年末~004
「あ、ついでだけど、爽やかポニー、サイト退会しちゃった」
里中さんに一斉に目を向けた。本人はケロッとしているが、このタイミングでの退会だ、、裏があるんじゃねえ?って全員が目でそう言っていた。
「り、理由は聞いたか?」
代表して俺が訊ねる。
「いや、聞きたかったけど、私のキャラじゃき聞かないよな、って思って放置しているけど、どうする?」
遥香に目を向けて訊ねた。遥香は一瞬考え込んだ。
「……聞いた場合、いつもと違う事がバレちゃう可能性があるか…」
「そうだね。まず聞かないしね。事情があるんだろうな、って放置するから。いつもなら」
聞きたいが聞けないか…おかしな真似は極力避けたいし…
「……向こうから接触して来るまで、大人しくしようか」
「そうしようか。そっちの方が私らしいし」
里中さんらしいのならそうした方がいい。知った事を悟られたら駄目だ。
「いずれにせよ、狭川が須藤真澄の代わりに動くんだろ?予想としちゃ?」
河内の問いに頷く俺。
「その時までこっちも大人しくするしかねえだろ。向こうから突っ掛って来た場合は別として」
「誰が突っ掛って来るんだよ?」
狭川が動かないんじゃ、悪鬼羅網も動かないのでは?
「潮汐だろ。猪原引退で南海は荒れるから。薬の別ルートがあった場合、須藤真澄も居なくなったんじゃ、誰も咎めねえし、やりたい放題になる」
最悪南海に薬が出回る事になるのか…まあ、南海は大雅派以外知ったこっちゃねえからどうでもいいけど。
そんな話をしていると、もう5時だった。随分長い事話し込んでいたな。
「つうか腹減らねえ?昼飯も食っぱぐれたし」
「大沢は本当に腹減ったばっかだよね。確かにお腹は減ったけどさ」
ヒロに突っ込む麻美さんだった。確かにいつも腹減ったと言っているよな。
「ちょっと早いが飯食いに外出るか?」
木村の提案。河内がハイハイと挙手する。
「千明さん呼んでいいだろ!?あの話は終わったし!!」
「いいだろ。来てくれれば」
別に拒む理由は無い。他ならぬ横井さんが拒むかもしれないが。
河内早速メールをピコピコ。速攻で返信がきたようで、喧しい着信音が鳴った。
だが、河内が一気に悲しそうな顔になった。何があったんだ一体!?
「……着信拒否にされてる…」
まだそんな状況なのかよ!!お前もいい加減落ち着けよ!!そしたら着信拒否喰らわないだろ!!
「じゃあ私が…」
黒木さんがピコピコラインを打った。そっちは簡単に返信が来た。
「いいけど、どこに行けばいい?だって」
場所か…この人数じゃファミレスが無難かもしれないが、波崎さんと楠木さんが居るからな。休みを貰ったからいいんだろうけど、なんか都合が悪い感じしないかな…どうなんだろう?
「横井さんの要望を聞いてみようか」
好き嫌いがあるかもしれないとの親切心だ。俺達は何処でもいいし。
「うん。じゃあ聞いてみるね」
黒木さん、ラインをピコピコ。程なく返事が来る。
「なんでもいいけど、食事になるもの、だって」
「……じゃあ大山食堂…」
「バジル!!バジル!!」
春日さんと遥香の主張であった。俺はどっちでもいいけど。
「コスプレファミレスだろ。当然」
「フレッシュにもう一度行きたかったんだよね」
ヒロと国枝君の主張であった。無難にファミレスもいいけど、確かにフレッシュにはもう一度行きたかったな。
なので黒木さんに伝言をお願いした。
「ボロイが大盛りで安くてうまい食堂か、コスプレが売りの味が普通のファミレス、コーヒーとパンケーキが美味いが、お値段高めのカフェ、パスタとハニトーしかないイタリアン、どれがいい?」
「待て緒方、天むすが絶品のお好み焼き屋を忘れているぞ」
「そうなればスープにご飯を入れられるラーメン屋も追加だ」
木村と河内によって新たに追加された。
「うん。聞いてみる」
そう言ってラインをピコピコ。因みに俺の希望はおたふくになった。今度こそじゅうじゅう言わせたい!!
「……値段が安い所、だって」
返って来た返事はそれか。じゃあ大山食堂一択になるじゃねーか。
「でも、カフェも捨てがたい、だって」
あそこ多分一番高いぞ?河内が奢るっつうならいいんだが、流石にそこまで甘えねーか。
「あ、ちょっと待って」
遥香が財布をごそごそと。そして「あった!!」と叫ぶ。
「べいはんバーガーの割引きチケあった!町はずれだけど、どう?」
あそこか!美味いけど、量がちょっとなぁ…言ってもハンバーガーだし。
「町外れ?ヤマ農の方か?」
木村の問いに頷く遥香。
「ちょっと遠いよね。聞いてみようか?」
黒木さん、三度ラインをピコピコ。そして帰って来た返事。
「そこでいいって」
う~ん…町外れまで移動してハンバーガーか…絶対に足りないよな。
だが、みんな異議を唱えないので、そこに向かう事にした。電車で。
里中さんが何か知らんがテンション高いし。麻美と共に盛り上がっているし。初めての店だからか?まあ、美味いけどな。
で、電車に揺られて町外れまで来た訳だが…
「なんでお前も電車に乗ってんだ?バイクで俺ん家に来ただろ?」
雪もチラホラの中、隣町から俺ん家まで河内はバイクで来た。そのバイクを置いてわざわざ電車に付き合うとは?
「いや、ほら、夜は冷えるし、冷えたら路面凍っちゃうし、凍ったらコケるし」
それはその通りなんだが、じゃあ家にどうやって帰るつもりだ?
「夜はお前ん家に泊めて貰えばいいかと思ってバイクで来た」
「泊まるつもりなのお前!?」
ビックリだった。いつもヒロばっか泊まっているから予想外だった。
「だけど千明さんが「ウチにいらっしゃい」とか言ってくれれば、お前ん家なんか果てしなくどうでもよくなるけど」
「絶対に言ってくれないと思うぞ?」
着信拒否をしている彼氏を家に呼ぶ筈がないだろ。そもそも親睦会もそれをクリスマスにするとか言われて、二人っきりにさせてくれねーんだから。
「その横井さんは直接ハンバーガー屋に来るらしいが、その後どうすんの?デートとかしちゃうの?」
「勿論、してくれるんならする。みんなでなら、って前提条件があるけどよ…」
ズーンと項垂れた。お前は信頼を築いていないから仕方がないんだ。
「ちくしょう…お前なんか槙原と泊まりまくってんだろうに、なんで俺ばっかり…」
「ちょっと待て。泊まりまくってないからな?少なくとも俺は遥香の家に泊まりに行った事は無い」
「つっても槙原は泊まってんだろが」
いや、その通りなんだが、その恨みの形相を俺に向けるのは筋違いだろ?
「ちくしょう…国枝だって春日ちゃんと泊まりまくっているのに、なんで俺ばっかり…」
「とばっちりは困るよ河内君!?」
国枝君もビックリしてつい声を張った。因みにとばっちりじゃないぞ。実際お互いの家に泊まっている事は知っているんだからな。
「生駒だって楠木を泊めたり、泊められたりだろ…何で俺ばっかこんな目に遭うんだ…」
「いや、その通りだけど、お前は自業自得の部分が多いから、気を許されていないんだろ…」
生駒の正論が河内の胸に突き刺さる。河内、涙目になって更に項垂れた。
「木村だって黒木ちゃんと…」
「……何回も誘っているのに、泊まりに来てくれないし、誘ってくれないんだけど………」
黒木さん、河内に負けず劣らず、涙目になって項垂れた。
木村は野郎共と遊んでいる方が楽しいってキャラだからな。黒木さんの失意は解るが、しょうがないモンはしょうがない。
「ここ、俺の地元に近いな」
件のハンバーガー屋に到着したら木村が呟いた。
「明人の家って此処よりも白浜寄りだけどね」
何故かドヤ顔で言う黒木さん。私知ってるよ?ってアピはいらん。
ともあれ遥香が先に入店して、何やらごにゃごにゃと。
「みんな入ってー。席確保したから」
促されたのでガヤガヤ入店する。以前、つか前回来た時はカウンター席だったが、今回はテーブル席。人数が人数だし、って事なのか?
案内された席に座ると、当然の如く遥香が横をキープ。8人掛けのテーブル二つを確保したようだが。
「横井がまだ来ていないから、取り敢えずドリンク行く?」
確かドリンク100円だった筈なので頷く。
「ドリンクバーか?」
「いや、オール100円」
ヒロの質問にも的確に答えるのが、前回来た事がある俺の余裕の表れだ。
「シェイクも?」
「シェイクはもうちょっと高かったな」
「じゃあコーラでいいや」
この寒い中でもコーラを所望とはヒロらしい。まあ、自分のお金だ。好きな物を飲めばいいさ。勿論俺はコーヒーをチョイス。
「なんだ緒方、またコーヒーかよ?ホント好きだな?」
河内がからかって来る。自分はこの寒い中スプライトだと言うのに。
「コーヒー頼んでいる奴結構いるだろ」
俺の他木村も生駒もコーヒーだった。女子では波崎さんもコーヒーだし。
「私はココアだよ?」
「いや、里中さんも別にアピらなくていいから」
「私はミルクティーだし」
「麻美も別にアピール必要ないからな?」
「横井も多分ココアかミルクティーだね。甘党だから」
「お前も横井さんの嗜好を別に話す必要ないからな?」
「……私もココアだけど、いけないの?」
「春日さんが甘党なのは知っているから。好きなモン飲めばいいんだから」
「私は烏龍茶だけど、変かな?」
「だから、黒木さんの好きなモン頼めばいいんだよ。つかなんで頼んだ飲み物をみんな俺に言うの?」
「そうだね。わざわざ緒方君に言う必要はないよね。因みに私はレモンティー。ちゃんと覚えておいてね」
「楠木さんも結局アピっているよな?」
自分のお金だから、自分の好きなモン頼んで勝手に飲めよ。俺もそうしているだろ?好みアピール別に必要ないからな?何を言おうが、俺ん家に来たらコーヒーになるんだから。
「お待たせ。待ったかしら?」
横井さん到着。早速河内がお出迎えだ。
「千明さん!俺の隣に!!」
「解っているから立たないで。みんなの迷惑になるでしょう?」
慣れたもんであしらいながらも河内のエスコートに従う。因みに河内は俺の正面だ。つまり横井さんは遥香の正面となる。
「じゃ、まあ、割引きチケだから選べないけど、足りなかったら自腹で追加してね」
遥香が店長さんに促してハンバーガーを届けさせた。米粉バンズを除けば普通のハンバーガーのようだった。
「ここってチキンバーガーとかフィッシュバーガーとかもあるよな?」
「勿論あるよ。だけど割引きチケはバンバーガーのみのヤツだから…」
「ああ、いや、いいんだ。食いたかったら追加するから」
割引きチケだけでも有り難いんだ。これ以上の我儘は言えん。
「だけどセットだから。ポテトとドリンクもあるからねー」
もうコーヒー飲んでいるけど…あ、スープにするのか。
確かコーンスープとオニオンスープがあった筈だ。それをセットに組み込んだんだろう。
「横井、みんなドリンク頼んだけど、横井はどうする?因みにセットにはコーンスープが付いてくるけど?」
「ああ、じゃあいいわ。飲みたかったら改めて注文するから」
「じゃあ俺のスプライトをっ!!!」
「既に半分以上飲んでいるでしょう?」
「じゃあ俺のスープをやるから!!!」
「付いてくるって言っていたでしょう?二つも必要ないわ」
こんな不毛なやり取りを見て、隣の生駒が真っ青になった。
「なんであんなに必死なんだ河内は…?」
「頑張る方向が見当違いだからだろ」
更に河内の隣のヒロも呟く。
「流石に俺はこいつよりもマシだよな…?」
「大沢君も結構いい線行っていると思うけど…」
楠木さんの言葉に大きく頷いたのは波崎さんだった。ヒロが目を剥いた。マジ!?って感じで。
その後の河内のウザいアタックを聞きながら思った。
木村達は別テーブル。上手く逃げやがってあの野郎と。因みにそれは全員の認識の様で、隣のテーブルを恨めしそうに見ていた。
その恨めしそうな視線に気付いたようで。
「ねえあさみん。向こうのテーブルの人達、こっち睨んでない?」
「ホントだ。何か面白くない事でもあったのかな?仲良しグループで固まっているから、それは無いと思うけど」
ぎゃはははは、と大笑いまでする始末だった。里中さんも結構な性格だ。麻美は今更だが。
「おい、日向、里中、とばっちり喰らうかもしんねえからその辺にしとけ」
宥める木村。こっちを気の毒そうにチラチラ見ながら。
「……ホント、みんな仲良くていいわね」
横井さんが憧れの眼を以て言った。
「何言ってんの?横井だって仲良しでしょ?」
「そうそう。じゃなきゃわざわざ呼ばないし、来ないでしょ?」
「そうね。その通りだわ」
川上中トリオのホンワカした空気に和む俺達。
「俺と千明さんも仲良いよな!?」
「え?あ、うん、そうね…」
このように、ホンワカ空気を見事にぶち壊す河内も仲良しなのだ。少なくとも俺達は。
横井さんがどう思っているのかはまた別の話なのだ。
程なく、遥香を呼ぶ声。店のカウンターからだった。
「あ、出来たかな?ダーリン手伝って」
立ち上がって俺を促す。セルフサービスだから持って行けって事だろう。
「じゃあ俺も手伝うよ」
生駒も立ち上がって運搬を手伝うと言う。
「ほら、大沢君も」
「河内君は行かないのかしら?」
「「はい…」」
彼女の尻に敷かれっぱなしの二人は、力無く立ち上がった。生駒のように自主的に手伝おうとしたなら、そんな惨めな事にはならなかったんだぞ?
「楠木さんの彼氏、いいわね。大変なのを知って自ら手伝いを買って出るなんて」
「いや、まあ、ね」
「生駒君、お店でも評判良いよね。煩くしないし、強いしかっこいいしで」
「いや、まあ、ね」
楠木さん、得意満面で鼻高々になっているけど。ヒロと河内の嫉妬の視線が生駒を貫いているけど。
ともあれ、持って行ってみんなに配るか。いい加減腹減ったし。
「ほら麻美、里中さん」
持って来れたのは二つなので、奥のテーブルに陣取っている麻美と里中さんに渡した。
「ありがとー、緒方君」
「よくやった隆」
「なんでそんなに偉そうなのお前!?」
よくやったって何だ!?お前にハンバーガー持って来た事か!?
「おう、こっちだ大沢」
「なんでお前はそんなに偉そうなんだ!?」
木村達に持って行ったヒロも突っ込んでいるし。
「悪いね生駒君。僕も手伝えば良かったかな」
「いや、俺達のテーブルの方が近いからな。気にするなよ」
常識人の会話が聞こえる…こんな些細な事でも心が癒されるんだなぁ…
「千明さん!!これをっ!!」
「ありがとう河内君。で、もう一つはなんで波崎に渡さないのかしら?」
「え?これ俺の分だから…」
「なんで波崎に渡さないの?」
「……ほら、波崎…」
「ありがと河内君」
向こうは相変わらずカオスだな…横井さん、出来の悪い弟を叱っているようだし。これ前も言ったっけ?
ともあれ自分達の分も確保して席に着く。ハンバーガーにポテト、コーンスープのセットだ。通常なら650円の所、割り引き券のおかげで330円だぜ。
半額ってすげーよな!!これも遥香の親戚だから融通を利かせてくれたんだろうけど、それでもすげーよな!!
ともあれ、戴きますしてパクつく。俺はこれで二度目だが(累計でだけど)ヒロ達は初見だ。
「これ美味いな!!米粉バンズがモチモチして歯ごたえもある!!」
ヒロの絶賛にみんな無言で頷いた。
「良かった。気に入って貰えて」
遥香もご満悦だった。実際美味いからな。
「しかし、やっぱ足りねえか。もう一個頼もうかな?」
まだ半分も食っていないのにメニューを開いた木村。俺もそうしようかな…
つか、木村に倣ったのか、全員メニューを開いた。そして食べながら食い入るように見ている。
「みんなもう一個追加するようだね」
「俺もそうするつもりだが、お前は?」
「じゃあ私も付き合っちゃおうかな。隆君はなに追加するつもりなの?」
そう言ってメニューを開く。俺はフィッシュバーガーにしようと思ったんだが。
その旨を伝えると、頷いてメニューを閉じた。
「お前は選ばねーの?」
「いや、全メニュー把握しているから」
ああ、見る必要が無いと言う事か。
「じゃあなに頼むつもりだ?」
「ベーコンエッグ。米粉バンズは結構お腹に来るからね。軽い…って訳じゃないけど、量が少ないのを」
成程。確かに結構腹に溜まったよな。まあ、俺は腹ペコ男子。魚のフライなんか余裕で完食だ。
ハンバーガーは量も量なのですぐに完食した。なので追加でフィッシュバーガーを頼む。
「隆、お前は魚かよ。ガツンと行けよな」
からかうようにヒロが言うが…
「そう言うお前はなんなんだ?」
「俺はダブルチーズバーガーだ!」
ふむ、ハンバーグのパテの上下にチーズが乗っている奴だな。
「言う程ガツンとしていないような?」
「いや、これ安かったし」
懐具合と相談して決めましたと。だが言わせて貰うぞ。
「ダブルチーズは420円で、フィッシュバーガーは350円だ。俺の方が安いだろ」
「いや、肉食いたかったし」
じゃあチーズ無しの方がいいんじゃねーの?ハンバーガーって320円だよ?
「遥香はベーコンエッグで、一応肉のカテゴリーで、お値段320円だぞ?」
「いや、ハムよりハンバーグ食いたかったし」
ハムじゃねーよ。ベーコンだよ。まあいいや、お前のお金だから好きに使えば?
「緒方はフィッシュバーガーか。俺は照り焼きチキンにした」
生駒は照り焼きチキンか。お値段はダブルチーズと同じく420円。
「生駒の方がガツンじゃねーか」
「いや、俺はハンバーグ食いたかったんだし」
じゃあ俺の好みにケチ付けるんじゃねーよ。結局お前も好みのハンバーグなんだからよー。
「だけど生駒、楠木さんとシェアとかしねーのか?」
ハンバーガーは食い難いから、シェアは半分食って渡す事くらいしか出来ないから、俺でも外ではやらないけど。
「シェアって言うか、多かったら食べて、って事でね」
乗っかって来る楠木さん。因みに頼んだのはトマトプラス(ハンバーガーにトマトの輪切りを追加した奴)だった。
「成程、それで照り焼きチキンか…」
楠木さんは食べきれないと踏んだんだろう。それでトマトに負けない、味が濃い照り焼きチキンなのか。流石生駒だ。なかなか考えていらっしゃる。
「俺も照り焼きチキンにするわ!!」
聞いてもいないのに乗っかってくる河内。
「私はトマトプラスを頼まないけれど」
「……もうちょっと考えるか…」
食べきれないを狙っただけかよ!!成程、あーんの代わりにはなるよな!!
「な、波崎はどれにすんだ?」
「私は普通のやつだよ。レタスプラスだけど」
レタスプラスか…この店はオプション豊富で楽しめるな。俺のフィッシュもチーズプラスできるし、タルタル二倍も可能だし。もちろん追加料金は取られるけど。
「食いきれなかったら俺が食ってやるからな!!」
「私、結構大食いなの、知っているよね?」
笑顔の儘固まったヒロ。波崎さんはお残しはしないから諦めろ。
ハンバーガーで腹いっぱいになると言う、貴重な経験をして家に帰る。
米粉バンズ…侮れん。キッツキツって訳じゃないが、暫くジャンクフードはいいやと思うくらいにはダメージを受けた。
「俺ん家こっから近いからよ。このまま帰る。親睦会?ってえの?やる日にち決まったら教えてくれ」
木村はこの近くのバス停から帰るようだ。
「おう。じゃあな」
木村を残して全員駅に向かう。
「千明さん、寒くないか?」
「コート着ているから平気よ」
「そうか。じゃあ俺のスカジャン着ろよ」
「コート着ていると言ったでしょう!?見えないの!?聞こえないの!?」
「……俺、河内よりはマシだよな?」
ヒロが慄きながら訊ねてくる。
「若干な。若干だぞ?」
調子に乗せないように釘を刺さなきゃだ。つか、河内よりひどい奴はそうはいないだろ。
つーかマジ寒い。雪もチラホラ降って来たし。
そうなると、河内は俺ん家に泊まる事になるのか?ヒロん家行かねーかな。野郎共だけならそんなウザくはないからいいけども。
春日さん、楠木さん、国枝君、黒木さん、里中さんの順に帰って行く(停車駅の関係で)。
なので、今現在電車に揺られているのは俺、ヒロ、生駒、麻美、川上中の女子トリオ。そして河内。
その河内の隣で果敢にアタックされている横井さんがうんざりした口調で言う。
「河内君、バイクで来たのでしょう?帰りはどうするのかしら?」
「俺の身を案じてくれるとは…まさか好感度MAX状態なのか!?」
「質問に答えなさい。帰りはどうするの!?」
結構な迫力で訊ねた横井さんにビビりながら返す。
「き、今日は緒方ん家に泊まろうかなと…」
「そう。雪も降って来たから、その方がいいわね」
やっぱ泊まるのかよ…覚悟はしていたけどな。
「えー?今日はダーリンのお家に泊まろうかなって思っていたのに」
「じゃあ家来なよ。隆と河内君ばっか泊まって遊ぶんじゃムカつくでしょ。ガールズトークしようよ」
麻美さんが遥香をお誘いした。
「そうしようかな。波崎と横井はどう?」
「私、明日朝からシフトだから」
「泊まる用意なんてしていないわ」
麻美さんと彼女さんだけお泊まる事になった。つか自分で言ってなんだが、お泊まるってなんだ?
ともあれ、彼女と幼馴染が仲良しなのはいい事だ。殺伐されちゃ胃が痛くなっちゃう。
そんな訳で我が家に到着。遥香は予定通り、麻美の家に行った。
そんで、客を部屋に招いたら河内に言われる。
「なんで大沢と生駒も来るんだ?」
それは俺が無理やり誘ったからだ。お前のおかしなテンションが発揮されちゃ、俺一人の手では余るからだ。
「まあ座れ。コーヒー淹れてくるから」
河内をヒロと生駒に丸投げして台所に向かう俺。お持て成しの精神でちゃんと豆から挽いたヤツだ。
そしてコーヒーをお盆に乗せて部屋に戻る。
「コーヒー入ったから勝手に持って行って」
言ったら本当に勝手に持って行った。生駒だけだ、ちゃんと礼を言ったのは。まあいいや、と俺もコーヒーを啜る。
「緒方も来たし、話の続きだ」
いきなり河内が切り出す。
「何の話をしていたんだ?」
「大沢のバイクの話だ」
ああ、誕生日は過ぎたが、この天気だ。やっぱ春まで待ったほうがいいだろ。
「俺はお前はヤマハがいいと思う。だからヤマハにしろ」
「さっきも言っただろ?免許まだ取ってねえからバイク買っても無意味だって」
ああ、バイク買えって話か。俺の時も木村と国枝君が煩かったからな。お前も漏れずにそう言う運命だって事だ。
「免許取るにしても春だろ?だから春まで待った方がいいって」
生駒が河内に宥めるように言うが、そんなの知ったこっちゃねえって感じで。
「的場さんから買えば安くなるんだから。だから買えって」
「的場から買ってもいいけどよ、春じゃ無きゃ買わねえっつってんだろ」
うんざりしている風だった。さっきからこんな調子なんだろう。
「折角お前の為にドラッグスター組んでんだぞ?買っとけって」
「なんで俺の知らねえ所で俺のバイク手配してんだ!?」
ヒロもそうだか俺も生駒もビックリだった。買う本人の了承を得ずに手配しているなんて!?
しかし、生駒は何かピンときたようで。
「組んでいる?」
そういやそうだな。仕入れているじゃなく、組んでいるってなんだ?
「おう。スクラップ場から使えそうな部品集めて組んでんだよ。無い場合はネットで買ったりしてな」
「廃材で作ったバイクを買えってのかお前!?」
中古車どころじゃない、廃車だそれ。流石にヒロが可哀想だろ。
「だって安くても20万はすんだぞ?だったら組んだ方がもっと安いじゃねえか?」
ケロッと言われた。まあ、安さ重視ならそれでもいいだろうけど…
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