夏休み~007

 予定通り、飯を食って、家に着いた時間は7時半ちょい過ぎ。

 部屋に明かりが灯っている事から、既に遥香がスタンバっているだろうと予測。

 玄関を開けると、親父、お袋の他に、女子の靴が……5足?5人も来ているのかよ…

「まあ入れ。生駒もコーヒーでいいだろ?」

「ああ。だけど途中のコンビニで結構買って来ただろ?別に淹れなくても…」

「いいんだよ。俺が持て成したいだけなんだから」

 客を持て成さないでどうすると言うのだ。此処は俺ん家。俺が持て成さずにどうする。

「そ、そうか…じゃあ頼む」

 なんか微妙に嬉しそうに。そしてヒロ達に着いて二階に上がって行く。

 俺は台所でコーヒーを………

「「「ええええええええええええ!!!???」」」

 うるせーな。何を騒いでんだよ。もう夜だぞ?近所迷惑になるだろうが。

 兎に角全員の分のコーヒーを淹れ、女子達の分も淹れ、俺も部屋に向かう。

「コーヒー淹れたぞ。つうかなに騒いでんだええええええええええええ!!!!????」

 俺もビックリして叫んでしまった。

 女子は遥香、麻美、黒木さん、春日さん。そしてもう一人が………

「楠木さん!?なんで!!?」

 楠木さんが俺の部屋に居たのだから、驚くなって方が無理だろう。

 ヒロも国枝君も生駒も、口を半開きにして固まっている。あの木村でさえも。

「…緒方が来るまで待ってやったが、お前、なんでここに居る?」

 訊ねたのは河内だ。黒潮の連れに薬を売り付けようとした事への謝罪がまだだから、出歩いている事に少し怒りを覚えているのだろう。

 出歩けるのなら詫びに行けよと。俺もそう思う。

 そしたら楠木さんが正座になり、土下座の形に。

「…あの時はごめんなさい。お金が欲しくてやりました。本当にごめんなさい」

 理由も簡単ながら述べた。更にまだ頭を上げていない。深く謝罪しているとの印象は見える。

「……俺に言っても仕方がねえだろ。連れが被害者なんだから……」

「それね、今日謝りに行ってきたんだよ。黒潮に」

 遥香の言葉に絶句した河内。だけじゃない、みんな。 

「え?ええ?美咲、お前黒潮に謝罪しに行ったのか?」

 生駒が超及び腰で楠木さんに訊ねた。なんだそのへっぴり腰?

「うん。槙原さんが家に訊ねて来てね。謝りたいのが本当なら付き合うからって」

 此処で漸く頭を上げた。その表情はなにか吹っ切れたような感じだったが…

「お前、楠木さんにそんな無茶させたのか!?」

 今度は俺が突っ込む羽目になった。

「無茶って言うか、謝罪なら早い方がいいでしょ?」

 いや、その通りなんだが、いきなりすぎるだろ!!

 色々先走りじゃねーの!?つうか黒潮に行っても河内の連れなんて、直ぐに見つからないと思うけど……

「隆、バイク買ったじゃん?黒潮の偉い人から。その人のバイク屋さんを調べて、電話して、今から行くからって」

 麻美があっけらかんと言うが…

「お前、的場の家に行ったのか!?」

「うん。遥香ちゃんと綾子ちゃんと楠木さんと四人で。的場さんって優しいね。わざわざ被害者の人呼んでくれてさ、謝罪の場を設けてくれたんだよ」

 的場がそこまでしてくれたのか!?吃驚していると、今度は黒木さん。

「的場さん、楠木さんの謝罪を受けてくれてね。そこから…連合?全部に通達出して、これで終いだって」

 流石の河内も絶句。そこまで行動力があると思わなかったんだろう。

 いや、遥香は東工、つうか、佐伯と揉めた時の原因だからそうかもって所だが、他の女子達がなぁ…

 気合入り過ぎじゃね?こりゃどう頑張っても尻に敷かれるわ。

「ま、まあ、的場が手打ちにしたんだから、河内、お前は…どうする?」

 漸く木村が口を開いた。開けた、と言ってもいいかもしれんが。

「……的場さんも連れも手打ちっつうなら、俺に何ら異論はない。じゃあこれで完璧ダチだな、生駒」

 そう、生駒を見て言った。まだ友達じゃ無かったのか?結構親しげに、楽しそうに喋っていた筈だが…

「…ああ、宜しくな河内」

 何故か握手を交わす両名。お前等さっきまで普通に慣れ合っていただろうに。

「……しかし、何と言うか…怖いね女子って……」

 慄く国枝君。それに誰も異を唱えず、全員頷いた。目を瞑りながら。

 その国枝君の袖をクイクイ引っ張る春日さん。

「……私は別に気にしていないよ?国枝君も気にしていないでしょ?」

 此処で否と言えない。言ったら気にしている事になる。性的虐待の過去を。

 国枝君は現在の春日さんが好きなんだから、気にする必要はない。

「あ…う、うん…」

 こう言うしかない。やっぱ怖いな女子は。綺麗に逃げ道を塞ぎやがった。

「波崎はまだ来ねえのか」

 一人平和なヒロは、自分の彼女さんがまだ来ていない事にご不満の様子だった。

 しかしナイスジョブだ。このバカ発言で微妙な空気が壊されたのだから。

「あはは~。波崎の仕事が終わるのは8時だよ。知っているでしょ?」

「勿論知っている。波崎の事は全部知っているからな」

 なぜか謎のドヤ顔。本気で意味が解らん。

「大沢も言うようになったね~。中学の頃は、彼女欲しい、彼女欲しいって毎日呪詛を吐いて彷徨っていたのに」

「呪詛!?そんなふうに映っていたのか!?」

 呪詛は言い過ぎだが、うぜーって思ってはいた。

 そんなヒロも念願の大天使彼女さんをゲットしたんだ。世の中は解らんものだ。俺は限定だが知ってはいたけども。

 そんな平和なヒロは置いといて。

 楠木さんが俺の前に出てきて、正座したので、こっちにみんな注目した。

 そして深々と頭を下げる。

「緒方隆君。今回は迷惑を掛けました。そして助けてもくれました。借りを返すって訳じゃないけど、今後の事は私も力を貸します」

 お詫びとお礼。それはいい。それはいいが…

「借りを返す?」

「あ、うん。あ、ちっとフライングだったかな?たはは」

 誤魔化し笑いで頭を掻いた。生駒に目を向けるも、生駒も首を捻るばかり。

 多分遥香が力を貸せ的な事を言ったのか?じゃあ繰り返しの事も言った、もしくはこれから言うつもりか?

「な、なあ美咲、夕方、俺に連絡先聞いていいって言ったのはお前?」

 俺の思考を余所に、生駒が疑問を呈した。そういやそうだ。夕方の意味不明な連絡先交換の許可。楠木さんが居たのなら納得できる。

「うん。そだよ。緒方君の力になんなきゃだし、アンタもそう思ったから同行したっしょ?」

 アンタ…生駒をアンタって呼んでんのか…なんか悲しいな…

 それを聞いた木村も思い出したように。

「綾子、お前もか?」

「うん。遥香が、あのメンツじゃ、連絡先を有効に使えるのは明人しかいないって」

「いやいや、その前にくろっきーが言い出したでしょ…」

 黒木さんが物分りが良い彼女の演出に使ったって事か…有効云々は遥香が後で黒木さんに言ったんだろう。

 多分黒木さん、自分で言って激しく後悔したんだろう。それを慰める為に、って所か。

 そして正座したまま、再び俺の方を向く。

「しかし緒方君って、やっぱ強いんだね~。こいつに勝っちゃうなんてさ」

 こいつ…生駒をこいつ呼ばわり…だ、だけど、繰り返し中、俺にはそんな言葉使った事ねーよな…それだけ生駒に心を許しているっつう事なのか?

「ああ、緒方は本当に強かった。それだけじゃない、怖かったっつうか…」

「怖かったって?」

「力も技も度胸も一級品で、それだけでもまともにやり合える奴は限られてくるんだが、こいつのおっかねえ所は、本気の殺気を放つ所だ。躊躇しないでぶっ叩く。しかも殺す気でな」

「ああ、的場さんもそんな事を言っていたな。強いだけじゃねえ、怖ええって」

 便乗してディスんなよ河内!!確かにそう思っちゃうだろうけど!!

「こいつ狂人だからな」

「お前も便乗してディスるんじゃねーよヒロ」

 それは兎も角、楠木さんから更に質問が。

「ねね、緒方君より強い人っているの?」

「スパーでヒロに負け越している」

 ほほ~、と感嘆する楠木さん。ヒロの鼻が高くなっているように見えるのは、気のせいだろうか?

「ああ、大沢がいなけりゃ間違いなく人を殺していたっつってたな。やっぱ大したもんだ、大沢は」

 木村のヨイショにさらに鼻高々に。胸の反りが激しくなっている。

「隆を力で押さえ込んでいたの、大沢だけだもんね」

 麻美のヨイショで更に胸を張る。

「力で押さえた!?緒方を!?大沢、お前も結構な化けもんだぞ、それ…」

 慄いた生駒に得意気に返すヒロ。

「まあな。こいつを押さえられんのは俺だけだ」

 いや、実際そうだったけどさ。

「大沢に倣って、俺も雑魚達を蹴散らしたようなもんだしな。言うなれば、お前は俺の師匠みたいなもんか?」

 いやいや、言い過ぎだろ木村。気分良すぎて鼻で息をしているぞヒロ。

「いやほら。こいつ狂人だから。誰かが代わりに、こいつがそこそこ納得するようにしてやんなきゃってだけだ」

「いや、マジで大したもんだよ。俺もそれやったけど、精神的疲労がきつかったしよ」

 佐伯の時か?あの時は河内にも世話になったな…

 つうかこいつら、ヒロをヨイショしつつ、俺をディスってんだけど、それ意識してんのだろうか?

 多分意識していないんだろう。多分こっそりヒロの後ろに居る波崎さんに向けて喋ってんだろう。

 ヒロに気を遣って持ち上げてんだろうが、それを知らないヒロがどこまで調子に乗るか楽しんでんだろうな。主に麻美は。

「ところでさ、大沢って優ちゃんの事大好きだよね?」

 いきなり何を聞くんだ麻美?微妙に波崎さんが聞き耳を立て始めたが。

 遥香と黒木さんなんか声を殺して笑っているし。流石は楠木さんで、空気を読んでのポーカーフェイスだし。

 春日さんだけだ、オロオロしているのは。

「大好きつうか、惚れているんだよ。互いにな」

 木村!!露骨に噴き出すな!!釣られてしまうだろうが!!

「ほほう。例えばどんなところが好きなのかな?」

「顔」

 言い切るんじゃねーよ!!内面とか言えよ!!微妙になっちゃったぞ波崎さん!!

「お、大沢、顔だけじゃないよな?」

 おお、生駒が居た堪れなくなったのか、フォローを入れたぞ!!

「そりゃそうだろ。波崎は顔だけじゃねえ。メイドコスが実によく似合うんだぞ?」

「外見だけじゃないよな?な?」

 決死の生駒のフォロー。内面の事を引き出すつもりのようだ。

「そりゃそうだろ、波崎は性格も………あれ?」

 詰まるなよ!!疑問に思うなよ!!性格はいいだろ!!お前如きと付き合ってくれているんだから!!

 にまっと笑って楠木さん。生駒の腕を取って絡める。

「じゃあ、波崎さんだっけ?こういう事しているんだよね?相思相愛なんだから?」

「ばっか楠木、そんなの当然だろ。俺達ラブラブなんだしよ」

 そうなの?と横目で波崎さんを見ると、首を横に振っての否定。

「あはは~。波崎はそう言うキャラじゃ無かったんだけど、やっぱ高校に入っから変わったのかな~?」

 流石は遥香だ。この期に及んで追い込もうとは!!

「そりゃ俺達ラブラブだからな。お前と隆程じゃねえけど」

 カウンターを喰らったが如く、言葉を失った遥香。こいつバカだから、多分本心でそう思っているぞ。

「へえ?私と明人のように?」

 隙あらば木村にひっつこうとしている黒木さんが、木村の腕を取って絡めた。それを強引に振り解く木村。

「木村はそんなキャラじゃねえだろ。俺だったらいつでもどこでもウェルカムだが。出来れば波崎の家で二人きりとかのシチュで」

「じゃあその後はどうなるの?」

「そりゃお前、ねえ?」

 ねえ?じゃねーよ。波崎さん、頭を押さえて首を振っているぞ。解りやすくて呆れてんだ。

 これで家に上げて貰うって夢がまた遠のいたぞ…

 ともあれ、これ以上はヒロが可哀想だ。

 なので顎をしゃくって後ろを見るよう、促す。

「あん?」

「よ。大沢君」

「………………」

 固まったヒロ。前半はちょっと見栄を張った程度だから、笑って許してくれると思うが、後半がなぁ……

 俺の心配の通り、俺の予想が的中された言葉が波崎さんから出た。

「暫くは家に上げるのは無しね。私も行かないから招かないでね」

「え!?あ、う、うん………」

 可哀想なくらい項垂れた。俺は庇ったから、恨むなら女子を恨んでくれ。

「優ちゃーん。一昨日ぶりー」

「おとといぶりー」

 そう言ってハグしあう麻美と波崎さん。一昨日ぶりって事は、一昨日会ったのか。

 それは兎も角、波崎さんを座らせて、遥香に目を向ける。

「じゃあ、話せ。この状況になった事を」

 全員目を剥いた。俺の亭主関白ぶりに感動しているのだろう。

「あはは~。勿論勿論。じゃあ、先ずは自己紹介…」

 楠木さんを波崎さんに紹介し、挨拶を躱す。これで全員が知り合い(?)になったと言える。

 そして遥香は真剣な表情にチェンジして河内、生駒を見た。

「……確認だけど、隆君を親友だと思える?信じられる?」

 やっぱ繰り返しの事を話すつもりか…楠木さんは当事者だけど、河内と生駒はなぁ…

「巻き込んでもいいかってあれか?いいって言った筈だけど」

 イマイチ軽い河内の返し。まあ、そうだろう。今からしようとする話の内容なんて知らないのだから。

「緒方に借りを返したいと言った筈だ。何かヤバい奴とやり合うと言うのなら、勿論力は貸す。俺の力なんて微々たる物だろうけど…」

 借りっつっても、俺ってただ暴れただけなんだけど。佐伯から解放された事を言っているのなら、楠木さんが薬から離れたのを感謝すると言うのなら、俺はただの切っ掛けなんだが。

 次に楠木さんを見る。

「楠木さんはこっち側確定だから話は聞かなきゃならない。でも、抜けてもいいよ」

「うん?うん………」

 なんか物騒な話になると勘が働いたのか、若干躊躇した感じになった。

 だけど、楠木さんは当事者も当事者。信じる、信じないは置いといて、知らなきゃいけない。

 俺の繰り返しの話を。

「じゃあダーリン、話して」

「え?お前が話すんじゃねーの?」

 てっきり遥香が話すと思っていたから、素で驚いた。

 俺、心構えが全くできていないんだけど!!

 躊躇しているように見えたんだろう。遥香が見据えながら言う。

「私から話してもいいんだけど、隆君が話さないと説得力がないよ?多分河内君と生駒君は納得しないよ?楠木さんはまた別だろうけどさ」

 楠木さんは当事者だからな…だけど河内と生駒に納得させる為には、俺が話した方がいいのはその通りだと思う。

「……解った。俺から話す。河内、生駒、そして楠木さん。今から話す事は到底信じられない話だが、真実だ。それでも楠木さんは、少しは信じると思うけど…」

 楠木さんも記憶持ちの候補だからな。感じる所がきっとある。

「私なら少しは信じる話?」

 頷く。力強く。

「…よっぽどの何かを話そうって事なんだな」

 生駒の問いにも頷く。そして付け加える。

「お前と河内は前回絡みが全く無かったから、多分信じない。だけど、的場や楠木さんの事で多少は信じる事になると思う」

「的場さん?的場さんがなんだってんだ?」

 それも込みで話そう。俺の繰り返しの事を。

 全く関係ない奴に話すのはこれが最初だが、さっきはああ言ったけど、果たして信じるのだろうか?

 ともあれ、長い長い繰り返しの話をしよう。努めて感情を交えず、淡々と。

 話終えた俺は、河内達の顔を見る。

 やはりと言うか、河内と生駒は微妙な表情をしていた。何言ってんだこいつ?に近い表情。だけど楠木さんはやっぱり違った。

「……そっかあ…どおりでなんか全部知ってそうな感じがしたんだよねえ。その時は何処からか噂でも漏れたんだろうって思っていたけど、結構しっくり来たよ」

 前回も比較的簡単に信じてくれた。今回も思う所があったようで、勿論全部は信じていないだろうが、半分は信じてくれたと思う。

「美咲…信じるのか?死んで生き返って…それを何度も繰り返した話なんて…」

「全部は無いけどね。でも、そうだったのかってのはあるよ。薬の事とか、私の性格とかさ。しかし、そうなると結構ハズいね。知られていたから、告白に乗って来なかったし、そっちの木村君にも警告を出せたってのが」

 嘘告白時は遥香と付き合っているから簡単に退けられただけなんだが。木村にはただ忠告しただけだし。

「緒方の情報が無けりゃ、多分騙されていた。つう事は、俺は生駒とやり合っていたかもしれねえな」

「そうなるのか…てか、シロと木村君が喧嘩すればどうなるの?」

 シロ!?楠木さん、生駒をシロって呼んでんの!?志郎だから!!?

「…お前も知っての通り、俺はその手の連中が嫌いだから、遠慮も躊躇もしないから…」

「どっちか死んでいたかもしれねえな。最悪は」

 木村と生駒が良かったと頷くも、それを聞いたこっちはそんな程度の話しじゃない。

 マジ良かったと超安堵している。こいつ等も行き着く所まで行く奴等だから、可能性は充分にあるからだ。

「…生駒、お前は信じるのか?緒方の話を?お前の女は半分は信じたようだけど?」

 河内の問いである。生駒はやはり微妙な表情を崩さず。

「…正直信じられねえ、って気持ちの方が大きい。と言うよりも、信じない方は普通だと思う。だけど、緒方がそう言ったんだから…」

「いくら緒方がそう言っても、おかしいモンはおかしいだろうよ」

 河内の反論の方が正解だろう。俺だってそう思う。だから、正常なのは河内の方だろう。生駒は何つうか、付き合いで乗っているように見える。

 だけど、こいつ等の反応は正常だ。受け入れている楠木さんの方が異常だと思う。

 それは一年の夏の中心人物で、二年の春に遥香を殺したから、若干なれど、何となくそう思うってのがあるのだろう。

 だが、信じないのなら、それはそれで仕方がない。

「河内、生駒、今言った事は忘れてくれ」

「忘れろって言ったって………」

 困惑気味の生駒。河内はなんで?ってなアホ面を拵えているが。

「お前等が信じまいと、俺にとっての事実だからな。これ以上は巻き込みたくない」

 充分巻き込んじゃった感があるが、これ以上はいい。これから先はもっと酷い事になりそうだから。

「……そりゃあ、俺達と縁を切るって事か?」

 河内が凄む。なんでそんな話になるのか?

「どんな誤解だそれは。今まで通り、普通に友達だろ。縁を切るって意味が解らん」

 言ったら胸倉を掴まれた。

「……確かに俺は信じてねえ。だけど、お前が手を貸せっつうなら貸す。俺が信じる、信じねえとは違う話だろ?」

 …こいつも結構熱いんだな…有り難くて泣きそうになっちゃうよ…

 そんな時、河内の腕を生駒が取って外した。落ち着け、と、小声で言いながら。

「…緒方、俺は借りを返したい。そう言った筈だよな?」

 今度は生駒に凄まれた。河内の腕を外してくれたと言うのに。

「借りっつっても、俺は俺の事情だったんだから…」

「だったら、俺が借りを返したいと思うのも俺の事情だ。だから言ってくれ。何でも」

 気持ちは解るし、有り難い。だけどだ。

「今は春日さんの件で、それなりに進めてはいるけれど、この先どうなるか解らないんだ。遥香を満足させて、無間地獄から解放するってのが、本来俺が戻って来た目的なんだから…」

「どうなるか解らねえからこそ、手を貸すっつってんだろ。ダチだからこそ、ダチの訳解んねえ目的の為に動こうって事だろうが」

 訳解んねえって、正直に言っちゃっているんだが。

 その訳解んねえ事に協力するのかよ?

「俺は兎も角、美咲は多少でも信じた。そして俺はお前を信じる。だからいいんだよ。お前が頼んでくれたら、それでいい」

 俺を信じたから協力すると。こいつも本当に有り難い奴だな…

 そこで漸く国枝君が口を挟んだ。

「春日さんの噂の件もそうだけど、東工の黒幕を知っている風な千畳高校の彼の件もある。仲間は多いに越した事は無いよ」

 狭川か…あいつも騒動の輪の中に居るからな…確かに仲間は多い方がいい。

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