地域活性化友好交流会~004

 だがしかし、ここで根負けする訳にはいかねーよ。根性勝負で負けたみたいでなんかヤダ。

 なので今度は上下左右に打ち分ける。しかし当たらず。当たり前にヒロのジャブも全て捌いてやった。

『凄い凄い凄い!!二人の練習は何度か観た事がありますが、やっぱり最初は一発も当たりませんでしたよ!!』

『実況が興奮しないように』

 玉内の突っ込みに笑いに包まれた会場だった。緊張感なんてどっかに飛んでいくだろこれ。

 俺は緊張を解いたりしねーけどな!

 ジャブを出しながら前に出る!じりじりと前に出る!

『緒方選手、前に出てきましたね。あれ鬱陶しいんですよね』

『と、言いますと?』

『ジャブでもパンチは貰いたくないのが常ですが、緒方選手は貰う前提で動きますからね。相打ちでも自分の方が破壊力があるとの自信の表われでしょうが、こっちは貰いたくねえんだよ!って事ですよ』

「玉内の野郎、実に的確じゃねえかよ」

 ヒロは笑いながらそう言う。勿論ジャブの手を緩めずに。

「そう言いながらも被弾しねーじゃねーかよお前。だったら素直にパンチ喰らえよ」

「馬鹿言うんじゃねえよ。先に当てた方が主導権を得る、だろうが?」

 尚も速度が上がるジャブ!速いが追えないほどじゃない!

 負けじと俺もスピードアップ。速さで相殺したぜ!

『これは、大沢選手の作戦勝ちですかね』

 は?何言ってんだあいつ?ヒロが何か策を練ったと言うのか?

『それはどういう事でしょうか?』

『緒方選手の脚が止まったでしょう?』

 ぎょっとした。ヒロの奴、スピードを上げる事によって俺の圧力をチャラにしたのか!?

「なかなか解ってじゃねえか玉内。そんでもってナイスアシストだ!!」

 パパパンと顔面に三つのジャブが入った!!しくった、玉内の解説に気を取らせちまった!!

 焦りからがガードした俺。これもミスった!

『ボディに隙ができましたね』

 解説と同時にストマックに痛み。ヒロのボディブローがキレイに入っちまった!

 追撃を警戒して左フックを放った。一瞬でも脚を止めると期待して。

 しかし、ヒロはそこにはいなかった。バックステップで離れたのだ。

『なかなかクレバーですね大沢選手。緒方選手の距離では戦わないと言う事ですか。しかし儲けた。今のから振りのフックでまた隙ができましたよ』

 また解説と同時に顔面にジャブが入った。今度は二つ!

『完全に主導権を握りましたね大沢選手。素晴らしい判断です』

『玉内さんだったら今のはどうしていましたか?』

『勝利の為には緒方選手の距離では戦わない。あの程度の隙では大砲を打つ方がリスクが高い。多分大沢選手と同じことをしていましたね』

 あー鬱陶しいな解説!!あれ無ければもっと自分の考えでやれるってのに!!完全に逆恨みだけども!!

 兎に角このままじゃ拙い。ガードをしっかり固めてダッシュで間合いを詰めて……

『緒方選手、ガードを固めましたね。利き足に力を込めている事から、強引に懐に潜ろうとしているんでしょう』

「玉内にもバレてんだ。俺が知らねえ筈はねえよな」

 するすると距離を取るヒロ。あーちくしょう!!ペース掴めねえ!!

「隆、キレんなよ!!我慢だ我慢!!」

 青木さんに焦っているのがバレた。と言うかヒロにも玉内にもバレているんだな。俺は解りやすいから。

 しかし、離れたと言う事は、俺もジャブを放てる。なのでガードを解いて――

「ぷっ!?」

 顔面にジャブが一発入った。入れたと同時にまた離れるヒロ。

 あの野郎、絶対に距離を詰めさせないつもりか!つうか意外と以上に冷静じゃねーかよ!もっと調子に乗れよ!

『あくまでも緒方選手の間合い外で戦おうって事ですね。正しい判断です』

『その緒方選手の間合いとは一体?』

『接近戦ですね。フックやアッパーが得意ですから。そのパンチが届かないところで勝負しようと言う事です。僕もそうしますね』

『その間合いに入ったらどうなりますか?』

『至近距離の打ち合いだったら、僕だったら負けます』

 言い切った玉内。接近戦限定での話だが、俺には勝てないとはっきり言った。

「俺は接近戦でもお前に勝てるぜ?」

「そこは張り合うのか、玉内に……」

 かぶりを振って否定するヒロ。

「玉内よりもお前の距離で戦った事があるってこった。接近戦はお前の方が分があると俺も思うよ。だけど俺はその距離でもお前に負けるつもりはねえってこったよ」

 いや、俺だって長距離でも負けるつもりはないんだが……これが結果なだけで。

『ここで1ラウンド終了のコング!大沢選手の優勢で1ラウンドが終わりました!』

 玉内に顔を向けての実況だった。玉内、肯定の意味で頷いた。

 グローブを合わせて互いのコーナーに戻る。そして椅子に座った。

「よく我慢した!お前のこった、どこかで切れて突っ込むんじゃねえかと冷や冷やしたぜ!」

 汗を拭きながら荒木さんがそう言う。キレそうだったけど、あの実況と解説によって調子が崩れたからな。

「博仁はあの距離を保ったまま続けるだろう。接近戦はお前に分があるから、少しでも優位に立たせたくねえと考えるなら」

「俺も長距離砲持ってるんすが……」

「ストレートが来ることくらい、楽勝で予測してんだろ。だから打つな」

 打たなきゃ届かねーだろ。まさか主導権握られたまま2ラウンド戦えってのか?ヒロ相手だったらいつか打ち負けるぞそれじゃ。

「ジャブで牽制を続けろ。スタミナはお前の方があるんだから焦る必要はねえ」

「そのスタミナ負けをチャラにできるテクニックが向こうにはあるんすが……」

「つってもインファイトに持ち込めねえんだったら、スタミナ切れに賭けるしかねえだろ」

 賭けかよ。博打で勝負なんかできねーよ。いや、よくやっているけども。オープンガードとか。

「長距離からインファイトに持ち込めればいいんすよね?」

「そうだが、できんのか?オープンガードは駄目だぞ言っておくけど」

「まあ……やってみます」

 マウスピースを噛んで立った。第2ラウンド開始だ。

 ヒロがグローブを伸ばす。これにこつんと当てて再びジャブの応酬。

『やっぱり速い!!』

『緒方選手、1ラウンドのダメージはなさそうですね』

『ああ、何発か貰っていましたね』

『そうではなく、あれはジャブですから、そんなにダメージには繋がらないんですが、僕が言いたいのは精神的にです。焦って突っ込むような真似をしなかったと言う事です』

 じゃねーんだよ、突っ込みたいんだよ本当は。焦りでも何でもなく、ただの性分でだよ。

 だけどジャブで打ち負けて突っ込むんじゃ本当に負けたみたいになるだろが。流石にそう思われるのは勘弁だぜ。

 奥歯を噛んでギアを上げる俺。更にスピードアップのジャブだ。

「っち」

 ヒロが顔を顰めた。スタミナ温存のために序盤であんま無茶をしたくないんだろう。

 ほら、証拠に踵が浮いたぞ。バックステップで距離を取ろうって事だろ?

 たん

 読み通りだぜ!!俺が間合いを詰めてくるところにジャブを合わせてポイント加算って算段だろうが。

 ジャブじゃ俺は止まらねーのは承知だろう?

 左脚を大きく前に出す。結果間合いは詰まる。

「しまっ……」

「気付くのがおせーよ!!」

 超低空で放つ左ストレート!!それはボディに突き刺さった!!

「くっ!」

 更にバックステップで離れるヒロ。浅かったか、ダメージもあんまねーだろう。

『緒方選手の、えと……』

『ボディへの左ストレートが入りましたね。スタンスを広げた結果、上半身が低くなったからボディになった訳ですが、惜しかったですね。大沢選手の間合いの取り方が絶妙でした』

『それはどういうことですか?』

『離れるのなら万が一もない距離へ逃げると言う事です。事実緒方選手のボディは浅かった。大沢選手が通常よりも少し間合いを取った結果そうなったって事です』

 玉内の言う通り。あの野郎、離れたのはいいが、いつもより少し遠くに離れやがった。追撃を気にしたんだろうが、慎重すぎだろ。

「あの距離からボディかよ。やっぱお前は油断なんねえな」

「そうは言ってもスタンスも録に戻さなかったんだ。完璧に決まってもダメージはあんまねーだろうに、お前は保険掛け過ぎだ」

「ダメージは少ない方がいいだろうが。お前相手にお前の距離で戦うか馬鹿」

 にゃろう、程良く挑発してくるな。馬鹿とか。

 まあいいや、このまま行くぞ。

「やっぱ素直だなお前。このまま突っ込むつもりだろ」

 するすると離れるヒロ。俺は普通に「あ」とか声を出した。

 逃げやがったよ、打ち合えよこの野郎。逃げんじゃねーよ。

 くっつこうとして脚に力を込める。

「追うな隆!」

 セコンドの指示によって脚の力を緩めた。

 ぎょっとした。ヒロの右腕に力がこもっていた事に。あの野郎、カウンターを合わせるつもりでいやがったな。

『緒方選手はセコンドに救われましたね、あのままじゃカウンターでひっくり返っていた可能性が高い』

『それでも両選手にとっては通常の出来事では?』

 里中さんのコメントが会場の笑いを誘った。特に笑ってやがるのは生駒だ。あいつもしばく。

『ははは。まあ、そうでしょうが、折角取ったポイントを捨てる事は無いでしょう』

 このラウンドは俺のボディで優勢だって事だ、これ以上何も無ければだが。

 やっぱりそうは問屋が卸さないで、ヒロがステップを踏む。

『あくまでも離れて戦おうって事ですか。大沢選手はオールラウンダーですから可能ですね』

『玉内さんはどうですか?』

『僕はアウトボクシング寄りです。緒方選手は見たままです。インファイトメインですね』

 そうだよ、見たまんまだ。だからと言っちゃなんだがな……

 やっぱり利き足に力を込める俺。そしてここ一番のダッシュを見せた。

 ヒロのジャブが飛んでくるも、掻い潜る。掻い潜って掻い潜って懐を狙う!!

『これです!この突進が鬱陶しいんですよ緒方選手!被弾上等の特攻行為のように見えますが、圧力が半端ない!』

『スピードは大沢選手の方が上では?だったらスピードで攪乱とか』

『スピードはほぼ互角です。フットワークで捌いているんです。ジャブも相当気を遣って放っている筈です。それほど鬱陶しいんですよ緒方選手のダッシュは』

 直線だったらお前にも負けなかったしな!!真っすぐこそ俺の真骨頂だぜ!!

 飛んでくるジャブ。ショルダーブロックで弾き、躱しながらも前に、前に。

「本当に鬱陶しいな!!」

「だったら素直に潜らせろよこの野郎!!」

「そうかよ!!」

 大振りのフック!ヒロにしては珍しい。これは誘ったんだろう。つまりフェイク。

 しかし、その誘いに敢えて乗るのが俺だ!!

 空いているボディの隙間を狙ってフックを放つが、ヒロも右フックを繰り出した。ほらな、やっぱり誘っていたんだよ。

 ボディへのパンチを急停止させて更に低くダッキング!!結果ヒロの右フックは空を切った!!

「マジか!?」

「バレバレの誘いに誰が乗るか!!」

 膝のバネを使って昇る左アッパー!そのモーション中気が付いた。

 左が戻されている。あの右フックもフェイクか!!

「ああああああああああああああ!!!」

 強引にパンチを止めて後ろに跳んだ。

「!!?」

 今度こそ驚いた顔をしたなヒロ。ほら、左フックが飛んできたじゃないか。それは空振りになったよな?

 今度こそ利き腕に力を込めて長距離砲!!右ストレート!!

「っち!」

 すげえ強引に顔を捻りやがったヒロ。ダメージは軽減されたが、ポイントはまた取ったぜ!

『ここでコング!!2ラウンドは緒方選手が取りました!!……で、いいんだよね?』

 わざわざ聞くなよ。見りゃわかるだろ。俺の圧倒的優位をな。

 ともあれご謙遜顔でコーナーに戻る。

「よくやった隆!1ラウンドの借り、きっちり返したな!」

 椅子に座るなり褒めでくださるとは。滅多にないぞこんな事。

「しかし流石だな博仁。まともに入ったの一発もないだろ?」

 荒木さんの弁に頷く。ポイントは取ったが、ボディもストレートもダメージには程遠い。

「だけどこいつにしちゃ上出来だろ?前ラウンドの借りを返すって突っ込んでカウンターが毎度の事だし」

 青木さんの台詞に顔を伏した。その通りだからだ。

「次はもっと距離を取るだろうな。ダッシュで追い詰めるか?」

「そりゃ博仁も承知だろ?罠を張る事も十分予想できる」

 なんか俺そっちのけでワイワイ話始めた。助言とか戦略教えて欲しいんだけど。

「あの…そろそろ助言とか……」

「ん?おお、悪い悪い。お前がこんなに調子よく行くなんて滅多にないからな」

「そうだな。いっつもひっくり返るから。カウンター喰らって」

 解っているから早く助言くれよ。もうインターバル終わりそうじゃねーか。

「やっぱジャブでの牽制だろ。間合いを詰められるんだったら詰めて……」

「いやだから、博仁はそのくらい予測しているだろ。だったら虚を突いた攻撃の方がいい」

「こいつの不器用を知りながら言ってんのか?トリッキーな事は求めない方がいいぞ」

「ああ、そうだな。だけど正攻法は博仁には……」

 また俺をほったらかしにしてワイワイ話始めた。もうインターバル終わっちゃうけど……

「「隆、いつも通りだ!!」」

 二人で声を揃えて叫んでいた。そりゃそうだ、インターバルが終わってセコンドアウトしたんだから。

 つまり、話し合いばっかでなーんにも助言できなかったのだ。当たり前だが策もなし。

 まあいい、自由にやっていいって事だ。前向きに考えればそうなる。

「2ラウンドの借り、きっちり返すからな」

「抜かせ、返り討ちだ」

 リング中央でグローブを合わせて同時に引く。

 同時にワンツー!ヒロは面食らったようだが、元からそのつもりだったのか、後ろに逃げてノーヒットだった。

 あいつ、アウトボクシングするつもりだったのか?追えないと思ってんのか、俺が?

 ダッシュをかます。肩でフェイクを入れながら。ヒロ、ガードを固めてするすると後ろに逃げた。

 つーか、ただで逃がさねーよとやっぱり肩でフェイクを入れて追撃する。

「っち!」

 ヒロのバックステップのスピードが増した。当たり前にダッシュで追う。

「鬱陶しいな!!って!?」

 にやりと笑う俺。そこはコーナーだぜ!!2ラウンドの逆襲で慎重になり過ぎたな!!

 ヒロにコーナーを背負わせてワンツーを放つ。まずはジャブだ!

 ガードを固めているのではじかれるジャブ。本命は次の右ストレート!

 嬉々として放とうとしたが、その時見えた。ヒロの口元が緩んでいたのが。

 俺の方が急停止してガードを超固めた。

 左に衝撃が走って身体が浮く。あのタイミングでスマッシュを打っただと!?

「勘がいい野郎だな!!」

 追撃を警戒して尚もガードを固め直すが、向こうは振り抜きのパンチ。追撃はない。できない。

 ヤバかった。あのまま右を放っていたら、カウンターでスマッシュを貰っていた。

 そうだったら多分最終ラウンドまで持たない……負けるところだった……!

『……これは驚きましたね……一連の流れが全部フェイクだったとは……』

『緒方選手、危機一髪でしたが、何とか難を逃れました!……で、いいんだよね?』

『はい。緒方選手は目がいいから何かしらの情報が見えたんでしょう。よってストレートを強引に解いてガードしたんでしょう』

『情報と言うと?』

『僕からは見えなかったですね……対峙していた緒方選手だから見えたんでしょう』

 その通りだ。真正面だからこそヒロの口元が見えたんだ。玉内には見えないだろう。ガードしていたしな。

 ともあれ、ガードを解いて構え直した。ヒロもコーナーからちゃっかり脱出して構え直した。

「お前この野郎、危なかったじゃねーかよ。少しは反省しろアホ」

「お前こそ逃げんじゃねえよ。素直に喰らって倒れろよバカ。おかげで無駄なラウンド重ねなきゃいけなくなっただろうが」

「だったらお前がやられてノックダウンしろよ。そうなったらウィンウィンだろうが」

「どうすりゃウィンウィンになるんだよ末期頭が。説明してくれんだろうな?」

「学年最下位に限りなく近いお前が末期頭とか言うな。俺は学年真ん中だスーパーアホが」

 なんがギャーギャー言い合った、レフェリーが「ファイッ!!」とか号令を出すまで。

「ちくしょう、こうなったら意地でも負けてやらねえからなヒロ!!」

「こっちの台詞だぜ隆!!」

 リング中央、脚を止めてのジャブの応酬!!観客から「おお~……」と感嘆の声。

「意地でも貰わねえからな!!」

「だからこっちの台詞だボケ!!」

 飛び交うジャブ。しかしノーヒット。スタミナには自信があるんだ。絶対先に手は止めねーからな!!

「あああああああああああああああああああああああああ!!!」

「くっ、この……」

 ヒロのガード率が上がった。捌き切れなくなったか。それともスタミナが危ういのか。

 試しに右肩を軽く振る。ガードをより強固に固めるヒロ。

 間違いない、スタミナがヤバいんだ。かくいう俺もきついけども!

 だが、ジャブでヒットさせることが重要だ。根性でねじ伏せたって優位が加算されるからな。

「そろそろあたれええええええええええええええええええええええ!!!」

「ふっ、ふざけんなよお前!!」

 ヒロのジャブが復活した。ガードを極力やめて躱す方に重点を置いた。

 こいつもジャブで勝負しようってのか?俺よりもスタミナが無い分際で生意気な。

 素直に作戦立てりゃ楽だろうに、俺相手にジャブの応酬に付き合うとか、やっぱアホだ。

 スタミナ度外視で打ちまくる。上下左右に打ちまくる。

 流石のヒロは捌いていて返しのジャブも放ってきたが、遂に限界が訪れたか?


 ぱん


『うん?今緒方選手のパンチが当たったような……?』

 ような、じゃねーよ、当たったんだよ!!

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ぱん


 ぱん


 ぱん


 連続4っつのジャブがヒットした!!打ち勝ったぞヒロに!!

「ちくしょうが!!」

 ヒロもムキになって打ち返す。


 ぱん


『大沢選手も当てた!!」

『これは乱打戦になりそうな予感がしますね。最初に当てられたことで、主導権は緒方選手が取ったと思われたんですが、乱打戦ならばうやむやになる。しかし、それはリスクが高い』

『それはどういうことですか玉内さん?』

『緒方選手は乱打戦が得意と言うか、大沢選手がしたくない展開になると言う事です』

『つまり、緒方選手が有利だって事だああああああああああああああああ!!!』

 歓声が大きくなった。俺が望む展開に近くなったのはその通り、玉内の解説に期待しているんだろう。

 だが、相手は試合巧者。イヤな展開だろうが何だろうが予測して想定して、別に戦略を組んでいる筈だ。だから油断は微塵たりともしてやらねーよ!!

 しかし、これは俺が望んだ展開。脚を止めての打ち合いは大好物だ。

 よって右にも余裕が感じられる。

 試しに右。手打ちのジャブのようにスピード重視で放つ。


 ぱん


 当たった!マジかよ?だけどこれもフェイクの可能性がある。気持ちよく打たせてカウンターを狙うとか。

 しかし、当たったことは事実。更に試しにワンツー!


 ぱん


 ジャブは当たったが右ストレートは止められた。大砲は警戒しているようだ。当たり前か。

 ならば果敢に攻めるまで。またワンツーで……!?


 ぱん


 やべえ、ヒロもワンツーを放って来やがった。右ストレートは止めたがジャブは喰らっちゃったぜ。

「この野郎……お前も右を警戒するとか、馬鹿なら素直に喰らった後の反撃だけ考えやがれ!!」

「右喰らったらやべーだろうがアホ!!」

 再度ワンツー!!ジャブを放つも止められる。ならば右をやめて更にジャブ!!

「!?」

 右が来ると思ったんだな?目が驚いたぞ!

 更にジャブ!!当たり前に止められた。そこから半歩前に出て――

「ちっ!!」

 リバーブロー!!ガードしたヒロだが、渾身のリバーだ。反撃が遅れるだろ!!

 追撃しようと拳を引いた。その時コングが鳴った。

「ちっ、運のいい野郎だな」

「こっちの台詞だバカ。カウンターでひっくり返してやったのに」

 グローブ同士で叩き、離れてコーナーに戻る。

『第三ラウンド終了です!このラウンドは……?』

『イーブンでしょうか?若干緒方選手の方が優勢のような気もしますが、打ち合いに負けていませんし、コーナーでのスマッシュでポイントは稼いでいるでしょうし』

 俺の方が攻めている印象があるが、玉内の言う通り、ジャッジがどう転ぶか解らんくらい微妙だ。負けは無いと思うけど。

「いや、このラウンドも取った。博仁はやっぱりスタミナを気にしている。次だ」

「そうだな。博仁も次は攻めてくる。テクニックじゃお前は負けるから、やっぱ懐を狙え。だが、当たり前だが完璧に想定内で対策も練ってあるだろう。しかしだ、お前の強みはダッシュでのインファイト、それは変わらねえ」

 頷く。それこそが俺の武器。テクニックじゃヒロに劣るが、接近戦なら負ける事は無い。

「だからって被弾覚悟で突っ込むんじゃねぇぞ、ちゃんと脚使え。ダッシュはメインだが、左右にも動くんだ」

「フットワークもヒロの方が上なんすけど」

「だから何だ?相手が上だからやらねえって事は無いんだぞ」

 そりゃそうだ。だが、俺の足さばきでヒロを捉えられるか?いや、ダッシュがメインだって言ったな。

「ガードは絶対に下げるなよ。博仁は隙を見逃さねえんだから、だが、目はお前の方がいい。だからお前も隙を窺え」

 ヒロに隙なんて無いと思うが、スタミナ切れを気にするんだったらそこに活路があるかもだ。

「よし行け。慎重かつ大胆に」

 背中を叩かれてコーナーから出る。丁度ブザーが鳴った。セコンドアウトの指示だ。若干速かったが、まあいいだろ。

 リング中央でやや遅れてきたヒロを待つ。

「逸ってんのか?とっとと出てきやがって」

「早くお前をひっくり返したいと思っているから、逸っていると言えばそうなのかもな」

 拳を合わせ、コングを待つ。そして。コングと同時に拳を引いた。

 ジャブ。しかしそこにヒロは居ない。フットワークで後ろに逃げたからだ。

 追うと脚に力を込める。

「あれ!?」

 ビックリした、ヒロのジャブが飛んで来たからだ。咄嗟にガードした後打ち返すも、もういない。また後ろに逃げたんだ。

『緒方選手のパンチが当たりません!!』

『ヒットアンドアウェイですね。打って離れてまた打つ。基本戦術の一つです』

『確かに。大沢選手は打ったらすぐに離れてまた打つを繰り返しています!!ですが、これが基本戦術なんですか?』

『そうです。接近して先に攻撃をヒットさせ、相手の本格的な反撃が来る前にアウェイするのが基本ですね。長期戦の中で脚を使いながら徐々に相手にダメージを与えていく戦術です』

 お前の得意な戦術じゃねーかよ。得意げに解説すんなこの野郎が。

 フットワークが軽い玉内の得意な戦術だが、ヒロも当たり前にできる。しかし、ヒットアンドアウェイは何度も喰らって来た。ヒロに。

 んで、どうせ捉えられねーんだったら強引に懐を狙うってのが俺だ。それを当たり前に読んでいるのもヒロだ。何十回もやって来たんだよ。当たり前に展開も読めるってもんだ。

「突っ込むなよ隆!!」

 ほら、セコンドも同じこと思っていただろ?注意されたって事は、何度も見られたって事でもあるんだよ。カウンター喰らってひっくり返させるのが。

 だけど突っ込んじゃうのが俺だ。接近戦こそ俺の活路だって言っただろ!

 利き足に力を込め―

「だから突っ込むんじゃねえっつってんだよ!!落ち着け隆!!」

 速攻でバレた。ダッシュしようとしたのが。

 だけどこのままじゃ戴けない。最低でもこのラウンドは取られてしまうからな!

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