二年の秋~011

 なんかのホテルでブッフェを頂き、観光開始。とは言ってもテンション上がり過ぎて何を見たのかも記憶に留まらず。

 気付いたらもう旅館だと言う。

「はえーよ!」

「なにが!?」

 つい声に出して突っ込んだら、横の遥香が何事!?と突っ込んだ。

「あ、いや、この旅館って北商と山農も使うんだよな?」

「豪快に話逸らせたけど、そうだね。ご時世が宿泊を是としない今、お客獲得チャンスだって事ですんなり決まったみたい」

「なんだそのすんなりって!?お前等が強引に京都にしたから歪みが起きたんだろ!?絶対にそうだ!!」

「ちょっと緒方君、声が大きいわよ。みんななんの事か解らないだろうからいいけども」

 横井さんに注意されてしょんぼりする。

「まずは部屋だ。行くぞ国枝、隆」

「行くけど、お前に仕切られるのがどうもな……」

「あ、あとでお部屋に行くからね~、接待宜しく」

 部屋に行ってもいいか?じゃなく行く、だもんな。決定なのかよ。

 まあ、むさい野郎ばかりじゃ物足りない。花は必要だ。なので気持ちよく頷いた。

「漸く休めるな。制服から着替えられんのは有り難い」

 ヒロが部屋に着くなり制服を脱ぐ。気持ちは非常に解るので、俺も倣う。

「晩ご飯の前に少し時間があるようだよ。その辺を散策するかい?」

 国枝君も着替えながら予定を尋ねた。

「ああっと、前回とは旅館が違うし、阿部も地元だから関係ないと思うけど、俺死んじゃったんだよね。修旅の初日」

「ああ……そうだったね……なんか、ごめん…」

 気まずそうに謝罪するが、いやいや、言いたい事はそれじゃないから。

「なんか縁起悪いような気がするってだけで、出掛けるのはあんまりって事だから」

「しかし、無配理と言うか、デリカシーに欠けていたというか……」

 しょんぼりする国枝君だった。だから気にしないでって!こっちも申し訳ない気持ちになるから!

「じゃあ女子の部屋に行くか?春日ちゃんもいるし」

「いまから女子の部屋はちょっとな」

 要するに少し休みたいって事だ。出歩かずににまったり過ごしたいと。

「じゃあトランプでもやるか?」

「持ってきているのかよ。お前どうしても何かやりたいんだろ」

「暇だからいいじゃねえか、国枝、何やる?」

「え?ポーカーとか?」

「決まりだ。負けた奴は罰ゲームな」

 もうやる事が決まったようだ。しかも罰ゲーム付とは。まあ、やるけど、面白そうだから。

「勝負は5回。一番負けた奴が罰ゲームな」

 なんでもいいので頷く。罰ゲームってジュース買って来い程度だろ、どうせ。

「俺からな。3枚チェンジ」

「じゃあ僕は1枚チェンジで」

 俺の番か……3のワンペアが既に揃っているからな……スリーカード狙いで行くか?

「三枚チェンジ」

 チェンジしたが揃わず。3のワンペアだ。

「よし、5のワンペアだ」

 ヒロが5のワンペア。俺は3なのでヒロの方が強いと言う事になる。数が大きい方が強いルールなのだ。俺達の間では。

「よし、9のスリーカードだ。まず一勝だ」

 国枝君が初戦を取った。ほっとした顔だったが、勝負はこれからだぜ!

「隆、お前が負けだろ、切れよ」

 負けた奴がシャッフルすんのか。まあ、いいけども。これで俺がイカサマできたら狙い通りのカードを自陣に配るのに。

 自分できばったカードは見事バラバラだった。チェンジしてもブタ。

「僕もブタだ。大沢君がツーペアで勝ちか」

「じゃあ隆、シャッフルな」

「は?国枝君もブタだろ?」

「お前前回の敗者だろうが」

 引継ぎされんのかよ敗者。仕方ないからやるけどさ。

 こんな感じで5ゲームを終えた。さて、結果だが……

「大沢君がトップか。悔しいな」

「いやいや、一勝差だろ。あぶねえところだったぜ」

 ははは、と笑い合うヒロと国枝君。3対2でヒロの勝ちとなった。俺?だから3対2だよ。一勝もできなかったって事だ、言わせんな。

「じゃあ隆、罰ゲームな」

「はいはい。なんだ?コーラ買って来ればいいのか?」

「何言ってんだ?それは風呂上がりだ。お前への罰ゲームは北商の部屋に行って倉敷が鮎川を連れ出してくることだ」

 …………は?

「え?お前今おかしな事言わなかったか?倉敷さんか鮎川さんを連れ出すとか?」

「言ったよ。パシリ如きは勿体なくて使えねえだろ。修旅はレアイベだぜ?しかも奇遇な事に山農と北商も同じ宿だ。だったら罰ゲームも絡めんだろ」

 いやいやいやいや!!何言ってんだお前!?白浜の教師だけじゃなく北商の教師にまで怒られるだろ!!

「お前真性の馬鹿か!?なんで叱られるようなことわざわざしなきゃいけねえんだ!?」

「言っとくが、メールや電話で呼び出すのは無しだ。それじゃ面白くねえだろ」

「だからやらねーよ!!下手すりゃ停学もあり得るだろ!!他校の女子を連れ出すとかさあ!!!」

「見つからなきゃなんて事ねぇ。ほら、早く行け」

「マジでやるのか!?国枝君、助けて!!」

「大沢君が勝者だからね……申し訳ない緒方君」

 深々と頭を下げる国枝君だった。自分には何の権限もないと言った体で。

 いやだ、無理だとごねたが、これは罰ゲームだろで通されて、もうとぼとぼロビーに向かって歩いているだ最中だった。

 途中で同級生に声を掛けられても乾いた笑いしかできなかったという。

 つうか北商はどこだよ?フロントに何々様御一行とか無かったかな…?

 行ってみると、白浜高校とはあったが北商は無い。

「あれ?旅館別々になったのか?」

 こんなギリギリになって宿が変わると言う事があるのか?

 首を捻っていると、外から何やらにぎやかな声。

「ヤマ農だ!」

 山農が到着したようだが、名前が無いぞ?取り敢えず松田を探そう。

 松田はあっさり見つけた。なんかど真ん中で隣の人と笑いながら歩いていた。

「松田!」

 そこに突貫し、松田を呼び止める。

「……おお!!緒方!京都で出会うのもなんか新鮮だな!」

「なあ!?なんかテンションおかしいよな!」

 野郎二人ではしゃぐ。他の人たち、ぽかんだろうな。

「あれ?白浜の緒方君?」

 女子に声を掛けられる。確か園芸科の女子だったような。

「あ、収穫祭の時、ありがとう」

「ああ、いえいえ、どういたしまして」

 同時にぺこりと。収穫祭の時よくして貰った記憶があるので取り敢えずお礼を言ったらビンゴだったようだ。

「そう言えば白浜と白浜北商業高校と一緒の宿だったよね」

 その女子も知っている様子だ。

「うん。だけど山農も北商も名前なかったよ?」

「ああ、それは山農は新館だからだ。北商もそうじゃねえ?」

 松田の回答である。成程、新館の方にな…

「うん?俺達が旧館?」

「そうだよ?まさか知らなかったの?」

 本気で今知ったので頷いた。

「マジかお前……そこチェックするだろ普通。入口違うんだし」

「そ、そんな事もあるよ緒方君、大丈夫!」

 松田と女子の反応が真逆だった。

「そ、そうなのか。だけど入り口が違うって?」

 バスはここに来た。よって新館も近くにあると思うが。

「俺だって知らねえからバスガイドさんの後について行くんだろ」

 そりゃそうだ。だったら俺も……

「うん?緒方君も行くの?」

「ああ、うん。夜に松田と悪さする為には泊っている場所の把握は必要だろ?」

「どんな悪さをしようっての?」

「修旅と言ったら女子風呂の覗きイベだよ。なあ松田?」

「お前なんで正直に言っちゃうの?」

 俺の冗談にノリで返してくれた松田だが、女子は引き攣った笑いを作っていた。いや、マジで冗談だから。何なら覗きに来た奴ぶち砕く要員になってもいいんだし。

 新館は隣にあった。バスは迂回の為にそこに止まったって感じ。

 問題は北商がここに泊まっているかだが……

「あった」

 歓迎!北商とかののぼりがあった。間違いなく新館に倉敷さん及び鮎川さんは存在する!

「緒方、夜部屋いっていいか?」

 松田が部屋に来たいと。

「いいけど、なんで?」

「何でって事はねえけど、折角だしなんかしたいだろ。普段できない事とか」

 こいつも結構ワクワクしてんだな。かくいう俺もそうだ。

「おう、勿論そうだな。何なら協力してくれた人たちも呼んで来いよ。竹山たちとやらが来たらぶち砕くけど」

「呼ばねえし、来ねえだろ。あいつらお前に超ビビってんだから」

 まあそうだな。全員顔覚えられたから(当たり前に遥香の根回しだ)俺だけじゃなく黒潮や南海にもやられちゃうだろうし。

「じゃあ夜に連絡すっから」

「ああ、うん。じゃあな」

 松田と手を振って別れた。じゃあ俺も部屋に戻ろうか。

 じゃねえよ、なんで新館に来たかって事だ。罰ゲーム最中だからだ。

 何となく山農生徒を見送りつつも北商生が泊まっている部屋のヒントを探す。

 つか、ロビーにはねーよヒント。精々北商がここに泊まっているって情報程度だろ。

 ならば根性決めて突貫だ。旧館なれど同じ旅館。隣に立ち入ろうが問題は無いだろう。

 一階をウロチョロすると、いつの間にやら大浴場。中には人の気配。流石に生徒の入浴時間は今じゃないだろうから他のお客だろう。

 二階、ここもウロチョロする。あんま機やらゲーセンやらのアミューズメント施設の他、自販機各種が並べられた部屋。カップラーメンなんかも販売していた。売店もここにある。

 その売店に北商の生徒発見!しかも鮎川さん!

 そーっと近づいて肩をちょんちょんすると振りむいた。

「え!?緒方君!?」

 緒方君と聞いて他の生徒もこっちを見た。顔を見られる前に鮎川さんの腕を取って突っ走る。

「え!?なになになになに!?」

 パニックになりながらも素直に引っ張られる鮎川さん。そして一階に到着すると同時に手を放す。

「はー!!はー!!な、何なの一体!?」

「いや、松田とさっきばったり会ってさ」

「だからって私を引っ張る理由になんないよね!?結構ドキドキしたんだから!!」

「え?なんで?」

「男子に手を握られて一緒に走ったとか、いい感じのシチュだからでしょ!」

 そ、そうなの?なんかそれ聞いたら意識しちゃったんだけど。今更ながらにお顔が火照るんだけど。

「ま、まあなんだ。着いてきて」

「は?どこに?」

「俺達の部屋」

「なんで!?まあ、旧館に興味があるからいいけど……」

 なんか髪をくるくるさせながら。興味と言っても、新館も旧館もあんま変わらんけどもな。

「あ、でも、夕飯前には帰るから」

 そりゃもう。長く拘束つもりもないしな。

 結構速足で旧館の戻っての国枝班の部屋。途中同級生に見られなかったのが奇跡以外にないってくらい、だれとも遭遇しなかった。

 ガチャリとドアを開けると、ヒロがニヤニヤ顔で出迎えた。

「おう隆、遅かったな。お前の事だから無理だっつって諦めてきたんだろどうせ」

「?何が無理なの?」

 鮎川さんの顔を見て絶句したヒロ。国枝君ですら声を発しなかった。

「だから、何が無理なの?大沢君なの?私に用事があるの」

「え!?い、いや、これは罰」

 罰ゲームだと言う前に国枝君がヒロの肩を叩いて振り向かせた。

「鮎川さんに罰ゲームだとか言ったら怒られるよ、きっと」

「え?だ、だって隆が連れて来たんだから、怒られんのは隆じゃねえの?」

「それ、だれが命令したんだい?」

 小声なれどそこまでは聞き取れた。まあ、怒られるのは俺とヒロだろうなぁ……

「ねえ?何なの一体?」

 焦れて若干キレたのか、声が少し大きくなっていた。

「鮎川!大貧民やらねえか!」

「……は?そんなんでわざわざ呼びに来た訳?」

 俺をじろりと睨みながら。

「俺はヒロに連れてこいと言われただけだよ。用事はヒロがあるんだろと思ったけど、まさか大貧民要因とはな」

 嘘、偽りを全く発していなかった。倉敷さんか鮎川さんを呼んで来いと言われたが、倉敷さんを意図的に忘れて言わなかったくらいだ。

「い、いや、どうしてっかな?と思ってな、つい…」

 全く言い訳になっていなかったし、理由も無かった。ヒロ、キレられるんだろうな。

「はあ~……まあいいけど……」

「「「え!?いいの!?」」」

 俺とヒロ、国枝君が同時に発した。だって信じられないんだもん!

「は?大沢君が呼んだのは大貧民要因でしょ?」

「お、おう、そうだけど……」

 間違いなく嘘だが、うんと言うしかない。

「その代わり一回だけだからね」

「あ、ああ………」

「わざわざ私を呼ぶとかさ……槇原さんも春日ちゃんも美咲もいるのに……」

 ぶつぶつ言いながらも付き合ってくれるとは、本当にいい人だこの子……

 感動しつつ、臨んだ勝負は最下位だった。俺トランプ弱っ!!!

「やった、勝利!!」

 鮎川さん一位、国枝君二位、ヒロが三位。なんかヒロが鮎川さんに勝利を譲っていたように思うのは気のせいかな。

「じゃあ罰ゲーム。三位の人が新館に行って倉敷呼んで来て」

「はあ!?三位って俺か!?普通びりっけつの奴だろ罰ゲームは!」

「さっきの聞こえてないとか思ってるの?」

 めっさガンを飛ばされたヒロ。もう黙って頷くしかなかった。だって普通に怖えもん。聞こえていたとかさ。

 ヒロを追い出して暫し。鮎川さん、部屋を正に舐めるように見る。

「な、何かな?何か気になるのかな?」

「うん?いや、やっぱり新館の方が綺麗だなって思って」

 そりゃ、こっちは旧館だし、古いからそう思われてもしょうがないし。

「つか、緒方君の家にみんな集まってこういうことしているんだよね?」

 トランプを広げながら。答えたのは国枝君だ。

「トランプはした事が無いな。人生ゲームと桃鉄に熱中したけども」

「そうなの?倉敷も2回くらい行ったって聞いたけど、その時も人生ゲーム?」

「えっと、どうだったかな?緒方君?」

「あ、うん。ただの雑談。松田が来た時に一緒に来たんだし」

 よって内容はあの話だ。人生ゲームや桃鉄をやっている暇なんかない。

「そっか。私も遊びに行っていいの?」

「うん是非是非。親父とお袋の過剰接待受けるけど」

 松田も倉敷さんも例に漏れず、晩飯食って行けだの、お付き合いしてどんくらいだの聞こうとしていたし。

 遥香が居なかったら倉敷さん大ピンチだったぞあれ。

「良かった。大沢君との練習の時行ったっきりだったからさ、友達と思われているのかな?ってちょっと不安にね」

 いやいや、こっちの方が良かっただろ。鮎川さんとも友達になれたんだしな。感謝、感謝だ。

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