顔合わせ~002

 家に帰った俺は、スマホでポチポチと検索する。バイクの免許を取るには幾らくらい掛かるのかを調べる為だ。

「…23万超かよ…」

 その他にもヘルメットとかブーツとか、必要な物を揃えなければならないから30万くらい?

「………貯金いくらあったっけ…」

 俺の世界では30万以上は貯蓄があったが(外に出歩かない為にあんま金使わなかったからだ)こっちの緒方君はどうなんだろう?

 机の引き出しから通帳を引っ張って中身を確認する。

「…こっちの緒方君もあんま金使わなかったみたいだな…」

 見るとやはり30万以上。小遣いやらお年玉やら貯金していたお金だ。糞に見られたら奪われるかもと、財布も持ち歩かなかったし。

 しかし、これじゃ免許代で終わってしまうな…

 椅子の背もたれに体重を預けて天井を見る。

「…バイトするしかねーか」

 免許だけあっても仕方がないからバイクは必要だろうし。免許取ったら欲しくなるだろうし。

 そう考えていると、家の呼び鈴が鳴った。麻美なら呼び鈴なんか鳴らさずに入って来るだろうから、お客さんが来たと言う事だ。

 ハイハイと扉を開ける。そこには意外な人物が。

「国枝君?」

「やあ緒方君。ちょっと話をしたいと思ってね」

 来客は国枝君だった。しかし、俺ん家の場所よく解ったな。

 来てくれたのは単純に嬉しいので、自室に招く。

 そして豆を挽いてコーヒーを二つ淹れて部屋に戻った。

「はい。国枝君は無糖もしくは微糖だったよね。砂糖は角砂糖しかないから、お好みで入れて」

「有り難う。僕の好みも知っていたんだね」

 微妙に嬉しそうにコーヒーを啜る。砂糖は入れなかったようだ。

 しかし、わざわざ訪ねて来たと言う事は、大事な用事があると言う事だ。例えば春日さんの事とか?

 一息ついた国枝君。真剣な眼差しを俺に向けて言った。

「…緒方君はバイクに興味があるかい?」

 …大事な話ってバイクの事か…

 いや、いいんだけど。友達同士だ。雑談の為にわざわざ訪ねて来るのもアリだ。

 しかし、好都合と言えば好都合。俺もたった今バイクの事を考えていたし。主に資金繰りで。

「ある、と言うより、国枝君や木村と約束したんだよ。ツーリング行こうってさ」

 そう言うと嬉しそうな顔を拵えてカバンから書類を出した。

 見てみると、学校側からの許可の条件みたいな内容だった。

「なになに…赤点を取ってはならない?成績も関係があるのか…」

「うん。免許は取っても構わないんだけど、コピーして提出するとか、色々あるんだ」

「赤点を取った場合はどうなるんだ?」

「一ヶ月の免許取り上げだね。違反もそうだね。人身に関しては問答無用で返上させるみたい」

 まあ、人身はいかんからな。それは納得だ。

「僕が今日早くに教室から出た理由は、学校から免許の許可を貰う為だ。その時渡されたのがこの書類だよ」

 俺の読みは正しかったと言う事だな。これを読んで文句が無いなら保護者からハンコ押して貰って来いみたいな事が記されている。

 国枝君はウキウキとカバンから雑誌を取り出して広げて見せた。

「バイク雑誌か」

 まだ免許も取っていないだろうに、国枝君はニコニコと嬉しそうだ。

「うん。僕が欲しいのは、ツアラーと呼ばれるタイプなんだ」

 …このレーサーと何が違うのか解らん。多分何かが違うんだろう。

「僕はホンダファンなんだ。CB400スーパーボルドール。カッコイイよね」

 ウットリしている国枝君。俺はただ頷いて応えた。よく解らないからだ。

「…ん?んんん?66万円!?」

 このバイク60万以上するのか!!まさかこれを買うのか!?

「ああ、新車ならそうだね。でも、僕はお金がないから中古だよ」

「そ、そうか…中古なら…」

 5万くらいで手に入るのか?だったら何とかなるかもだ。

「大体40万くらいのを狙っているんだけどね」

 40万!?中古車で!?バイクって高いんだな!!つか、国枝君、お金持ちなんだなあ…

 だけど、そうなると、ちょっと待て。

「国枝君、俺も今免許の事をちょっと調べたんだけど、免許取るのにヘルメットとかブーツが必要だろ?それを合わせると30万だ。バイクと合わせると70万になるだろ?」

「そうだね。高いよね」

「いやいや。高いなんてもんじゃないだろ。俺達高校生だぞ?70万なんて大金…」

 少なくとも俺は持っていない。国枝君はどうなんだ?

「僕の場合は、成績上位キープの約束で、免許代は親から出資して貰えたから、実質バイク代だけかな?」

 うわ狡いな!!国枝君はクラストップの成績だから楽勝だろ!!

「でも、維持費はどうするか考え中だよ。ガソリン代とか車検代とか、保険代とかね」

 バイク買って終わりじゃねーのか!?そりゃそうだよな。俺でもガソリンが無いと走れないのは知っているし…

「…原チャリでもいいか…」

 そう呟いた俺に国枝君が目を剥いた。

「何言っているんだ緒方君!!最低でも250ccは必要だよ!!長距離を走る時に50ccじゃ疲れるよ!!」

 俺の肩を掴んでの力説だった。若干目が血走っているし。その迫力に俺は思わず首肯した。

 首肯に安心したようで、笑いながら手を離して座り直す。

「本当になるべくなら大きい方がいいからね。緒方君も本当は400に乗って貰いたいんだけど」

 そう言われてもな…正直全く解らないし…

 折角なので国枝君が持ってきた雑誌をぱらぱら捲ってみると、この400が凄いみたいなページにぶつかった。

 国枝君が欲しいと言ったバイクもこのページに載っているし、昔のバイクも載っている事から、ちょっとした年鑑になっているようだ。

「このカタナ?ってのは聞いた事があるな…」

「スズキのGSX400Sだね。このバイクも人気があるよ。見た目からしてかっこいいからね。でもやっぱり1100Sが一番人気かな?」

 デカい方が人気があるっつう事だが、中型免許の俺達には関係ない話だ。

「ニンジャってのも聞いた事がある」

「カワサキだね。カワサキのバイクは根強い人気があるよね」

 全く以てよく解らん。なんでGPZやらGPXやら、似たような名前のバイクがあるんだ?

「緒方君はどんなバイクがいいんだい?よく解らないようだけど、形はこれがいいとかないのかい?」

 う~ん…ぶっちゃけ全部同じように見えるからな…

 カウル?付いているのと付いていないのと。あとは悪路を走るようなタイプとスクーターか。

 あ、これなんか赤いからいいかも。赤いからって理由で選ぶのもなんだが。

「んじゃこれ」

 指差した先を見る国枝君の表情が微妙だ。なんだ?これダメなバイクなのか?

「うん…これはこれで有りだと思うけど…最初は国産にした方がいいんじゃないかな?」

 なに?これ外車なの?つかバイクにも外車ってあったのか?

 あるだろうなそりゃ。バイクを作っているのは日本だけじゃねーしな。

「でもスポーツタイプがいいんだね?じゃあカワサキの…」

「いや、まだ早いから。免許取れるの8月だから」

 このまま行けば、免許を取る前にバイク買わされる羽目になりかねん。国枝君が暴走するのはレア現象だけど、それは勘弁だ。

「そうか。じゃあ8月には一緒にツーリングに行けるのかな?」

「そう…なるのかな?」

 どうしよう。国枝君がキラキラして俺を見ている。

 あんま興味ないからゆっくりじっくり考えたいのが本音なんだが、この国枝君を無下にできない!!

「じゃあ免許代は貯めないとね。貯金とかは?」

「貯金は30万ちょいあるから、免許を取るお金はあるけど…」

 取った後に乗るバイク代が無い。だから原チャリでもいいか、と思ったんだが、国枝君が納得してくれそうもない。

 汗ダラダラでキラキラ国枝君を迎え撃っている俺は、取り敢えずどうにかやり過ごそうと模索した。

 だって免許だってまだ先の話だし、バイク云々はどう考えても早い。

 そんな俺に希望の音が耳に入った。玄関のチャイムだ。客が来たと言う事だ。

「く、国枝君、お客さんが来たみたいだから、ちょっと席外すね」

 立ち上がった俺。同時に部屋のドアが軽快に開いた。

「隆ー。ちょっとすごい話聞いたよー!」

 麻美さんだった。こいつ俺ん家には許可なく入ってきやがるんだよな。だったら呼び鈴鳴らす意味無くない?

「お?おおおおお?おおおおおおお?え?隆のお友達?」

 国枝君に気付いて興味深気にじろじろと見る。失礼だろ。初対面なんだし。

「おい、昨日写メ見せただろーが。国枝宗近君だ」

「あー!あー!あー!国枝君!!!」

 めっさ興奮して手を取ってぶんぶん振り回す。国枝君は困惑状態だ。

「こんな馬鹿な隆とお友達になってくれてありがとね!!私、日向麻美!!」

「あ…国枝宗近です…!?」

 困惑な表情は変わらずだが、一瞬固くなった様な?表情もそうだが、身体全体がそうなったような?

 対する麻美も、一瞬だが表情が暗くなった様な?

「ねえねえ国枝君さ、隆の彼女ってどう?話は聞いたけどさ、第三者の視点からも聞いてみたいんだよね~」

 ずずいと接近しての恋バナ催促。さっき感じた暗くなったのは気のせいか?めっさはしゃいでいるし。

「おい麻美、なんか用事があったんじゃねーのかよ?」

 超引いている国枝君を救出する形になったが、訪問の目的をまだ聞いちゃいない。

 こいつの事だから、暇だから来たって線もあり得るが。

「あ、そうそう。今日も西高の馬鹿が南女に来てさ。その中に阿部もいたんだよ。当然私の顔を見ると同時に逃げようとしたんだけどさ、とっ捕まえて…」

「お前阿部を捕まえたのかよ!?なんで!?ぶち砕く為!?」

「私が男子を殴れる訳ないじゃん。殴れるけどダメージ負わせる事出来ないじゃん。じゃなくてさ、昨日言っていた木村君?の事を聞こうと思って」

 こいつも大概野次馬だな。つか、俺の話信じてなかった筈だが…

「その話なら聞いた。入学初日で一年掌握した話だろ?」

 情報が古いぜ。俺は今朝知ったんだからな。

 と、少々悦に入っていた俺だが、麻美の続く言葉にちょっと驚いた。

「いや?今日のお昼休みに二年制覇したとか?隆の言った通りなんだね。凄いねその人!!」

 グーを握って興奮アピールの麻美さん。木村はそれくらいはやるだろうと思ってはいた。いたが、予想よりちょっと早い。

 俺が知っている木村より強いのかもしれない。

 しかし俺は努めて冷静に返す。

「そりゃ想定内だ。木村はそれくらいはやるよ」

「でも西高だよ?早すぎない?」

 うん。それはそう思うが。

「…確かに凄いね…緒方君が言った通りの人か…彼は本当に僕と友達になったのかい?」

 若干青ざめている国枝君。俺よりも逆にプライベートで会っているだろうとは思うけど。

 俺はバイクの免許持っていないから、一緒に走りに行くって事は無かったし。

 麻美は興奮で喉が渇いたのか、隠し持っていたお茶のプルトップを開けて一気に煽る。

 ん?つか、それって…

「俺の烏龍茶じゃねーか!!冷蔵庫からパクって来たのかよ!?」

「ああ、うん。うん。喉渇いていたし」

 全く悪びれもしないでケロッとしてやがった。いや、いいんだけどな。別に。一言あってもいいだろうにと思う俺の方が異常なんだろう。きっと。

 まあ、烏龍茶は諦めよう。

「つか、そんなつまらん報告の為にわざわざ来たのか?」

「む、つまらんって言い過ぎじゃない?隆のくせに」

 ムッとして言い返す麻美さん。だから隆のくせにとか言うのやめろ。

「つか隆、その雑誌なに?」

 国枝君が持ってきたバイク雑誌を発見し、ペラペラ捲る。

「あ、それ僕が持ってきたんだ」

「国枝君バイク乗るの?凄いねえ!!」

 麻美さんの瞳がキラキラになった。こいつバイクに興味あったのか?いや、無かった筈だ。

「じゃあ隆にも免許取れって説得しに来たんだね?」

「説得って言うか、ちょっと話をしたかったから…それに、緒方君も取ると決めていたようだよ」

「隆が免許取ったら、毎朝南女までアッシーに使える…」

「交通手段に俺を使おうって魂胆のキラキラかよ!!本当に酷いなお前は!!」

 嘆き、悲しむぞ終いには。お前、俺の扱い酷過ぎるだろ!!

 それを聞いた国枝君は苦笑する。

「日向さんは流石に槙原さんの次じゃないかな?最初に後ろに乗るのは槙原さんでしょ?」

 目を見開いた麻美。天啓を受けたかのような、稲妻のエフェクトが背景にあるような表情だった。

「隆の彼女だもんね!!そりゃそうか!!流石国枝君、メガネキャラだね!!」

 親指を突き出して賛辞した。つかメガネキャラって、以前遥香にも言われたような?

 対して苦笑する国枝君。

「眼鏡はコンタクトが僕には合わないから。だから掛けているだけだよ」

「ん?そう言えば写メで見たけど、槙原さんもメガネキャラだよね?」

「あー、なんかなるべく地味に見られるようにって事らしいぞ。痴漢対策だかなんだか」

「あ、あの胸だもんね。そりゃ痴漢にも遭うわ。でも、これからはそんな心配いらないかもね」

 そうだね、と頷く国枝君。俺は頷くポイントが解らないんだが…

「その顔はなんで?って顔だね」

 やはり苦笑する国枝君。俺は素直に頷いた。同時に麻美がでっかい溜息をつく。

「なんだよ?解らない事がそんなに駄目なのかよ?」

 流石にムッとする俺。解らんから聞いたんじゃねーかよ。

「あのね、槙原さんはあの胸で目立っちゃう訳。隆みたいな童貞の視姦とか、オヤジのスケベったらしい視姦とか」

「童貞で何が悪いんだよ!!」

 お前だって処女じゃねーか!!

 …処女だよな?処女じゃなけりゃ、結構悲しい物があるような…

「まあまあ。視姦で済めばいいけど、痴漢には遭い易い。目立つからね。だけど緒方君と付き合った事により、少なくとも緒方君を知っている連中からは被害を受けなくなる、と言う事だよ」

「そうそう。無駄に有名人だからね隆は。凶悪狂犬。見られたら殺される、って。その真実に近い評判が役に立つって事よ」

「納得したけど、お前はやっぱり酷いな!!」

 泣きそうだが解った。要するに俺の彼女だから、おかしな真似したらぶち砕かれる。それは勘弁、って事か。

 悪評も抑止力にはなる。糞をぶち砕いて来たのは無駄じゃないって事だな。

 ホント言うと、ぶち砕かなくてもいい糞が居ない方がいいんだけれど。

 そんなこんなで麻美と国枝君を交えてのお喋り。途中お袋が仕事から帰ってきてちょっと騒ぎになった。

「ただいま~。靴あるけど、ヒロ君と麻美ちゃん来てるの?」

「あ!おばさん帰って来た!!」

 とたたた、と階段を降りる麻美。お袋に何やらごにゃごにゃと話している。

「え!隆にヒロ君以外の友達!?」

 そうデッカイ声が聞えて来たと思ったら、だだだだだ!!と階段を勢いよく駆ける音。お袋だった。

 お袋国枝君を見た途端、よよよ、と大袈裟に泣いた振り。

「なんだよ?やけに芝居がかっているけど?」

「隆にこんな賢そうな友達ができるなんて…」

 ちょっと驚いていた国枝君が此処で自己紹介をする。

「初めまして。国枝宗近と言います」

 ぺこり、と同時にお袋がまた大袈裟によよよ、と。

「なんだよ一体!?」

「隆にこんな礼儀正しい友達が出来るなんて…奇跡だわ!!」

「麻美も酷いけど、お袋も大概酷いな!!」

 俺とお袋の言い合いを苦笑いで大人しく見ていた国枝君。つか、お袋の言い分に俺もそう思うから、国枝君に掛ける言葉が見つからなかったのは内緒だ。

「おばさん、隆に友達も驚きだろうけど、彼女も出来たんだよ!!」

 そう言って光の速さで俺のスマホをパクって写メを見せた。つか、何でそんなに俊敏なの!?

 お袋写メ凝視後、バッタもビックリな後退りジャンプを見せる。

「隆に彼女!!今日はお赤飯にしたほうがいいかな!?」

 なんで彼女出来た程度で祝われなきゃいけないんだ!?

「わーい!!お赤飯!お赤飯!!」

 こちらはジャンプしてはしゃぐ麻美さんだ。晩飯食っていくつもりなのか?

「国枝君だったっけ?晩御飯食べていきなさい?」

「すみません。ごちそうになります」

 礼儀正しく礼をする国枝君だった。国枝君は共働きで多忙だから、いつもはスーパーの惣菜とかで済ませるんだったか。

 お袋の飯を旨い旨い言って食っていたからな。お袋も作り甲斐はあるから良しだ。

 つか、俺は赤飯あんま好きじゃないんだが…名目上俺のお祝いだったら、俺に食いたいもん聞くとかしてくれてもいいだろうに。

 少しして親父も帰ってきて、国枝君を紹介した。

 国枝君に親父もビックリして、鞄を足に落とすと言う古典芸まで見せてくれた。

「た!隆にこんな賢そうな友達が出来るなんて!!」

「いや、そうだけどさ、俺もコミュ症じゃねーんだから…驚きすぎだろ…」

 俺の肩から麻美が顔を覗かる。

「おじさん!隆って彼女も出来たんだよ!!」

「はああああああああああああああああああああ!!?エイプリルフールは終わったんだぞ麻美ちゃん!?」

 目ん玉が零れ落ちそうなくらい目を剥いての全否定。驚きすぎだろオッサン。

「ホントだって!!ねえ国枝君!?」

「はい。緒方君の恋人さんは、同じクラスの槙原さんと言う子です」

 そう言って自分のスマホを見せる。

 親父はそれを凝視して、お袋と同様にバッタもビックリな後退りジャンプをかました。

「ホントだった!!!!隆が知らないお嬢さんと腕組んでる!!!」

「だから驚き過ぎだ!!俺を一体なんだと思ってやがる!!」

 彼女なんだから腕くらい組むだろうに。それも遥香から組んできたんだけど。

「で、い、いつ連れて来るんだ!?」

 血走った目で俺の肩を掴んで揺さぶるオヤジ。必死過ぎだ。

 前回も遥香押しだったからな。あのおっぱおいにやられたとか言わないだろうな?

「その内連れて来るから心配すんな」

 強引に掴まれた肩を剥がしながら言った。

「そ、そうか?その前に別れたとか言わないだろうな?」

 なんつー親だ!!思ってもそう言う事いうなよ!!

「大丈夫ですよおじさん。槙原さんは緒方君のこと本当に好きみたいですし」

「え!?マジで!?」

「え!?マジで!?」

 親父と麻美が同時に発した。なんで!?

「土下座して付き合って貰ったって言ったから、向こうはそうでもないのかな、と思ってた…」

「こんな馬鹿な頭の息子を、本気で好いてくれる奇特な女の子が存在したとは…」

「お前等本気で酷過ぎるだろ!!心折れ捲りださっきから!!」

 ちくしょう!!近いうちに絶対に連れてきてラブラブぶりを見せつけてやるからな!!

 そう俺は固く心に誓った。

 つか、玄関先で話すことも無いだろうに。

 俺は国枝君を促して二階に上がる。麻美は勝手について来る。

「ふう…飯が出来るまで部屋に閉じ籠ってなきゃ、ウザったい事になるな…」

「それだけ隆に友達と彼女が出来た事が嬉しいんだよ」

 そうなんだろうな。中学時代のこっちの緒方君も相当だったようだし。

「ところで緒方君、君のいた世界と、こっちの世界の緒方君は同じ感じなのかい?」

 麻美の居る所で聞いてきたので驚いた。麻美に言った事は話したけど、気を遣って言わないかと思っていたからだ。

「昨日大体の事は聞いたけど、ほぼ同じようだったよ。こっちの隆も中学時代、酷かったしね」

 お前あんま信じていなかったんじゃねーのか!?

 驚きすぎて麻美を二度見してしまった!!

「そうなんだ。じゃあいつもの君の振る舞いでも、違和感を覚えないからいいよね」

「だ、誰が違和感?」

「勿論ご両親だよ。おかしな勘繰りされちゃ、君も嫌だろう?」

 そ、そうか。そうだよな。親父とお袋がこんな話を信じる筈が無いし、いつもの俺とほぼ同じなら、不信感も抱かないだろうし。おかしな心配をされなくて済んだと言う事だな。

 そんなこんなで夕食になった。おかずはトンカツだった。

「わあ!とんかつだ!!お赤飯ととんかつなんて贅沢だねえ隆!!」

 言いながら光の速さで俺の横に座って箸を取る。お前やっぱ食っていく気満々だったか。

「国枝君、一杯食べて行ってねえ」

「ありがとうございます。いただきます」

 そう言って一口。

「美味いですね。僕の家は両親の帰りが遅くて、夕飯はスーパーかコンビニの物で済ませるんですけど、久し振りに温かいの食べたなぁ…」

 国枝君の発言にしんみりする俺両親&麻美。俺は既に知っているからモリモリ食うだけだ。

「そうなのか。国枝君沢山食べなさい。かあさん国枝君の赤飯大盛りにしてやって」

「いえ、まだ入っていますから…」

 今食べ始めたのに大盛りとか。ウチのオヤジも大概残念だ。会社では結構なポジに居る筈なのに。

「しかし、隆にこんな賢そうな友達が出来て一安心だわ」

 お袋が涙を浮かべてそれを人差し指で掬い取った。大袈裟過ぎるだろ。まあ、今までの俺が俺だから、心配していたんだろうなぁ…

「国枝君は隆とどんな話をしているんだい?」

 親父が話題を振る。

「今日はバイクの事で話が盛り上がりました」

 いや、俺は別に…だが、親父の目つきが変わった。

「バイク?国枝君免許持っているのかい?」

「まだ誕生日が少し先ですけど、取る予定です」

「おじさん、隆もバイクの免許取るって言ってたよ」

 会話に加わる麻美さん。赤飯をモグモグやりながら。

「隆、バイクの免許を取るのか?」

「そのつもりだけど、免許は兎も角バイクをどうしようかな、って考えるとな…」

 貯金では免許とかヘルメット代はなんとかなるとして、バイクそのものが買えない。

 だから原チャリでもいいかって思っていると言ったら、国枝君が必死に止める。

「絶対に大きなバイクに乗りたくなるんだから!!それは無駄なお金になるよ!!」

「そうだな…この父も若い時に125CCに乗ったが、もっと大きな排気量のバイクに乗りたくなって、結局400のバイク買ったしなあ…」

 親父がバイク乗りだったとは驚愕の事実!!だからさっき目つきが変わったのか!!

 つか、この父ってなんだ?そんなに威厳無いだろ。

「隆はどんなバイクに乗りたいんだ?」

 どんなバイクも何も、バイク自体あんま詳しくないんだから解らんわ。今日初めてレーサーとかツーラーとか知ったし。

「赤いバイクは国枝君にやめた方がいいと言われたからなあ…」

「なんだその赤いバイクって?」

「ドゥカティ400SSです」

 親父はあー、という顔になって、腕を組んで背もたれに体重を預ける。

「隆、何そのどぅかてぃって?」

「なんか外車みたい。俺もよく解らないんだ」

「バイクにも外車ってあるんだ…」

 俺と同じ感想かよ麻美。バイクに興味ないならそんなもんだって事だな。

「国枝君、そのバイクが何で駄目なの?」

「駄目って訳じゃないんだけど、初心者にはちょっとつらいんじゃないかな、って事だよ。セパハン過ぎて曲がれないって」

 セパハンって何だ?つか、曲がれないバイクなら要らんな。俺はスクーターでもいいんだしね。

「それに遅いって話だしな。速さを求めるのなら素直に国産がいいと」

 親父も結構詳しいな。昔バイク乗りだったってのは本当だったようだ。

「まだ免許も取ってないんだから、今から乗るバイクの事を心配しても仕方ないだろ」

 俺の誕生部は8月、まだ焦る時期じゃない。つか、飯冷めちゃうから、こっちの方を焦るべき。

「そうだねー。南女にアッシーしてくれるなら何でもいいけど」

「それは確定なんだな…」

 つか、そんなもん親父に頼れよ。喜んでアッシーやっていたし。

「でも緒方君、今から少しでもバイク選びをしておけば、知識も増えるからいいと思うよ?」

「う~ん…ぶっちゃけみんな同じに見えるんだよ。だからバイク選びの前に、バイク雑誌見捲るよ」

 そうなれば興味湧くと思うし。俺のペースでのんびりやるよ。

「隆、バイクを買う時は少し援助してやるから、たまには父にも乗せてくれ」

「マジ!?それは有り難い話だ!!ぜひぜひ!!」

 思わぬ所から思わぬ申し出!!これはウルトララッキーだ!!

「いいなあ緒方君…」

 マジに羨ましそうな国枝君。成績キープで免許代出して貰えるんだろ?いいじゃねーか。

「じゃあ高い奴買おうよ!!ハーレーとか!!」

 思わぬ申し出に一番はしゃいでいるのは麻美さんだった。親父がお金を少し出してやると聞いた途端に欲が出るとか!!

「ハーレーは大型だから、買っても乗れないよ」

 苦笑する国枝君だった。ハーレーは俺も知っているけど、あれって中型ないのか。

「え~そうなの?じゃあ大型免許取ればいいよ」

「大型は18歳からだから取れないよ」

「えー!?世知辛いなあ…」

 ブツブツ言いながら赤飯を頬張る。つか、ハーレーにそんなに愛着があったのかよお前?

「いずれにしても、もうちょっと調べてからだな。今は入口も入口。先ずは興味を持つ事からだ」

「その言葉を聞く限りじゃ、本気で興味が無いように思えるけど…」

 国枝君には申し訳ないが、ツーリングに行きたいってだけでバイク自体にはあんまり…が正直な所。

 でも、興味持った方が、楽しさが増す事は明らかだし、やっぱり雑誌見る事から始めようと思う。

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