東工~003

 その俺の行動に面食らった東工生。なんかあわあわしていた。

「恩に着る。そして拉致したのが佐伯だ。お前等のイラつきも今日で終わりになる。礼と言ってはささやかで、殆ど自分の為みたいなもんだが、俺にはこれくらいしか出来ない」

 顔を上げてそいつの目を直視して言い切った。

「お、おう…そ、それだけで充分だよ……」

 腰を引かせた東工生。完全に俺に飲まれていた。今の俺はどんな顔をしているのか?東工生の表情を見れば想像に難しくない。

「さっきも言ったけど、佐伯を叩けば生駒が出て来る。俺達は生駒の顔しか知らねえし、実際やり合った事も無いけど、聞いた話じゃかなり強い。気を付けろよ?」

 別の東工生が忠告を発した。俺は頷いてそれに応える。

 その時、河内が休み場にバイクで突っ込んできた。ここってバイク乗り入り禁止な筈だが…

「行くぞ緒方。一応木村にも話しといたから、万が一東白浜駅じゃなくても、どこかで見付けてくれると思う」

 言いながら俺にフルフェイスのヘルメットを放り渡す。

「おう。こいつが先導してくれるってよ。本当に助かるぜ」

「そうか。じゃあ何かあったらこいつに連絡してくれ」

 先導を買って出た東工生が頷く。

「つか、俺にも名前があるんだが。こいつじゃなくて、ちゃんと名前で呼べよ」

 そうだな。失礼な事を言った。

「その通りだ。悪かったな。名前、なんて言うんだ?」

 素直な俺に吃驚したのが河内だ。逆に冷静になっている俺を不気味に感じているようだが。

「俺は対馬って言うんだ。お前と同じ一年だよ。一応こいつも連れていく。矢代って言う。強い方だから、万が一の時に役に立つかもしれねえ」

「そうか。対馬、矢代、よろしくな」

 やはり素直な俺に面食らう河内。そして重い口調で言う。

「対馬と矢代…か。万が一の時は頼むからな」

「乱闘になったら頑張るよ」

「そうじゃねえ。緒方が佐伯を殺しそうになったら、俺の手伝いを頼むって事だ」

 イマイチ解っていない様で、首を捻りながら頷いた。

「…河内、世話掛けるな」

「そう思うんなら自重を心掛けろよな」

 言ってバイクのエンジンをかける。対馬も同じく火を入れた。つうか、対馬のバイクってスクーターじゃねーか。スクーターって二人乗りは駄目なんじゃ…

「一応近くに着いたらエンジンを切って歩くから。見張りがいねえとも限らねえし」

「俺と緒方に見張りの意味なんかないけど…解った。お前の言う通りにする」

 巻き込んだ形になった訳だから、なるべく意を尊重しようって事だ。

 尤も、対馬の方は俺と河内に取り入る形になった訳だから万々歳だろうが。媚び売りたいとか河内も言っていたしな。

 そして先導のスクーターが走り出す。河内がその後を追う。

 …なんだろう?自分でも不思議だ。遥香が拉致られたって言うのに、凄い冷静だ。

 自分でも怖いくらいに。

 東白浜駅。此処も大きい駅だ。成程、駐車場がバイクで埋まっている。東工生の物だろう。

 先導した対馬が停車したので、河内もそれに倣う。

「第三倉庫は歩いて5分くらいの所だ。此処からでも見えるだろ?」

 矢代が指差した先に、確かに倉庫があった。遠目だが、特に破損している部分は無い。

「此処から歩いて近付く。佐伯が使っているとしたら、多分入り口付近に見張りがいる筈だ」

「そうか。解った」

 見張りがいるのなら佐伯もいる。もしくは後で必ず来る。なので躊躇なく歩き出す。

「だから慎重に行くっつっただろ」

 河内が止めるも、構わず進む。

「ちょ!話聞いていたのかよ!!倉庫に居る奴等が騒いだりでもしたら、逃げられるぞ!!」

 逃げる?別にいい。

「佐伯が関わっている事は確定しているんだ。あそこに遥香がいるのならなんでもいい。佐伯は後でぶち砕くさ」

 俺にとっちゃ、今やるか後でやるかの違いでしかない。

「人質を取ってんだろ!!その意味を考えろよ!!」

 それはつまり、遥香を無事に返して欲しくば、大人しくやられろ、って事か?

 …それも対策って言うか、考えは既にある。問題は遥香が素直に頷くかだけだ。

「兎に角、隠れて移動しようぜ。俺達も関わっちまったんだ。此処は言う事を聞いて貰う」

 対馬と矢代にそう言われちゃ…不本意だが、従うしかない。借りは返さなきゃな。どんな借りでも返すのが俺のスタイルなんだから。

 ゆっくり、遠回りに倉庫に近付く俺達。隠れながらだから、思ったよりも時間が掛かる。

 焦れて焦れて、俺一人だけ突っ込みたい気分だったが、河内がその気配をいちいち勘付く物だから儘ならない。

「焦んな。人数云々は俺も心配しちゃいねえ。だけど、スムーズに事を進めたいなら、やっぱり奇襲が一番だと思うぜ」

 河内の説得に頷くが、ただ頷いただけだ。奇襲とか考えちゃいない。

「ところで、何人くらいいると思う?」

 河内が話を振った。

「解らねえけど、集める気になれば20人は」

「20人か。別に大した人数じゃねえけど、人質奪還には手こずるな。そうだろ緒方?」

 乱闘になったら安全に救出できなくなるって事か。

「その中に生駒はいそうか?」

「生駒はバイトに明け暮れているからな。来るとしても4時過ぎだ」

 スマホを開いて時間を確認すると、3時ちょい過ぎたあたりだった。全員ぶち砕いても生駒は間に合わないって事だ。

 いずれにせよ、目に入った糞は全員ぶち砕く。今日だけじゃない、永遠に付け狙う。遥香を狙ったんだから、そのくらいのリスクも考えているだろう。

 俺相手に此処で終わりを期待すんなよ佐伯……!!

 拳を握り固めての決意。その時、先頭の矢代の脚が止まった。

「……居た!!見張りは5人…やっぱりここに連れ込んだんだな…」

 確定となった今、俺を縛るものは何もない。なので糞共の前に躍り出ようとしたが、対馬に止められる。

「焦んなって言っただろ。見ろ、入口は一つしかない。あのドアだけだ。内側から簡単に鍵が掛けられるタイプだぜ?」

 それはよく見る、アルミ製のドア。鍵が掛けられていたら入るのは困難だって事か…

「だったらなんで見張りがいる?施錠できるんなら必要ないだろ?」

 河内が矛盾を発見して指摘した。言われてみればその通り。

「それは何とも言えないけど…施錠できるのかもしれないって事を言いたかったんだよ俺は」

 要するに解らないって事だな。

「例えば鍵が掛けられていたとして、あのドアをぶっ壊せるか?俺が言いたいのは、然程時間を必要とせずにって意味だからな?」

 対馬の言いたい事は解った。施錠されているとして、あのドアはぶっ壊せるのはいいとして、時間を掛けずに壊せるかって事だ。

 もたもたしていたら、中の遥香を逆上してぶん殴るかもしれないと、最悪殺すかもしれないと…

 だから見張りを気にしていたのか…あいつ等を相手している時間も惜しいって事かよ。

「……よし、じゃあこうしよう。緒方が見張りをぶっ飛ばす。その間に俺が蹴破る」

 河内の提案。だが、対馬も矢代もイマイチ乗り気ではない様子。

「……緒方のダチだから、黒潮の頭だっつうんだから、その力は疑わねえけど、言っただろ?時間を掛けずに、って」

 そんな不安な二人を一笑し、言う。

「俺の蹴りならあんなドア、一発だ」

 一発なら問題無いな。それでいいだろ?と促すと、一応ながら頷いた。

「じゃあやるぞ」

「おう」

 俺と河内は同時に飛び出した。対馬と矢代もやや遅れて飛び出す。

 当然簡単に発見された。

「あん?誰だお前がはっ!?」

 右ストレート一閃。お前こそ誰だよ?雑魚の名前なんかには興味は無いが。

「なんだテメェ等!!つかウチの一年じゃねえかごはっ!!!!」

 対馬と矢代を発見した糞にボディ一発で黙らせる。

「うらあ!!」

 糞二人を沈めていた最中、河内がドアを蹴破った。約束通り一発で。

「俺達要らねえじゃねえかよ」

 苦笑いする対馬。いや、助かった。本当に。感謝しているのは事実だ。

「緒方!!来い!!」

 河内が手招きで呼ぶ。三人目を沈め終わったばかりだから問題なく行ける。その前に、対馬と矢代に頼み事をした。

「悪いけど、残り二人、片付けておいてくれ」

 力強く頷く二人。躍り掛からんばかりに向かって行った。

 そして俺達は倉庫の中に入る。

 俺達の奇襲に、糞共は唖然としていて動こうともしなかった。

 倉庫の中には糞共がざっと20人。そして真ん中で服をボロボロに切り裂かれている女子…

 遥香だ。その遥香が俺の登場にやや戸惑いながらも微かに笑う。よく見ると顔が赤い。所々擦り傷や切り傷もある。

 そして遥香の腕を取って、今まさに制服を剥ごうとしている糞…下品なリーゼント、無駄に厳つい身体……!!

「佐伯いいいいいいいい!!!!」

 踏み出した俺。トラウマで俺を思い出したのか、他の糞よりもいち早く反応した佐伯。遥香の首に腕を回して締める形を取った。

「緒方あああああ!!久し振りだなあ!!ちょっとでも動いたらこの女殺すぞ!!」

 言って腕に力を込める。遥香は苦しそうな表情を作った。

「っち!!」

 その顔を見て俺の脚が止まる。

「は、ははははは!!なんだあ?てめえもやっぱ自分の女は失いたくねえのか!?」

 そしてもう一つの手で握っていたナイフを遥香の顔に近付けだ。あのナイフで遥香の服を斬りやがったのか……!!

「動くなよ緒方あ…ちょっとでも動いたら…この女の顔にざっくり行くからなあ?」

 脅しじゃない。俺に復讐する為なら何でもやる。この糞はそう言う奴だ。

 だが、それは予定調和。俺の中では読めていた事。

 だから俺は予定していた言葉を発する。佐伯じゃない、遥香に向かって。

「……遥香、もしも顔に傷が付いても、俺が責任取るから」

 後ろの河内が驚愕したのが解った。他の糞共は固まった儘だったが。

 暫しの沈黙、佐伯ですらも「なに言ってんだこいつ?」みたいな顔で俺を見てやがる。

 その沈黙を破ったのは遥香だった。

「やっちゃってダーリン!!」

 満面の笑顔を俺に向けて。

 ならば迷う事は無い。あのナイフよりも速く、佐伯の汚いツラに拳を叩き込めばいいだけだ!!

 脚に力を込める。今まで以上に、繰り返し以上に。狙うは佐伯の顔面、ただ一点!!

 地を蹴る俺。そんなに距離は無いので、あっという間に間合いを詰めて――

「ひ!!!」

 馬鹿な佐伯はアホ丸出しでガードした。お前ナイフの意味ねーじゃねえかよ。助かったけどなあああああああ!!!!

 左ストレート一閃!!ガード越しとは言え完璧に入った一撃!!

 佐伯は屈んでいたのだが、その上半身が地面にぶち当たるほどの強烈なダウンを奪った。

 遥香を抱き寄せて、転がっている佐伯に蹴り。

「ぎゃあああああああああ!!!!」

 腕に当たった蹴りで絶叫した。拳の手ごたえが教えてくれた。佐伯の左腕を折ったと。そこに蹴りが当たったんだ。痛いに決まっている。

「遥香、ちょっと待ってろよ。こいつ殺すから」

 そう言って今だ呆けている河内に遥香を預けた。

「殺すって緒方…」

「お前、どうでもいいけど、遥香のあられもない姿を見るなよな。俺のなんだから」

 言われて慌てて自分のシャツを脱いで遥香に被せた河内。

 よかったじゃねーか、下にTシャツを着ていてさ。この糞暑い中どうかと思ったが、かなり役にたった。マジ感謝だ。

 これで憂いは無い。よって佐伯を殺す事も躊躇しない。

 俺はゆっくりと佐伯の方を向いて歩を進めた。

「お、お前等!!!なにやってんだ!!緒方をやれ!!殺せ!!じゃねえと、俺達が殺されるぞ!!」

 佐伯が喚いて煽るが、糞共は動きはしない。だけど俺はこう言った。

「佐伯をぶち殺したらお前等も殺す…大人しく順番待ちしとけよ糞共が!!」

 遥香を拉致った事で死刑確定したんだ。これはしょうがない。全て糞共の自業自得だからな。

「ほ、ほら!!!緒方もそう言ってんだろ!!大丈夫だ!!生駒ももうすぐ来るから、少しだけ耐えればいいんだ!!」

 生駒の名前が出た途端、糞共は各々武器を持って身構える。鉄パイプだったり、木刀だったり。

「…ち、緒方一人じゃきついな…」

 河内が遥香を庇いながらそう呟いた。いや、全然きつくないけども。

 丁度その時、倉庫に入ってきた人影が二つ。対馬と矢代だ。

「佐伯一派が全員集合かよ!!」

「緒方をやれるまたとないチャンスだと思ったんだろ…だから全員呼んだんだろ…」

 俺をやれるチャンスだ?逆だ。俺の前に、俺の敵がのこのこ現れてくれたんだよ。

「丁度いい!お前等緒方の女を守れ!端っこに行け!!」

 遥香を預けられて戸惑うも、素直に端に行って遥香をかくまう。その前に河内が立ってガードした。

「緒方!!こっちは任せろ!!近くに来た奴、蹴り殺してやっから!!」

 頼もしいな、有り難い。だけど全員俺がぶっ殺すんだってば。

 再び佐伯の方を向くと、遥香がやけに通る声で河内に頼んだ。

「河内君!ダーリンに人殺しさせないで!!お願い!!」

 …あれ絶対俺に言ってんだよな。殺すなってさ。

 仕方がない。病院送り程度にしておいてやろうか。可愛い彼女さんのお願いだし。ただし…

「お前は別だ佐伯!!」

 踏み出した俺。同時に襲い掛かってくる糞共。

 わざわざやられる為に向こうから来てくれた。本当にありがたい馬鹿共だぜ!!!

「死ねや緒方!!」

 群がって来た糞共は、各々の武器を振り翳して襲ってきた。

 喰らうのはいい。つか、乱闘なら当然で、多対一ならよくある事だ。

 問題は俺を仕留める前に自分達が動かなくなるって事だよ!!

 右ストレート。木刀の糞の顔面にヒット。糞はみっともない悲鳴を上げながら倒れた。

 その木刀を取って倒れた糞に躊躇なく打ち下ろす。

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 顔面が血だらけになった。頭でも切ったか?関係ないけどな!!

 振り回す木刀。倒れた糞にも追い打ちを容赦なく浴びせ、向かって来た糞にも躊躇なく打ち込んだ。

 その結果悲鳴が多くなった。

「やっぱ駄目だ!!やっぱ人質を取ろう!!」

 修羅の如くの俺にビビった糞は、河内、と言うか対馬と矢代に守られている遥香に狙いを定めた。

「馬鹿じゃねえかこいつ等!!その前に俺がいるだろうが!!」

 当然河内に蹴られた糞。ぎゃあ!!とか言って吹っ飛んだ。

「な、なんだこいつ!?すげえ蹴りだ!!」

 河内にビビった糞が遠巻きになる。仕方がない、河内自ら言うのも嫌らしいような気がするしな。

「そいつは的場の後輩で、黒潮の一年生トップの河内だ。木村と対張るぜ。お前等糞共が多少群れようが、勝てる相手じゃない」

 相変わらず木刀で糞をぶっ叩きながら言った。

「黒潮の頭ってそいつか!!」

 佐伯の野郎、調子こいて言葉を発したよ。

「佐伯ぃ…お前、制覇狙ってんだって?西高も入ってんだって?黒潮は西高と五分の協定と友好を結んだんだぞ?東工如きがその二高を相手取れるのかよ?その前に、白浜には俺とヒロが居るぜ…分不相応な真似すんじゃねえよ雑魚が!!」

 血塗れの木刀を佐伯に向かってぶん投げた。

 佐伯の分際でそれを避けやがった。ムカつくなやっぱり。

「生駒って奴に相当の自信を持っているようだけどな、俺はお前を此処で殺す。それは揺るがない!!」

 いつの間にか、群がっていた糞共が、俺から距離を取って震えていた。やっぱ生贄は必要だな、と、木刀でぶん殴りまくって、血塗れで動かなくなった糞に感謝しつつも蹴りを入れた。

 そして俺は声を張る。

「俺の女を狙った奴も殺す!!つまり全員殺す!!」

 さっき河内が遥香に何か頼まれたような気がするが、佐伯は殺すからいいや。どうでも。

「っち!!」

 河内が持ち場を離れて糞に蹴りを入れた。

「ちくしょう!!木村や大沢の気持ちが解っちまった!!俺がこいつ等やるから、お前は引っ込んでろ緒方!!」

 引っ込んでいろと言われてもな。こいつ等俺が殺すんだし。

 と言う訳で、未だに転がっている糞に蹴りを入れた。う!!とか言っていたから、まだ死んでいない。意外としぶといな…なかなか死なないもんだ、人間ってのは。俺は何回も死んだけど。

「だから俺がやるっつってんだろ!!」

 俺に殺させない為に自分がやるっつう事か?ヒロや木村と同じだ。

「だってこいつ等、遥香を拉致したんだぞ?服も切り裂いたし、多分ビンタもしやがった。ケジメ取らなきゃ収まらないぜ俺は」

「お前の代わりに俺がやってやるっつってんだ!!だからお前等大人しく蹴られとけ!!絶対に死なないようにしてやるから!!」

 言いながらハイキックを繰り出す河内。本気で蹴っているのは解る。一発でぶっ倒れて起き上がりもしねーし、倒れて蠢いているし。

 手加減していたら俺がぶち砕く事を勘付いたからか?

「う!うわあああああああ!!!」

 河内の蹴りにパニックになって逃げ出そうとした糞共。それを一喝する俺。

「逃げたら付け狙う!!永久になあ!!!」

 逃げ出す足を止めた。此処で素直にやられた方が、面倒が無くて済むのを理解したか。俺の脅しは脅しじゃないのを知っている連中は多いだろうからな。

 河内がやや神妙な顔で糞に言う。

「…一発で仕留めてやるから、抗うなよ…あとで緒方にとんでもない目に遭わされたくなきゃな…」

「抗うなって…無茶言うな!!」

 糞共が震える足を踏ん張って武器を構え直した。

「お前等が緒方の女を狙ったからだろうが。大体もう勝負はついてんだ。本来ならそこのボスをぶっ飛ばして終わりなんだが、緒方が絶対に納得しねえだろ。可哀想だが、これもケジメだ!!!」

 言って糞共に襲い掛かる河内。遥香はやはり対馬と矢代に守られたまま。向こうは多分大丈夫だろう。もう人質に取ろうなんて思わないだろう。

 取ったと同時に俺に殺される事か確定してしまうからな。

 じゃあ…仕切り直しだ…!!

「佐伯!!お前はマジでぶち殺す!!」

 佐伯の元にダッシュした俺。今まで逃げ腰だった佐伯が立ち上がった。こいつも漸く腹を決めたんだ。

「素直に殺されてやるとか思うなよ緒方あああああああ!!」

 俺がぶん投げた木刀を振り翳して向かって来る。

 その木刀の間合い。当然佐伯が振り下ろしてくるも、それを簡単に躱して懐を取った。

「な!?」

「な!?じゃねーよ糞が!!そんな程度で制覇できるか!!」

 的場なら多分ぶん投げて来た。木村なら木刀を当てる為に策を労しただろう。

 単なる振り下ろしじゃ、俺には永久に届かない。佐伯如きの振り下ろしじゃ俺に当てる事なんか絶対にできない!!

 やや接近しすぎた感があるが、だったらより接近しての、下かちあげるパンチ。アッパーを放つ!!

「あああああああああああ!!!あああ!!!!」

 腰の捻りを左拳の乗せて!!

「がっっっっっっっっっ!!!」

 綺麗に決まったアッパー。佐伯如きはヒロのようにデフィンスが上手い訳じゃないから、ダメージも半端無い筈だ。

 しかし俺は不満だった。拳に砕けた感触が伝わっていない。

「頑丈だな佐伯いいいいい!!!」

 たたらを踏んで後退する佐伯のボディに右ストレート!!

「ぐうううううう!!!」

 今度は腹を押さえて膝を付いた。

 丁度テンプルががら空きだったので打ち下ろしの右!!

「がっ!!」

 ぶっ倒れた佐伯。だが、これで終わると思うなよ!!

 俺がぶん投げて佐伯が持った木刀が丁度転がっている。これを有効に使わせて貰おう。

 俺は木刀を拾い、佐伯に何度も何度もぶち喰らわした。

「まだ死ぬなよ佐伯!!何度も何度も、俺の気が済むまでぶち喰らわすから、それが終わるまで死ぬな!!」

 言いながら何度も何度も。血飛沫が舞っているが構わずに、何度もぶち喰らわした。

「くそ!!くそくそくそ!!くそがあああああああああああ!!!」

 キレて佐伯が立ち上がる。

 一応ガタイがいいからタフではあるんだよな。尤も、パンチじゃなく木刀だから立てたんだろうが。

 だが、立っただけ。脚はフラフラ、目も焦点が合っていない、何の構えも取っていない。隙だらけの死に体だ。

 じゃあ立てなくしてやるよ!!

 顔面に右ストレート!!今度は砕いた感触が右拳にあった。

 滝のように鼻血を流して膝を付こうとした佐伯。鼻を折ったんだが、それだけじゃ終わらせねえーって!!

 頬に左フック!!デカい身体が半回転した。踏ん張りも利かなくなって来たか?だがまだだ!!

「殺す!!!」

 右フック!!折れた鼻は直撃せず。残念。

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」

 うるせーよ。黙れよ…

「殺す!!殺す!!殺す!!ころしてやらあああああああああああああああああ!!!!!」

 声を聞くのも不愉快だ!!完璧に黙らせてやる!!永久に喋んな!!!

 左拳に肉を叩く感触。何処を打ったのかも解らない。多分目に入った所だろう。

「河内君!!ダーリンを止めて!!!」

 遥香の悲痛な叫び声が遠くから聞こえる。しかし、伝わったのは右拳に肉を打った感触。

「緒方!!そこまでだ!!死んじまうぞ!!」

 何言ってんだ河内?こいつは殺すんだよ!!

 佐伯から距離を取った。大砲をぶちかます間合いを確保したのだ。


「死ね」


 踏み込んだ脚。地面から伝わる回転。

 その回転が脚から腰、腰から背中、背中から肩に伝わった。

 これが一撃で糞を殺すパンチ…こっちの緒方君が必死に開発したパンチ!!!

 後は肩から肘、肘から右拳に伝達させれば、佐伯とは永久にオサラバだ…!!


 ♪♪♪~♪♪~~♪~♪♪~~


 スマホに着信が…こんな時に何の用事だ…?


 麻美。


「!!!?」

 一気に覚醒して無理やり拳を止めた。

 右拳は佐伯の顔面ギリギリで漸く止まり、同時に佐伯が崩れ落ちた…!!!

 や、ヤバい…ヤバいヤバいヤバい!!出た!!出てしまった『明確な殺意』が!!

 多分俺は真っ青になっていたのだろう。佐伯をただ見下ろしている状況だった。

「……ゥぐ…エッ…」

 ……泣いてやがる…のか?何でもいい…生きているのなら…何でもいい…

 その間も麻美からの着信音が流れていた。俺を引き戻してくれた着信音が……

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