体育祭~006

 んじゃ、と立ち上がる俺。遥香がキョトンとして訊ねてくる。

「どこに行くの隆君?」

「作戦会議。二年、三年の1200メートルが終わったら、400メートルリレーだろ?」

 顔を見合わせるヒロと国枝君。三木谷君を引っ張って、俺の後をついて来た。

 適当な場所に陣取って柔軟開始。ヒロは勿論、三木谷君も慣れたもんだった。国枝君は見よう見まねで行っていたが。

「しかし体育祭でこんなに白熱するとは思わなかったな」

 柔軟をしながらの三木谷君の発言。俺達は笑いながら頷いて同意した。

 程よくほぐれた所で、俺は適当なサイズの棒を持った。

「緒方君、その棒は?」

「バトンの代わりだよ。バトン渡しの練習しておこう」

「そこまですんのか?バトン渡しの練習は結構やっただろ?お前の提案で」

 ヒロが呆れながら苦言を呈した。

 前回の体育祭で、バトン渡しがもたついて、意外と苦戦したからの提案だった。

 俺、ヒロ、三木谷君、田代君は、その甲斐あって、そこそこになっただろうが、国枝君は違う。

「国枝君、リレーの経験はあるだろ?」

「う、うん。小学の頃だけど…」

 やや遠慮がちに経験はあると言う。全く無いよりはるかにマシだから、それでもいい。

「その時の事を思い出しつつ、ちょっとやってみよう。土壇場で準備してもいい結果が出ないかもしれない。プレッシャーとかでね。だから、ただ思い出す為にやるんだ」

「そうか。そうだね。みんな、申し訳ないけど、付き合って貰えないか?」

 国枝君に頼まれちゃ、いやとは言えない。そうじゃなくとも、総合優勝が掛かっているんだ。

 ヒロも三木谷君も快く応じたのがその証拠。ここまで来たんだから、やっぱり勝ちたい気持ちは一緒だ。

 程なくして、遥香が顔を出す。

「みんな、そろそろだよ」

「そうか。もうそんな時間か。行くか隆、三木谷、国枝」

 なんか偉そうに仕切るヒロにイラッとするが、不問にしてやった。俺は揉め事を嫌うからな。

 そして他のクラスに目を向ける。400メートルリレー選手が固まって何やら話しているのが目についた。

「作戦会議でもしてんのか?」

「僕達も似たような事やったからね」

 そりゃ、みんな勝ちたい気持ちは一緒だからな。

「隆、国枝、こっちこい」

 またまた偉そうに俺達を呼んだヒロにイラッとしたが、不問にしてやった。俺は心が広いからな。

 ともあれ、向かう。すると、肩を組まれた。

「なになに?なんだよいきなり?気持ちワリィんだけど…」

「円陣を組むんだよ!!気持ちワリィとはなんだ!!」

 そうか。それなら仕方がない。気持ちワリィのは我慢しよう。

 なので渋々肩を組んだ。隣の国枝君には気持ちよく肩を組ませて貰ったけど。

「よし、いいか?作戦の確認だ。俺がぶっちぎって三木谷にバトンを渡す。三木谷はリードを維持しながら、国枝に回すんだ」

「作戦とはとても言えねえけど、解った。つうか元々緒方の提案だろ?」

 突っ込まれて言葉を失うヒロ。なんか唖然として三木谷君を見ている。

「まあまあ。食らい付いてくれれば最下位でもいいって緒方君も言っていたけど、僕もおめおめ転落する事は考えていないから」

 仄かに気合が入っているな国枝君。俺の作戦は超無茶苦茶で、殆ど願望だが、それでも乗ってくれた三人には感謝しかない。

「おっし…そんじゃ、第一走者のヒロ、初めのお前に掛かっているんだからな。コケたりすんなよ」

「アンカーのお前が美味しい所持って行くのが気に入らねえが、最初が肝心なのは承知だ。任せろ!!」

 最後に気合の掛け声で締めて円陣を解く。

 そして、轟々を燃えながら、ヒロがレーンに入った。

「大沢君、気合入ってるね。どんなミーティングしたの?」

 同じように気合が入った表情の波崎さんが訪ねてきた。既にグーを握っている。まだ構えも取っていないんだから、気が早すぎだろ。

「別に?トップで繋げとは言ったけど」

「トップでか…最初が肝心だからね。大沢君の役割は重要だ」

 満足気に頷く波崎さん。その通りだと思うから、俺も頷いて答えた。

「大沢君はしゃぎすぎじゃない!?絶対に途中でばてるよ!!」

 波崎さんが青い顔で叫んだ。傍から見ても、無茶なペースだ。

 勢い其の儘、初速をその儘に、一気に駆けているんだから。

「これが作戦だからいいんだよ」

 どうでも良いけど、俺もコースに向かわなきゃ。

 色々聞こうとしている波崎さんを置いてレーンに入る。本当は既に入っていなきゃいけなかったんだが、なんか出遅れちゃった。

 その間もヒロを見る俺。流石に他クラスも足が速い奴を用意しているので、そこそこ付いて行っている。

 もっとも、ヒロのペースじゃばバテるとタカを括っての事だろうが、ヒロは毎朝走ってんだよ。

「行けヒロ!!ぶっちぎってバトン渡せ!!」

 俺の声援が届いたのか、それとも波崎さんの絶叫が届いたのか、ヒロはリードをキープしながら、第二勝者の三木谷君にバトンを渡した!!

 練習の甲斐あってスムーズにバトンも渡り、今度は三木谷君の爆走!!ヒロと同様、ペース配分は考えずに!!

 三木谷君はスタミナもあるからそれでいい。多少差が詰められたとしても誤差内だ。

「行け行け三木谷君!!」

 クラスの応援で俺の声援が掻き消されるが、確かに他クラスに差を詰められたが、三木谷君は見事トップで国枝君に繋いだ!!

 クラスの声援がデカ過ぎる。

 それもその筈、国枝君もトップを維持して走っているのだから。

 だが、二位との差はほんの僅か。これはまずいと思うだろう?

 国枝君は言った。瞬発力には自信がないと。だけど400メートルではトップを取った。

「国枝君は後半で伸びるんだよ!!」

 俺の言った通り、二位、三位と団子状態なれど、国枝君のまさかのトップにクラスの声援が激しくなった。

「緒方君!!後は任せた!!」

「おう!!任された!!」

 僅差なれど、トップでバトンを貰う。最下位でもいいと言ったが、トップ通過は有り難い。

 みんなが此処まで段取ってくれたんだ。リードを広げて、圧倒的に勝つ!!

 腕を振り、腿を上げる。真っ直ぐ向いて。

 目の前には誰もいない。俺がトップでゴールを切る!!

「あああああああああああああ!!!!」

 パアアン!!!

 テープを切ったと同時に鳴ったピストル。勿論俺が一着だった!!

 クラスに帰る俺。流石にヒロ、三木谷君、国枝君は疲れて駆け寄ってくれなかったが、クラスメイトはほぼ全員詰め寄ってきた。

「流石緒方!!つーか、すげえ!!トップから誰も転落しなかった!!!」

「つか、リレーの選手、全員二冠じゃねえか!!」

「兎に角!!アンカーを胴上げだー!!」

 全員テンション上がりまくりで、間違いなく胴上げされる事だろうと覚悟を決めたその時、遥香が俺を抱きしめて全員を睨んだ。

「ダーリン疲れているんだからやめて」

 それは物凄い迫力で…

 クラスメイトは勿論、ヒロ達も青ざめる程だった。波崎さんですら引いていた。

 そして俺の方を見ると、さっきの迫力が一気に無くなり、でれっとした笑顔に。お前、俺にデレ過ぎじゃね?いいんだけどさ。嬉しいから。

「リレー5点で、81点だよ。現在総合一位」

 遥香のこの言葉で、クラス中がざわめいた。

 ひょっとして、ひょっとするかも?と期待して。

「僅差で3-D。三位が3-A、2-Aと続くんだけど、ここら辺は逆転可能になっちゃうからね」

 4位まで団子状態か…俺達の他にも、体育祭で気合入れる奴がいるんだなぁ…

「で、次の応援演舞は全クラス対抗戦。15クラスもあるのに、点数が入るのは5クラスしかない」

 ……言わんとしている事は解った。それをみんなに言って、熱が冷めるのを嫌っているんだな。

 要するに、俺に助けを求めているんだ。ならば、助けるのは彼氏の努め。

「次の応援演舞では点数が取れないから、1位から転落すると」

 ざわめいたクラス。だが、納得する人もチラホラ。応援演舞はあんま練習しなかったから。

「解った。だが、勝手に諦めんな。ダメもとで頑張って貰うから」

「そりゃ、頑張るけどさ……」

 身を乗り出して抗議しようとしたのは、市村さん。言葉に詰まったのは、この雰囲気を作ったのは応援演舞だからとの負い目があるからだろう。

 応援演舞は女子だけで構成されているからな。だから負い目を感じるのは仕方がない。

「安心しろ。借りもの競争も二人三脚も、トップ取って1位に返り咲くから。だから精一杯やってくれ」

 他の誰でもない、遥香に向かって言った。借りもの競争、二人三脚と、遥香が仕組んで出場させたのだから。

「……2000メートルもトップ取るから大丈夫だ」

 乗っかって来たのは、2000メートル走者の、マラソン同好会所属の和久井君。

「おう!!スプーンリレーもトップ取ったるぜ!!」

 胸を叩いて頼もしさアピールする吉田君だが…

「スプーンリレーも全クラス対抗だよ?取れるのトップ?」

 最上さんの突っ込みに黙ってしまう。だが、クラスから笑いが起こった。

 大丈夫だ。まだ熱はある。

 俺は遥香の方を向き、安心させるように頷いた。

 遥香は小声で、他の誰にも聞かれないような声で言う。

「ありがとダーリン。愛してる」

 聞かれたくないんだろうからの小声なんだろうから、黙って頷いた。

 この雰囲気を壊したくない。けど、点数は取れない。

 言っちゃなんだが、たかが体育祭。遥香も最初はそう思っていた筈だ。

 だが、ここまでの結果が出来過ぎで、自分も欲が出ちゃったのかもしれない。

 ところで、と遥香に振る。

「応援演舞はどんなんだ?」

「えっと、ダンスだよ。チアの」

「……チアコスは?」

「勿論あるよ」

 くるんと男子の方を向き――

「野郎共!!死に物狂いで応援だ!!」

「応援演舞に応援とか、意味不明だが…」

 ヒロの的確な突っ込みに返す俺。

「チアコスでダンスだぞ!?」

 ……………

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 男子の心が一つになった。やっぱ青春はこうでなきゃ!!

 そんな訳で、女子全ての姿が消える。準備に向かったのだ。

 前回は女子10名程のダンスだったが、今回はクラス中の女子か…圧巻ではある。

 故に練習時間が取れないって事にも繋がったのだが。放課後のちょっとの練習しかしていない筈だから。全女子の予定が揃うのはちょっときついだろう。

「流石だね緒方君。テンション下がるのを食い止めたばかりか、更に盛り上げるなんてさ」

 波崎さんが笑いながら缶コーヒーをくれた。

 それを有り難く受取って言う。

「遥香が助けてくれって言ったからな。頼られちゃ、応えない訳にはいかないだろ」

「…やっぱいいなぁ…遥香の見る目は正しかった!!」

 逆に嬉しそうな表情をする。いや、照れちゃうからやめてほしいんだけど。必要以上に上げられるのは。

「それはそうと、横井さんから聞いたんだけど、同じ中学なんだって?」

 照れ隠しの話題チェンジ。波崎さんは特に不審に思わずに、乗っかってくれる。

「うん。横井は3年の時に同じクラスだったんだ。仲良いって訳じゃ無かったけど、悪いって訳でもなかったな。ありていに言えば、クラスメイトの一人」

 クラスでは話はするけど、込み入った話をする仲じゃないって事か?

 ん?だが待てよ?波崎さんの霊感時代(なんだそれ?)を知っている風だったぞ?結構有名な話なのか?

「波崎さん、霊感持っているって、結構有名だったの?」

「え?いやいや、ああ、うん。そうかもしれないね」

 一度否定してからの肯定。しかも表情が沈んだ。

「何か…ゴメン」

 禁忌を突いた感がして、素直に謝罪した。誰だって忘れたい過去があるからな。

「ああ、いや、そんな大袈裟なもんじゃないよ。ただね、仲良かった子が、触れ回ったのね。私に霊感があるって」

 ああ、それが周りに回って、みんなに幽霊探知機にされたと。

「仲良かった子がね、除霊も出来るからヤバい所に行っても大丈夫だって盛大に盛りやがってねぇ…除霊なんかできねーっての」

 毒付きながら居ない子に突っ込む。まあ、その子も過度に期待しちゃった結果なんだろうけど。

「で、結局ただ視える、それも体調次第だから、当てにできない。除霊できねーじゃん、嘘付きってさ」

「ああ、その子が触れ回った人達にそう言われたのか」

「うん。その子中心にね」

 ふざけんなそいつ!!ヒロにチクって一緒にぶち砕きに行ってやる!!

 自分でハードル上げて、自分で貶めるとか、性格が悪すぎるだろ!!

「困ったのは、遥香がそれを知っちゃってさー。追い込むわけよ。色々な手を使って」

 それは何か容易に想像が付くな…やっぱヒロ達が言うように、俺の彼女さんこえーわ。

「その子が盛った事も、裏切った事もみんなに知れ渡ったんだけど、当然遥香がやった事も知れちゃってね。ちょっとクラスで浮いちゃったのよね。遥香は友達は信用できる人間が一握り居ればいいって考え方だったから、そんなに苦じゃなかったみたいだけど、巻き込んだ私の方が心苦しいっての」

 また居ない遥香に毒付きながらの突っ込み。これは微笑ましい感じだ。

「で、流石に遥香も一応反省してね。今度からバレないようにするって」

「それ反省してねーんじゃねえの!?」

 教訓にしただけじゃねーの!?ある意味 ポジティブだけど!!

「だから横井も知っている訳。当時の事はね」

「ふーん……参考までに、何やったんだ遥香は?」

「……知らない方が幸せって事もあるんだよ?」

 じっと顔を見ながら、ゆっくりと言われた。

 マジで何やったんだ!!気になる!!

「参考までに、そいつの名前はなんて言うんだ?」

「なんの参考にするつもり?報復とか必要ないからね。遥香がやってくれたんだから」

 マジで嫌そうな顔すんな。報復はしねーよ。

「いや、万が一敵に回った場合を考えて。朋美と共闘でもされたら鬱陶しいから」

「そんな心配は無いんじゃないかな…どうやって繋がるのか想像もできない間柄なんだし…緒方君も慎重さんだね」

 慎重っつうか、経験則だ。朋美ならそれくらいはする。狂人だぞあいつ?

「だけどまあ、その理由なら。名前は堀川真理子。北商に進学したよ」

 北商……

 北商と言えば川岸さん……

 何か…波乱が起こりそうな予感がした……

「あ、始まるみたいよ」

 言われて視線をグランドに向けると、司会のアナウンスで1-Aが入って来た。

「Aは着ぐるみかあれ?」

「みたいだね。ゆるキャラっぽい着ぐるみだね」

 波崎さんの言う通り、ゆるキャラを模した着ぐるみ数名が太鼓を持って舞台に上がった。

 それをちんどん屋のように叩いて騒いだ。なんだアレは!?応援じゃねーぞ!!

「あはは!!これも応援演舞?演舞じゃ無いじゃない!!」

 大笑いする波崎さん。だけじゃ無かった。会場全体が笑っていた。

 ま、まあ、和やかになったから良しだ。これはこれで有りだろう…

「つかヒロは?姿が見えないけど?」

「ああ、お昼の場所取りさせているよ。シートを敷いて、みんなでワイワイやるから、結構な広さが必要だからね」

 相変わらず波崎さんに従順だな…なんか可哀想になって来る程…

「だ、だけど、ヒロも参加選手なんだから、場所取りで居ないとか駄目だろ…?」

「他のクラスの子達もチラホラやっていたからね。二年、三年の生徒相手だったら、大沢君なら文句言われても対処可能だから」

 対処可能って…それは力でねじ伏せる前提なのでは…意外と波崎さんも容赦ないのな…

そしてつつがなく進行して…

「漸くEの番だぞ!!野郎共!!気合い入れろよ!!」

「「「「「おおおおおおおおお!!!」」」」」

 応援合戦を応援する図の俺達。がんばれE組と、大声を張っている。

 そして出てきたEクラス女子達……「「「おおおおお~……」」」と、ある種の歓声が挙がった。

「チアコスなのは聞いていたけど、ミニスカ過ぎるんじゃね?」

 あれ絶対パンツ見える!!防御力皆無のスカートだ!!

「下にスパッツ履いているでしょ」

「そうだろうけど…ええええ……」

 実際のチアリーダーもアンダースコート履いていたりするから、いいっちゃーいいんだが…

「あれ俺のなんだぞ?他の男子に見せる物じゃねえ!!」

「緒方君も言うよね……」

 言うだろ。俺の物なんだから!!

「遥香が緒方君は積極的じゃないとかヘタレだとか言っていたけど、ちょっと違うのかな…」

 何言っちゃってくれてんのあいつ!?俺の愚痴を他の女子に言うなよ!!

 ガールズトークってヤツなの!?一回聞いてみたいよ切実に!!

「なにか難しい顔しているけど、始まるよ。応援しよう」

 波崎さんに促されて、応援演舞に集中する。

「みんなー!!いくよー!!」

 この声は蛯名さんか。クラスの副委員だから、リーダーに抜擢されたのかな?

 しかし、掛け声だけで、グダグダだな…脚を上げるのも全然揃っていない。見た感じ、ものスゲーカッコ悪い。

 二組に分かれて一人が屈み、もう一人が跳び箱を飛ぶように跳ねるが、つまずいて転がっている女子もいるし……

「……遥香が期待するなって言った意味、解ったわ」

「おう…単純に練習不足の話しだけじゃないよな……」

 身の丈以上を求めた結果がこれだ。恐らく、女子の誰かが、チアリーディングの映像を持ってきて、出来そうな奴を選んで組み合わせたのだろう。

 それでもできないってどうよ。いや、だから身の丈以上って言葉を使ったんだけど。

「あ、組体操……」

 ピラミッドを作るように組んで行くが……

「あ、崩れた」

 一番下の女子達が力付きで崩れ去った。まだ頂上に人乗っていなかったのが幸いだ。危うく怪我する所だったな。

 んで、崩れた形でのポーズ。これで終わり?

 すげー遠慮がちな拍手がチラホラ。やっぱ終わったのか……

 終了したのは事実だったようで、女子達はトボトボと着替えに戻って行く。うん…まあ…ドンマイ……か?

「………点数は入らないね…」

「遥香が無理だっつったから無理だろ。もう覚悟決めていたから大丈夫だ」

 元より全クラス対抗戦だ。トップ5に絡めるとは思っていない。あわよくばも期待すんなとも言われたし。

 期待すんなとか言われてもなぁ…しちゃうよな、実際。

 証拠に、クラスの落胆がパネエ。まあ、気持ちは解るけど。

 ともあれ、これでウチのクラスの午前の部は終わりだ。着替えから戻ってきたら、労おう。

 そして2-Cの演技が終わった頃、思った以上に落胆して帰って来た女子の姿が。

「みんな…ごめんね。あんな様で……」

 蛯名さんが泣きそうな顔で謝罪した。

 誰も口を開かない。気にすんなとも慰めないし、何やってんだと叱りもしない。

 それ程女子のダメージが大きかった。遥香も俯いちゃっているし。

 トップ5は諦めているにしても、そこそこは頑張った証が欲しかったんだろう。あんなグダグダは流石に自分達の中でもなかったか。

 しゃーねえ。彼女のあんな顔は見たくないからな。此処は俺がしゃしゃり出るか。

「問題無い。他の種目で全部点を取ればいいだけだ」

 男子を見ながら言ったら、男子全員が頷いた。

 そのつもりだっただろ俺達は。今更の事だよ。

 その後もつつがなく進み、応援演舞終了。やはりEクラスは点数圏外。よって81点そのまま。

 だが、上位クラス全部点数が入らなかったので、辛うじてトップを死守していた。

 辛うじて、とは、応援演舞トップの2-Dが四位に浮上したから。要するに、上位の差はほとんどないって事だ。

 まあ、考えても仕方がない。今は昼飯の事を考えるべき。

「波崎さん、ヒロに場所取りさせてんだろ?そこ行こう」

「うん。みんな呼んでくるから、ちょっと待ってて」

 そう言って駆けだした。俺と遥香は顔を見せ合って「?」状態。

「みんなって、誰の事だ?」

「さあ…予定では、私とダーリン、波崎と大沢君だけだから…」

「その予定に国枝君は入っていないのか…」

「春日ちゃんと食べるんだろうから、入れてないよ。あ、でも、春日ちゃんと国枝君を呼んでくるのかな?」

 成程、そうかもな。ところで気になっている事があるんだが……

「そのでっかいバスケットは何だ?」

 赤ちゃんでも入れるのか?と思う程にでっかいバスケットを地面に置いていた。

「これ?勿論お昼御飯だよ。前褒めて貰ったサンドイッチ、いっぱい作ったから、沢山食べてね~」

 はにかみながら。あれは確かにうまかった。もう一度食いたいとも言った。だけど、その量はおかしいんじゃないかな…

 一応ながら、言ってみる。

「俺も弁当持ってきているんだけど…」

「お弁当とサンドイッチくらい、楽勝でしょ?育ちざかりの腹ペコ男子でしょ?」

 確かに、育ち盛りの腹ペコ男子だが、重くて持つのに難儀しているデカさなんだが…

「あ、波崎さんとヒロもいるのか」

「波崎はバイト先から出前して貰うって」

 出来るのか出前!?記憶では、そんな事無かったような気がするんだけど…

「と言っても、お店の子に頼んで持ち帰りメニュー持ってきてもらうらしいけど」

 そうか、それなら納得だが、持ち帰りメニューって、軽いものしか無かったような。

 まあ、このサンドイッチの量を見ればいいんじゃないかと思うけど。

「お待たせ。お腹減ったよね?行こうか」

 やっと到着した波崎さん。連れて来たのは、国枝君と春日さん。これは読み通り。

 その他、黒木さん。これも納得だ。そして、なぜか楠木さんと里中さんもいた。

「あれ、楠木さん?それに里中さんも?同じクラスの友達と一緒じゃないの?」

 疑問に思った事は聞く。俺は理解力が乏しいから、これが正解だ。

「いや、波崎さんにご飯の時誘ってって言っていたから。シロにもデリバリも頼んでいだし」

 テヘヘ、と頭を掻いての説明だった。つか、生駒も来るのか?楠木さんの弁当持って?バイトはどうした?

「こっちに来れば、御馳走が沢山と聞いて」

 こっちは平然と欲の為と述べた。里中さんのキャラで安心したな。

「そっか。くろっきーは木村君?」

 流れだろうが、酷な事を聞くなよ。木村が他校の体育祭に来る筈ねーだろ。

「明人が来る筈ない…さっきメールしたら、大洋に行っているって返事が来た…」

 ズーンと落ち込んでいるな。多分体育祭見に来いとか、お昼一緒に食べようとか誘ったんだろう。

 だけど大洋か…ちょこっと聞いた話じゃ、大雅とは結構仲良くなったって言っていたよな。猪原って人を引っ張り込めるところまで行ければいいんだけども。

 あ、生駒が来るのなら、生駒から聞いてもいいな。大洋方面は木村と生駒の管轄だし。

 ともあれ腹ペコだ。俺達は波崎さんを促して、ヒロが待つ場所へと向かった。

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