球技大会~003

 程なく、ぞろぞろとやって来た糞共。真ん中を偉そうに歩いているのは、見た目本気で糞。オッサン顔の厳つい奴だ。

「あれが三上か?」

「そうだ。ヤバい奴だってのが見た目で解るだろ」

 そうか?もっとヤバい奴とやり合って来たからよく解らんけど。友好校協定でヤマ農と揉めるのを避けた程度の小物にどうやってビビれっつうんだ。

 正座していた糞共が俺をチラ見する。

「行っていいぞ。行ったと同時にもう一度ぶち砕くしな。自分の保身の為にボスを人身御供にしたカスには容赦するつもりはないし」

 軽蔑の眼を正座の糞に向けながら言った。糞共が凄く項垂れた。言われて気付いたか?自分達のボスを売ったって事を。

 糞共が俺達に接近して漸く止まる。そして凄んで岸を見る。

「岸ぃ……助っ人頼んだ程度でよくもまあ、そんな上等こけたなお前……」

 三上って糞が射殺すように睨み付けた。

 俺は岸の前に立って三上って糞と対峙する形を取る。

「こいつ等は関係ない……って訳じゃないが、今回は俺が呼び出したようなもんだ。お前等を程よく痛めつける為にな」

「……誰だお前?この辺の奴等じゃねえな?」

 俺の横に付いたヒロ。鼻で笑って返す。

「上等こいたっつうんなら、俺等に協力してくれたこいつ等と揉めているお前の方だぜ悪党面」

「あ!?ふざけた事言ってんじゃねえぞテメェ!!誰だって聞いてんだろうが!!耳付いてんのか!!ああ!?」

 更に俺を押し退けて前に出る木村。三上って野郎よりも更に厳しい顔で睨みつけながら。

「聞きてえのか?敢えて名乗らなかったんだがな。お前等を逃がさねえ為に。俺は白浜西高の木村。このバカげた髪型が白浜の大沢。そして、お前等を呼び出したのが白浜の緒方だ」

 真っ青になった三上。そんな悪党面でビビんなよ。泣きそうになってんぞお前。

 及び腰で距離を取る。そんな糞共に更に呷る俺。

「数で勝ってんのに、たった3人にビビるのか?岸に言った事はどうした?上等がどうとか……なあ!!!」

 ボディを打った。腹を押さえて両膝をついた。弱っ。一発でこれ?

「おい隆、一応言っとくが、口は利ける程度にしとけよ」

 そう言って自分は他の糞の顔面をぶっ飛ばした。

「おい、お前は顔面狙うのかよ?口利けなくなったらどうすんだ?」

「そいつ一人いりゃいだろ」

 そう言って木村も顔面に蹴り。歯が飛んだから、こいつも話すのが難儀になっちゃうだろうが。もうちょっと気を利かせてくれ。

 まあいいや。俺は俺が聞きたい事を聞くだけだ。

 三上って糞の胸倉を持ち上げて無理やり立たせた。岸が「あのガタイを片腕で!?」とかビックリしていたが、もっとでっかい奴を片腕でぶん投げた事もあるから今更だ。

「おい、お前連山のチームと友達らしいな?」

「ち、ちょっと待ってくれ!!俺等はお前等と揉めるつもりは全く無いんだよ!!岸がお前等のダチって言うんなら、今後手を出さねえから!!」

 涙目で訴えられても全く響かない。逆にイラッとしたくらいだ。

 なので俺にしては手加減してフックを顔に放つ。

「ぶっ!?」

「手を出さないのは当たり前だろ糞が。当たり前の事を取引に使うんじゃねーよ。俺が聞いてんのは連山のチームだ」

 言ってから至近距離でボディを打った。なんか吐いてまたまた両膝を付いた。

「ホントに話聞く来ねえんだな……松田が言った通りだ……」

 岸が慄くが、話を聞いてないのはこいつの方だろ?俺の質問と関係ない答えが返って来たんだから。

「もう一度聞くぞ?連山のチームと友達なんだろ?」

 問うも腹を押さえてブルブル震えるのみ。なぁなぁで済ませようと思われてもしょうがないぞそれ。

 軽くアッパーを放った。顔面直撃だが、鼻は砕かず。鼻血は出たけど。

「どうやら答えるつもりはないようだから、此処でぶち砕いてもいいか」

 またまた軽く打ち下ろし。三上の頭が下に流れてダウンの形となる。

 そこに腹に蹴り。何度も何度も。ギャーギャーうるせーが無視をして。

「そ、その辺にしといたらいいんじゃねえか……?それじゃ話したくても話せねえんじゃ……」

 岸がおっかなびっくり止めに入る。逆にキョトンとして聞き返した。

「聞いても答えないからこうなってんだろ?ギャーギャー騒ぐ暇があったら素直に答えればいいだけだろ。今だって普通に言える筈だ」

「い、いや、悲鳴と言葉は違うんじゃねえかな……?」

 だったら悲鳴上げる暇があったら早く言ったらいいだろって話だよ。

 そもそも俺にしてはかなりの手加減してんだぞ。こいつが雑魚過ぎだからこうなっているだけで。

 まあ、俺も話が解らん男じゃない。この手の輩に対してはそうでもないけど。

 なので蹴るのをやめて改めて問う。

「もう一度だけ聞いてやる。答えなかったら今度こそ病院に送ってやるからちゃんと答えろ。お前、連山のチームと友達なんだってな?」

 ガクガクして俺の方を向き、発した。

「た……助けて……勘弁してくれ……」

 誰が謝れって言ったよ。俺の質問に答えろっつってんだよ。

 なので今度は手加減無く頬を貫いた。顔が横に向いて、血と唾液と一緒に奥場が飛んだ。

「何やってんだアンタ!?」

「俺は謝れって言った覚えはない。質問に答えろって言っただろ。答えなきゃ病院送りだと警告もした筈だが」

 よって咎められる覚えはない。よって病院送りにしてもいいだろ。

「待てって!!俺が聞いてやるからちょっと待てって!!」

 なんか慌てて止めに入る岸。こいつ等にやられたんじゃ無かったっけ?

「なんで庇うんだ?お前、こいつ等嫌いなんだろ?」

「そうだけど、これじゃ話したくても話せないだろ!!」

 だから病院送りにされてもしょうがないって事じゃねーの?まあ、代わりに聞いてくれるんならそれはそれでいいけども。

 だけど岸にその役目を負わせるのは憚れる。とうどうさん絡みなら尚更だろ。まだ確定していないが、間違いなくそうだろうし。

 なのでぶっ倒れた糞の目線にわざわざ屈んで聞いた。

「おい、もう一度チャンスをやる、今度はちゃんと答えろ。お前等、連山のチームと友達なんだってな?」

 ガクガクしながら何回も頷く。んじゃもっと追ってみようか。

「チーム名は紅蓮、だったか?そこの頭の名前は?」

「ひ、兵藤って奴だよ……お、お前等紅蓮となんか確執があるのか……?」

 生意気にも質問してきた。イラッとしてぶん殴りそうになったが、どうにか堪える。

「誰が質問していいっつった?俺は質問に答えろっつってんだよ。お前から聞いていいとか一言でも言ったか?」

「ホントに話聞く来ねえんだな……」

 慄く岸だが、お前さっきもそう言っただろ。今更過ぎるだろ。

 まあいいや、続きだ。

「その兵藤っての、どう言う奴だ?喧嘩チームの頭だってしか聞いてないんだが、それ以外にもあるか?」

「それ以外……」

 困ったように首を捻った。それ以外っつったらそれ以外だろーが。

「例えば薬やってるとか、売買しているとか」

「い、いや、そう言うのは無い。単純にストリートファイトが好きだって言うか……喧嘩ともちょっと違って、戦う事が好きつうか……」

 うん?なんか違うぞそいつ。どうしようもない糞を想像したんだけど?

「だけどそいつのチームと同盟みたいなの結んだんだろ?お前みたいな糞野郎と。だったらそいつもお前みたいな糞野郎じゃねーのか?」

「同盟と言うよりも、白浜の近くに拠点作りたいから俺が窓口になったつうか……」

「……どこかと喧嘩するつもりなのかそのチームは?」

「そ、そこまでは……」

 カタカタ震えながらそう言う。それ以上の事は解らんみたいだな……

「紅蓮ってチームは何人いる?全員そいつみたいな感じなのか?お前みたいな糞野郎はいないのか?」

「遠慮無くディスりながら聞くんだな……」

 やっぱり慄く岸。糞野郎の事か?ホントの事言っているだけだろ。

「俺達みたいなのは……恰好なら確かに居るが、基本的に『そう言う事』はしねえから……」

「じゃあなんでお前みたいな糞野郎と絡んだ?お前の話じゃ、ただの喧嘩好きな集団じゃねーかよ」

「そりゃあ………あれ?」

 首を傾げる糞野郎。ビンゴだ。記憶が抜けている。間違いねーな。

「じゃあ別の質問だ。どうやって知り合った?」

「……確か……山郷に来て……あれ?」

「わざわざ山郷に来てお前に喧嘩売ったか?」

「…………………いや……俺達が他所もんだからって喧嘩売ったら瞬殺されて……」

 売った相手に蹴散らされたのかよ。本気で雑魚いなお前等。今も正に同じ状況だろ。弱い者だけしか相手にしてない糞雑魚の糞野郎だよお前等。

「………確か……この辺りに拠点作りたいから協力しろ……だったか……」

「お前はうんと言ったんだな?」

 訊ねたら青い顔になってカタカタ震えた。

「どうした?聞いているんだが?」

「…………お前、緒方で間違いないよな?」

 また質問してきた。イラッとしたが、頷いて応えた。

「…………お前等と戦う為の拠点、そう言っていたのを今思い出した……断った筈だけど、なんで俺は兵藤の誘いに乗ったんだ……?」

 涙目でカタカタ震える。

「……そいつは連山のなんて所にいる?」

「………確か……」

 すんごい思い出すように考えて住所を述べた。

「木村!!」

 ほぼ一方的にぶちのめしていた木村が手を休めてこっちを見る。

「ちょっと来て。早く!」

「なんだっつうんだ?今いい所だろうが……」

 ブチブチ零しながらもこっちに来る。なんやかんやで付き合いがいい。

「こいつの言った住所だが、心当たりあるか?」

 この糞が述べた住所を伝えると目を剥いた。

「……佐伯の潜伏先と同じ住所だぜ、そこ……」

 よし、もういい。

「おい糞、お前が弱い者相手に調子に乗るのはいいがな、そんな真似したらまたぶち砕きに来るかなら。解ったか?解ったら失せろ」

「まだやってねえ奴がいるが……」

 ああ、面倒くせーな。そいつぶち砕くの手伝うから早く終わらせて話を聞け。

「どこ行くんだ緒方?」

「お前まだ残っているっつったじゃねーか。手伝ってやるから早く終わらせろ」

 言ったら瞬時に羽交締めにされた。

「おい、こいつを押さえている間に逃げろ。俺達だからあの程度で止めてやっているが、こいつが参加したら惨状になるぞ」

 糞、おっかなビックリ立ち上がり、頷く。

「おい、さっき言った事は忘れるなよ。ここは逃がしてやるが、次は無い」

「わ、解った……」

「あ、聞きたい事が出来たら松田経由で話が行くからな。ちゃんと真摯に相手しろよ。じゃないと……」

「わ、解ってる……」

 そう言ってそそくさと。俺が相手していた糞が逃げたのを見たヒロだが、俺が羽交締めにされているのを見て追い打ちを掛けるのをやめてこっちに来た。

「話し聞いたか?」

「おう、松田も巻き込んじゃうが、仕方ない。あいつ俺達レベルだから頑張って貰おう」

「松田がお前等レベル!?」

 ビックリする岸だった。

「驚く事はねえだろ。年末に敵の幹部、ぶっ倒したんだぞ。こいつが狙っていた敵なのに」

 木村がヒロを親指で差しながらそう言った。ヒロ、途端に苦い顔になる。

「そ、それはマグレだって松田も言っていたぞ……?」

「あの糞は南海でも厄介で怖がられてたんだぞ。大雅だって助かったって言っていたし。そいつをぶっ倒したんだからそうなるだろ」

 まあ、その事は後でいい。今は情報をみんなに述べる事が先だ。

「悪いが岸、ヤマ実の被害は無くなったと、今までの被害者に言ってくんないか?」

「……ホントに無くなったのか?お前等が帰った後にまた暴れ出すとか……」

 疑いの目を向けながら不安そうに。

「こいつだけならただ暴れただけだが、俺も来たんだし、大丈夫だ」

「そうだな、こいつだけなら暴れただけだが、友好校協定の頭の一人が出張ったんだ。問題無いだろ」

「お前等俺をディスり過ぎだ。一応考えてやった事なんだぞ」

 だから口は利ける程度にしたんだろ。なんも考えてねーなら病院に直行させるよ。

「……解った。だけどまた暴れ出した時は……」

「松田に言え。松田も手に余る様なら俺等に言うだろうし」

 なんやかんやで常識人だからな。マグレだって頑なに信じている辺りもそうだし。

 そうは言っても良心的存在の大雅よりも更に良心的だから、追い込みは出来ないだろうが。

「じゃ、俺達は校舎に入るか」

「校舎でいいのかよ?あんま聞かれたくねえ話だろ?」

 まあ、そうだが、聞かれる事は無いと思われる。

「とうどうさんの記憶は持てないんだろ。俺達を除いて」

 成程と頷く木村とヒロ。だがしかしと聞いてくる。

「この話をするって事は、お前の繰り返しの事も話さなきゃいけねえんじゃねえの?絶対に疑問に思うだろ?なんでそんな正体不明の敵と揉める事になったのかって」

 そういやそうだな。え?今日このタイミングで話さなきゃいけねーの?いや、いつかは話すんだろうなって思っていたからいいんだけど、あれって長い話になるんだけど!!

「それに、児島はどうするつもりだ?あの女は繰り返しの事は知らねえ設定なんだろ?打ち合わせも無くいきなり切り出されちゃ堪んねえと思うが」

 そっちもそうだよ!!どうしよう!!考え無しにやっちゃったよ!!

「つうか時間もねえから詳しく話す事もねえだろ」

「木村の言う通りだ。なんやかんやで球技大会の真っ最中だろ。あんな長い話しは出来ねえよ。精々ヤマ実は大人しくなった程度だろ。話せるのは」

 そうなのか……そうなんだろう。恐らくそうだ。そうじゃ無ければ困る。

 言い聞かせて校舎に入る。遥香にメールで場所を訊ねた。

 返信があり、開いてみる。

「グランドだって。観客席の方に広場があるからそこだって」

「広場?ちょっとした芝生の間違いだろ?」

 ヒロの言う通りだ。桜が植えてあって木陰にはなるだろうが、そんなにシートを広げるスペースは無かったような気がする。

「まあ行ってみようぜ。国枝も女だらけの中、いつまでも一人でポツンと一人で居たくねえだろ」

「松田もいるだろ。一人じゃねーだろ」

「松田の場合は此処は学校だから、ギリギリまで連れと話すと言う逃げができっからな。その意味では国枝だけなのは違いないだろ」

 それもそうだな。じゃあと気持ち小走りになる。

 グランドの場所は把握済みだ。つかさっきまで野球の観戦していたし。案の定と言うかなんというか、観客は席に陣取ってビールなんか飲んでいるし。野球観戦にはビールだからな。

 そして広場を見る。

「あれ?いない?」

 俺が思った場所には知らん奴が陣取って飯食っていた。じゃあ広場って何処だ?

 その辺探そうとウロウロ開始。直ぐに見つかった広場。じゃねえよ。

「駐車場じゃねえかよ。何処が広場だ」

 木村の言う通り、教員の車だろう、沢山の車が並んでいる駐車場にシートを広げていた。

 そうは言ってもまんま駐車場じゃない。少し外れた所に芝が敷いてあって、そこにいた。

 ともあれ、小走りで向かう。遥香が気付いてこっちだと手を振るが、もう向っているだろっての。

「悪い、待たせたか?」

 ヒロが国枝君と松田に向かってそう言った。二人とも首を横に振った。

「三上とやったんだってな。あいつ等この頃暴れていたから。ちょっと迷惑かけてしまったかな」

「いや?お前に協力した奴等相手に暴れたんだろ。だったら俺達は普通に出張るだろ」

 木村の言う通り。俺に協力してくれた松田に協力したんだ。それに迷惑かけたとあっちゃ、間違いなく俺の敵だろ。

「三上って野郎は連山の何とかってチームと協力関係にあるらしい。そっちも潰すから、お前経由で聞くって言っておいたから」

 やんわりと明言を避けた木村。とうどうさんや繰り返しの事は言わずに、よくもまとめたもんだ。あの短い文章に。

「詳しい話しは後でね。今はご飯!」

 倉敷さんが待ちきれんとばかりに催促する。並べられている料理はなんかの鍋と、ピザと、串焼きかこれ?それとフルーツのヨーグルト掛け?

 スゲエなこの量。おにぎりも山の様にあるけど……

「これ全部ヤマ農の食堂で仕入れたもんだ。今日は俺が奢るから、腹いっぱい食って」

 松田のオゴリ!?お金大変だろこの量は!?

 流石に悪いからお金を払うと言ったところ、いやいやと首を横に振った。結構なドヤ顔で。

「ヤマ農の食堂の食材の殆どは学校で作ったモンだから、生徒は半額なんだよ。しかもここに在るもんは食券で半分くらいはタダだから」

 そうなの!?スゲーな農業高校!!

「じゃあこの鍋もそうなのか?」

 ヒロが鍋を指差して訊ねた。

「肉はイノシシ肉だな。駆除したもんを無料でもらって、これまた学校で作った野菜を学校で作った味噌で炊いたもんだ」

「じゃあこのピザもか?」

 木村がピザを指差して訊ねた。

「学校で作った小麦で生地を作って、学校で作った生ハムとトマトを敷いて、学校で作ったチーズを乗せて焼いたもんだ」

「この串焼きは?」

 俺も指差して訊ねる。

「学校で飼育した鶏を解体して焼いたもんだ。流石に塩コショウは作っていないから買ったもんだ」

「まさか、このフルーツもかい?」

 国枝君もフルーツのヨーグルト掛けを指差して訊ねた。

「去年の果物をドライフルーツに加工して、これまた学校で作ったヨーグルトを掛けたもんだ」

 おにぎりは間違いなく作った米だろうから驚かないが、それ以外が凄すぎる!!農業高校ハンパねーな!!殆ど自給自足の域じゃねーか!!

「逆に今時期だからこの量が手に入ったと言っても差し支えねえけどな。だって全部去年の在庫で、今年は新しく採れるし、作るんだから」

 この量を収められる冷蔵庫があるって事だろ!?やっぱハンパねーな農業高校!!

「因みに鍋は俺が作ったもんだから無料だ。だから遠慮しないで腹いっぱい食って」

「え?よくそんな時間があったな?お前野球の試合あったじゃねーか?」

「下拵えは昨日から仕込んでいたからな。材料ぶっこんで火をかけりゃ完成程度にしといたんだ」

 発泡スチロールのお椀にその鍋を装って貰った。スゲエ旨そう!!いい匂い!!

「美味そうだな!!早速食おうぜ!!」

 ヒロが戴きますもしないでがっついた。俺達は当たり前の様に戴きますをして頂く。

「美味いなこの鍋……」

「そうだね。ほぼ自家製の鍋なんだろう?凄いよね」

 木村も国枝君も目を剥く旨さ。俺も漏れずにそうだった。

「鍋だけが農業高校じゃねえぞ。ピザ食え。串焼きも食え」

 勧められたので有り難く戴く。遥香はピザだが、俺は串焼きを取った。理由はおにぎりが食いたかったからだ。

「美味い!!塩コショウだけのシンプルな味付けながらも美味い!!ちゃんとおにぎりのおかずにもなるし!!」

「そうか、良かった。だけど鶏は8割は仕入れたもんだからな。ウチの学校で飼育された肉をちゃんと食わせたかったが」

 何?鶏肉は半分以上買ったものなの?

「不思議そうな顔すんじゃねえよ緒方。なんやかんやで人数は多いんだぜウチの学校。飼育した鶏だけじゃ流石に賄えないだろ」

 そ、そりゃそうだよな。野菜もそうなんだろう。保存効かないのもあるんだし。

「収穫祭に限ってはウチの物ばっかだけどな」

「収穫祭って?」

「あーっと、お前等で言う文化祭みたいなもんか。今年絶対来いよお前等。案内は出来ねえけど」

 いや、忙しいならそうだろうけど、絶対に行く!!他校の文化祭って実は行った事無かったし、超楽しみだ!!

「松田、サッカーの試合、いつやるんだ?」

 食いながら訊ねる俺。行儀が悪いが、食うのをやめられん旨さだからしょうがない。

「午後一から。このグランドでだよ」

 ふむ、午後一からか。野球もまだ終わっていないのに。

「じゃあ野球と一緒にやるのか?」

 ヒロのアホな質問であった。同じグランドで野球とサッカーやれる訳ねーだろ。

「野球の残りは明日だ。サッカーも準決勝までしかやんねえし、勝ち進めば明日もやるんだよ」

「じゃああのキックベースボールの会場でなにやるんだ?」

 木村の問いである。お前にパンフ見せた筈だが。

「午後はソフトボール。女子の試合は殆ど向こうでやるんだよ」

「体育館でセパタクローやるよね。一度見てみたかったんだけど、何時からだっけ?」

 セパタクロー!!俺も気になっていた競技だ!!これはマジで見てみたい!!

「やっぱ午後からだな。バレー終わったから」

「何見に行ってもいいけど、吉彦の応援終わってからにして」

 倉敷さんがおっかない目で俺達を睨んでそう言った。そりゃ勿論だろ、松田の応援で来たんだから。

「応援に来て貰ったからには無様見せられねえけど、野球はあの様だったからな」

「いやいや、松田君全打席ヒット打っていたじゃん。守りもちゃんとこなしていたし」

 児島さんの言う通り。松田は自分の仕事はちゃんとこなしたから、無様とか言わなくていい。試合は勝つのも負けるのもあって当たり前の事なのだから。

「此処に居たのか松田。ダチと彼女が応援に来るって言っていたから捜したぞ」

 なんか松田の友達数人が寄って来た。見た事がない人達だから、年末の親睦会に参加していない生徒達だ。

「おう、どうしたお前等?」

「だから、彼女とダチが来てんだろ?差し入れだよ。客を退屈させんなよー」

 そう言ってキノコがふんだんに入ったシチューを鍋ごと寄越した。

「え?結構食べているんだけど……」

「ん?ああ、なんか見たことあるな。竹山達をぶん殴った奴だっけ?大丈夫だ。このシチューはうまいから食える食える」

 はははと笑って去って行った。なんだ一体?

「今のは造園科のダチだな。何か知らねえけど、造園はキノコ栽培してんだ。カリキュラムで。だからこのきのこは造園科のもんだな。折角もらったんだから食って食って」

「きのこまで作ってんのか……綾子、キノコ好きだったよな」

 そう言ってお椀になみなみときのこシチューを注ぐ木村。

「ちょっと多くない?クリームシチューは好きだけど、この量……」

 言いながらもモリモリ食う黒木さん。彼女は外ズラであんま食べないから、木村が気を利かせて大盛りにしたに違いない。と思おう。押し付けたとか思わない様にしよう。

「あ、此処に居た。松田君の彼女来ているんだって?」

「あー、この子?可愛いねー。はい、これ、ウェルカムドリンク。ペットボトルに沢山入れたから飲んでねー」

 今度は女子達が松田と倉敷さんに白い飲み物を大量に渡して去った。

「今のは食品化学科の女子達だな。これはカルピスみたいな飲み物で、食品化学で作っているもんだな。折角だから飲んで飲んで」

「ほんとだ……カルピスみたい……」

 倉敷さんも納得のカルピスモドキだった。俺も一本戴く。だけどこの量は一本取っただけじゃ無くならないよな……

「おう松田、こんな所に居たのか。食堂捜しまくったから遅くなったぜ」

 今度は野郎数人が大皿に肉を盛って登場。

「おうお前等、どうした?」

「白浜から彼女とダチが来てんだろ。差し入れだ。そっちの髪ツンツンの人も沢山食ってくれ」

 そう言ってヒロに大皿を預けて去って行った。

「おい、この量の焼き肉……」

「今のは畜産科のダチだ。そういや2週間前にブタ解体したって言ってたな。大沢、どんどん食って」

 この豚肉のこの学校のものか……マジスゲーぞ農業高校!!

「あー松田君。此処に居たんだー。あー!槙原さんだー!緒方君もやっほー!」

 また女子達が登場。またまた大皿にトーストを盛って!!

「緒方君が来るって言ったからさ、これ、ウチで作ったジャムを塗ったトースト。いっぱい作ったから食べてべねー」

「ありがとう。美味しそうだねぇ」

 この量のトーストを見ても目を輝かせるのか……絶対社交辞令だろ。だけど社交辞令でも旨そうな顔をするよな、お前。

「バラのジャムだよ。蜂蜜を塗ったのもあるからさ。また遊びに来てねー」

 手をフリフリして去っていく女子達。

「今のは園芸科の女子達だな。白浜の文化祭にも行ったから顔知っているだろ?」

 知っている様ないないような……だけど差し入れの量、ハンパねーんだけど……つうか松田、結構慕われているようだな。客が来るから差し入れだって持って来てくれるんだから。

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