文化祭・序~010

 晩飯は食わないで、だけどコーヒーとかフルーツを摘まんで。

 んで、遥香を家に送って行って。家に上げられて過剰接待喰らって。

 帰った時には疲労困憊でベッドにぶっ倒れた程だった。

「つ、疲れた……」

 遠出と過剰接待で肉体的にも精神的にも疲れた。今日はもういい。もう寝よう。

 しかし、その決意は電話で叶わなくなった。誰だよこんな夜に!!言ってもまだ9時過ぎたあたりだけど。

「もしもし?何だよ。もう寝ようと思っていたんだけど」

『まだ時間はええじゃねえかよ。ジジィかよ。つか、今から行っていい?』

「だから、寝ようと思っていたんだよ。つうかお前デートだったんだろ?横井さんはどうした?」

 電話は河内からだった。西白浜で映画観ていた筈だが。流石に横井さんは夜にこいつと二人でいないか。

『晩飯食って解散されたんだよ。だから今から行っていいか?狭川から連絡が入ったから、その報告つうか』

 狭川から?俺にも連絡が来る筈だが、代表で一人に連絡すりゃいいって考えなのか?

 それでもいいが、ムカつくな。手間を省くんじゃねーよ糞が。

「じゃ、まあ、いいけど……」

『そうか。じゃあ30分くらいしたら着く』

 そう言ってガチャンと切られた。意外と焦っているような?

 まあいいや、河内が来るまで仮眠していよう。あいつの事だから勝手に上がって来るだろう。

 30分後、河内到着、結局仮眠できず。

 取り敢えずコーヒーを淹れてお持て成す俺。実に気の利く男だ。

「サンキュー。ところで千秋さんと別れてすぐに狭川から電話が来てよ」

 どんだけ早く話したいんだこいつ。コーヒーに口も付けずに話し出すとか。

 まあいい、何かいい情報が入ったと言う事なんだろうから。

「狭川はなんて?」

「おう、須藤、一回心臓止まったらしいぞ。夏あたりに」

 心臓が大きく鼓動した。止まったって……

「死んだ、って事か?」

「ああ、処置が良くて息を吹き返したようだが、確実にな」

 成程、そこまで悪化していたのか。だったら生霊なんか出さずに大人しく寝てりゃいいだろうに。

 ん?夏あたり?

「……俺達がキャンプした時くらい?」

「話によれば、その二日後くらいらしい。だけど無関係って事はねえよな?」

 頷く。つまり、全員でぶち砕いだ結果、あいつは死んだって事だ。

 生霊相手でもぶち砕けば本体を殺せる。そうだと思っていたが、間違いはなかったか……!

「随分邪悪に笑ってんぞお前」

「……いや、ホントはこういう顔しちゃダメなんだ。だけど……」

「解るぜ。あの狂人女相手すりゃ、そんな顔にもなる。で、狭川が質問してきたんだが、マジでくたばった場合、幽霊になって祟りに来る可能性はあるか?って事らしい」

 死んだ場合か……その可能性は充分にあるが、生霊よりは厄介ではない。死者は生者に勝てない。これも理の一つだからだ。

 それにしてもだ。

「なんでお前に連絡したんだろうな?」

 俺に電話してきても良かっただろうに。

「お前に電話しても出ねえから俺に、って事らしいぞ」

 そうなの?スマホチェックしなかったからなぁ。

 見たら確かに着信があった。バイクでこっちに向かって来た辺りに着信があったようだ。

「狭川も早く話したかったんじゃねえかな。須藤が一回死んだって事でテンションが上がっただろうし」

 そうかもな。まあ、有意義な情報提供だった。主に精神がいい感じに高揚しているし。

「まあ、狭川に言っといてくれ。幽霊になったて祟りに来たら、普通に神社、寺で対処可能だからって」

「おう、言っとく。んで、もう一つ」

「ん?なんだ?」

「京都に行った時にお前、拉致られる可能性があるって話だろ。俺達レベルが沢山いるから一人じゃ難しいって話で」

 そう言う話だったな、国枝君が視たんだから間違いはないだろうけど。

「んで、狭川に似た奴が向こうに居るとか?」

 頷く。そんな話だったな。

「確かに向こうには須藤組の恩恵に与っている奴は沢山いるだろうが、実際に動ける奴は少ないらしいぞ。向こうでも警察に目を付けられているようだから」

 そ、そうなの?向こうであの親父は大人しくしていると思うんだけど、そうじゃねーのかな?

「なんか向こうで親父がいきり出したらしい。あの親父って会社持ってんだろ?」

 頷く。しかしいきり出したとは?

「下っ端がいろんなサイトで須藤組、と言うか須藤の親父の会社の内情をリークしてんだと。それでただでさえ目を付けられていた親父に更に監視の目が厳しくなった。誰がリークしたのか解んねえから、疑わしい奴を取り敢えず粛清して、それをまた誰かがリークして、を繰り返しているようだ」

「いきり出したとはちょっと違うんじゃねーのか、それ?」

「まあまあ、んじゃいつからそうなったかと言えば、キャンプが終わって一週間後くらいからそんなのがSNSに出てきていると」

 遥香の仕業かひょっとして?あいつならやりそうだが……いや、違うな……

「……ひょっとして『社長に命令されて誰々をぶっ叩いて金いっぱい貰った』みたいな自慢話か?」

 頷く河内。

「遡ってみると、それが最初で切っ掛けらしいな」

 すんごい悪そうに笑いながら。つまりこう言う事だ。

「白井か」

「あと誰がやれるんだ。しかしのしかし、そうなると、誰がそのリークした野郎の情報を俺達側に渡したか、って事だよな」

 そりゃそうだな。そう言う奴がいるって個人情報が無けりゃ、白井だってやりようはないんだ。

「んで、俺達には、と言うか、お前には須藤側にスパイみたいなやつがいる筈だけど」

「俺?いたらとっくに使っているんだが」

 だったら後手に回ってねーだろ。

「いやいや、向こうはお前を当てにしてんだから、楽勝で協力するだろ。『会社の社員の情報』なんか簡単に手に入ると思うし」

 会社って、親父の会社か?

「う~ん……須藤組の中に俺の協力者がいるとは思えないんだが……」

「誰が組と言ったよ。俺は会社っつったんだ」

 会社って言うと、建設業と外食店……あ!!

「須藤真澄か!」

 あいつなら確かに『双月』の社員の情報なら簡単に入手できるな!!なんてったって副社長令嬢だから!!

 須藤真澄もそこそこは協力してくれてんだと、ちょっと胸が熱くなった。まあ、あいつの場合は自己都合だろうが、有難いのは変わるまい。

「うん?だけど、遥香は、つうか女子は須藤真澄と連絡付けられない筈だろ。本人が拒否してんだから」

 つまり遥香の指示じゃない。

「あいつが個人でそう言う事するとは思えんが……個人情報を寄越せなんて言う奴も少なくとも男子にはいないし……」

 木村だったらあるいは、だが、俺に何もないんだから木村が指示を出したとは考えにくい。

「ところで、須藤真澄の連絡先を知ってんのは、お前だけ」

「うん」

「じゃないんだな、それが」

 あと誰が?それと、その謎のドヤ顔はやめろ。

「まあ、須藤真澄の連絡先入手は難しいが、狭川だったら何とかなる。俺でも知っているくらいだし」

「まあ、そうだな」

 しかし、好んで狭川の連絡先を知りたい奴なんかいるのか?

「当たり前だが、狭川の連絡先教えてくれってって頼まれたのは俺だ」

「だろうな。誰に?」

「玉内」

 玉内が狭川にねえ……つ―事は、玉内が須藤真澄に社員の個人情報をくれと言ったのか?

 ……いや、あいつじゃねーな。あいつはそんなことするキャラじゃない。じゃあ……

「児島さんか?社員の個人情報くれって言ったのは」

「その通り。玉内が俺に狭川の連絡先を聞いて、そこに連絡して、児島が須藤真澄に取りつないでくれって言ったらしいぞ」

 頷くが、少し疑問がある。

「児島さんによく連絡を許したな?女子とは連絡し合わない筈だろ?」

「まあ、児島は春日ちゃんの件に絡んでねえからな。事実、丘陵にも行っただろ?」

 ああ、そうだったな。児島さんは特例だった。あの件とは関係ないから。

 まあ、解ったよ。

「やっぱり遥香の案なんだな。あいつじゃなきゃ、こういう嫌がらせ考え付かないだろうし」

「多分な。俺も突っ込んだ事は聞いてねえからさ。だけど、これで京都での拉致の可能性は低くなった。須藤組の関係者全員がそれとなくマークされている状況になった訳だからな」

「そもそも、俺的に拉致とかどうでもいいんだが……関わってきた奴等をぶち砕くつもりなのは変わらないんだし」

「お前がそれでいいのは百も承知だろうから、国枝が先に槇原に相談したんじゃねえかよ。だから槇原も先に手を打ったんじゃねえか。ダチと女に気を遣わせ過ぎなんだよお前は」

 いや、河内如きに諭されるなんて屈辱だが、その通りだ。

「お前の言う通りだ、お前程度の頭の出来の奴に指摘されると心に突き刺さるが、本心で反省した」

「マジでヒデぇだろお前!!」

 いや、本心を述べたまでだが、述べたら酷い奴になるのか?

「まあ、お前に関しちゃどうでもいいが、今日横井さんとは楽しかったか?」

「どうでもいいとか本気で心を挫きに来るな!千秋さんは観たかった映画観れて良かったんじゃねえの?俺は千秋さんばっか見ていたから映画は観ちゃいねえから知らねえけど」

「なにしに行ったんだよお前……」

 だったら横井さんの好意に甘えてヤマ農に来たら良かっただろうに。

 ああ、一応デートだからやっぱ映画だよな、うん。

 さて、ヤマ農文化祭(収穫祭)で堪能した翌日。俺達は普通に授業だ。

 その日のHR、ついにやって来た出し物会議。文化祭実行委員はやっぱり花村さんだった。

「じゃあ出し物の提案お願いしまーす。あ、その前に、地域交流イベに参加している人達はクラス展示に参加できないからねー」

 ふふんと得意気に。つまりお前等は何も提案しなくていいと言われたようなもんだろう。

 挙手したのは三木谷君。

「体育館の使用はどうなんだ?じゃんけんで決める筈だろ?」

「負けちゃったのでクラスのみとなりまーす」

 はあ、と言って座り直した。体育館でなんかやりたかったのか?いや、三木谷君はそんなキャラじゃ無かったような気がするが。

「はい」

 大和田君が挙手した。露骨に嫌そうな顔になる花村さんだった。

「はい、大和田」

「俺は映画を撮りたいんだけど、どうかな?」

「はあ、映画……」

 一応黒板に記す。映画、と。

「他はー?」

 他は誰も挙手しなかった。

「じゃあ私からね。お化け屋敷を提案しまーす」

 また?とか誰か言った。一年の時にBに居た人だろう。

「ちょっと待てよ花村、お前が提案してもいいのかよ?」

 苦言を呈する大和田君。提案自体は構わんだろうに。

「当たり前でしょ。私だってEの一員なんだから。他に案が無いようなので、プレゼンして投票で決めます」

「プレゼンって?」

「こうこうしたい。こうすれは経費削減になる。こうやればウケる、とか?」

 成程と納得するクラスメイト。ただ提案しただけの大和田君が真っ青になっていたが、気にしない。

「じゃ、お化け屋敷からね。一年の時にBでやったからノウハウはある。反省点もあるので、それを反映させることで去年よりも利益、集客が期待できる。去年の部材を使用できるので新に作る手間はそんなにかからない。ざっとこんなもん?」

 おおー、と歓声が上がった、言い方は悪いが、確かに楽ができそうだ。

「じゃ大和田。はい」

「え?えーっと、シナリオは既にあるので、時間的余裕がある?」

 あのギャルゲーのパクリな。

「映画は恐らく映研以外はやらないだろうから、珍しさも手伝って客が多く来る、とか?」

 来たお客の大半は低評価だったけどな。

「カメラ、照明機材等はコネがあるから安くレンタルできる、か?」

 お金の事はどうだったか解んないやそう言えば。あの時は自分の事でいっぱいいっぱいだったからな。

 頷く花村さん。

「じゃあどっちがいいか投票で決めます。さっきも言ったように、地域交流イベに参加する人は除外だからねー」

 解った解った。お前等で勝手にやれよ、私達は知らねーから。って言いたいんだろ?

 こっちだってお前なんぞに関わりたくねえよ。だから勝手にやれ。

 で、投票結果、映画に決まりましたとさ。

「なんで!?」

 がっくり膝をつく花村さんだったが、お化け屋敷よりもよりも面白そうだからだろ。

「残念だったわね花村さん。私に投票権があったらお化け屋敷に入れていたのだけれど」

 横井さんがそんな気もないのに嫌味返しを行った。

「え?横井はお化け屋敷を押していたの?」

「ええ。去年の部材の流用可能なのは大きいからね。準備の手間の軽減は魅力だし」

「あ、僕もそう思ったよ。去年のノウハウがあるから失敗も少ないと思うしね」

 乗っかる国枝君。いい感じに追い込むなぁ……

「ま、槇原は?」

「私もお化け屋敷かな?去年の反省点を生かせるのは大きいと思うしね」

 絶対にそう思っちゃいねーだろうが、やっぱり乗っかって追い込んだ。

「じ、じゃあひょっとして、地域交流組が投票すれば、映画に勝てた……?」

「それは解らないけど、私もお化け屋敷に票を入れたよ。去年春日ちゃんが頑張ったんでしょ?やった事ある人が友達なんだから、詳しく聞けるからね」

 絶対嘘だろ楠木さん。君はどっちも興味ないだろ。

「まあ、もう決まっちゃったんだから映画頑張れよ大和田」

 ヒロの結びに再びかっくり項垂れる花村さんだった。対して大和田君は感涙して頷いていた。

 まあ、映画だろうがお化け屋敷だろうが、ぶちゃけ俺達には関係ない話。あとは大和田君を筆頭に各々頑張ってくれ。

 そんな訳でHRをただボケーっと過ごした。

 放課後はやっぱり講堂の整備。終わったらジムで汗を流して。

 会長が何の準備もしていないようだったので訊ねると――

「こっちの心配はいらねえっつうの。お前等はお前等でできる事をやってろ」

 と、一蹴された。

 まあ、確かに、リングとかレフェリーの問題はジムに一任してあるそうだから口出しする必要もない。俺達なんかよりもノウハウは持っているんだろうしな。

 日曜日は日曜日で他校と会議。こっちも横井さんと遥香がメインなので、口出しする事は少ない。

 とか思ったら会議に引っ張られた。俺とヒロが。

 せっかくの日曜日が潰れるのは誠に遺憾ではあるが、これも俺の仕事の一つだ。

「まあ仕方ねえよな。俺達メインだし」

「なんでそんなに嬉しそうなのお前?」

 俺よりもぶー垂れるかと思ったらそんな事は無く、寧ろノリノリのようだし。

「ああ、いや、今日の会議は南女と渓谷だろ?」

「ああ、そうだが、それがどうした?」

「南女の責任者は波崎だ。つまり波崎が来るってこった」

 ああ、忙しくなってなかなか会えなかったからな。それでか。

 しかし、一言言わせてもらうぞ。

「麻美も責任者だろ。と言う事は麻美も来ると言う事だ」

「そりゃそうだろ。それがなんだ?」

「終わったらデートとか考えているんだろうが、麻美と波崎さんが女子達と遊びに行く可能性がデカいって事だ。つまり俺達は留守番」

 目もまん丸くしたヒロだった。そうかもしれねえな!とか叫びながら。

「およ?隆君早いね?」

 あん?と振り向くと、楠木さんと春日さん、黒木さんに里中さんがゾロゾロと会議室に入って来た。

「あれ?なんで……?」

「……私達も会議に参加するから」

 春日さんの台詞である。ああ、そりゃそうだな。だがな……

「そういや春日さん達は何すんの?俺とヒロのスパーはジムが全面的にバックアップしてくれることになったから、生徒は必要なくなったんじゃ?」

「試合はね。それ以外のもあるよ」

 黒木さんが言うと、全員が頷いた。

「それ以外って?」

「そりゃ、展示に決まってるでしょ」

 里中さんが今更何言ってんだと。

 当たり前のように顔を見合わせる俺とヒロ。初耳だからお前知ってた?って感じで。

「……その様子だと知らなかった?」

 春日さんに言われて頷く。俺もヒロも。

「あの、講堂の展示スペース、一区画余っていたのは知っているよね?あそこ、白浜の区画なんだよ」

 そうなのか!?てっきり設計ミスかと思っていた!!

「じ、じゃあ何やるんだ?」

「うん?屋台だよ。食べ物屋さん。当たり前だけど、里中美緒、すなわち私プロデュ―スの『究極の焼きそば』さ!!」

 なんかかっこよく親指を突き出してウィンクする里中さんだが……

「また焼きそばやるのかよ!!結局普通で結論出ただろ!!」

 ジンギスカン焼きそばは普通の味で結論が出た筈だが、懲りずにまたやるのか!?

 俺の困惑のドヤ顔を増す里中さん。

「ふふん、グローバル焼きそばが私のMAXだと思わない事だよ。なんと!!今回は麺に工夫したのさ!!」

「へ、へえ?」

「あ、その顔、期待してないな?どうせ蒸すとか茹でるとかだろとか思っているな?」

 思っていたけど。だってそれ以外だったら太くするとか細くするとかくらいだろ。

「それは凡人の発想。この私が凡人の筈が無いでしょ」

 超ドヤ顔だった、胸の反りも半端なかった。

 相当自信があるようだな……

「お?その顔、気になって気になって仕方がないって顔だね?」

 ずいっと顔を近づけて来た。その分仰け反って距離を取った。

「仕方がない。そんなに気になるんだったら仕方ないな。緒方君欲しがりだねぇ」

 どうしよう……とてもうざくなってきたんだが……

「まあ、焦らしてもしょうがない。同じチームだしね。良かったね緒方君!!」

 なんか肩をバンバン叩かれた。地味にいてーんだけど。

「なんと!!麺は小麦の中華麺じゃなく、米粉を使った麵なんだよ!!これは斬新!!画期的!!」

 もう得意顔でドヤ顔だった。いや、あのな?

「それってフォーとか言う麺じゃねーの?」

 ギシッと固まったのは楠木さん、春日さん、黒木さん。そしてぎぎぎ……を、硬い動きで俺を見た。

 なんで言っちゃうの!?との抗議の瞳だった。

「え?………そ、そう言えばそうか……だ、だったらまた会議のし直ししなくちゃ……」

 しゅんとなる里中さん。真っ青になる楠木さん達。ああ、決まるまで超面倒くさいやり取りが結構な日数あったんだな……

 これはちょっとフォローが必要か?

「それって何味なの?」

「え?塩で攻めようかと」

 頷く俺。突破口は見えた。

「塩の米粉麵なら需要ありまくりだろ。何なら醤油と味噌も出して三種の焼きそばって感じにしたらどう?」

「でも、フォーだからな……」

「いやいや、そもそも麺ってのは小麦を伸ばして面にするから麺なんだろ?」

「う、うん。そう言われているけど」

「だったら米粉『麺』の焼きそばは他に類を見ないだろ。だって米なんだから。フォーはほら、汁物だから別物と言って差し支えない」

 目の輝きが戻った里中さん。

「そ、そうだよね!!米粉の焼きそばなんか史上初だよね!!」

 うんうん頷く俺。精一杯優しい瞳を作りながら。

「よーし!!この史上初の焼きそばで地域交流の天下取るぞ!!」

 拳を握って轟轟と燃えた。安堵してでっかい息を吐く三人娘。これで危機は脱した。

「里中、それってビーフンの事じゃねえか?」

 ヒロの疑問に再び固まった。里中さんだけじゃない、楠木さん達も。

「あ、そ、そうか……大沢に指摘されるとは夢にも思わなかったけど、その通りか……」

「なんで俺がディスられんだ!!」

 馬鹿だな。里中さんだけじゃないぞ、楠木さんと春日さんと黒木さんにも責められる事になるぞ。お前のせいだから俺に頼らずどうにかしろよな。

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