張り切っても仕方ないんだが。

 ともあれ、今日は前夜祭。つってもお客も来るから、ちゃんと仕事をしないとな!!

 いつもよりも早い登校。これは打ちあわせの為だ。

 そしてクラスメイト全員の前で、やや緊張の面持ちで話す横井さん。

「準備は万端。お持て成しのマニュアルも配布した。占い師各方々も十全に役目を全うすると言ってくれた。不安は無い。無いけれど、私達の目標は、一年初の総合優勝…」

 ゴクリ、と唾を呑み込むクラスメイト。かく言う俺もそうだ。

「油断は微塵たりともしちゃいけない。だけどこれは文化祭。お客様を楽しませる事は勿論、私達が楽しむ事も重要だわ。だから、みんなで楽しみましょう!!」

「「「「「おおおおおおおおお!!!」」」」」

 絶対に他のクラスにも聞こえたであろう雄叫び。それ程までにデカい声だった。

「じゃあ開演前なのだけれど、早速チラシ配りをスタートします。男子、女子のペアを組んでいろんな場所で配布してください。ですが、文化祭に来てくれたお客にも配らなくちゃいけないから、隊を分けます」

 地元に留まるペアと、自由に動いて多方面に配布するペアだ。俺は多方面ペア。相方は当然遥香。因みに、ヒロは地元班。相方は黒木さんだった。

「おもてなし班は薬膳クッキーとお茶の準備。香炉も用意」

 一気に慌しくなったEクラス。多分学校で一番早く動いているんじゃねーか?だが、そうなると…

「開会式はどうすんだ?流石に全員出なきゃいけないだろ?」

「全員、って事は無いわね。代表で中畑君には出て貰うけど」

 その弁じゃ横井さんは出ないって事?実行委員なのに?

「私は委員に顔を出さなきゃいけないし、クラス全体を見なきゃいけないから、出ている暇がないから、お願いね中畑君」

 そうか、忙しすぎるから出られないのか。それなら納得だ。

 ともあれ、動こう。遥香に目配せすると、軽く頷いて了承した。

 そしてチラシを受け取る。つか、前回よりも量がパネエんだけど…

 なんだこのダンボール!?どんだけ配らせるつもりだ!?

 つうか、この量は俺だけじゃねーか!!みんなは通常の量だ!!つってもそれでもかなりの量だけど!!

「ダーリン、早く麻美さんの家に行こう。南女で配って貰う約束したからさ」

「え!?麻美にも協力させるって事!?」

 だけど今日は土曜日。南女は半ドンだから、午前中だけなら南女でも配れるって事か…

 しかし、俺の問いに首を振って否定する。そりゃそうだよな。麻美に協力をさせるなんて…

「北商と海浜にも助けてもらうよ。北商はこの前仲良くなった鮎川さんグループ。海浜は入谷さんにお願いしたから」

「どんだけ貪欲なんだ!?」

「横井なんか、河内君にこれと同じ量のチラシ持たせたよ。全部配り終えるまで文化祭に来ちゃいけないって言って」

「横井さんもどんだけ鬼なんだ!?」

「くろっきーも木村君にチラシ預けていたよ。大洋の友達に頼んでくれって」

「黒木さんもとんでもない事を頼むんだな!?」

 たかが文化祭にそこまですんのか!?いや、俺達が横井さんを炊き付けたようなもんだけどさ!!主に遥香がメインで!!

 ともあれ、ダンボールを持って一旦家に帰る。そしてそこから少しチラシを小分けして麻美の家に届けるって事なんだが…

「なんでリュックに詰めている?」

 麻美ん家に届けるだけなら、リュックに詰める必要はないだろうに?ダッシュで向かって置いて来ればいいだけなんだから。

「だって南女に送らなきゃ。麻美さん、チラシ待ちだから、電車の時間に遅れちゃうかもしれないし」

「俺がバイクで送るって事!?」

 肯定の意味で大きく頷かれた。俺そっちのけで何の約束してんだお前等!?

「送ったらすぐに戻ってきて。鮎川さんと休み時間に待ち合わせしているんだから、それに間に合わせないと」

「北商にまで行けっての!?川岸さんに見つかったらどーすんだ!?」

 絶対に厄介な事になる!!なるべく以上に関わらないようにしたいのに!!

「だから、休み時間に待ち合わせって言ったでしょ?北商には行かないよ。その近くに行くんだよ」

 それでも万全じゃないだろ!!万が一見つかったらウザい目に遭うだろ!!

「話は後で、麻美さんが待っているから、早く!!」

「お、おう。遅刻はさせられないしな…」

 釈然としないが、そう言う約束しちゃったもんは仕方がない。なので俺は若干慌ててガレージに向かった。

「遅い!!」

 麻美の家の前には、麻美がトーストを齧りながら待っていた。仁王立ちで。因みに塗っていたのはマーマレードのようだ。

「遅いって言われても、俺もさっき聞いたばっかで、全く心の準備が無かったんだよ」

「そりゃ、事前に言ったら、隆が断るかもって事で、そうなったんじゃんか」

 まあ、確かに断るな。そして超渋るだろう。

「兎に角遅刻したくないからさ、チラシは?」

「あ、うん。このリュック」

 掲げたリュックをひったくるように奪って背負う。

「お前、自分のカバンは?」

「今日の教科の教科書もノートも、学校に置いて来たから問題無し」

 この日の為に、前日から段取っていたのかよ…

「んじゃ行くよ。安全運転で宜しく!!」

「はいはい…」

 意気揚々とバイクに跨った麻美に若干呆れながら、俺もバイクに跨った。

 っと、その前に。

「お前、ヘルメットは?」

「あ」

 跨いだバイクを降りて家に戻る麻美。ヘルメットを忘れていたようだった。

 麻美を南女まで送って家に戻ると、遥香が既に玄関先でスタンバっていた。

「おかえりダーリン。次は北商ね」

 帰ったばかりなのに、慈悲の無い言葉だった。少し休ませてくれてもいいだろうに。

「マジでそっち方面に行くの?全く乗り気じゃないんだけど…」

 それ程川岸さんとその信者に遭いたくないって事だ。会いたく、じゃなくて遭いたくって所がミソだ。

「だから、北商じゃ無くて近くで待ち合わせだってば、大丈夫だから、早く行こう」

 そう言ってやはりバイクに跨る。リュックを背負っている事から、チラシはそれに入っていると推測。

「マジで嫌だって言ったからな?お前を信用して行くんだからな?違えるなよな?」

 万が一遭遇したら怒るぞと、脅しを込めて忠告した。

「大丈夫だってば。取り敢えず北商にね」

 本気で渋々とバイクを走らせる。そして北商に到着する時に、遥香が俺の腹を叩いて停車を促した。

 停まって用事を促す。

「なんだ?」

「そこの道を右に行って」

 確かに、此の儘じゃ北商に行っちゃうから、どこかで回避するとは思っていた。なので言われるとおりに右に曲がる。

 そこから更に右だ左だと指示を受けて、着いた先は、北商の裏手にあるパン屋さん。

「ここで待ち合わせ。もうちょっとで休み時間になるから、少し待っていよう」

 待ち人がまだ来ていないのならそうするしかない。なので、折角だからとパンを買って待つ事にした。

「ダーリン朝ご飯食べてないの?」

 店内に付いてきた遥香が訊ねる。

「うん。朝早くの登校だったから、要らないって言ったんだよ」

「そっか。私もそうだよ。以心伝心のナイスカップルだねえ」

 嬉しそうに腕を絡めながらはにかむ。超可愛い。

 それを振り解きもせずに、パンを物色。俺はツナマヨパンをチョイス。あとコーヒーと。

「私はこれにしようっと」

 手に取ったのはホットドック。そう銘は打っていたが、中身は魚肉ソーセージを焼いたのを丸々一本、それにキャベツのシーザーサラダを織り交ぜた逸品。

 普通にうまそうだな…俺もそうしようかな…

「うわ、何気なく手に取ったけど、このパン250円もする」

 マジで?たけーな魚肉ソーセージパン!!俺のツナマヨパン二つ買えるぞ!!

 だが、遥香は返品する事無くレジに向かった。食べてみたかったんだな。

 だが、俺はまだレジに向かっていない。パン一個じゃ足りないと踏んだから、もう一つ買おうとの魂胆だったからだ。

 そして物色する事暫し、女子が近寄ってきて、助言をしてきた。

「このコロッケパン、ボリュームがあっておいしいですよ」

 確かに美味そうだった。コロッケが一個ごろんと入った、見た目もボリュームがあるパン。

「ハムも挟んでありますし、お得ですよ」

 確かにハムも挟んでいて、キャベツも沢山挟んでいてお得だ。これで180円とは。

 なのでこれをチョイス。レジに向かう。

「助かったよ。種類があって迷っていたからさ。ありがとう」

「いえいえ、私も買うついででしたし」

 そう言って同じコロッケパンを買う女子。つうか……

「それみんな食べるの!?」

 余りの驚きに、つい訊ねてしまった。

 女子は例のコロッケパンの他に、焼きそばパンとレーズンパン。それに丸ごとバナナパンなる、ボリュームパンを買ったのだから。

「私って痩せの大食いなんですよ~」

 そう言って笑う女子。確かに痩せている。背は高い方だと思うが、遥香よりも確実に細い。

 つか、今ちゃんと顔を見たが、なかなか可愛かった。ショートボブが笑う度に揺れているのが、更に可愛さを強調させていた。

 ともあれ、店を出る。その女子も買い物が終わるタイミングが重なって、一緒に店を出た。

「悩んでいたねえダーリン」

 待っていた遥香が呆れ顔。まあ、確かに呆れられても仕方がない。なんで俺って優柔不断なんだろう…

「ね?ウチのダーリン、やっぱり迷っていたでしょ?」

 ん?遥香があの女子に話し掛けているが?

「聞いたとおりだったよ。あの有名な緒方君も可愛い側面があるんだって、改めて思ったよ」

 女子も普通に話に乗っているし?

「遥香、知り合いか?」

 多分そうだろう。じゃなきゃ、こんなに親しげに話す筈がない。

「うん。この人が鮎川さんの友達の倉敷さん。一回ダーリンの家に来たから、顔は見た事ある筈だよ」

 ギョッとして改めて見る。

 確かに…あの時鮎川さんと一緒にスパーを観に来た人…の様な気がする…

「あはははは。覚えがないって顔しているよ。大丈夫、傷付いていないから、安心して」

 笑いながらの気遣いに、俺はますます申し訳ない気持ちになった。

 そんな俺を余所に、倉敷さんは遥香からリュックを受け取った。

「結構入ってるね~。んで、これを川岸とそのシンパ意外にばら撒けばいいのよね?」

「うん。あと、ウチのダーリンの精神衛生的に良くない人にも撒かないで欲しいかな?見たら殴っちゃうかもしれないからさ」

「へ~。やっぱあの噂って本当なんだ?見たら殺すの狂犬」

「流石にそこまでじゃないけど、念には念ってヤツ?」

 なんか和気藹々と話しているが…

 つうか倉敷さん、パン食いながら話しているじゃねーか。つか遥香もだ!!授業どうすんだ!?

「ん?緒方君食べないの?」

 なんか気を遣ってか、俺にパンを食うように促すが…

「えっと、倉敷さん、授業大丈夫なのか?」

「え?あ、ヤバい。次は現国だった。遅れると課題追加される!!じゃね槙原さん、緒方君、明日よろしく!!」

 敬礼して駆けて行く倉敷さん。その後ろ姿を、呆然を眺めて見送った。

「……なんか話が合うようだな…」

「そうだねー。堅物って訳じゃないし、不思議現象否定派って訳じゃないけど、違う物は違うって言い切るタイプかな?いい言い方をすれば、ちゃんと自分を持っていて流されない人」

「悪い言い方は?」

「空気読めない奴」

 ……何か親近感が湧くなぁ…悪い言い方の方は。

「だから、川岸さんの事を許せないんだろうね。全く責任を持たずに周りを引っ掻き回すタイプは」

 それは繰り返し中もちょっと思ったなぁ…川岸さんは確かに相談に乗ってくれたが、親身に、と言われたら違う感じがしたし。

「逆に川岸さんの方も倉敷さんを嫌っているみたいだよ。私はみんなの為に占っているだけなのにって」

「自分が気持ち良くなる為だろうに…」

「それも言ってた。ちやほやされてカリスマ扱いされたいだけだって」

 今思えばそう思うな。あの最後の繰り返し中、少なくとも俺と親しい人達はカリスマとは思ってはいなかったけど、北商の中では違ったんだろう。つーか、あの時誰もちやほやしなかったし。

「そんな倉敷さんは、明日ウチのクラスの展示に来てくれるのか?」

「うん。だから、明日よろしくって言っていたでしょ。鮎川さんも勿論来るよ」

 そうか。だったら精一杯持て成さなきゃな。

 兎に角、折角買ったパンを食って家に戻った。そしたら遥香は再びリュックにチラシを詰めた。

「今度は何処に行くんだ?」

 流石に西高は無いだろ。俺がぶち砕いてしまうから。

「海浜。入谷さんにもお願いしたから」

 確かに朝、そう言っていたけど、進学校に行くのかよ…俺、場違いなような気がするんだけど…

「だ、だが、入谷さんは普通に来るんじゃねーか?里中さんがAクラスに居るんだし…」

「入谷さんも色々伝手はあるでしょ。海浜内で配って貰うだけでも、かなり違うだろうし」

 本気で災難だな、入谷さん…断っても良かったのに…

「はい、準備完了。早く出発しよう。待ち合わせ時間に間に合わないと困るし」

「はあ…うん…まあ…」

 全く煮え切らない言い方をしたが、遥香は既に外に出てしまった。

 しょうがない、みんなを巻き込みまくりの文化祭だが、ここまでしないと総合優勝は厳しいだろうし。

 待ち合わせ場所は海浜の校門前。だが、あからさま過ぎるので、ちょっと隠れられそうな場所に移動。

「入谷さんはまだ授業中のようだな」

「そうだね。じゃあ休憩ね」

 そう言ってさっき食っていた魚肉ソーセージパンを俺の口に突っ込む。

 これ、半分しか食ってねーじゃねーかよ。大きいから食いきれなかったのか?

 まあいい。美味いから許そうか。

「代わりにジュース御馳走してね~」

「食い掛けの魚肉ソーセージパンの代償がジュースか…」

 いいけどさ。俺もコーヒー飲みたいと思っていたから。

 なので目に入った自販機からブラックをチョイス。

「お前は何がいい?」

「えーっと、午後ティーのストレート」

 ご要望の飲み物を買って暫しゆっくり。その時、海浜から授業が終わるチャイムが聞こえた。

「休み時間に突入したようだが、入谷さんは俺達が来ている事は知ってんのか?」

「さっきメール入れたからね」

 じゃあ大丈夫か。ってな訳でバイクを置いて校門前に移動。丁度入谷さんも校門に出てきた。

「入谷さん、無理言ってすみません」

 深々と辞儀をする遥香に目を剥いた俺。お前、無理言っている自覚あったのか!?

「いや、いいんだよ。美緒にも言われていたしね」

 相変わらず尻に敷かれているんだな…それは兎も角、俺も挨拶だ。

「久し振りす入谷さん」

「そうだね。そうは言っても、君の噂はよく耳にするから、久し振りって感じはしないけど」

 ははは、と朗らかに笑われた。いや、本当はそんなの駄目なんだけど。

「じゃあ次の授業に間に合わなくなる前に、チラシを貰おうかな?」

「はい、お願いしいます」

 超丁寧に遥香が入谷さんにチラシを渡した。すんごい畏まった感じで。

「確かに、じゃあ知り合いに適当に渡しておくから」

「はい。頼んます」

 俺も深く辞儀をして入谷さんに託した。入谷さんは笑いながら頷いて、校舎に帰って行った。

「お前、入谷さんには凄い丁寧だったな?」

「だってさとちゃんの彼氏だし、年上だしね」

 俺は年上だろうともぶち砕いて来たから、その年上だからって理屈はよく解らない。

 年上でも糞はいる。尊敬できない糞が。元論入谷さんは違うから、俺も敬意を以て接するが、遥香はそんなキャラじゃない。

「お前って、言っちゃなんだが、自分の利益外の人間には丁寧じゃないだろ?」

「酷い言い方だけど、その通りだから何も言えない…」

 ズーンと項垂れた遥香だが、自覚があるのならマシだ。

「だけど、ちゃんと敬意を以て接する相手くらいは知っているよ。入谷さんは的場さんに頼まれたとはいえ、隆君の助けになってくれる人だから、敬意は当然でしょ」

「それ、俺の利益で、お前のじゃねーだろ?」

「ダーリンの利益は私の利益ですよ。一心同体ってそういう事でしょ?」

 なんか違うような気もするが、突っ込むのも無粋な様な気がするからやめよう。

「で、次は?駅前でチラシでも配るのか?」

「いや、次は東工。対馬君達にもお願いしたからね」

 東工生か…まあ、あそこは真面目な生徒も多いからいいけど。

「じゃあ生駒に頼んでも良かっただろ?」

「生駒君は友達が少ないし、怖がられているからね」

 そうだったな…この辺も俺と被る所なんだよな…彼女の我儘に成すが儘な所も…

 そんで、今度は東工。男子生徒が殆どを占めているとは言え、糞女があんまり居ない、意外と真面目な学校だ。

「遥香。対馬呼び出せよ」

「さっきメールしたから、今出て来るよ」

 用意周到な彼女さんは、到着と同時にメールを送る事も楽勝で行う。俺が促すまでも無かったって事だ。

 暫くして、出てきたのは生駒。

「あれ?なんで?」

「いや、対馬に頼まれて。今から補習だから行けないからって」

 あいつ、補習受けなきゃいけない程の頭なのか…俺も人の事は言えないけどさ。

「じゃあこれ頼むね」

 遥香はドン、と生駒にリュックの儘チラシを渡す。

「ああ。明日の文化祭のチラシか。俺も行くから、安くしてくれよな?」

 この様に冗談も言える間柄になったのだ。俺達は。尤も、冗談じゃなく本心に近いのだろうが。

「勿論だ。占う時間を他の人よりもちょっと長めにしてやるし」

 俺も冗談で返す。これは本気で冗談だ。逆に時間を短縮して回転率上げたいくらいだし。

「それはそうと、大洋の中学生達は本当に来るのか?」

「来るよ。この前確認のメール出したら5人くらいで行くって言ってた」

 彼女達は俺が呼んだお客様だから、見料は無料にしてある。つっても俺のオゴリ扱いになるので、俺がお金を支払うのだが。

 よって文化祭前に500円の出費を出しちゃった事になった。横井さんも国枝君もお金はいいと言ってくれたけど、そこはケジメだ。なぁなぁはよくない。

「ふうん…で、相談があるんだけどさ…」

 超言い難そうに、目を伏せながら。

「なんだ?ダメならダメって言うから、なんでも言ってくれ」

「う、うん…対馬が自分にも紹介してくれって…」

 あー、なんかの話で生駒が企画の事を言ったのか。まあ、生駒は友達があんまいない、ほぼ皆無な筈だから、これを期にっちゃおかしいかもだが、友達作りに協力してやるか。

「いいよ。木村も水戸に紹介するような事言っていたから、対馬一人くらいなら割り込めるだろ。だけど、チャンスを物にできるかは、対馬次第だからな?」

「そりゃそうだろ。だけど、解った。言っておく」

 安堵したように笑いながらの返し。こいつも頼まれて断り難かったんだろうし、生駒に頼んだ対馬も頼み難かった事だろうし、万々歳だ。

 南女、北商、海浜、東工と、俺のコネ(?)をフルに駆使した結果、ダンボールのチラシは半分となった。

 半分!?もう午後なのに、まだ半分!?

 あまりの大量のチラシにガックリと膝を付きそうになる。

「前回、くろっきーと配った時はこの量だっけ?」

 呑気に遥香が訊ねてきやがった。なのでちょっと強めに発した。

「この量じゃねーよ!!もっと少なかったよ!!」

 あの時も大量だったが、これの比じゃない。半分とまでは言わないが、もっともっと少なかった。

「その時は何処で配ったの?」

「何処って、学校と駅と…」

「学校はもう無理だねー。他の人達が精力的に活動している筈だから。駅も多分、多方面班が張っているから、被っちゃう」

 肩を竦めて困ったポーズ。表情は全く困っちゃいなかったけど。寧ろ笑っていたけれど。

「じゃあどうすんだ?西高と荒磯は嫌だからな?」

「もう午後過ぎちゃったから、生徒はいないでしょ。行っても意味ないから行かないよ」

「じゃあどこ行くってんだ?」

 どこかに行って配る事は確定している。何故なら、残ったチラシをリュックにギュウギュウと詰めているのだから。

 詰め終わった後、外に出てバイクに向かう遥香。

「せめてどこに行くか教えてくれ。不安で不安で仕方がない」

 お前の頭にはプランがあるんだろうが、俺にはさっぱりだ。以心伝心も限界がある。

「山郷農業に行こう。あそこはノーマークで手付かずだろうし」

 山郷っていうと、、白浜と大洋の境か…確かに向こうは大洋だし、白浜とは微妙に距離もあるから、ノーマークだな。

「ん?つっても、俺のバイクに跨ろうとした糞とかち合ったらどうすんだ?ぶち砕くのか?」

「なんで殴る方向に行っちゃうのよ…あそこは忙しい学校だから、今から行っても結構生徒が残っているし、駄目だったら山郷駅で配ればいいし」

 新土地開拓みたいな?と。いや、確かに俺もお前も山郷に知り合いはいないから、山郷で遊べるスポットを探すって事にも繋がると思うけどさ。

「つっても、ここからだと1時間近くかかっちゃうけど…」

「だから、あそこは忙しい学校なんだって」

 これは何をどう言おうが、山郷に向かう事は決定のようだ。なんだってんだよ、木村に全部押し付けて大洋で配ってくれって言えば良かった。

「それに、春日ちゃんの噂を知ったのが山郷だからね。何処まで広まっているのか知るチャンスでもある」

 …成程、本命はそっちか…

 ならば行くしかない。友達の為にも、自分の為にも。

 つっても山郷農業の正確な位置は解らずに、バイクを右へ左へと走らせて、着いた時間はもう2時だった。

「こんな時間なら、生徒みんな帰ったんじゃ…」

 山郷の近くで発見した自販機からコーヒーを買いながら呟いた。

「大丈夫大丈夫。ダメなら駅で配ればいいんだし」

 お茶をコクコク飲みながらの遥香の返し。最初もそう言っていたけどさ…

 ペットボトルのキャップを閉めて、意気揚々と山郷の門を潜ろうとする遥香だが…

「ちょっと待て、許可は得ているのか?」

 勝手に入ったのなら、不審者で通報されるかもだ。それは流石に勘弁だ。

「うん。電話で許可は貰ったよ。条件は付いたけどね」

 いつ電話したんだよ!?やっぱこいつ、抜かり無いな…感心しすぎて呆けるしかないわ。

「条件は、残ったチラシは持ち帰る事。それは最低限のマナーだから、当然了承したから」

 それは当然の事なので頷く。逆に持ち帰らない神経を疑うな。

「じゃ、早速職員室に行こう。挨拶してから配らなくちゃ」

 職員室に行くのか…そりゃそうなんだろうけど、心の準備ってのが…

「つーかお前、マジで事前に言ってくんない?いきなり過ぎて付いて行くのキツイんだけど…」

「だって、ダーリンなんやかんや言って、行かないとかなりそうじゃない?」

 ……いや、そんな事は無いと思うぞ…多分………

「俺って前回も流されやすいとか言われていたんだからさ、今回はそんな事は無いようにしたいんだよね。だからちゃんと事前にだな…」

「じゃあ必ず賛成して一緒に行ってくれるの?」

「……それは無いかなぁ……」

 嫌なモンは嫌だろ。なんで絶対って付くんだよ?

「私だって無茶な事はさせていないつもりだけど、ダーリンってコミュ症じゃない?他の人よりもハードルが高そうじゃない?」

 ……いや、そんな事は無いと思うぞ…多分………

「今回は横井、と言うか、クラスの為の総合一位狙いだからね。ダーリンを説得する手間も惜しいって言うかね」

 …なんか酷い言われようだが、まあいいや。もう来ちゃったんだから。

「納得してくれた…って訳じゃ無さそうだけど、解っては貰えたようだね。じゃあ行くよ」

 やはり意気揚々と校舎に入って行く遥香を追う。その時思った。

 俺じゃ無くて別の奴を誘った方がいいんじゃねーの?と。

 職員室で挨拶をして、各施設でのチラシ撒きの許可を貰う。それはいい、事前に電話で許可を貰ったのだから。

「つっても、どこがどうなのか…」

 どこに生徒が集まっているのか解らない。農業高校は施設が多いからだ。ビニールハウスもあれば田んぼもあるし、あれは牛舎?

「だから、全部回ろう」

 そうなるよな…仕方がない、そうしよう…

「その代わり直帰でいいって。チラシが全部無くなったらの話だけど」

「無くならなかったら?」

「山郷駅やその周辺で配る事になるでしょ。チラシ配りが仕事なんだから」

 ……仕事って大変だなぁ…俺も社会人になったら仕事を頑張ろう。

 ともあれ、目に付いた施設を片っ端から、当然教室も片っ端からチラシを配る。

 つうか結構女子が多いな。特にこの畑のビニールハウス。さっきの鶏小屋もそうも思ったけど、重労働だろうに、みんなイキイキしているし。結構羨ましい青春かも。

 遥香が説明をして、俺がチラシを持つって仕事なんだが、前回黒木さんとコンビを組んだ経験があるから、比較的余裕が持てたので、結構観察できた。

 だから解った。

 田んぼで何かの作業をしていた連中。その中に、俺のバイクに跨ろうとした糞が居た事が。

 当然その田んぼにもチラシを配りに向かう訳で。

 他校生が来たって事で、珍しがられてみんな結構気さくに話を聞いてくれて、来てくれるって生徒も多数いた訳で。

 当然その糞も興味を引いて出寄って来た訳で。

「…おい、お前等は向こうに行けよ。お前等には来て貰いたくねーからな」

 結構凄んでそう言ったら、やたら眼をくれて、肩を怒らせて更に接近してきた。

「あ?折角話聞いてやるっつってんだぞこっちはよ?」

「つうか、テメェの方からこの学校に来たんだろうが?殺すぞ?」

 例の糞共が調子に乗って上等をこいたら、他の生徒が遠巻きになった。

「隆君、気持ちは解るけどさ、他校で揉め事はちょっとね…」

「あ?気持ちは解るってどういうこった?」

 一応気を遣った遥香に対して、胸倉を掴む勢いで詰め寄った糞。

 ぶち砕いてやろうと俺も寄ろうとしたが、それより先に遥香が話した。

「アンタ達、私達を見た事あるでしょ?それでもその態度?あの時は急いでいたのもあったんだけど、一応見逃してあげたんだけど」

 そう言われて改めて観察するような目を向けた糞共。俺的には二度目は無いんだから、死刑確定(自分から喧嘩売ったようなもんだが、そこはまあまあ)なんだから、どうでもいいんだが。

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