文化祭・序~007

 因みにここは山郷駅。来たメンツは俺とヒロ、国枝君。それに遥香と波崎さん、春日さん。

「倉敷さんは?鮎川さんも来ると思ったけど?」

「もう学校に入ってるよ。電車だから」

 俺達はバイクで来たからな。電車の方が早く着く時間帯ってのもある。倉敷さん、始発から行きそうな勢いだったし。

「で、接待を申し出た野郎は?」

 ヒロの質問に答える俺。

「まだ来ていないようだな。あんなゴツイ奴、見ればすぐ解るんだし」

「だけど、この人数だけってのは珍しよね?木村君来たかっただろうけど、残念だよね」

 波崎さんの言う通り。木村は来ない。と言うか来れない。西高は今日文化祭だからだ。因みに南海もそうだった。と言う事は大雅も来れない。

 黒潮は普通の休日だった筈だが、横井さんと超久しぶりのデートだそうで(横井さん曰く、頑張っているご褒美だとか)、だったらヤマ農の収穫祭に来いと言ったところ――

「千秋さんが観たがっていた映画、今日が最終なんだよ」

 と言う事で、あいつ等は西白浜の映画館に行くらしい。横井さんが収穫祭に行きましょうと気を遣って言ってくれたが、折角の二人きりだ。今回は河内に味方したのだ。

 内陸の学校も来ない。丘陵中央、連工、中洲情報共々文化祭だからだ。渓谷学院は普通に休日だが、あの二人はバイトがあるので来れないとか。生駒と同じだ。

「まあ、初期メンバーに戻ったと言うのも乙な話だな」

「それ、お前の繰り返し限定じゃねえの?」

 まあそうだけど。楠木さんがいないのはちょっと寂しいくらいか?

 しかし、俺達はバイクなんだから、駅じゃなく学校で待ち合わせでもよかったんだが。

 と、その時、なんか黄色い超ちっちゃいバイクに乗った大男が登場。

「モトコンポだ……!」

 国枝君の目がキラキラした。モトコンポ?あのおもちゃみたいなバイクの名前か?

「待ったか?」

 颯爽と降りたのは、赤城。こいつでかいからバイクがちっちゃく見えたんだと思ったが違った。

 バイク自体が小さい。車に積めるように小さいぞ。

「そうだよ。このモトコンポは車に積めるんだ!」

 赤城への挨拶もそこそこに、そのちっちゃいバイクに駆け寄って眺める国枝君。

「赤城、このおもちゃみたいなの、50CCか?」

「そうだ。じゃあいいもん見せてやる。えっと、メガネのお前……確か白浜の展示責任者だよな」

「あ、ちゃんと挨拶していなかったね。国枝です。こっちは春日響子さん」

 ペコリをお辞儀する春日さん。赤城も挨拶宜しくお辞儀した。

「ちょうどいいや。このウ二頭は大沢博仁。俺のスパー相手だ。こっちが波崎さん」

「おう、よろしくな赤城」

「初めまして。波崎優です」

 波崎さんはちゃんとお辞儀したが、ヒロは寧ろふんぞり返っていた。なんでそんなに偉そうなのか不明だ。

「槇原さんは何度か話したな」

「ああ、そっか、実行委員だもんな」

「そうそう。赤城君、今日はよろしくね。ところでいい物って?」

「ああ」

そう言ってちっちゃいバイクに向かう赤城。国枝君はなんかワクワクしていたが、俺達は何の事やらだ。

 赤城はなんかハンドルの上についていたダイヤルを回し始めた。

 途端にハンドルが折れたようにだらんとなった。

「おい!?壊しちゃったのか!?」

「違うよ緒方君、まあ見ててよ」

 国枝君に窘められて成り行きを見守る俺。いや、俺達。

 そのハンドルをシートの前の隙間に入れて、シートを下げて……

 その開口部に蓋をして!

「おおお!!コンパクトになった!!」

 丁度四角になったような形状!!タイヤ部分は露出しているが、真四角と言う訳じゃないが、見た目めっさ軽そうに見える!!

「見た目だけじゃねえ。実際軽いぞ。ほら」

 そう言ってバイクを持ち上げる赤城。いやいや、お前力自慢なんだろ?あてにならねーよそれ。

「このモトコンポは45キロくらいなんだ。だから僕にも持てるんだよ」

 春日さんを見て笑う国枝君。ああ、そっか、春日さんってそのくらいなんだ。ちっちゃいからな……

「面白いな……持ち運び可能とか……」

「元々はホンダの車のトランクに詰めるってコンセプトで開発されたらしい。その当時は人気が無かったが、漫画とかに出て人気が出たとか。キャンプとかでチョイ乗り、急な買い出しに便利だから利点もある」

 言いながら折角畳んだバイクを戻した。

「これ可愛いな……買っちゃおうかな……あ、だけど、免許は無理か……」

 波崎さんがしゅんとした。南女は免許取っちゃダメだからしょうがない。

「私はダーリンの後ろがいいから必要ないかな。だけど可愛いよね」

 遥香は俺の後ろがいいからいらんと。的場に頼めば格安で用意してくれるんだから、チョーっと検討したらどうだろうか?そうなりゃ俺の負担も減ると思うのだが。

 じゃ、まあ、折角早く来たんだし。

「とりあえずヤマ農行こう。赤城、案内してくれるんだろ?」

「おう、まかせろ」

 頼もしくも胸を叩く。

「じゃあ先行はヒロ、いけ」

「俺?まあいいけどよ」

 ヒロがバイクにまたがってみんなを促した。

「んじゃ、安全運転でよろしくー」

「「「おーう」」」

 と言う訳でヒロを先頭にヤマ農に向かった。駅からヤマ農まではバイクで20分弱。幸いな事に駐車スペースがまだ空いていたのでそこに突っ込んだ。

「じゃあ赤城、頼むぜ」

「おう、その前に、ご要望はあるか?」

 要望とはこれ如何に?首を傾げる俺。

「何か優先的に見たい、欲しい物はあるかって事だよ」

 国枝君がこそっと追記してくれるが……

「それも含めての案内なんじゃ……」

 てっきりそうだとばっかり思っていたが、違うの?

「あはは~。よく解らないから、赤城君にお任せで」

 遥香が見かねたのか助け舟を出してくれた。赤城、それを快く了承した。

 門を潜った途端、鼻腔を擽るいい香りが俺達を襲う。

「おおお、マジか!」

 ヒロの瞳がキラキラした。このあたり全部屋台!!

「ヤマ農で採れた、育てた物を調理して売ってんだ。あの鶏の串焼きもそうだし、お好み焼きもそうだ。豚汁なんかもあるな。だが、これでもまだ序盤だぞ。ここで食い過ぎたら他に回す余裕がなくなすから要注意だ」

 赤城が笑いながらそう言う。ヒロ、豚汁の屋台に行こうとした脚を止めた。

「まだ他にもあるのか?」

「農業科はとれたて野菜の販売が主だな。当たり前に野菜鍋も売っているし、園芸科は当たり前に花とか木とかの販売、畜産科は肉。勿論加工品も。造園科は今回庭の展示及び販売、食品化学科はみそとかヨーグルトとか」

 なんだ庭の販売って!?すんごい興味があるぞ!!

「じゃあ食い物屋自体はねえんじゃねえか?」

 ヒロが文句を言った。ここで食ってもいいんじゃね?と。

「教官駐車場の方で芋煮をふるまっている筈だし、裏手には別の屋台もある。部活連の殆どは食い物屋だしな」

「じゃあここで腹いっぱいになる訳には行かねえな。他も見てからだ」

「つうかお前、会長たちに自重しろと言われたの忘れてねーだろうな?」

 あんまバカ食いはすんなよ。お前の方が重いから勝った、負けたとか言われるんだぞ。

「わ、解ってんよ。大丈夫だ。多分……」

 多分かよ。つうか春日さん。もうなんか食っているけど!

「か、春日さん、何食べてるの?」

「……園芸課の出店屋台、はちみつのクレープ。美味しい……」

 もううっとりしていた。覗いてみると、生クリームの上になみなみと蜂蜜が掛かっていた。だが、春日さんならあれでも不満な筈。あれの他に更に甘いのが隠されているんだろう。

「んじゃ、まあ、食い物関係ない所から頼むぜ」

 なんかヒロが勝手に要望を出した。

「どこに行っても食い物屋はあるが……じゃあ造園科に行ってみるか」

 そんな訳で造園科。教室に行くのかと思ったが、外だった。

 そこは何もなかったであろう広場。林(勿論整備されてあって、暑い季節なら零れ日が気持ちよさそうだ)

 しかし、なんだこの人込みは?

「結構人気なんだな……」

「造園は一番人気が無かった筈だ」

 この人数で!?めちゃ込みなのに!?

「いいにおいがするね……」

 国枝君、鼻をひくひきさせた。確かに言い匂いだが……

「赤城、食い物屋じゃねえところって言ったじゃねえかよ?」

 ヒロが文句を抜かした。要望通りじゃないと。

「あれは造園科で作っているキノコの鍋だな。一杯400円だってよ。食うか?」

「食いたいが、まだ控えているからな……だから、そうじゃなくて、食い物屋以外の所っつっただろ」

「あれはおまけみたいなもんだ。本命はアレ」

 人込みをかき分けて前に来ると、言葉を失った。

 4畳ほどのスペースに、ど真ん中にちっちゃい家。周りには小規模ながら庭が作ってあったのだから!!

「造園科はガーデンハウス。石で囲ってあるのは水は張ってねえけど池、芝を張って、歩行スペースには石畳を敷いてある」

「……これを生徒だけで……」

 波崎さん、戦慄して汗を流していた。しかし気持ちは解る。プロの仕事だろこれ!!

「ガーデンハウスは去年も作ったけど売れなかったから、今回は一つサイズをダウンさせたそうだ。材料も見直して、一棟限定で15万だとさ」

「売れるのかそれ!?」

「さあな。だが、欲しいって人は結構いたみたいだぜ。で、この池もサイズダウンさせてソーラー発電機で噴水を出している。防水も当たり前に行っているから水漏れもない」

「……本当にプロの仕事のようだね。凄いなぁ……」

 春日さんも羨望の眼差しで見ていた。本当の大きさでああいう庭だったらマジでかっこいいんだろうな……親父連れて来ればよかった……

「芝も半分は人工芝。こっちの本当の芝は土を均して張ったが、人工芝の方は土を取って砕石を入れて、その上に防草シートを張って、人工芝を張った。雑草が生えないように」

「そうか、ただ土の上に人工芝を張っても、隙間から雑草が生えてくるんだもんね。考えてあるなぁ……」

 感心する国枝君。言われてみればその通りだが、素人だったらそのまま土に張って満足しちゃうかもだよな。

「因みに、造園科の教室にはストーブが売っている」

「なんでストーブ!?」

「売って利益を稼がなきゃいけねえからだよ。ガーデンハウスは高価だからな。そのサンプルが……あれかな?」

 赤城の指差した階段状のプランターにキャンプで使いそうな缶で作ったストーブが置いてあった。

「展示してあるのはウッドガスストーブだけのようだが、造園科の中にはそう言ったアウトドア用品が売ってある。あのストーブは1000円だったっけかな」

「あれも作ったのか……すげえな造園科……」

 ヒロが生唾を飲んで呟く。かくいう俺もそうだった。凄すぎるぞ造園科!!

「ちょうど外に出たし、園芸科の花壇に行ってみるか」

 花を愛でる美しい心は俺にはないが、折角の申し出。有難く受けよう。

 そんな訳で徒歩5分。園芸科の花壇に到着さっきも言ったが、花を愛でる美しい心が無い俺でも息をのんだ。

 なんだこの花の絨毯!?綺麗すぎるぞ!!

「すごいね……遠目で見れば解ると思うけど、色の違うケイトウを植える事によって、絵を描いているよ……」

 遥香も吐息が漏れ出る程の綺麗な……何?絵?

「つうかこの花ってケイトウって言うのか」

「うん。鶏の鶏冠に似ているでしょ?だからケイトウ」

 成程、言われてみれば見えなくもない。

「あっちはコスモスだね。コスモス自体は珍しくはないけど、やっぱりきれいだよね。シクラメンの鉢植えが売ってあるね。可愛いなぁ……」

 まさに圧巻の花、花、花である。バラも咲いているし。

「ローズオイルだ。いい香りがするね」

 にっこり笑ってそう言った遥香。じゃあ……

「そのローズオイル?一つください」

 園芸科の生徒であろう女子に売り物のそれを指さした。

「いらっしゃいませ。3パーセント希釈物で3000円、1パーセント希釈物で2000円です」

 さんぜんえん!?このイソジンの容器よりもさらに小さい容器なのにさんぜんえん!?

 俺の驚愕の表情で察したか、園芸科の女子が笑いながら言う。

「高いですよね。ですけど、ローズオイル一滴抽出するのに、バラ50本必要ですから、これでも頑張った方ですよ」

 マジで!?そんな採れないものなのか!?だったらたけーよ!!納得の価格だよ!!

 だが、ここでいらんとは言えない。言ったら園芸科の女子にも遥香にもとても悪い事をした気分になってしまう。

「じゃあ3000円の奴を……」

「ありがとうございまーす」

 ラッピングを施してくれそうだったが、それを断って商品を受け取った。

「遥香、これ」

「……いいの?高かったよ?」

 いいんだよ。お前にやるから買ったんだし。逆にお前にやらずに誰にやれと言うのだ。

「いい香りとか言っていただろ。気に入ったんだろ?だからやるよ」

「……うん。ありがとダーリン」

 大事そうに両手で受け取り、ほんわーと笑った。やべえ。マジ可愛い俺の彼女さん。

「春日さん、良かったらこれ……」

「……うん。大事に使うね。ありがとう」

 国枝君も春日さんに買ってあげたようだ。春日さん嬉しそうだし、いい買い物だろう。

「な、波崎、これ!」

「なんか血涙でそうな顔になっているよ?無理に買わなくてもいいんだからね?」

「いいんだ!!俺だけ買わねえとか、有り得ねえ状況だし!!」

「感激が薄れた言葉だけど、まあ、どうも」

 ヒロも波崎さんに買ってあげたようだ。波崎さん、微妙な顔になっちゃったけど。

 買い物も終えて、赤城を促して次に向かう。

「畑では収穫体験をやっている。サツマイモ掘れるぞ。終わったら焼いたのを一本貰える」

 俺は興味があるが、ヒロがイマイチ乗り気じゃない様子。

「ヒロ、やりたくないのか?」

「収穫体験って時間食うだろ」

 ああ、成程、そっちか。

「言われてみればその通りだな。じゃあ畜産科に行けば牛が芸しているの、見られる」

 牛って芸すんの!?

「牛は賢い生き物なんだってよ」

 赤城が昨日のリサーチで有ろう、そのまま伝えた。ドヤ顔で。

「……面白そう」

「じゃあ赤城君、畜産科の案内お願いできるかい?」

 ヒロの却下が入る前に国枝君が決定した。春日さんが面白そうと言ったからに違いない。

「ああ」

 赤城がずんずん進む。それに付いていく俺達。程なくすると、動物独特のあの臭い。

「うん?おい赤城、あれってひよこじゃねか?」

 ヒロが柵に囲われた一角を指さして尋ねる。

「ああ、ひよこのふれあいコーナーだってよ」

「可愛い!触ってみたい!」

 波崎さんが乗り気だった。じゃあ、と。

「お前等はそこで触れ合っていろ。牛の芸が終わったらこっちに来るから待っていてくれればいい」

「おう、そうしようぜ。お前ら後でな」

 そうして俺達は一旦ヒロと別れた。まあ、直ぐに合流する事になるのだが。牛の芸の時間があまりなかったから少ししか見れなかったからだ。

 ふれあいはひよこだけじゃなく、ウサギもだった。おかげで遥香と春日さんのテンションが高かった。

 案内した赤城も満足そうに頷くほどだった。

「可愛かったね、春日ちゃん」

「……ひよこもうさぎも、ふわふわだった」

 もう目じりがだらしなく下がっていた。かなり癒された事だろう。

「手は洗ったか?じゃあ次に行くぞ」

 赤城に促されて次を目指す。今度は教室だ。

「まずは農業科。採れたて新鮮野菜の販売及び野菜鍋。それにパンケーキだ」

 パンケーキと聞いて遥香と顔を合わせた。

「松田の奴、フレッシュのパンケーキ、マジで作ったのか?」

「さすがにあのレベルは無いにしても、結構いい線は行っているだろうね。松田君なら」

 頷いてまずはパンケーキをゲット。食べ歩きが可能の、おかずパンケーキタイプだ。

「あれ?中身はおかずじゃないね?」

 遥香の言う通り、ホイップクリームを塗った生地にカットフルーツを挟んでジャムを掛けた物。果物は梨だ。

「ジャムも梨みたい。凄い美味しいねコレ……フレッシュのとはまた違うけど、勝負になるよ。これで300円とかさ」

 確かに、価格はお手頃でうまい。甘さ控えめで。よって春日さんは不服顔だ。

「野菜鍋うめえな……肉が入っていないとは思えねえうまみだ」

「そうだね……豚肉が入っていない豚汁って感じだけど、野菜のうまみが凄い。サトイモが食べ応えあるし、……これで300円とか……」

 野菜鍋も300円か……うまいしやすいしで言う事なしだぞ。

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