文化祭・序~003

 ジムに行くんだったらバイクの方がいい。帰りの時間を気にしなくていい分気が楽だし。

 なので愛車に火を点ける。今日も機嫌が良さそうだな、俺の相棒よ。言ってもあんま乗っていないから機嫌良いのか解らんけども。

 ヒロのアホもバイクで来るのかな?まあ、どっちでもいいけど。帰りは送る気ないからどうでもいいや。

 西白浜駅までカッ飛んだ。法定速度で。スピード出したくねーからこれでいい。事故怖いから。

 しかし、最初は曲がらねーからこえーと騒いでいたが、今は大分慣れちゃって、スピードも出す時は出せるようになったぞ。俺も進歩する生き物だから当然だ。

 それでも友達内では遅いけどな。一番スピード出すのは河内か?あいつは的場に憧れていたから当然と言えば当然か。

 そしてしばらく後、西白浜駅に到着。適当に駐車してあいつらを捜す。

「おう、こっちだ」

 んあ?と後ろを向くと、トーゴーがベンチで缶コーヒーを飲んで座っていた。

「他の奴等は?」

 トーゴーしかいないので訊ねた。

「駅の中だよ。ここってやばい学校の縄張りなんだろ。俺が居たら揉めるかもしんねえからな。目立つから」

 東南アジアの人と思われて逆に揉める事無いんじゃね?兵藤の方がずっと危ないと思われそうだが。

「ここは西高御用達の駅だが、白浜で一番栄えているからな。他校生も利用しているからそうでもないだろ。木村がトップになってから治安も良くなったし」

「ああ、そう言う事。じゃあ外に出る必要もなかったんだな」

 そう言って立ち上がる。駅の中に行こうって事だな。

「ん?あれ?緒方君?」

 んあ?と思って声を掛けられた方を見る。

「福岡じゃねーか。今から帰んのか?」

「ああ、つうか緒方君、駅で暴れんなよ?そっちの人もやめとけよ。アンタ、この辺で見た事ねぇから地元民じゃねえんだろうから知らねえと思うけど、この人マジで洒落にならねえんだから」

 なんか俺とトーゴーが喧嘩しそうになっていると勘違いしたようだ。一瞬惚けたトーゴーだが、いやいやと答えた。

「こいつがあぶねえのは今更だ。以前やろうとした時、道路のど真ん中でやろうとしたんだぞこいつ。流石にそりゃ勘弁だって断ったが聞かねえんだぞ」

 俺に親指を向けてそう言った。福岡、青くなって頷く。

「あ、ああ、この人場所も時間も関係ねえって人だからな……しかし、その弁じゃもうやったんだ?」

「おう、大沢が来て公園に案内してくれてよ。そこでやったが完璧に負けた」

「大沢君も大概だが、空気は読むからな。だけど追い込まれなかったんだからこうやってつるんでいるんだよな?アンタ、名前は?」

「ククリット・トーゴー。丘陵中央だ」

「丘陵中央?例の地域友好交流の学校?」

「おう、今日来たのはその関係だ」

「ウチも参加するんだぜ、そのイベント。誘導員とかでだけど」

「もうやる事決まってんのか?つうかどこの学校?」

「ああ、西高だよ。この人の学校に西高生が行くの、結構な事件なんだぜ。俺達みたいなのは問答無用でぶん殴っちゃうから」

「木村の学校か。あいつがいるから大事にはなんねえだろ」

「木村君を知ってんのか?」

 なんか和気藹々と話しだした。この雰囲気の邪魔をする程無粋じゃない。

「トーゴー、俺中に入るから。ヒロが来ると思うから、何なら待ってて」

「うん?そうか。解った」

「いいのかよ緒方君?お客に大沢君の出迎えさせるとか」

「そんな大袈裟なもんじゃねーよ。お前等話し合いそうだから、邪魔すんのも忍びないって事だ」

 そう言ってとっとと中に入った。来た客はトーゴーだけじゃないからな。他の奴等にもちゃんとしなきゃいかん。特に若山君には。兵藤に振り回されて迷惑だったんだろうし。

 中では上杉が暇に任せてスマホを弄り、兵藤と若山君がなんか話していた。

「あ、来た。緒方が最初だよ」

「そうか、国枝君はまだか」

 ヒロは俺よりも遅くなるのは知っている。何となく俺よりは遅いと思っていただけだが、それが見事的中したまでだ。

 まあ、奴等が来るまでコーヒーで喉を潤すか。

 兵藤と若山君は缶ジュースを飲んでいるようだ。じゃあ上杉だけか。

「おい上杉、なにがいい?」

「え?おごってくれるの?」

「わざわざ白浜まで来てくれたんだし、このくらいはな」

 飲んでいたらおごらなかったが、飲んでいないからな。俺だけ飲むのもなんかな、って感じだし。

「ありがと緒方。じゃあ抹茶ミルク」

 はいはいと抹茶ミルクを買い、自分は無糖コーヒーを買う。

「ほら」

「うん。敵認定されていた身としては嬉しいな」

 ニコニコして蓋を捻った。お前もちゃんと謝ったからな。あれで終わりだ。

「お前等ってマジで何やるか決まってねーの?」

 なんとなく雑談開始した。沈黙は気まずいからだ。

「う~ん……さっきも言ったけど普通高校だし、部活も力入れていないしで、これと言った特徴が無いのが特徴なんだよね」

 逆に何やればいいか解らんと。んじゃ他の高校のを参考にすればいいんじゃね?

「例えば西高なんか交通整理とかだぞ。そう言うので貢献するって手もある」

「一応偏差値高めだからね。そう言うのやりたがる人があまりいないと言うか」

 お前の力を使えば楽勝じゃねーの?そこまで強制する気はないが。

「トーゴーはムエタイやってんだろ?白浜と同じように試合とかは?」

「トーゴーとまともにやれる人、学校に居ないから」

 まあそうだな。普通高校であいつといい勝負できる奴はいないだろ。

「あーっと、じゃあ名産品は?渓谷は湖の魚と湯葉とか言っていたし、地域を押すのもコンセプトから外れていないし」

「渓谷学院はお蕎麦も出すって。いいよね、名産品があるところは」

 ほう、と息を吐いた。名産品無いのかよ。それは嘘だろ?

「いくら何でも地域の特産品はあるだろ?」

「丘陵は意外と広いんだよ。『丘陵中央』として押せる特産品が無いと言うか……」

 ああ、あるにはあるけど、自分の学校からは外れているって事か。

「あーっと、白井の学校は何やるか聞いてる?」

「中洲情報は自主製作のアニメの発表と公開。白井ってアニ研だから。だからアニメ好きの中学生が彼女になったって言うか。言っても幽霊部員だけど、技術はあるしね」

 マジで!?アニメ作ったのかよ!本気でスゲーなあいつ!

「それに、モーションキャプター併用だから、一応学校の宣伝も兼ねているし、そうなると予算も多めに貰えるしで、中洲情報は貢献度が高いと思うよ」

「予算は助かるが、貢献度はみんな同じだ。少なくとも俺は感謝しているんだし」

「まあ、京都での連携目的のために立ち上げたイベだからね」

 そうだが、そうじゃねーよ。元々文化祭でクラス展示から逃げる算段をしていたんだよ遥香は。それを俺の事情も噛ませただけだ。

 んじゃ逆にだ。

「トーゴーの故郷を押すとか。あいつタイだろ、親父さんだったっけ?」

「トーゴーは生まれも育ちも日本だけど。たまーに向こうの祖父母に会いに行く程度だったけど」

 じゃあ日本人じゃねーかよ。なんだよククリットとかってよー。

「去年劇やったんだろ。今年もやれ。北商も去年と同じ事やるらしいし」

 もう面倒になって去年の焼き直しを勧めた。

「去年と同じクラスだったらそうしていたけどね。それに、仲いいって訳じゃないし」

 まあ、クラス替えはあるからな。

「なんかないの?スクールアイドルとかいねーの?」

「う~ん……マジでなんもないなぁ……本気でちょっとヤバいかも。私一応責任者だし」

 腕を組んで考えこんじゃった。もう一人の責任者は脳筋っぽいから当てになりそうもない。

「うん?お前とトーゴーって同じクラス?」

「言って無かったっけ?そうだよ」

「じゃあクラス展示そのまま持ってきてもいいんじゃね?現に東工はそうなったようだし」

「そうなの?因みに何やるの?」

「ソーラーパネルの展示と説明、携帯充電機販売だったっけかな?」

「太陽光での充電器か……なかなか需要ありそうだね……」

 俺もそう思うが、そんなの結構あるからな。いざ販売したらどうなるのか。

「だけど今年の展示そのままってのはいいね。手間もあんまり掛からなそうだし」

「因みに何やるんだ文化祭?」

「甘味処。被っている学校ある?」

 首を横に振った。今現在で甘味は無いので、被りは無い。

「しかし、多分屋台形式になるからそんなに種類は置けない……」

 なんかぶつぶつ言い始めた。手ごたえを見出したのだろう。

「ヤマ農は鍋だって。ヤマ農で採れた野菜で作る鍋」

「うん?それがどうしたの?」

「一品でもいいだろって事だ」

「成程……だったら一品集中にして普段口にしないもの……いや、寒くなるからあったかい方がいいか……」

 再度ぶつぶつ言い始めた。そしてトーゴーが戻って来た。

「おう、悪い悪い。福岡と盛り上がっちゃってよ」

「……トーゴー、ウチの展示、何出すっけ?」

「うん?クラス展示か?甘味に決まっただろ」

「だから、メニューは何だっけ?」

「えっと、白玉あんみつ、フルーツポンチ、汁粉」

「それだ!!」

 勢いよく立ち上がり、トーゴーに指差した。

「お、おお……な、なにが?」

「地域友好イベの出し物!!ウチはお汁粉にしよう!!お餅も目の前でくパフォーマンスして!」

 おお!餅つきのパフォーマンスアリの汁粉販売か!寒いからあったまるし、いいかもだ!

「汁粉なんて売れるのかよ?少なくとも俺は食いたいと思わねえけど……」

「男はそうでしょうけど、女子は違う!!」

 そ、そうなの?まあ、俺もあんま食いたいと思わないけど……

「幸いにして、米農家さんが餅米も作っているし!!一応地域貢献にはなる!!」

 そ、そうなんだろうな。多分そうだよ。

「地域貢献も考えるんだったら雑煮にした方がいいだろ。一応味噌もブランドであるんだし」

「丘陵中央には名産品が無いと聞いたぞ?」

 ブランド味噌があるんだったら立派な名産品だろ?

「あんま名前が売れてねえからな。高いから地元民もあんま買わねえらしいし」

「だから、高いのよ。コスト度外視って訳にはいかないでしょ」

 味噌提供してもらうように交渉すればいいと思うが。流石にただでくれとは言えんから、格安で提供してくらいは言えるだろ?

「だったら汁粉も論外だろ。あんこ特産品でもなんでもねえんだし」

「そ、そうだけど……せっかくいい案が出たと思ったんだけどなぁ……」

 なんかしょんぼりする上杉だった。南女もカフェで地域特産関係ないんだからいいとは思うが。

「だったら味噌を砂糖で甘くして、餅で団子を作って焼いて売ればいい。ワンハンドだから食いながらも歩ける」

 上杉の背景に雷のエフェクトが走った。

「そ、そうだよ!!お団子だよ!!甘いお味噌を塗って焼けば香ばしい香りもするし、集客数も期待できるし!!」

 興奮してグーを握ってぶんぶん振った。解ったから危ないからやめて欲しい。

 まあしかし、観光地とかで見かけるよな。花見シーズンなら尚更だ。餅つきのパフォ付きなら更に集客が期待できるし。

「おう、じゃあ団子で進めてみるか。帰ったら運営委員と会議だな」

「そうだね!光明が見えたよ漸く!」

 上杉も納得の案だった。お汁粉でもいいとは思うが、団子だったら尚良しだろう。

「おい、大沢と国枝はまだなのかよ?」

 焦れたのか、兵藤が若山君を伴ってこっちに来た。

「国枝君は俺よりも遅いからまだだな。ヒロは本気で知らん」

「マジか?暇だからどこかに案内して貰おうかと思っていたんだが」

 時間もあんま取れないからファミレスになった筈だが。

「えっと、緒方君だっけ?兵藤からちらっと聞いたけど、君って相当ヤバい奴だって話だけど、そうは見えないよな。目つききつ過ぎだけど」

「このアホがどう評価しようが世界一どうでもいいが、何言ったんだこいつ?」

 初めて会った人に悪評を教えんなよ。空気読まねーな。

「そもそも兵藤をアホとか言う奴は連工にはいないよ。相当な武闘派で怖がられているんだから」

 その割に君はフレンドリーなような気がするけども。

「おう、ホントこいつヤバいぞ。上杉もぶっ飛ばそうとしたし、トーゴーもやられたし」

「お前もぶっ飛ばされそうになったよな」

 トーゴーの突っ込みに声を失った兵藤だった。

「トーゴーすらも負けたんだ……君、相当強いんだな…」

「いやいや、あれはこいつが貧弱だから勝っただけでな」

「誰が貧弱だ誰が。お前が頑丈過ぎるだけだろ」

「それに、敵なら女も男も関係ないだろ普通?」

「だからって女子を本気で殴ろうとする奴、滅多にいないよ」

 トーゴー、上杉の返しに蒼白になった若山君。こいつ等と面識があるのか?あるんだろうな、知っている感じだし。

「ああ、言い忘れていたが、こいつ紅蓮のメンバーでさ、当たり前だけど東山と藤咲も知ってっから」

 親指で若山君を差して。

「うん?若山君もストリートファイトチームのメンバーなのか?それにしては……」

 喧嘩なんかできそうにない感じだが。

「ああ、うん。紅蓮最弱とは俺の事だよ」

 俺の思考を読んでか、笑いながらそう答えた。

「い、いや、そう言う雰囲気持ってねーな、って思ってさ」

「いやいや、ホントの事だしな。空手習っていたけど全然弱いし」

 空手家か。生駒と相性いいかもだ。

「ま、俺の事はいいよ。しがない下っ端だし。兵藤はガキの頃からの付き合いだからこうだって話だよ」

 だから慣れ慣れしい印象だって事か。納得だ。

「だけどトーゴーに勝ったのはホントびっくりだよ。兵藤だってあいつには敵わないってよく言っていたしな。喧嘩好きの馬鹿なんだけど、試合も申し込んだ事ないし」

 兵藤は福岡レベルだろうからそうかもだ。福岡が木村に勝てるかって話だ。

「こいつキチガイだから。最後はなんか訳解んねえまま倒れて気絶したし」

 こいつ、ワンインチパンチを覚えていないのか?あんな密着状態で打てるパンチなんか想像もできないからそうだろう。

「さっきも言っただろ。こいつが貧弱だから勝ったって」

「だから、俺の膝あんなに貰っても倒れねえとか、お前がいろいろおかしいんだよ。意地っ張りつうか」

「ん?って事はこいつが内陸最強になるのか?」

 何の気なしに若山君に訪ねた。

「そこまでは解んねえけど、上の方には間違いなくいるだろうね」

 流石に内陸全部と喧嘩した訳じゃねーから解んないか。俺は海岸線殆どの学校と揉めたけど。

「おう、待ったか?」

 漸くやってきたヒロ。髪がぺしゃんこになっている事から、バイクで来たと思われる。

「おせーよお前。みんなに謝れ、みんなお前待ちだったんだから」

「そう言うけど、国枝は?」

「国枝君はいいんだよ、お前がダメなだけで」

「なんで俺はダメなんだ!?」

 目を剥いたヒロだが、上杉らの発言でさらに目を剥く事になる。

「だって大沢、緒方と同じところなんでしょ?」

「だったら緒方と同じ時間に来なくちゃおかしいだろ」

 丘陵コンビの言う通り。しかしながら言い訳をしようとするのもヒロな訳で。

「だ、だって着替えとかいろいろあるから……」

「緒方だって着替えて来たんだよ。見て解んねえの?」

 兵藤の言葉がダメ押しになったようで、言葉も出さずに項垂れた。

「大体若山君なんか初見でわざわざ来たんだぞ。兵藤に無理やり引っ張られたにしても」

「い、いや、俺の事はいいから…ほ、ほら、大沢君だっけ?顔上げろよ。なんか注目されてっから……」

 西白浜駅に居た殆どの生徒がこっちを見ていた。こんなんだからお前、『馬鹿で可哀想な大沢』って二つ名を付けられるんだぞ。

 国枝君待ちなのは変わらないので、やはりベンチに腰掛けて待つ。

「さっきの話だけど、他の学校で決まっていないところ、あるの?」

 またまた上杉から振られたぜ。気にしているんだろうとは容易に想像できる。

「あとは黒潮だけじゃねーか?なあ?」

 なんとなくヒロに振る。

「おう、候補はいくつか上がったらしいけどな。ほら、宇佐美の家って燻製作っているだろ?その関係でフランクフルトとか」

「ああ、彼のお家の燻製、美味しいからね」

 流石は彼氏、彼女だな。不味いとは流石に言わねーよな。実際旨かったし。

「あとは西高と同じ交通整理とか。黒潮は海岸線だから魚料理もアリか?」

 随分詳しいが、河内から相談でも受けたのか?聞かない方が良さげだが。

 ここで漸く国枝君登場。国枝君もバイクで来たようだ。なぜならヘルメットを持っているから。

「待ったかい?」

「ああいや、そんなでもねえ。なあ?」

 兵藤が振ると全員頷いた。ヒロ以外。

「俺ん時は遅いとか散々言われたんだが……」

 だってお前は遅いから。事実俺と同じ時間くらいに到着しても良かった筈だし。

「良かった。早速行こうか時間ちょっと早いけど、ドリンクで繋げばいいよね」

 それに頷き、件のファミレスに。野郎どもがどんな反応をするか、楽しみだ。

 到着してすぐに入店。いらっしゃいませと黄色い声に、トーゴー、兵藤、若山君が固まった。

「あれ?緒方君じゃん?そっちの人達は見た事ないけど、お友達?」

 対応してくれたのは高岡さんだった。まあ、兎も角頷いて乗っかる。

「うん。丘陵中央の上杉とトーゴー。連山工業の兵藤と若山君」

 なんとなく紹介した体になったようで、お辞儀をするトーゴー達。

「内陸の学校の友達?ああ、なんか地域友好がどうのってのの?海浜も結局参加する事になったみたいだし、よろしく皆さん」

 何?海浜も!?

「里中さんが頑張っていたようだが、出るって決まったのか?」

「そうみたいだね。植木他生徒会が全面的に協力するみたいだよ」

 そう言えば植木君は生徒会役員だったか。その関係ですんなり決まったのかも。

「あ、そうそう、生徒会副会長ってさ、緒方君とオナ中の子なんだよね。森井佳子さん、知ってる?彼女が里中さんと一緒に頑張って学校を説得したみたい」

 よし子ちゃんが!!マジか!?

「高岡さん、悪いけど、席に案内して貰えるかい?」

 国枝君がやんわりとお客と立ち話すんなと。高岡さん、慌てて。

「ああ、ごめんごめん。こちらへどうぞ~」

 よし子ちゃんが協力してくれた事が妙に嬉しく、案内された席に向かう足取りが軽かった。

「緒方、ここすげえな。みんなメイド服なのか?」

 俺の嬉しさなんか知る由もない兵藤が身を乗り出して訪ねて来た。

「ああ、みんなそうだ。波崎さんも児島さんも同じ格好だ」

「波崎もいつきちゃんも可愛いからね……あのコス似合いそう……」

 上杉も納得の可愛らしい制服だった。お前もイケると思うぞ。だから自信を持ったらいい。

「俺ミックスフライ」

「もう決まったのかよ大沢。もちょっとメニュー見せてくれ」

「丘陵のファミレスも大体同じメニューだろ。お前タイ人だからトムヤムクンなんてどうだ?メニューにねえけど」

「タイと日本のハーフだっつってんだろ。しかもメニューに無い物勧めんな」

 これはトーゴーはキレていい。無いメニューを注文しろと無茶振りをしたのだから。

「あ、これ美味しそう。オムライス」

「ああ、ここのオムライスは普通だぞ」

「そ、そうなの?緒方は何を頼むのよ?」

 さっきからメニューを見ているが、これと言って興味を覚えるメニューが無い。

「カツカレー」

「やっぱり緒方君はカツカレーかい」

 国枝君に笑われた。いいだろ別に。カツカレーなんてお店に行った時くらいしか食えないんだし。

「オムライスは普通でカレーは美味しいの?」

「いや、普通」

「普通以上の物無いの!?」

「だから言っただろ。味が普通のコスプレファミレスだって」

「そ、そう言えば、確かにそう言っていたよね……」

 俺は最初からそう言っていた筈だ。よって何頼んでも普通だと言う事だ。だから別のアプローチで選んだ方がいい。

「例えばカツカレーはサラダバーが付いてくるけど、オムライスは無い」

「お得かどうかで選んだ方がいいって事か……」

 その通りだ。よって若山君はいいチョイスをした。唐揚げカレーにもサラダバーが付いてくるのだから。

「カレー系にはサラダバーが付いてくるんだね……セットにすればスープバーもか……」

「セットにするんだったらカレー系はやめた方がいい。何故ならAセットはライスとスープバー、Bセットはプラスサラダ。Cセットは更にプラスのドリンクバーだからな」

「スープバーは最安値セットから付いてくるって言う事ね。普通のファミレスっぽい……」

 普通だってば。お値段はちょっと安い印象があるが。

「う~ん……やっぱりカレー系にしよう。サラダバー、魅力だし。ハンバーグカレー」

 スープを諦めると言うのだらナイスチョイスだと言える。ドリンクは食事にすれば半額だしな。

「僕は焼きサバにしよう。スープよりも味噌汁の方がいいからね」

 国枝君は和で攻めたか。味噌汁は飲み放題じゃないが、スープいらんのならいいチョイスだ。

「あとはお前等だけだ。早く決めろ」

 トーゴーと兵藤に向かって言うヒロ。結構な凄味で。

「なんでそんなおっかねえ顔になるんだ……ヒレカツの洋」

 兵藤はヒレカツの洋セットな。こっちはスープバーなので飲み放題だ。

「ちょっと待てって……ホントどこにでもあるメニューだな……食い飽きているんだが……」

 知らねーよお前の飯事情なんか。言っただろうが、普通だって。

「じゃあ、えっと、カツカレー」

「それは駄目だ。隆と被るから」

「別にいいだろ緒方と同じ物でも!?」

 俺も構わんと思うけど、そういや他の奴等もカツカレーは頼まんな。俺と被るからって理由なの?もしかして?

「じゃあ……ミックスフライ?」

「俺と被るじゃねえか。別の頼めよ」

「大沢と被ったら何か問題があるのかよ!?」

 問題は無いだろうし、いいだろ別に。好きなもん頼ませてやれよ。

 結局決めたのはオムハヤシ。これは誰もあまり頼まねえからいいとのお許しが出たからだ。

「ヒロの言う事なんざ無視して好きなもん頼めばいいだろうに」

「俺が知るか!!つうかどれも一緒だよファミレスのメニューなんざ!!」

 暴言が出ました。木村も似たような事言ったけど。

「じゃあ呼べ。ヒロ」

「なんでそんなに偉そうなんだお前!?」

 言いながら呼び出しボタンを押すヒロ。来たのは楠木さん。

「はいはいー。緒方君はカツカレーでしょ?」

「その通りだが……」

「んで、大沢はミックスフライ?」

「……まさにその通りだな」

 頷いて。

「じゃあ他の人たち、注文お願いしまーす」

「緒方、いっつもカツカレーなんだ?」

「いっつも、というよりも、外食でファミレス使うんだったらカツカレー頼むんだよ緒方君。つか久しぶりだね上杉。察するに、地域友好交流の事かな?」

「うん、そう。と言っても連山の責任者の顔見せに終わっちゃったけどね。つか楠木、そのコス可愛いね」

 なんか女子同士きゃいきゃいやっているが……

「楠木さん、他の奴等の注文取ってくれ。トーゴーも兵藤も若山君もお預け食っている顔になっているし」

「あ、はいはーい。じゃあ、どうぞー」

 漸く注文再開の運びとなった。意外と喋っていたぞ、お前等。

「いや、マジで可愛いやここのコス。丘陵にも支店出さないかな。私働くのに」

 背もたれに身体を預けて上杉がそう言った。なんか憧れたっぽかった。

「丘陵にはメイド喫茶があるだろ。そっちでも同じだろ」

 トーゴーが呆れたように言う。つうか丘陵にメイド喫茶があったのか。行ってみてぇ……

「あそこはなんていうか、風俗っぽいって言うか」

 萌え萌えじゃんけんでもあるのか?あいこでも何もなしの修羅のじゃんけん。

「丘陵にもファミレスあったよな。働くだけならそこでもいいだろ」

 須藤真澄と待ち合わせしたあのファミレス。あそこ普通だし、時給がいいんだったらアリじゃね?

「あのコス着たいのが理由だから」

 バイトしたい訳じゃないのかよ。

「ん?お前等ってバイトしてねーの?していたら地域友好交流の責任者とかやる暇ないんじゃね?」

 実際生駒は半泣きしてたし。あいつの場合、生活に直結しているし。

「バイトしているのは幸と嘘つき野郎だけだよ。若山君もしていない筈だよね?」

「え?あ、うん」

 いきなり振られてうんしか返せなかった様子。

「ああ、藤咲はなんかレジ打ちとか言ってたな。東山は?」

 ヒロの質問に答えたのはトーゴー。

「あいつは新聞配達及び色々。頼まれれば犬の散歩もするし、冬は屋根の雪下ろしとかもするしな」

「そんな仕事、どこで見つけるんだ……」

「そりゃあ、なあ?」

 ああ、力を使ってんのか。あいつの場合、藤咲さんを進学させるって目的があるから、少しでもお金が必要だろうしな。なんか納得だ。

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